説明

ポリエステル樹脂

【課題】機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、かつ高い結晶化特性と高い流動性を有するポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)μ<0.013×Mw−160(a)(式中、Mwは重量平均分子量を表す。)で示される特定の溶融粘度特性を有し、重量平均分子量(Mw)が18,000以上、分子量分布が2.5以上であるポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物単位を0.1〜2.0重量部含むポリエステル樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、かつ高い流動性を有するポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂は、優れた機械特性、耐熱性、成形性およびリサイクル性を有し、機械強度も高く、耐薬品性にも優れることから、成形品、フィルムおよび繊維などに広く利用されており、中でもPBTは、自動車や電気・電子機器のコネクター、リレーおよびスイッチなどの工業用成形品の材料として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、近年、工業用成形品の小型化・軽量化に対する要求がますます高まっており、機械強度のさらなる向上と同時に、結晶化特性に優れ、溶融時の流動性が改良されたポリエステル樹脂が望まれていた。
【0004】
従来、3価以上の多価カルボン酸または多価アルコールを有する溶融張力が0.8〜5.0gの芳香族ポリエステル樹脂が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案で得られるポリエステル樹脂は増粘してしまい、流動性が低下するものしか得ることができなかった。
【0005】
また、エステル形成性基を3個以上有する芳香族ポリエステル樹脂が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この提案で得られるポリエステル樹脂は高い溶融粘度を有しており、より流動性が改良されたポリエステル樹脂が望まれていた。
【0006】
また別に、2官能性連結剤を添加することにより、成型時の流動性を犠牲にすることなく、分子量が高く靱性の大きな芳香族ポリエステルであるポリブチレンテレフタレートが提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案により得られたポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の重要特性である耐加水分解性に課題があるため、さらに機械特性、耐加水分解性および結晶化特性のいずれにも優れ、高い流動性を有するポリエステル樹脂が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−89558号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開平9−202822号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2002−20467号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、上記の背景技術の課題に鑑み、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、かつ高い流動性を有するポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、かつ高い流動性を有するポリエステル樹脂を見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)
μ<0.013×Mw−160 (a)
(式中、Mwはポリエステル樹脂の重量平均分子量を表す。)で示されるポリエステル樹脂である。
【0011】
本発明のポリエステル樹脂の好ましい態様によれば、前記のポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は18,000以上であり、分子量分布は2.5以上である。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂の好ましい態様によれば、ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.1〜2.0重量部含むことである。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂の好ましい態様によれば、前記の3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、前記官能基を有する末端構造の少なくとも一つが、次式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Rは炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数で繰り返し単位を表す。)で示される構造のものである。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂の好ましい態様によれば、ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.1〜2.0重量部含むポリエステル樹脂であって、前記3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、前記官能基を有する末端構造の少なくとも一つが、次式(1)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは炭素数1〜15の炭化水素基を表しnは、1〜10の整数で繰り返し単位を表す。)で示される構造であり、溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)
μ<0.013×Mw−160 (a)
(式中、Mwはポリエステル樹脂の重量平均分子量を表す。)で示されるポリエステル樹脂であり、重量平均分子量(Mw)が18,000以上であり、分子量分布が2.5以上のポリエステル樹脂である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い重量平均分子量を有し、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、従来技術で得られる同等の重量平均分子量を持つポリエステル樹脂よりも温度250℃での溶融粘度が低く、かつ高い流動性を有するポリエステル樹脂が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明が対象とするポリエステル樹脂とは、溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)
μ<0.013×Mw−160 (a)
(式中、Mwはポリエステル樹脂の重量平均分子量を表す。)で示されるポリエステル樹脂である。
【0022】
本発明においては、溶融粘度(μ)と重量平均分子量(Mw)の関係が、上記式(a)で規定される場合に、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、かつ高い流動性を有するポリエステル樹脂となる。
【0023】
本発明における溶融粘度(μ(Pa・s))は、東洋精機製キャピログラフ1C型溶融粘度測定機を用いて、温度250℃、剪断速度1000(/sec)、およびオリフィス径1mmの条件で5分間滞留後に測定した溶融粘度のことである。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂は、重量平均分子量(Mw)が18,000以上であることが好ましい。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、機械特性が高くなるという点で、25,000以上がより好ましく、さらに好ましくは30,000以上であり、特に好ましくは38,000以上である。重量平均分子量(Mw)の上限値は、ブロー成形性および押出成形性に優れるという点で、60,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以下である。
【0026】
本発明における重量平均分子量(Mw)は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodex GPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂は、分子量分布が2.5以上であることが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂は、低バリ性、ブロー成形性および押出成形性が向上するという点で、分子量分布はより好ましくは2.8以上であり、さらに好ましくは3.0以上である。この分子量分布は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値である。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、高い流動性を有するという点で、15,000以下であることが好ましく、13,000以下がより好ましく、更に好ましくは12,000以下である。
【0030】
本発明における数平均分子量(Mn)は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodex GPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分(A−1)またはそのエステル形成誘導体からなるジカルボン酸成分(A−2)とジオール成分(B)とのエステル化反応またはエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応を行うことによって得られるポリエステル樹脂である。
【0032】
本発明で使用されるジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸およびこれらの混合物からなるジカルボン酸成分(A−1)と、ジカルボン酸のエステル形成誘導体からなるジカルボン酸成分(A−2)が挙げられる。
【0033】
上記の芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸および5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。上記の芳香族ジカルボン酸のエステル形成誘導体としては、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、具体的には、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルおよびブチルエステル等が挙げられる。
【0034】
上記の脂肪族ジカルボン酸成分としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。上記の脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、具体的には、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルおよびブチルエステル等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、ポリエステル樹脂が、高い流動性を有し、耐熱性および耐薬品性に優れるという点で、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好ましく使用される。
【0036】
本発明において、ジカルボン酸成分(A−1)がテレフタル酸である場合には、ポリエステル樹脂が、耐熱性、機械特性および耐薬品性が優れるという点から、全ジカルボン酸成分に対してテレフタル酸が主成分で50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であることが最も好ましい態様である。テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分として、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸を1種または2種以上を併用することも好ましい態様である。
【0037】
本発明で使用されるジオール成分(B)としては、芳香族ジオール、脂肪族ジオールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0038】
上記の芳香族ジオールとしては、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.8)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(3.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のエチレンオキサイドを付加したビスフェノールA誘導体、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.8)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよびポリオキシプロピレン−(3.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のプロピレンオキサイドを付加したビスフェノールA誘導体等が挙げられる。
【0039】
上記の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、イソマンニドおよびイソイデット等が挙げられる。
【0040】
これらの芳香族ジオールまたは脂肪族ジオールは、単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの中でも、ポリエステル樹脂が、高い流動性を有し、耐熱性に優れるという点で、脂肪族ジオールを用いることが好ましい。脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、ポリエステル樹脂が、特に結晶化特性、成形性、耐熱性および耐薬品性に優れるという点で、1,4−ブタンジオールが好ましく用いられる。
【0041】
本発明において、ジオール成分(B)が1,4−ブタンジオールである場合には、ポリエステル樹脂が、結晶化特性、成形性、耐熱性および機械特性に優れるとの点から、全脂肪族ジオールに対して1,4−ブタンジオールが主成分で50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが最も好ましい態様である。1,4−ブタンジオール以外のジオール成分として、エチレングリコール、1,3−プロパンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールを1種または2種以上を併用することも好ましい態様である。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂の好ましい態様においては、ポリエステル樹脂は、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を含むことである。本発明で使用される3つ以上の官能基を有する化合物(C)は、ポリエステル樹脂が、機械特性および結晶化特性に優れ、高い流動性を有するために好ましい成分である。
【0043】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)としては、分子中に3つ以上の官能基を有するもので、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。また、3つ以上の官能基を有する化合物(C)としては、3官能性化合物、4官能性化合物および5官能性化合物などの3つ以上の官能基を有する化合物が挙げられるが、ポリエステル樹脂が、機械特性、結晶化特性および流動性が優れるという点で、3官能性化合物または4官能性化合物が好ましい。
【0044】
本発明で使用される3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の官能基としては、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基およびシリルエーテル基等の官能基から選択された少なくとも1種類以上の官能基が挙げられる。
【0045】
これらの官能基は、ポリエステル樹脂が、高い流動性を有するという点から、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、エステル基、アミド基およびシラノール基からなる群から選択されることが好ましく、水酸基およびカルボン酸基からなる群から選択されることが特に好ましく、3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の官能基としては水酸基であることが最も好ましい態様である。
【0046】
本発明で使用される3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の官能基としては、異なる3つ以上の官能基を有していても構わないが、ポリエステル樹脂が、高い流動性を有するという点から、3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の官能基としては、2つ以上の官能基が同一の官能基であることが好ましく、3つ以上の官能基が同一の官能基であることがさらに好ましく、ポリエステル樹脂が、機械特性、耐久性および耐熱性が優れるという点で、全ての官能基が同一の官能基であることが特に好ましい態様である。
【0047】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、トリエタノールアミン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、スクロース、1,3,5−トリヒドロキシベンゼンおよび1,2,4−トリヒドロキシベンゼンなどの炭素数3〜24の多価アルコールやポリビニルアルコールなどのポリマーが挙げられる。なかでも、ポリエステル樹脂が、機械特性および流動性に優れるという点から、分岐構造を有するグリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびジペンタエリスリトールが好ましく用いられる。
【0048】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がカルボン酸基の場合は、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−2,5,7−トリカルボン酸、ピリジン−2,4,6−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸およびナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸などの多価カルボン酸やアクリル酸およびメタクリル酸などのポリマーが挙げられ、それらの酸無水物も使用することができる。なかでも、ポリエステル樹脂が、流動性に優れるという点から、分岐構造を有するプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸およびその酸無水物が好ましく用いられる。
【0049】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の官能基がアミノ基の場合は、3つ以上の置換基のうち少なくとも1つは1級または2級アミンであることが好ましく、いずれも1級または2級アミンであることがさらに好ましく、いずれも1級アミンであることが特に好ましい態様である。3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は、1,2,3−トリアミノプロパン、1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、1,2,4−トリアミノブタン、1,2,3,4−テトラミノブタン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、1,2,3−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、1,2,3−トリアミノベンゼン、1,2,4,5−テトラミノベンゼン、1,2,4−トリアミノナフタレン、2,5,7−トリアミノナフタレン、2,4,6−トリアミノピリジン、1,2,7,8−テトラミノナフタレンおよび1,4,5,8−テトラミノナフタレン等が挙げられる。なかでも、ポリエステル樹脂が、流動性に優れるという点から、分岐構造を有する1,2,3−トリアミノプロパン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサンおよび1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましく用いられる。
【0050】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がグリシジル基の場合は、トリグリシジルトリアゾリジン−3,5−ジオン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの単量体や、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリメチルメタクリレート、グリシジル基含有アクリルポリマーおよびグリシジル基含有アクリル/スチレンポリマーなどのポリマーが挙げられる。
【0051】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がイソシアネート基の場合は、ノナントリイソシアネート(例えば、4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(TIN))、デカントリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネートおよびドデカントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0052】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、3官能基以上のオキシカルボン酸の場合は、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸およびヒドロキシテレフタル酸等が挙げられ、これらは単独でも、2種以上の混合物として使用することもできる。特に、入手のし易さから、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸ならびにそれらの混合物が好ましく用いられる。
【0053】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0054】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0055】
また、ポリエステル樹脂が、機械特性、耐加水分解性と流動性に優れるという点から、本発明で好適に用いられる3つ以上の官能基を有する化合物(C)は、アルキレンオキシド単位を一つ以上含むことが好ましい。本発明において、3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが、次式(2)
【0056】
【化3】

【0057】
(式中、Rは炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数で繰り返し単位を表し、Xは水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基およびシリルエーテル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を表す。)で示される構造を有する化合物であり、上記式(2)中のRがアルキレン基の場合、上記式(2)で表される構造はアルキレンオキシド単位を含有する構造を示すものである。
【0058】
特に、ポリエステル樹脂が、耐加水分解特性および流動性に優れるという点で、3つ以上の官能基を有する化合物(C)としては、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、かつアルキレンオキシド単位を含有する多官能性化合物であることが最も好ましい態様である。
【0059】
本発明において、アルキレンオキシド単位の好ましい例として、炭素原子数1〜4である脂肪族アルキレンオキシド単位が挙げられ、具体例としてはメチレンオキシド単位、エチレンオキシド単位、トリメチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、テトラメチレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位、2,3−ブチレンオキシド単位およびイソブチレンオキシド単位などを挙げることができる。
【0060】
本発明においては、特に、ポリエステル樹脂が、流動性、リサイクル性、耐久性、耐熱性および機械特性に優れるという点で、アルキレンオキシド単位としてエチレンオキシド単位またはプロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用することが好ましい。
【0061】
またポリエステル樹脂が、耐加水分解性および靱性(引張破断伸度)に優れるという点で、プロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用することが特に好ましい態様である。
【0062】
本発明で用いられる3つ以上の官能基を有する化合物(C)において、3つ以上の官能基を有する化合物(C)に含まれるアルキレンオキシド単位数については、ポリエステル樹脂が、流動性、耐加水分解性および機械特性に優れるという点で、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位は、好ましくは0.1〜20であり、より好ましくは0.5〜10であり、さらに好ましくは1〜5である。
【0063】
アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシメチレングリセリン、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシトリメチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシテトラメチレングリセリン、(ポリ)オキシメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシトリメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシテトラメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシテトラメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレングルコース、(ポリ)オキシエチレングルコース、(ポリ)オキシトリメチレングルコース、(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングルコース、および(ポリ)オキシテトラメチレングルコース等を挙げることができる。
【0064】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、および(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸等を挙げることができる。
【0065】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、および(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン等を挙げることができる。
【0066】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0067】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物(C)の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0068】
ポリエステル樹脂が、耐加水分解特性および流動性に優れるという点から、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む3つ以上の官能基を有する化合物(C)の特に好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、および(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0069】
また、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、および(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸が挙げられる。
【0070】
また、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼンおよび(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼンが挙げられる。
【0071】
本発明において用いられる3つ以上の官能基を有する化合物(C)がとして、最も好適な化合物は、3つ以上の官能基を有し、水酸基を少なくとも1つ以上有する多官能性化合物であり、ポリエステル樹脂が、流動性、耐加水分解性および機械特性に優れるという点で、水酸基を有する末端構造の少なくとも1つ以上が、次式(1)
【0072】
【化4】

【0073】
(式中、Rは、炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは、1〜10の整数で繰り返し単位を表す。)で示される構造の化合物である。
【0074】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、水酸基を2つ以上有する多官能性化合物であるとき、3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の水酸基を有する末端構造の2つ以上が上記式(1)で表される構造の化合物であることがより好ましく、水酸基を3つ以上有する多官能性化合物であるとき、3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の水酸基を有する末端構造の3つ以上が上記式(1)で表される構造である化合物であることがさらに好ましく、3つ以上の官能基を有する化合物(C)中の水酸基を有する末端構造の全てが上記式(1)で表される構造である化合物であることが最も好ましい態様である。
【0075】
本発明において、ポリエステル樹脂が、流動性、リサイクル性、耐久性、耐加水分解性および機械特性などが優れるという点で、上記式(1)のRはアルキレン基を表し、nが1〜7の整数を表す官能基であることが好ましい。Rはアルキレン基を表し、nは1〜5の整数を表す官能基であることがより好ましく、Rはアルキレン基を表し、nは1〜4の整数を表す官能基であることがさらに好ましく、Rはアルキレン基を表し、nは1〜3の整数を表す官能基であることが特に好ましい態様である。
【0076】
本発明において、Rが、アルキレン基の場合、上記式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示す。このような構造を有する化合物として、パーストープ社製PolyolR3611、パーストープ社製Polyol3380、パーストープ社製PolyolR3530、パーストープ社製Polyol3165、パーストープ社製Polyol4290、日本乳化剤株式会社製PNT−60U、日本乳化剤株式会社製TMP−F32、および株式会社アデカ製T−400等が挙げられる。
【0077】
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、上記の主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を好ましくは0.1〜2.0重量部含むものである。ポリエステル樹脂が、流動性と機械物性に優れるという点で、3つ以上の官能基を有する化合物(C)の含有量は、より好ましくは0.5〜1.5重量部の範囲であり、さらに好ましくは0.6〜1.0重量部の範囲である。3つ以上の官能基を有する化合物(C)の含有量が0.1〜2.0重量部の範囲より少ないと、ポリエステル樹脂の流動性は向上せず、3つ以上の官能基を有する化合物(C)の含有量が多い場合は、ゲル化により反応の制御が難しくなり、ポリエステル樹脂を得ることができないこともある。
【0078】
本発明で用いられる3つ以上の官能基を有する化合物(C)の粘度は、25℃の温度において15000m・Pa以下であることが好ましい。3つ以上の官能基を有する化合物(C)の25℃における粘度が15000m・Paよりも大きいと、流動性改良効果が不十分なポリエステル樹脂となる傾向を示す。
【0079】
ポリエステル樹脂が、機械特性、結晶化特性および流動性に優れるという点から、3つ以上の官能基を有する化合物(C)の粘度は、より好ましくは5000m・Pa以下であり、さらに好ましくは2000m・Pa以下である。粘度の下限は、成形時のブリード性の点から100m・Pa以上であることが好ましい。
【0080】
本発明で用いられる3つ以上の官能基を有する化合物(C)の重量平均分子量(Mw)は、ポリエステル樹脂が、流動性に優れるという点で、好ましくは50〜10000の範囲であり、より好ましくは150〜8000の範囲であり、さらに好ましくは200〜3000の範囲である。本発明において、3つ以上の官能基を有する化合物(C)の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0081】
本発明のポリエステル樹脂は、上記のように、ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.1〜2.0重量部含むことが好ましく、機械特性、結晶化特性および流動性に優れる点で、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.5〜2重量部含むことがより好ましく、0.5〜1.5重量部含むことがさらに好ましく、0.6〜1.0重量部含むことが特に好ましい態様である。
【0082】
本発明のポリエステル樹脂として、最も好ましい態様は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.1〜2.0重量部含むポリエステル樹脂であって、前記3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、前記官能基を有する末端構造の少なくとも一つが、次式(1)
【0083】
【化5】

【0084】
(式中、Rは炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数で繰り返し単位を表す。)で示される構造であり、溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)
μ<0.013×Mw−160 (a)
(式中、Mwはポリエステル樹脂の重量平均分子量を示す。)で示されるポリエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量(Mw)が18,000以上であり、分子量分布が2.5以上あるポリエステル樹脂である。
【0085】
主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)を含有させることにより、上記式(a)の溶融粘度のポリエステル樹脂が得られる。
【0086】
本発明においては、ポリエステル樹脂の分子構造に、上記化合物からなる特定量の分岐構造を導入することにより、ポリエステル樹脂の溶融粘度特性が、従来のポリエステル樹脂とは異なる特異な挙動を示すと思われ、その結果、顕著な効果として、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、高い流動性を有するポリエステル樹脂を提供できるものであり、上記の最も好ましい態様においては、特に格別顕著な効果を得ることができるものである。
【0087】
本発明のポリエステル樹脂のさらに好ましい態様においては、高い流動性を有し、結晶化特性、成形性、耐熱性、耐加水分解性および機械特性に優れるという点から、ジカルボン酸成分(A−1)がテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸であり、ジオール成分(B)が1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールであり、3つ以上の官能基を有する化合物(C)が3つ以上の水酸基を有する多官能性化合物であって、かつ、アルキレンオキシド単位を含有する多官能性化合物である。
【0088】
本発明のポリエステル樹脂は、さらにチタン化合物(D−1)および/またはスズ化合物(D−2)を含有することができる。エステル化反応またはエステル交換反応時および重縮合反応時に、チタン化合物(D−1)および/またはスズ化合物(D−2)を、反応触媒として使用することができ、反応性向上の点から、エステル化反応またはエステル交換反応時に、チタン化合物(D−1)およびスズ化合物(D−2)の混合触媒を用いることが好ましい。
【0089】
本発明において、エステル化反応時またはエステル交換反応時に、反応触媒として使用されるチタン化合物(D−1)は、式(RO)Ti(OR4−n(ただし、式中のR、Rは炭素数1〜l0の脂肪族、脂環族または芳香族の炭化水素基を表し、nは0〜4の数字(小数を含む)を表す。)で示されるチタン酸エステルおよび縮合物であることが好ましい。
【0090】
本発明で用いられるチタン化合物(D−1)の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステルおよびトリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどが挙げられるが、これらの内でも、ポリエステル樹脂が機械特性に優れるという点から、チタン酸のテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、特にチタン酸のテトラ−n−ブチルエステルが好ましく使用される。
【0091】
これらのチタン化合物(D−1)は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用することもできる。
【0092】
これらのチタン化合物(D−1)の含有量は、ポリエステル樹脂が機械特性に優れ、異物が少ないという点から、ポリエステル樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01〜0.3重量部の範囲であり、より好ましくは0.02〜0.2重量部の範囲である。
【0093】
本発明において、エステル化反応時またはエステル交換反応時に反応触媒として使用されるスズ化合物(D−2)は、次式(3)
【0094】
【化6】

【0095】
(ただし、式中、Rは炭素数1〜15のアルキル基またはアリール基、X〜Xは炭素数1〜15のアルキル基、アリール基、アリルオキシ基、シクロヘキシル基、ヒドロキシ基、ハロゲンなどを含む1価の基を表し、同一であっても異なっていてもよい。また、Xは硫黄または酸素原子を表す。)で示される化合物およびその縮合体が好ましく使用される。
【0096】
このスズ化合物(D−2)の具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズオキサイド、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキサイドなどが挙げられる。これらのなかでも、ポリエステル樹脂が機械特性に優れるという点から、特にモノアルキルスズ化合物が好ましく使用される。
【0097】
また、他のスズ化合物(D−2)としては、スタンノン酸も用いることができ、この場合には、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸およびブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸が好ましく使用される。これらのスズ化合物(D−2)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0098】
これらのスズ化合物(D−2)の含有量は、ポリエステル樹脂が機械特性に優れ、異物が少ないという点から、ポリエステル樹脂100重量部に対して、好ましくは0.02〜0.3重量部の範囲であり、より好ましくは0.03〜0.2重量部の範囲である。
【0099】
次に、本発明のポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0100】
本発明において、ポリエステル樹脂は、直接重合法を用いて製造する場合には、ジカルボン酸とジオールとの直接エステル化反応を行ってオリゴマーとし、次いで重縮合反応を行うことにより得ることができる。また、エステル交換法を用いる場合には、ジカルボン酸のエステル形成誘導体とジオールとのエステル交換反応を行ってオリゴマーとし、次いで重縮合反応を行うことにより得ることができる。
【0101】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法としては、エステル化反応またはエステル交換反応は、圧力が通常101kPa以下であり、ポリエステル樹脂を効率的に製造できるという点から、圧力は好ましくは13.3〜79.9kPaの範囲であり、さらに好ましくは13.3〜53.3kPaの範囲となる減圧下で行われる。
本発明のポリエステル樹脂の製造方法としては、エステル化反応またはエステル交換反応の反応温度は、好ましくは140〜290℃の範囲であり、さらに好ましくは180〜280℃の範囲である。また、エステル化反応後またはエステル交換反応後のオリゴマーの反応率が97%以上であることが好ましい。
【0102】
本発明において、ジオール成分(B)とジカルボン酸成分(A−1)のモル比((B)/(A−1))、または、ジオール成分(B)とジカルボン酸のエステル形成誘導体からなるジカルボン酸成分(A−2)のモル比((B)/(A−2))は、好ましくは1.1〜6.0の範囲内であり、ポリエステル樹脂が高い流動性を有するという点で、より好ましくは1.1〜3.0の範囲内であり、更に好ましくは1.1〜2.0の範囲内であり、ポリエステル樹脂が特に高い流動性を有するという点から、特に1.1〜1.5の範囲内にモル比((B)/(A−1)または(B)/(A−2))を設定することが好ましい。
【0103】
本発明において、ポリエステル樹脂に、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を導入するために、3つ以上の官能基を有する化合物(C)の添加時期は、ポリエステル樹脂製造過程でもよく、あるいは予め作成した3つ以上の官能基を有する化合物(C)を含まないポリエステル樹脂に、3つ以上の官能基を有する化合物(C)を溶融混練する方法でもよいが、効率的かつ安定した品質のポリエステル樹脂を得ることができるという点で、ポリエステル樹脂製造過程で添加することが好ましい。
【0104】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)のポリエステル樹脂製造過程での具体的な添加時期としては、エステル化反応の開始またはエステル交換反応の開始から重縮合反応の終了直前までのいずれの段階で添加してもよいが、ポリエステル樹脂が、高い流動性を有するという点で、エステル化反応前またはエステル交換反応前から重縮合反応の開始までのいずれかの段階で添加することが好ましい。
【0105】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)の添加時期として、エステル化反応またはエステル交換反応の開始時に、ジカルボン酸成分(A−1)またはジカルボン酸のエステル形成誘導体からなるジカルボン酸成分(A−2)とジオール成分(B)を混合したところに添加することが最も好ましい態様である。このように、本発明において、エステル化反応の開始またはエステル交換反応の開始とは、ジカルボン酸成分やジオール成分など反応成分を混合し反応を準備している段階、すなわち、エステル化反応前またはエステル交換反応前の反応開始時を含む意味で用いられる。
【0106】
また、3つ以上の官能基を有する化合物(C)の添加は、1回または複数回で行ってもよいが、ポリエステル樹脂が高い流動性を有するという点から、エステル化反応の開始またはエステル交換反応の開始から重縮合反応の終了直前までの1回で添加することが好ましい。
【0107】
エステル化反応またはエステル交換反応から得られたオリゴマーは、次いで重縮合反応に供されるが、その反応では、回分法または連続法の通常のポリエステル樹脂の製造に用いられる重縮合条件をそのまま適用することができる。例えば、反応温度を好ましくは230〜260℃、より好ましくは240〜255℃の範囲とし、圧力を好ましくは667Pa以下、より好ましくは133Pa以下の減圧下とした条件で行うことができる。
【0108】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法として、エステル化反応後またはエステル交換反応後の重縮合反応においては、この重縮合反応を効果的に進める上で、必要な触媒を別途添加し使用することができる。例えば、三酸化アンチモンや酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドなどのジルコニア化合物、前記のチタン化合物(D−1)および前記のスズ化合物(D−2)などを、生成するポリエステル樹脂100重量部に対して0.01〜0.15重量部の範囲で添加することが好ましく、特にチタン化合物を使用することが好ましい。
【0109】
本発明のポリエステル樹脂に、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、耐光剤、熱安定剤、酸化防止剤(ヒンダートフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤など)、銅害防止剤、滑剤、離形剤、染料および顔料を含む着色剤などの1種または2種以上を含有させることができる。特に、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、リン酸トリアミド、リン酸モノアンモニウム、リン酸トリメチル、リン酸ジメチル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニルおよびホスホン酸ジメチルフェニルなどから選ばれたリン化合物を含有させることにより、ポリエステル樹脂の色調が著しく改善される。
【0110】
本発明のポリエステル樹脂は、機械特性および耐加水分解性に優れ、優れた結晶化特性と高い流動性を有するポリエステル樹脂であり、電気部品や自動車部品などの成形材料の他、フィルム用、シート用、繊維用およびブローボトル用などとして広く用いることができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明のポリエステル樹脂を具体的に説明する。
【0112】
本発明で用いた測定方法および判定方法を、次に示す。
【0113】
(1)分子量特性(重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布)
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の値である。分子量分布は、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値である。GPCの測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodex GPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速1.0mL/minとし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。重量平均分子量(Mw)が大きい程、優れた機械特性を有することを示す。
【0114】
(2)粘度特性(溶融粘度(μ))
東洋精機製キャピログラフ1C型を用いて、温度250℃、剪断速度1000(/sec)、オリフィス径1mmの条件で溶融粘度を測定した。測定は2回行い、その平均値を溶融粘度とした。この溶融粘度の値が小さい程、高い流動性を有することを示す。
【0115】
(3)耐加水分解特性
TABAI ESPEC製PRESSURE COOKER TPC−411を用いて、温度121℃、相対湿度100%、加水分解処理時間50時間の条件で加水分解処理を行い、加水分解処理後のサンプルのGPC測定を行うことにより、処理前の重量平均分子量に対する処理後の重量平均分子量の保持率を算出した。保持率が大きい程、高い耐加水分解性を有することを示す。
【0116】
(4)熱特性(結晶化温度(Tc))
パーキマンエルマー製DSC7を用い、測定条件は、試料5mg、窒素雰囲気下中、昇温速度20℃/minで行った。この結晶化温度が高い程、優れた結晶化特性および成形性を有することを示す。
【0117】
(5)機械特性
(5−1)引張強度
ASTM D−638に従って、ASTM1号ダンベル試験片について引張降伏強度を測定した。測定は5回行い、その平均値を引張降伏強度とした。この引張強度が大きい程、優れた機械強度を有することを示す。
【0118】
(5−2)耐衝撃性
ASTM D256に従って、3mm厚ノッチなし成形品のアイゾット衝撃強度を測定した。測定は5回行い、その平均値をアイゾット衝撃強度とした。この衝撃強度が大きい程、優れた機械強度を有することを示す。
【0119】
[実施例1〜3]
エステル化反応におけるジオール成分(B)とジカルボン酸成分(A−1)のモル比((B)/(A−1))を1.2とし、ジカルボン酸成分(A)としてテレフタル酸:780g、ジオール成分(B)として1,4−ブタンジオール:510g、3つ以上の官能基を有する化合物(C)としてポリオキシプロピレントリメチロールプロパン(分子量425、1官能基あたりのアルキレンオキシド単位数5、パーストープ社製PolyolR3530):10.6g、エステル化反応触媒としてチタン化合物(D−1)(テトラ−n−ブチルチタネート):0.47g、およびエステル化反応触媒としてスズ化合物(D−2)(モノブチルヒドロキシスズオキサイド):0.45gを、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度190℃、圧力60kPaの減圧下にエステル化反応を開始した後、徐々に昇温および減圧し、最終的に温度230℃、圧力30kPaの条件下でエステル化反応を245分間行った。得られた反応物にリン酸:0.18gを添加し、その後、重縮合反応触媒としてのチタン化合物(D−1)(テトラ−n−ブチルチタネート):5.2gを添加し、温度250℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。実施例1では、重縮合反応時間を80分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が55Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例2では、重縮合反応時間を90分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が35,000で、溶融粘度が130Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例3では、重縮合反応時間を100分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が160Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0120】
[実施例4、5]
実施例1〜3における3つ以上の官能基を有する化合物(C)(ポリオキシプロピレントリメチロールプロパン)の添加量を5.2gと変更したこと以外は、実施例1〜3と同様に行った。実施例4では、重縮合反応時間を100分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が90Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例5では、重縮合反応時間を140分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が175Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0121】
[実施例6〜8]
実施例1〜3におけるジオール成分(B)成分とジカルボン酸成分(A−1)成分のモル比((B)/(A−1))を2.0と変更し、チタン化合物(D−1)のみを添加し、エステル化反応での減圧条件を常圧に変更し、エステル化反応時間を270分としたこと以外は、実施例1〜3と同様に行った。実施例6では、重縮合反応時間を170分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が75Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例7では、重縮合反応時間を190分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が33,000で、溶融粘度が140Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例8では、重縮合反応時間を200分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が195Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0122】
[実施例9、10]
実施例6〜8における3つ以上の官能基を有する化合物(C)(ポリオキシプロピレントリメチロールプロパン)の添加量を2.1gと変更したこと以外は、実施例6〜8と同様に行った。実施例9では、重縮合反応時間を210分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が150Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例10では、重縮合反応時間を240分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が340Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0123】
[実施例11、12]
実施例6〜8における3つ以上の官能基を有する化合物(C)(ポリオキシプロピレントリメチロールプロパン)の添加量を21.2gと変更したこと以外は、実施例6〜8と同様に行った。実施例11では、重縮合反応時間を160分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が150Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例12では、重縮合反応時間を240分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が340Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0124】
[実施例13、14]
実施例9、10における3つ以上の官能基を有する化合物(C)を、ポリオキシエチレントリメチロールプロパン(分子量1014、1官能基あたりのアルキレンオキシド単位数20、パーストープ社製Polyol3165)に変更したこと以外は、実施例6〜8と同様に行った。実施例13では、重縮合反応時間を180分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が110Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例14では、重縮合反応時間を210分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が250Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0125】
[実施例15、16]
実施例9、10における3つ以上の官能基を有する化合物(C)をシグマ−アルドリッチ社製トリメチロールプロパンに変更したこと以外は、実施例9、10と同様に行った。実施例15では、重縮合反応時間を200分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が155Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例16では、重縮合反応時間を230分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が350Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0126】
[実施例17、18]
実施例9、10における3つ以上の官能基を有する化合物(C)を、シグマ−アルドリッチ社製ペンタエリストールに変更したこと以外は、実施例9、10と同様に行った。実施例17では、重縮合反応時間を200分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が150Pa・sのポリエステル樹脂を得た。実施例18では、重縮合反応時間を230分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が345Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0127】
[比較例1]
実施例1における3つ以上の官能基を有する化合物(C)を添加しないこと以外は、実施例1と同様に行い、重縮合反応時間を150分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が190Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0128】
[比較例2]
比較例1で得られたポリエステル樹脂を温度200℃、時間1440分間(24時間)、窒素気流下で固相重合を行い、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が390Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0129】
[比較例3]
実施例1における3つ以上の官能基を有する化合物(C)の添加量を0.5gに変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、重縮合反応時間を150分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が175Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0130】
[比較例4]
比較例3で得られたポリエステル樹脂を温度200℃、時間1440分間(24時間)、窒素気流下にて固相重合を行い、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が375Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0131】
[比較例5]
実施例1における3つ以上の官能基を有する化合物(C)の添加量を53gに変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。ゲル化が発生しポリエステル樹脂を得ることができなく、分子量測定に至らなかった。
【0132】
[比較例6]
実施例11における3つ以上の官能基を有する化合物(C)の添加量を0.5gに変更したこと以外は、実施例11と同様に行い、重縮合反応時間を☆☆230分☆☆とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が175Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0133】
[比較例7]
比較例6で得られたポリエステル樹脂を温度200℃、時間1440分間(24時間)、窒素気流下にて固相重合を行い、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が375Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0134】
[比較例8]
実施例1における3つ以上の官能基を有する化合物(C)を2つのヒドロキシル基を有する東京化成工業株式会社製ポリエチレングリコール200に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、重縮合反応時間を150分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が185Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0135】
[比較例9]
比較例8で得られたポリエステル樹脂を温度200℃、時間1440分間(24時間)、窒素気流下にて固相重合を行い、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が385Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0136】
[比較例10]
比較例3における3つ以上の官能基を有する化合物(C)をシグマ−アルドリッチ社製ピロメリット酸無水物に変更したこと以外は、比較例3と同様に行い、重縮合反応時間を150分とすることにより、重量平均分子量(Mw)が25,000で、溶融粘度が175Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0137】
[比較例11]
比較例10で得られたポリエステル樹脂を温度200℃、時間1440分間(24時間)、窒素気流下にて固相重合を行い、重量平均分子量(Mw)が40,000で、溶融粘度が375Pa・sのポリエステル樹脂を得た。
【0138】
上記の実施例1〜18と比較例1〜11で得られたポリエステル樹脂について、分子量特性、溶融粘度特性、耐加水分解性、熱特性および機械特性を、まとめて表1、2(実施例1〜18)と表3、4(比較例1〜11)に示す。
【0139】
【表1】

【0140】
【表2】

【0141】
【表3】

【0142】
【表4】

【0143】
上記の実施例および比較例の結果から、本発明におけるポリエステル樹脂が、機械特性、耐加水分解性および結晶化特性に優れ、そして高い流動性を有するポリエステル樹脂であることがわかる。
【0144】
さらに、本発明の好ましい態様としては、次のことがわかる。
【0145】
比較例の結果から、比較例に示した条件で得られたポリエステル樹脂の溶融粘度(μ)と重量分子量(Mw)の関係は、式(a)の範囲を外れ、溶融粘度が高くなっており、本発明で提示したポリエステル樹脂よりも流動性が劣ることがわかる。
【0146】
また、実施例および比較例の結果から、ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物単位を0.1〜2.0重量部含むことにより、溶融粘度が低くなり、本発明で規定する式(a)の溶融粘度の条件を満たすことがわかる。
【0147】
実施例および比較例の結果から、ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物単位を0.1〜2.0重量部含むことにより、優れた結晶化特性を持つことがわかる。
【0148】
実施例1〜5、比較例3と比較例4の結果から、3つ以上の官能基を有する化合物が、アルキレンオキシド単位を含む、3つ以上の水酸基を有することにより、優れた耐加水分解性を持つことがわかる。
【0149】
実施例1〜5および比較例1〜5の結果から、3つ以上の官能基を有する化合物の添加量は、ポリエステル樹脂100重量部に対して0.5〜1.5重量部の範囲で配合することが好ましく、0.6〜1.0重量部の範囲で添加することがさらに好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)
μ<0.013×Mw−160 (a)
(式中、Mwはポリエステル樹脂の重量平均分子量を表す。)で示されるポリエステル樹脂。
【請求項2】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)が18,000以上である請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
ポリエステル樹脂の分子量分布が2.5以上である請求項1または2記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.1〜2.0重量部含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、前記官能基を有する末端構造の少なくとも一つが、次式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数で繰り返し単位を表す。)で示される構造である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
ポリエステル樹脂100重量部に対し、主鎖中に3つ以上の官能基を有する化合物(C)単位を0.1〜2.0重量部含むポリエステル樹脂であって、前記3つ以上の官能基を有する化合物(C)が、3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、前記官能基を有する末端構造の少なくとも一つが、次式(1)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは、1〜10の整数で繰り返し単位を表す。)で示される構造であり、溶融粘度(μ(Pa・s))が、次式(a)
μ<0.013×Mw−160 (a)
(式中、Mwはポリエステル樹脂の重量平均分子量を表す。)で示されるポリエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量(Mw)が18,000以上であり、分子量分布が2.5以上あるポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2011−94048(P2011−94048A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250015(P2009−250015)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】