説明

ポリエステルモノフィラメント及びそれからなる繊維構造体

【課題】フィブリル等の欠点が少なく、高強力かつ屈曲疲労性に優れたポリエステルモノフィラメントおよびそれからなる繊維構造体を提供すること。
【解決手段】ポリエステルからなるモノフィラメントであって、二価金属とリン化合物からなりかつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とするポリエステルモノフィラメント。さらには、該二価金属が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることや、該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。また、該モノフィラメントを構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることや、該モノフィラメントの線径が0.01〜2mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルモノフィラメント及びそれからなる繊維構造体に関し、さらに詳しくは、フィブリル等の欠点が少なく強力に優れたポリエステルモノフィラメント及びそれからなる繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルモノフィラメントはその優れた物理的特性及び化学的特性を有するため、製紙用ファブリック、フィルター、スクリーン用紗、さらには衣料用途としても各種使用されている。しかし通常の細いポリエステル繊維と比べるとモノフィラメントは繊度が大く、溶融吐出後のポリマーの冷却・固化を均一に行うことが困難であるため、物性を向上させることが困難であった。
【0003】
例えば、産業資材用に用いられることの多いポリエステルモノフィラメントは、高強力化の要求に応えるために延伸倍率を高く設定することが多いが、その延伸工程等においてフィブリル化や断糸が発生しやすい傾向にあった。また、近年ではモノフィラメントの用途も幅広く展開せれてきており、高強力に加え、屈曲疲労性などの他の物性面における要求特性も高いものとなってきている。
【0004】
そこで、モノフィラメントのポリマー物性を向上させるために、添加物として粒状物を添加する技術が開示されている。例えば特許文献1では、炭酸カルシウム等の粒子径0.2〜1.0μmの無機粒子を含有するポリエステルモノフィラメントが開示されている。また特許文献2では、酸化アルミニウム等の20〜100nmの厚みの小板形粒子を含有するポリエステルモノフィラメントが開示されている。
【0005】
しかし、いくらモノフィラメントが通常繊維よりは太いとはいっても、このような一般的な粒子を含有させた場合には紡糸等が困難となり、結果的にフィラメントの引張強度等の低下は避けられないという問題があった。特に紡糸後の延伸工程において断糸が発生しやすく、高強力化するために延伸倍率を高く設定することが困難だったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266873号公報
【特許文献2】特開2007−23474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フィブリル等の欠点が少なく、高強力かつ屈曲疲労性に優れたポリエステルモノフィラメントおよびそれからなる繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、ポリエステルからなるモノフィラメントであって、二価金属とリン化合物からなりかつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0009】
さらには、該二価金属が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることや、該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。
【0010】
また、該モノフィラメントを構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることや、該モノフィラメントの線径が0.01〜2mmであることが好ましい。
【0011】
もう一つの本発明の繊維構造体は、上記の本発明のポリエステルモノフィメントからなる繊維構造体であり、織物は、上記の本発明のポリエステルモノフィメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した織物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィブリル等の欠点が少なく、高強力かつ屈曲疲労性に優れたポリエステルモノフィラメントおよびそれからなる繊維構造体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、ポリエステルからなるモノフィラメントであって、二価金属とリン化合物からなりかつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを必須とするものである。
【0014】
ここで本発明のポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステルポリマーとしては、産業資材として優れた特性を有する汎用的なポリエステルポリマーが用いられる。中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましく、とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0015】
そして本発明のポリエステルモノフィラメントは上記のようなポリエステルからなるモノフィラメントであって、かつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子であって、二価金属とリン化合物からなる層状ナノ粒子を含むことを必須とする。通常ポリエステルモノフィラメントは、そのエステル交換触媒・重縮合触媒として用いられた球状の触媒含有粒子を含むことが多いが、本発明で使用されるポリエステルモノフィラメントに含有される触媒含有粒子の形状が、層状ナノ粒子であることにその最大の特徴がある。この本発明の作用機構は定かではないが、ポリマー中の粒子形状が層状構造をとることにより、球状粒子に比べてその表面積が大きくなり表面エネルギー活性も高く、結晶核剤としての作用を促進させるためであると考えられる。そしてこの触媒含有の微粒子が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmとの微小構造をとることによりさらにポリマーの結晶性が向上し、結晶構造の均一化や微分散化が促進され、分子配向を適切に抑制するため、繊維の物性が著しく向上するとともに優れた耐久性、寸法安定性を発揮するものであると考えられる。
【0016】
この層状ナノ粒子の一辺の長さとしてはさらには6〜80nmであることが好ましく、10〜60nmであることがさらに好ましい。このような本発明に適用されるポリエステルモノフィラメントの層状ナノ粒子は透過型電子顕微鏡(TEM)により確認することができる。層状ナノ粒子の大きさが100nmより大きいと繊維中で異物として作用し断糸や単糸切れが発生しやすく、強度やモジュラス等の機械特性や繊維構造体としたときの耐久性などの低下を引き起こしてしまう。一方、粒子が小さすぎる場合には、ポリマーの結晶性向上や製糸性向上などの効果が得られにくく、得られる繊維の物性が低下するばかりでなく、繊維構造体の耐久性や寸法安定性も低下する。
【0017】
また層状ナノ粒子の各層の層間間隔としては1〜5nm、さらには1.5〜3nmであることが好ましい。層状ナノ粒子の一辺の長さが長すぎると微小構造とならずに欠点が目立つようになる。また一辺の長さが小さすぎると層状構造をとりにくくなる。一方、この層状ナノ粒子の層間間隔としては主に金属元素から成る層と、それ以外の元素である炭素、リン、酸素などの元素からなる層の間隔であり通常1〜5nm、さらに多くは1.5〜3nmの範囲をとることが好ましい。また層状構造とは、各層が少なくとも3層以上、好ましくは5〜100層並行して並んでいる状態である。またその各層の間隔は、各層の配列のほぼ直角方向に、各層の長さの1/5以下の間隔にて並んでいる状態であることが好ましい。
【0018】
本発明のポリエステルモノフィラメントはこのような層状ナノ粒子を含むことを必須とするが、好ましくは粒子の50%以上が層状構造をとることが好ましく、さらには70%以上が、最も好ましくは全ての触媒含有粒子が層状構造であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明のポリエステルモノフィラメントは、繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有することが好ましい。この数値は、nmオーダーの層間間隔を有する層状ナノ粒子が繊維軸方向に規則正しく配向していることを示すものである。このように層状ナノ粒子が繊維軸方向に特異的に配向することによって、本発明のポリエステルモノフィラメントは、さらにポリエステル製糸工程でのフィブリル化が極めて低くなり、得られたポリエステルモノフィラメントに欠点が少ないものとなった。そしてその物性が極めて高いレベルであるゆえに、耐久性、寸法安定性に優れたポリエステルモノフィラメントが得られ、それを用いた産業繊維構造物の耐久性や寸法安定性を向上することが可能となったのである。
【0020】
また、本発明の層状ナノ粒子中に含まれる金属元素としては、二価金属であることが必要である。さらには周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。さらには層状ナノ粒子としては、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。このような金属元素は、本願の微小な層状ナノ粒子を構成しやすいとともに、触媒活性が高く好ましい。
【0021】
さらに本発明のポリエステルモノフィラメントに存在する層状ナノ粒子は、金属及びリン化合物から構成されているものであるが、リン化合物としては、下記一般式(化I)で表されるリン化合物由来であることが好ましい。
【0022】
【化1】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0023】
ちなみに式中で用いられているArは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を挙げることができる。さらにはRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることがきる。また上記(化I)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。中でもアリール基を有するリン化合物を添加すると、高い結晶性向上効果が現れる傾向にあり、好ましい。
【0024】
特にリン化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸およびそれら誘導体であることが最適であり、中でも下記式で表されるフェニルホスホン酸およびその誘導体は使用量も少なくて済むため有効である。また、得られるポリエステルの色相・溶融安定性、製糸性、高い層状ナノ粒子の形成能などの好ましい物性面、ポリエステル製造工程での副生成物が発生しない面、作業性の面からもフェニルホスホン酸であることが最も好ましい。
【0025】
【化2】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0026】
このような水酸基を有するリン化合物は、沸点が高く、真空下で飛散しにくいため特に好ましい。飛散した場合には、添加したリン化合物がポリエステル中に残存する量が減り効果が得られない傾向となる。飛散性が高い場合には、真空系の閉塞が発生しやすく、高温で溶融・吐出される紡糸工程において、ポリマーから遊離・溶出する現象が発生し、口金に固着した異物を形成しやすい欠点があり、長期間での製糸の安定性を悪化させる原因となり、好ましくない。また、水酸基を有す場合には、リンに直接結合するため、エステル交換触媒・重合触媒などの金属化合物を失活する能力が高く、得られるポリマーの溶融安定性・色相の安定化に資する。
【0027】
本発明のポリエステルモノフィラメント中に存在する金属含有の層状ナノ粒子は金属成分とリン成分からなるものであるが、この場合本発明のポリエステルモノフィラメント中の金属およびリンの含有量としては、下記の数式(I)式及び数式(II)式を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 数式(I)
0.8≦P/M≦2.0 数式(II)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0028】
金属含有量が少なすぎると、結晶核剤として機能する層状ナノ粒子の量が不十分であり、このポリエステルモノフィラメントからなる繊維構造体の物性向上効果が得られにくい傾向にある。逆に多すぎると異物としてモノフィラメント中に残存し物性を低下させ、ポリマーの熱劣化が激しくなるなどの傾向にある。また数式(II)で示されるP/M比が小さすぎる場合には、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/M比が大きすぎる場合には、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物成分がポリエステルの重合反応を阻害し、物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルモノフィラメントの強度としては、20cN/tex以上であることが好ましく、特には40〜100cN/texであることが好ましい。さらには50〜95cN/texであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。伸度としては、10〜25%程度であることが好ましく、さらには15〜20%であることが好ましい。屈曲時の強度である引掛強度としては30〜100cN/tex、さらには45〜90cN/texであることが好ましい。
【0030】
また、モノフィラメントの繊径に関しては、0.01〜2mmであることが好ましく、さらには0.01〜0.5mmが、特には産業用資材として、0.05〜0.3mmであることが好ましい。繊維径が小さすぎる場合、産業用資材としての強力が発揮されにくく、また、繊維径が大きすぎる場合には屈曲性が悪くなり、繊維構造体とした時の屈曲疲労性が悪くなる傾向にある。
一方、このような本発明の層状ナノ粒子を含むポリエステルモノフィラメントは、より具体的には、例えば下記のような製造方法にて得ることができる。
【0031】
まず、モノフィラメントを構成するポリエステルポリマーは、例えばテレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。
適当な第3成分としては、1個及び2個のエステル形成官能基を有する化合物が挙げられ、3個の場合も重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
【0032】
また、前記ポリエステル中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていても良いことはいうまでもない。
【0033】
より具体的にこのようなポリエステルポリマーの製造方法を述べると、従来公知のポリエステルポリマーの製造方法を挙げることができる。すなわち、酸成分として、テレフタル酸ジメチル(DMT)あるいはナフタレン−2,6―ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表されるジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分としてテレフタル酸(TA)あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
【0034】
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、上記の層状ナノ粒子を構成する二価金属を用いることが効率的であるが、それ以外の金属を用いてもよく、中でも、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト化合物が好ましく、さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0035】
重合触媒については、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム化合物が好ましい。中でも、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
【0036】
なお、テレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法においては、上記のようなエステル交換触媒やその直接エステル化反応の際の触媒は一般には不要である。しかし本発明では、あえて層状ナノ粒子を形成しうる金属成分を含有せしめることが必要となる。金属成分の含有量としては、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲内であることが好ましい。
【0037】
また、層状ナノ粒子を生成するためにはこれら金属成分が存在するポリエステル中にリン化合物を添加することが好ましい。このリン化合物の添加時期は、特に限定されるものではなく、ポリエステル製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間であり、より好ましくはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間である。
【0038】
あるいは、ポリエステルの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、さらに好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのリン化合物、ポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えばリン化合物、ポリエステルを別々に混練機に供給する方法、高濃度のリン化合物を含有するマスターチップとポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。
【0039】
このように重合された、ポリエステルのポリマーは、紡糸直前の樹脂チップの極限粘度としては、公知の溶融重合や固相重合を行うことによって、ポリエチレンテレフタレートでは0.80〜1.20、ポリエチレンナフタレートでは0.65〜1.2の範囲とすることが好ましい。樹脂チップの極限粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また極限粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点等からも好ましくない。極限粘度としては、さらにはそれぞれ0.9〜1.1、0.7〜1.0の範囲内であることが好ましい。
【0040】
本発明のポリエステルモノフィラメントを製造するためには、このようにして得られたポリエステルポリマーを溶融紡糸することによって得ることができる。ポリマーの溶融温度としては280〜330℃、さらには295〜320℃であることが好ましい。また、吐出孔の口径は0.2〜5mmが好ましく、さらには細繊度の時には2mm以下、特には0.35〜1.3mmの範囲であることが好ましい。
【0041】
そして紡糸口金から吐出されたポリマーは30℃以上120℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下の冷却溶媒によって冷却される。さらには冷却水槽の温度としては、70〜85℃にコントロールすることが好ましい。冷却溶媒温度が低すぎるとポリマーが急冷されすぎてしまい、屈曲性が損なわれる傾向にあり、フィブリル化などの品質異常を招く要因となる可能性がある。逆に高温であるとポリマーの冷却が不十分となり、工程途中にて容易に繊維径形状が変形する傾向に有る。ここで使用する冷却溶媒としては、乾燥により繊維から容易に除去できるものであって、繊維のポリマーに対して物理的または化学的に影響を与えず、かつ、上記温度範囲で液体のまま形状を保持できるものであれば特に制限はない。具体的には、水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、キシレンなどが挙げられるが、取り扱い性や環境、コストの面から水が好ましい。通常の細い繊度の繊維の場合、空冷によっても冷却は容易であるが、本発明のような太い繊度のモノフィラメントの場合、熱伝達性の高い液体の冷却溶媒を用いることが好ましい。空冷方式よりもより均一に冷却でき、フィラメントの物性を向上させることができる。
【0042】
また本発明のポリエステルモノフィラメントを製造するためには、このようにして得られた未延伸糸を引続いて延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能となる。延伸は目標とする物性に合わせて任意の条件を設定できるが、一般的には30℃〜250℃の温度にて1.5倍〜7.0倍の延伸を行うとよい。また、延伸を複数回に分けて行うことは、強力やモジュラスを向上させる点から好ましい。従来はフィラメント中にこのような粒状物を含有させた場合、例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明では特有の層状ナノ化合物の存在により延伸による結晶化において微細結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
【0043】
このような製造方法においては、ポリエステルポリマーが本発明特有の層状ナノ粒子を含有することにより、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成することとなる。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させるため、各工程での断糸率を大幅に低下させ、結果として得られるポリエステルモノフィラメントの物性が向上したのであると考えられる。
【0044】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、繊維の極限粘度IVfの低下が少なく、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さい。さらには熱がかかった場合においても強度低下が小さくなる。また、一方ではフィブリル化などの欠点が少なく、製糸性も良好となる。
【0045】
この本発明の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、微小な層状ナノ粒子を含有し、この微粒子が分散することにより、ポリエステルポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、繊維の構造的欠陥が低減したためであると考えられる。また、本発明のポリエステルモノフィラメントでは、層状ナノ粒子が繊維軸に平行に特異的に配向していることが好ましいが、それによりポリマー分子が規則的に配向し、欠点の低減、製糸性の向上、物性バラツキの減少などの効果を発揮しているものと考えられる。
【0046】
このような製造方法にて得られる本発明のポリエステルモノフィラメントは、フィブリル等の欠点が少なく、高強力かつ屈曲疲労性に優れたポリエステルモノフィラメントとなる。
【0047】
そしてもう一つの本発明である繊維構造体は、上記の本発明のポリエステルモノフィレラメントからなる構造体である。繊維構造体の形態としては、織物、編物、不織布など任意のものを採用することができるが、強度、および経方向、緯方向のバランスの面から、織物であることがもっとも好ましい。また織物の場合には本発明のポリエステルモノフィメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した織物であることが好ましい。このような織物の場合、一本の単糸にて使用される以外に、モノフィラメントを複数本組み合わせたもの、さらには複数本組み合わせた単糸を撚り合わせたものなど、織物を構成する経糸及び/または緯糸の少なくとも一部に使用することもできる。織物の織り方としては、平織り、綾織などの一重織のほか、二重織、三重織といった織物を使用することも好ましい。例えば平織りであれば、織密度15〜200本/インチ、さらには20〜170本/インチであることが好ましい。目付けとしては30〜300g/mの範囲が好ましい。
【0048】
このような本発明の繊維構造体は、製紙用ファブリックや、各種工業用のベルトやフィルター、ネットとして用いることができる。
例えば製紙用ファブリックとしては、製紙機の紙漉き工程で使用されるフォーミングワイヤーや乾燥工程で使用されるドライヤーキャンバスなどの網状構造体として用いることができる。これらは使用中の各種ローラーや紙の重みなどに耐える強度が必要なばかりでは無く、メンテナンス時には工程で発生する汚れを落とすため、高圧の水や空気によって繰返し屈曲を受けることとなる。強度、屈曲疲労性に優れ、フィブリル化しにくい本発明のモノフィラメントを用いた繊維構造体は、このような過酷な用途に最適である。
【0049】
また、フィルターとしては、ビールや醤油といった食品製造工程や汚泥処理工程、砂利の汚濁水清浄処理工程などに用いられる分離フィルター用途に最適である。これらの用途には、高強度、高モジュラス、耐屈曲疲労性などの要求があり、本発明のポリエステルモノフィラメントからなる繊維構造体を有益に用いることが出来る。
このような本発明の繊維構造体は、高強力でありながらフィブリル等の欠点が少なく、屈曲疲労性に優れたものとなり、各種産業用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0051】
(ア)層状ナノ粒子の長さ
層状ナノ粒子の有無、構成元素の確認は、ポリエステル樹脂・繊維を、常法によって厚さ50〜100nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(FEI社製TECNAI G2)加速電圧120kVで観察し、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM−2010)加速電圧100kV・プローブ径10nmで元素分析を行った。得られた画像から粒子の1片の長さを求めた。
【0052】
(イ)層状ナノ粒子の層間距離(X線回折測定)
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。そして、層状ナノ粒子の層間距離d(オングストローム)は、2θ(シータ)=2〜7°の赤道方向に現れる回折ピークから2θ(シータ)−d換算表を用いて算出した。
【0053】
(ウ)繊維の強度および引掛け強度
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。
【0054】
(エ)耐屈曲疲労性
JIS−P−8115に準じ、評価用織物布帛をタテ11cm、ヨコ1.5cmのシート状に切り出し、MIT型屈曲試験機に荷重9.8Nでセットし、速度175回/分、角度135°で屈曲させた時の破断回数を示した。
【0055】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、フェニルホスホン酸0.0522質量部(DMT対比33mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。得られたポリエステルチップを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの層状ナノ粒子を含有していた。
【0056】
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下160℃にて3時間の乾燥、予備結晶化し、さらに230℃真空下にて固相重合反応を行い、極限粘度1.0のポリエチレンテレフタレート組成物チップを得た。
これをポリマー溶融温度296℃にて口径直径0.7mmの紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した78℃に加温した冷却水層にて冷却し、28m/minの速度で引き取った。この吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて連続的に合計5.52倍の3段延伸と210℃熱セットを行い、繊維径0.15mmのモノフィラメントを得た。このものの強度は56.7cN/tex、伸度13.7%、引掛け強度75.3cN/texでフィブリルなどの欠点もなく、製糸性に優れたものであった。
【0057】
また、得られたポリエステルモノフィラメントを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの平均11層の層状ナノ粒子を含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。酢酸マンガン由来の金属含有量は30mmol%、フェニルホスホン酸由来のリン含有量は30mmol%、P/M比は1.0であった。また、層状ナノ粒子は繊維軸に平行して配向していることが、透過型顕微鏡観察やX線回折から観察された。得られたモノフィラメントの物性を表1に示す。
また、得られたモノフィラメントを経緯52本/inch(2.54cm)の織密度で2軸の平織物を作製し、屈曲疲労性試験用布帛とした。この織物の目付は95g/mであった。得られた屈曲疲労性試験の結果も表1に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、フェニルホスホン酸の代わりに亜リン酸を添加したこと以外は実施例1と同様に実施しモノフィラメントを得た。ここで用いたポリエステルモノフィラメントでは、電子顕微鏡で観察したが層状ナノ粒子は観察されず、粒子が存在した場合でも一般的な球状の形態であった。結果を表1に併せて示す。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルからなるモノフィラメントであって、二価金属とリン化合物からなりかつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
該二価金属が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項1記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
該リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体である請求項1または2記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
該モノフィラメントを構成するポリエステル中の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものである請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
該モノフィラメントの線径が0.01〜2mmである請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステルモノフィメントからなる繊維構造体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステルモノフィメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した織物。

【公開番号】特開2011−58135(P2011−58135A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210506(P2009−210506)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】