説明

ポリウレタン発泡体

【課題】低密度で、硬さ及び加熱成形性が良好であると共に、変色を抑制することができ、かつ撥水性に優れるポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られる。ポリオール類として、ポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを含む。さらに、ポリウレタン発泡体の原料には、無機化合物の水和物を含有する。ポリオール類には、さらに多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量2000〜4000のポリエーテルポリオールを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の部品であるフードサイレンサー等として用いられ、軽量かつ高硬度であると共に、加熱成形性及び撥水性に優れるポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車は、燃費の向上等のために軽量化が望まれており、例えばフードサイレンサー等の部品に用いられるポリウレタン発泡体についても、その物性を維持しながら低密度化が期待されている。係るフードサイレンサー等の部品は、表皮材とポリウレタン発泡体が型内で積層、接着されるが、その際熱圧成形により所望の三次元形状に成形される。従来、そのようなポリウレタン発泡体の密度を30kg/m以下にすることは困難であった。すなわち、高硬度で連続気泡構造を有し、かつ低密度のポリウレタン発泡体を製造するためには、発泡剤として水の配合量を増加させる必要があることから発熱温度が上昇し、170℃以上に達する。このため、ポリウレタンの酸化劣化(スコーチ)に基づき、得られるポリウレタン発泡体が変色する。そのような事態を回避するために、従来の水の配合量のままで発泡助剤として塩化メチレンや液化炭酸ガスを添加することが知られている。
【0003】
しかし、塩化メチレンは環境等に悪影響を与える物質の一つであって、使用が規制されている。一方、液化炭酸ガスによる発泡は、液化炭酸ガスを高圧で供給する専用の設備が必要であり、発泡を円滑に行うためには製造条件が限定されるうえに、製造コストも上昇する。そこで、吸熱を目的として、ポリエチレンパウダー等のポリオレフィンパウダーを添加する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、低温で熱圧成形して表皮材との積層体とした後、真空成形により所望の形状に賦形可能なポリウレタン発泡体として、原料であるポリオールにスチレンを含有するポリマーポリオールとアミノアルコールとを用いる技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平6−199973号公報(第2頁及び第3頁)
【特許文献2】特開平6−41266号公報(第2頁から第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記従来の特許文献1に記載されたポリオレフィンパウダーを添加する技術においては、反応及び発泡時における発熱温度の低下に対して効果は認められるが、発熱量を効果的に抑制するためにはポリオレフィンパウダーを増量させることが必要である。その場合、増量されたポリオレフィンパウダーにより、得られる軟質ポリウレタン発泡体の密度が高くなり過ぎると共に、硬さ等の機械的物性が低下する。
【0005】
また、特許文献2に記載された技術では、ポリオールとしてポリマーポリオールとアミノアルコールとを組合せて使用しただけであり、低温での熱圧成形性は良好であるとされているが、発泡体の密度は51〜52kg/m(特許文献2に記載の実施例1及び2)という高いものであった。発泡体の密度を低くしようとすると発熱温度が上昇し、発泡体の変色を抑えることができなかった。
【0006】
さらに、従来のポリウレタン発泡体の原料成分について、特にポリオール成分の疎水性が高くないため、得られるポリウレタン発泡体の撥水性が低いという問題があった。
そこで本発明の目的とするところは、低密度で、硬さ及び加熱成形性が良好であると共に、変色を抑制することができ、かつ撥水性に優れるポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるポリウレタン発泡体であって、前記ポリオール類としてポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを含み、さらにポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物を含有することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1に記載の発明において、前記植物油由来のポリオールは、ひまし油又は大豆油に由来するエステルポリオールであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記ポリオール類として、さらに多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量2000〜4000のポリエーテルポリオールを含むことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記ポリウレタン発泡体の原料には、さらに水酸基について3官能の架橋剤を含有することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に記載の発明のポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項4のいずれか一項に係る発明において、前記ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであり、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの異性体の質量比が60〜70:30〜40であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、ポリオール類としてポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを組合せて用いる。ポリマーポリオールはポリイソシアネート類と反応したとき、グラフト部分がその結晶性によりポリウレタン発泡体を補強し、分子量400〜1000のポリエーテルポリオールはポリイソシアネート類と反応してポリウレタン発泡体の架橋密度を高めると共に、ハードセグメントの増大をもたらすものと考えられる。従って、ポリウレタン発泡体の硬さ及び加熱成形性を向上させることができる。また、植物油由来のポリオールは疎水性が高いことから、ポリウレタン発泡体に組み込まれたときにその疎水性に基づいて優れた撥水性を発揮することができる。
【0013】
さらに、ポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物が含まれていることから、原料の反応及び発泡時において無機化合物の水和物が解離して水を生成し、その水の蒸発潜熱によって発熱温度を低下させることができる。従って、発泡剤としての水の量を増加させることができ、ポリウレタン発泡体を低密度にすることができると共に、発泡体の変色を抑制することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、植物油由来のポリオールは、ひまし油又は大豆油に由来するエステルポリオールであることから、ウレタン化反応を阻害することなく、良好な疎水性を発現することができる。従って、請求項1に係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体の撥水性を向上させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、ポリオール類としてさらに多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量2000〜4000のポリエーテルポリオールが含まれている。このポリエーテルポリオールがポリイソシアネート類と反応したとき、ソフトセグメントの割合が増大する。従って、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体の柔軟性を向上させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、ポリウレタン発泡体の原料には、さらに水酸基について3官能の架橋剤を含有することから、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体の架橋密度を高めることができ、硬さ等の物性を向上させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであり、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの異性体の質量比が60〜70:30〜40である。このため、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体の硬さ(硬度)を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)は次のようにして得られるものである。すなわち、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られる。その際、ポリオール類としてポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを含む。さらに、ポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物を含有する。
【0019】
ポリオール類として特定のポリマーポリオールとポリエーテルポリオールとを組合せて用いる。ポリマーポリオールのグラフト部分はポリウレタン発泡体を補強し、ポリエーテルポリオールがポリウレタン発泡体の架橋密度を高め、ハードセグメントを増大させ、ポリウレタン発泡体の硬さと成形性(加熱成形性)を向上させる機能を有する。また、植物油由来のポリオールは疎水性が高いため、ポリウレタン発泡体に組み込まれたときにその疎水性に基づいて撥水性を高める機能を発現する。さらに、ポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物を含有することにより、その水和物の解離で生成する水の蒸発潜熱によって発熱温度を低下させ、発泡剤としての水の量を増加させることで、ポリウレタン発泡体を低密度にでき、発泡体の変色を抑制する機能が発現される。ここで、ポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応により得られるポリウレタンは、主にウレタン結合に基づくハードセグメントと、ポリエーテル結合等に基づくソフトセグメントとによって構成される。そして、ハードセグメントによって硬さ、剛性等の物性が発現され、ソフトセグメントによって柔軟性、弾力性等の物性が発現される。
【0020】
次に、前記ポリウレタン発泡体の原料について順に説明する。
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを必須成分として含む。
【0021】
ポリマーポリオールを形成するためのポリエーテルポリオールは、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させて得られるものである。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン等が用いられる。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が用いられる。また、ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、スチレン、メチルメタクリレート等が用いられる。そして、常法に従ってポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合することでポリマーポリオールが得られる。ビニル系単量体の含有量、すなわちポリマーポリオール中のビニル系単量体単位(グラフト部分)の含有量は、ポリエーテルポリオールとの合計量中に好ましくは10〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%である。
【0022】
ポリマーポリオールの分子量は、3000〜6000であることが好ましい。この分子量が3000未満の場合には、グラフト部分の作用が十分に発現されず、ポリウレタン発泡体の硬さ等の物性を向上させることが難しくなる。一方、分子量が6000を越える場合には、ポリウレタン発泡体の硬度が高くなり過ぎる傾向を示して好ましくない。
【0023】
前記分子量400〜1000の低分子量のポリエーテルポリオールは、ポリマーポリオールの原料となるポリエーテルポリオールと同様の原料であって、同様の製造方法にて得られる。ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたトリオール、それにさらにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させたジオールのほか、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。エチレンオキシドを付加重合させるときには5〜15モル%程度である。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート類等との混合性が良くなり、反応性が高くなる。
【0024】
前記ポリエーテルポリオールはポリエーテルエステルポリオールであってもよい。係るポリエーテルエステルポリオールは、ポリオキシアルキレンポリオールに、ポリカルボン酸無水物と環状エーテル基を有する化合物とを反応させて得られる化合物である。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。ポリカルボン酸無水物としては、コハク酸、アジピン酸、フタル酸等の無水物が挙げられる。環状エーテル基を有する化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
【0025】
ポリエーテルポリオールはポリエステルポリオールに比べ、ポリイソシアネート類との反応性に優れているという点と、加水分解をしないという点から好ましい。このポリエーテルポリオールの分子量が400未満の場合、ポリウレタン発泡体の架橋密度が高くなり過ぎると共に、ハードセグメントも増加し、硬度が高くなり過ぎて好ましくない。一方、分子量が1000を越える場合、この低分子量のポリエーテルポリオールの作用が十分に発揮されず、ポリウレタン発泡体が軟らかくなる傾向を示す。
【0026】
次に、植物油由来のポリオール類は、グリセリンと脂肪酸とのエステルポリオールなどであり、疎水性を示す。植物油としては、ひまし油、大豆油、オリーブ油などが用いられるが、疎水性の点からひまし油又は大豆油が好ましい。ひまし油由来のポリオールとしては、グリセリンとリシノレイン酸とのエステルポリオールなどが挙げられる。大豆油由来のポリオールとしては、グリセリンとオレイン酸及びリノール酸の混合物とのエステルポリオールなどが挙げられる。脂肪酸としては、パルミチン酸、リノレン酸などを用いることもできる。この植物油由来のポリオールは、水酸基価が30〜400mgKOH/gであることが好ましく、70〜250mgKOH/gであることがより好ましい。この水酸基価が30mgKOH/g未満の場合にはウレタン化反応における反応性が低下し、400mgKOH/gを越える場合には反応の進行が過度になって好ましくない。また、植物油由来のポリオールは、水酸基についての官能基数が2〜3であることが好ましい。
【0027】
前記ポリマーポリオールの含有量は、全ポリオール類中に40〜60質量%であることが好ましい。ポリマーポリオールの含有量が40質量%未満の場合には、ポリマーポリオールの機能が十分に発揮されず、分子量400〜1000のポリエーテルポリオールの含有量が相対的に多くなってポリウレタン発泡体の架橋密度が高くなり過ぎる傾向を示す。その一方、ポリマーポリオールの含有量が60質量%を越える場合には、ポリウレタン発泡体の架橋密度が不足し、硬さが低下する傾向を示して好ましくない。
【0028】
分子量400〜1000の低分子量のポリエーテルポリオールの含有量は、全ポリオール類中に10〜30質量%であることが好ましい。ポリエーテルポリオールの含有量が10質量%未満の場合には、ポリウレタン発泡体の架橋密度が不足し、硬さが低下する傾向を示す。一方、30質量%を越える場合には、ポリウレタン発泡体の架橋密度が高くなりやすく、好ましくない。植物油由来のポリオールの含有量は、全ポリオール類中に10〜30質量%であることが好ましい。この含有量が10質量%未満の場合には得られるポリウレタン発泡体の撥水性が低下し、30質量%を越える場合には他のポリオール類の含有量が低下してポリウレタン発泡体の硬さなどの物性が低下する。
【0029】
ポリオール類にはポリウレタン発泡体の柔軟性を向上させるために、さらに多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量2000〜4000のポリエーテルポリオールを含むことが好ましい。この高分子量のポリエーテルポリオールがポリイソシアネート類と反応したとき、ポリウレタン発泡体のソフトセグメントの割合が増大する。この分子量が2000未満の場合には、ポリウレタン発泡体の架橋密度が上昇し、この高分子量のポリエーテルポリオールを配合する効果が低くなる。一方、分子量が4000を越える場合には、ポリウレタン発泡体の柔軟性が高くなって好ましくない。
【0030】
係る高分子量のポリエーテルポリオールの含有量は、全ポリオール類中に50質量%以下であることが好ましい。この含有量が50質量%を越える場合には、ポリウレタン発泡体の柔軟性が高くなり過ぎて目的とするポリウレタン発泡体が得られ難くなる。
【0031】
ポリオール類として、上記のポリマーポリオール、高分子量のポリエーテルポリオール、低分子量のポリエーテルポリオール、植物油由来のポリオール以外に、ポリエステルポリオールを含むこともできる。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリエステルポリオールが用いられる。以上のポリオール類は、原料成分の種類、分子量、重合度、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0032】
また、ポリウレタン発泡体の原料にはポリウレタン発泡体の架橋密度を高め、硬さ等の物性を向上させるために、さらに水酸基について3官能の架橋剤を含有することが好ましい。この架橋剤は、ポリイソシアネート類と反応してポリウレタン発泡体に架橋構造を形成するもので、具体的にはグリセリン、トリメチロールプロパン等が用いられる。
【0033】
次に、前記ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(トルエンジイソシアネート、TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。上記のトリレンジイソシアネートには2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等の異性体があり、さらに2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの質量比が65:35の混合物、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの質量比が80:20の混合物等がある。これらのうち、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの異性体の質量比が60〜70:30〜40の混合物が、その分子構造に基づいてポリウレタン発泡体の硬さを高めることができるため好ましい。係る質量比が上記範囲を外れると、ポリウレタン発泡体の硬さを十分に高めることができなくなる。
【0034】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は100以下又は100を越えてもよいが、80〜100であることが好ましい。イソシアネート指数が80未満ではポリイソシアネート類の配合量が少なく、硬さ等の機械的物性の良いポリウレタン発泡体が得られ難くなる一方、100を越えると発泡時における発熱温度が上昇すると共に、ポリウレタン発泡体の柔軟性が低下する。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基、架橋剤の水酸基、発泡剤としての水等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、イソシアネート指数が100以下であるということは、ポリイソシアネート類の含有量がポリオール類等の含有量以下であることを意味する。
【0035】
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、塩化メチレン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤としては、泡化反応の反応性が高く、取扱いの容易な水が好ましい。発泡剤が水の場合には、ポリウレタン発泡体の密度を14〜20kg/m3という低密度にするため、その配合量をポリオール類100質量部に対して5〜15質量部とすることが好ましい。水の配合量が5質量部未満では発泡量が少なく、ポリウレタン発泡体の密度が20kg/m3を越える傾向となり、15質量部を越えると反応及び発泡時に温度が上昇しやすくなり、その温度を低下させることが難しくなる。
【0036】
触媒は主としてポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進するためのものである。触媒として具体的には、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。
【0037】
次いで、前記無機化合物の水和物は、加熱によって分解し、分解により水を生成する材料である。無機化合物の水和物として具体的には、硫酸カルシウム・2水和物〔CaSO・2HO、二水石膏、比重2.32、分解温度128〜163℃(−1.5HOから−2.0HO)〕、硫酸マグネシウムの7水和物〔MgSO・7HO、比重1.68、分解温度150℃(−6HO)〕、リン酸マグネシウムの8水和物〔(Mg)(PO・8HO、比重2.41、分解温度120℃(−5HO)〕、硫酸鉄の1水和物から5水和物(FeSO・HOからFeSO・5HO、比重2.97、分解温度100〜130℃)又はそれらの混合物が用いられる。
【0038】
無機化合物の水和物に含まれる水和水は、固体結晶として常温で安定に存在するものであり、結晶水である。無機化合物の水和物としては、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物、リン酸マグネシウムの水和物等が好ましい。これらの水和物は、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って例えば100℃以上で水和物が次第に分解されて水を生成し、蒸発潜熱に基づく吸熱作用を発現できるからである。
【0039】
なお、無機化合物の水和物の比重は1.5〜3.0であることが好ましい。この比重が1.5未満では、無機化合物の水和物(粉体)を体積として大量にポリウレタン発泡体の原料、例えばポリオール類に添加しなければ所定の質量を添加できず、粉体とポリオール類との混合撹拌を十分に行うことができない。しかも、ポリウレタン発泡体中に占める無機化合物の水和物の体積が大きくなって、ポリウレタン発泡体としての物性が低下する。一方、その比重が3.0を越えると、ポリウレタン発泡体の原料特にポリオール類中において長期保管すると沈降しやすく反応混合液中への分散性が悪くなって、発熱温度を低下させるという無機化合物の水和物の機能が低下する。
【0040】
無機化合物の水和物の分解温度は、100〜170℃であることが好ましい。分解温度が100℃未満の場合には、ポリウレタン発泡体の原料による発泡及び硬化の初期の段階で、すなわち発熱温度の低い段階で分解による水が生成するため、発泡及び硬化に悪影響を与えたり、生成した水が発泡剤として機能したりするおそれがある。ちなみに、硫酸カルシウム2水和物(二水石膏)は、128℃で分子中の2モルの水のうちの1.5モルの水が分解して遊離の水となり、硫酸カルシウム0.5水和物(半水石膏)となる。また、硫酸マグネシウム7水和物は、150℃で分子中の7モルの水のうちの6モルの水が分解して遊離の水となり、硫酸マグネシウム1水和物となる。
【0041】
無機化合物の水和物の含有量は、ポリオール類100質量部当たり10〜80質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがより好ましい。この含有量が10質量部未満の場合には、分解して生成する水の量が少なく、反応及び発泡に基づく発熱温度の上昇を十分に抑制することができなくなる。一方、含有量が80質量部を越える場合には、ポリウレタン発泡体の硬さ、成形性等の物性低下を招くおそれがある。
【0042】
ポリウレタン発泡体の原料には、発泡を円滑に行うために整泡剤を含有することが好ましい。その整泡剤としては、ポリウレタン発泡体の製造に際して一般に使用されるものを用いることができる。整泡剤として具体的には、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。整泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜2.5質量部であることが好ましい。この配合量が0.5質量部未満の場合には、ポリウレタン発泡体の原料の発泡時における整泡作用が十分に発現されず、良好な発泡体を得ることが難しくなる。一方、2.5質量部を越える場合には、整泡作用が強くなり、セルの連通性が低下する傾向を示す。
【0043】
次に、ポリウレタン発泡体を自動車の部品であるフードサイレンサー等として用いる場合には難燃剤を含有することが好ましい。難燃剤はポリウレタン発泡体に難燃性(低燃焼性)を付与するものであり、一般に知られているリン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤等が常法に従って配合される。難燃剤として具体的には、オキシジ−2,1−エタンジイルテトラキス(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェート(含ハロゲン難燃剤)、リン酸エステル(ノンハロゲン難燃剤)等のリン系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン系難燃剤等が用いられる。難燃剤の配合量は目的に応じて設定されるが、ポリオール類100質量部当たり、10〜30質量部程度である。ポリウレタン発泡体の原料には、その他必要に応じて充填剤、安定剤、着色剤、可塑剤等が配合される。
【0044】
そして、上記ポリウレタン発泡体の原料を反応させて発泡及び硬化させることによりポリウレタン発泡体を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応、樹脂化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法或はポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。また、ポリウレタン発泡体は、常温大気圧下に反応、発泡及び硬化させて得られるスラブ発泡体及び成形型内にポリウレタン発泡体の原料(反応混合液)を注入、型締めして型内で発泡、硬化させて得られるモールド発泡体のいずれの方法により製造されるものであってもよい。この場合、スラブ発泡体の方が連続生産できる点から好ましい。
【0045】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は、例えばJIS K 7222:1999に基づく見掛け密度が14〜20kg/mであり、JIS K 6400−2:2004に基づく硬さが10〜30kPa、好ましくは10〜20kPaである。このように、ポリウレタン発泡体は低密度のものであり、軽量で、十分な硬さを有する軟質ポリウレタン発泡体である。係る軟質ポリウレタン発泡体は、一般にセル(気泡)が連通構造を有し、弾力性があり、かつ復元性のあるものをいう。また、加熱成形性が良好で、変色性(イエローインデックス、ΔYI値)も1.5以下という低い値を示す。従って、このような物性をもつポリウレタン発泡体は、自動車の部品であるフードサイレンサー等として好適に用いられる。
【0046】
さて、本実施形態の作用を説明すると、前記ポリウレタン発泡体の原料を常法に従って反応、発泡及び硬化させることでポリウレタン発泡体が製造される。例えば、常温大気圧下に原料混合液をベルトコンベヤ上に吐出して連続生産するスラブ発泡により行われる。このとき、ポリオール類としてポリマーポリオールと、分子量400〜1000の低分子量ポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとが組合せて用いられる。ポリマーポリオールの枝状に延びるグラフト部分は結晶性が高く、ポリウレタン発泡体を補強する作用を発現すると考えられる。また、低分子量のポリエーテルポリオールによりポリウレタン発泡体の架橋密度が高められると共に、剛性が高められると推測される。さらに、植物油由来のポリオールは高い疎水性を有していることから、ポリイソシアネート類と反応してポリウレタン発泡体に組み込まれたときにその高い疎水性に基づいて撥水性が安定して発現される。
【0047】
加えて、ポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物が含まれているため、原料の反応及び発泡時における温度上昇に伴って無機化合物の水和物が解離して水を生成し、その水が蒸発する際に蒸発潜熱を奪い、発泡体の温度が低く抑えられる。
【0048】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態におけるポリウレタン発泡体においては、ポリオール類としてポリマーポリオールと、低分子量のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを組合せて用いる。ポリマーポリオールはそのグラフト部分がポリウレタン発泡体の補強作用を発現し、低分子量ポリエーテルポリオールはポリウレタン発泡体の架橋密度を高めると共に、ハードセグメントの増大をもたらす。従って、ポリウレタン発泡体の硬さ及び熱圧成形性(熱プレス成形性)などの成形性を向上させることができる。また、植物油由来のポリオールの疎水性に基づいて、ポリウレタン発泡体は優れた撥水性を発揮することができる。
【0049】
さらに、ポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物が含まれていることから、解離して生成した水の蒸発潜熱によって発熱温度を低下させることができ、発泡剤としての水の配合量を増加させることができ、ポリウレタン発泡体を低密度にすることができると共に、発泡体の変色を抑制することができる。
【0050】
・ 植物油由来のポリオールが、ひまし油又は大豆油に由来するエステルポリオールであることにより、ウレタン化反応を阻害することなく、良好な疎水性を発現することができ、ポリウレタン発泡体の撥水性を向上させることができる。
【0051】
・ 前記ポリオール類としてさらに多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量2000〜4000のポリエーテルポリオールを含むことにより、そのポリエーテルポリオールがポリイソシアネート類と反応したとき、ソフトセグメントの割合が増大する。従って、ポリウレタン発泡体の柔軟性を向上させることができる。
【0052】
・ ポリウレタン発泡体の原料には、さらに水酸基について3官能の架橋剤を含有することにより、ポリウレタン発泡体の架橋密度を高めることができ、硬さ等の物性を向上させることができる。
【0053】
・ ポリイソシアネート類がトリレンジイソシアネートであり、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの異性体の質量比が60〜70:30〜40であることにより、ポリウレタン発泡体の硬さを高めることができる。
【0054】
・ ポリイソシアネート類としてトリレンジイソシアネートを用いることにより、加熱時における収縮(熱収縮)を抑制することができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜14及び比較例1〜5)
まず、各実施例及び各比較例で用いたポリウレタン発泡体の原料を以下に示す。
【0056】
エクセノール941:ポリマーポリオール(グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合したポリエーテルポリオール60質量%にスチレン:アクリロニトリルの質量比が8:2の混合物40質量%をグラフト重合したもの)、分子量5000、固形分40質量%、水酸基価33(mgKOH/g)、水酸基についての官能基数3、旭硝子(株)製。
【0057】
POP31/28:ポリマーポリオール(グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合したポリエーテルポリオール60質量%にスチレン:アクリロニトリルの質量比が8:2の混合物40質量%をグラフト重合したもの)、分子量6000、固形分20質量%、水酸基価28(mgKOH/g)、水酸基についての官能基数3、三井武田ケミカル(株)製。
【0058】
G700:ポリエーテルポリオール(グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合したもの)、分子量700、水酸基価240(mgKOH/g)、水酸基についての官能基数3、旭電化工業(株)製。
【0059】
G400:ポリエーテルポリオール(グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合したもの)、分子量400、水酸基価420(mgKOH/g)、水酸基についての官能基数3、旭電化工業(株)製。
【0060】
GP3000:ポリエーテルポリオール(グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合したもの)、分子量3000、水酸基価56(mgKOH/g)、水酸基についての官能基数3、三洋化成工業(株)製。
【0061】
ポリオールH−30:ひまし油由来のエステルポリオール(主成分はグリセリンとリシノレイン酸とのエステルポリオール)、水酸基価160(mgKOH/g)、伊藤製油(株)製、H−30。
【0062】
ポリオールH−56:ひまし油由来のエステルポリオール(主成分はグリセリンとリシノレイン酸とのエステルポリオール)、水酸基価85(mgKOH/g)、伊藤製油(株)製、H−56。
【0063】
ポリオールH−81:ひまし油由来のエステルポリオール(主成分はグリセリンとリシノレイン酸とのエステルポリオール)、水酸基価340(mgKOH/g)、伊藤製油(株)製、H−81。
【0064】
ポリオールR3−170G:大豆油由来のエステルポリオール(主成分はグリセリンとオレイン酸及びリノール酸とのエステルポリオール)、水酸基価170(mgKOH/g)、ウレタン・ソイシステム社(USSC)製、R3−170G。
【0065】
二水石膏:比重2.32、平均粒子径40μmの二水石膏。
硫酸マグネシウム7水和物:比重1.68、平均粒子径20μmの硫酸マグネシウムの7水和物。
【0066】
リン酸マグネシウム8水和物:比重1.68、平均粒子径40μmのリン酸マグネシウムの8水和物。
ジメチルエタノールアミン:触媒。
【0067】
金属触媒 MRH-110:オクチル酸第1スズ、城北化学工業(株)製。
整泡剤 F650A:シリコーン整泡剤、信越化学工業(株)製。
難燃剤CR504:オキシジ−2,1−エタンジイルテトラキス(2−クロロ−1−メチルエチル)ホスフェート、大八化学工業(株)製。
【0068】
ポリメリックMDI:イソシアネート基の含有量31%、バスフイノアックポリウレタン(株)製、M−12S。
ポリイソシアネート T-65:トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート65質量%と2,6-トリレンジイソシアネート35質量%との混合物)、日本ポリウレタン工業(株)製。
【0069】
そして、表1及び表2に示す含有量でポリウレタン発泡体の原料を調製した。表1及び表2における各成分の含有量(配合量)は、質量部を表す。ここで、比較例1では植物油由来のポリオールを配合しなかった例、比較例2及び比較例3では分子量400〜1000のポリオールを配合しなかった例を示す。また、比較例4ではポリマーポリオールを配合しなかった例、比較例5では二水石膏を配合しなかった例を示す。
【0070】
これらのポリウレタン発泡体の原料を縦、横及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉を通過させて硬化(架橋)させることにより軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン発泡体を製造した。このポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、加熱成形性、接触角、最高発熱温度及び変色性(ΔYI値)を以下の測定方法に従って測定した。それらの結果を表1及び表2に示す。
(測定方法)
見掛け密度(kg/m3):JIS K 7222:1999に準じて測定した。
【0071】
硬さ(kPa):JIS K 6400−2:2004に準じ、縦150mm、横100mm及び厚さ(高さ)50mmのサンプルを25%圧縮したときの圧縮応力を測定した。
【0072】
加熱成形性:熱板の温度を200℃にした加熱プレス機を用い、厚さ15.0mmのサンプルを50%の厚さ(7.50mm)になるように30秒間圧縮した後の厚さを測定し、寸法精度を評価した。
【0073】
接触角(°):ポリウレタン発泡体上に水滴を滴下し、ポリウレタン発泡体表面に対する水の接触角を求めた。
最高温度(℃):発泡容器の中心部に熱電対を差込み、反応及び発泡時において上昇した最も高い温度を測定した。
【0074】
変色性(ΔYI値):反応及び発泡時における温度の高い発泡体の部位(中心部)と温度の低い部位(側面部)について、色差計〔スガ試験機(株)製、SMカラーコンピューター SM−4〕により黄変度(白色度)を測定し、それらの色差(ΔYI値)で示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

表1に示したように、実施例1〜14においては、硬さを11〜16kPaに保持できると共に、寸法精度を7.5mmという良好な精度を得ることができた。これは、ポリオール類としてポリマーポリオールと分子量400〜1000の低分子量ポリエーテルポリオールとを組合せて用いることにより、剛性を高め、架橋密度を高めることができたためと考えられる。また、接触角を93〜120°に高めることができ、撥水性を向上させることができた。これは、特にポリオール類として植物油由来の疎水性のポリオールを用いたためと考えられる。さらに、見掛け密度を14.9〜15.8kg/m3という低密度にすることができると共に、最高発熱温度を141〜155℃に抑えることができ、ΔYI値を0.2〜1.2に抑制することができた。この結果は、ポリウレタン発泡体の原料に無機化合物の水和物を配合し、発熱を抑制できたと同時に、水の配合量を増加させて発泡倍率を上げることができたためと考えられる。
【0077】
一方、表2に示したように、比較例1では植物油由来のポリオールを配合しなかったため、接触角が63°という低い値で、撥水性が不十分であった。比較例2及び比較例3では低分子量のポリエーテルポリオールを配合しなかったため、硬さが6〜9kPaと低く、硬さが不足した。比較例4ではポリオール類としてポリマーポリオールを配合しなかったので、発泡体の収縮が極めて大きくなった。比較例5では二水石膏を配合しなかったため、ポリオール類のバランスが悪く発熱温度が過度に上昇し、変色(黄変)が大きくなった。
【0078】
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ ポリウレタン発泡体の撥水性を向上させるため、ポリオール類としてエチレングリコールなどのグリコールとリシノレイン酸、オレイン酸などの脂肪酸とを反応させたエステルポリオールを使用することもできる。
【0079】
・ ポリウレタン発泡体の原料には、ポリエーテルポリオールとして、分子量1000〜2000のものを配合することも可能である。
・ 無機化合物の水和物としては、複数種類の水和物、例えば硫酸カルシウムの水和物と硫酸マグネシウムの水和物とを組合せて配合することもできる。その場合には、より広い温度範囲で無機化合物の水和物の機能を発揮させることができ、反応及び発泡時における発熱温度を効果的に低下させることができる。
【0080】
・ 無機化合物の水和物として、硫酸鉄の9水和物〔FeSO・9HO、比重2.12、分解温度98〜125℃(−5HOから−8HO)〕、硫酸銅の5水和物〔CuSO・5HO、比重2.29、分解温度110℃(−4HO)〕等を用いることもできる。
【0081】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記無機化合物の水和物の含有量は、ポリオール類100質量部当たり10〜80質量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、ウレタン化反応を円滑に進行させながら、発泡体の変色を効果的に抑制することができる。
【0082】
・ 前記無機化合物の水和物は、硫酸塩又はリン酸塩の水和物であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って硫酸塩又はリン酸塩の水和物が分解されて水を生成し、吸熱作用を良好に発揮することができる。
【0083】
・ 前記発泡剤は水であり、その含有量はポリオール類100質量部当たり5〜15質量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。この場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、泡化反応を十分に進行させることができる。
【0084】
・ 前記ポリウレタン発泡体の原料には、難燃剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。この場合、ポリウレタン発泡体に難燃性を付与しつつ、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を発揮させることができる。
【0085】
・ 軟質ポリウレタン発泡体であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。この場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0086】
・ 前記ポリウレタン発泡体の原料を常温大気圧下に反応、発泡及び硬化させて得られるスラブ発泡体であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。この場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体を簡易かつ連続的に得ることができる。
【0087】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させるポリウレタン発泡体の製造方法であって、前記ポリオール類としてポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを含み、さらにポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物を含有することを特徴とするポリウレタン発泡体の製造方法。この製造方法によれば、前述した効果を有するポリウレタン発泡体を、原料組成を調整することで容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるポリウレタン発泡体であって、
前記ポリオール類としてポリエーテルポリオールにビニル系単量体をグラフト重合したポリマーポリオールと、多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量400〜1000のポリエーテルポリオールと、植物油由来のポリオールとを含み、さらにポリウレタン発泡体の原料には無機化合物の水和物を含有することを特徴とするポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記植物油由来のポリオールは、ひまし油又は大豆油に由来するエステルポリオールであることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記ポリオール類として、さらに多価アルコールにアルキレンオキシドを付加重合させた分子量2000〜4000のポリエーテルポリオールを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記ポリウレタン発泡体の原料には、さらに水酸基について3官能の架橋剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。
【請求項5】
前記ポリイソシアネート類はトリレンジイソシアネートであり、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの異性体の質量比が60〜70:30〜40であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2007−314666(P2007−314666A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145687(P2006−145687)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】