説明

ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 ポリエステル重合反応後に、失活剤によって重合触媒(A)を失活させるポリエステル樹脂の製造方法において、ポリエステル重合反応の残存触媒を失活させる方法を提供する。
【解決手段】 ポリエステル重合反応後に、失活剤によって重合触媒(A)を失活させるポリエステル樹脂の製造方法において、リン酸エステル、リン酸金属塩及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる1種以上の失活剤(B)と水を併用するにより残存触媒を完全に失活させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂の製造方法に関し、さらに詳しくは重合直後のポリエステルに残存する含まれる重合触媒を失活剤によって失活するポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂はその優れた物理的、化学的特性により幅広く使用されている汎用樹脂であり、その製造においてはチタン系、錫系、アンチモン系に代表される重合触媒が使用されている。
しかし、重合反応時においては有用であるこれら重合触媒は、重合反応後に活性を保ったままポリエステル樹脂中に残存していると、しばしば悪影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
たとえば、ポリエステル樹脂は一般的には下記一般反応式(1)に示される正反応(右向き)において、生成した水を系中から取り除くことにより合成される。反応後のポリエステル樹脂に触媒が失活せずに残存していると、微量の水の存在下で反応式(1)の逆反応(左向き)が起こり、ポリエステル樹脂が分解する。
この分解反応はポリエステル樹脂を成型加工する際に用いられる二軸混練機中で頻繁に起こり、低分子量化して物性が劣化するため問題になっている。
【0004】
【化1】

【0005】
また、ポリエステルは上記反応式(1)の正反応によらずに、いわゆるラクトン類の開環重合やエステル交換によっても得ることができるが、この場合でも重合触媒の使用は必須である。
この場合でも、ポリエステル樹脂中に水が存在していると、使用した触媒によって上記反応式(1)の逆反応が促進され、結果としてポリエステル樹脂が分解する。水分と触媒が存在すると、ポリエステル樹脂が分解するというのは、ポリエステル樹脂の合成方法によらずに、ポリエステル樹脂が持っている本質的な課題であるといえる。
【0006】
このような問題に対し、重合触媒を精製によって取り除く方法がいくつか開示されている。
例えばポリエステル樹脂を溶媒に溶かし、該ポリエステル樹脂溶液を乱流せん断力の影響下に沈殿剤とよく接触させることを特徴とするポリエステル樹脂の精製方法(特許文献1参照や固体状物を親水性有機溶媒の存在下、酸性物質と接触させることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の精製方法(特許文献2参照)等が開示されている。
しかし、これら方法は有機溶剤や沈殿剤を使用するため、ポリエステル樹脂の乾燥工程が必要になることが避けられず、工業的に生産性の高い方法であるとは言いがたい。
【特許文献1】特開昭63−254128
【特許文献2】特開平6−116381 そこで、触媒を取り除かなくても、残存触媒の機能を失活させるいわゆる失活剤の使用が提案されている。 例えば、酸化防止剤であるフェノール化合物や亜リン酸エステル類を失活剤として使用する方法(特許文献3参照)やリン酸系金属塩を添加する方法(特許文献4参照)やアルミニウム化合物を添加する方法(特許文献5参照)等が開示されている。
【特許文献3】特表平7−504939
【特許文献4】特開平9−151242
【特許文献5】特開平9−151244
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、リン酸系金属塩やアルミニウム化合物を使用する方法では、樹脂に対する溶解性が低いため樹脂中に均一に分散させるのが困難である。
また、フェノール化合物や亜リン酸エステル類の酸化防止剤を失活剤として使用する方法は、樹脂に対する溶解性は高いが、失活剤としての効果は小さいといった問題を有している。
従って、ポリエステル樹脂の製造後の後処理において、残存重合触媒の効果の高い失活方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、公知の失活剤だけでは効果が不十分だが、これらと水と併用することにより、飛躍的に失活効果が向上することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポリエステル樹脂重合反応後に、失活剤によって重合触媒(A)を失活させる製造方法において、リン酸エステル、リン酸金属塩及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる1種以上の失活剤(B)と水を併用することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ポリエステル樹脂中に含まれる残存触媒を失活させることができ、分解反応が起こらないため、ポリエステル樹脂を成型加工する際に優れた耐熱性を発現し、ひいては分子量低下等のポリエステル樹脂の劣化を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下にポリエステル樹脂重合反応後失活剤と水を併用してに重合触媒を失活する製造方法について、説明する。
【0011】
本発明は、ポリエステル樹脂重合反応後に、失活剤によって重合触媒(A)を失活させるポリエステル樹脂の製造方法においてリン酸エステル、リン酸金属塩及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる1種以上の失活剤(B)と、水を併用することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法である。
【0012】
通常、ポリエステル樹脂(P)は、
(1)2官能以上の多価アルコール(a1)と2官能以上の多価カルボン酸(a2)の直接エステル化、
(2)2官能以上のポリエステル(a3)と2官能以上の多価アルコールのエステル交換、
(3)2官能以上の多価アルコールと酸無水物(a4)のエステル化、
(4)1分子中に水酸基部とカルボン酸部をそれぞれ1つ以上有するヒドロキシカルボン酸(a5)の直接エステル化、
(6)環状ラクトン(a6)の開環重合、
によって得られ、それぞれの反応において重合触媒(B)を使用する。
【0013】
2官能以上の多価アルコール(a1)としては、炭素数2〜12のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなど);アルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど);脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAなど);ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなど);上記脂環式ジオールの炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなど)付加物;上記ビスフェノール類の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなど)付加物;3〜8価またはそれ以上の脂肪族多価アルコール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなど);上記脂肪族多価アルコールの炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなど)付加物;トリスフェノール類(トリスフェノールPAなど);ノボラック樹脂(フェノールノボラック、クレゾールノボラックなど);上記トリスフェノール類の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物;上記ノボラック樹脂の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0014】
2官能以上の多価カルボン酸(a2)としては、ジカルボン酸として、アルキレンジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデセニルコハク酸など);アルケニレンジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸など);芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など);炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)、不飽和カルボン酸のビニル重合体(スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、α−オレフィン/マレイン酸共重合体、スチレン/フマル酸共重合体など)などが挙げられる。
【0015】
2官能以上のポリエステル(a3)としては、2官能以上の多価カルボン酸(a2)の低級アルキルエステル(メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルなど)などが挙げられる。
【0016】
酸無水物(a4)としては、2官能以上の多価カルボン酸(a2)の酸無水物などが挙げられる。
【0017】
1分子中に水酸基部とカルボン酸部をそれぞれ1つ以上有するヒドロキシカルボン酸(a5)としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、ヒドロキシステアリン酸、硬化ヒマシ油脂肪酸などが挙げられる。
【0018】
環状ラクトン(a6)としては、ヒドロキシカルボン酸(a5)が分子内で脱水縮合したラクチド、グリコリド、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等が例示される。
【0019】
上記のポリエステル樹脂の製造用の重合触媒(A)としては、有機スズ系触媒(ジブチルチンオキサイド、ジオクチル酸スズ、ジオレイン酸スズなど);アンチモン系触媒(三酸化アンチモンなど);アルカリ金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど);チタン系触媒(チタン酸テトラノルマルブチル、チタン酸テトライソプロピルなど)等が使用できる。
【0020】
本発明におけるポリエステル樹脂は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造することができる。
例えば、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150〜280℃、さらに好ましくは160〜260℃、とくに好ましくは170〜240℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、とくに2〜40時間である。
開環重合以外の重合法、すなわち、(1)〜(3)の重合法では、反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
直接エステル化反応による重合法、すなわち(1)、(3)の重合法では、アルコール成分とカルボン酸成分との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]/[COOH]として、好ましくは2/1〜1/2、さらに好ましくは1.5/1〜1/1.0、とくに好ましくは1.3/1〜1/1.0である。
【0021】
開環重合による方法、すなわち(4)の重合法では、適当な重合開始剤(D)を併用することにより、分子量を適宜コントロールすることができる。重合開始剤(D)としては、カルボン酸(D1)、アルコール類(D2)を用いることができる。
【0022】
カルボン酸(D1)としては、モノカルボン酸であるアルキレンカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸など)、アルケニレンカルボン酸(クロトン酸、オレイン酸、ダイマー酸など)、芳香族カルボン酸(安息香酸など)など及び2官能以上の多価カルボン酸(a2)が例示される。
【0023】
アルコール類(D2)としては、モノオールであるアルキレンアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノールなど)、アルケニレンアルコール(オレイルアルコールなど)、芳香族アルコール(フェノール、ベンジルアルコールなど)及び2官能以上の多価アルコール(a1)が例示される。
【0024】
環状ラクトン(a5)と開始剤(D)の比率は、環状ラクトンと開始剤のモル比[OH]/[COOH]として、好ましくは10/1〜100000/1、さらに好ましくは50/1〜50000/1、とくに好ましくは100/1〜10000/1である。
【0025】
ポリエステル樹脂の重合反応においては、溶剤(E)を用いてもよい。本重合において用いることができる溶剤としては、カルボキシル基や水酸基と反応しない溶剤が使用できる。例えば、キシレン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が例示される。
【0026】
ポリエステル樹脂の重合反応後、失活剤(B)を入れるまでの時間は、特に限定はない。好ましくは0〜20時間であり、特に好ましくは0〜2時間である。通常、生産効率の観点から0〜2時間後に失活剤を投入するのが一般的である。
【0027】
本発明の失活剤(B)としては、公知のリン酸エステル(P)、リン酸金属塩(Q)、アルミニウム化合物(R)、及びこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0028】
リン酸エステル(P)としては、例えば正リン酸エステル(トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリn-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなど)、亜リン酸エステル(亜リン酸のモノアルキルエステル;モノメチルホスファイト、モノエチルホスファイト、モノブチルホスファイト、モノオクチルホスファイト、モノノニルホスファイト、モノフェニルホスファイトなど、亜リン酸のジアルキルエステル;ジメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、ジブチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジ(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなど、亜リン酸のトリアルキルエステル;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビスノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルホスファイトなど)などが例示される。
これらのうち好ましいのは、亜リン酸エステルであり、さらに好ましいのは、亜リン酸エステルのトリアルキルエステルである。
【0029】
リン酸金属塩(Q)としては、リン酸エステル(P)の金属塩、例えばアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)やアルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)とリン酸エステル(P)の金属塩が例示される。
これらのうち好ましいのは、リン酸エステルの金属塩であり、さらに好ましいのは、リン酸エステルのナトリウム塩である。
【0030】
アルミニウム化合物(R)としては、例えば、酸化アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドなどが例示される。
これらのうち好ましいのは、ステアリン酸アルミニウムである。
【0031】
これらの失活剤(P)のうち好ましいのは、(P)の亜リン酸エステルと(Q)のリン酸エステルの金属塩であり、さらに好ましいのは、(P)の亜リン酸エステルのトリアルキルエステルである。
【0032】
ポリエステル樹脂に添加する失活剤(B)の量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部、好ましくは0.08〜3質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部である。0.05質量部未満では、失活効果が不十分であり、10質量部を超えると樹脂強度が低下する。
【0033】
失活剤と併用してポリエステル樹脂に添加する水の量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜3質量部、好ましくは0.15〜1質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部である。0.1質量部未満では、失活効果が不十分であり、3質量部を超えるとポリエステル樹脂の加水分解が起こり、結果として樹脂強度が低下する。
【0034】
添加する失活剤(B)と水(C)の質量比(B)/(C)は、100/10〜100/500、好ましくは100/30〜100/300、さらに好ましくは100/50〜100/200である。100/500未満では、失活効果が不十分であり、100/10を超えても失活効果が不十分となる。
【0035】
失活剤(B)と水をポリエステル樹脂に添加する方法は特に限定されないが、例えば、
(1)失活剤と水の混合物をポリエステル樹脂に入れる方法、
(2)失活剤と水を、重合で用いた溶剤(E)と同じ溶剤に溶解してポリエステル樹脂に入れる方法、
(3)まず、失活剤をポリエステル樹脂に添加し、次に水を順に入れる方法、
(4)逆に、水をポリエステル樹脂に入れてから失活剤を入れる方法、
(5)失活剤と水を、それぞれ別々に溶剤(E)に溶解して、ポリエステル樹脂に入れる方法
等が挙げられる。
【0036】
重合反応後のポリエステル樹脂は、100〜250℃で、失活剤と水で失活処理をする。 より好ましくは120〜200℃であり、もっとも好ましくは140〜180℃である。投入する温度が100℃より低いと、失活効果が十分に発現せず、250℃以上で入れると、ポリエステルの分解反応が優先となり、失活効果が十分にでない。
添加後は、温度を保ち、0.5〜48時間処理するのが好ましい。処理時間が0.5時間未満であると触媒失活が十分でなく、48時間以上処理すると高温によりポリエステル樹脂が劣化する。
【0037】
ポリエステル重合触媒を失活させた後は、必要に応じて他の後処理を行ってもよい。例えば、反応槽内を減圧にすることにより、残存モノマーを除去してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は質量部を意味する。
【0039】
製造例1
アジピン酸1460部およびエチレングリコール670部および重合触媒としてジブチルチンオキサイド3部をガラス製フラスコに仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下徐々に昇温し、200〜230℃にて約10時間反応させた。次いで230℃、60mmHg減圧下にて2時間、さらに230℃、1mmHg減圧下にて1.5時間反応させた後 、200メッシュ金網にて濾過した。数平均分子量 2200のポリエステル(X−1)を得た。
【0040】
製造例2
アジピン酸1460部および1,4−ブタンジオール980部および重合触媒としてジブチルチンオキサイド3部をガラス製フラスコに仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下徐々に昇温し、200〜230℃にて約10時間反応させた。次いで230℃、60mmHg減圧下にて2時間、さらに230℃、1mmHg減圧下にて1.5時間反応させた後 、200メッシュ金網にて濾過した。数平均分子量2300のポリエステル(X−2)を得た。
【0041】
製造例3
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物719部、テレフタル酸352部および重合触媒としてジブチルチンオキサイド3部を入れ、230℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら10時間反応させた。次いで5〜20mmHg減圧下にて反応させ、熱軟化点が128℃になった時点で取り出し、室温まで冷却後、粉砕した。数平均分子量6500のポリエステル(X−3)を得た。
【0042】
製造例4
L−ラクチド1000部、エチレングリコール10部およびジオクチル酸スズ1部をガラス製フラスコに仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下で徐々に昇温し、160℃にて約4時間反応させ、数平均分子量6300のポリエステル(X−4)を得た。
【0043】
製造例5
ε−カプロラクトン1000部、エチレングリコール10部およびジオクチル酸スズ1部をガラス製フラスコに仕込み、窒素ガスを通じながら撹拌し、常圧下徐々に昇温し、160℃にて約4時間反応させ、数平均分子量6300のポリエステル(X−5)を得た。
【0044】
実施例1
製造例1で得たポリエステル(X−1)100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、トリフェニルホスファイト0.3部、水0.3部を順次添加し、160℃にて2時間撹拌を続け、実施例1のポリエステル(Y1−1)を得た。
【0045】
実施例2〜5
同様にしてポリエステル(X−2)〜(X−5)についても、表1に記載したトリフェニルホスファイトと水の部数を添加して反応を行い、それぞれ実施例2〜5のポリエステル(Y1−2)〜(Y1−5)を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例6
製造例1で得たポリエステル(X−1)100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、ジ(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイトのナトリウム塩0.3部、水0.3部を順次添加し、160℃にて2時間撹拌を続け、実施例5のポリエステル(Y2−1)を得た。
【0048】
実施例7〜10
同様にしてポリエステル(X−2)〜(X−5)についても、表2に記載したジ(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイトのナトリウム塩と水の部数を添加して反応を行い、それぞれ実施例7〜10のポリエステル(Y2−2)〜(Y2−5)を得た。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例11
製造例1で得たポリエステル(X−1)100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、ステアリン酸アルミニウム0.3部、水0.3部を順次添加し、160℃にて2時間撹拌を続け、実施例11のポリエステル(Y3−1)を得た。
実施例12〜15
同様にしてポリエステル(X−2)〜(X−5)についても、表3に記載したステアリン酸アルミニウムと水の部数を添加して反応を行い、それぞれ実施例12〜15のポリエステル(Y3−2)〜(Y3−5)を得た。
【0051】
【表3】

【0052】
比較例1
製造例1で得たポリエステル(X−1)100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、トリフェニルホスファイト0.3部と水を0.08部を添加し、160℃にて2時間撹拌を続け、比較例1のポリエステル(Z1−1)を得た。
【0053】
比較例2〜6
同様にして、表4に記載した失活剤と水の部数を添加して、ポリエステル(X−1)〜(X−5)についても反応を行い、それぞれ比較例2〜6のポリエステル(Z1−2)〜(Z1−5)と(Z2−1)を得た。
【0054】
【表4】

【0055】
比較例7
製造例1で得たポリエステル(X−1)100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、ジ(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイトのナトリウム塩0.3部だけを添加し、160℃にて2時間撹拌を続け、比較例7のポリエステル(Z3−1)を得た。
【0056】
比較例8
製造例1で得たポリエステル(X−1)100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、ステアリン酸アルミニウム0.3部だけを添加し、160℃にて2時間撹拌を続け、比較例8のポリエステル(Z4−1)を得た。
【0057】
<耐熱性評価>
実施例及び比較例で得られたポリエステルを水存在下で高温加熱処理し、どの程度分解するかでポリエステルの耐熱性を評価した。
残存触媒が十分失活してていれば、前述の反応式(1)の逆反応に触媒が関与しなくなるため、水存在下での分解速度が遅くなり、その結果、耐熱性が向上したといえる。
耐熱性が向上しているかどうかは、加熱処理前後の数平均分子量変化により判断した。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した。
【0058】
<耐熱性評価条件>
実施例及び比較例で得たそれぞれのポリエステル100部をガラス製フラスコに仕込み、窒素気流下にて160℃に昇温後、水1.0部を仕込み、160℃にて10分間撹拌して加熱処理を行い、撹拌終了後直ちに取り出し、冷却した。
加熱処理前後のそれぞれのポリエステル数平均分子量を測定した。なお、低下率とは、下記式で計算される数平均分子量の低下率である。
低下率(%)=[(B)−(A)]×100/(B)
但し、(A)=加熱処理後数平均分子量、(B)=加熱処理前数平均分子量
結果を表5、表6に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
実施例ではいずれも、数平均分子量の低下は10%以下であったのに対し、比較例では10%以上の低下が見られた。触媒失活剤として、リン酸エステル、リン酸金属塩、アルミニウム化合物と水を併用することにより、触媒活性を低減し、ポリエステルの安定化を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の失活剤(B)と水を併用することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法により得られた樹脂は、ポリエステル樹脂中に含まれる残存触媒を完全に失活させることができる。そのため、その後のポリエステル樹脂の成型加工で加熱されても熱分解反応が起こらないため、優れた耐熱性を発現し、ひいては分子量低下等のポリエステル樹脂の劣化を最小限に抑えることができる。
このようなポリエステル樹脂は、繊維、成型品、フィルム、改質剤、トナーバインダーに使用した際に、その性能を発揮する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル重合反応後に、失活剤によって重合触媒(A)を失活させるポリエステル樹脂の製造方法において、リン酸エステル、リン酸金属塩及びアルミニウム化合物からなる群から選ばれる1種以上の失活剤(B)と水を併用することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
反応後のポリエステル樹脂に添加する失活剤(B)の量がポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部である請求項1記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
反応後のポリエステル樹脂に添加する失活剤(B)と水(C)の質量比(B)/(C)が100/10〜100/500である請求項1または2記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
重合反応後のポリエステル樹脂を失活剤と水で失活処理する温度が100〜250℃である請求項1〜3いずれか記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−204514(P2007−204514A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21825(P2006−21825)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】