説明

ポリエステル染色物の製造方法

【課題】 ポリエステル成形体に付着した分散染料の還元分解を充分に達成することができ、かつ含有硫黄分を減らし、弱酸性を与えるポリエステル染色物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 還元分解性に優れ、かつ硫黄濃度を低減し、かつ弱酸性を与え、かつ廃液着色度を下げるポリエステル染色物の製造方法が開示されている。本発明の製造方法は、浴中でポリエステル成形体を分散染料で染色する工程;該浴から残存する分散染料を除き、新たに水を添加する工程;還元主剤を添加する工程;および該浴を加熱し、そして該浴内の温度が60℃から90℃に達した際、該浴に、還元補助剤を添加する工程;を包含する。本発明の方法においては、洗浄浴自体も分解または滲出した分散染料によって汚染されることもなく、排水時に懸念される環境汚染問題も回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル染色物の製造方法に関し、より詳細には、ポリエステルなどの成形体を所望の色彩に染色する際において、優れた染着性を提供するとともに、当該成形体自体の良好な湿潤堅牢度を保持し得るポリニステル染色物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ポリエステル成形体の染色は、分散染料を使用して行われ、その染色後、当該成形体表面に残存する余分な染料が洗浄工程を経て除去される。
【0003】
上記、洗浄工程は、通常、ハイドロサルファイトと苛性ソーダを含む還元条件下で、染料を分解することにより達成される。
【0004】
現在の産業においては、その大小にかかわらず最大限の環境対応が要求されている。そうした中においても、多量の水と化学薬品を使用し、なおかつ、高度の着色液を排出する染工場は、日常的に廃水負荷軽減を迫られている。こうした状況において、上記、ハイドロサルファイトと苛性ソーダによる還元洗浄法は常に見直しを行うべき対象となっている。
【0005】
すなわち、大量のハイドロサルファイトの使用は、排液中に高濃度の硫黄成分を与え、廃液処理プラントへのダメージや、二次的に起こる臭気の発生を引き起こす。
【0006】
大量の苛性ソーダを含むアルカリ条件下における洗浄のため、洗浄後のポリエステル染色物の水洗や中和に大量の水を使用する。
【0007】
還元廃液の着色度は大きく、かつ、アルカリ性のため、更なる、脱色、中和が必要となり追加の化学物質、洗浄水、希釈水を必要とする。
【0008】
既に亜硫酸水素ナトリウム、および、水素化ホウ素ナトリウムを使用し脱色する特許が出願されている(特許文献1、2、3、4)。
【0009】
【特許文献1】 特開昭54−006901号公報
【特許文献2】 特開昭4−214491号公報
【特許文献3】 特開平6−264385号公報
【特許文献4】 特開平6−057671号公報
【0010】
しかし、上記特許文献1、2、3における請求範囲は木材パルプまたはクレーに限定されている。又、使用する亜硫酸水素ナトリウム、および、水素化ホウ素ナトリウムの量は示されているが、その投入法の詳細は規定されていない。特許文献4も同じく、製紙用パルプを請求範囲とした特許であり、亜硫酸水素ナトリウム、および、水素化ホウ素ナトリウムの使用量に加え、請求項4に、硼水素化物の添加につき、亜硫酸水素ナトリウムの添加の終了から少なくとも2分間の時間間隔の後に、と記述されているもののその理由は示されていない。
また、当該特許の実施例においてもその根拠は表れていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ポリエステル成形体に付着した分散染料の還元分解を充分に達成することができ、かつ含有硫黄分を削減、弱酸性での処理条件を確立するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポリエステル染色物の製造方法であって、浴中でポリエステル成形体を分散染料で染色する工程;該浴から残存する分散染料を除き、新たに水を添加する工程;および該浴を加熱し、そして該浴内の温度が60℃から90℃に達した際、該浴に、還元補助剤を添加する工程;を包含する、方法である。
【0013】
好ましい実施形態では 上記還元主剤が亜硫酸水素ナトリウムであり、そして上記還元補助剤が水素化ホウ素ナトリウムである。
【0014】
本発明は、ポリエステルの染色における染色後の還元洗浄において、還元主剤としての亜硫酸水素ナトリウムの還元効果を最大に引き出すため、還元補助剤としての水素化ホウ素ナトリウムの使用量および投入法の詳細を規定するものである。本発明において還元主剤の活性化は、還元補助剤の添加により急激に行われる。低温にて両剤を混合すると、発生した活性成分は急速に失われてしまい効率よく染料を分解することはできない。本発明においては、当該還元主剤および還元補助剤を添加する際の投入順序と当該浴内の温度との関係を適切に調節することにより、このような問題が容易に解決され得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、従来ポリエステルの染色において湿潤堅牢度を保証するため行われて来たハイドロ苛性還元洗浄法に比較し硫黄含有量を約30%削減し、硫黄分が与える廃液処理プラントへのダメージや、二次的に起こる臭気の発生を大きく抑えることができる。
【0016】
本発明により作り出される「還元成分」は、急速且つ効果的に還元力を発揮し色素成分を分解するため排液時には、CODが極めて低い廃液となる。
【0017】
本発明では処理液の色がほとんど無色となるため、廃液を更に脱色する必要が大幅に低減され、これまで必要であった化学物質の追加がなくなり環境負荷が軽減される。
【0018】
本発明は、弱酸性で進行するシステムであるため、ハイドロサルファイトと苛性ソーダで行われるこれまでの還元洗浄法で通常行われる、生地を中和し、更に、弱酸性に持って行く工程が必要ではない。このため、大幅な水の節約、時間の節約が可能となる。また、アルカリ廃水の発生が多い染色工場においては、酸性廃水として中和に利用する事も可能となる。
【0019】
同じく酸性状態で還元作用が進む性質を利用し、アルカリに弱い素材の還元洗浄や、綿の脱ミネラルと漂白の同時処理など、これまでのハイドロサルファイト苛性法では出来なかった広範な応用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する。
【0021】
本発明においては、まず浴中でポリエステル成形体が分散染料で染色される。
【0022】
本発明に用いられるポリエステル成形体を構成する成分は、主に、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)単独、あるいはポリエステルと他のポリマー成分との組合せから構成される。他のポリマー成分との組み合わせで構成される場合、その構成比は、ポリエステルを基準として、例えばポリマー同量から10分の1倍量の範囲であり、好ましくは、ポリエステルを基準として、ポリマー2分の1倍量から10分の1倍量である。他のポリマー成分の具体的な例としては、天然繊維および合成繊維が包含される。天然繊維には、例えば、綿、麻、シルク、およびウールが挙げられる。合成繊維には、例えば、3GTポリエステル、ポリ乳酸、アセテート、ナイロン、CDP(カチオンダイアブルポリエステル)およびビニロンが挙げられる。本発明に用いられるポリエステル成形体を構成する成分がポリエステルと他のポリマー成分との組合せから構成される場合、それらの間の成分比は特に限定されず、当業者によって適宜選択され得る。本発明に用いられるポリエステル成形体はまた、当業者に周知の添加剤が含有されていてもよい。
【0023】
本発明に用いられるポリエステル成形体を構成する成形体の具体的な例としては、繊維製品(例えば、フィラメント、糸および布帛)、フィルム、シートならびにその他所定の構造体を包含する。本発明において、フィラメントおよび糸の例としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー、トウ、ハイバルクスフ、ハイバルクトウ、紡績糸、混紡糸、加工糸、仮撚糸、異形断面糸、中空糸、コンジュゲート糸、POY(部分配向糸)、DTY(延伸加工糸)、POY−DTY、およびスライバーが包含される。また、本発明において、布帛の例としては、織布;編物;不織布;紐および縄を包含する組物;綿状ハイバルクスフ;スライバー;ならびに多孔質スポンジ;が挙げられる。
【0024】
本発明に用いられるポリエステル成形体の大きさ、厚み、寸法等は特に限定されない。さらに、本発明に用いられるポリエステル成形体には、必要に応じて可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、平滑剤、充填剤、付着防止剤、帯電防止剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、滑り防止剤、顔料などの当業者に公知の添加剤が任意の割合で配合されているものであってもよい。
【0025】
本発明に用いられるポリエステル成形体は、当業者に周知の方法によって染色浴などの浴中で、任意の浴比による染色が行われる。染色に使用される染料は、分散染料である。本発明において使用可能な分散染料の例としては、アゾ系分散染料、キノン系分散染料、キノフタロン系分散染料、ピリドン系分散染料、ニトロ系分散染料、メチン系分散染料、配合分散染料、およびその他の分散染料が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられ得るアゾ系分散染料の例としては、
DIANIX Yellow Brown SE−R(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Yellow Brown S−2R 150%(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Orange E−3R(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Rubine SE−B(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Rubine C−B 150%(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Rubine SE−FG(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Deep Red SF(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Red C−4G 150%(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Violet S−4R(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue XF(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue SF(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Dark Blue SE−3RT(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Navy S−2G(ダイスタージャパン(株)製);
TERASIL Rubine 2GFL(ハンツマンジャパン(株)製);
KAYALON POLYESTER Yellow 4GE(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Yellow 5R−SE200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Orange R−SF(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Yellow Brown 2RL−S(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red BR−S(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red BL−E(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red 3BL−S200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Rubine GL−SE200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Violet 3RL−S200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Blue 2R−SF(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Navy Blue R−SF(日本化薬(株)製);
などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0027】
本発明に用いられ得るキノン系分散染料の例としては、
DIANIX Red AM−86(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Briliant Violet R(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Turquoise S−BG(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue FBL(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue S−BG(ダイスタージャパン(株)製);
TERATOP Pink 3G(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Red FB 200%(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Blue BGE−01(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Violet BL 150%(ハンツマンジャパン(株)製);
KAYALON POLYESTER Pink RCL−E(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red Vilolet FB−L conc(日本化薬(株)製)などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0028】
本発明に用いられ得るキノフタロン系分散染料の例としては、
DIANIX Yellow S−3G(ダイスタージャパン(株)製);
MIKETON POLYESTER Yellow 3GSL(ダイスタージャパン(株)製);
MIKETON POLYESTER Yellow F3G(ダイスタージャパン(株)製);
MIKETON POLYESTER Yellow GSL(ダイスタージャパン(株)製);
などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0029】
本発明に用いられ得るピリドン系分散染料の例としては、
DIANIX Flavine XF(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Yellow S−6G(ダイスタージャパン(株)製);
などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0030】
本発明に用いられ得るニトロ系分散染料の例としては、
DIANIX Yellow AM−42(ダイスタージャパン(株)製);
TERATOP Yellow GWL(ハンツマンジャパン(株)製)などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0031】
本発明に用いられ得るメチン系分散染料の例としては、
DIANIX Yellow 7GL(ダイスタージャパン(株)製);
などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられ得る配合分散染料の例としては、
DIANIX Yellow PAL(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Yellow AC−Enew(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Yellow Brown CC(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Rubine CC(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Red ASC−E 01(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Red CC(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Red PAL(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue PAL(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue K−FBL(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue ACE(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Blue PLUS(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Navy CC(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Black CC−R(ダイスタージャパン(株)製);
DIANIX Black CC−3G(ダイスタージャパン(株)製);
TERATOP Red FN−R(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Yellow EL−F2G(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Red EL−FR(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Scarlet EL−F2G(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Blue EL−B(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Blue EL−FG(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Tuequoise EL−FG(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Black EL−FGL(ハンツマンジャパン(株)製);
KAYALON POLYESTER Scarlet 2R−E(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Blue B−SF conc(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Blue T−S new(日本化薬(株)製);
SUMIKARON Yellow E−RPD(住友化学(株)製);
SUMIKARON Red E−RPD(住友化学(株)製);
SUMIKARON Blue E−RPD(住友化学(株)製);
SUMIKARON Yellow SE−RPD(住友化学(株)製);
SUMIKARON Red SE−RPD(住友化学(株)製);
SUMIKARON Blue SE−RPD(住友化学(株)製)などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0033】
さらに、本発明においては、上記分散染料以外に、例えば、
DIANIX Blue AM−SLR(ダイスタージャパン(株)製);
TERASIL Yellow SD(ハンツマンジャパン(株)製);
TERASIL Navy FL−R(ハンツマンジャパン(株)製)などの商品名でなる分散染料が用いられてもよい。
【0034】
さらに、本発明に用いられ得る分散染料は、
Amacron(AMerican Aniline社製)
Dianix Fast(ダイスタージャパン(株)製);
Dianix Light(ダイスタージャパン(株)製);
Foron、Genacron(クラリアントジャパン(株)製);
Kiwalon(紀和化学工業(株)製);
Latyl(Dupont社製)
Reform(エヌ・エス・カラーテクノ(株)製);
Serilene(ヨークシャージャパン(株)製);;
Terasil(ハンツマンジャパン(株)製);
DENAPLA(長瀬カラーケミカル(株)製);;
ND AUTO(長瀬カラーケミカル(株)製);;
DENA ESTER(長瀬カラーケミカル(株)製)のような商品名でなる染料であってもよい。本発明に用いられる浴には、上記分散染料が任意の割合で添加されている。この割合は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0035】
なお、本発明においては、上記浴中に、染着速度(染め足)の改善および/または色相調整等を達成する目的で、他の分散染料、例えば、C.I.ディスパース・イエロー54、C.I.ディスパース・イエロー64などを含有していてよく、さらに任意の割合の増量剤、pH調整剤、分散均染剤、染色助剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような浸透剤等を含有していてもよい。
【0036】
ポリエステル成形体の染色は、所定量の上記分散染料を水性媒体中に分散させた浴に、必要に応じてpH調整剤、分散均染剤等を加えた後、未染色のポリエステル成形体を浸漬することにより行われる。染色条件は、ポリエステル成形体の種類に応じた染色性の他、染色後の物性変化を抑制するために、特に染色温度、染色時間、および染色浴のpHのような条件を充分選択しておくことが好ましい。染色温度は、例えば、90℃〜140℃、好ましくは100℃〜135℃、より好ましくは、125℃〜135℃である。染色時間は、浴温が目的の温度に達してから、例えば、10分〜60分、好ましくは10分〜30分である。染色浴のpHは好ましくは4〜8の間に設定されていることが好ましい。
【0037】
次いで、上記ポリエステル成形体を残したまま、浴から上記分散染料を含む染料溶液(すなわち、浴中に残存する分散染料)が除かれ、その後、当該浴に新たに水が添加される。添加される水の量は、特に限定されず、当業者によって適宜選択され得る。
【0038】
上記新浴に還元主剤を添加した後、当該浴は加熱され、そして浴内の温度が60℃〜90℃に達した際、該浴に還元補助剤が添加される。
【0039】
還元主剤の添加は、加熱開始後であっても構わない。
【0040】
上記加熱は、当業者に公知の加熱手段を用いて行われ得る。さらに、当該浴には、浴内の温度を定期的にモニターし得る温度計を備えていることが好ましい。還元主剤の添加後、浴の加熱開始後、浴内の温度がモニターされ、60℃〜90℃好ましくは70℃〜85℃、更に好ましくは、80〜85℃に達した際に、還元補助剤が投入される。この時、添加温度が60℃以下では、還元力が不足し十分な還元効果が得られない。また、90℃を越えると還元状態の維持時間が短くなり染色物全面に渡って均一な還元効果が得られない。本発明に用いられる還元主剤は好ましくは亜硫酸水素ナトリウムであり、還元補助剤は好ましくは水素化ホウ素ナトリウムである。本発明に用いられ得る亜硫酸水素ナトリウムの量は、浴内に存在する洗浄液全量(上記にて添加された水の量)に対し、好ましくは1g/L〜5g/Lとなる量である。他方、添加され得る水素化ホウ素ナトリウムの量は、浴内の洗浄液全量に対し、好ましくは0.03g/L〜0.15g/Lとなる量であり、その重量比は、亜硫酸水素ナトリウム30〜50部に対し、水素化ホウ素ナトリウム1部である。
【0041】
染色後の染色浴に直接、還元主剤と還元補助剤をこの順で添加しても構わない。すなわち、90℃〜140℃での浸漬処理の後、冷却中に先ず、還元主剤を入れる。この時の投入温度は、例えば、90〜85℃である。次に、当該還元主剤が染色生地に十分行き渡るのを待ち還元補助剤を添加する。この時の投入温度は、例えば、85〜80℃である。
【0042】
上記の場合、染色浴がpH4〜6.5の弱酸性の場合には、還元主剤の添加の前に少量のアルカリを添加し、浴を中和しても構わない。
【0043】
本発明においては、先に還元主剤としての亜硫酸水素ナトリウムが添加され、高温に達した後、還元補助剤としての水素化ホウ素ナトリウムが添加されることが好ましい。
【0044】
上記の水素化ホウ素ナトリウムは、苛性ソーダを加え安定化したものであっても構わない。両者の比率は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム1重量部に対し、3〜4重量部の苛性ソーダである。
【0045】
本発明においては、還元主剤、還元補助剤の他に洗浄効果を高めるためのソーピング剤を添加しても構わない。
【0046】
従来、分散染料を用いて染色した直後に行われる還元洗浄は、本来、ポリエステル成形体表面の堅牢度を高めるために行われる。すなわち、分散染料と接触させた際、成形体表面に残存する分散染料を、還元補助剤水素化ホウ素ナトリウムの存在下にて還元主剤亜硫酸水素ナトリウムで分解し、成形体表面の堅牢度を向上させる。ここで、還元主剤の活性化は、還元補助剤の添加により急激に行われる。このため低温にて両剤を混合すると、発生した活性成分は、染料の分解が効果的に行われる温度に到達する前に失われてしまう。本発明においては、当該還元主剤および還元補助剤を添加する際の投入順序と当該浴内の温度との関係を適切に調節することにより、このような問題が容易に解決され得る。
【0047】
還元主剤および還元補助剤がそれぞれ添加され、かつ所定の時間が経過後、浴からポリエステル成形体が取出される。本発明においては、上記還元主剤および還元補助剤の両方の添加が完了した際、好ましくは5分間〜20分間経過した後に、浴からポリエステル成形体が取出されることが好ましい。この時、上記両薬剤の量における最終pHは、弱酸性となる。
【0048】
取出されたポリエステル成形体は、当業者に公知の手段を用いて水洗および乾燥が行われ得る。
【0049】
このようにして、分散染料の還元分解を充分に達成したポリエステル染色物を容易かつ効率良く製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0051】
<実施例1> ポット型高圧染色機(テクサム社製「ミニカラー」)に、100%綿で構成されてなる未シルケットニット編み(重量185g/m)を5gr仕込み、これを0.1gのキノン系分散染料(ハンツマン(株)製「TERASIL PINK 3G」)を用いて、130℃にて30分間処理(浴比1:20、pH4.5〜5.0)し、分散染料汚染布Aを作成した。同様に、0.1gのアゾ系分散染料(クラリアント(株)製「FORON Navy S−2GL」)を用いて、130℃にて30分間処理(浴比1:20、pH4.5〜5.0)し、分散染料汚染布Bを作成した。
【0052】
次いで、100%綿で構成されてなるシルケット綿サテン(目付け120g/m)を、10g/lのアゾ系綿用反応染料(日本化薬(株)製Kayacion Red P−4BN)を、150g/l尿素、20g/lソーダ灰と共にMathis社製Type−No.NVF60902パッドマングルを使用し、60%の絞り率でパッド、乾燥後、150℃3分で乾熱固着し、水洗後、2g/LのセンカノールC−80(センカ(株))を含む液で、沸騰、10分洗浄し、綿染色布Cを作成した。同様に10g/lのアゾ系綿用反応染料(日本化薬(株)製Kayacion Navy PN−2R)を使用し、綿染色布Dを作成した。
【0053】
上記綿分散染料汚染布Aの作成に用いたポット型高圧染色機にて還元脱色処理を行った。その詳細は、400ml容量の容器に、0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.4gの苛性ソーダ、0.4gのハイドロサルファイト(有効成分min.85%)を含む200mlの50℃溶液に、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10g入れ、2℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥するものである。これを、(イ)条件とする。
【0054】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む200mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ロ)条件とする。
【0055】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む200mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で60℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ハ)条件とする。
【0056】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む200mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で70℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ニ)条件とする。
【0057】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む200mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ホ)条件とする。
【0058】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む200mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で90℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ヘ)条件とする。
【0059】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で60℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ト)条件とする。
【0060】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で70℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(チ)条件とする。
【0061】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(リ)条件とする。
【0062】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dを等量ずつ計10gに対し、2℃/分で90℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。これを、(ヌ)条件とする。
【0063】
上記条件(イ)〜(ヌ)で得られた各処理布に対し、JIS L0804(変褪色用グレースケール)を用いて還元洗浄による濃度変化の汚染の程度を評価した。また、各処理布の濃度低下の程度を、光学測定機(マクベス社製「マクベスカラーアイ7000」)を用い、各処理布の反射率を測定することにより、各原布−分散染料汚染布A、分散染料汚染布B、綿染色布C、綿染色布Dの重価K/S値を100として指数化した。この場合指数の数字が小さい程濃度は低く、色素分解効果が現れていることを表す。
【0064】
グレースケール評価を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
K/S指数を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表1および表2に示すように、分散染料の分解効果においては、還元主剤亜硫酸水素ナトリウムだけでは、大きな還元効果は示さない事が分かる。又、還元主剤と還元補助剤水素化ホウ素ナトリウムは、低温で同時に入れるよりも処理温度で還元補助剤を追添加した方がいずれの処理温度においても大きい分解効果を示している。また、その追加添加法において、分解効果を現在還元洗浄の主方法であるハイドロサルファイト+苛性ソーダ法と比較した場合、今回の両助剤の使用量において、80℃および90℃で同等以上の還元分解効果が得られていることが分かる。
【0069】
この時、ハイドロサルファイトの有効分を85%として計算しても、処理浴中の硫黄削減率は、30%強となる。
【0070】
表1および表2に示される綿染色物の色素分解率を比較すると、分散染料の分解効果と同じく、還元補助剤後添加法で温度が高いほど良好な色素分解効果が得られている。この時、染色布CとDの間で、色素分解効果に差が出ているのは、各々の分解にかかわる還元電位と本発明における、還元主剤+還元補助剤の作り出す還元電位の違いによるものと考えられる。
【0071】
日立分光光度計U−3000Spectrophotometerを使用し、処理後の液の透過度を計測し、ハイドロ+苛性ソーダ法の処理後透過度を基準値100として他の処理液を指数化し表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3により本発明における還元洗浄後の処理液の着色度は、従来のハイドロサルファイト+苛性ソーダ法による処理液の三分の一弱であることが分かる。条件(イ)〜(ヌ)における処理後の液のpHを表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4から、本実施例における還元主剤および還元補助剤の量は、同時添加、後追加にかかわらず弱酸性を与えるものであることが分かる。
【0076】
<実施例2>
100%綿で構成されてなるシルケット綿サテン(目付け120g/m)を、10g/lのアゾ系綿用反応染料(日本化薬(株)製Kayacion Red P−4BN)を、120g/l尿素、20g/lソーダ灰と共にMathis社製Type−No.NVF60902パッドマングルを使用し、60%の絞り率でパッド、乾燥後、150℃3分で乾熱固着し、水洗後、2g/LのセンカノールC−80(センカ(株))を含む液で、沸騰、10分洗浄し、綿染色布Eを作成した。同様に10g/lのアゾ系綿用反応染料(日本化薬(株)製Kayacion Navy PN−2R)を使用し、綿染色布Fを作成した。
【0077】
実施例1で使用したポット型高圧染色機にて色素分解処理を行った。その詳細は、400ml容量の容器に、0.4gの苛性ソーダ、0.4gのハイドロサルファイト(有効成分min.85%)を含む200mlの50℃溶液に、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10g入れ、3℃/分で65℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥するものである。
【0078】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.4gの苛性ソーダ、0.4gのハイドロサルファイト(有効成分min.85%)を含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0079】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.4gの苛性ソーダ、0.4gのハイドロサルファイト(有効成分min.85%)を含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で95℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0080】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で65℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0081】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で65℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0082】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で80℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0083】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0084】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.28gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.008gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で95℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0085】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で95℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0086】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.7gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.02gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で65℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0087】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.7gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で65℃まで昇温。当該温度にて0.02gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0088】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.7gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.02gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で80℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0089】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.7gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて0.02gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0090】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.7gの亜硫酸水素ナトリウムおよび0.02gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で95℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0091】
同様に上記ポット型高圧染色機にて、0.7gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、綿染色布E、綿染色布Fを等量ずつ計10gに対し、3℃/分で95℃まで昇温。当該温度にて0.002gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0092】
各処理布の色素分解の程度を、光学測定機(マクベス社製「マクベスカラーアイ7000」)を用い、各処理布の反射率を測定することにより、各原布−綿染色布E、綿染色布Fの重価K/S値を100として指数化した。
この結果を表5、表6に示す。
【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【0095】
表5および表6により、反応染料で染められた綿の色素分解効果においても本発明が有効であることが分かる。この時、温度を更に上げ95℃で処理することにより、より広い範囲の染料の色素分解が効果的に行われる。また、その色素分解効果は、還元主剤と還元補助剤の量を増やすことで増加する。
【0096】
日立分光光度計U−3000Spectrophotometerを使用し、本実施例における処理液の処理後の液の透過度を計測し、ハイドロ+苛性ソーダ法65℃の処理後透過度を基準値100として他の処理液を指数化し表7に示す。
【0097】
【表7】

【0098】
表7より、本発明における色素分解処理後の廃液着色度は従来のハイロサルファイト+苛性ソーダ法に比べ大きく改善されることが分かる。
【0099】
本実施例における各処理液の処理後のpHを表8に示す。
【0100】
【表8】

【0101】
表8より、本発明において反応染料色素分解処理後の処理浴pHは、弱酸性を与えていることが分かる。
【0102】
<実施例3>
同じく実施例1、2で使用したポット型高圧染色機にて、0.02gの水素化ホウ素ナトリウム含む200mlの50℃溶液を使用し、実施例2で作成した綿染色布E、綿染色布Fの等量ずつ計10gに対し、3℃/分で80℃まで昇温。そのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0103】
この処理では、綿染色布E、綿染色布F共目に見える大きな濃度変化は起こらなかった。これにより、水素化ホウ素ナトリウムそのものには大きな色素分解効果はないと考えられる。
【0104】
<実施例4>
同じく実施例1、2で使用したポット型高圧染色機に、100%ポリエステルで構成されてなるダブルピケを下記条件で染色し、染色後に水洗のみを行いポリエステル染色布Aを得た。
染料:Sumikalon Brilliant Red S−BLF 3%o.w.f.
酢酸(90%) 0.5mL/L
均染剤:エスコールT−150(センカ(株)製) 0.5g/L
浴比 1:20
また同様に下記条件で染色し、染色後に水洗のみを行いポリエステル染色布Bを得た。
染料:Sumikalon Navy Blue SE−EC 300% 3%o.w.f.
酢酸(90%) 0.5mL/L
均染剤:エスコールT−150(センカ(株)製) 0.5g/L
浴比 1:20
【0105】
上記ポリエステル染色布Aまたはポリエステル染色布Bを試料としてポット型高圧染色機にて還元脱色処理を行った。その詳細は、400ml容量の容器に、0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.4gの苛性ソーダ、0.8gのハイドロサルファイト(有効成分min.85%)を含む200mlの50℃溶液に、ポリエステル染色布Aまたはポリエステル染色布Bを10g入れ、2℃/分で90℃まで昇温。当該温度にて20分処理後、水洗、脱水、乾燥するものである。
【0106】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、ポリエステル染色布Aまたはポリエステル染色布Bを10gに対し、2℃/分で80℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0107】
同様に上記ポット型高圧染色機にて0.4gのセンカノールES−1(センカ(株))および0.28gの亜硫酸水素ナトリウムを含む195mlの50℃溶液を使用し、ポリエステル染色布Aまたはポリエステル染色布Bを10gに対し、2℃/分で90℃まで昇温。当該温度にて0.008gの水素化ホウ素ナトリウムを含む5mlの溶液を添加しそのまま20分処理後、水洗、脱水、乾燥を行った。
【0108】
上記で得られた各処理布に対し、JIS L0846 水に対する染色堅ろう度試験をおこない添付白布(絹)の汚染の程度を評価した。得られたグレースケール評価(級数)を表9に示す。
【0109】
【表9】

【0110】
表9に示すように、亜硫酸水素ナトリウムその追加添加法において、分解効果を現在還元洗浄の主方法であるハイドロサルファイト+苛性ソーダ法と比較した場合、90℃で同等以上の優れた還元分解効果が得られていることが分かる。
【0111】
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、ポリエステル成形体を分散染料で染色した後に行われる還元洗浄を、還元主剤として亜硫酸水素ナトリウム、還元補助剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用し、その投入法、投入温度を規定することにより、現行のハイドロサルファイト、苛性ソーダ法に匹敵する還元洗浄効果を与えつつ、廃液中の硫黄量の削減ができ、廃液処理プラントのダメージや、二次的に起こる臭気問題を緩和する。
【0113】
本発明により、ポリエステル染色における還元洗浄浴、綿染色布の脱色処理における廃液の着色度を大幅に低下させることができ、しかも、弱酸性の浴となるため、その脱色や中和のための追加的化学物質、希釈水の使用が低減される。
【0114】
本発明における、還元主剤としての亜硫酸水素ナトリウムは、水溶液として保管でき、還元補助剤としての水素化ホウ素ナトリウムもアルカリ条件下で安定な水溶液として保管できる。このため両者水溶液として自動補給が可能となり、ポリエステル染色における還元洗浄の自動化が行いやすくなる。
【0115】
上記、還元主剤、還元補助剤を液状品として使用できることは、従来還元法でのハイドロサルファイトと比較し、粉塵による火災や吸引による労働者への健康被害を回避し、労働環境を大幅に改善する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴中でポリエステル染色物を製造する方法;
該浴から残存する分散染料を除き、新たに水を添加する工程;および
該浴を還元主剤と共に加熱し、そして該浴内の温度が60℃から90℃に達した際、該浴に、還元補助剤を添加する工程;を包含する、方法。
【請求項2】
前記還元主剤が亜硫酸水素ナトリウムであり、そして前記還元補助剤が水素化ホウ素ナトリウムである、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2010−189823(P2010−189823A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58683(P2009−58683)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(391003473)センカ株式会社 (20)
【出願人】(501072016)長瀬カラーケミカル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】