説明

ポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法およびポリエステル−羊毛複合繊維材料染色物

【課題】 環境や人体に悪影響を及ぼすホルムアルデヒド系の脆化防止成分を使用することなく、また使用するキャリヤーのポリエステル繊維に対する濃染効果の高低に拘わらず、高品位の染色物を得ることができ、羊毛を脆化させることなく、ポリエステル繊維の濃染が可能なポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法およびそれによって得られる染色物を提供する。
【解決手段】 キャリヤーの存在下にポリエステル−羊毛複合繊維材料を染色する方法において、塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を染色浴に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法およびポリエステル−羊毛複合繊維材料染色物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル−羊毛複合繊維材料を染色する場合、染色温度を通常のポリエステル繊維の最適染色条件である130℃まで上げると、羊毛の脆化が起こる。この脆化を防ぐために100〜110℃の低温で染色が行われているが、この温度ではポリエステル繊維が十分に染色されないため、ポリエステル繊維の良好な濃染効果を得る目的でキャリヤーの使用が不可欠であり、さらには脆化防止効果のある化合物(すなわち脆化防止剤)の併用が望まれる。
【0003】
従来使用されているキャリヤーとしては、ハロゲン化ベンゼン誘導体、メチル化ナフタレン誘導体、フェニル化フェノール誘導体、安息香酸エステル類、ビフェニル類等があるが、これらは環境汚染や人体への悪影響が懸念されており、そのため代替キャリヤーの開発が行われている。
【0004】
環境汚染や人体への悪影響が少ない代替キャリヤーとしては、例えば、芳香族系鉱物油、フタルイミド類、テルペン類等があるが、これらは従来のキャリヤーよりもポリエステル繊維の濃染効果が低い。したがって、十分な濃染効果を得るためには、従来のキャリヤーを使用する場合よりも染色温度をやや高くする必要がある。しかし、羊毛には前述の通り高温染色時の脆化という問題があり、従来の脆化防止剤では脆化防止効果が不十分であって、満足する品位の染色物が得られないというのが現状である。
【0005】
従来の脆化防止剤としては、例えば、ホルムアルデヒドまたは分解してホルムアルデヒドを除々に放出する化合物が知られている。しかし、ホルムアルデヒドもまた環境や人体への影響から敬遠されるようになってきていること、変色する染料があるので染料を慎重に選択しなければならないことなどから、非ホルムアルデヒド系のものに置き換わりつつある。
【0006】
非ホルムアルデヒド系のものとしては、特許文献1には、アクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン酸およびその酸性塩を染色浴に添加する染色方法が記載されており、獣毛すなわち羊毛等の動物繊維とポリエステル繊維との混合物を、獣毛の損傷を伴うことなく、強度低下を伴わなずに染色できると記載されている。しかし、これらの不飽和カルボン酸およびその酸性塩を染色浴に添加した場合、羊毛の汚染が強い傾向がみられ、染色性の観点からは未だ改善の余地があるものである。
【0007】
また、非ホルムアルデヒド系のものとして、特許文献2には、羊毛含有繊維材料の羊毛保護剤としてアクリルアミドのホモポリマーまたはコポリマーを使用する染色方法が開示されている。しかし、これらは保護効果が十分ではなく、羊毛の脆化に起因する強度低下等の問題が残されている。
【0008】
このような現状から、ポリエステル繊維の濃染効果の高いキャリヤーを用いる場合はもちろんのこと、濃染効果の低いキャリヤーを用いた場合であっても、高品位の染色物を得ることのできる染色方法の開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭54−42477号公報
【特許文献2】特開平9−195179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、環境や人体に悪影響を及ぼすホルムアルデヒド系の脆化防止成分を使用することなく、また使用するキャリヤーのポリエステル繊維に対する濃染効果の高低に拘わらず、高品位の染色物を得ることのできるポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法であって、羊毛を脆化させることなく、ポリエステル繊維の濃染が可能なポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法を提供することを目的とする。また、その染色方法により得られる染色物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塩素酸塩、臭素酸塩、およびヨウ素酸塩が、羊毛に対して高い脆化防止効果を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法およびポリエステル−羊毛複合繊維材料染色物を提供する。
【0013】
(1)キャリヤーの存在下にポリエステル−羊毛複合繊維材料を染色する方法において、塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を染色浴に添加することを特徴とするポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法。
【0014】
(2)塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩の添加量が、被染色物に対して0.02〜20質量%である、上記(1)に記載のポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法。
【0015】
(3)塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩がナトリウム塩またはカリウム塩である、上記(1)または(2)に記載のポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)に記載した染色方法により得られるポリエステル−羊毛複合繊維材料染色物。
【発明の効果】
【0017】
ポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色は、羊毛の脆化を防止するために通常100〜110℃の低温で行われている。しかし、本発明の染色方法は、羊毛の脆化防止効果が従来の方法より高いことから、染色温度の上限をやや高温に、例えば、125℃にまで高めることが可能になる。この染色温度の範囲は、ポリエステル繊維に対する濃染効果の低いキャリヤーを用いた染色の際に特に有効であって、染色温度を高めることにより、ポリエステル繊維を濃染することができる。
【0018】
つまり、本発明の染色方法によれば、使用するキャリヤーのポリエステル繊維に対する濃染効果の高低に拘わらず、高品位の染色物、すなわち、羊毛の脆化による強度低下もなく、ポリエステル繊維が十分に濃染された染色物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について詳しく説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、いくつかの変形が可能であることを理解されたい。
【0020】
本発明の染色方法は、キャリヤーの存在下にポリエステル−羊毛複合繊維材料を染色する方法であって、塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を染色浴に添加することを特徴とする。これらの化合物のうち、臭素酸塩の脆化防止効果が特に良好であるので、臭素酸塩を染色浴に添加することが特に好ましい。
【0021】
塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩の添加量は、被染色物に対して0.02〜20質量%とすることが好ましく、0.05〜10質量%とすることがより好ましい。添加量が0.02質量%未満の場合は脆化防止効果が不十分となる傾向にある。また、20質量%を超えて添加した場合は、添加量に見合うだけの脆化防止効果の向上が見られないばかりか、逆に脆化防止効果が低下するおそれがある。
【0022】
本発明の染色方法においては、染色浴に、塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩に加えて、脆化防止効果を有することが知られている不飽和カルボン酸およびその塩やアクリルアミド系等のポリマーをさらに添加してもよい。また、染色浴には、浸透剤、浴中柔軟剤、均染性を向上させるための分散均染剤やウール用均染剤等の、通常染色浴に添加されている成分を、本発明の効果を損なわない程度に添加してもよい。例えば、均染剤を染色浴中に0.1〜2.0g/Lとなる量で添加するのがよい。
【0023】
染色に用いる染料としては、ポリエステル繊維に対しては分散染料、羊毛に対しては酸性染料等、従来公知の染料を挙げることができる。
【0024】
染色の際の浴比は、通常用いられている浴比であってよく、一般には1:5〜1:50の間であるのが好ましい。染色温度は好ましくは90〜125℃、より好ましくは100〜120℃であり、染色時間は30〜60分間の範囲で適宜選択することができる。
【0025】
また、本発明の染色方法において使用されるキャリヤーは、ハロゲン化ベンゼン誘導体、メチル化ナフタレン誘導体、フェニル化フェノール誘導体、安息香酸エステル類およびビフェニル類、芳香族系鉱物油、フタルイミド類、テルペン類等が挙げられるが、人体や環境への悪影響を避けるためには、芳香族系鉱物油、フタルイミド類、テルペン類の使用が好ましい。これらのキャリヤーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明において「キャリヤーの存在下」での染色とは、キャリヤーを被染色物に対して好ましくは2〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%となるように染色浴に添加して染色することや、予め被染色物にキャリヤーを付着させた後、染色浴にはキャリヤーを添加せずに、あるいは、場合によっては染色浴にキャリヤーを添加して染色することをいう。キャリヤーを染色浴中に添加する場合は、公知の非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等を用いて、キャリヤーを分散もしくは乳化させることが好ましい。
【0027】
本発明の染色方法を適用できるポリエステル−羊毛複合繊維材料は、ポリエステル繊維と羊毛との混紡、混繊、合糸、合撚糸などの糸や編物、織物、不織布などのいかなる形態にある材料であってもよい。
【0028】
また、ポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色は、液流染色機、ウィンス染色機、ジッカー染色機、チーズ染色機、ビーム染色機等を用いる公知の方法により実施することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0030】
実施例1
まず、以下の配合組成によりキャリヤーを調製した。
【0031】
トリクロロベンゼン 90質量部
ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム 2質量部
オレイルアルコールのエチレンオキサイド12モル付加物(分散剤) 8質量部
合計 100質量部
次に、このキャリヤーを用いて、次の組成の染色浴を調製した。
【0032】
分散染料:Disperse Black GS-EN(長瀬カラーケミカル(株)製) 8% o.w.f.
分散均染剤:ニッカサンソルトRM−340E(日華化学(株)製) 5% o.w.f.
上記キャリヤー 4% o.w.f.
pH調整剤:80%酢酸 1.5% o.w.f.
脆化防止成分:臭素酸ナトリウム 0.4% o.w.f.
ウールモスリンとポリエステルポンジのそれぞれ同量を供試布として用い、この染色浴中で同時に染色した。なお、浴比を1:20とし、染色浴を40℃から昇温速度2℃/分で昇温し、染色温度110℃で45分間染色を行った。次いで、ソーピング剤としてリポトールET−17(日華化学(株)製)を2.0g/Lの濃度で含有する処理浴を用い、浴比を1:20とし、処理温度70℃で20分間ソーピングした後、乾燥させて、染色布を得た。
【0033】
実施例2
トリクロロベンゼンをイソプロピルベンゼンの代わりに用いてキャリヤーを調製し、染色温度を120℃とした以外は実施例1と同様に染色を行った。
【0034】
比較例1
臭素酸ナトリウムを使用することなく、実施例1と同様に染色を行った。
【0035】
比較例2
臭素酸ナトリウム0.4%o.w.f.の代わりにヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム(ホルムアルデヒド誘導タイプの脆化防止剤)を2%o.w.f.の量で用いた以外は実施例1と同様に染色を行った。
【0036】
比較例3
臭素酸ナトリウム0.4%o.w.f.の代わりにヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム(ホルムアルデヒド誘導タイプの脆化防止剤)を2%o.w.f.の量で用いた以外は実施例2と同様に染色を行った。
【0037】
上記の実施例および比較例で得られた染色物を、下記の方法に従って評価した。
【0038】
(1)濃染効果の評価
SPECTROPHOTOMETER CM−3700d(ミノルタ社製)を用いて、ポリエステルポンジ染色布の染着濃度(K/S値)を測色して評価した。比較例2のK/S値を100とした時の相対値で表した。なお、K/S値は、値が大きいほど濃色に染まっていることを表す。
【0039】
(2)脆化防止効果の評価
羊毛の脆化防止効果は、ウールモスリン染色布の引裂強さにより評価した。引裂強さの測定方法は、JIS L 1096(1999)のD法(ペンジュラム法)に従い、たて糸引裂強さおよびよこ糸引裂強さを5回ずつ測定し、その平均値を求めることにより評価した。なお、引裂強さが大きいほど、羊毛の脆化が防止されていることを表す。
【0040】
得られた結果を下記の表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
本発明の染色方法により得られたポリエステルスポンジ染色布のK/S値は、従来から使用されているホルムアルデヒド誘導タイプの脆化防止成分を用いた比較例2よりも大きくなっており、濃色に染まっていることが明らかである。
【0043】
また、ウールモスリン染色布の引裂強さは、従来から使用されているホルムアルデヒド誘導タイプの脆化防止成分を用いた染色方法において、染色温度が100℃の場合(比較例2)は良好であるが、染色温度が120℃の場合(比較例3)は低下しており、染色温度を上げると脆化防止効果が不十分であることが分かる。
【0044】
一方、本発明の染色方法では、染色温度が100℃および120℃のいずれの場合においても引裂強度が良好であって、染色温度を通常よりも高めた場合であっても、羊毛の脆化が十分に防止されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、環境や人体に悪影響を及ぼすホルムアルデヒド系の脆化防止成分を使用することなく、また使用するキャリヤーのポリエステル繊維に対する濃染効果の高低に拘わらず、高品位の染色物すなわち羊毛の脆化による強度低下もなく、ポリエステル繊維が十分に濃染された染色物を与えることができるので、産業上有利に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリヤーの存在下にポリエステル−羊毛複合繊維材料を染色する方法において、塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を染色浴に添加することを特徴とするポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法。
【請求項2】
塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩の添加量が、被染色物に対して0.02〜20質量%である、請求項1に記載のポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法。
【請求項3】
塩素酸塩、臭素酸塩およびヨウ素酸塩がナトリウム塩またはカリウム塩である、請求項1または2に記載のポリエステル−羊毛複合繊維材料の染色方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載した染色方法により得られるポリエステル−羊毛複合繊維材料染色物。

【公開番号】特開2006−97158(P2006−97158A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282438(P2004−282438)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】