説明

ポリエステルモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】優れた耐摩耗性と耐加水分解性の両特性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバス等の工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を提供する。
【解決手段】 ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)平均粒子径(粒度分布からの重量50%径)が1.0〜5.0μmである炭酸カルシウム1.0〜10.0重量%、(B)モノカルボジイミド化合物0.1〜2.0重量%、(C)25℃における粘度が1000cps以下である無官能性シリコーンオイル1.0〜10.0重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、カルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下であると共に、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐摩耗性と耐加水分解性の両特性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバス等の工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアミド等の熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントに代表される繊維は、優れた抗張力および耐熱性等を有していることから、従来より各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物等に使用されてきた。これらの織物としては、抄紙機用織物、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア用織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物、フィルター用織物等が挙げられ、さらに他の用途としては、各種ブラシ、毛筆、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料等が知られている。
【0003】
中でも、製紙業界における抄紙機用抄紙ワイヤーや抄紙ドライヤーカンバスといった抄紙用織物の構成素材としては、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルからなるモノフィラメントが広く使用されている。
【0004】
しかしながら、ポリエステルモノフィラメントは、金属やセラミック,プラスチック等の粒子や構造物等と接触した場合、これら粒子や構造物等によってモノフィラメントが擦過損傷を受けやすく、ポリエステルモノフィラメントからなる網や織物等の製品寿命が著しく短くなるという問題が指摘されていた。
【0005】
また、ポリエステルモノフィラメントが広く使用されている用途、例えば製紙業界では、紙の経日劣化の問題が顕著となるに従い、従来の酸性紙から中性紙への転換が盛んに行なわれている。この酸性紙から中性紙への転換に伴い、填料と呼ばれる紙への充填材がタルクから炭酸カルシウムに変更されており、この炭酸カルシウム粒子はタルク粒子に比較して硬いため、抄紙工程において使用される抄紙ワイヤーの摩耗が早く、特にポリエステルモノフィラメントからなる抄紙ワイヤーの寿命が短くなるといった欠点を有していた。
【0006】
さらに、抄紙ドライヤーカンバスにおいても、填料含有紙と接触する面のポリエステルモノフィラメントの摩耗問題が指摘されており、特に無機顔料(乾粉末炭酸カルシウムやカオリン等)を含有する塗料をコーティングして乾燥させる工程で使用されるドライヤーカンバスでは、織物を構成するポリエステルモノフィラメントの摩耗が極めて著しいことから、その改善がしきりに望まれるようになってきた。
【0007】
その他にも、ポリエステルモノフィラメントは抄紙ドライヤーカンバスの構成素材やタイヤコードといった高温・多湿条件下にて使用される場合、加水分解劣化により強度低下を起こすという欠点を有している。また、今日では抄紙速度の高速化によってドライヤーカンバス工程においてもさらに高速化が進み、製造条件も日々厳しくなってきているため、抄紙ドライヤーカンバスの交換作業の頻度が増し、それに伴う生産工程の一時停機は、作業効率の悪化に多大な影響を及ぼすため、抄紙ドライヤーカンバスの長期間の使用が可能な、耐加水分解性がより一層優れたポリエステルモノフィラメントの開発もしきりに求められていた。
【0008】
以上のような欠点を解決するため従来から様々な提案が行われてきた。
【0009】
ポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を改善するための手段としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートに熱可塑性エラストマである熱可塑性ポリウレタンを含有させたモノフィラメントを使用した抄紙用織物(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この抄紙用織物は、ポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸温度で、使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂から、ウレタン結合およびエーテル鎖の熱分解が発生するため、得られるモノフィラメントは工業用として十分な引張強度を有するものではなかった。
【0010】
また、脂肪族芳香族ポリエステルに無機酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、窒化物および炭化物からなる群から選択された、20nm〜100nmの厚みと20:1以下のアスペクト比とを有する非層状小板形粒子を含んでなる耐摩耗性ポリエステル繊維(例えば、特許文献2参照)が提案されているが、この繊維は添加する非層状小板形粒子径が小さいために工業用として十分な耐摩耗性が得られず、実用的ではなかった。
【0011】
さらに、少なくとも一つのスルホン酸基またはスルホン酸金属塩基をもつ化合物を共重合してなる芳香族ポリエステルに酸化ジルコニウム粒子を添加することで得られる、耐摩耗性に優れた繊維を製造し得るポリエステル組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、この組成物で得られたモノフィラメントは、若干の耐摩耗性向上効果は認められるものの、添加したジルコニウム粒子が凝集し、線径斑が大きくなり、工業用織物として必要な表面平滑性を得ることができなかった。
【0012】
一方、ポリエステルモノフィラメントの耐加水分解性を向上させる方法としては、例えば、カルボキシル末端基がカルボジイミドとの反応でキャップされ、遊離のモノ及び/又はビスカルボジイミド化合物30〜200ppmと遊離のポリカルボジイミド又は、なお反応性を有するポリカルボジイミド基を含む反応生成物を少なくとも0.02重量%含有するポリエステル繊維(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、この繊維は耐加水分解性についてはある程度改善されるものの、近年要求される必要かつ十分な耐加水分解性は得られず、また耐摩耗性については何ら改善されるものではなかった。
【0013】
また、本発明者等もポリエステルモノフィラメントの耐摩耗性を改善する技術として、ポリエステル系樹脂に対し、平均粒子径が0.2〜1.0μmで、d25/d75で表される粒度分布比が2.5以下の無機粒子1〜15重量%を含有した樹脂組成物からなる耐摩耗性を改善したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献5参照)を提案しているが、このポリエステルモノフィラメントは耐摩耗性については改善されるものの、耐加水分解性については、未だ不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−80688号公報
【特許文献2】特開2007−23474号公報
【特許文献3】特開平5−171014号公報
【特許文献4】特開平4−289221号公報
【特許文献5】特開2008−266873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上述した従来技術では達成し得なかった、優れた耐摩耗性と耐加水分解性の両特性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバス等の工業用織物の構成素材として好適に使用し得るポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)平均粒子径(粒度分布から重量50%径)が1.0〜5.0μmである炭酸カルシウム1.0〜10.0重量%、(B)モノカルボジイミド化合物0.1〜2.0重量%および(C)25℃における粘度が1000cps以下である無官能性シリコーンオイル1.0〜10.0重量%を含有するポリエステルフィラメントであって、カルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下であると共に、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリエステルモノフィラメントを提供するものである。
【0018】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいては、前記無官能性シリコーンオイルのフェニル基含有量が5〜80モル%であることが好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することにより一層優れた耐摩耗性および耐加水分解性を取得することができる。
【0019】
また、本発明の工業用織物は、上記のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、各種工業用織物、特に抄紙用織物において、抜群の耐摩耗性と耐加水分解性を発揮する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下に説明する通り、従来の技術では達成できなかった優れた耐摩耗性と耐加水分解性の両特性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を有したポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのジカルボン酸またはエステル形成誘導体およびジオールまたはエステル形成誘導体から合成されるポリエステル系樹脂のことである。これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、またグリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるPETが好適である。
【0023】
PETは、上記のテレフタル酸成分の一部を、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0024】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)平均粒子径(粒度分布からの重量50%径)が1.0〜5.0μmである炭酸カルシウム、(B)モノカルボジイミド化合物、(C)25℃における粘度が1000cps以下である無官能性シリコーンオイルの3成分を必須成分とするものである。
【0025】
すなわち、本発明におけるポリエステルモノフィラメントは、(A)平均粒子径(粒度分布から重量50%径)が1.0〜5.0μmである炭酸カルシウムを1.0〜10.0重量%含有することが必須であり、炭酸カルシウムをポリエステルモノフィラメント中に含有させることにより、炭酸カルシウム粒子がモノフィラメント表面に存在し、この炭酸カルシウムが外部と接触することでポリエステル部分を保護し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0026】
ここで、炭酸カルシウムの平均粒子径が1.0μm未満である場合は、炭酸カルシウム粒子が凝集し、モノフィラメント中での分散性が悪くなる。また平均粒子径が5.0μmを超える場合は、モノフィラメントに粗大な突起が発生して、工業用織物用途では重要となるモノフィラメントの線径変動率が大きくなり、表面平滑性を低下させ、織物に適さなくなるため好ましくない。
【0027】
また、本発明の炭酸カルシウムの含有量が1.0重量%未満である場合は、耐摩耗性が不十分であり、逆に10.0重量%を超える場合は、モノフィラメントの製造において延伸切れが発生する等の操業性不安定を招くばかりか、モノフィラメントの引張強度が不足することになるため好ましくない。
【0028】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、さらに(B)モノカルボジイミド化合物(以下、MCD化合物という)を0.1〜2.0重量%含有し、かつカルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下であることを特徴とする。
【0029】
MCD化合物は分子中に1個のカルボジイミド基(−N=C=N−)を含有する活性な化合物であり、言い換えればポリエステルモノフィラメント中に添加されたMCD化合物の内、ポリエステルモノフィラメント中に未反応の状態で残存するMCD化合物である。このMCD化合物は、ポリエステルの加水分解を促進する触媒作用を有するポリエステル自身のカルボキシル末端基を反応封鎖して不活性化する作用を有する。
【0030】
ポリエステルのカルボキシル末端基は、原料由来、重縮合起因、溶融成型時の熱や加水分解、および湿熱雰囲気中で使用中に加水分解等によって発生する。
【0031】
ポリエステルの加水分解を抑制するためには、溶融成形前のポリエステルにMCD化合物を添加して溶融中にMCD化合物とカルボキシル末端基とを反応させてカルボキシル末端基不活性化すると共に、成形品中にもMCD化合物を含有させて湿熱雰囲気中で使用中に加水分解によって発生するカルボキシル末端基を不活性化する必要がある。したがって、ポリエステルモノフィラメントを長時間使用するという観点では、モノフィラメント中にいかに多量のMCD化合物を残存・含有させるかが重要になる。
【0032】
このMCD化合物としてはいずれでもよいが、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド等が挙げられる。これらのMCD化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリエステルモノフィラメントに含有させればよいが、ポリエステルに添加後の安定性から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド等が、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が好適である。TICは、市販品である Rhein−Chemie社製の“STABAXOL”(登録商標)Iまたは Raschig AG社製の“Stabilizer”(登録商標)7000などを購入して使用することができる。
【0033】
本発明のポリエステルモノフィラメント中において、MCD化合物の含有量は、0.1〜2.0重量%であることが肝要であるが、好ましくは0.3重量%〜1.8重量%、さらに0.7〜1.5重量%の範囲の場合、より好ましい効果の発現が期待できる。
【0034】
なおここで、MCD化合物の含有量が0.1重量%未満である場合は、耐加水分解性改善効果が不足し、2.0重量%を超える場合は、モノフィラメントの製造が困難になるばかりか、得られるモノフィラメントの強度が不足したものとなるため好ましくない。
【0035】
本発明のポリエステルモノフィラメントにMCD化合物を0.1〜2.0重量%含有させるには、原料のポリエステルが保有していたカルボキシル末端基および溶融紡糸時の加熱による加水分解や熱分解で発生したカルボキシル末端基の両者を合計した総カルボキシル末端基と、ポリエステル中の水酸末端基を封鎖・不活性化反応させ、さらに製品ポリエステルモノフィラメント中に0.1〜2.0重量%のMCD化合物が残存含有する量のMCD化合物を、ポリエステルに添加し溶融混練した後、溶融紡糸する方法が有利である。また、MCD化合物と共に、ポリエステルのカルボキシル末端基および水酸末端基と反応する公知のエポキシド化合物およびオキサゾリン化合物などを併用することもできる。
【0036】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントは、カルボキシル末端基が8当量/10g以下であることが好ましく、さらに好ましくは5当量/10g以下である。カルボキシル末端基が8当量/10gを超える場合は、高温・多湿条件下ではポリエステルの加水分解劣化が著しく進行し、織物に使用した場合に、強度低下を招いてしまうため、好ましくない。
【0037】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記(A)炭酸カルシウムおよび(B)モノカルボジイミド化合物に加えて、さらに(C)25℃における粘度が1000cps以下である無官能性シリコーンオイル(以下、シリコーンオイルと呼ぶ)を1.0〜10.0重量%含有することを特徴とする。
【0038】
すなわち本発明では、炭酸カルシウム、MCD化合物およびシリコーンオイルの3つの物質を全て含有することの相乗効果により、必要十分な引張強度を確保しつつ、極めて高い耐摩耗性や耐加水分解性能を発揮するものである。
【0039】
その理由としては、シリコーンオイルはブリードアウト性に優れており、このようなブリードアウト性オイルを用いることで、成形後モノフィラメント表面にブリードアウトするシリコーンオイルの量が十分となり、このポリエステルモノフィラメントを工業用織物に使用した場合に、表面摩擦力が小さくなり、摩耗に対しても優れた性能を示す。さらにブリードアウトしたシリコーンオイルはモノフィラメント表面上に存在している炭酸カルシウムを覆う構造となり、例えば工業用織物として使用した場合、紙との摩耗により表面のシリコーンオイルが剥離しても、含有している炭酸カルシウムがポリエステル部分を保護するため、一層の耐摩耗性の向上が図れるのである。
【0040】
さらに、ポリエステルモノフィラメント表面にシリコーンオイルがブリードアウトすることで、表面が撥水性となり、加水分解が抑制されることで、耐摩耗性だけではなく相乗的に耐加水分解性が向上する。なお、ブリードアウトの観点から、シリコーンオイルのフェニル基含有量(オルガノポリシロキサン中のケイ素原子に結合した1価の有機基(非置換又は置換1価炭化水素基)の全体に対するモル%)が、5モル%以上80モル%以下であることが好ましく、より好ましくは7モル%以上70モル%以下である。また、上記シリコーンオイルは、1種を単独で、または2種以上で混合して用いることができる。
【0041】
このようなフェニル基を含有する無官能性シリコーンオイルとしては、例えば分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖フェニルメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖フェニルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等の、直鎖状のフェニルメチルポリシロキサン(フェニルメチルシリコーンオイル)等が挙げられるが、環状、鎖状、分岐状、網目構造のいずれでもよく、特に直鎖状のものが好ましい。
【0042】
本発明で用いるシリコーンオイルは、ブリードアウト性の観点から25℃における粘度が1000cps以下であることを特徴とする。ここで、粘度が1000cpsを超える場合には、モノフィラメント表面にブリードアウトするシリコーンオイルの量が少なくなり、必要十分な耐摩耗性および耐加水分解性を発揮することができない。
【0043】
また、本発明では、シリコーンオイルの含有量は1.0〜10.0重量%であることを必須とするが、3.0〜7.0重量%であるよりことが、より好ましい条件として挙げられる。ここでシリコーンオイルの含有量が1.0重量%未満である場合は、必要十分な耐摩耗性および耐加水分解性が得られず、逆に10.0重量%を超える場合は、紡糸工程においてスクリューの噛み込み不良等紡糸操業性に支障をきたすばかりか、モノフィラメントの引張強度が不足する結果を招くため好ましくない。
【0044】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、JIS−L1013に記載の方法に準拠し測定した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする。ここで引張強度が3.0cN/dtex未満では工業用織物に求められる織物強度の実現が困難となるなど、好ましくない結果に繋がる。
【0045】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントは、1本からなる連続糸であり、繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉、6葉、7葉、8葉、などの多様形状、正方形、長方形、菱形、ドッグボーン状および繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。
【0046】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、通常は0.05〜3mm程度(異形断面の場合は、丸断面面積に換算して直径を算出する)の範囲のものが好適に使用される。
【0047】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法としては、従来公知の方法にて製造が可能である。
【0048】
例えば1軸もしくは2軸エクストルダーのホッパーに、必要量の乾燥したポリエステルペレット、所定量の炭酸カルシウム、MCD化合物およびシリコーンオイル、あるいはこれらの添加剤を高濃度に含有したポリエステルマスターバッチペレットを各々計量供給し、ポリエステル樹脂の融点以上の温度で溶融混練した後、エクストルダー先端に設けた計量ギアポンプを介して紡糸口金より押し出し、冷却・延伸・熱セットを行う等の方法を挙げることができる。
【0049】
なお、MCD化合物については、例えば、そのものの固体または高濃度マスターバッチとして計量供給しても良いが、融点以上に加熱して溶融させた液体としてエクストルダーの入口、またはエクストルダーのバレルの途中から計量供給する方法が好ましい。
【0050】
かくして得られる本発明のポリエステルモノフィラメントは、優れた耐摩耗性と耐加水分解性の両特性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を保持したものであることから、各種工業用織物の構成素材として極めて好適に用いることができ、本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする各種工業用織物は、その使用時に金属やセラミック、プラスチック等の粒子や構造物等と接触した場合でも優れた耐摩耗性を発揮し、これに加え、高温多湿条件下での使用に際しても、極めて良好な耐加水分解性能を具備することから、長期に亘る連続使用を可能とし産業用の利用価値が極めて高いものである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明のポリエステルモノフィラメントの実施例に関し、さらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
また、各種特性の評価は次に説明する方法にしたがって行った。
【0053】
[モノフィラメントのカルボキシル末端基濃度]
(1)10ml試験管に0.5±0.002gのモノフィラメントサンプルを秤取する。
(2)o−クレゾール10mlを前記試験管に注入し、100℃で30分間加熱、攪拌しサンプル溶解させる。
(3)試験管の内容液を30mlビーカーに移す(試験管内の残液を3mlのジクロルメタンで洗浄してビーカーに追加する)。
(4)ビーカー内の液温が25℃になるまで放冷する。
(5)0.02NのNaOHメタノール溶液で滴定する。
(6)サンプル無しで前記(1)〜(5)と同様に行い、サンプル滴定に要した0.02NのNaOHメタノール溶液滴定量からモノフィラメント10gあたりのカルボキシル末端基当量を求める。
【0054】
[モノフィラメントの引張強力および引張強度]
JIS−L1013に記載の方法に準拠して、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して測定し、試料が切断したときの強力を求めた。また、その強力を繊度で割り返して強度(cN/dtex)を求めた。
【0055】
[モノフィラメントの耐摩耗性]
JIS L−1095に記載の方法に準拠して、屈曲摩耗特性試験により測定された値であり、具体的には、固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させたポリエステルモノフィラメントを、ポリエステルモノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けられた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、ポリエステルモノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmでポリエステルモノフィラメントを摩擦子に往復接触させて、ポリエステルモノフィラメントが破断するまでの往復破断回数を求めた。
【0056】
[モノフィラメントの耐加水分解性]
モノフィラメントを100リットルオートクレーブに入れ、121℃の飽和水蒸気で12日間連続処理した後、処理後のモノフィラメントおよび未処理(処理前)のモノフィラメントの強力を上記の引張強力と同一の方法で測定し、処理前後のモノフィラメントの強力保持率を算出し、耐加水分解性の尺度とした(以下、蒸熱処理後の強力保持率という)。なお、算式は、蒸熱処理後の強力保持率(%)=(処理後モノフィラメントの強力÷処理前モノフィラメントの強力)×100であり、強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを示す。
【0057】
〔実施例1〕
PET樹脂(東レ社製T755M、固有粘度1.03)を用い、PET樹脂:炭酸カルシウム(平均粒子径2.0μm)=60重量%:40重量%の配合比で、混練温度:275℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で2軸押し出し機を用いて混練を行い、ポリエチレンテレフタレート中に炭酸カルシウムを混合した炭酸カルシウム樹脂組成物を得た。
【0058】
また、PET樹脂(東レ社製T755M、固有粘度1.03)を用い、PET樹脂:シリコーンオイル(フェニル基含有量40%、25℃における粘度810cps)=60重量%:40重量%の配合比で、混練温度:300℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で2軸押し出し機を用いて混練を行い、ポリエチレンテレフタレート中にシリコーン系化合物を混合したシリコーン樹脂組成物を得た。
【0059】
PETペレット、上記炭酸カルシウム樹脂組成物、MCD化合物および上記シリコーン樹脂組成物の組成比が、PET:炭酸カルシウム:MCD化合物:シリコーンオイル=91:5:1:3の重量比となるようにエクストルダー型の紡糸機を用いて、紡糸温度280℃で溶融混練し、紡糸口金(口金孔径:1.5mm−15H(ホール))から溶融ポリマーを押し出した後、直ちに70℃の温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0060】
引き続き未延伸糸を常法にしたがい合計5.5倍に延伸および熱セットを行ない、直径0.40mmの断面形状が円形のポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントのカルボキシル末端基濃度、引張強度、耐摩耗性および耐加水分解性を表1に示す。
【0061】
〔実施例2〜4〕
炭酸カルシウムの含有量および平均粒子径を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0062】
〔実施例5〜7〕
シリコーンオイルの含有量および粘度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0063】
〔比較例1〜9〕
使用した炭酸カルシウムの含有量および平均粒子径、MCD化合物の含有量、シリコーンオイルの含有量および粘度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から明らかな通り、本発明におけるポリエステルモノフィラメント、つまりポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)炭酸カルシウム、(B)モノカルボジイミド化合物、(C)シリコーンオイルの3成分を必須成分として構成されたポリエステルモノフィラメント(実施例1〜7)は、優れた耐摩耗性および耐加水分解性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を保持していることから、各種工業用織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスといった抄紙用織物の構成素材として好適である。
【0066】
これに対して、本発明の要件を一つでも欠いたポリエステルモノフィラメント(比較例1〜9)は、耐摩耗性および耐加水分解性に欠け、また工業用織物として必要な引張強度が得られないなど、各種工業用織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスといった抄紙用織物としての要求特性を満足していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来の技術では達成できなかった優れた耐摩耗性と耐加水分解性の両特性を兼備すると共に、必要十分な引張強度を有していることから、各種工業用織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスといった抄紙用織物の構成素材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)平均粒子径(粒度分布からの重量50%径)が1.0〜5.0μmである炭酸カルシウム1.0〜10.0重量%、(B)モノカルボジイミド化合物0.1〜2.0重量%、(C)25℃における粘度が1000cps以下である無官能性シリコーンオイル1.0〜10.0重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、カルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下であると共に、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記無官能性シリコーンオイルのフェニル基含有量が5〜80モル%であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。

【公開番号】特開2011−202298(P2011−202298A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69193(P2010−69193)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】