説明

ポリエステル斑糸およびそれを用いた混繊糸

【課題】経時変化による変動の少ないシックアンドシンヤーンを得ること、および布帛として安定したアルカリ減量処理を可能とすること。
【解決手段】エチレンテレフタレート系ポリエステルを毎分2000〜5000m程度の条件で溶融吐出して巻き取った中間配向状態の複屈折率が0.05以下である未延伸原糸を用い、1〜30%オーバーフィードしながら弛緩熱処理して糸長方向に収縮斑を潜在的に有する斑糸を得る。弛緩熱処理条件は、予熱温度を90〜150℃、熱セット温度を200〜250℃、要すれば、予熱の前に交絡ノズルを設置しヤーンに交絡を施す。染色時に斑が顕在化し、従来製品にない霜降り状外観が得られ、しかもアルカリ減量時の減量量の変動を抑制して所定の風合とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未延伸(中間配向)糸を弛緩熱処理して得られるポリエステル斑糸に関するものであり、特に従来にない斑感が得られるばかりでなく、このポリエステル斑糸を含む繊維製品をアルカリにより減量処理するに際し、繊維製品の品質のばらつきを抑え得るポリエステル斑糸およびその斑糸を含む混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術にあっては、ポリエステル斑糸(以下、シックアンドシン糸という場合がある)、即ち、繊度が長手方向において変化するポリエステルヤーンは、それによって得られる布帛が特異な風合いを呈し、またこの布帛を染色すると霜降り状を呈することから特殊なヤーンとして知られている。
【0003】
一般的なポリエステル斑糸の製造方法としては、ポリエステルヤーンの紡糸中または延伸中に、ヤーンと溝付ローラーまたはガイドとの接触角を変化させてヤーン張力を変動させる方法が知られている(例えば、下記特許文献1,2参照)。しかしながら、この方法では装置が複雑になり、しかも生産性が低いため工業的には実施しづらいという問題点がある。比較的工業生産しやすい方法としては、紡糸直後の未延伸糸を数日以上経時させた後に、適当な倍率と温度で延伸する方法がよく知られている。もっとも、この方法ではシックアンドシンのパターンが使用する未延伸糸の経時変化によって大きく変動すること、また布帛として後にアルカリ減量処理を施すことが多々あるが、その際のアルカリ減量の進み具合が変動して一定した仕上がりの布帛が得難い、という問題点を有していた。
【0004】
【特許文献1】特開平3−199442号公報
【特許文献2】特開2000−265324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術の問題点を解消すべく鋭意検討した結果、本発明者は、ポリエステルを溶融吐出して巻き取った未延伸糸(中間配向糸)を用いて、これをオーバーフィードしながら特定の条件で弛緩熱処理することによって、糸長方向に収縮斑を有するポリエステル斑糸が得られることに着目し、収縮斑によって従来にない染色時の霜降り状外観が得られ、しかもアルカリ減量時の減量変動を抑制できることを見出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、このような知見に基づき、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下のような本発明に到達した。
すなわち、本発明のうち、請求項1に係る発明は、ポリエステルを溶融吐出して巻き取った、複屈折率(△n)が0.05以下である、すなわち、中間配向状態にある未延伸糸を出発原料(以下、原糸と称することがある)とし、該原糸をオーバーフィードしながら、予熱温度が90〜150℃の範囲内の温度でかつ熱セット温度が200〜250℃の範囲内の温度で弛緩熱処理して得られる、糸長方向に収縮斑を有するポリエステル斑糸である。つまり、中間配向状態乃至無配向状態の原糸を特定の条件で弛緩熱処理することにより、糸長方向に収縮斑を顕在化せしめたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、未延伸糸を弛緩熱処理するに際し、オーバーフィード率を1〜30%に設定するものである。オーバーフィード量は一定値に固定するほか1〜30%の範囲で経時的に変化させてもよい。斑糸としてこの程度のオーバーフィード量が適切である。また、請求項3に係る発明は、未延伸糸を弛緩熱処理するに際し、予熱の前に交絡ノズルを設置してヤーンに交絡を施し、しかる後熱処理を加えてなる交絡状態のポリエステル斑糸である。
【0008】
加えて、請求項3に関る発明は、上記請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のポリエステル斑糸を、弛緩熱処理と同時に又はその後の工程において、異なる糸と混繊してなる混繊糸である。ここに、異なる糸とは、斑のない通常糸、高度の配向糸等を含む。
【0009】
さらに、補説すると、本発明者は、ポリエステルを溶融吐出して巻き取った中間配向状態の複屈折率(△n)が0.05以下である原糸を用いて、これをオーバーフィードしながら特定の条件で弛緩熱処理することで糸長方向に収縮斑を有するポリエステル斑糸が得られることを見出した。種々の斑糸の発現状態の検討の結果、未延伸糸を弛緩熱処理するに際し、予熱温度を90〜150℃の範囲内の温度に設定し、かつ、熱セット温度を200〜250℃の範囲の温度に設定して弛緩熱処理を施すこと、さらには、そのときのオーバーフィード率を1〜30%に設定すること、また、要すれば、予熱の前に交絡ノズルを設置してヤーンに交絡を施すこと、などの条件下に得られたポリエステル斑糸は、収縮斑によって従来にない染色時の霜降り状外観が得られることを知見した。しかも、この斑糸からなる織物布帛等をアルカリ減量すると、減量時の処理量の変動を抑制することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
また、上記のポリエステル斑糸を弛緩熱処理と同時にもしくはその後の段階で異なる糸と混繊した混繊糸としても上記の効果を発現したままさらに混繊による風合いの向上や機能の発現を図ることも可能である。
【発明の効果】
【0011】
従来の方法で得られたシックアンドシン糸では、斑パターンが使用する未延伸糸の経時変化によって大きく変動することが多々あり、また、布帛として後工程のアルカリ減量の進み具合が変動して一定した仕上がりの(所定の減量量を示す)布帛が得られない、という欠点を有していた。これに対して、本発明のポリエステル斑糸では複屈折率(△n)が0.05以下である中間配向糸に特定の条件下にて弛緩熱処理を施すだけであるので、比較的容易に工業生産でき、しかも品質のばらつきを小さく抑えて生産することが可能である。
【0012】
さらに、従来のシックアンドシンヤーンでは糸条の状態で糸長方向に太細斑を有しているためワーピング、製織等の工程で毛羽が発生しやすく、作業性が劣り、取り扱いが困難であるという事態がしばしば発生するが、本発明のポリエステル斑糸は、布帛となした後の精錬、染色等の工程で収縮斑によって糸長方向に斑が発生するため、それ以前のワーピング、製織等の工程においては糸長方向の太細斑はなく非常に取り扱いが容易であり、毛羽等の問題が生じにくい。
【0013】
また、本発明のポリエステル斑糸は糸長方向の収縮斑によってシックアンドシンパターンを得るため糸長方向でのアルカリ減量速度のバラツキがなく一定した仕上がりの布帛を得ることができるという大きな利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本発明で用いられるポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルを対象とするものであり、染色性、抗ピル性、熱収縮特性等を改善するために、少量(通常、15モル%以下、好ましくは10モル%以下)の第3成分を共重合したものであってもよい。また、他種ポリマーを少量(通常、ポリエステルに対して10重量%以下)混合してもよい。さらに、制電剤、艶消剤、紫外線吸収剤、染色性改良剤の添加剤を配合したものであってもよい。
【0015】
本発明のポリエステル斑糸の製造には、2000〜5000m/分程度の比較的高い紡糸速度で紡糸したポリエステル未延伸糸(通常、中間配向糸やPOYと呼ばれる)を用いるのが好適である。しかしながら、一般にポリエステル繊維は紡糸速度だけでなく単糸の太さによってその配向度合い(複屈折率)が変化するため、本発明のポリエステル斑糸を製造するための中間配向糸としては、複屈折率(△n)が0.05以下であることが重要である。仮に複屈折率(△n)が0.05を超える中間配向糸を用いた場合には目的とする収縮斑が得られないばかりか、配向が大きすぎるために得られた糸が硬くなってしまい、布帛の風合としても好ましいものが得られない。
【0016】
また、本発明では、上記の未配向糸を弛緩熱処理するに際し、予熱温度を90〜150℃とし、かつ熱セット温度を200〜250℃に設定することが必要である。予熱温度が90℃より低いか又は熱セット温度が200℃より低いと収縮斑が大きくなりすぎ、布帛とした後の取り扱いが困難になる。他方、予熱温度が150℃を超えるか又は熱セット温度が250℃を超える場合には、収縮斑が発現しなくなり、目的とする斑糸が得られなくなる。
【0017】
本発明では、複屈折率(△n)が0.05以下の中間配向糸をオーバーフィードしながら上記の温度条件で弛緩熱処理することで糸長方向に潜在的な収縮斑を有するポリエステル斑糸を得る。この際、すでに述べたように、オーバーフィード率としては、1〜30%に設定するのが好ましい。オーバーフィード率が1%未満では弛緩熱処理時の糸にかかる張力が大きくなり、目的とする収縮斑が発現しにくい。他方、オーバーフィード率30%を超えると、糸の走行が不安定になり、製造工程での断糸が生じて作業効率の低下や歩留まりの低減がおきやすいうえに、単糸が切れて布帛とした際に毛羽派生などの問題を惹き起こすため好ましくない。
【0018】
さらに、本発明において、未配向糸を弛緩熱処理するに際し、予熱の前に交絡ノズルを設置することが好ましい。交絡ノズルがないと弛緩熱処理時に単糸の収束性が乏しく、個々の単位にばらばらになってしまい、均一な熱処理を施せない場合があるからである。
【0019】
本発明によれば、衣料用の分子量からなるホモポリマー又はそれに準ずるエチレンテレフタレート系ポリエステルを毎分2000〜5000mの比較的高速の溶融紡糸速度の条件で溶融吐出して巻き取った中間配向状態の複屈折率(△n)が0.05以下である未延伸原糸を用いて、これをオーバーフィードしながら、予熱温度90〜150℃でかつ熱セット温度200〜250℃の条件で弛緩熱処理することにより糸長方向に収縮斑を潜在的に有するポリエステル斑糸を得ることができる。特に、上記未延伸糸を弛緩熱処理するに際し、オーバーフィード率を1〜30%に設定し、要すれば、予熱の前に交絡ノズルを設置しヤーンに交絡を施すことによって、斑糸を製造できる。
【0020】
かくして本発明のポリエステル斑糸に発現する収縮斑は、従来技術・従来製品にない染色時の霜降り状外観が得られ、しかもアルカリ減量時の変動を抑制して所定の風合いとすることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中に記載されているu%、布帛風合い評価は以下に示す方法によって測定した。
(1)u%
スイスのツエルベガー社製ウスタースペクトログラフを用い、測定速度400m/分、ノーマルモードにて測定した。
(2)布帛風合い
得られた糸条を経糸および緯糸に用い、羽二重に製織し、常法に従って精錬、熱セット、アルカリ減量加工(減量率20%)、染色を施して無地の染め織物を得た。織物の風合いについては、柔らかさ、膨らみ感、高反撥性、毛羽状態を総合的にA(極めて良好)、B(良好)、C(通常、従来技術の良品程度)およびD(不良)の4段階で官能判定した。
(3)シックアンドシン
上記羽二重布帛のシックアンドシンの状態を目視で判定し、霜降り状の状態をA(極めて良好)、B(良好)、C(通常、従来技術の良品程度)およびD(不良)の4段階で、布帛風合いと同様に、官能判定した。
【0022】
[実施例1]
固有粘度が0.63のポリエチレンテレフタレートを常法により290℃で溶融し、3000m/分の紡糸速度で紡糸して、80de/36フィラメント(単繊維繊度:2.2de)のポリエステル中間配向糸POY(△n=0.046)を得た。得られた中間配向原糸を、予熱ローラー温度120℃、熱セットヒーター(非接触式)温度230℃、オーバーフィード率2%で弛緩熱処理し、83de/36フィラメントの糸条を得た。
得られた糸条を経糸および緯糸に用い、羽二重に製織し、常法にしたがって精錬、熱セット、アルカリ減量加工(減量率20%)、染色を施して無地の染め織物を得た。評価結果を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
インターレース(交絡)付与装置で予熱の前に0.12MPaの空気を用いて交絡処理を行う以外は実施例1と同様にして糸条を得、実施例1と同様に布帛となした。結果を表1にまとめて示す。
【0024】
[実施例3]
実施例1と同じ中間配向糸を、予熱ローラー温度135℃、熱セットヒーター(非接触式)温度230℃、オーバーフィード率2%で弛緩熱処理し、83de/36フィラメントの糸条を得、布帛となした。結果を表1に示す。
【0025】
[実施例4]
固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートイソフタレート共重合ポリエステル(イソフタル酸を10.0モル%共重合)を280℃で溶融し、1450m/分の紡糸速度で紡糸した未延伸糸を、87℃で2.9倍に延伸して、沸水収縮率15%、50de/12フィラメント(単繊維繊度:4de)の熱収縮性ポリエステル糸(熱収縮性ポリエステルマルチフィラメント糸)を得た。
この熱収縮性ポリエステルマルチフィラメント糸と実施例1と同じポリエステル中間配向糸とを、図1に示す装置を用いてポリエステル混繊糸を製造した。すなわち、上記両ポリエステルマルチフィラメント糸A,Bを引き揃えて、供給ロール1と第1引取ロール(表面温度が120℃の加熱ロールで予熱ロールを兼ねる)2との間に設けたインターレースノズル3において、600m/分の速度、2%のオーバーフィード率で供給し、0.12MPaの圧空により交絡させ、65ヶ/mのインターレースを付与した。次いで、予熱ロール2の温度120℃、熱セットヒーター(非接触式)5の温度230℃、オーバーフィード率2%の条件で弛緩熱処理し、第2引取ロール4で引き取って、シックアンドシンヤーンを含む混繊糸6を得た。
この混繊糸を経糸および緯糸に用い、羽二重に製織し、常法にしたがって精錬、熱セット、アルカリ減量加工(減量率20%)、染色を施して無地の染め織物を得た。評価結果を表1に示す。
【0026】
[比較例1]
実施例1と同じ中間配向糸を、予熱ローラー温度80℃、熱セットヒーター(非接触式)温度230℃、オーバーフィード率2%で弛緩熱処理し83de/36フィラメントの糸条を得、実施例1と同様に、布帛となした。評価結果を表1に示す。
【0027】
[比較例2]
固有粘度が0.63のポリエチレンテレフタレートを常法により溶融し、3200m/分の紡糸速度で紡糸して、80de/144フィラメント(単繊維繊度:0.55de)のポリエステル中間配向糸(△n=0.055)を得た。得られた中間配向糸を、予熱ローラー温度120℃、熱セットヒーター(非接触式)温度230℃、オーバーフィード率2%で弛緩熱処理し83de/144フィラメントの糸条を得た。
得られた糸条を経糸および緯糸に用い、羽二重に製織し、常法にしたがって精錬、熱セット、アルカリ減量加工(減量率20%)、染色を施して無地の染め織物を得た。評価結果を表1に示す。
【0028】
[比較例3]
固有粘度が0.63のポリエチレンテレフタレートを常法により溶融し、油剤を付与した後に、ノズル数が3のインターレース付与装置で圧力0.15MPaの空気を用いてインターレースを付与した後に2250m/分の速度で引取り、3030m/分の速度で半延伸し、巻き取った。得られた半延伸糸を、予熱ローラー温度87℃、熱セットヒーター(非接触式)温度200℃、延伸倍率1.4倍、延伸速度800m/分で延伸した後、熱セットヒーター(接触式)温度175℃、延伸倍率0.98倍で熱セットして巻き取り、80デニール/36フィラメントのシックアンドシンヤーンを得た。得られたシックアンドシンヤーンを経糸および緯糸に用い、羽二重に製織し、常法にしたがって精錬、熱セット、アルカリ減量加工(減量率20%)、染色を施して無地の染め織物を得た。評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、従来にない斑感と減量時の品質ばらつきを抑制したポリエステル斑糸およびその斑糸を含む混繊糸が得られ、衣料用材料として広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例4で使用した混繊装置の例示である。
【符号の説明】
【0032】
A 本発明のシックアンドシンヤーンとなる糸
B 異なる糸
1 供給ロール
2 第1引取ロール(予熱ロールを兼ねる)
3 インターレースノズル
4 第2引取ロール
5 熱セットヒーター(非接触式)
6 混繊糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを溶融吐出して巻き取った、複屈折率(△n)が0.05以下の中間配向状態にある未延伸糸を原糸として用い、該原糸をオーバーフィードしながら、予熱温度90〜150℃、熱セット温度200〜250℃の温度条件で弛緩熱処理して得られる糸長方向に収縮斑を有するポリエステル斑糸。
【請求項2】
未延伸糸を弛緩熱処理するに際し、オーバーフィード率を1〜30%に設定してなる請求項1に記載のポリエステル斑糸。
【請求項3】
未延伸糸を弛緩熱処理するに際し、予熱の前に交絡ノズルを設置し交絡を施し、しかる後熱処理を加えてなる請求項1に記載のポリエステル斑糸。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のポリエステル斑糸を弛緩熱処理と同時に又はその後の工程において異なる糸と混繊してなる混繊糸。

【図1】
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