説明

ポリエステル短繊維織物

【課題】超長綿調の光沢と風合いを有し、かつW&W性に優れたポリエステル短繊維織物を提供する。
【解決手段】表面に凹凸形成処理が施された、50〜120番手の単糸および/または100〜240番手の双糸を用いた、クリンプ率が8〜13%のポリエステル短繊維を含む糸条をタテ糸に使用した織物であって、自動変角光度計によりJeffries法で得られる反射強度−試料回転角度曲線のピーク幅(2σ)とピーク高さ(H)の比(光沢値)が0.03〜0.10であり、かつ、せん断剛性値が0.5〜1.0gf/cm・degであることを特徴とするポリエステル短繊維織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレスシャツやブラウスなどの衣料に適した高級感のある光沢と風合いを有するポリエステル短繊維織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル繊維は強度、寸法安定性、イージーケア性等の機能性に優れていることから、衣料用繊維の中でもとりわけ生産量が多く様々な用途に使用されている。用途の多様化に伴い、制電性、抗菌性、防汚性などの機能性や、通気性、ソフト性、清涼性、吸湿性などの着用快適性や風合いの優れた織編物の開発が盛んに行われており、近年ではポリエステル繊維は綿の代替として肌着やドレスシャツにも多く使用されるようになった。
【0003】
一方、昨今の消費者のニーズとしては、機能性や快適性のみならず、外観の優美性が挙げられるようになっている。しかし、ポリエステル繊維は特有のギラツキ感の大きな光沢があり、品位に欠けるため好まれないことがある。特にドレスシャツやブラウスなどの衣料分野では、高級感のない光沢のポリエステル繊維製品は好まれない。
【0004】
従来技術として、ポリエステル繊維のウォッシュアンドウェア(W&W)性を生かし、さらに吸水、静電等の機能を付与したポリエステルシャツ地織物(特許文献1)が提案されているが、これは太番手使いであるため風合いおよび光沢感の品位に欠ける。また、無機微粒子を含有したポリエステルにかかるポリエステルよりもアルカリ水溶液に対する溶解度が大きいポリエステルを混合したポリエステル繊維をアルカリ減量加工することによって、ポリエステル繊維表面に無数のミクロボイドと筋状溝を形成させた、断面形状が3〜8葉形状のポリエステル繊維(特許文献2)が提案されているが、フィラメント使いに限定されており、シャツ地として良好な風合いが得られない。
【0005】
このように粒子配合技術、ポリマー混合技術は公知技術であるにもかかわらず、従来技術においては超長綿のような高級感のある光沢と風合いを有する織物は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−314044号公報
【特許文献2】特開平11−222725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、上記問題を解決し、超長綿などで代表される高級綿調の光沢と風合いを有し、かつW&W性にも優れたポリエステル短繊維織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記した課題を解消するために、次の1〜4の構成を有する。
1.表面に凹凸形成処理が施された、50〜120番手の単糸および/または100〜240番手の双糸を用いた、クリンプ率が8〜13%のポリエステル短繊維を含む糸条をタテ糸に使用した織物であって、自動変角光度計によりJeffries法で得られる反射強度−試料回転角度曲線のピーク幅(2σ)とピーク高さ(H)の比(光沢値)が0.03〜0.10であり、かつ、せん断剛性値が0.5〜1.0gf/cm・degであることを特徴とするポリエステル短繊維織物。
2.ヨコ糸のクリンプ率が1〜5%であることを特徴をとする前記1に記載のポリエステル短繊維織物。
3.タテ糸密度がヨコ糸密度の1.5〜2倍であることを特徴とする前記1または2に記載のポリエステル短繊維織物。
4. 平均粒子径が0.1〜1.0μmの粒子を2重量%含有したポリエステル短繊維を含む糸条を少なくともタテ糸に使用して製織した後、減量加工して表面に凹凸を付与し、さらに該タテ糸のクリンプ率が8〜13%となる加工を施すことを特徴とするポリエステル短繊維織物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超長綿などで代表される高級綿様の光沢と風合いを有し、かつ、W&W性に優れたポリエステル短繊維織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】自動変角光度計によるJeffries法の反射強度測定における測定部分の略側面図である。
【図2】自動変角光度計によるJeffries法の反射強度測定における試料台の回転方向を示す説明図である。
【図3】自動変角光度計によるJeffries法の反射強度測定における反射強度−試料回転角度曲線を示した説明図である。
【図4】自動変角光度計によるJeffries法の反射強度測定における反射強度−試料回転角度曲線の回転角度180°近辺現れるに上に凸の曲線をガウス近似して得られた近似曲線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
【0012】
先ず、本発明のポリエステル繊維は表面に凹凸を形成させる処理が施されたものである。かかる凹凸を形成させる方法としては、平均粒子径0.1〜1.0μmの無機微粒子を2重量%以上含有したポリエステル繊維を減量加工することで繊維表面および表面近傍から無機微粒子を脱落させ、微小な孔、いわゆるミクロボイドを形成させる方法が挙げられる。例えば、微粒子の種類等にも影響されるが、無機微粒子を2重量%未満含有したポリエステル繊維を減量加工しても、無機微粒子の量が少ないため、後述する拡散反射の増加を見込むことができない。減量加工に当たっては、アルカリ溶液が好適に用いられる。当該ミクロボイドは直径が数μmから数百μm、深さが数μmから数十μmまでのものを指し、いずれにしても、通常の方法で製造された繊維がその表面に有する自然の凹凸では、拡散反射の増加による光沢値の改善を図ることはできない。ミクロボイドの数は無機微粒子の含有率により調整でき、その含有率は2〜15重量%が好ましい。より好ましくは、2〜10重量%である。また、繊維表面の粒子全てを必ずしも脱落させる必要はなく、表面に残った粒子が凸の状態を形成したものであっても良い。また、上記ポリエステル繊維に含有される粒子の平均粒子径は、粒子を10万倍に拡大した電子顕微鏡写真から、各一次粒子の最長径を測定し、1000個の平均として求めたものである。
【0013】
上記無機微粒子としては炭酸カルシウムなどの無機炭酸塩粒子や硫酸バリウムなどの無機硫酸塩粒子、酸化チタン、酸化ケイ素などの無機酸化物粒子などが挙げられる。繊維表面の凹凸の付与方法としては、前述の方法に限られたものではなく、いずれの方法であっても凹凸が付与できればよい。繊維表面に凹凸を形成することでポリエステル繊維特有のギラツキ感の原因の一つである高い鏡面反射が抑えられ、拡散反射が増加する。これにより反射の異方性が低減し、反射強度の織物の回転角度に対する依存性が低くなり、マイルドで高級感のある光沢が得られると考えられる。
【0014】
本発明のポリエステル繊維に含有される粒子の合成法は特に制限されないが、例えば酸化ケイ素の場合は湿式法により合成したものであることが好ましい。湿式法で合成した粒子は、粒子内部に隙間が多く存在し粒子内部における光の拡散が多いので、得られるポリエステル繊維の透け感を低減することができる。
【0015】
本発明のポリエステル繊維の製造工程における粒子の配合方法としては、ポリエステルの重縮合反応が完結する以前の任意の段階で粒子をスラリー状態で反応系に添加する方法や、重縮合反応が実質的に完結したのち紡糸が完結するまでの任意の段階で粒子をマスターポリマー状態、粉体状態、あるいはスラリー状態でポリエステルに添加する方法などを採用することができる。粒子をスラリー状態で反応系あるいはポリエステルに添加する際には、スラリーを予め分散処理や分級処理をしたり、スラリーに分散剤などを共存させておく方法を好ましく採用することができる。
【0016】
本発明で用いるポリエステル繊維はポリエステル系のものであれば特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを用いることができる。また、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、トリメリット酸などのカルボン酸およびその誘導体、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのジオール、その他の共重合成分の1種が含まれていてもよい。共重合ポリエステルの場合、全共重合成分量が15モル%を越えない範囲であることが好ましい。かかるポリエステル繊維の断面形態は特に限定されず、丸形、異形、中空形状のものなどを用いることができる。
【0017】
本発明のポリエステル短繊維としては、見掛の綿番手で50〜120番手の単糸および/または100〜240番手の双糸である必要がある。単糸で50番手もしくは双糸で100番手より太番手の場合、織物のソフト性が低下するため好ましくない。また単糸で120番手、双糸で240番手よりも細番手になると織物のハリ感が減少し、肌にまとわりつくような“たらたら”とした風合いになり好ましくない。より好ましくは55〜100番手の単糸および/または100〜200番手の双糸、さらに好ましくは60〜90番手の単糸および/または120〜180番手の双糸である。番手の測定法としては、減量やその他の仕上げ加工後の織物を温度20℃、湿度65%の部屋で12時間以上調湿し、タテ、ヨコそれぞれ15cm程度の糸を抜き取り、9cmにカットし、その重量W(g)を測定し、次式で大まかな番手Sを計算し、さらに正確な番手の測定をする上で必要な荷重Xを算出する。ここで、nは撚り合わせた糸の本数とする。
【0018】
=(40.82×n)/(W×768.1)
X(g)=(146.32×n)/S
次に該織物から40cm程度のタテ糸を1本抜き取り、一方の端を固定し、もう一方の端に算出したXgの荷重を吊し、余計な負荷がかからない状態で30cmを測りカットする。これを3回繰り返し、合計90cmのタテ糸を一纏めにし重量Wを測定する。得られたWを用いて見掛番手Sを次式から算出する。
【0019】
S=(408.2×n)/(W×768.1)
この操作を5回繰り返し、それらの平均値を番手とした。同様にヨコ糸の番手も測定した。
【0020】
短繊維の単繊維繊度については、紡積性と織物の風合いを考慮すると0.5〜1.5dtexが好ましい。0.5dtex未満では、糸の剛性が小さすぎ、適度なハリ感が得られないため好ましくない。一方、1.5dtexより太くなると、糸の剛性が大きくなりすぎ、織物の適度なソフト性が得られないため好ましくない。繊維長については各種紡績方法に応じた繊維長とするのがよいが、好ましくは一般的に紡績原綿として用いられる38mm から68mmである。さらに好ましくは短紡に属する繊維長38mmから52mmである。混紡する綿としては繊維長28mm以上のものが好ましい。より好ましくは繊維長35mm以上のいわゆる超長綿である。28mm未満であると、毛羽の発生が多くなり、織物表面の滑らかさに欠けるため好ましくない。
【0021】
本発明のポリエステル短繊維はポリエステル100%もしくはポリエステルと綿との混紡であることが好ましい。混率はイージーケア性を考慮して、該ポリエステル短繊維を少なくともタテ糸の50重量%以上に使用することが好ましい。より好ましくは70重量%以上である。
【0022】
本発明のポリエステル短繊維織物においては、タテ糸密度がヨコ糸密度の1.5〜2倍であることが好ましい。タテ糸150〜200本/2.54cm、ヨコ糸80〜130本/2.54cmの範囲であればより好ましい。この範囲よりも高密度になると、ソフトさに欠け、ごわごわとした風合いになり好ましくない。一方で、この範囲よりも低密度になると透け感が増加し好ましくない。また、タテ糸密度をヨコ糸密度の1.5〜2倍にすることで、タテ方向の反射強度が大きくなり、光沢感におけるヨコ糸の影響を減少させることができる。すなわち、ヨコ糸の種類を制限することなく、目的の光沢感を出しやすくなる。
【0023】
また、カバーファクターは2000〜2500の範囲内であることが好ましい。カバーファクターが2000未満であると、ハリ感が小さすぎて“たらたら”とした風合いとなり品位に欠けるため好ましくない。一方、2500より大きくなると、“ごわごわ”とした風合いになり高級感に欠け、また通気性も損なわれるため好ましくない。カバーファクターは次式に示すように織物の密度と番手から計算する。
【0024】
カバーファクター=n×(T)0.5+n×(T) 0.5
:タテ糸密度(幅2.54cm間に含まれるタテ糸の本数)
:タテ糸繊度(綿番手をデシテックスに換算した値)
:ヨコ糸密度(幅2.54cm間に含まれるヨコ糸の本数)
:ヨコ糸繊度(綿番手をデシテックスに換算した値)
また、ポリエステル短繊維織物の厚さは0.14〜0.24mmが好ましい。より好ましくは、0.15〜0.20mmである。厚さが0.14mmよりも薄くなると防透け性に欠け、0.24mmを超えるとごわごわとした風合いになり高級感に欠けるため好ましくない。
【0025】
また、本発明のポリエステル短繊維織物は分解糸のタテ糸のクリンプ率が8〜13%であることが好ましい。さらに好ましくは、ヨコ糸のクリンプ率が1〜5%である。サンフォライズ加工などの後加工によってタテ糸クリンプを大きくする方法などが有効である。
【0026】
タテ糸のクリンプ率は、8%以上と比較的大きなものであるが、これが8%未満であると、拡散反射の割合が小さくなり、マイルドな光沢が得られない。また、せん断剛性が低下することがある。また、ヨコ糸のクリンプ率が1〜5%であるのは、タテ糸のクリンプ率が大きいことに関連するものであり、もしヨコ糸クリンプ率が5%よりも大きくなると、織物としてのハリが小さくなりすぎ、シャツ地に不適となるからである。
【0027】
なお、クリンプ率はJIS L1096−1999(1999) 生地中の糸の織縮み率の測定に準じて測定し織縮み率、すなわちクリンプ率を計算した。上記の様な構成を採ることにより、本発明によって得られるポリエステル短繊維織物は、自動変角光度計によるJeffries法で得られる反射強度−角度曲線のピーク幅(2σ)とピーク高さ(H)の比(光沢値)が0.03〜0.10となる。
【0028】
Jeffries法での反射強度測定方法の詳細を以下に示す。自動変角光度計を用いて、図1に示すように、サンプル1に対する入射角度3を60°、受光角度4を60°に設定し、偏光子7を光源5とサンプル1の間に設置しS偏光のみを照射する。光源5にはハロゲンランプ、偏光子7にはグラントムソンプリズムを使用し、光束絞りは4.0に設定する。サンプル1を試料台2の上にタテ糸と入射光が平行になる向きに固定し、図2に示すようにサンプル1を設置した試料台2を破線矢印の方向に360°回転させながら反射強度を測定する。その際、サンプル1と受光器6の間に偏光板8を設置し、受光絞りを2.0に設定し、S偏光の強度のみを検出し、図3に示すような反射強度−試料回転角度曲線を得る。反射強度−試料回転角度曲線において、回転角度180°近辺に現れる上に凸の曲線をガウス近似する。図4に示すように、得られた近似曲線における変曲点間の距離2σをピーク幅とし、最大値から最小値を引いた値Hをピーク高さとし、ピーク形状を表す指標として2σ/Hを算出し、これを光沢値とした。光沢値は大きいほどなだらかなピーク形状、すなわち、ギラツキ感の小さいマットな光沢であることを示し、小さいほどシャープなピーク形状、すなわち、ギラツキ感の大きな光沢であることを示す。
【0029】
なお、好ましい光沢値は0.03から0.08、より好ましくは0.03〜0.06である。0.03未満であるとギラツキ感が大きく、また高級感に欠けるため好ましくない。また、0.1を超えると、マット感が大きくなりすぎ、適度な艶が無くなるため、好ましくない。
【0030】
また、本発明のポリエステル短繊維織物の風合い試験機KES−FB1によるせん断剛性値(G)のタテ方向とヨコ方向の測定値の平均値は0.5〜1.0gf/cm・degとなる。0.5gf/cm・deg未満では柔らかくなりすぎて適度なハリ感が得られないため好ましくない。一方1.0gf/cm・degよりも大きくなると剛性が大きすぎ、適度なソフトさが得られないため好ましくない。
【0031】
さらに、洗濯による外観変化が小さい、すなわち、ウォッシュアンドウェア(W&W)性に優れていることが好ましい。具体的には、寸法変化率は1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、シワについては3.5級以上、さらに好ましくは4級以上である。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、本発明における各種評価方法は下記の通りである。評価結果を表1に示す。
【0033】
(1)反射強度
(株)村上色彩科学研究所製の自動変角光度計GP−200を用いて入射角度60°、受光角度60°の条件で、Jeffries法によって測定した。測定は、シワや引きつり、汚れ等のないきれいな部分を用いて行った。得られた反射強度−回転角度曲線において、回転角度180°近辺に現れる上に凸の曲線をガウス近似し、得られた近似曲線における変曲点間の距離2σをピーク幅とし、最小値から最大値までの距離Hをピーク高さとして、2σ/Hを光沢値として算出した。この値が0.03〜0.10となるものを合格(○)とした。
【0034】
(2)防透け性
試料の裏面にL値が1の黒色台紙を当てた上で、分光光度計を用いて編地の明度L1を測定する。続いて、得られた編地の裏面にL値が92の白色台紙を当てた上で編地の明度L2を測定し、下記の式で定義する防透け性を算出した。防透け性が必ずしも本発明品と従来技術品を区別するものではないが、便宜的に90%以上である場合を合格(○)、90%未満である場合を不合格(×)とする。なお、本実施例では、コニカミノルタ社製の分光光度計CM−3700dを用いた。
【0035】
防透け性(%)=L1/L2×100
(3)風合い
カトーテック社製風合い試験機KES−FB1を用いて標準条件下でせん断剛性値を測定し、そのタテ方向とヨコ方向の平均値で表した。1水準につき、20cm×20cmの試料を3枚作製し、それぞれタテ方向およびヨコ方向の測定を行い、得られた6つの測定値の平均値を求めた。この値が0.5〜1.0gf/cm・degの範囲内のものを合格(○)とした。
【0036】
(4)W&W性
W&W性の判断は、JIS L0217(1995)に示される洗濯条件で実施し、JIS L1096(1999)の寸法変化および同付属書16(規定)「繊維製品−家庭洗濯および乾燥後のデュラブルプレス生地の外観評価方法」における生地の平滑性の等級付けによって実施した。しわ判定標本にはAATCC−124の6段階レプリカを用いた。W&W性は、寸法変化率が±1.5%以下、外観変化等級がデュラブルプレス評価3.5以上を合格(○)として判断する。
【0037】
[実施例1]ポリエチレンテレフタレートのペレットと平均粒子径0.4μmの炭酸カルシウム粒子3重量%を溶融混練した後、1.0dtexとなるように紡糸、延伸し、38mmにカットしたステープルと平均繊維長30mmの綿を65重量%:35重量%で混紡し、撚り係数3.8の80番手の混紡糸を作製した。この混紡糸をタテ糸とし、ヨコ糸として無機微粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートポリマーを1.0dtexとなるように紡糸、延伸した後、38mmにカットされたステープルを撚り係数3.8の80番手の紡積糸としたものを使用し、平織り組織にて製織した。
【0038】
この生地を精練、漂白、プレセット後、水酸化ナトリウムによるアルカリ減量処理により、減量率9.8%の織物を得た。さらにサンフォライズ加工によって、クリンプ率をタテ糸が11.2%、ヨコ糸が2.5%になるよう処理した。仕上がりの織密度はタテ糸密度160本/2.54cm、ヨコ糸密度90本/2.54cm、カバーファクターは2140であった。
【0039】
[実施例2]ポリエチレンテレフタレートポリマーのペレットと平均粒子径0.6μmの硫酸バリウム5重量%を溶融混練し、1.4dtexとなるように紡糸、延伸し、38mmにカットしたステープルを用いて、撚り係数3.8の下撚りをZ方向にかけて60番手の単糸とし、さらに撚り係数3.4の上撚りをS方向にかけて双糸を作製した。これをタテ糸とし、ヨコ糸として平均繊維長28mmの綿を用いて撚り係数3.8の60番手の紡績糸としたものを使用し、平織り組織にて製織した。この生地を精練、漂白、プレセット後、水酸化ナトリウムによるアルカリ減量処理により、減量率10.1%の織物を得た。さらにサンフォライズ加工によって、クリンプ率をタテ糸が9.2%、ヨコ糸が3.2%になるよう処理した。仕上がりの織密度はタテ糸密度150本/2.54cm、ヨコ糸密度80本/2.54cm、カバーファクターは2270であった。
【0040】
[実施例3]ポリエチレンテレフタレートのペレットと平均粒子径1μmの酸化チタン2.5重量%を溶融混練した後、0.5dtexとなるように紡糸、延伸した後、38mmにカットしたステープルと平均繊維長35mmの綿を65重量%:35重量%で混紡し、撚り係数3.8の下撚りをZ方向にかけて90番手の単糸とし、さらに撚り係数3.4の上撚りをS方向にかけて双糸を作製した。これをタテ糸およびヨコ糸に使用し、平織り組織にて製織した。該生地を精練、漂白、プレセット後、水酸化ナトリウムによるアルカリ減量処理により、減量率12.5%の織物を得た。さらにサンフォライズ加工によって、クリンプ率をタテ糸が12.2%、ヨコ糸が4.3%になるよう処理した。仕上がりの織密度はタテ糸密度190本/2.54cm、ヨコ糸密度110本/2.54cm、カバーファクターは2440であった。
【0041】
表1のとおり、実施例1〜3によって得られた織物は、いずれも超長綿調の光沢および風合いを有しており、W&W性にも優れていることが確認された。
【0042】
[参考例1]平均繊維長35mmの超長綿を用いて撚り係数3.8のZ撚りをかけて90番手単糸を作製し、さらに撚り係数3.4の上撚りをかけて双糸を作製した。これをタテ糸およびヨコ糸に使用し、平織り組織にて製織した。該生地を一般的な条件で精練、漂白、プレセット後、シルケット加工および仕上げ加工を施した。仕上がりの織密度はタテ糸密度180本/2.54cm、ヨコ糸密度90本/2.54cm、カバーファクターは2200、クリンプ率はタテ糸が10.0%、ヨコ糸が3.5%であった。
超長綿100%の織物は光沢と風合いが非常に優れている一方、しわになりやすく、寸法変化も大きいことが確認された。
【0043】
[比較例1]ポリエチレンテレフタレートのペレットと平均粒子径0.4μmの炭酸カルシウム粒子1重量%を1.0dtexに紡糸、延伸した後、38mmにカットしたステープルと平均繊維長30mmの綿を65重量%:35重量%で混紡し、撚り係数3.8の80番手の混紡糸を作製した。それ以外は実施例1と同様にして織物を作製した。仕上がりの織密度はタテ糸密度160本/2.54cm、ヨコ糸密度90本/2.54cm、カバーファクターは2140、クリンプ率はタテ糸が10.6%、ヨコ糸が3.2%であった。
【0044】
得られた織物はW&W性およびソフトさについては発明品と同程度であったが、粒子含有量が少ないため繊維表面の凹凸が少なく、反射の異方性が大きくなり、鏡面反射が大きくなるため、光沢値が小さくなり超長綿調のマイルドな光沢は得られず、また、防透け性も低くなった。
【0045】
[比較例2]ポリエチレンテレフタレートのペレットと平均粒子径0.6μmの硫酸バリウム8重量%を溶融混練し、1.4dtexに紡糸、延伸した後、38mmにカットしたステープルを撚り係数3.8のZ方向の撚りかけて40番手の単糸を作製した。これをタテ糸とし、ヨコ糸に平均繊維長28mmの綿を撚り係数3.8の45番手の単糸を使用し、平織り組織にて製織した。該生地を精練、漂白、プレセット後、水酸化ナトリウムによるアルカリ減量処理により、減量率10.1%の織物を得た。仕上がりの織密度はタテ糸密度140本/2.54cm、ヨコ糸密度70本/2.54cm、カバーファクターは2260、クリンプ率はタテ糸が5.0%、ヨコ糸が5.0%であった。
【0046】
得られた織物はW&W性および防透け性は発明品とほぼ同等な結果であった。また、光沢値については、やや艶感が小さいが許容範囲であった。しかし、太番手であり、タテ糸のクリンプ率も低いため、せん断剛性値が大きく、ソフトさに欠けており、超長綿調の風合いは有していなかった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリエステル短繊維織物は超長綿調の高級感のある光沢感と風合いを兼ね備えており、ドレスシャツやブラウスなど、優美性が要求される用途においても好適に用いることができる。また、超長綿の代替として使用することで、原綿のコストを大幅に抑えられる。
【符号の説明】
【0049】
1 試料
2 試料台
3 入射角度
4 受光角度
5 光源
6 受光器
7 偏光子
8 偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸形成処理が施された、50〜120番手の単糸および/または100〜240番手の双糸を用いた、クリンプ率が8〜13%のポリエステル短繊維を含む糸条をタテ糸に使用した織物であって、自動変角光度計によりJeffries法で得られる反射強度−試料回転角度曲線のピーク幅(2σ)とピーク高さ(H)の比(光沢値)が0.03〜0.10であり、かつ、せん断剛性値が0.5〜1.0gf/cm・degであることを特徴とするポリエステル短繊維織物。
【請求項2】
ヨコ糸のクリンプ率が1〜5%であることを特徴をとする請求項1に記載のポリエステル短繊維織物。
【請求項3】
タテ糸密度がヨコ糸密度の1.5〜2倍であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル短繊維織物。
【請求項4】
平均粒子径が0.1〜1.0μmの粒子を2重量%含有したポリエステル短繊維を含む糸条を少なくともタテ糸に使用して製織した後、減量加工して表面に凹凸を付与し、さらに該タテ糸のクリンプ率が8〜13%となる加工を施すことを特徴とするポリエステル短繊維織物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−162886(P2011−162886A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23818(P2010−23818)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】