説明

ポリエステルポリオール及びその製造方法

【課題】開始剤としてジヒドロキシカルボン酸(例えば、ジメチロールプロピオン酸などのジメチロールアルカン酸)を使用しても、遊離又は未反応のジヒドロキシカルボン酸の含有量を低減できるポリエステルポリオールを提供する。
【解決手段】塩基性化合物(アミン類など)の存在下で、ジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類(ε−カプロラクトンなどのラクトン類など)を開環付加重合させる。このような方法により得られるポリエステルポリオールでは、ポリエステルポリオールを構成するカルボキシル基の少なくとも一部と塩基性化合物とが塩を形成しており、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量を著しく低減(例えば、ポリエステルポリオール全体の5重量%以下に低減)できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系樹脂(特に水性ポリウレタン系樹脂)製造用ポリオール成分などとして有用なカルボキシル基を有するポリエステルポリオール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリウレタン系樹脂のうち、水性ポリウレタン系樹脂は、柔軟性、機械的物性、接着性などに優れているため、塗料、バインダー、接着剤などに利用されており、最近では、有機溶媒の大気放出を制限しようとする環境改善の動きから、ますますその開発、利用が進められている。
【0003】
このような水性ポリウレタン系樹脂を得るため、ポリウレタン系樹脂の分子鎖中に親水基を導入して、ポリウレタン系樹脂を水性化する試みが多くなされている。中でも、ポリウレタン系樹脂の分子鎖(ポリウレタン鎖)にカルボン酸塩基(塩基性物質により中和されたカルボキシル基)が導入されたアニオン型のポリウレタン系樹脂は、耐水性に優れているため、盛んに検討されている。このようなアニオン型ポリウレタン系樹脂を製造する方法として、例えば、特公昭61−5485号公報(特許文献1)、特公平3−48955号公報(特許文献2)、特公平4−488号公報(特許文献3)などには、ポリイソシアネート系化合物と、ポリオール系化合物と、2,2−ジメチロールプロピオン酸などのカルボキシル基含有ジオールとを反応させて、末端にイソシアネート基(NCO基)を有するウレタンプレポリマー(NCO基末端ウレタンプレポリマー)を得て、得られたNCO基末端ウレタンプレポリマーを、分子中のカルボキシル基を塩基性物質で中和して、水に分散又は溶解させた後、さらに、ポリアミン系化合物で鎖延長する方法が開示されている。
【0004】
しかし、これらの文献に記載の方法において、ウレタンプレポリマーを得る際に、カルボキシル基含有ジオールとして用いられている2,2−ジメチロールプロピオン酸は、ポリイソシアネート系化合物やポリオール系化合物の他、通常用いられている低沸点有機溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)に対する溶解性が乏しく、無溶媒または低沸点有機溶媒中で反応させると、反応系が不均一となりゲル状物を生成しやすい。このため、プレポリマー化反応を均一系で行なうためには、2,2−ジメチロールプロピオン酸などを十分に溶解できる溶媒として、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの高沸点の有機溶媒を実質的に使用する必要があった。そして、このような高沸点の有機溶媒は、ポリウレタン系樹脂を水性化したのち反応系中から除去することが困難であるため、最終的に水性ポリウレタン系樹脂(組成物)の液中に残留し、得られる水性ポリウレタン系樹脂組成物を塗布する際に、塗膜の乾燥性や作業環境を低下させる。
【0005】
そこで、ポリオールとカルボキシル基含有ジオール(例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸などのジメチロールアルカン酸)とを反応させて、予めカルボキシル基を導入するポリオールを得る試みもなされている。このようなカルボキシル基が導入されたポリオール化合物として、例えば、特開平6−313024号公報(特許文献4)には、(A)ジヒドロキシカルボン酸(2,2−ジメチロールプロピオン酸など)を開始剤としてラクトン類(ε−カプロラクトンなど)を開環付加重合させて得たラクトン系ポリエステルポリオール、(B)有機ジイソシアネート、(C)鎖延長剤とからなるカルボキシル基濃度が酸価10以上のポリウレタン樹脂のアンモニア、無機塩基類またはアミン類のいずれかによる中和物からなる水系ポリウレタン樹脂が開示されている。また、特開平8−27243号公報(特許文献5)には、分子鎖中に塩基性物質で中和されたカルボキシル基を含有する水性ポリウレタン樹脂において、ジメチロールアルカン酸(ジメチロールプロピオン酸など)へのε−カプロラクトンの開環重合で得られる数平均分子量250〜5000のカルボキシル基含有ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させることにより得られる水性ポリウレタン樹脂が開示されている。さらに、特開2004−91740号公報(特許文献6)には、式(1):HOCHC(COOH)RCHOH(1)(式中Rは、C以上のアルキル基である。)で表される化合物(ジメチロールブタン酸など)へのε−カプロラクトンの開環重合で得られる数平均分子量550〜950の常温液状のカルボキシル基含有ポリエステルポリオールが開示されている。
【0006】
しかし、これらの文献に記載のカルボキシル基含有ポリエステルポリオール中には、ラクトン類(ε-カプロラクトンなど)又はその開環物が付加していないカルボキシル基含有ジオール(ジメチロールアルカン酸など)(すなわち、未反応又は遊離のカルボキシル基含有ジオール)が多く残留している。このようなカルボキシル基含有ジオール(特にジメチロールアルカン酸などのジヒドロキシカルボン酸)は、通常、溶解性に乏しく、ポリエステルポリオール中で、単独で結晶化しやすい。このため、ポリウレタン系樹脂を製造する際に用いるポリエステルポリオール中には、結晶化により相分離した状態のカルボキシル基含有ジオールを含んでいるのが実状であった。
【0007】
このようなカルボキシル基含有ポリエステルポリオールを工業的な使用に適応させるためには、相分離したカルボキシル基含有ジオール(特にジメチロールアルカン酸)を溶解させる必要性がある。カルボキシル基含有ジオールを溶解させる方法としては、例えば、前記のように、高沸点の溶媒を添加する方法、加熱する方法などが挙げられるが、いずれの方法もプロセスを煩雑化させ、工業的に著しく不利である。すなわち、前者の方法では、前記と同様に、水性ポリウレタン系樹脂を形成した際に塗膜の乾燥性や作業性を著しく低下させ、後者の方法では、カルボキシル基含有ジオールを溶解させるために高温で再度加熱する必要があり、工業的なロスが大きい。特に、ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2-ジメチロールプロピオン酸は、高い融点を有するため、溶解にはより一層工業的に不利となる。また、2,2-ジメチロールブタン酸などを用いた場合には、重合直後においては、常温で液状のカルボキシル基含有ポリエステルポリオールが得られるが、長期間に亘って、貯蔵(特に低温下で貯蔵)すると、2,2-ジメチロールプロピオン酸の場合と同様に、依然として、2,2-ジメチロールブタン酸などが結晶化して相分離が生じる。
【0008】
このため、遊離のカルボキシル基含有ジオールの含有量が低減されたカルボキシル基含有ポリエステルポリオールが求められていた。
【特許文献1】特公昭61−5485号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特公平3−48955号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特公平4−488号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献4】特開平6−313024号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平8−27243号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2004−91740号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤としても、遊離(又は未反応)のジヒドロキシカルボン酸の含有量が少ないカルボキシル基含有ポリエステルポリオールおよびその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤としても、均一性および溶解性に優れるカルボキシル基含有ポリエステルポリオールおよびその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量が低減されているとともに、カルボキシル基濃度を所望の濃度に調整でき、ハンドリング性に優れたカルボキシル基含有ポリエステルポリオールおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、均一性および安定性に優れ、塗布時の乾燥性や作業環境性を向上できるカルボキシル基含有ポリエステルポリオールおよびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、高沸点の溶媒や再加熱を要することなく、均一系でポリイソシアネート類とのウレタン化反応を工業的に有利に行うことができるカルボキシル基含有ポリエステルポリオールおよびその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量を効率よく低減できるカルボキシル基含有ポリエステルポリオールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、開始剤としてのジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類(特に、カプロラクトンなどのラクトン類)が開環付加重合したカルボキシル基含有ポリエステルポリオールにおいて、前記ジヒドロキシカルボン酸を構成するカルボキシル基の少なくとも一部を塩基性化合物により中和(特に、第3級アミン類などの塩基性化合物により少なくとも一部が中和したジヒドロキシカルボン酸を開始剤として環状エステル類を開環付加重合)すると、中和しない場合に比べて、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量を著しく低減して、均一性および水性溶媒に対する溶解性に優れたカルボキシル基含有ポリエステルポリオールが得られること、さらにはこのカルボキシル基含有ポリエステルポリオールをポリオール成分としてウレタン化反応を行うと、塗布時の乾燥性や作業環境性が優れており、均一性が高く安定性が良好なウレタンプレポリマー(ポリウレタン系樹脂)が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明のポリエステルポリオールは、開始剤としてのジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類が開環付加重合したポリエステルポリオールであって、ポリエステルポリオールを構成するカルボキシル基の少なくとも一部と塩基性化合物とが塩を形成している。
【0017】
前記ジヒドロキシカルボン酸は、ジヒドロキシアルカン酸(例えば、ジメチロールアルカン酸)で構成されていてもよい。また、前記環状エステル類は、ラクトン類[例えば、カプロラクトン類(例えば、ε−カプロラクトン、メチル−ε−カプロラクトンなど)などC4−10ラクトン類などで構成されていてもよい。前記塩基性化合物は、アミン類で構成されていてもよく、特に、第3級アミン類で構成されていてもよい。
【0018】
本発明のポリエステルポリオールの数平均分子量は、例えば、250〜10000程度であってもよい。
【0019】
本発明のポリエステルポリオールでは、開始剤としてジヒドロキシカルボン酸を用いるにもかかわらず、遊離又は未反応のジヒドロキシカルボン酸の含有量が低減されており、例えば、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有割合が、ポリエステルポリオール全体に対して5重量%以下であってもよい。
【0020】
代表的な本発明のポリエステルポリオールには、(i)ジヒドロキシカルボン酸が2,2−ジメチロールC3−6モノアルカンカルボン酸であり、(ii)環状エステル類がC4−10ラクトン類であり、(iii)塩基性化合物が、第3級アルキルアミン類、第3級シクロアルキルアミン類、および第3級アルカノールアミン類から選択された少なくとも1種であり、(iv)数平均分子量が300〜5000であり、かつ(v)遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有割合が3重量%以下であるポリエステルポリオールなどが含まれる。
【0021】
本発明のポリエステルポリオールは、種々のポリマーの重合成分としてのポリオール成分として利用でき、特に、ポリウレタン系樹脂のポリオール成分として用いることができる。
【0022】
本発明のポリエステルポリオールは、通常、塩基性化合物の存在下で、ジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類を開環付加重合させることにより製造できる。特に、この製造方法では、ジヒドロキシカルボン酸と塩基性化合物との塩に、環状エステル類を開環付加重合させてもよい。このような方法で開環付加重合することにより、未反応となってポリエステルポリオール中に残存する遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量を高いレベルで低減できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリエステルポリオール(カルボキシル基含有ポリエステルポリオール)は、開始剤としてのジヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基の少なくとも一部が塩基性化合物により中和されているため、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤としても、遊離(又は未反応)のジヒドロキシカルボン酸の含有量が少ない。そのため、本発明のポリエステルポリオールは、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤としても、遊離のジヒドロキシカルボン酸による相分離などを生じることがなく、均一性および溶解性に優れている。
【0024】
また、本発明のポリエステルポリオールは、前記のように遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量が低減されており、均一性に優れているため、ポリエステルポリオールから濾過などの方法によりジヒドロキシカルボン酸を除去する必要がなく、調製段階においてポリエステルポリオール中のカルボキシル基濃度を効率よく調整できる。このため、本発明では、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量が低減されているとともに、カルボキシル基濃度を所望の濃度に調整でき、ハンドリング性に優れている。
【0025】
さらに、本発明のポリエステルポリオールは、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤とするにもかかわらず、均一であるため、ポリウレタン系樹脂などにおけるポリオール成分として使用する際に、高沸点の溶媒を添加したり、高温で加熱するなどにより遊離のジヒドロキシカルボン酸を溶解させる工程を必要としない。そのため、本発明のポリエステルポリオールは、均一性および安定性に優れ、塗布時の乾燥性や作業環境性を向上できる。また、本発明のポリエステルポリオールは、高沸点の溶媒や再加熱を要することなく、均一系でポリイソシアネート類とのウレタン化反応を工業的に有利に行うことができる。
【0026】
さらにまた、本発明では、塩基性化合物の存在下で、ジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類を開環付加重合することにより、ジヒドロキシカルボン酸の開始剤効率を向上できるため、生成するポリエステルポリオールにおいて、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量を効率よく低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[ポリエステルポリオール]
本発明のポリエステルポリオール(カルボキシル基含有ポリエステルポリオール、カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオール)は、開始剤としてのジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類が開環付加重合したポリエステルポリオールであって、ポリエステルポリオールを構成するカルボキシル基の少なくとも一部と塩基性化合物とが塩を形成している。すなわち、本発明のポリエステルポリオールでは、ジヒドロキシカルボン酸を構成するカルボキシル基の少なくとも一部が中和されている。なお、本明細書において、「ポリエステルポリオール」とは、ジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類が付加したポリエステルポリオールだけでなく、遊離のジヒドロキシカルボン酸および塩基性化合物などを含む組成物(ポリエステルポリオール組成物、開環付加重合生成物)の意味に用いる場合がある。
【0028】
(ジヒドロキシカルボン酸)
カルボキシル基含有ポリエステルポリオールを製造する際に用いられるジヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシル基を2つ有するカルボン酸であれば特に限定されない。特に、ヒドロキシル基は、メチロール基(ヒドロキシメチル基)を構成するヒドロキシル基であってもよい。ヒドロキシル基(特に、メチロール基)は、カルボン酸(アルカン酸など)の炭素原子(カルボキシル基の炭素原子を除く)に結合していればよく、2つのヒドロキシル基(特にメチロール基)は、同一又は異なる炭素原子に結合していてもよいが、同一の炭素原子に結合していることが好ましく、特に、カルボン酸の2位の炭素原子(又はα位の炭素原子)に結合していることが好適である。
【0029】
ジヒドロキシカルボン酸において、対応するカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸などのカルボン酸であってもよく、通常、脂肪族カルボン酸(特に、アルカン酸などの飽和カルボン酸)であってもよい。また、前記カルボン酸は、モノカルボン酸又はポリカルボン酸(例えば、アルカン二酸などのジ乃至テトラカルボン酸など)であってもよく、特にモノカルボン酸(アルカンモノカルボン酸など)であってもよい。
【0030】
代表的なジヒドロキシカルボン酸としては、例えば、ジヒドロキシアルカン酸(例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸(2,2−ジ(ヒドロキシメチル)プロピオン酸)、2,2-ジメチロールブタン酸(2,2−ジ(ヒドロキシメチル)ブタン酸)、2,2-ジメチロールペンタン酸、2,2-ジメチロールヘキサン酸、2,2-ジメチロールヘプタン酸、2,2-ジメチロールオクタン酸、酒石酸、ジヒドロキシアジピン酸などのジヒドロキシC3−20アルカンモノ又はジカルボン酸、好ましくはジヒドロキシC4−14アルカンモノカルボン酸など)などが挙げられる。
【0031】
好ましいジヒドロキシカルボン酸としては、ジメチロールアルカン酸(例えば、ジメチロールC2−10モノ又はジアルカンカルボン酸、好ましくはジメチロールC3−8モノ又ジアルカンカルボン酸など)が挙げられ、特に2,2−ジメチロールモノアルカンカルボン酸(例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などの2,2−ジメチロールC2−10モノアルカンカルボン酸、好ましくは2,2−ジメチロールC2−8モノアルカンカルボン酸、さらに好ましくは2,2−ジメチロールC3−6モノアルカンカルボン酸、特に2,2−ジメチロールC3−4モノアルカンカルボン酸など)が好ましい。
【0032】
本発明では、2,2−ジメチロールアルカン酸のなかでも、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸が好ましく、さらに好ましくは2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸であり、特に2,2−ジメチロールプロピオン酸を好適に用いることができる。
【0033】
ジヒドロキシカルボン酸は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0034】
(環状エステル類)
環状エステル類としては、分子内に少なくとも1つのエステル基(−COO−)を有する環状化合物であれば特に限定されず、例えば、ラクトン類、環状ジエステル類(例えば、グリコリド、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド又はこれらの混合物)などのC4−15環状ジエステル、好ましくはC4−10環状ジエステルなど)などが挙げられる。環状エステル類は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0035】
環状エステル類は、通常、ラクトン類で構成してもよい。ラクトン類(又は環状モノエステル類)としては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウロラクトン、エナントラクトン、ドデカノラクトン、ステアロラクトン、アルキル−ε−カプロラクトン[例えば、モノメチル−ε−カプロラクトン(α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトンなど)、ジメチル−ε−カプロラクトン(β,δ−ジメチル−ε−カプロラクトンなど)、トリメチル−ε−カプロラクトン(3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンなど)などのメチル−ε−カプロラクトンなど]などのC3−20ラクトン(好ましくはC4−15ラクトン、さらに好ましくはC4−10ラクトン)などが挙げられる。ラクトン類は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0036】
特に好ましい環状エステル類(ラクトン類)には、温和な条件下で重合可能であることや、入手が容易で工業的に低コストであるなどの観点から、ε-カプロラクトン類(ε−カプロラクトン、メチル−ε−カプロラクトンなど、特にε−カプロラクトン)が含まれる。
【0037】
(塩基性化合物)
塩基性化合物は、無機塩基性化合物[例えば、金属水酸化物(アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物など)、金属炭酸塩(アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩など)、金属炭酸水素塩(アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸水素塩など)、アンモニアなど]であってもよいが、通常、少なくとも塩基性有機化合物で構成してもよい。
【0038】
塩基性有機化合物としては、カルボン酸塩(例えば、酢酸金属塩などのアルカン酸塩)、アミン類などが挙げられ、アミン類を好ましく用いることができる。
【0039】
アミン類は、モノアミン類であってもよく、ポリアミン類(ジアミン類、トリアミン類など)であってもよい。また、アミン類は、鎖状(又は鎖式)アミン類又は環状(又は環式)アミン類であってもよく、脂肪族アミン類又は芳香族アミン類であってもよい。さらに、アミン類は、窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子など)を分子内に有するアミン類(例えば、ヘテロ環式アミン類)であってもよい。なお、アミン類は、置換基(例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン原子などの官能基)を有していてもよい。アミン類は、第1級アミン類、第2級アミン類、および第3級アミン類のいずれであってもよく、第2級アミン類又は第3級アミン類、特に第3級アミン類が好ましい。また、塩基性有機化合物としては、単独で環状エステルの開環付加重合を開始しない化合物(例えば、第3級アミン類などの活性水素原子を有しない化合物など)を好適に使用してもよい。
【0040】
代表的なアミン類には、アルキルアミン類(例えば、トリメチルアミン、メチルジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリイソオクチルアミン、ジエチルアミンなどのC1−18アルキルアミン、好ましくはC1−10アルキルアミン、さらに好ましくはC1−6アルキルアミン)、シクロアルキルアミン類(例えば、トリシクロヘキシルアミンなどのC4−10シクロアルキルアミン、好ましくはC5−8シクロアルキルアミン)、アリールアミン類(例えば、トリフェニルアミンなどのC6−10アリールアミン、好ましくはC6−8アリールアミン)、ヒドロキシアミン類[例えば、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのヒドロキシC1−18アルキルアミン、好ましくはヒドロキシC1−10アルキルアミン、さらに好ましくはヒドロキシC1−6アルキルアミン]、環式アミン(例えば、N−メチルピペリジン、モルホリンなどのヘテロ環式アミンなど)などが挙げられる。アミン類は単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0041】
これらのアミン類のうち、第3級アルキルアミン類[例えば、トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソオクチルアミンなどのトリC1−10アルキルアミンなど)など]、第3級シクロアルキルアミン類[例えば、トリシクロアルキルアミン(例えば、トリシクロヘキシルアミンなどのトリC5−8シクロアルキルアミンなど)など]、第3級アルカノールアミン類[例えば、ジアルキルモノ(ヒドロキシアルキル)アミン(例えば、ジメチルエタノールアミンなどのジC1−4アルキルモノ(ヒドロキシC2−4アルキル)アミンなど)、アルキルジ(ヒドロキシアルキル)アミン(例えば、メチルジエタノールアミンなどのC1−4アルキルジ(ヒドロキシC2−4アルキル)アミンなど)、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン(例えば、トリエタノールアミンなどのトリ(ヒドロキシC2−4アルキル)アミンなど)など]などの第3級アミン類が好ましい。
【0042】
本発明のポリエステルポリオールの数平均分子量は、例えば、250〜10000、好ましくは300〜5000、さらに好ましくは350〜2000、特に400〜1500程度程度であってもよい。数平均分子量が小さすぎる(例えば、250未満である)と、カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールではなく、ジメチロールアルカン酸のアミン塩が単独で存在している場合が多い。一方、カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールの数平均分子量が大きすぎる(10000を超えている)と、分子鎖中に含有するカルボン酸アミン塩基濃度が小さくなりすぎ(例えば、0.5%以下となり)、ポリウレタン系樹脂の水性化が不十分となる虞がある。
【0043】
なお、本発明のポリエステルポリオールは、通常、室温又は常温(例えば、15〜25℃程度)において、液状であってもよい。
【0044】
また、本発明のポリエステルポリオールの酸価は、例えば、10KOHmg/g以上(例えば、10〜350KOHmg/g程度)、好ましくは20〜300KOHmg/g、さらに好ましくは25〜250KOHmg/g、特に30〜200KOHmg/g、通常35〜100KOHmg/g(例えば、40〜80KOHmg/g)程度であってもよい。
【0045】
本発明のポリエステルポリオールにおいて、カルボキシル基は少なくとも一部が中和されていればよく、塩基性化合物の割合は、ポリエステルポリオールを構成するカルボキシル基(ポリエステルポリオールおよび遊離のジヒドロキシカルボン酸を構成するカルボキシル基)1当量に対して、例えば、0.5〜2当量、好ましくは0.6〜1.8当量、さらに好ましくは0.7〜1.5当量、特に0.8〜1.2当量程度であってもよく、通常0.5〜1当量程度であってもよい。
【0046】
本発明のポリエステルポリオールは、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤としているにもかかわらず、前記のように、遊離(又は未反応)のジヒドロキシカルボン酸の含有量が著しく少ない。例えば、本発明のポリエステルポリオールにおいて、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有割合は、ポリエステルポリオール全体に対して7重量%以下(例えば、0又は検出限界〜6重量%)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜4.5重量%程度)、さらに好ましくは4重量%以下(例えば、0.3〜3.5重量%程度)、特に3重量%以下(例えば、0.5〜2.5重量%程度)である。
【0047】
上記のように、本発明のポリエステルポリオールは、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量が低減されているため、従来のカルボキシル基含有ポリエステルポリオール(例えば、ジヒドロキシカルボン酸の含有量が低減されておらず、ジヒドロキシカルボン酸の量が、遊離のジヒドロキシカルボン酸、環状エステル類およびカルボキシル基含有ポリエステルポリオールの総量に対して7重量%を超えているカルボキシル基含有ポリエステルポリオール)に比べて、溶解性に優れ、均一性が高く、安定性も高い。
【0048】
このため、本発明のポリエステルポリオールは、ウレタンプレポリマーを調製する際のポリオールとして用いる場合であっても、ジヒドロキシカルボン酸を溶解させるため、高沸点溶媒[例えば、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの沸点120℃以上(例えば、130〜300℃程度)、好ましくは140℃以上(例えば、145〜250℃程度)の溶媒]を用いたり、再加熱を行ったりする必要性がなく、製造作業性を向上できる。
【0049】
なお、遊離のジヒドロキシカルボン酸は、ポリエステルポリオール中において析出又は分離している場合が多いため、ろ過、遠心分離などの分離手段により、カルボキシル基含有ポリエステルポリオールから分離除去することもできる。しかし、ジヒドロキシカルボン酸を分離除去すると、カルボキシル基含有ポリエステルポリオールの組成などに変化が生じてしまい、設計どおりに、水性ポリウレタン系樹脂組成物を調製することができなくなり、また、ハンドリング性も低く、製造性が低下する。本発明では、このような分離(又は精製)により、遊離のジヒドロキシカルボン酸を除去しなくても、均一性および溶解性に優れ、しかも、所望のカルボキシル基濃度のポリエステルポリオールを得ることができる。
【0050】
なお、本発明のポリエステルポリオール(又は後述のポリウレタン系樹脂)には、必要に応じて、安定剤(酸化防止剤、紫外線安定剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤、消泡剤、滑剤(滑性付与剤)、流動調整剤、撥水剤、充填剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
(ポリエステルポリオールの製造方法)
本発明のポリエステルポリオールは、ポリエステルポリオールの重合工程における適当な段階で塩基性化合物を存在させることにより調製できるが、通常、塩基性化合物の存在下で、ジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類を開環付加重合(開環重合)させることにより調製できる。塩基性化合物の存在下で開環付加重合させることにより、生成するポリエステルポリオールにおいて、単に塩形成により遊離のジヒドロキシカルボン酸を低減できるだけでなく、開始剤としてのジヒドロキシカルボン酸に対する環状エステルの付加を確実に行うことができる(すなわち、開始剤効率を向上できる)。このような調製方法において、塩基性化合物は、開環付加重合反応において存在していればよいが、特に、ジヒドロキシカルボン酸と塩基性化合物との塩に、環状エステル類を開環付加重合させてもよい。すなわち、予め塩基性化合物により少なくとも一部が中和されたジヒドロキシカルボン酸を開始剤として、環状エステル類を開環付加重合させてもよい。
【0052】
なお、ジヒドロキシカルボン酸を開始剤として用いた環状エステル類の開環付加重合については、例えば、特開平6-313024号公報、特開平8-27243号公報、特開2004-91740号公報などの各種文献を参照できる。具体的には、本発明では、通常、ε-カプロラクトンなどの環状エステル類(特にラクトン類)が開環した開環物と、カルボキシル基の少なくとも一部が塩基性化合物により中和されたジヒドロキシカルボン酸塩(アミン塩など)のヒドロキシル基とが反応して、ジヒドロキシカルボン酸塩に環状エステル類が付加し、さらに、この付加体における環状エステル類に由来するヒドロキシル基に、環状エステル類の開環物又はその重合体が付加し、さらに、末端のヒドロキシル基に、他の環状エステル類の開環物又はその重合体が付加することを繰り返して、環状エステル類が開環重合することにより、カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールが得られる。
【0053】
ポリエステルポリオールの製造において、環状エステル類の使用割合は、カルボキシル基の濃度などに応じて選択でき、例えば、ジヒドロキシカルボン酸1モルに対して、1〜100モル、好ましくは2〜80モル、さらに好ましくは2.5〜50モル程度であってもよく、通常3〜30モル程度であってもよい。なお、塩基性化合物の使用割合は、前記ポリエステルポリオールの項で記載した割合と同様である。
【0054】
なお、環状エステル類とジヒドロキシカルボン酸との反応(開環付加重合反応)は、塩基性化合物に加えて、通常、触媒(開環重合触媒)の存在下で行ってもよい。触媒としては、特に限定されず、環状エステル類(特にラクトン類)の開環重合で用いられる公知の触媒の中から適宜選択して用いることができ、例えば、有機チタン系化合物(例えば、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのテトラC1−6アルキルチタネートなど)、有機スズ系化合物(例えば、ジブチルスズオキサイド;ジブチルスズジラウレート、オクチル酸第一スズ、モノ−n−ブチルスズ脂肪酸塩(モノブチルトリス(2−エチルヘキサノエート)錫など)などのスズ脂肪酸塩など)、ハロゲン化スズ系化合物(塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズなどのハロゲン化第一スズなど)などを使用できる。これらの触媒は単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0055】
触媒の使用量は、環状エステル類及びジヒドロキシカルボン酸の総量に対して、重量基準で、例えば、1000ppm以下(例えば、0〜800ppm)、好ましくは500ppm以下(例えば、0.1〜400ppm)、さらに好ましくは10〜300ppm程度であってもよい。触媒の使用量が多すぎると、開環反応時間が著しく早くなり、得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールを用いた合成樹脂の耐久性、耐水性などの物性が低下する虞がある。なお、触媒は使用しなくても、すなわち、無触媒下でも、環状エステル類の開環重合を行うことは可能である。
【0056】
また、環状エステル類の開環重合において、開環重合の温度(重合温度または反応温度)としては、特に制限されず、環状エステル類の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、80〜240℃(例えば、85〜200℃)、好ましくは90〜180℃、さらに好ましくは100〜160℃程度の範囲から適宜選択することができ、特に150℃程度(例えば、140〜160℃)であることが好ましく、通常110〜220℃程度であってもよい。環状エステル類の開環重合における重合温度が低すぎる(例えば、80℃未満)では、環状エステル類の開環重合の反応が著しく遅く、経済的に不利となる虞があり、一方、環状エステル類の開環重合における重合温度が高すぎる(例えば、240℃を超える)と、分子間脱水縮合により、ゲル化が生じる虞がある。
【0057】
なお、環状エステル類の開環重合は、酸素雰囲気中又は不活性雰囲気中のいずれでも行ってもよいが、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気中で行うと、製品の色相などに良好な結果が得られることが多い。
【0058】
本発明のポリエステルポリオールは、ポリオール成分(例えば、各種樹脂のポリオール成分)として利用できるが、特に、ポリウレタン系樹脂のポリオール成分として好適に用いることができる。
【0059】
以下に、ポリウレタン系樹脂について詳述する。
【0060】
[ポリウレタン系樹脂]
ポリウレタン系樹脂(又はウレタンプレポリマー)は、末端にイソシアネート基を有するカルボキシル基含有ウレタンプレポリマーであり、本発明のポリエステルポリオール(カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオール)で構成されたポリオール成分(ポリオール系化合物)と、ポリイソシアネート成分(ポリイソシアネート系化合物)と(必要に応じて鎖延長剤と)を反応させることにより得られる。すなわち、ポリウレタン系樹脂において、ポリオール成分を、従来のカルボキシル基含有ポリエステルポリオールではなく、溶解性に優れた前記カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールで構成するので、ウレタンプレポリマーを調製する際の溶媒として、ジヒドロキシアルカン酸を溶解させるための高沸点有機溶媒を用いたり、ジヒドロキシアルカン酸を溶解させるための再加熱を行わなくても、プレポリマー化の反応を均一系で行うことができ、ウレタンプレポリマーを容易に調製することができる。そのため、調製されたポリウレタン系樹脂は、均一性が高く、安定性が良好であり、しかも、塗布時の乾燥性や作業環境性などにも優れている。
【0061】
なお、ポリウレタン系樹脂(ポリウレタン系ポリマー)は、公知の方法を利用して製造でき、必要に応じて鎖延長されていてもよい。
【0062】
(ポリオール成分)
ポリオール成分は、少なくとも前記カルボキシル基含有ポリエステルポリオールで構成されていればよく、他のポリオール成分(前記カルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオール以外のポリオール系化合物)を含んでいてもよい。すなわち、ポリオール系化合物は、前記カルボキシル基含有ポリエステルポリオールのみで構成されていてもよく、カルボキシル基含有ポリエステルポリオールと他のポリオール成分とで構成されていてもよい。
【0063】
他のポリオール成分としては、ポリウレタン系樹脂の原料として公知のポリオール系化合物の中から適宜選択することができるが、低沸点有機溶媒に対する溶解性に乏しい成分(例えば、ジメチロールアルカン酸など)をほとんど又は全く含んでいないポリオール成分をウレタン化工程に用いることができる。このようなポリオール成分としては、高分子ポリオール(長鎖タイプのポリオール)、低分子ポリオール(短鎖タイプのポリオール)などが挙げられる。
【0064】
高分子量ポリオールとしては、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリC2−4アルキレングリコールなど)などのポリエーテルポリオール;ジオール成分[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのC2−10アルカンジオール)]とジカルボン酸成分(アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸など)又はその誘導体(例えば、メチル、エチルなどの低級アルキルエステルなど)との縮合反応により得られるポリエステルポリオール(例えば、両末端にヒドロキシル基を有しているポリエチレンアジペート、両末端にヒドロキシル基を有しているポリエチレン・ブチレンアジペート、両末端にヒドロキシル基を有しているポリプロピレンアジペート、両末端にヒドロキシル基を有しているポリヘキサメチレンアジペート、両末端にヒドロキシル基を有しているポリネオペンチレンアジペート、両末端にヒドロキシル基を有しているポリ−3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート、テレフタル酸と、必要に応じてイソフタル酸及び/又はアジピン酸とをカルボン酸成分とするとともに、ヘキサメチレングリコール及び/又は3−メチル−1,5−ペンタンジオールをジオール成分とし、且つ両末端にヒドロキシル基を有しているポリエステルポリオール)、ラクトン系ポリエステルポリオール[例えば、カプロラクトン系ポリオール(例えば、両末端にヒドロキシル基を有しているポリカプロラクトン、両末端にヒドロキシル基を有しているポリメチルバレロラクトンなど)などの短鎖のポリオール(後述の低分子ポリオールなど)を開始剤として、ラクトン類(前記カルボキシル基含有ポリエステルポリオールの項で例示のラクトン類など)を開環付加重合したポリエステルポリオールなど]などのポリエステルポリオールの他、ポリカーボネートポリオール、シリコーンポリオール、ポリオレフィンポリオール(ポリブタジエンポリオールなど)などが挙げられる。
【0065】
高分子量ポリオールの数平均分子量は、特に制限されないが、例えば、400〜5000、好ましくは500〜3000、さらに好ましくは600〜2000程度であってもよい。
程度であってもよい。
【0066】
また、低分子量のポリオールとしては、ジオール類、トリオール類、ポリオール類などが含まれる。ジオール類としては、例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−及び/又は2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどのC2−12アルカンジオールなど)、ジアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジC2−4アルキレングリコールなど)、シクロアルカンジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど)、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールAなど)、アルカノールアミン(ジエタノールアミンなど)などが挙げられる。トリオール類としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。ポリオール類としては、テトラオール類(例えば、ペンタエリスリトールなど)などが挙げられる。なお、これらの低分子ポリオールは、鎖伸長剤として使用されてもよい。
【0067】
これらのポリオール系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
他のポリオール成分を用いる場合、ポリオール成分全体(すなわち、前記カルボキシル基含有ポリエステルポリオールおよび他のポリオール成分の総量)に対する他のポリオール成分の割合は、例えば、5〜80重量%、好ましくは10〜75重量%、さらに好ましくは20〜70重量%程度であってもよい。
【0069】
(ポリイソシアネート成分)
ポリイソシアネート成分(ポリイソシアネート系化合物)としては、特に制限されず、ポリウレタン系樹脂の原料として公知のポリイソシアネート系化合物(有機ポリイソシアネート)の中から適宜選択することができる。具体的には、ポリイソシアネート系化合物としては、例えば、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,5−ジエチル−2,4−ジイソシアナトトルエン、1,3−ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどの芳香族ジイソシアネート系化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの水素添加物、キシリレンジイソシアネートの水素添加物、ビス(イソシアナトフェニル)メタンの水素添加物などの脂環式ジイソシアネート系化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート系化合物;キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート系化合物などが挙げられる。ポリイソシアネート系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
ポリイソシアネート系化合物としては、製造しやすいこと、水中におけるポリウレタン系樹脂の安定性が高いこと、黄変しないことなどの観点から、脂環式ジイソシアネート系化合物(特に、イソホロンジイソシアネート)を好適に用いることができる。
【0071】
ポリオール成分とポリイソシアネート成分との割合は、ポリイソシアネート成分のイソシアネート基(NCO)とポリオール成分のヒドロキシル基(OH)との当量比換算で、例えば、イソシアネート基/ヒドロキシル基=1/1〜6/1、好ましくは1.05/1〜5/1、さらに好ましくは1.1/1〜4/1(特に1.1/1〜3/1)程度であってもよい。
【0072】
(鎖伸長剤)
ポリウレタン系樹脂は、鎖伸長剤(又は鎖延長剤)により、鎖伸長(鎖延長)されていてもよい。鎖伸長剤としては、公知の鎖延長剤(アミン系鎖延長剤や、ジオール系鎖延長剤など)の中から適宜選択して用いることができるが、アミン系鎖延長剤を好適に用いることができる。
【0073】
アミン系鎖延長剤としては、脂肪族ジアミン類(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−8アルカンジアミンなど)、脂環族ジアミン類(例えば、1,4−シクロヘキシレンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミンなど)、芳香族ジアミン類(例えば、フェニレンジアミンなど)、芳香脂肪族ジアミン類(例えば、m−キシリレンジアミンなど)、脂肪族ポリアミン類(例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリエチレンポリアミンなど)、ピペラジン類(1,3−ピペラジン、1,4−ピペラジン、2−メチル−1,4−ピペラジン、2,5−ジメチル−1,4−ピペラジンなど)、ヒドラジン又はジヒドラジド化合物(例えば、ヒドラジン、ヒドラジンとアジピン酸やフタル酸とのジヒドラジド化合物など)アルカノールアミン類(例えば、モノエタノールアミンなど)などが挙げられる。なお、ジオール系鎖延長剤としては、前記低分ポリオール成分などが挙げられる。鎖延長剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
なお、ポリウレタン系樹脂の主鎖の末端に水酸基を導入したい場合には、アミン系鎖延長剤などの鎖延長剤とともに、アルカノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなど)などのヒドロキシアミン類を用いることができる。また、ポリウレタン系樹脂の主鎖中に水酸基を導入したい場合には、アミン系鎖延長剤などの鎖延長剤とともに、ヒドロキシル基を有するポリアミン(アミノエチルアミノエタノールなど)などを用いることができる。
【0075】
鎖伸長剤の使用量は、特に制限されず、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基(
NCO)と鎖伸長剤中の活性水素原子(H)との割合が、前者/後者(当量比)=5/1〜1/5、好ましくは3/1〜1/3、さらに好ましくは2/1〜1/2(例えば、1.5/1〜1/1.5)程度となる割合であってもよい。
【0076】
また、ポリウレタン系樹脂の末端は、末端封止剤により封鎖又は封止されていてもよい。末端封止剤としては、一官能活性水素含有化合物、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ラウリルアルコール、セチルアルコールなどのC1−24モノアルコール類又はそのアルキレンオキサイド付加物(例えば、エチレンオキサイドなどのC2−4アルキレンオキサイド付加物)、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε−カプロラクタムなどのラクタム類、ジブチルアミンなどのモノアミン類などが挙げられる。これらの末端封止剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0077】
ポリウレタン系樹脂におけるカルボキシル基の割合は、特に制限されないが、ポリウレタン系樹脂の固形分全量に対して、例えば、0.4〜5重量%、好ましくは0.6〜4.5重量%、さらに好ましくは0.8〜4.2重量%程度であってもよい。ポリウレタン系樹脂におけるカルボキシル基の割合が、小さすぎる(例えば、ポリウレタン系樹脂の固形分全量に対して0.4重量%未満である)と、樹脂の水性化が困難となり、一方、大きすぎる(例えば、5重量%を超える)と、樹脂の塗膜物性などが低下する虞がある。なお、ポリウレタン系樹脂におけるカルボキシル基の割合は、例えば、カルボキシル基含有ポリエステルポリオールの種類に応じて、ポリオール系化合物中のカルボキシル基含有ポリエステルポリオールの含有量を調整することにより、調節することができる。
【0078】
ポリウレタン系樹脂の数平均分子量は、特に制限されないが、例えば、6000〜500000(好ましくは7000〜300000、さらに好ましくは8000〜150000)程度であってもよい。ポリウレタン系樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、例えば、ポリスチレン換算値として測定することができる。
【0079】
ポリウレタン樹脂には、必要に応じて、さらに慣用の添加剤、例えば、他の安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、充填剤、滑剤(滑性付与剤)、架橋又は硬化剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0080】
ポリウレタン系樹脂は、前記のように、前記ポリオール成分と、前記ポリイソシアネート成分と(必要に応じて鎖延長剤と)を反応(ウレタン化反応)させることにより得られる。反応は、無溶媒中で行ってもよく、後に水を加えて水中油型に乳化分散する操作を容易にするため、溶媒(又は溶剤)中で行ってもよい。溶媒中で行うことにより、反応系(又はウレタンプレポリマー)の粘度を低下させて反応させることができる。ポリウレタン樹脂(ウレタンプレポリマー)の調製に用いる溶媒としては、後に除去するという観点から、比較的低沸点の有機溶媒(例えば、沸点100℃以下の溶媒)が好ましく、例えば、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エーテル類(例えば、ジオキソラン、テトラヒドロフランなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。好ましい溶媒には、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられ、特にアセトンが好ましい。
【0081】
ウレタンプレポリマーを調製する際のウレタン化反応は、窒素気流下などの不活性ガスの気流下で行うことができ、通常、窒素気流下で行われる。また、ウレタン化反応は、通常、無触媒で行われるが、触媒を用いてもよい。ウレタン化反応の際に用いられる触媒としては、特に制限されないが、例えば、有機スズ系化合物(例えば、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジオクトエート、ジブチルチンジアセテート)などの有機金属触媒;トリエチレンジアミンなどの第3級アミン系触媒などが挙げられる。触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
また、ウレタン化反応における反応温度は、20〜180℃、好ましくは30〜160℃、さらに好ましくは40〜140℃程度であってもよく、通常、20〜120℃程度であってもよい。ウレタン化反応における反応時間は、各段階の反応での反応温度などに応じて適宜選択することが重要であり、一概に定めることができないが、通常、1〜20時間程度であってもよい。
【0083】
なお、前記のように、ウレタン化反応の際に溶媒を用いた場合、前述のように、溶媒を除去する必要がある。溶媒の除去方法としては、特に制限されないが、溶媒が前記低沸点有機溶媒である場合には、例えば、(i)水の沸点以下の温度(例えば、30〜100℃)で、空気または窒素ガスなどの不活性ガスなどを反応生成液の表面ないしは液中に送り込んで、低沸点有機溶媒を除去する方法、(ii)反応容器内を減圧にして低沸点有機溶媒を除去する方法、(iii)薄膜蒸留器を用いる方法などが挙げられる。
【0084】
なお、ポリウレタン系樹脂には、溶剤がほとんど又は全く残留していないのが好ましいが、少量の有機溶媒の使用が許容される用途においては、ポリウレタン系樹脂の製造時に有機溶媒を用い、そのまま反応生成物中に残留させることもできる。
【0085】
なお、鎖延長は、ウレタンプレポリマーの調製の適当な段階において行うことができ、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネートと鎖延長剤とを反応させてもよく、ポリオール成分と前記ポリイソシアネート成分とを反応させたのち、反応生成物に対して鎖延長剤を反応させてもよく、後述するように前記反応物を水分散液又は水溶液の形態にしたのち、鎖延長剤と反応させてもよい。
【0086】
ポリウレタン系樹脂は、親水性が高いため、用途に応じて、水性エマルジョン(水分散液)又は水溶液の形態であってもよい。このような水性エマルジョン又は水溶液の形態のポリウレタン系樹脂(水性樹脂組成物、水性ポリウレタン系樹脂、水性ポリウレタン系樹脂組成物などということがある)は、通常、前記ポリウレタン系樹脂を水に分散又は溶解した状態で含んでいる場合が多い。ポリウレタン系樹脂が水に分散した状態(エマルジョン)である場合、水に分散しているポリウレタン系樹脂の粒子の平均粒子径としては、特に制限されないが、例えば、50μm以下(例えば、0.001〜50μm)、好ましくは0.01〜20μm、さらに好ましくは0.01〜5μm程度であってもよい。なお、水性ポリウレタン系樹脂組成物の外観は、分散粒子(すなわち、水に分散しているポリウレタン系樹脂の粒子)の大きさにより変化し、分散粒子の平均粒子径が小さい場合は、蛍光を発する溶液状を呈し、平均粒子径が大きい場合は、真っ白な乳濁状となる場合が多い。なお、いずれの状態であっても、水性ポリウレタン系樹脂組成物は、経時安定性を保持することができる。
【0087】
水性ポリウレタン系樹脂組成物(水分散液又は水溶液の形態のポリウレタン系樹脂)において、固形分(又はポリウレタン系樹脂)濃度は、通常、10〜70重量%であり、好ましくは20〜65重量%、さらに好ましくは30〜60重量%程度であってもよい。水性エマルジョンの粘度(25℃)は、塗布性などの点から、例えば、10〜500mPa・s、好ましくは30〜400mPa・s、さらに好ましくは50〜300mPa・s(特に100〜250mPa・s)程度であってもよい。水性ポリウレタン系樹脂組成物の固形分濃度や粘度は、用途に応じて、ポリウレタン系樹脂による分散粒子の大きさを制御することにより調節することが可能である。なお、ポリウレタン系樹脂中の親水性基(カルボキシル基など)の量を少なくすると、分散粒子の平均粒子径は大きくなり、一方、多くすると、分散粒子の平均粒子径が小さくなる傾向がある。
【0088】
水性ポリウレタン系樹脂組成物は、例えば、前記ポリウレタン系樹脂(ウレタンプレポリマー)を水に分散又は溶解させ、さらに、必要に応じて、鎖延長剤(前記例示の鎖延長剤など)により鎖延長させることにより製造することができる。なお、水性ポリウレタン系樹脂の調製において、ウレタンプレポリマーは予め溶剤(前記例示の低沸点有機溶媒など)で希釈されていてもよい。
【0089】
なお、水性エマルジョン又は水溶液には、前記ポリウレタン系樹脂の項で例示された添加剤の他、さらに、分散剤(界面活性剤)、乳化安定剤、流動調整剤、撥水剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、ゲル化剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のポリエステルポリオールは、遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有量が著しく低減されており、均一性および安定性に優れている。しかも、取扱い及び塗布時の作業環境性や塗布する際の乾燥性に優れている。このため、本発明のポリエステルポリオールは、種々のポリマーのポリオール成分、特に、ポリウレタン系樹脂(水性ポリウレタン系樹脂)のポリオール成分(詳細には、ポリイソシアネート成分とウレタン化反応させるポリオール成分)として好適に用いることができる。そして、ポリウレタン系樹脂は、塗料、印刷インキ用などのバインダー、接着剤などの幅広い用途に有用である。
【0091】
なお、ポリウレタン系樹脂は、各種の塗料、バインダー、接着剤などの用途に適しており、そのまま一液で用いることもできるが、必要に応じて、水性ブロック型イソシアネート硬化剤や、イソシアネート基をブロックしない水分散型イソシアネート硬化剤の他、メラミン系硬化剤、ポリアジリジン化合物などを架橋剤として用いて、二液を混合することにより用いることもできる。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における「部」、「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「重量部」、「重量%」を示す。また、実施例において、各特性又は物性の測定方法は以下の通りである。
【0093】
(ジメチロールアルカン酸の含有量)
ジメチロールアルカンの含有量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を利用して、クロマトグラフの面積%から求めた。
【0094】
(数平均分子量)
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の測定条件で測定した。
【0095】
・装置:装置名「HPLC LC-6A SYSTEM」(SHIMAZU社製)
・カラム:「KF-800P(10mm×4.6mmφ)」、「KF-804(300m
m×8mmφ)」、「KF-802.5(300mm×8mmφ)」、「KF-801(3
00mm×8mmφ)」(以上、SHODEX社製)
・移動相:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:1.0ml/min
・サンプル量:100μl(100倍希釈)
・カラム温度:50℃
・検量線作成標準物質:ポリスチレン(PSt)。
【0096】
(機械的物性)
フィルムを打ち抜き刃で10×120mmに切断し、JIS K6301に準拠して、東洋ボールドウイン社の「テンシロン UTM-III-100」を用いて、引張り速度500mm/分、温度23℃、湿度60%RHにおいて、引張り強度(MPa)および伸び(%)を測定した。
【0097】
(粘度)
EM型回転粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、25℃での粘度(mPa・s/25℃)を測定した。なお、粘度の測定条件は、ローター回転数5rpmであった。
【0098】
(平均粒子径)
粒度分布測定装置(堀場製作所製)を使用して測定した。
【0099】
(実施例1)
反応器に、ジメチロールプロピオン酸(2,2−ジ(ヒドロキシメチル)プロピオン酸)134部、トリエチルアミン101部、およびε−カプロラクトン465.5部を仕込み、触媒としてオクチル酸第一錫を50ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、120℃で6時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、常温で液状であり、ジメチロールプロピオン酸の含有量2.0%および数平均分子量700であった。
【0100】
(実施例2)
反応器に、ジメチロールプロピオン酸134部、トリエチルアミン101部、およびε−カプロラクトン366部を仕込み、触媒として塩化第一錫を100ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、130℃で4時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、常温で液状であり、ジメチロールプロピオン酸の含有量2.3%および数平均分子量600であった。
【0101】
(実施例3)
反応器に、ジメチロールブタン酸(2,2−ジ(ヒドロキシメチル)ブタン酸)148部、トリエチルアミン101部、およびε−カプロラクトン452部を仕込み、触媒としてオクチル酸第一錫を100ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、150℃で4時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、常温で液状であり、ジメチロールブタン酸の含有量1.9%および数平均分子量700であった。
【0102】
(実施例4)
反応器に、ジメチロールプロピオン酸134部、トリエチルアミン101部、およびε−カプロラクトン216部を仕込み、触媒としてオクチル酸第一錫を100ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、150℃で4時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、常温で液状であり、ジメチロールプロピオン酸の含有量2.2%および数平均分子量450であった。
【0103】
(実施例5)
反応器に、ジメチロールプロピオン酸134部、トリエチルアミン101部、およびε−カプロラクトン866部を仕込み、触媒としてモノブチルトリス(2−エチルヘキサノエート)錫を100ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、150℃で4時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、常温で液状であり、ジメチロールプロピオン酸の含有量1.8%および数平均分子量1100であった。
【0104】
(比較例1)
反応器に、ジメチロールプロピオン酸134部、およびε−カプロラクトン366部を仕込み、触媒としてオクチル酸第一錫を100ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、150℃で4時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、ジメチロールプロピオン酸の含有量20%および数平均分子量500であり、室温で放置するとジメチロールプロピオン酸の結晶が析出し、一旦析出したジメチロールプロピオン酸は、系内の温度を100℃まで上昇させても溶解することがなく、系は白濁状を呈した。
【0105】
(比較例2)
反応器に、2,2−ジメチロールプロピオン酸134部、およびε−カプロラクトン866部を仕込み、触媒としてオクチル酸第一錫を100ppmの割合で使用し、窒素気流下で攪拌しながら加熱し各成分を均一に溶解させた。そして、150℃で4時間反応させて、ε−カプロラクトンの含有量が1%以下であることを確認したのち、反応系の温度を冷却した。得られたカルボン酸アミン塩基含有ポリエステルポリオールは、ジメチロールプロピオン酸の含有量10%および数平均分子量1000であり、室温で放置するとジメチロールプロピオン酸の結晶が析出し、一旦析出したジメチロールプロピオン酸は、系内の温度を100℃まで上昇させても溶解することがなく、系は白濁状を呈した。
【0106】
結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
(実施例6)
反応器に、イソホロンジイソシアネート83.5部、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学(株)製、商品名「PTMG1000」)111.6部及び実施例3で得られた常温で液状のポリエステルポリオール(数平均分子量700)64.2部を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら80℃で5時間反応し、均一で透明なNCO基末端ウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーに、脱塩水383.4部を徐々に添加して、水中油型のウレタンプレポリマー分散液とした後、10℃でイソホロンジアミン33.22部および脱塩水299.0部を添加し、プレポリマーの鎖延長を行い、水性ポリウレタン樹脂を得た。得られたポリウレタン樹脂は、固形分30%、粘度230mPa・s(25℃)、平均粒子径1μmであった。
【0109】
得られたポリウレタン系樹脂を、250μmの間隙でガラス板上に塗布し、80℃で2時間乾燥すると、厚さ約70μmの均一かつ透明で柔軟なフィルムが得られた。そして、得られたフィルムについて、23℃および60%RHの雰囲気中で、1日間放置後、同じ環境下で引張り試験を行った結果、フィルムは、引張り強度55MPa、伸び700%と良好な物性を示した。さらに、得られたフィルムをテトラヒドロフランに1%の濃度で溶解させ、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で、ポリウレタン系樹脂の分子量を測定した結果、ポリスチレン換算で数平均分子量が31000であった。
【0110】
(実施例7)
反応器に、イソホロンジイソシアネート80.6部、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール107.6部(三菱化学(株)製、商品名「PTMG1000」)及び実施例2で得られた常温で液状のポリエステルポリオール(数平均分子量600)74.3部を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら80 ℃で5 時間反応し均一で透明なNCO基末端ウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーに、脱塩水382.6部を徐々に加え、水中油型のウレタンプレポリマー分散液とした後、10℃でイソホロンジアミン33.22部、脱塩水299.0部を添加し、プレポリマーの鎖延長を行い、固形分30%、粘度180mPa・s (25℃)、平均粒子径2μm の水性ポリウレタン樹脂を得た。そして、実施例6と同様にして均一で透明なフィルムを得、同一の条件で引っ張り試験を行ったところ、引張り強度45MPa、伸び645%と良好な物性を示した。また、実施例6と同様にして、得られたポリウレタン樹脂の数平均分子量を測定したところ、39000であった。
【0111】
(比較例3)
反応器に、イソホロンジイソシアネート86.7部、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学(株)製、商品名「PTMG1000」)115.8部及び比較例1で得られたポリエステルポリオール(数平均分子量500)47.5部を仕込んだが、系は残存するジメチロールプロピオンにより不均一であった。なお、比較例1で得られたポリエステルポリオールは、予め80℃のオーブンで一昼夜加温しても液状を保持できなかった。このため、反応器に、イソホロンジイソシアネート86.7部、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学(株)製、商品名「PTMG1000」)115.8部、比較例1で得られたポリエステルポリオール(数平均分子量500)47.5部、および残存するジメチロールプロピオン酸を溶解させるためのN−メチルピロリドン2.5部を加え、窒素気流下で撹拌しながら80℃で5時間反応し、均一で透明なNCO基末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0112】
次いで、温度を50℃にしてトリエチルアミン9.59部を加えて中和し、脱塩水384.2部を徐々に加え、水中油型のウレタンプレポリマー分散液とした後、10℃でイソホロンジアミン33.22部、脱塩水299.0部を添加しプレポリマーの鎖延長を行い、固形分30%、粘度180mPa・s(25℃)、平均粒子径5μmであり、かつ3.5重量%の割合でN−メチルピロリドンを含む水性ポリウレタン樹脂を得た。そして、80℃で4時間乾燥させる以外は、実施例6と同様にして均一で透明なフィルムを得、同一の条件で引っ張り試験を行ったところ、引張り強度52MPa 、伸び580%と良好な物性を示した。また、実施例6と同様にして、得られたポリウレタン樹脂の数平均分子量を測定したところ、43000であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始剤としてのジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類が開環付加重合したポリエステルポリオールであって、ポリエステルポリオールを構成するカルボキシル基の少なくとも一部と塩基性化合物とが塩を形成しているポリエステルポリオール。
【請求項2】
ジヒドロキシカルボン酸が、ジヒドロキシアルカン酸である請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項3】
ジヒドロキシカルボン酸が、ジメチロールアルカン酸である請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項4】
環状エステル類が、ラクトン類で構成されている請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項5】
環状エステル類が、カプロラクトン類で構成されている請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項6】
塩基性化合物が、アミン類で構成されている請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項7】
塩基性化合物が、第3級アミン類で構成されている請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項8】
数平均分子量が250〜10000である請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項9】
遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有割合がポリエステルポリオール全体に対して5重量%以下である請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項10】
(i)ジヒドロキシカルボン酸が2,2−ジメチロールC3−6モノアルカンカルボン酸であり、(ii)環状エステル類がC4−10ラクトン類であり、(iii)塩基性化合物が、第3級アルキルアミン類、第3級シクロアルキルアミン類、および第3級アルカノールアミン類から選択された少なくとも1種であり、(iv)数平均分子量が300〜5000であり、かつ(v)遊離のジヒドロキシカルボン酸の含有割合がポリエステルポリオール全体に対して3重量%以下である請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項11】
ポリウレタン系樹脂のポリオール成分として用いる請求項1記載のポリエステルポリオール。
【請求項12】
塩基性化合物の存在下で、ジヒドロキシカルボン酸に環状エステル類を開環付加重合させる請求項1記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項13】
ジヒドロキシカルボン酸と塩基性化合物との塩に、環状エステル類を開環付加重合させる請求項12記載のポリエステルポリオールの製造方法。

【公開番号】特開2007−262240(P2007−262240A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89415(P2006−89415)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】