説明

ポリエステルの製造方法

【課題】 本発明は、環状オリゴマーの含有量が少なく、かつ、粘度低下や粘度上昇が小さく成形に適する固有粘度を有するポリエステルの製造方法、また、熱分解反応が起こらず、色調が良好であるポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリエステルの製造方法であって、ジカルボン酸成分とグリコール成分との重縮合反応によって得られる粗製ポリエステルを、含水量が少なくとも3.5g/Nmである調湿不活性ガスを流通させながら、180℃以上、該粗製ポリエステルの融点以下の温度で加熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造方法に関し、詳しくは、環状オリゴマーの含有量が少なく、かつ、粘度低下や粘度上昇が小さく成形に適する固有粘度を有するポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルは、物理的性質および化学的性質ともに優れており、工業的価値が高く、繊維、フィルム、シート、ボトルなどとして広く用いられている。
【0003】
このようなポリエステルは、通常、ジカルボン酸成分とグリコール成分とから重縮合反応により製造される線状ポリマーである。
【0004】
しかし、例えば、非特許文献1などに記載のように、従来から公知のポリエステルは、数%の環状オリゴマーを含有している。
【非特許文献1】D.R.Cooperand,J.A.Semlyen;Polymer,14,185―192(1973)
【0005】
このような環状オリゴマーは、得られるポリエステルから成形されるフィルム、シート、ボトルなどの表面に析出し、表面肌の荒れや白化を引き起こし、商品価値が低下する。ボトルなどの容器においては、環状オリゴマーが容器の内壁にも析出おそれがあり、環状オリゴマーが内容物へ溶出した場合には、異臭、味の変化などが起こり、好ましくない。さらに、得られるフィルムをレトルト食品の包装用として使用する場合には、高温・高圧処理(レトルト処理)を行うため、フィルム表面の白化が起こり、フィルムへの印刷も困難となり、商品価値が低下する。さらにまた、環状オリゴマーは、ポリエステルの成形工程および加工工程において、金型やノズル類の内壁を汚染するため、用いた金型やノズル類の清掃および交換頻度が増加する。
【0006】
ポリエステルから繊維類を得る場合も同様に、得られる繊維類の表面に、環状オリゴマーが溶出するおそれがあり、その有害性、環境汚染などが問題となっている。このような繊維類を得る際に用いる撚糸機や仮より機、あるいは得られた繊維類を染色する際に用いる染色機への環状オリゴマーの付着は、得られる繊維類の品質の低下、使用する機械の清掃頻度の増加などを引き起こす。
【0007】
さらに、環状オリゴマーを含有するポリエステルから得られる繊維、フィルム、シートなどは、機械的強度が不充分である。
【0008】
ポリエステル中の環状オリゴマーの含有量を減少させる方法として、例えば、特許文献1および特許文献2には、重縮合反応により得られる粗製ポリエステルを減圧条件下または不活性ガス流通下で、180℃から該ポリエステルの融点までの温度で加熱処理する固相重合法が開示されている。これらの特許文献においては、この方法により、通常、ポリエチレンテレフタレートに含まれている1.3〜1.7重量%の環状オリゴマーを0.5重量%以下に減少できることが開示されている。しかし、このような固相重合法においては、上記のように環状オリゴマーのポリエステル中の含有量は、減少させることができるが、同時に上記粗製ポリエステルの重縮合反応も進行し、得られるポリエステルの重合度の上昇が大きくなり、結果的に得られるポリエステルの重合度が高くなる。ポリエステルの重合度が高くなると、成形する際に溶融時のポリエステルの粘度が上昇し、そのため、押し出し成形を行う際の負荷が大きくなったり、剪断発熱によりポリエステルの温度が上昇し、熱分解を起こしたりする。
【0009】
このような問題を解決するために、特許文献3には、不活性ガスの流量を1〜500リットル/kg・時間に調整する方法が開示されており、特許文献4には、固相重合時の減圧度を15〜300mmHgに調整する方法が開示されている。しかし、これらの方法においては、得られるポリエステルの重合度が変動したり、着色や熱劣化が生じるため、一定品質のポリエステルの製造は困難である。
【0010】
特許文献5には、不活性ガス中の水分量および酸素濃度を1,000ppm以下とし、この不活性ガス雰囲気下であり、かつ、この実質的に不活性ガスを流通させずに加熱処理する方法が開示されている。しかし、この方法は、上記のように不活性ガスが流動していないため、不活性ガス中に含まれる水分や酸素濃度によっては、分解が生じ、得られるポリエステルの色調が悪かったり(黄色味を帯び)、固有粘度の低下を引き起こすなどの悪影響がある。また、ポリエステルを加熱処理装置から取り出す際に、アルデヒドの刺激臭がある。
【0011】
【特許文献1】特開昭51−48505号公報
【特許文献2】特開昭53−101092号公報
【特許文献3】特公昭62−49294号公報
【特許文献4】特公昭62−49295号公報
【特許文献5】特開平2−298512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の欠点を解決するものであり、その目的とするところは、環状オリゴマーの含有量が少なく、かつ、粘度低下や粘度上昇が小さく成形に適する固有粘度を有するポリエステルの製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、熱分解反応が起こらず、色調が良好であるポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリエステルの製造方法であって、ジカルボン酸成分とグリコール成分との重縮合反応によって得られる粗製ポリエステルを、含水量が少なくとも3.5g/Nmである調湿不活性ガスを流通させながら、180℃以上該粗製ポリエステルの融点以下の温度で加熱処理することを特徴とするポリエステルの製造方法であり、そのことにより上記目的が達成される。
【0014】
好適な実施態様においては、前記調湿不活性ガス中の含水量が、3.5〜30.0g/Nmである。
【0015】
好適な実施態様においては、前記加熱処理する温度が、190℃〜260℃である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により得られるポリエステルは、環状オリゴマーの含有量が少ないため、成形時の環状オリゴマーによる金型、ノズル類の汚染は生じない。さらに、本発明の製造方法は加熱処理時にポリエステルの粘度が低下したり上昇することが少ないため、予め粗製ポリエステルを所望の固有粘度に調整しておくことにより、最終的に所望の固有粘度を有するポリエステルを得ることができる。さらに本発明により、色調が良好であり(黄色味を帯びることなく)、アセトアルデヒドなどの刺激臭がないポリエステルを得ることができる。さらに粘度保持および環状オリゴマー低減を同時に達成することが可能であり、工程の簡略化が可能であり生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いられる粗製ポリエステルは、通常の工程により製造され、例えば、ジカルボン酸成分とグリコール成分との重縮合反応により得られる。
【0018】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸;およびヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
グリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロピレングリコールなどが挙げられる。さらに、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールもまた使用することができる。これらのグリコール成分は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
上記ジカルボン酸およびグリコールの他にオキシカルボン酸も利用され得、それには、ヒドロキシエトキシ安息香酸、グリコール酸などがある。これらのジカルボン酸成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
例えば、上記ジカルボン酸成分および上記グリコール成分、さらに必要に応じてオキシカルボン酸成分を含む組成物を、従来公知のエステル化反応またはエステル交換反応によりエステル化し、次いで、減圧下で重縮合反応を行うことにより、粗製ポリエステルを製造する。この際、触媒として、従来公知のマンガン、マグネシウム、カルシウム、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、コバルト、アルミニウム化合物、リン化合物などが使用され得る。上記ジカルボン酸成分とグリコール成分とを含む組成物には、安定剤、顔料、染料、核剤、充填剤などの添加剤が含有され得る。
【0022】
次に、得られた粗製ポリエステルをシートカット法、ストランドカット法などにより、適宜、チップ状(例えば、円柱状)、粒子状などに成形する。
【0023】
本発明の方法においては、上記粗製ポリエステルを、水成分が少なくとも3.5g/Nmの割合で含有される調湿不活性ガスを流通させながら、180℃以上該ポリエステルの融点以下の温度で加熱処理を行う。
【0024】
本発明においては、調湿不活性ガス中に含水量が、少なくとも3.5g/Nmである。好ましい含水量は、調湿不活性ガス中に3.5〜30.0g/Nmであり、さらに好ましくは、4.0〜20.0g/Nmである。調湿不活性ガス中の含水量が3.5g/Nm未満の場合には、得られるポリエステルの固有粘度の上昇が著しい。調湿不活性ガス中の含水量が過剰である場合には、加水分解反応が起こり、得られるポリエステルの固有粘度が低下するおそれがある。
【0025】
本発明で用いられる不活性ガスとしては、本発明において得られるポリエステルに対して不活性なガスが用いられ、例えば、窒素ガス、炭酸ガス、ヘリウムガスなどが挙げられる。特に、窒素ガスが安価であるため好ましい。
【0026】
本発明に用いられる加熱処理装置としては、上記粗製ポリエステルと不活性ガスとを均一に接触し得る装置が望ましい。このような加熱処理装置としては、例えば、静置型乾燥機、回転型乾燥機、流動床型乾燥機、攪拌翼を有する乾燥機などが挙げられる。
【0027】
また、本発明において熱処理を実施する前にポリエステルの水分は適度に除去しておくことと、熱処理時におけるポリマー同士の融着を防止するためにもポリマーを一部結晶化させておくのが、より好ましい。
【0028】
本発明において、加熱処理温度は、180℃以上、得られるポリエステルの融点以下の温度であり、好ましくは190℃〜260℃、さらに好ましくは200℃〜250℃である。加熱処理温度が180℃未満の場合には、粗製ポリエステル中の環状オリゴマーの減少速度が小さい。加熱処理温度がポリエステルの融点を越える温度の場合には、ポリエステルが融解してしまい、接着が起こる。そのため、得られるポリエステルを加熱処理装置から取り出すことが困難となり、また、成形操作も困難となる。
【0029】
加熱処理時間は、通常、1〜70時間が好ましく、さらに好ましくは2〜60時間、さらに好ましくは、4〜50時間である。1時間未満の場合には、粗製ポリエステル中の環状オリゴマーが充分に減少せず、70時間を越える場合には、粗製ポリエステル中の環状オリゴマーの減少速度が小さく、逆に熱劣化などの問題が生じるおそれがあり、色調が損なわれる。
【0030】
不活性気体の流量は、ポリエステルの固有粘度と密接な関係がある。また、調湿不活性気体中に含まれる含水量もポリエステルの固有粘度の変化に影響する。そのため、不活性気体の流量は、含水量および所望のポリエステルの固有粘度、加熱処理温度などに応じて適宜選択されるべきである。
【0031】
例えば、調湿不活性気体の含水量が高い場合、水による加水分解などの悪影響を回避するために、流量は多くする必要がある。また、加熱処理温度を高温とする場合、ポリエステルの固有粘度の上昇を抑制するために、不活性気体の流量は少なくする必要がある。
【0032】
通常、不活性気体の流量は、好ましくは、ポリエステル1kg当たり毎時1リットル以上、さらに好ましくは5リットル以上が必要である。不活性気体の流量がポリエステル1kg当たり毎時1リットルより少ない場合には、酸素の混入などにより、得られる樹脂が黄色味を帯びるなどの悪影響が生じるおそれがある。不活性気体の流量の上限は、不活性気体中に含まれる含水量および加熱処理温度によって決定されるが、通常、好ましくは、ポリエステル1kg当たり毎時10,000リットル以下、さらに好ましくは5,000リットル以下、さらに好ましくは2,000リットル以下である。不活性気体の流量を、10,000リットル以上としても、本発明の目的から逸脱するようなことはないが、経済的な面を考慮すれば、むやみに流量を多くする必要はない。
【0033】
本発明のポリエステルの製造方法は、常圧から微加圧状態下で不活性ガスを流通させながら、加熱処理することにより実施される。
【0034】
この場合、加圧は、加熱処理中に大気中の水分や酸素が反応機に混入するのを抑制することが目的であるから、加圧条件は5.0kg/cm以下で充分である。加圧条件が5.0kg/cmを越える場合でも、本発明の目的を逸脱することはないが、設備にコストがかかるため、必要以上に圧力を高くすることは意味がない。
【0035】
さらに、色調の面から流通させる不活性ガス中の酸素濃度は、50ppm以下、好ましくは25ppm以下が必要である。酸素濃度が50ppm以上では、本発明のポリエステルの劣化による色調悪化、具体的には黄変が激しく製品品質上問題となる。
【0036】
上記方法で得られるポリエステル中の環状オリゴマーの含有量は、通常、0.6重量%以下であり、0.5重量%以下であることが好ましい。
【0037】
このように、本発明で得られたポリエステルは、環状オリゴマーの含有量が少なく、製造工程におけるさらなる重合および分解が極めて少ないため、色調も良好であり、そして製造時にアセトアルデヒドなどの刺激臭もない。このようなポリエステルは、繊維、フィルム、シート、ボトルなどに成形され得る。
【0038】
本発明のポリエステルの製造方法によれば、重縮合により得られた粗製ポリエステルを、含水量が少なくとも3.5g/Nmである調湿不活性ガスを流通させながら180℃以上、該ポリエステルの融点以下の温度で加熱処理することにより、ポリエステルの重合反応を進行させることなく、粗製ポリエステル中に含まれる環状オリゴマーの含有量を減少させることができる。
【0039】
不活性ガス中の含水量が少量(例えば、3.5g/Nm未満)の場合には、重合が進むため、得られるポリエステルの固有粘度は上昇する。本発明においては、不活性ガス中に水成分を加え、不活性ガス中の含水量を少なくとも3.5g/Nmとすることにより、固有粘度の低下抑制、および上昇の小さいポリエステルを得ることができる。
【0040】
ポリエステルの固有粘度は0.4以上であることが好ましく、0.5〜0.95であることが特に好ましい。得られるポリエステルの固有粘度が0.4未満である場合には、紡糸する際に糸切れが生じたり、製膜する際に膜が破れたり、成形体を成形する際に破損を生じたりするおそれがある。固有粘度が0.95を越える場合には、成形時に溶融樹脂の剪断発熱により温度が上昇したり、溶融成形性を高めるために成形温度を高く設定しなければならなかったり、溶融成形の時間が延長されたりする。その結果、熱劣化による品質の低下、環状オリゴマーが再生成されるおそれがある。このように、本発明により得られるポリエステルは、粘度低下および粘度上昇が小さいため、予め粗製ポリエステルを所望の固有粘度に調整しておくことにより、最終的に所望の固有粘度を有するポリエステルを得ることができる。
【0041】
本発明ではまた、不活性ガスの流通下で反応が起こることにより、色調が良好であり(黄色味を帯びることなく)、分解によるアセトアルデヒドなどの刺激臭がないポリエステルを得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を、実施例を用いてさらに説明する。以下の実施例および比較例において用いられた固有粘度の測定法、および環状オリゴマーの定量方法を以下に示す。
【0043】
〔固有粘度の測定法〕
得られたポリエステル0.1gをp−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(3/1(重量比))の混合溶媒25ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0044】
〔環状オリゴマーの定量方法〕
得られたポリエステル0.1gを1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/クロロホルム(2/3(容量比))の混合溶媒3mlに溶解した。得られた溶液にクロロホルム20mlを加えて均一に混合した。得られた混合液にメタノール10mlを加え、線状ポリエステルを再沈殿させた。次いで、この混合液を濾過し、沈殿物をクロロホルム/メタノール(2/1(容量比))の混合溶媒30mlで洗浄し、さらに濾過した。得られた濾液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。濃縮乾固物にジメチルホルムアミド10mlを加え、環状オリゴマー測定溶液とした。この測定溶液を横河電機(株)社製LC100型の高速液体クロマトグラフィーを使用して定量した。
【0045】
〔b値の測定方法〕
b値とは、得られたポリエステルの黄色の色調を表す指標であり、得られたポリエステル6.5gを用いて、日本電子工業(株)製の色差計により、測定した。
【0046】
〔融点の測定方法〕
セイコ−電子工業株式会社製の示差熱分析計(DSC)、RDC−220で測定した。試料10mgを使用し、昇温速度20℃/分で昇温し、290℃で3分間保持した。昇温時に観察される融解ピ−クの頂点温度を融点(Tm)とした。
【0047】
(実施例1)
ジメチルテレフタレート1,000部、エチレングリコール700部、および酢酸亜鉛・2水塩0.3部をエステル交換反応缶に仕込み、120〜210℃でエステル交換反応を行い、生成するメタノールを留去した。エステル交換反応が終了した時点で、リン酸0.13および三酸化アンチモン0.3部を加え、系内を徐々に減圧にし、75分間で1mmHg以下とした。同時に徐々に昇温し、280℃とした。同条件で70分間重縮合反応を実施し、溶融ポリマーを吐出ノズルより水中に押し出し、カッターによって、直径約3mm、長さ約5mmの円柱状チップとした。得られた粗製ポリエステルの固有粘度は0.610であり、環状オリゴマーの含有量は1.05重量%、融点は252℃であった。なお、実施例中にある「部」とは全て重量部を表す。
【0048】
この粗製ポリエステルを減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が6.4g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時70リットルの割合で流通し、207℃で48時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.630であり、環状オリゴマーの含有量は0.27重量%であった。さらに得られたポリエステルのb値は1.4であった。
【0049】
加熱処理後のポリエステルを押し出し成形機にて、285℃で押し出し、厚み100μmのフィルムを得た。このフィルムの環状オリゴマー含有量は0.37重量%であった。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた粗製ポリエステルを減圧下160℃にて乾燥し、含水量が3.0g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時300リットルで流通し、207℃で48時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.798、環状オリゴマーの含有量は0.30重量%であった。
【0051】
加熱処理後のポリエステルを実施例1と同様にしてフィルムを得ようとしたところ、押し出しに時間がかかり、得られたフィルムの環状オリゴマーの含有量は、0.73重量%と高濃度であった。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた粗製ポリエステルを減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が15.3g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時300リットルで流通し、230℃で12時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.617であり、環状オリゴマーの含有量は0.28重量%であった。さらに、得られたポリエステルのb値は1.4であった。
【0053】
加熱処理後のポリエステルを実施例1と同様にして厚み100μmのフィルムを得た。このフィルムの環状オリゴマー含有量は0.38重量%であった。
【0054】
(実施例3)
実施例1と同様にして、固有粘度が0.720であり、環状オリゴマーの含有量が1.20重量%、融点が245℃である粗製ポリエステルを得た。得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が12.5g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時200リットルで流通し、220℃で24時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.715であり、環状オリゴマーの含有量は0.25重量%であった。さらに、得られたポリエステルのb値は1.8であった。
【0055】
加熱処理後のポリエステルを押し出し機で295℃で押し出し、厚み100μmのフィルムを得た。押し出しに際しては、負荷もなくスムーズに製膜ができた。得られたフィルム中の環状オリゴマーの含有量は、0.48重量%であった。
【0056】
(実施例4)
実施例1と同様にして、固有粘度が0.613であり、環状オリゴマーの含有量が1.03重量%、融点が255℃である粗製ポリエステルを得た。得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が18.1g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時40リットルで流通し、240℃で12時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.613であり、環状オリゴマーの含有量は0.32重量%であった。さらに、得られたポリエステルのb値は1.6であった。
【0057】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が2.0g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時200リットルで流通し、220℃で24時間加熱処理を行った。得られたポリエステル中の環状オリゴマーの含有量は0.26重量%であった。
【0058】
加熱処理後のポリエステルを実施例1と同様にしてフィルムを得ようとしたところ、押し出しに時間がかかり、得られたフィルムの環状オリゴマーの含有量は、0.80重量%と高濃度であった。
【0059】
(比較例3)
実施例4と同様にして得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が18.1g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時40リットルで流通し、170℃で24時間加熱処理を行った。得られたポリエステル中の環状オリゴマーの含有量は1.00重量%と全く減少しなかった。
【0060】
(比較例4)
実施例4と同様にして得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が18.1g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時40リットルで流通し、263℃で12時間加熱処理を行った。得られたポリエステルは、缶内で融着を起こしていた。しかも、環状オリゴマーの含有量は1.13重量%と増加していた。
【0061】
(実施例5)
実施例4と同様にして得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が6.4g/Nmに調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時70リットルで流通し、この反応系を1.2kg/cmの微加圧に調整し、207℃で48時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.629であり、環状オリゴマーの含有量は0.28重量であった。さらに、得られたポリエステルのb値は1.6であった。
【0062】
(比較例5)
実施例4と同様にして得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が18.1g/Nmに調湿された窒素ガスにて反応系の圧力を1.2kg/cmの微加圧密閉(窒素ガス非流通)とし、240℃で12時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.571であり、環状オリゴマーの含有量は0.31重量であった。さらに、得られたポリエステルのb値は4.2と黄色味が強く、得られたポリエステルを反応缶から取り出す際に、アセトアルデヒドの刺激臭があった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により得られるポリエステルは、環状オリゴマーの含有量が少ないため、成形時の環状オリゴマーによる金型、ノズル類の汚染は生じない。さらに、本発明の製造方法は加熱処理時にポリエステルの粘度が低下したり上昇することが少ないため、予め粗製ポリエステルを所望の固有粘度に調整しておくことにより、最終的に所望の固有粘度を有するポリエステルを得ることができる。さらに本発明により、色調が良好であり(黄色味を帯びることなく)、アセトアルデヒドなどの刺激臭がないポリエステルを得ることができる。さらに粘度保持および環状オリゴマー低減を同時に達成することが可能であり、工程の簡略化が可能であり生産性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルの製造方法であって、ジカルボン酸成分とグリコール成分との重縮合反応によって得られる粗製ポリエステルを、含水量が少なくとも3.5g/Nmである調湿不活性ガスを流通させながら、180℃以上、該粗製ポリエステルの融点以下の温度で加熱処理することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記調湿不活性ガス中の含水量が、3.5〜30.0g/Nmである、請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理する温度が、190℃〜260℃である、請求項1に記載のポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2010−132765(P2010−132765A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309440(P2008−309440)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】