説明

ポリエステルフィルム

【課題】 ポリエステルフィルムの有する耐薬品性、電気特性、表面特性を維持したまま、優れた耐熱性、加工性を有し、且つ、工業的に製造可能なポリエステルフィルム、及び、該フィルムの製造法の提供を目的とする。
【解決手段】ポリトリメチレンテレフタレートを50〜100重量%含む樹脂組成物からなり、面配向係数が0.03以下である結晶化ポリエステルフィルムとする。厚みは1〜2000μmであり、フィルムを150℃で30分間熱処理した際の、フィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)における熱収縮率が−1〜1%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性に優れたポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは、ポリトリメチレンテレフタレート(以下「PTT」と略す)を主として含む樹脂組成物からなり、優れた耐熱性、特に寸法安定性と耐薬品性、電気特性、表面特性、及び、スリットや打抜き、曲げなどの加工性を兼ね備え、工業的に製造可能なポリエステルフィルム、及び、該フィルムの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、その優れた耐熱性、耐薬品性、電気的特性、表面特性等を生かして磁気記録媒体やコンデンサーを始めとした各種電気電子部品の構造材用やこれらを製造する際の副資材用、包装用などの種々の用途に幅広く使われている。
一方、これらの用途においては製品の高品質化、コンパクト化などのニーズに伴い、ポリエステルフィルムに対する要求特性もますます厳しくなってきている。なかでも電気電子部品用途では工程中、高温雰囲気にさらされることが多く、この際に変形や寸法変化が少ないことが強く望まれてきている。
【0003】
一般に、耐熱性が要求されるフィルムには二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略す)フィルムが広く用いられている。しかしながら、該フィルムは延伸によって分子を面配向させて熱変形の抑制や機械物性の向上を図っているが、同時に分子鎖の歪が残留するために、再度加熱した際にこの歪が開放されて収縮するという性質をもっている。このため通常は二軸延伸などの延伸の後に熱固定を行なって分子鎖の歪を開放させようとしているが、完全に取り除くことは極めて困難である。
このような熱収縮を抑制する方法としては、PETフィルムを二軸延伸した後に融点に近い高温で熱固定し、その後、長手方向と幅方向にそれぞれ緩和させながら冷却する方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながらこの方法では平坦性を維持させる為に常にフィルムに張力をかけながら工程を通過させる必要があり、十分に歪を取り除くことは困難である。
この他に、PETフィルムを二軸延伸して熱固定した後に、フィルムを懸垂された状態で熱弛緩処理する方法も提案されている(例えば特許文献3、4参照)。この方法では、ほぼ自重のみがかかっている状態で弛緩熱処理するため通常に比べると歪は除去されやすい。しかしながらこの方法では張力が低すぎるためにフィルムにしわが入ったり、歪んだりして平坦性が悪化しやすい。平坦性を維持して、フィルムを走行させながら熱処理すると、歪除去は不十分であり、熱収縮を十分下げることはできない。また、張力を低くする為には速度を上げることができず、工業的に生産できるようにすることも極めて困難である。
【0005】
また、PETとポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」と略す)又はポリトリメチレンテレフタレート(以下「PTT」と略す)とのブレンド樹脂を用いて逐次二軸、又は同時二軸延伸する方法も提案されている(例えば特許文献5〜7参照)。
しかしながら、本発明者らの検討によると2種類のポリエステルをブレンドするだけでは歪を除去して熱収縮を十分下げることはできない。また、2種類のポリエステルをブレンドした場合、両成分が反応して融点の異なる共重合ポリマーとなり、耐熱性や耐薬品性が大幅に低下することがある。一方、十分ブレンドしないと特性が発現しない。このため反応を抑えつつブレンドし、且つ、常に同じ状態に保つのは非常に困難である。
【0006】
無配向で結晶したPETフィルムとすることも考えられるが、無配向状態ではPETは非常に結晶化速度が遅い為にフィルムを工業的に得ることが困難であり、仮に得られたとしても非常に脆いフィルムとなってしまう。また、PBTの無配高結晶フィルムも考えられるが、本発明者らの検討によると、PBTは結晶化速度が速すぎるために幅方向に均一に冷却して平坦性の良好なフィルムを得るのが困難であり、且つ、冷却固化時の張力を下げることが難しいため、歪を十分除去して熱収縮を下げることは極めて困難である。
このようにこれまでの技術では優れた耐熱性、特に寸法安定性と耐薬品性、電気特性、表面特性を兼ね備えたポリエステルフィルムを得ることはできない。
【0007】
【特許文献1】特開平8−132523号公報
【特許文献2】特開平10−180866号公報
【特許文献3】特開2001−192471公報
【特許文献4】特開2002−1810号公報
【特許文献5】特開平9−194604号公報
【特許文献6】特開2005−75904号公報
【特許文献7】特開2005−97560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した問題を解決し、ポリエステルフィルムの有する耐薬品性、電気特性、表面特性を維持したまま、優れた耐熱性、加工性を有し、且つ、工業的に製造可能なポリエステルフィルム、及び、該フィルムの製造法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、PTTを特定割合含む樹脂組成物からなり、無配向にて結晶化したフィルムとすることで前記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
【0010】
(1)ポリトリメチレンテレフタレートを50〜100重量%含む樹脂組成物からなり、面配向係数が0.03以下である結晶化ポリエステルフィルム。
(2)破損せずに180°に折り曲げることができることを特徴とする(1)に記載のポリエステルフィルム。
(3)厚みが1〜2000μmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリエステルフィルム。
(4)フィルムを150℃で30分間熱処理した際の、フィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)における熱収縮率が−1〜1%であることを特徴とする(1)〜(3)に記載のポリエステルフィルム。
(5)樹脂組成物中に結晶造核剤を含むことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリエステルフィルム。
(6)樹脂組成物中にエラストマーを含む(1)〜(5)に記載のポリエステルフィルム。
(7)ポリトリメチレンテレフタレートを50〜100重量%含む樹脂組成物をフィルム状に成形し、次いで、入力補償型示差熱量計にて昇温しながら熱分析を行った際に、0〜180℃の間に観察される結晶化由来の発熱量が0〜30J/gとなるように結晶化させる(1)〜(6)に記載のポリエステルフィルムの製造法。
(8)成形方法が溶融キャスト法である(7)に記載のポリエステルフィルムの製造法。
(9)成形方法がインフレーション法である(7)に記載のポリエステルフィルムの製造法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィルムは、ポリエステルが本来有する耐薬品性等の特長に加え、耐熱性や後加工性に優れており、且つ、工業的に製造可能であるので、各種電気電子部品の構造材用やこれらを製造する際の副資材用、包装用などの幅広い用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下具体的に説明していく。
本発明のポリエステルフィルムは、PTTを50〜100重量%含む樹脂組成物からなる。
ここでPTTとは、酸成分がテレフタル酸から構成され、グリコール成分がトリメチレングリコール(1,3−プロパンジオールともいう、以下「TMG」と略す)から構成されるポリエステルを示す。PTTの割合は耐熱性、後加工性、及び、生産性の観点より60〜100重量%であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましく、80〜100重量%であることが特に好ましい。
【0013】
本発明のフィルムは、PTTを上記した割合で含むことで本発明のポリエステルフィルムに要求される特性を達成することができるようになる。この理由としては、第一に化学的な反応性が低く、耐熱性が良好な芳香族飽和ポリエステルの一種であるというPTTの分子構造からくる化学的・熱的な安定性、第二にPTT固有の適度な到達結晶化度や結晶化速度、第三に非晶部分の剛直性に起因すると想定される易打抜き性に由来すると考えられる。
【0014】
本発明のPTTには他の共重合成分を含有する場合も含む。共重合成分としては、エチレングリコール、1,1−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2,2−プロパンジオール1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、イソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のエステル形成性モノマーやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらのコポリマーなどが挙げられる。このような共重合成分は、フィルムを製造する際の熱安定性や、フィルムの耐熱性、耐薬品性を高める為には、30モル%以下とすることが好ましく、20モル%以下とすることがより好ましく、10モル%以下とすることが更に好ましく、5モル%以下とすることが特に好ましい。
【0015】
PTTの重合度は固有粘度[η]を指標として0.5〜4dl/gの範囲であることが好ましい。固有粘度を0.5dl/g以上とすることで十分な強度のフィルムとできるとともに、フィルムの製造が容易になる。一方、4dl/g以下とすることで、フィルムを製造することが容易になる。固有粘度[η]は0.6〜3dl/gの範囲がより好ましく、0.7〜2.5dl/gの範囲が更に好ましく、0.8〜2dl/gの範囲が特に好ましい。
【0016】
また、PTTはカルボキシル末端基濃度が0〜80eq/トンであることが好ましい。この理由はフィルムの生産性、耐熱性を高めることができるためである。カルボキシル末端基濃度は0〜50eq/トンがより好ましく、0〜30eq/トンが更に好ましく、0〜20eq/トンが特に好ましく、低ければ低いほど良い。
また、同様の理由よりPTTはエーテル結合を介して結合したグリコール二量体成分であるビス(3−ヒドロキシプロピル)エーテル成分(構造式:−OCHCHCHOCHCHCHO−、以下「BPE」と略す)の含有率が0〜2重量%であることが好ましい。エーテル成分は0.1〜1.5重量%であることがより好ましく、0.15〜1.2重量%であることが更に好ましい。
【0017】
本発明のPTTを含む樹脂組成物は、PTT以外に各種の有機物質や無機物質及び各種添加剤を含んでいる場合も含む。このような場合でもPTTの割合は前記した範囲である必要がある。なお、PTTの割合は、溶媒としてHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール):CDCl=1:1を用いたHの核磁気共鳴スペクトル(以下「NMR」と略す)を用いた分析により求めることができる。この際、環状二量体を始めとした各種のオリゴマーやBPEはPTTの割合の中に含めて計算する。また、NMR測定の溶媒に不溶な成分はPTTではないとして計算する。
【0018】
PTT以外の有機物質としては、環状や線状のPTTオリゴマー、PTTを構成する酸成分やグリコール成分のモノマー及びこれらに由来する低分子量反応物、PTT以外の樹脂、及び、各種添加剤が挙げられる。PTT以外の樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどの熱可塑性ポリエステル、熱硬化性のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などの熱可塑性ポリアミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリフェニレンサルファイト樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、ポリフェニレンエーテル樹脂など、及び、これらの共重合樹脂などが挙げられる。
【0019】
PTTを含む樹脂組成物に含まれる無機物質としては、ガラス繊維、カーボン繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリンクレー、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、二酸化チタン、二酸化シリカなどの無機充填剤や無機滑剤、重合触媒残渣などが挙げられる。
また、添加剤としては、有機や無機の染料や顔料、艶消し剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶造核剤、増白剤、滑剤、不純物の捕捉剤、増粘剤、表面調整剤などが挙げられる。このうち、熱安定剤や、低分子量の揮発性不純物の捕捉剤を含むことが好ましい。熱安定剤として5価または/および3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物などが好ましく、低分子量の揮発性不純物の捕捉剤としては、ポリアミドやポリエステルアミドのポリマーやオリゴマー、アミド基やアミン基を有した低分子量化合物などが好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、エポキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物及びカルボジイミド化合物を含むことが好ましい。PTTのカルボキシル基濃度を低下させて耐候性を高めたり、フィルムの靭性を高めたりすることができるからである。特に、エポキシ基を有する化合物は、耐加水分解性及び色調の観点から、より好ましい。ここでエポキシ基を含有する化合物とは、分子中にエポキシ基(オキシラン環)を1個以上持つ熱硬化性の化合物を示す。具体的には、ビルフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるいわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラックや線状高分子量クレゾールノボラックをグリシジル化した多官能エポキシであるノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ポリグリシジルアミン型エポキシ、エポキシ基含有エステル化合物、エポキシ基含有エーテル化合物、エポキシ基含有アミド化合物などが挙げられる。特にグリシジル基含有エステル化合物が好ましい。このようなエポキシ樹脂の含有量は、樹脂組成物に対して、0.01〜5重量%であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましく、0.3〜1.5重量%であることが更に好ましい。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムは耐衝撃性や柔軟性が要求される分野向けには、熱可塑性ポリエステルエラストマーや熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリエステルアミドエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーや、少量の柔軟なフッ素樹脂を含んでいることも好ましい。このうち特にポリオレフィンエラストマーを含む場合、耐衝撃性や柔軟性に加え、離型性を高めることも可能となる。ここでエラストマーとしてはガラス転移温度が20℃以下であることが好ましい。
【0022】
ポリオレフィンエラストマーとしてはエチレンコポリマー(a1)と、反応性官能基を有さないエラストマー(a2)とを配合した樹脂組成物などが挙げられ、これらの配合比率は(a1)/(a2)が1/19〜19/1であることが好ましく、1/9〜9/1であることがより好ましく、1/5〜2/1であることがより好ましい。このようなエラストマーの含有量としては3〜50重量%であることが好ましく、5〜40重量%がより好ましく、10〜30重量%が特に好ましい。
【0023】
また、滑り性を要求される場合はフッ素系樹脂を含むことが好ましく、フッ素系樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン、エチレン−ポリテトラフルオロエチレンコポリマーなどが挙げられ、含有量としては0.5〜10重量%であることが好ましく、1〜7重量%であることがより好ましく、2〜5重量%であることが特に好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムは、面配向係数が0.03以下である結晶化ポリエステルフィルムとする必要がある。このような面配向係数とすることで熱収縮を小さくすることができるとともに平坦性を維持することが容易になり、結晶化していることで耐熱性や耐薬品性、後加工性が良好となるとともに滑り性が向上して取扱いが容易となる。
面配向係数は0.01以下がより好ましく、0.005以下が更に好ましい。このような面配向係数を達成するためには製造時にフィルムに過度の張力をかけたり、延伸を行なったりしない必要がある。面配向係数の下限は特に無いが、通常−0.01以上となる。
【0025】
なお、本明細書においては、ポリトリメチレンテレフタレートが「結晶化している」という用語は、ポリトリメチレンテレフタレートについて入力補償型示差熱量計(Differential Scanning Calorimeter;以下「DSC」と略す)にて昇温しながら熱分析を行った際に、0〜180℃の間に観察される結晶化由来の発熱量が0〜30J/gであることを意味する用語として用いる。なお、この発熱量はDSCによる熱分析で、0〜180℃の間に観察される発熱ピークの面積を熱量に換算することによって得られる。
すなわち、ポリトリメチレンテレフタレートが結晶化しているか否かは、DSCにて昇温しながら熱分析を行った際に、0〜180℃の間に観察される結晶化由来の発熱量を指標として判断され、0〜180℃の間に観察される発熱ピークの面積を熱量に換算し、その熱量が0〜30J/gであれば本件発明における結晶化したポリトリメチレンテレフタレートであるとする。
ここでDSCによる熱分析は、フィルムを0℃で3分間保持した後、10℃/minの設定昇温速度にて0℃から260℃まで昇温して行い、ピーク面積はPTTの重量に対する熱量として計算した。観察される発熱ピークの面積が小さいということは結晶化する余地がないこと、すなわち、結晶化度が高いことを示している。
発熱ピーク面積から換算される発熱量は0〜30J/gであることが必要であり、0〜20J/gであることが好ましく、0〜10J/gであることがより好ましく、0〜5J/gであることが更に好ましく、観察されないことが最も好ましい。
【0026】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、DSCを用いてフィルムを溶融状態から降温させた時の結晶化温度が170〜190℃であることが、フィルムの生産性及び熱収縮率を抑制する観点から好ましく、175〜185℃であることが更に好ましい。結晶化温度はDSCを用いて、室温から270℃まで20℃/分の設定昇温速度にて昇温し、270℃で3分保持した後、20℃/分で0℃まで降温させた際に現れる発熱ピーク温度を指標として求めることができる。
【0027】
このようなPTTの結晶化は、フィルムを製造する際の条件を適切に調整することで達成できるが、樹脂組成物中に結晶造核剤を含むことで更に容易に達成することができるようになる。
結晶造核剤としてはタルクやアルカリ金属無機塩等が挙げられる。金属無機塩の具体的な例としてはモンタン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸2水素ナトリウムが挙げられる。これらの含有量としてはPTTに対して0.001〜1重量%であることが好ましく、0.1〜0.5重量%であることがより好ましい。
この他の結晶造核剤としてはアイオノマー樹脂も好ましい。アイオノマー樹脂とは、α−オレフィンと、炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸とを主たる構成成分とするコポリマーを、1〜3価の金属イオンで中和したものである。アイオノマー樹脂の含有量としては、0.1〜15重量%であることが好ましく、0.3〜5重量%であることがより好ましい。
【0028】
また、PTT以外のポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなども結晶造核剤としての効果を発揮する。これらの含有量としては1〜30重量%であることが好ましく、2〜25重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることが更に好ましい。
さらに、エポキシ価が0.1〜10meq/gのエポキシ基を含有するスチレン共重合体も、結晶造核剤として好ましい。ここでスチレン共重合体は、エポキシ基を有するビニル単量体とスチレンとを共重合させて得られる。エポキシ基を有するビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸グリシジルである。これらの含有量としては、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.1〜5重量%であることがより好ましく、0.3〜3重量%であることが更に好ましい。
【0029】
本発明のフィルムは、180°に折り曲げてもシートの割れが発生しないようにすることが望ましい。このような特性は、PTTの重合度、面配向係数、結晶化度を上記した範囲内で適切に調整することで達成することができる。類似のPETでは延伸を行なわないで脆く無いフィルムを得ることは困難であり、PBTでは平坦なフィルムを得ることが困難であり、PTTを主成分とすることによって初めて達成できる特性である。
【0030】
本発明のフィルムの厚みは、用いられる用途や要求される性能によって適宜選択することができる。一般的にはフィルムの厚みは1〜2000μmであることが好ましい。このような範囲とすることでフィルムを製造することが容易になるとともに、強度・剛性が高まって取扱い性や後加工性が良好になる。厚みは5〜1000μmであることがより好ましく、10〜500μmであることが更に好ましい。厚みムラは±10%以内であることが好ましく、±7%以内であることがより好ましく、±5%以内であることが更に好ましい。
【0031】
また、本発明のフィルムは縦方向(MD)及び横方向(TD)いずれも150℃における熱収縮率が−1〜1%であることが、耐熱性及び後加工性の観点から好ましい。なお、縦方向(MD)とはフィルム製造時の引き取り方向を示し、横方向(TD)とはその直交方向を示す。熱収縮率は、−0.7〜0.7%であることがより好ましく、−0.5〜0.5%であることが更に好ましく、−0.3〜0.3%であることが特に好ましい。もちろん縦や横以外の方向も、このような収縮率であることが好ましく、本発明では延伸したフィルムを後処理して熱収縮率を下げていないので、縦横以外の収縮率を下げることも容易である。
【0032】
次に本発明のポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
本発明に用いる樹脂組成物は、従来公知の方法により得ることができる。例えば、PTTはテレフタル酸ジメチルとトリメチレングリコール、及び必要に応じて他の共重合成分を原料とし、チタンテトラブトキシドを触媒として常法によって、常圧、180〜260℃の温度でエステル交換反応を行った後、減圧下、220〜270℃にて重縮合反応を行うことにより得ることができる。
【0033】
フィルムを製造する上で必要な各種添加物は、重合時に添加する方法、重合後に溶融混練などをして添加する方法、或いは、これらを組み合わせる方法などによって添加することができ、添加物の種類や量、要求される性能等により適宜選択することができる。溶融混練して各種の添加剤を添加する場合は、重合して得たPTT組成物を冷却固化した後、或いは、溶融状態のまま一軸、あるいは二軸の押出機等に各種添加剤とともに投入して行う。押出機としては、一軸あるいは二軸押出機、及び、これらを2台以上直列につないだタンデム押出機等が挙げられるが、混練性能の高い二軸押出機が最も好ましい。押出機のスクリューは、適用する樹脂組成物の性質に応じて最適なものを用いることが好ましい。押出機は未溶融物が残らず、且つ、組成物の熱分解が抑制できる温度に設定することが望ましく、おおよそ組成物の融点+0〜30℃とすることが好ましい。
【0034】
本発明のフィルムの製造方法としては、PTTを含んだ樹脂組成物を溶融状態にて口金より押出して成形する溶融成形法、樹脂組成物を溶媒に溶解した状態にて口金より押出して成形する溶液キャスト法などが挙げられるが、これらのうち、生産性、環境適性に優れる溶融成形法が好ましい。
溶融成形法としてはTダイやIダイなどより押出した溶融樹脂をロールやベルトにキャストして冷却固化させる溶融キャスト法や、水冷式及び空冷式のインフレーション法が好ましい。
溶融成形法において、樹脂組成物は押出機を用いて供給部に供給され、スクリューの回転により溶融され、押出機から送り出されて加熱された流路を通してスリット等の口金より押出される。
【0035】
PTTを含む樹脂組成物を押出す際の口金温度は、組成物の熱分解を抑制するために、溶融物が固化しない範囲で低く設定することが望ましく、具体的には樹脂組成物の融点+0〜50℃、好ましくは融点+0〜30℃の範囲でできるだけ低く設定することが好ましい。
本発明では、必要に応じて押出機と口金の間にフィルターを設置して異物等を除去したり、また、定量供給性を上げるためにギアポンプなどを設けたり、注入物質の分散性を向上させるために静止型ミキサーを設置したり、温度を一定にするために熱交換ユニットを設置する場合も含む。これらの機器を設置する場合も樹脂の未溶融物が残らず、且つ、組成物の熱分解が抑制できる温度に設定することが望ましく、おおよそ樹脂組成物の融点+0〜50℃に設定することが好ましい。
【0036】
本発明のフィルムは含まれるPTTが結晶化している必要があるが、このためには、溶融成形において溶融樹脂を口金より押出して冷却する際に、結晶化が進行するようにゆっくりと冷却固化させるか、あるいは、急冷して非晶状態とした後、PTTが結晶化するように60〜180℃にて加熱処理することが望ましい。
インフレーション法にてゆっくりと冷却固化させて結晶化させるためには、上吹き式、下吹き式ともに、ダイを出た後、樹脂の温度が、結晶化が進行しやすい80〜180℃の間にある時間を適切に調整することが望ましい。この際の時間は樹脂組成物組成や厚みによって調整する必要があるが、3秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、20秒以上が更に好ましい。上限は特にないが、設備の大きさより考慮すると5分以内とすることが好ましい。
【0037】
一方、溶融キャスト法では、ダイより押出された溶融樹脂組成物は、ダイ直下、あるいはダイの側方に設置されたロールやベルトなどの支持体にキャストして冷却固化された後に巻き取られる。この際、ダイと支持体の距離を1〜300mm程度として固化する前にキャストすることが好ましい。こうすることにより、分子鎖の歪を少なくして熱収縮率を低くすることが容易になる。
【0038】
支持体の温度は、該支持体の上で結晶化させる場合は60〜180℃に設定することが好ましく、80〜150℃がより好ましく、100〜130℃が更に好ましい。この際のロール上での時間は樹脂組成物組成や厚みによって調整する必要があるが、1秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましく、5秒以上が更に好ましい。
また、支持体上では非晶の状態で冷却固化させ、後に熱処理して加熱結晶化させることもできる。熱処理は加熱ロールや熱風、赤外線ヒーターなどで行なうことができる。この場合の温度は、支持体を好ましくは−20〜55℃、より好ましくは0〜40℃、更に好ましくは5〜30℃に設定し、熱処理設備を好ましくは60〜180℃、より好ましくは80〜150℃、更に好ましくは100〜130℃に設定するのが良い。時間は樹脂組成物組成や厚みによって調整する必要があるが、支持体上では1秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましく、5秒以上が更に好ましく、熱処理は3秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましく、7秒以上が更に好ましい。これらの時間に特に上限はないが、支持体や熱処理設備の大きさ、スペース等を考慮して適宜決めることが好ましい。
【0039】
また、厚手のフィルム、特に300μm以上の厚みのフィルムを製造する場合は、2対のロールやベルトに挟んでフィルムの両面にロールやベルトの表面を転写させながら冷却固化・結晶化することが好ましい。厚手のフィルムの場合は、こうすることにより表面が平滑で平坦なフィルムを得ることが容易となる。この際のロールやベルトの温度は上記支持体の温度と同じ範囲が好ましい。また、この際、本発明では、2対のロールやベルトを通す前側に溶融樹脂を貯めて成形する、いわゆる「バンク成形」とする場合も含む。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例に基づいて説明する。
なお、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した
(1)PTT含有率、BPE含有率
PTT含有率(重量%)は、塗料又は塗膜100mgをHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール):CDCl=1:1に溶解させ、不溶成分をMEMBRANE FILTER(1μm、PTFE)で濾過した後の溶液を用いて、1H−NMR測定により求めた。測定機はFT−NMR DPX−400(Bruker社製)を用いた。また、濾過して取り除いた不溶成分は乾燥後に重量測定を行い、PTT含有率を求める際に用いた。
【0041】
(2)固有粘度[η]
固有粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o−クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ミリリットル)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式(1)に従って求めた。
【0042】
【数1】

【0043】
なお、添加剤を含んだ樹脂組成物の場合は、o−クロロフェノールに溶解した成分全てを含んだ溶液の比粘度と、溶解した成分全ての濃度を求めてPTTの固有粘度を計算した。
【0044】
(3)カルボキシル末端基濃度
樹脂組成物1gをベンジルアルコール25mlに溶解し、その後、クロロホルム25mlを加えた後、1/50Nの水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定を行い、滴定値V(ml)とPTT組成物が無い場合のブランク値V(ml)より、以下の式(2)に従って求めた。
カルボキシル末端基濃度(eq/トン)=(V−V)×20 ・・・(2)
なお、積層フィルムや添加剤を含んだ樹脂組成物の場合は、ベンジルアルコールに溶解した成分全てを対象にして上記滴定を行い、溶解分の重量を用いて算出した濃度を用いた。
【0045】
(4)結晶化由来の発熱ピーク
結晶化由来発熱ピークの有無、及び、発熱ピーク面積は、シート又は成形体を、DSCにより0℃で3分間保持した後、10℃/minの設定昇温速度にて0℃から260℃まで昇温して熱分析を行って観察した。
【0046】
(5)面配向係数
アッベの屈折計の接眼側に偏光板アナライザーを取り付け、マウント液にヨウ化メチレンを用い、測定温度25℃にて単色光NaD線でフィルムの縦方向屈折率(nTD)、横方向屈折率(nMD)、及び、厚み方向屈折率(nZ)を測定し、下記式(3)により面配向係数(nS)を求めた
nS={(nTD+nMD)/2}−nZ ・・・(3)
(6)熱収縮
JIS K7133に準拠して、フィルムを150℃、30分間、張力をかけずに熱処理した際の寸法変化を測定して熱収縮率を求めた。
【0047】
(7)平坦性
幅300mm、長さ1000mmのフィルムを切り出し、目視にて、以下の基準にて評価した。
○ : 全体が平坦
△ : わずかに波打ちやカールが見られる
× : 波打ちやカールが見られる
【0048】
(8)打抜性
フィルムに金属製の抜き型を用いて10mmφの穴あけ加工を行い、目視にて、以下の基準にて評価した。
○ : 加工ミス、バリの発生なく加工できた
△ : まれに加工ミスやバリの発生がみられる
× : 頻繁に加工ミスやバリの発生が見られる
(9)折り曲げ性
幅35mm、長さ100mmのフィルムを切り出し、180°に曲げた際に破損するかを目視にて評価した。
【0049】
[実施例1]
固有粘度[η]が1.0dl/g、カルボキシル末端基濃度が10eq/トン、BPE含有率が0.5重量%のPTT99.4重量%に対して、燐酸三ナトリウム0.1重量%、デナコールEX711(長瀬産業(株)製)0.5重量%を含んだ樹脂組成物を、240℃に設定した50mmφの単軸押出機に供給して溶融した後、押出機と同じ温度に加熱した流路を通じて、口金として幅800mm、間隔が0.5mmのTダイより押出した。
Tダイより押出した溶融物は20mm離れた金属製の回転ロール上にキャストして冷却固化と結晶化をさせた後、両端のミミ部をカットした後に巻取ってフィルムを得た。この際、押出量は20kg/h、回転ロールは120℃に設定し、樹脂組成物のロール接触時間は20秒であった。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しない高品位のフィルムであった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]は0.95dl/g、カルボキシル末端基濃度が15eq/トン、BPE含有率が0.5重量%、結晶化熱量は0J/g、面配向係数は0.002、熱収縮率はMD、TD方向共に0.2%と良好であった。
得られたフィルムを50mm幅にスリットし、中央に20mmφの穴をあける加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0050】
[実施例2、3]
表1に示した様に、燐酸三ナトリウムの代わりに実施例2ではポリブチレンテレフタレート(ウィンテック(株)製 2002)を20重量%、実施例3ではエチレンメタクリル酸アイオノマー 金属イオン成分Na(三井デュポンポリケミカル(株)製 ハイミラン 1707)を1重量%添加し、該添加剤量に応じたPTT割合とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。また、得られたフィルムに含まれるPTTは表1に示した特性を示し、いずれのフィルムも結晶化熱量が0J/g、面配向係数が0.002、熱収縮率はMD、TD方向共に0.2%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0051】
[実施例4]
エラストマー成分としてエチレンアクリル酸グリシジルメタクリレートコポリマー(アルケマ(株)製 LOTADER AX8900)5重量%とエチレンアクリル酸エステルコポリマー(アルケマ(株)製 LOTRYL 35BA40)10重量%の併せて15重量%を添加し、該添加量に応じたPTT割合とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。また、得られたフィルムに含まれるPTTは表1に示した特性を示し、いずれのフィルムも結晶化熱量が0J/g、面配向係数が0.002、熱収縮率はMD、TD方向共に0.2%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0052】
[実施例5]
固有粘度[η]が1.3dl/g、カルボキシル末端基濃度が5eq/トン、BPE含有率が0.5重量%のPTTを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。また、得られたフィルムに含まれるPTTは表1に示した特性を示し、いずれのフィルムも結晶化熱量が0J/g、面配向係数が0.003、熱収縮率はMD、TD方向それぞれ0.3%、0.2%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0053】
[実施例6]
燐酸三ナトリウムとデナコールEX711を添加しない樹脂組成物を用い、押出量を5kg/hとするとともにロール回転速度も下げて、樹脂組成物のロール接触時間を80秒とした以外は実施例5と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。また、得られたフィルムに含まれるPTTは表1に示した特性を示し、いずれのフィルムも結晶化熱量が0J/g、面配向係数が0.003、熱収縮率はMD、TD方向それぞれ0.3%、0.2%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0054】
[実施例7〜9]
吐出量とキャストロールの回転速度を調整して表1に示した厚さとした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。なお、キャストロール上での時間は厚みに応じて変化し、実施例7では8秒、実施例8では7秒、実施例9では32秒であった。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは表1に示した厚みで、いずれも幅600mm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しない高品位のフィルムであった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]、カルボキシル末端基濃度、BPE含有率は表1に示したものであり、いずれも結晶化熱量は0J/gと良好であった。面配向係数、熱収縮率は薄くなると若干大きくなるものの表1に示すように良好な値を示した。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0055】
[実施例10]
Tダイよりキャストした溶融物を、120℃に設定した2対の金属製ロール間を通した後、一方の金属製ロールに沿わせて冷却固化・結晶化させた以外は、実施例1と同様にして厚手のフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが1000μm、厚みムラ±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げても割れが発生しない高品位のフィルムであった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]、カルボキシル末端基濃度、BPE含有率は表1に示したものであり、結晶化熱量は0J/g、面配向係数は0.002、熱収縮率はMD、TD方向共に0.1%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0056】
[実施例11]
表1に示したようにキャストロールの温度を90℃にした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]は0.95dl/g、カルボキシル末端基濃度が15eq/トン、BPE含有率が0.5重量%、結晶化熱量は5J/g、面配向係数は0.002、熱収縮率はMD、TD方向共に0.5%と多少高いものの良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0057】
[実施例12]
キャストロールの温度を15℃として非晶フィルムを得た後、120℃に設定した熱処理ロールに15秒接触させて結晶化させた以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]は0.95dl/g、カルボキシル末端基濃度が15eq/トン、BPE含有率が0.5重量%、結晶化熱量は0J/g、面配向係数は0.002、熱収縮率はMD、TD方向共に0.3%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0058】
[実施例13]
50mmφ単軸押出機を用いる上吹きの空冷式インフレーション法を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
製膜では樹脂組成物を、直径250mm、間隔が0.5mmの上向きの丸ダイより押出し、室温の冷風を当てながら冷却固化してチューブ状に成形した。その後、2枚にスリットして700mm幅のフィルムを得た。この際、樹脂の押出量を20kg/hrとし、厚みが50μmとなるようにフィルムの巻き取り速度を調整した。押出した樹脂組成物が180〜80℃の間にある時間は30秒間であった。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは厚みムラが±10%以内であり、多少湾曲しているものの実用上は問題無く、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しないフィルムであった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]は0.95dl/g、カルボキシル末端基濃度が15eq/トン、BPE含有率が0.5重量%、結晶化熱量は0J/g、面配向係数は0.002、熱収縮率はMD、TD方向それぞれ0.4%、0.2%と良好であった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0059】
[実施例14]
50mmφ単軸押出機を用いる下吹きの水冷式インフレーション法を用いた以外は実施例13と同様にしてフィルムを得た。
製膜では樹脂組成物を、直径200mm、間隔が0.5mmの下向き丸ダイより押出し、室温の冷風を当てた後、室温の流水と接触させて冷却固化してチューブ状に成形した後、2枚にスリットして500mm幅のフィルムを得た。この際、樹脂の押出量を20kg/hrとし、厚みが100μmとなるようにフィルムの巻き取り速度を調整した。押出した樹脂組成物が180〜80℃の間にある時間は15秒間であった。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは厚みムラが±10%以内であり、多少湾曲しているものの実用上は問題無く、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しないフィルムであった。また、得られたフィルムに含まれるPTTの極限粘度[η]は0.95dl/g、カルボキシル末端基濃度が15eq/トン、BPE含有率が0.5重量%、結晶化熱量は15J/g、面配向係数は0.005、熱収縮率はMD、TD方向それぞれ0.8、0.3%と高めではあったが、本発明の範囲内の良好なフィルムであった。
実施例1と同様にしてスリット加工と穴あけ加工を行なったが、カットミスやバリが発生せず良好な加工性を示した。
【0060】
[比較例1]
キャストロールの温度を15℃とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは厚みムラ、平坦性等には優れるものの、結晶化熱量は40J/gとほとんど結晶化していなかった。150℃にて熱収縮率を測定しようとしたところ、フィルムは大きく変形して波打ってしまった。
【0061】
[比較例2]
比較例1で得た非晶フィルムを、バッチ式の同時二軸延伸機を用いて60℃に設定して縦方向と横方向にそれぞれ2.4倍延伸した後、定長にて150℃にて熱処理を行い、延伸フィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは結晶化熱量が0J/gと結晶化しており、厚みムラ、平坦性等には優れていた。しかしながら、面配向係数が0.02、熱収縮率もMD、TD方向、それぞれ1.5、1.3%と大きかった。
【0062】
[比較例3]
PTTを含んだ樹脂組成物の代わりに、ポリブチレンテレフタレート(ウィンテック(株)製 2002)を用い、20℃に設定した熱処理ロールに15秒間接触させて結晶化させてフィルムを得た。
フィルムの製造条件及び評価結果を表1に示す。得られたフィルムは幅600mm、厚みが125μm、厚みムラが±5%以内であり、平坦性に優れ、180°に折り曲げてもフィルムの割れは発生しなかった。しかし、結晶化熱量は0J/gと結晶化は進行しているものの、熱収縮率はMD、TD方向、それぞれ0.9、0.2%と大きかった。
【0063】
[比較例4]
PET(ユニチカ(株)社製、NEH2050)を用い、結晶造核剤として実施例4と同様にアイオノマーを用い、ロール温度を150℃とした以外は実施例6と同様にしてフィルムを得ようとした。
しかしながら、ロール上で結晶化させたフィルムは非常に脆く、キャストロールに続くミミ部をカットするところで破損してしまい、連続してフィルムを得ることができなかった。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリエステルフィルムは、優れた耐熱性、特に寸法安定性と耐薬品性、電気特性、表面特性、及び、スリットや打抜き、曲げなどの加工性を兼ね備えているので各種電気電子部品の構造材用やこれらを製造する際の副資材用、包装用などの幅広い用途使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレートを50〜100重量%含む樹脂組成物からなり、面配向係数が0.03以下である結晶化ポリエステルフィルム。
【請求項2】
破損せずに180°に折り曲げることができることを特徴とする請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
厚みが1〜2000μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムを150℃で30分間熱処理した際の、フィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)における熱収縮率が−1〜1%であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
樹脂組成物中に結晶造核剤を含むことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
樹脂組成物中にエラストマーを含むことを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
ポリトリメチレンテレフタレートを50〜100重量%含む樹脂組成物をフィルム状に成形し、次いで、入力補償型示差熱量計にて昇温しながら熱分析を行った際に、0〜180℃の間に観察される結晶化由来の発熱量が0〜30J/gとなるように結晶化させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造法。
【請求項8】
成形方法が溶融キャスト法であることを特徴とする請求項7に記載のポリエステルフィルムの製造法。
【請求項9】
成形方法がインフレーション法であることを特徴とする請求項7に記載のポリエステルフィルムの製造法。

【公開番号】特開2007−177135(P2007−177135A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378773(P2005−378773)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】