説明

ポリエステル樹脂の製造方法、ポリエステル樹脂、電子写真トナー用樹脂組成物及び電子写真トナー

【課題】特に色調に優れ、互いに相反する性能である低温定着性と耐ホットオフセット性とを高いレベルで兼備し、連続印刷への耐久性、帯電安定性、湿熱環境下での保存安定性にも優れる電子写真トナー及び該トナーの原料として好適に用いることができるポリエステル樹脂を提供すること。
【解決手段】タンテトラアルコキシド(D)と、ホスファイト型のリン化合物(E)とを、前記チタンテトラアルコキシド(D)が含有するチタン原子のモル数(Ti)と、前記ホスファイト型のリン化合物(E)が含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]が0.9〜1.4の範囲となるような割合で用いる触媒の存在下、2級の水酸基を有するジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸(b1)と、ポリエポキシ化合物(C)とを必須の樹脂原料成分として用い反応させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温定着性と耐ホットオフセット性とを兼備し、色調、連続印刷への耐久性、帯電安定性及び湿熱環境下での保存安定性にも優れる電子写真トナー、該トナーの原料として好適に用いることができるポリエステル樹脂及び該ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真トナーは主に、着色剤である顔料と、これを印刷紙面に定着させるためのマトリックス樹脂とから成る。より発色が良く色調に優れるトナーを得るためには、マトリックス樹脂のL表色系におけるL値(明度)がより高く、b値(黄み又は青み)がより低いことが好ましい。この他、より綺麗な印刷面を得るために電子写真トナーに求められる性能には、互いに相反する性能である低温定着性と耐ホットオフセット性とを兼備すること、連続印刷時にも安定した印刷画像が得られること、帯電安定性に優れること、40℃50%RHのような湿熱環境下での保存安定性に優れ、電子写真プロセス機内での定着器からの熱や設置環境の湿度の影響によりトナーが凝集しないことなど、多くのものが挙げられる。これら数々の性能を兼備させるため、様々な電子写真トナー用のマトリックス樹脂が開発されている。
【0003】
例えば、チタン酸テトライソプロポキシド触媒を用い、230℃の温度条件下で、2級の水酸基を持つジオールである1,2−プロピレングリコール及びビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物と、テレフタル酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂を用いることにより、低温定着性と耐ホットオフセット性とに優れる電子写真トナーを得る技術が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、このような方法では、チタン酸テトライソプロポキシド触媒条件下、230℃という高温条件で反応させるため、チタン触媒の作用により樹脂が酸化されて黄変が進み、色調が低下する問題があった。この他、テレフタル酸と、エチレングリコールとを重合する際の触媒として、クエン酸キレートチタン化合物と、リン酸と、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトとを、チタン原子のモル数(Ti)とリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]が0.1〜20の範囲となるように用いることにより、L*値が75であり、b*値が1.0である、色調が良好なポリエチレンテレフタレートを得る技術が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、該製法で得られるポリエチレンテレフタレートは繊維用途を想定したものであり、結晶性が高いためトナー用途に用いることが難しいものであった。また、仮に、このようなチタン系とリン系との混合触媒の存在下、テレフタル酸及びエチレングリコール以外の原料、特に、2級の水酸基を有するジオールを原料に用いてポリエステル樹脂を製造した場合には、該混合触媒の作用により、ポリエステル樹脂製造時に分解物の沈降が生じてしまい、該分解物による樹脂の色調低下するものであった。また、製造後のポリエステル樹脂においても、系中に残存する触媒の作用による分解反応が生じるため、保存安定性にも劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313686号公報
【特許文献2】特開2005−015630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、特に色調に優れ、互いに相反する性能である低温定着性と耐ホットオフセット性とを高いレベルで兼備し、連続印刷への耐久性、帯電安定性、湿熱環境下での保存安定性にも優れる電子写真トナー及び該トナーの原料として好適に用いることができるポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、2級の水酸基を有するジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸(b1)と、ポリエポキシ化合物(C)とを必須の樹脂原料成分とし、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と前記芳香族ジカルボン酸(b1)との合計100質量部に対し、前記ポリエポキシ化合物(C)を0.1〜5質量部の範囲で用いて反応させて得られるポリエステル樹脂を用いてなる電子写真トナーが、低温定着性と耐ホットオフセット性とを高いレベルで兼備し、連続印刷への耐久性、帯電安定性及び湿熱環境下での保存安定性にも優れるものとなること、更に、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸(b1)と、前記ポリエポキシ化合物(C)とを反応させる際、チタンテトラアルコキシド(D)と、ホスファイト型のリン化合物(E)とを、前記チタンテトラアルコキシド(D)が含有するチタン原子のモル数(Ti)と、前記ホスファイト型のリン化合物(E)が含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]が0.9〜1.4の範囲となるような割合で用いてなる触媒を用いることにより、触媒の作用による黄変が生じず、また、該触媒が2級の水酸基を有するジオール(a1)由来の構造部位の分解反応を促進しないため、分解物による樹脂の色調の低下や、保存安定性の低下が生じないことを見出し完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、チタンテトラアルコキシド(D)と、ホスファイト型のリン化合物(E)とを、前記チタンテトラアルコキシド(D)が含有するチタン原子のモル数(Ti)と、前記ホスファイト型のリン化合物(E)が含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]が0.9〜1.4の範囲となるような割合で用いる触媒の存在下、2級の水酸基を有するジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸(b1)と、ポリエポキシ化合物(C)とを必須の樹脂原料成分とし、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と前記芳香族ジカルボン酸(b1)との合計100質量部に対し、前記ポリエポキシ化合物(C)を0.03〜10質量部の範囲で用いて反応させることを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、更に、該製造方法により得られるポリエステル樹脂に関する。
【0009】
本発明は、更に、該ポリエステル樹脂を含有する電子写真トナー用樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明は、更に、該電子写真トナー用樹脂組成物を用いてなる電子写真トナーに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の電子写真トナー用樹脂と比較して、特に色調に優れ、互いに相反する性能である低温定着性と耐ホットオフセット性とを高いレベルで兼備し、連続印刷への耐久性、帯電安定性、湿熱環境下での保存安定性にも優れる電子写真トナー及び該トナーの原料として好適に用いることができるポリエステル樹脂を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本願実施例の製造例1で得られたポリエステル樹脂(1)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャート図である。
【0013】
【図2】図2は、本願実施例の製造例8で得られたポリエステル樹脂(8)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャート図である。
【0014】
【図3】図3は、本願実施例の製造例11で得られたポリエステル樹脂(11)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法では、2級の水酸基を有するジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸(b1)と、ポリエポキシ化合物(C)とを必須の原料成分として反応させ、ポリエステル樹脂を得る。このうち、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸(b1)とはポリエステル樹脂の主成分であるが、これらからなるポリエステル樹脂の主鎖に、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)由来の側鎖が導入されることにより、得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上昇し、湿熱環境下での保存安定性が向上する。また、前記ポリエポキシ化合物(C)は、架橋剤として働く成分である。
【0016】
本発明では、前述の通り、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)を必須の原料成分として用いることにより、得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が上昇し、湿熱環境下での保存安定性が向上する。これら2級の水酸基を有するジオール(a1)は、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2,2−トリメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−3−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール;
【0017】
1,3−ビス(2−ヒドロキシプロピル)シクロペンタン、1,3−ビス(2−ヒドロキシブチル)シクロペンタン、1,4−ビス(2−ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(2−ヒドロキシブチル)シクロヘキサン等の脂環族ジオール;
【0018】
1,4−ビス(2−ヒドロキシプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシブチル)ベンゼン等の芳香族ジオール;
【0019】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「ビスフェノールA」と略記する)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(以下「ビスフェノールB」と略記する)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(以下「ビスフェノールF」と略記する)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下「ビスフェノールS」と略記する)等のビスフェノールに、1,2−プロピレンオキサイドや1,2−ブチレンオキサイド等の2級の水酸基を有するアルキレンオキサイドを付加して得られるビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0020】
前記2級の水酸基を有するジオール(a1)の中でも、色調及び帯電安定性に優れるトナーが得られる点で、前記脂肪族ジオール、前記脂環族ジオール及び前記ビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。更に、より色調に優れる電子写真トナーが得られる点で、前記脂肪族ジオールが好ましく、1,2−プロパンジオールが特に好ましい。
【0021】
本発明では、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)に加え、これら以外の多価アルコールを併用してもよい。該前記2級の水酸基を有するジオール(a1)以外の多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の脂肪族ポリオール;
【0022】
ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール等のエーテルグリコール;
【0023】
前記脂肪族ポリオールと、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の種々の環状エーテル結合含有化合物との開環重合によって得られる変性ポリエーテルポリオール;
【0024】
前記脂肪族ポリオールと、ε−カプロラクトン等の種々のラクトン類との重縮合反応によって得られるラクトン系ポリエステルポリオール;
【0025】
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール;
【0026】
ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノールにエチレンオキサイドを付加して得られるビスフェノールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0027】
本願発明では、湿熱環境下での保存安定性により優れる電子写真トナーが得られる点で、ポリエステル樹脂の全多価アルコール原料成分中、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)を10モル%以上含有することが好ましく、50モル%以上含有することがより好ましい。
【0028】
本発明では、前記芳香族ジカルボン酸(b1)を必須の原料成分として用いることにより、耐ホットオフセット性と低温定着性とを兼備できる電子写真トナーが得られる。これら芳香族ジカルボン酸(b1)は、例えば、フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、保存安定性及び帯電安定性に優れる電子写真トナーが得られる点で、テレフタル酸が好ましい。
【0029】
本発明では、前記芳香族ジカルボン酸(b1)に加え、これら以外の多塩基酸を併用しても良い。前記芳香族ジカルボン酸(b1)以外の多塩基酸は、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;
【0030】
マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、ジメチルマレイン酸、シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸、4−シクロへキセン−1,2−ジカルボン酸、フマル酸、メサコン酸、イタコン酸、グルタコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸;
【0031】
1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸等の脂肪族トリカルボン酸;
【0032】
トリメリット酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸等の芳香族トリカルボン酸などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0033】
本願発明では、保存安定性と帯電安定性とにより優れる電子写真トナーが得られる点で、ポリエステル樹脂の全多塩基酸成分中、前記芳香族ジカルボン酸(b1)を60モル%以上含有することが好ましく、80モル%以上含有することがより好ましい。
【0034】
本発明では、前記ポリエポキシ化合物(C)を必須の原料成分として用いることにより、より高い耐ホットオフセット性を発現し、かつ、連続印刷への耐久性にも優れる電子写真トナーが得られる。これらポリエポキシ化合物(C)は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2,2’−(2,6−ジオキサヘプタン−1,7−ジイル)ビスオキシラン、1,4−ビス(グリシジルオキシ)ブタン、2,3−ブチレングリコールジグリシジルエーテル、1,5−ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ビス(グリシジルオキシ)へキサン、1,7−へプチレングリコールジグリシジルエーテル、1,8−オクチレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族ジグリシジルエーテル;
【0035】
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等、分子構造中に3個以上のエポキシ基を有する脂肪族ポリグリシジルエーテル;
【0036】
(メタ)アクリル酸グリシジルやα−エチル(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有化合物と、ブタジエン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、フマル酸ジメチル、スチレン等のビニル基を含有する化合物とを重合させて得られるエポキシ基含有ビニル重合体;
【0037】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;
【0038】
1,4−ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、2,7−ナフタレンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ナフタレンジオールジグリシジルエーテル等の芳香族ジグリシジルエーテル;
【0039】
4,4’,4’’−メチリジントリスフェノールトリグリシジルエーテル等、分子構造中に3個以上のエポキシ基を有する芳香族ポリグリシジルエーテル;
【0040】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂挙げられる。
【0041】
これらポリエポキシ化合物(C)は、一種類を単独で用いても良いし、二種類以上を併用してもよい。中でも、耐ホットオフセット性と低温定着性との両方に優れる電子写真トナーが得られる点で、前記ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0042】
前記ポリエポキシ化合物(C)が、前記ノボラック型エポキシ樹脂である場合、低温定着性と耐ホットオフセット性を高いレベルで兼備する電子写真トナーが得られる点で、その核体数が3〜10の範囲であることが好ましく、4〜8の範囲であることがより好ましい。また、その数平均分子量(Mn)は、400〜2,500の範囲であることが好ましく、800〜2,000の範囲であることがより好ましい。
【0043】
尚、本発明において、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)とは、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0044】
測定装置 ;東ソー株式会社製 HLC−8120GPC
カラム ;東ソー株式会社製 TSK−GUARDCOLUMN HXL−H
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G2000HXL
検出器 ;RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製 マルチステーションGPC−8020modelII
測定条件 ;カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製 A−500、F−2、F−20、F−80、F−288、A−2500、F−10、F−40、F−128、F−380)を用いて検量線を作成した。
試料 ;樹脂固形分換算で0.5質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0045】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法では、触媒として、チタンテトラアルコキシド(D)と、ホスファイト型のリン化合物(E)とを、前記チタンテトラアルコキシド(D)が含有するチタン原子のモル数(Ti)と、前記リン化合物(E)が含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]が0.9〜1.4の範囲となる割合で併用して用いる。このような混合触媒は、樹脂の黄変させることがなく、更に、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)由来の構造部位の分解反応を促進しないため、色調及び保存安定性に優れるポリエステル樹脂が得られる。中でも、より高い色調と保存安定性を有する樹脂組成物が得られる点で、前記[(Ti)/(P)]が1.0〜1.3の範囲であることがより好ましい。
【0046】
前記チタンテトラアルコキシド(D)は、例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトラオクタデシルチタネート等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。これらの中でも、エステル化反応に対する反応活性に優れる点で、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等、炭素原子数が1〜9の範囲であるアルキルアルコキシド基を有するチタンテトラアルコキシドが好ましく、テトライソプロピルチタネートが特に好ましい。
【0047】
前記ホスファイト型のリン化合物(E)は、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等のモノホスファイト;
【0048】
例えば、テトラ(C12〜C15アルキル)−4,4’−イソプロピレデンジフェニルジホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジトリデシル−ホスファイト)等のジホスファイト;
【0049】
テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト等のテトラホスファイト等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。これらの中でも、色調と保存安定性に優れるポリエステル樹脂が得られる点で、前記ジホスファイト、テトラホスファイトが好ましく、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト及びテトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイトが特に好ましい。
【0050】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、例えば、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)を含む多価アルコール成分と、前記芳香族ジカルボン酸(b1)を含む多塩基酸成分と、前記ポリエポキシ化合物(C)とを、80〜160℃の温度範囲に加熱して、本発明の混合触媒、即ち、前記チタンテトラアルコキシド(D)と、前記ホスファイト型のリン化合物(E)との存在下で十分に混合した後、180〜260℃の温度範囲に加熱して反応させる方法が挙げられる。
【0051】
本発明製造方法において、前記多価アルコール成分と、前記多塩基酸成分との配合量は、前記多価アルコール成分が含有する水酸基のモル数(OH)と、前記多塩基酸成分が含有するカルボキシル基のモル数(COOH)との比[(OH)/(COOH)]が2/1〜1/2の範囲となるように両者を用いることが好ましく、1.5/1〜1/1の範囲がより好ましい。
【0052】
また、前記ポリエポキシ化合物(C)の配合量は、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸(b1)との合計100質量部に対し、0.03〜10質量部の範囲である。このような配合とすることにより、特に優れた耐ホットオフセット性を発現し、かつ、連続印刷への耐久性にも優れる電子写真トナーが得られる。中でも、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と、前記芳香族ジカルボン酸(b1)との合計100質量部に対し、0.05〜6質量部の範囲であることが好ましい。
【0053】
前記チタンテトラアルコキシド(D)と、前記ホスファイト型のリン化合物(E)との使用量は、十分な活性を示し、かつ、2級の水酸基を有するポリオールの分解反応を促進しない点で、前記ポリエステル樹脂の原料の総質量、即ち、前記多価アルコール成分と、前記多塩基酸成分と、前記ポリエポキシ化合物(C)との総質量に対し、前記チタンテトラアルコキシド(D)が含有するチタン原子の質量が20〜200ppmの範囲となり、かつ、前記ホスファイト型のリン化合物(E)が含有するリン原子の質量が10〜150ppmの範囲となるように用いることが好ましく、チタン原子の質量が50〜150ppmの範囲となり、かつ、リン原子の質量が20〜80ppmの範囲となるように用いることがより好ましい。
【0054】
このようにして得られる本発明のポリエステル樹脂は、低温定着性と耐ホットオフセット性との両方に優れる電子写真トナーが得られる点で、その重量平均分子量(Mw)が5,000〜300,000の範囲であることが好ましく、20,000〜200,000の範囲であることがより好ましい。
【0055】
前記ポリエステル樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、低温定着性と耐ホットオフセット性との両方に優れる電子写真トナーが得られる点で、5〜45の範囲であることが好ましい。
【0056】
前記ポリエステル樹脂の軟化点は、低温定着性と耐ホットオフセット性との両方に優れる電子写真トナーが得られる点で、100〜150℃の範囲であることが好ましく、ガラス転移温度(Tg)は、湿熱環境下での保存安定性に優れる電子写真トナーが得られる点で45〜70℃の範囲であることが好ましい。
【0057】
尚、本発明において軟化点とは、高化式フロ−テスタ−を用いて測定される値であり、流出開始から流出終了までの工程においてプランジャ−(又はピストンという)が中間点にきたときの温度(T1/2)のことを言い、以下の条件により測定される値である。
測定機器:高化式フローテスター(島津製作所(株)製「CFT−500D」)
測定条件:昇温速度6℃/min、ノズル1.0mmΦ×10mm、荷重10kgf、試料量1.5g
【0058】
また、本発明において前記ガラス転移温度(Tg)は、以下に示す条件で測定される値である。
測定機器:セイコーインスツル株式会社製「DSC−220C」
測定条件:昇温速度10℃/min
試料:アルミ容器に試料を10mg程度入れ、ふたをする。
測定方法:DSC(示唆走査熱量分析)法
【0059】
本願発明の電子写真トナー用樹脂組成物は、本願発明のポリエステル樹脂の他、スチレン系樹脂、スチレンーアクリル共重合体樹脂、エポキシ樹脂、他のポリエスエル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等、他の樹脂を含有していても良い。この場合、本願発明の特徴である、低温定着性と耐ホットオフセット性とを兼備し、特に耐ホットオフセット性に優れ、かつ、高温高湿条件下での保存安定性に優れるという効果が十分に発揮される点で、前記ポリエステル樹脂100質量部に対し、他の樹脂を1〜30質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0060】
また、本願発明の電子写真トナー用樹脂組成物は、更に、着色剤、帯電制御剤、離型剤等の添加剤を含有していても良い。
【0061】
前記着色剤としては、公知慣用のものが用いられる。青系の着色剤としては、フタロシアニン系のC.I.Pigment Blue 1,2,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,15,16,17:1,27,28,29,56,60,63等が挙げられる。青系の着色剤として、好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3,15,16,60が挙げられ、最も好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3,60が挙げられる。
【0062】
また、黄色系の着色剤としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1,3,4,5,6,12,13,14,15,16,17,18,24,55,65,73,74,81,83,87,93,94,95,97,98,100,101,104,108,109,110,113,116,117,120,123,128,129,133,138,139,147,151,153,154,155,156,168,169,170,171,172,173,180,185等が挙げられる。好ましくは、C.I.Pigment Yellow 17,74,93,97,110,155,および180が挙げられ、より好ましくはC.I.Pigment Yellow 74,93,97,180が挙げられ、特に、C.I.Pigment Yellow 93,97,180が好ましい。
【0063】
赤色系着色剤としては、例えば、C.I.Pigment Red 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,12,14,15,17,18,22,23,31,37,38,41,42,48:1,48:2,48:3,48:4,49:1,49:2,50:1,52:1,52:2,53:1,54,57:1,58:4,60:1,63:1,63:2,64:1,65,66,67,68,81,83,88,90,90:1,112,114,115,122,123,133,144,146,147,149,150,151,166,168,170,171,172,174,175,176,177,178,179,185,187,188,189,190,193,194,202,208,209,214,216,220,221,224,242,243,243:1,245,246,247等が挙げられる。好ましくは、C.I.Pigment Red 48:1,48:2,48:3,48:4,53:1,57:1,122および209が挙げられ、最も好ましくはC.I.Pigment Red 57:1,122および209が挙げられる。
【0064】
これら着色剤は、一種類を単独で用いても良いし、二種類以上を併用しても良い。また、これら着色剤の使用量は、十分な着色を示し、低温定着性耐ホットオフセット性、安定した連続印刷適性、帯電安定性及び湿熱環境下での保存安定性等の性能に優れる電子写真トナーが得られる点で、樹脂成分の合計100質量部に対して、1〜20質量部の範囲であることが好ましく、2〜15質量部であることがより好ましい。
【0065】
前記帯電制御剤は電子写真トナーの帯電量を調整する目的で用いられるものであり、帯電制御剤のうち正帯電性帯電制御剤は、例えば、ニグロシン染料、第4級アンモニウム化合物、オニウム化合物、トリフェニルメタン系化合物、アミノ基、イミノ基、N−ヘテロ環などの塩基性基含有化合物、3級アミノ基含有スチレンアクリル樹脂などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用しても良いし、二種類以上を併用しても良い。また、負帯電性帯電制御剤は、例えば、トリメチルエタン系染料、サリチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、金属錯塩アゾ系染料、アゾクロムコンプレックス等の重金属含有酸性染料、カッリクスアレン型のフエノール系縮合物、環状ポリサッカライド、カルボキシル基および/またはスルホニル基を含有する樹脂等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用しても良いし、二種類以上を併用しても良い。さらに、必要に応じて、前記正帯電性帯電制御剤と、少量の前記負帯電制御剤と併用しても良い。
【0066】
本願発明の電子写真トナーは、その帯電量が−70μC/g〜−30μC/gの範囲であることが好ましい。該帯電制御剤を用いる際の使用量は、帯電量を前記範囲に調整することが容易となる点で、樹脂成分の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜6質量部の範囲であることがより好ましい。
【0067】
前記離型剤は、例えば、種々のワックス類が挙げられる。例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィーシャートロプシュワックス等の炭化水素系ワックス類、合成エステルワックス類、カルナバワックス、ライスワックス等の天然エステル系ワックス類の群の中から選ばれたワックスが用いられる。中でも、カルナバワックス、ライスワックス等の天然系エステルワックス、多価アルコールと長鎖モノカルボン酸から得られる合成エステルワックス類が好適に用いられる。合成エステルワックスとしては、例えば、WEP−5(日本油脂社製)が好適に用いられる。離型剤の使用量は、離型性、帯電性、保存安定性に優れる電子写真トナーが得られることから、樹脂成分の合計100質量部に対し、1〜40質量部の範囲であることが好ましく、5〜20質量部の範囲であることが寄り好ましい。
【0068】
本発明電子写真トナー用樹脂組成物を用いてなる電子写真トナーは、公知慣用の任意の製造方法によって得ることができる。例えば、本願発明の電子写真トナー用樹脂組成物を、該樹脂組成物が含むポリエステル樹脂の融点以上で溶融混練した後、粉砕して分級することにより得る方法が挙げられる。また、本願発明の電子写真トナー用樹脂組成物を、有機溶剤に溶解又は分散した後、水を添加するなどしてエマルジョン化し、凝集・融合させるなどしてトナー粒径とした後、分離、洗浄、乾燥する方法などが挙げられる。勿論、これ以外の方法で製造してもよい。
【0069】
このようにして得られる電子写真トナーには、さらにシリカを外添することにより、より高い粉体流動性を向上させることができる。この場合、前記電子写真トナー100質量部に対し、0.1〜5.0質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0070】
以下に本発明を具体的な合成例、実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0071】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定
本発明の実施例では、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0072】
測定装置 ;東ソー株式会社製 HLC−8120GPC
カラム ;東ソー株式会社製 TSK−GUARDCOLUMN HXL−H
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSK−GEL G2000HXL
検出器 ;RI(示差屈折計)
データ処理;東ソー株式会社製 マルチステーションGPC−8020modelII
測定条件 ;カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ;単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製 A−500、F−2、F−20、F−80、F−288、A−2500、F−10、F−40、F−128、F−380)を用いて検量線を作成した。
試料 ;樹脂固形分換算で0.5質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0073】
軟化点(T1/2)の測定
本発明の実施例では、軟化点(T1/2)を以下の条件で測定した。
測定機器:高化式フローテスター(島津製作所(株)製「CFT−500D」)
測定条件:昇温速度6℃/min、ノズル1.0mmΦ×10mm、荷重10kgf、試料量1.5g
【0074】
ガラス転移温度(Tg)の測定
本発明の実施例では、ガラス転移温度(Tg)を以下の条件で測定した。
測定機器:セイコーインスツル株式会社製「DSC−220C」
測定条件:昇温速度10℃/min
試料:アルミ容器に試料を10mg程度入れ、ふたをする。
測定方法:DSC(示唆走査熱量分析)法
製造例1
ポリエステル樹脂(1)の製造
ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物[水酸基価310mgKOH/g、プロピレンオキサイドの平均付加モル数2.2]1582.0g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂[数平均分子量(Mn)1600、平均核体数7]2.2gを3リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、140℃にて攪拌しながらテレフタル酸652.0gを加え、テトライソプロピルチタネート1.1gおよびテトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト1.5gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ260℃で7時間反応させた。さらに同温度にて減圧度1mmHgとし、軟化点(T1/2)が120℃となるまで反応させ、ポリエステル樹脂(1)を得た。このとき、減圧開始から反応終了までにかかった時間は7時間であった。得られたポリエステル樹脂(1)のガラス転移点(Tg)は65℃、数平均分子量(Mn)は4,000、重量平均分子量(Mw)は25,600、分子量分布(Mw/Mn)は6.4であった。
【0075】
尚、製造例1において、テトライソプロピルチタネートが含有するチタン原子の質量は、ポリエステル樹脂(1)の原料の総質量に対し84ppmであり、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイトが含有するリン原子の質量は、ポリエステル樹脂(1)の原料の総質量に対し46ppmである。また、テトライソプロピルチタネートが含有するチタン原子のモル数(Ti)と、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイトが含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]は1.18である。
【0076】
製造例2〜6
ポリエステル樹脂(2)〜(6)の製造
ポリエステル樹脂の原料及び触媒の種類と使用量を下記表1に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂(2)〜(6)を得た。
【0077】
製造例7〜12
ポリエステル樹脂(7)〜(12)の製造
ポリエステル樹脂の原料及び触媒の種類と使用量を下記表2に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂(7)〜(12)を得た。
【0078】
比較製造例1〜6
ポリエステル樹脂(1’)〜(6’)の製造
ポリエステル樹脂の原料及び触媒の種類と使用量を下記表3に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂(1’)〜(6’)を得た。
【0079】
比較製造例7
ポリエステル樹脂(7’)の製造
ポリエステル樹脂の原料及び触媒の種類と使用量を下記表4に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂(7’)を得た。
【0080】
比較製造例8
ポリエステル樹脂(8’)の製造
ポリエステル樹脂の原料及び触媒の種類と使用量を下記表4に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂(8’)を得た。尚、ポリエステル樹脂(8’)の製造においては、減圧開始から7時間経過後も軟化点(T1/2)が120℃に満たなかったため、7時間の時点で反応を終了した。
【0081】
比較製造例9
ポリエステル樹脂(9’)の製造
ポリエステル樹脂の原料及び触媒の種類と使用量を下記表4に示す通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂(9’)を得た。
【0082】
比較製造例10
ポリエステル樹脂(10’)の製造
1,2−プロパンジオール647.0gを3リットルの4つ口フラスコに入れ、140℃にて攪拌しながらテレフタル酸ジメチルエステル688.0gを加え、テトライソプロピルチタネート3.0gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させて180℃で3時間反応させて生成するメタノールを留去した。これをテレフタル酸ジエステルとする。このテレフタル酸ジエステル1108.0g、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物[水酸基価330mgKOH/g、プロピレンオキサイドの平均付加モル数2]751.9g、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物[水酸基価270mgKOH/g、プロピレンオキサイドの平均付加モル数3]869.0gを別に用意した5リットルの4つ口フラスコに入れ、攪拌しながら120℃にてテトライソプロピルチタネート6.4gを投入し窒素気流下にて230℃まで徐々に昇温した。230℃にて1時間反応させた後、1mmHgの減圧下に1,2−プロパンジオールを留去しながら反応させた。生成するポリマーの(T1/2)を測定しながら反応を追跡し、軟化点(T1/2)が120℃になった時点で取り出し、ポリエステル樹脂(10’)を得た。ポリエステル樹脂(10’)の軟化点(T1/2)は120℃、ガラス転移点(Tg)は63℃、数平均分子量(Mn)は4,000、重量平均分子量(Mw)は24,300、分子量分布(Mw/Mn)は6.1であった。
【0083】
尚、比較製造例10において、テトライソプロピルチタネートが含有するチタン原子の質量は、ポリエステル樹脂(10’)の原料の総質量に対し531ppmである。
【0084】
比較製造例11
ポリエステル樹脂(11’)の製造
ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物[水酸基価310mgKOH/g、プロピレンオキサイド平均付加モル数2.2]1582.0g、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂[エポキシ当量214g/eq、数平均分子量(Mn)1600]2.2gを3リットルの4つ口フラスコに入れ、加熱溶解させた後、140℃にて攪拌しながらテレフタル酸652.0gを加え、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト0.11gを加えて5分間攪拌した後、クエン酸キレートチタン0.14gおよびリン酸(85%水溶液)0.07gを投入し窒素気流下にて徐々に昇温させ260℃で7時間反応させたところ縮合水以外の分解留出物が発生した。さらに同温度にて減圧度1mmHgにて反応させたところ分解留出物の発生が増大した。減圧開始から7時間経過後も軟化点(T1/2)が120℃に満たなかったため、7時間の時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂(11’)を得た。ポリエステル樹脂(11’)の軟化点(T1/2)は108℃、ガラス転移点(Tg)は51℃、数平均分子量(Mn)は2,100、重量平均分子量(Mw)は8,400、分子量分布(Mw/Mn)は4.0であった。
【0085】
尚、製造例11において、クエン酸キレートチタンが含有するチタン原子の質量は、ポリエステル樹脂(11’)の原料の総質量に対し10ppmであり、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトが含有するリン原子の質量は、ポリエステル樹脂(11’)の原料の総質量に対し5ppmであり、リン酸(85%水溶液)が含有するリン原子の質量は、ポリエステル樹脂(11’)の原料の総質量に対し8ppmである。また、クエン酸キレートチタンが含有するチタン原子のモル数(Ti)と、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト及びリン酸(85%水溶液)が含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]は0.5である。
【0086】
実施例1
電子写真トナーT1の製造
前記製造例1で得たポリエステル樹脂(1)84質量部、カーボンブラック(三菱化学製「MA−11」)5質量部、帯電制御剤(オリエント化学社製「ボントロンS34」)1質量部及びカルナバワックス10質量部をヘンシェルミキサーで混合した後、2軸混練機で混練し、混練物を得た。このようにして得られた混練物を微粉砕した後、平均粒径が9.5〜10.5μmかつ粒径0.5μm以下の成分が1%以下になるように分級した。分級後の粉砕物にシリカ(日本アエロジル社製「R972」)1質量部を加えてヘンシェルミキサーで混合後、篩かけをして混合物を得た。得られた混合物5質量部とキャリア(パウダーテック社製「シリコン樹脂被覆フェライトキャリア」)95質量部とを混合攪拌して電子写真トナーT1を得た。
【0087】
電子写真トナーの評価
前記ポリエステル樹脂(1)について色調及び帯電安定性を、前記電子写真トナーT1について、低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び連続印刷への耐性を以下に示す方法に従って評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0088】
1.ポリエステル樹脂の色調の評価
カラーメーター(日本電色工業(株)製「ZE2000」を用い、明度(L値)及び黄味(b値)を測定し、評価した。尚、明度(L値)は値が高いほど明るさに優れることを示し、黄味(b値)は値が低いほどポリエステル樹脂が着色していないことを表す。
明度(L値)の評価
◎:L値が85以上。
○:L値が85未満80以上。
△:L値が80未満70以上。
×:L値が70未満。
黄味(b値)の評価
◎:b値が12以下。
○:b値が12以上15未満。
△:b値が15以上30未満。
×:b値が30以上。
【0089】
2.ポリエステル樹脂の帯電安定性の評価
ポリエステル樹脂(1)1.5gと、フェライトキャリア(日本鉄粉社製「MF−100」)48.5gとの混合物を50mlのポリ容器に入れ、ターブラシェイカーミキサーを用いて混合し、混合開始から1分後、10分後、30分後及び60分後のトナーの帯電量を、ブローオフ帯電量測定機器(トレックジャパン社製「210HS−2A」)を用いて測定した。4つの測定値のうち、最大値と最小値との差を計算し、下記の基準で評価した。値が小さいほど帯電安定性に優れることを示す。
◎:最大帯電量と最小帯電量の差が−3μC/g未満
○:最大帯電量と最小帯電量の差が−3μC/g以上、−6μC/g未満
△:最大帯電量と最小帯電量の差が−6μC/g以上、−9μC/g未満
×:最大帯電量と最小帯電量の差が−9μC/g以上、−12μC/g未満
【0090】
3.電子写真トナーの低温定着性の評価
熱ロールの設定温度を5℃刻みに100℃から160℃まで変化させ、電子写真用トナーT1を用いてベタ印刷を行った。ベタ印刷部分に堅牢度試験を行い、堅牢度試験前後の画像濃度をマクベス濃度計(グレタグマクベス社製「RD−918」)で測定し、試験前の濃度値に対する試験後の濃度値の比率が80%以上となる温度を定着開始温度とした。この温度が低いほど低温定着性の良好な電子写真用トナーである。低温定着性の評価基準は下記の通りとした。尚、堅牢度試験は学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業社製「AB−301」)を用い、荷重200g、擦り操作5ストロークの条件で行った。
◎:定着開始温度が120℃未満の場合
○:定着開始温度が120℃以上、135℃未満の場合
△:定着開始温度が135℃以上、140℃未満の場合
×:定着開始温度が140℃以上の場合
【0091】
4.電子写真トナーの耐ホットオフセット性の評価方法
熱ロールの設定温度を5℃刻みに140℃から230℃まで変化させ、電子写真トナーT1を用いてベタ印刷を行った。印刷部分が再び同じ用紙にオフセットすることが目視で確認できる最低の温度をオフセット開始温度とした。この温度が高いほど耐ホットオフセット性が良好であることを示す。
◎:オフセット開始温度が210℃以上の場合
○:オフセット開始温度が180℃以上、210℃未満の場合
△:オフセット開始温度が160℃以上、1800℃未満の場合
×:オフセット開始温度が160℃未満の場合
ただし、高温でオフセットしない場合でも、樹脂自体がワックスとして作用し印刷媒体への定着性が悪いものは×の評価とした。
【0092】
尚、定着開始温度、耐ホットオフセット性の評価は、次のようなヒートローラー定着機条件で行った。
ロール材質:上;ポリテトラフルオロエチレン、下;シリコーン
上ロール荷重:7Kg/350mm
ニップ幅:4mm
紙通し速度:90mm/sec
【0093】
5.電子写真トナーの湿熱環境下での保存安定性の評価
400gの電子写真トナーT1をプラスチック製の容器に詰め、温度40℃、50%RHの環境下、66g/cm2の負荷をかけて48時間放置した。放置後の電子写真トナーT1 400gを目開き45μmの篩いに載せ、振幅1mmで30分間篩った。篩い上に残った電子写真トナーT1の凝集物の割合を測定し、下記基準で評価した。凝集物が少ないほど、保存安定性に優れるトナーである。
◎:凝集物の割合が10質量%未満、即ち、40g未満である。
○:凝集物の割合が10質量%以上、20質量%未満、即ち、40g以上、80g未満である。
△:凝集物の割合が20質量%以上、30質量%未満、即ち、80g以上、120g未満である。
×:凝集物の割合が30質量%以上、即ち、120g以上である。
【0094】
6.電子写真トナーの連続印刷への耐久性の評価
耐久性評価は連続印刷時の画像濃度の変化により行った。電子写真トナーT1を用いて連続ベタ印刷を行い、100枚目の印刷物と、1000枚目の印刷物についての画像濃度をマクベス濃度計(グレタグマクベス社製「RD−918」)で測定した。100枚目の印刷物の濃度値(100値)に対する1000枚目の印刷物の濃度値(1000値)の100分率[(1000値)/(100値)×100]を計算し、下記基準で評価した。
【0095】
◎:95%以上
○:85%以上、95%未満
△:75%以上、85%未満
×:75%未満
【0096】
実施例2〜6
実施例1のポリエステル樹脂(1)に変えて、ポリエステル樹脂(2)〜(6)を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真トナーT2〜T6を得た。これらについて、実施例1と同様にして各種評価を行った結果を下記表1に示す。
【0097】
実施例7〜12
実施例1のポリエステル樹脂(1)に変えて、ポリエステル樹脂(7)〜(12)を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真トナーT7〜T12を得た。これらについて、実施例1と同様にして各種評価を行った結果を下記表2に示す。
【0098】
比較例1〜6
実施例1のポリエステル樹脂(1)に変えて、ポリエステル樹脂(1’)〜(6’)を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真トナーT1’〜T6’を得た。これらについて、実施例1と同様にして各種評価を行った結果を下記表3に示す。
【0099】
比較例7〜11
実施例1のポリエステル樹脂(1)に変えて、ポリエステル樹脂(7’)〜(11’)を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真トナーT7’〜T11’を得た。これらについて、実施例1と同様にして各種評価を行った結果を下記表4に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンテトラアルコキシド(D)と、ホスファイト型のリン化合物(E)とを、前記チタンテトラアルコキシド(D)が含有するチタン原子のモル数(Ti)と、前記ホスファイト型のリン化合物(E)が含有するリン原子のモル数(P)との比[(Ti)/(P)]が0.9〜1.4の範囲となるような割合で用いる触媒の存在下、2級の水酸基を有するジオール(a1)と、芳香族ジカルボン酸(b1)と、ポリエポキシ化合物(C)とを必須の樹脂原料成分とし、前記2級の水酸基を有するジオール(a1)と前記芳香族ジカルボン酸(b1)との合計100質量部に対し、前記ポリエポキシ化合物(C)を0.03〜10質量部の範囲で用いて反応させることを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記チタンテトラアルコキシド(D)が、炭素原子数が1〜9の範囲であるアルキルアルコキシド基を有する化合物である請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエポキシ化合物(C)が、ノボラック型エポキシ樹脂である請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ノボラックエポキシ樹脂の平均核体数が3〜10の範囲である請求項3記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法により得られる重量平均分子量(Mw)が5,000〜300,000の範囲であるポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項5記載のポリエステル樹脂を含有する電子写真トナー用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6記載の電子写真トナー用樹脂組成物を用いてなる電子写真トナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246387(P2012−246387A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119081(P2011−119081)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】