説明

ポリウロン酸成形物とその製造方法

【課題】 本発明における課題は、生体適合性、生分解性等の安全性に優れ、均一な構造を有し、かつ機能性材料としての物性にも優れ、さらには、食品、医療・医薬、化粧品、各種機能材料における親水性、吸湿放湿特性の付与、水分コントロール性付与、あるいは増量剤、嵩高剤、填剤など各種添加剤としての利用などに非常に有効な、水に不溶化されたポリウロン酸を提供することにある。また、これらのポリグルクロン酸を簡便でかつ安全な方法により製造することができる製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、カルボキシル基の多価金属塩を有することを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物を提供するものである。また、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価金属塩を添加し水不溶化させる工程よりなることを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類由来の構造が均一なポリウロン酸に関するものである。本発明のポリウロン酸成形物は優れた生分解性、生体への安全性、構造の均一性を有することに加え、多価金属塩により不溶化されているため、単独あるいはその他のバインダーと混合し用いることで、親水性や吸湿放湿特性の付与、水分コントロール性付与、あるいは増量剤、嵩高剤、填料など各種添加剤としての利用などに非常に有効である。また、水洗いによる単離精製が可能であるため、簡便な製造方法を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するウロン酸としては、グルクロン酸、マンヌロン酸、ガラクツロン酸が主であり、ペクチンやアルギン酸等として植物の構造多糖類として存在したり、また動物体内にも存在し、生理的な重要な機能も果たしている。前記ペクチンは、主にα−D−ガラクツロン酸からなるポリグルクロン酸であり、アルギン酸はβ−(1、4)−マンヌロン酸とα−(1、4)−L−グルクロン酸からなるポリグルクロン酸である。これらは、食品添加物、増粘剤、安定剤等として工業的に利用されている。
【0003】
しかし、前記の天然に存在するポリグルクロン酸類は、ほとんどがヘテロ多糖類であり、不均一な構造ゆえに、機能に影響する化学構造の解析や、材料設計、および材料物性の制御が困難であり、ポリグルクロン酸の安全性、生分解性、生体適合性、およびその生理的な機能などの機能性を生かして、さらには、化学的・物理的修飾、誘導体化、他材料との複合化等、二次修飾することにより、高機能な新規材料を開発しようという検討原料としては好ましくない。
【0004】
一方、グルクロン酸は、植物や動物、微生物の多糖の構成単糖として広く存在し、動物に異物、薬物を投与した際に、それらは直接あるいは誘導体に変化した後に、D−グルクロン酸と結合した形で体外に排泄される。また、グルクロン酸の生体内代謝については、ウリジン二リン酸(UDP)−D−グルクロン酸という糖ヌクレオチドが細菌、植物、動物に広く存在し、このUDP−D−グルクロン酸はUDP−D−グルクロン酸デカルボキシラーゼとニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)により脱炭素され、UDP−D−キシロースとCOになり、最終的にはCOと水に分解されることが知られている。しかし、このD−グルクロン酸を構成単糖とする天然ホモ多糖類は、現在、存在が確認されていない。ポリグルクロン酸が効率よく製造できれば、これまでのポリグルクロン酸の用途のみにとどまらず、新たな分野での利用が期待できる。
【0005】
また、安価なでんぷんやセルロース等の多糖類を酸化してポリグルクロン酸類を得る試みもなされている。ピラノース環のC6位の1級水酸基のみを選択的に酸化する手法はすくなく、現在提案されている有効な酸化手段としては、二酸化窒素による酸化、および2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)等のN−オキシル化合物触媒による酸化が挙げられる。
しかし、二酸化窒素を用いた酸化方法では、若干のカルボキシル基の導入のみにとどまるか、高度に酸化させ、全ての6位1級水酸基の酸化を行なおうとすると、2、3位の酸化や、分子量低下などの副反応が著しく、完全水溶性のポリグルクロン酸を得ることはできなかった。
【0006】
一方、近年注目されている酸化方法であるTEMPO触媒による多糖類の酸化では、かなり高い選択性で多糖類のC6位の1級水酸基を殆ど全て酸化することができる(非特許文献1参照)。もっとも一般的な多糖類のTEMPO酸化は、TEMPOと臭化ナトリウムの存在下、次亜塩素酸ナトリウムを共酸化剤として用いる酸化方法であるが、酸化反応はアルカリ側で進行するため、得られるポリグルクロン酸は通常ナトリウム塩となっている。
【0007】
このポリウロン酸のナトリウム塩は、非常に高い水溶性を有しており、分子量が数万レベルでも高濃度に水に溶解させることができるうえ、その高い水溶液の粘度は比較的低い。そこで、このポリウロン酸水溶液をコーティングしたり、溶液で混合したりという利用方法が報告されている。例えば、特許文献1ではポリグルクロン酸の水溶液をガスバリア性コーティング剤として利用する方法について報告されている。
【0008】
しかし、このポリウロン酸ナトリウム塩の有する水溶性の性質は、水溶液としての利用においては有効であるが、耐水性や耐湿性という点からみると不利になる場合も多い。例えば、これらのポリウロン酸のガスバリア性コーティング膜は非常に乾燥した状態では優良な酸素遮断性が確認できるが、ほぼ100%に近いような高湿度下では、その酸素遮断性は大きく低下してしまう。また、例えばこれらのポリウロン酸を様々な添加剤として利用する場合、水が多量に存在する雰囲気下では流出してしまうことが考えられる。
【非特許文献1】Isogai,A.Kato,Y.Preparation of polyuronic acid from cellulose by TEMPO−mediated oxidation.cellulose,5,153−164(1998)
【特許文献1】特開2001−334600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、生体適合性、生分解性等の安全性に優れ、均一な構造を有し、かつ機能性材料としての物性にも優れ、さらには、食品、医療・医薬、化粧品、各種機能材料における親水性、吸湿放湿特性の付与、水分コントロール性付与、あるいは増量剤、嵩高剤、填剤など各種添加剤としての利用などに非常に有効な、水に不溶化されたポリウロン酸を提供することにある。また、これらのポリグルクロン酸を簡便でかつ安全な方法により製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、カルボキシル基の多価金属塩を有するポリウロン酸を用いたことを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記多価金属がカルシウム、銅、亜鉛、アルミニウムから選ばれる1種であることを特徴とする請求項1に記載の水不溶性ポリウロン酸成形物である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記水不溶性ポリウロン酸成形物の形状が粒子状であり、その粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記水不溶性ポリウロン酸成形物の形状が繊維状であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記水不溶性ポリウロン酸成形物の形状がフィルム状であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物である。
【0015】
請求項6に記載の発明は、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する酸化工程と、該酸化工程で酸化された多糖類に多価金属塩を添加し沈殿物を生じさせ、成形物を成形する工程と、該成形物を水洗する工程を有することを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法である。
【0016】
請求項7に記載の発明は、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する酸化工程と、該酸化工程で酸化された多糖類を成形する成形工程と、該成形工程で成形された酸化多糖類に多価金属塩を添加する工程を有することを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する酸化工程と、該酸化工程で酸化された多糖類を成形する成形工程と、多価金属塩を添加する工程とを有する水溶性ポリウロン酸成形物の製造方法において、酸化工程で酸化された多糖類を成形する成形工程と多価金属塩を添加する工程とを同時に行うことを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法である。
【0018】
請求項9に記載の発明は、前記多糖類がでんぷん、セルロース、キチン、キトサンから選ばれる1種、または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリウロン酸成形物は、一般的な機能性材料としてはもちろん、生体材料、食品・医薬、化粧品等の機能性材料としては、様々な用途に応用することが可能である。特に、多価金属塩により水不溶化されているため、各種機能材料における親水性、吸湿放湿特性の付与、水分コントロール性付与、あるいは増量剤、嵩高剤、填剤など各種添加剤としての利用などに非常に有効であり、各種添加剤としての利用においても取扱いの利便性が高い。また、他の多糖類との複合材料の原料として容易に用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリウロン酸成形物は、D−グルクロン酸が多数α、またはβ−(1、4)結合したもの、あるいは、D−グルコサミヌロン酸がβ−(1、4)結合したもので、化学構造が明確かつ均一であり、高い親水性を有する。かつ、そのカルボキシル基が多価金属塩で水不溶化されていることを特徴とするポリウロン酸成形物である。ここで、ポリウロン酸成形物とは、粒子状、繊維状、フィルム状など様々な形状を有するポリウロン酸を指す。
【0021】
多価金属塩としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、シリカ、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、バリウムなど様々なものが挙げられ、用途および必要物性などにより自由に選択することができる。例えば、水不溶化に加えて、さらに抗菌性付与などの目的とする場合には、銅、銀、あるいは亜鉛などの多価金属を選択する。水不溶化のみを目的とする場合には、コスト、安全性、取扱いの利便性などの面からカルシウム塩がより好ましい。
【0022】
ここで、ポリグルクロン酸成形物に含まれる金属イオンの含有量は様々な分析方法で調べることができるが、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素分析によって簡便に調べることができる。
【0023】
さらに、本発明のポリウロン酸成形物は、天然の多糖類を原料とし、選択的な酸化反応により調製することができる。例えば、α−(1、4)−D−グルコースを主鎖とするでんぷん、または、β−(1、4)−D−グルコースのホモポリマーであるセルロースを酸化することで、D−グルクロン酸を構成単糖にもつポリグルクロン酸を得ることができる。また、β−(1、4)−N−アセチルグルコサミンを主鎖とする多糖類であるキチンを酸化することで、N−アセチルグルコサミヌロン酸を構成糖に持つポリウロン酸を得ることができる。
【0024】
でんぷんには様々な種類があり、化学構造的にアミロース、アミロペクチンからなるとされ、その配合比は原料資源によるが、本発明のポリグルクロン酸成形物の原料としては、特に限定されるものではなく、様々な天然資源から得ることができる。また、原料に用いるセルロースやキチンの由来や種類については、特に限定するものではないが、これらの結晶性の高いセルロースやキチンは一旦溶解再生処理したものを用いると、副反応が抑えられ、高分子量の完全水溶性ポリウロン酸が得られる。
【0025】
この選択的酸化方法には、N−オキシル化合物触媒による酸化手法を用いるが、本発明の特徴である均一な構造を有して、かつ高分子量のポリグルクロン酸成形物を得るためには、穏やかな反応条件下で、選択的な反応の進行に必要な薬剤が必要量だけ随時供給され、かつできるだけ短時間で酸化することが重要となる。例えば、N−オキシル化合物の触媒の存在下、臭化アルカリ金属と酸化剤を用いて、5℃以下の低温、水系で、pHを10〜11の範囲で一定に保ちながら酸化することにより、本発明のポリグルクロン酸成形物が得られる。
ここで、N−オキシル化合物としては、2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)が、臭化アルカリ金属としては臭化ナトリウムが、酸化剤としては次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
【0026】
ここで上記酸化手法は、例えば、水に原料を溶解あるいは均一に分散させて、TEMPOと臭化ナトリウムを溶解した水溶液を加え、系内を5℃以下に冷却、pHを10に調整する。ここに先ず、少量の次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えると、一時pHは上昇するが、撹拌を続けると系内のpHは徐々に低下してくるので、水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、系内のpHを10〜11の範囲で一定に保つ。さらに、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウム溶液を反応の進行具合に応じて調整しながら滴下することで、余剰の酸化剤が系内に存在し、副反応に作用することを抑える。また、反応中は系内の温度を5℃以下に維持する。反応の進行に伴い、系内は均一な溶液となる。この反応条件においては、添加される水酸化ナトリウムの量は、酸化により導入されたカルボキシル基の量にほぼ対応しており、原料のグルコース残基量と当モルの添加量に達した時点で、エタノールを添加して過剰の酸化剤を失活させる。
【0027】
この状態で、ポリウロン酸の貧溶媒であるエタノールなどを過剰量加えてポリウロン酸を沈殿させ、ろ過による単離、洗浄を行うか、または、透析などによる精製を行うと、ポリウロン酸のナトリウム塩が得られる。
【0028】
あるいは酸化剤を失活させた後の反応液に多価金属塩を含む水溶液を加えることで、即時に不溶化させたポリウロン酸成形物を得ることもできる。なお、この手法によりポリウロン酸成形物を不溶化させると、水洗いによる塩や薬剤など不純物の除去とポリウロン酸成形物の単離を行うことが可能であり、使用する有機溶剤の量を削減することができる。
この場合の多価金属塩による不溶化処理について、塩化カルシウムを用いた例について述べる。まず、予めポリウロン酸のカルボキシル基を架橋するのに十分な量、理論的には0.5倍モルのカルシウムが含まれるようにすれば十分であるが、余剰の金属塩は後の水洗により容易に除去できることや、ナトリウムからカルシウムへの置換は非常に容易に進行することなどを考慮すると、例えば、1倍モル、あるいは2倍モルのカルシウムが含まれる塩化カルシウム水溶液を調製する。酸化剤を失活させた後の反応溶液にこの塩化カルシウム水溶液を添加し、撹拌する。すると、溶解していたポリウロン酸ナトリウム塩がポリウロン酸カルシウム塩に置き換わり、沈殿する。このポリウロン酸カルシウム塩は水に溶解しないので、水洗により反応試薬と反応により生成した塩や過剰の塩化カルシウムなどを除去することが可能である。繰り返し洗浄し、乾燥させることで、ポリウロン酸カルシウム塩の微粒子が得られる。
【0029】
また、前述のようにして得られたポリウロン酸のナトリウム塩から、微粒子やフィルムなどへの成形工程を経た後、多価カチオン性イオンにより水不溶化処理を行うことも可能である。この場合、例えば、ポリウロン酸ナトリウム水溶液を噴霧乾燥などにより乾燥させ、微粒子を形成する。この微粒子を多価金属塩を含む水溶液中に投入し、不溶化処理を行い、洗浄乾燥工程を経て、ポリウロン酸微粒子を調製する。
あるいは、フィルムや金属板などの基材上にポリウロン酸ナトリウム塩をコーティングし、被膜を形成させた後、多価金属塩を含む塗液をコーティングすることで、水不溶化処理されたポリウロン酸被膜を得ることも可能である。
【0030】
さらには、ポリウロン酸のナトリウム塩から、微粒子やフィルムなどへの成形工程と、多価カチオン性イオンにより水不溶化処理を同時に行うことも可能である。この場合、例えば、ポリウロン酸ナトリウムとバインダーを混入し、これを例えば多価金属塩を含む水溶液の凝固浴中で繊維状に紡糸し、ポリウロン酸繊維を調製する。また、ポリウロン酸のナトリウム塩と、多孔化剤や界面活性剤などの添加剤や有機溶剤を含む溶液と、多価金属塩を含む溶液とを接触させることによって、ポリウロン酸微粒子を調製することもできる。
さらに、これらの各種ポリウロン酸成形物を添加剤として用いることも可能であり、例えば、ポリウロン酸微粒子を各種バインダーと混合して、コーティング剤として利用することも可能である。
【0031】
以下、本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPO 19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるように調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始する。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調製するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となる。アルカリ添加量が、グルコース残基の全モル数に対し100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は2時間であった。
予め10gの水に1.1gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、微粒子状のアミロウロン酸カルシウム塩を得た。
【実施例2】
【0033】
コンスターチ10gを蒸留水400gに加熱溶解させ、冷却した。この溶液に、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリグルクロン酸のナトリウム塩の粉末12gを得た。得られたポリグルクロン酸のナトリウム塩1.0gを40mlの蒸留水に溶解し、撹拌しながら、予め10mlの水に溶解させておいた塩化カルシウム1.1gを加え、微粒子状のアミロウロン酸カルシウム塩を得た。
【実施例3】
【0034】
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに、11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。予め100gの水に11gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、微粒子状のセロウロン酸カルシウム塩を得た。
【実施例4】
【0035】
脱アセチル化度100%のキトサンとして大日精化工業(株)製ダイキトサン100D(VL)を用い、このキトサン10gを10%酢酸190gに溶解し、メタノール1Lで希釈し、撹拌しながら無水酢酸12.68gを加えると、数分でゲル化した。これを15時間放置後、さらにメタノール1Lを加えてホモジナイザーで撹拌し、2N−NaOH水溶液を加えてpH7に中和し、これをろ過して、メタノールおよび脱イオン水で十分に洗浄した後、凍結乾燥させてN−アセチル化キトサン11.6gを得た。元素分析により、N−アセチル化度は95%であった。
上記の調製したN−アセチル化キトサン10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水10gにTEMPOを0.1g、臭化ナトリウム2.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液84gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。予め100gの水に11gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、微粒子状のキトウロン酸カルシウム塩を得た。
【0036】
<比較例1>
100mlの水に塩化カルシウム11gを溶解させた水溶液の中に、市販のアルギン酸ナトリウム粉末を撹拌しながら投入した。しばらくして撹拌を止め、沈殿した粉末を水洗いし、アルギン酸カルシウム塩を得た。
【0037】
<比較例2>
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPOを19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるように調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となる。アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリグルクロン酸のナトリウム塩を得た。
【0038】
(カルボキシル基量評価)
実施例1から4、比較例1および2のカルボキシル基量を電導度滴定により下記のように測定した。
それぞれの試験サンプルを0.05から0.3g精秤し、水55gに溶解または懸濁させる。ここに、0.01N−NaCl水溶液を5ml、0.1N−HCl水溶液を5ml添加する。この溶液を0.1N−NaOH水溶液で滴定し、そのときの0.1N−NaOH滴下量、pH、電導度をプロットし、グラフからカルボキシル基量を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
(金属イオン含有量)
実施例1から4、比較例1および2の金属イオン含有量を電子線マイクロアナライザーによりEPMA分析法、または蛍光X線分析により元素分析を行い測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(吸水試験)
実施例1より得られたアミロウロン酸カルシウム塩と比較例1より得られたアルギン酸カルシウム塩を、各々ビーカー100mlに2g入れ、十分に湿潤させた。ガラスフィルターで自然ろ過し、乾燥させずに、湿った状態のままのアミロウロン酸カルシウム塩とアルギン酸カルシウム塩との重量を各々測定し、絶乾に対しての吸水率を計算した。
【0042】
吸水率測定の結果、アミロウロン酸カルシウムは自重の1.4倍の水を保持することができ、一般に高い吸水力を有することで知られているアルギン酸カルシウムが自重の1.6倍の水を保持する能力とほぼ同等の結果となった。
【0043】
(吸湿放湿試験)
実施例1より得られたアミロウロン酸カルシウム、実施例4より得られたキトウロン酸カルシウム、比較例1より得られたアルギン酸カルシウム、および、セルロース、シリカゲルを、各々2g精秤し、40℃20%RHの雰囲気下に置いた。各々の試験サンプルが平衡状態に達したら、40℃95%RHの雰囲気下に試験サンプルを移動させ、絶乾重量に対する重量変化を測定した。
再び各々の試験サンプルが平衡状態に達したら、40℃20%RHの雰囲気下に再度試験サンプルを移動させ、絶乾重量に対する重量変化を測定した。
【0044】
試験結果を図1に示す。図1から明らかなように、本発明のポリウロン酸は従来から知られている吸湿剤であるシリカゲルやアルギン酸カルシウムと同程度の吸湿放湿性能を示した。
【実施例5】
【0045】
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPOを19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始する。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となる。アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対して100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリグルクロン酸のナトリウム塩1.2gを得た。得られたポリグルクロン酸のナトリウム塩1.0gを40mlの蒸留水に溶解し、撹拌しながら、10mlの水に溶解させた塩化アルミニウム1.4gを添加すると白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、微粒子状のアミロウロン酸アルミニウム塩を得た。
【実施例6】
【0046】
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPOを19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始する。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となる。アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対して100%(12.34g)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリグルクロン酸のナトリウム塩1.2gを得た。得られたポリグルクロン酸のナトリウム塩1.0gを40mlの蒸留水に溶解し、撹拌しながら、飽和の塩化銅水溶液の上澄みを添加すると、水色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、微粒子状のアミロウロン酸銅塩を得た。
【実施例7】
【0047】
アミノ基含有ポリビニルアルコールを12%濃度で水に溶解させる。この水溶液にさらにセロウロン酸ナトリウム塩を10%濃度になるように溶解させる。塩化亜鉛の溶解した凝固浴中でアミノ基含有ポリビニルアルコールとセロウロン酸ナトリウム塩との混合溶液を紡糸して、セロウロン酸亜鉛の含有された繊維を調製した。
【0048】
(抗菌性試験)
実施例6で得られた微粒子状のアミロウロン酸銅塩と、実施例7より得られたセロウロン酸亜鉛含有繊維、および比較例2より得られたポリグルクロン酸のナトリウム塩とを、湿潤状態で温度35℃、湿度65%の雰囲気下に置いた。3ヶ月後、目視観察により、ポリグルクロン酸のナトリウム塩と比較して、アミロウロン酸銅塩およびセロウロン酸亜鉛含有繊維は雑菌の繁殖が抑えられていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリウロン酸成形物は、一般的な機能性材料としてはもちろん、生体材料、食品、医療・医薬、化粧品等の機能性材料として、様々な用途に応用することができる。例えば、紡糸により繊維状に加工したり、また水溶液とし塗布することにより機能性膜、ガスバリア材、生体適合材等に応用することができる。また、他の多糖類との複合材料の原料として容易に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明におけるポリウロン酸成形物の吸湿放湿試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基の多価金属塩を有するポリウロン酸を用いたことを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物。
【請求項2】
前記多価金属がカルシウム、銅、亜鉛、アルミニウムから選ばれる1種であることを特徴とする請求項1に記載の水不溶性ポリウロン酸成形物。
【請求項3】
前記水不溶性ポリウロン酸成形物の形状が粒子状であり、その粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物。
【請求項4】
前記水不溶性ポリウロン酸成形物の形状が繊維状であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物。
【請求項5】
前記水不溶性ポリウロン酸成形物の形状がフィルム状であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物。
【請求項6】
少なくとも、多糖類を選択的に酸化する酸化工程と、該酸化工程で酸化された多糖類に多価金属塩を添加し沈殿物を生じさせ、成形物を成形する工程と、該成形物を水洗する工程を有することを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、多糖類を選択的に酸化する酸化工程と、該酸化工程で酸化された多糖類を成形する成形工程と、該成形工程で成形された酸化多糖類に多価金属塩を添加する工程を有することを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法。
【請求項8】
少なくとも、多糖類を選択的に酸化する酸化工程と、該酸化工程で酸化された多糖類を成形する成形工程と、多価金属塩を添加する工程とを有する水溶性ポリウロン酸成形物の製造方法において、酸化工程で酸化された多糖類を成形する成形工程と多価金属塩を添加する工程とを同時に行うことを特徴とする水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法。
【請求項9】
前記多糖類がでんぷん、セルロース、キチン、キトサンから選ばれる1種、または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の水不溶性ポリウロン酸成形物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−160842(P2006−160842A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352284(P2004−352284)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】