説明

ポリエステル粒子の加熱処理方法

【課題】結晶性ポリエステルを含む樹脂粒子の加熱処理工程を均一に、かつ効率的に行う、ポリエステル粒子の加熱処理方法を提供すること。
【解決手段】結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルを含有する溶融混練物の粉砕物を、流動性付与剤の存在下、撹拌条件下で、式(1):
Tg1≦t≦Tm-10 (1)
(式中、tは加熱温度t1又は保持温度t2であり、Tg1は加熱前の粉砕物のガラス転移点(℃)、Tmは2種以上のポリエステルの軟化点の中で最も低い軟化点(℃)である)
を満たす温度t1に加熱し、次いで式(1)を満たす温度t2で保持する工程を含む、ポリエステル粒子の加熱処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用粉体インク等に用いられるポリエステル粒子の加熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用粉体インク等の製造において、結晶性ポリエステルを含む樹脂粒子を加熱処理することにより、樹脂粒子の物性を制御することが行われている。
【0003】
特許文献1〜3には結晶性樹脂を含む樹脂粒子の製造過程において溶融混練物、分級物等の製造中間物に加熱処理工程を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−65015号公報
【特許文献2】特開2006−276855号公報
【特許文献3】特開2005−308995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで加熱処理工程における、樹脂粒子に対する効率的な加熱方法や樹脂粒子の温度ムラに関しては十分検討されていなかった。
【0006】
本発明の課題は、結晶性ポリエステルを含む樹脂粒子の加熱処理工程を均一に、かつ効率的に行う、ポリエステル粒子の加熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルを含有する溶融混練物の粉砕物を、流動性付与剤の存在下、撹拌条件下で、式(1):
Tg1≦t≦Tm-10 (1)
(式中、tは加熱温度t1又は保持温度t2であり、Tg1は加熱前の粉砕物のガラス転移点(℃)、Tmは2種以上のポリエステルの軟化点の中で最も低い軟化点(℃)である)
を満たす温度t1に加熱し、次いで式(1)を満たす温度t2で保持する工程を含む、ポリエステル粒子の加熱処理方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、ポリエステル粒子の加熱処理工程を均一に、かつ効率的に行うことができ、さらに本発明の加熱処理されたポリエステル粒子は、続く微粉砕工程において効率よく粉砕することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルを含有する溶融混練物の粉砕物を、流動性付与剤の存在下、撹拌条件下に、特定の温度条件下で加熱し、保持する工程を含む方法により、ポリエステル粒子を加熱処理する方法である。
【0010】
ポリエステルの結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。本発明において、結晶性ポリエステルは、[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質ポリエステルは、[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値が1.4より大きいか、0.6未満であり、好ましくは1.5より大きい。ポリエステルの結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば融点とし、軟化点との差が20℃を超える場合はガラス転移に起因するピークとする。
【0011】
結晶性ポリエステルは、結晶性を高める観点から、α,ω−直鎖アルカンジオールを含有したアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸化合物及び/又は芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られたポリエステルであることが好ましい。
【0012】
α,ω−直鎖アルカンジオールとしては、炭素数2〜8のジオールが好ましく、炭素数4〜6のジオールがより好ましい。エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられ、なかでも結晶性を高める観点から、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0013】
α,ω−直鎖アルカンジオールの含有量は、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、アルコール成分中、60モル%以上が好ましく、80〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましく、95〜100モル%がよりさらに好ましい。
【0014】
アルコール成分には、炭素数2〜6の脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分が含有されていてもよく、式(I):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、1,4-ソルビタン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0017】
ジカルボン酸化合物としては、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、炭素数2〜8、好ましくは4〜6、より好ましくは4の脂肪族ジカルボン酸化合物、及び炭素数8の芳香族ジカルボン酸化合物が好ましい。なお、ジカルボン化合物とは、ジカルボン酸、その無水物及びそのアルキル(炭素数1〜8)エステルを指すが、これらの中では、ジカルボン酸が好ましい。また、好ましい炭素数とは、ジカルボン酸化合物のジカルボン酸部分の炭素数を意味する。
【0018】
炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸等が挙げられ、これらの中では、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、フマル酸が好ましい。
【0019】
炭素数8の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。これらのなかでは、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、テレフタル酸が好ましい。
【0020】
炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物もしくは炭素数8の芳香族ジカルボン酸化合物の含有量又は両者が併用されている場合はそれらの総含有量は、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、カルボン酸成分中、60モル%以上が好ましく、80〜100モル%がより好ましく、90〜100モル%がさらに好ましく、95〜100モル%がよりさらに好ましい。
【0021】
カルボン酸成分には、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物及び炭素数8の芳香族ジカルボン酸化合物以外の多価カルボン酸化合物が含有されていてもよく、該多価カルボン酸化合物としては、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜8)エステル等が挙げられる。
【0022】
さらに、樹脂の分子量調整等の観点から、1価のアルコールがアルコール成分に、1価のカルボン酸化合物がカルボン酸成分に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。
【0023】
なお、結晶性ポリエステルにおけるジカルボン酸化合物とα,ω−直鎖アルカンジオールのモル比(ジカルボン酸化合物/α,ω−直鎖アルカンジオール)は、製造安定性の観点から、さらにα,ω−直鎖アルカンジオールが多い場合には、真空反応時に蒸発により樹脂の分子量を容易に調整できる観点から、0.9以上1.0未満が好ましく、0.95以上1.0未満がより好ましい。
【0024】
結晶性ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを、不活性ガス雰囲気中にて、要すればエステル化触媒、重合禁止剤等を用いて、120〜230℃の温度で縮重合させること等により得られる。具体的には、樹脂の強度を上げるために全単量体を一括仕込みしたり、低分子量成分を少なくするために2価の単量体を先ず反応させた後、3価以上の単量体を添加して反応させる等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応を促進させてもよい。なお、結晶性の高いポリエステルを得るにはより高分子量化することが好ましく、反応液粘度が高くなるまで反応させるのがより好ましい。高分子量化した結晶性の高いポリエステルを得るためには、前記のようにジカルボン酸化合物とα,ω−直鎖アルカンジオールのモル比を調整したり、反応温度を上げる、触媒量を増やす、減圧下、長時間脱水反応を行う等の反応条件を選択すればよい。なお、高出力のモーターを用いて原料モノマーを撹拌し、高分子量化した結晶性の高いポリエステルを製造することもできるが、製造設備を特に選択せずに製造する際には、原料モノマーを非反応性低粘度樹脂や溶媒とともに反応させる方法も有効な手段である。
【0025】
結晶性ポリエステルの吸熱の最高ピーク温度、即ち融点は、粉砕性の観点から、60〜140℃が好ましく、70〜130℃がより好ましく、80〜120℃がさらに好ましい。
【0026】
結晶性ポリエステルの軟化点は、粉砕性の観点から、70〜140℃が好ましく、80〜130℃がより好ましく、105〜130℃がさらに好ましい。
【0027】
非晶質ポリエステルも、結晶性ポリエステルと同様に、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、180〜250℃程度の温度で縮重合させて製造することができる。ただし、非晶質ポリエステルとするためには、
(1) 炭素数2〜6の脂肪族ジオール、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸化合物等の樹脂の結晶化を促進するモノマーを用いる場合は、これらのモノマーをそれぞれ2種以上併用して結晶化を抑制すること、即ちアルコール成分及びカルボン酸成分のいずれにおいても、これらのモノマーの1種が各成分中10〜70モル%、好ましくは20〜60モル%を占め、かつこれらのモノマーが2種以上、好ましくは2〜4種用いられていること、又は
(2) 樹脂の非晶質化を促進するモノマー、好ましくはアルコール成分ではビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が、またはカルボン酸成分ではアルキル基もしくはアルケニル基で置換されたコハク酸が、それぞれアルコール成分中又はカルボン酸成分中、少なくとも一方の成分において、好ましくは両成分のそれぞれにおいて、30〜100モル%、好ましくは50〜100モル%用いられていることが好ましい。
【0028】
結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルは、結晶性ポリエステルの分散性の観点から、少なくとも1種の共通の化合物を原料モノマーとして得られるものであることが好ましい。かかる共通の化合物は、カルボン酸成分であることが好ましく、結晶性ポリエステルの結晶化度を高める観点から、フマル酸及びフタル酸がより好ましく、フマル酸がさらに好ましい。
【0029】
本発明において、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られるポリエステル成分を有する非晶質ポリエステルには、ポリエステルのみならず、その変性樹脂も含まれる。
【0030】
なお、本発明において、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルや、ポリエステルユニットを含む2種以上の樹脂ユニットを有する複合樹脂が挙げられる。
【0031】
非晶質ポリエステルの軟化点は、80〜150℃が好ましく、85〜145℃がより好ましく、90〜145℃がさらに好ましい。
【0032】
非晶質ポリエステルの酸価は、1〜50mgKOH/gが好ましく、10〜30mgKOH/gがより好ましい。また、ガラス転移点は、粉砕性及び保存性の観点から、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。なお、ガラス転移点は非晶質樹脂に特有の物性であり、吸熱の最高ピーク温度とは区別される。
【0033】
結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの重量比(結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステル)は、粉砕性の向上の観点から、3/97〜35/65が好ましく、5/95〜30/70がより好ましい。
【0034】
溶融混練物には、ポリエステル粒子の用途に応じて、各種添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0035】
溶融混練は、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、連続式オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて行うことができる。
【0036】
溶融混練物の粉砕は、アトマイザー、ロートプレックス等を用いて行うことができる。
【0037】
加熱工程に供する粉砕物の平均粒径は、加熱処理時のブロッキング防止の観点から、0.07mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましく、0.2mm以上がさらに好ましい。また、流動性付与剤の付着性の観点から、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましい。これらの観点から、粉砕物の平均粒径は、0.07〜3mmが好ましく、0.15〜2mmがより好ましく、0.2〜1mmがさらに好ましい。この粉砕物の平均粒径は、分級により適宜調整することができる。
【0038】
粉砕物のガラス転移点は、加熱処理時のブロッキング防止の観点から、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。また、粉砕性向上の観点から、70℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、55℃以下がよりさらに好ましい。これらの観点から、粉砕物のガラス転移点は、30〜70℃が好ましく、35〜65℃がより好ましく、40〜60℃がさらに好ましく、40〜55℃がよりさらに好ましい。
【0039】
本発明では、粉砕物の加熱を流動性付与剤の存在下、攪拌条件下で行うことにより、装置への樹脂の付着を抑制することができる。
【0040】
流動性付与剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子等が挙げられ、これらの中では、埋め込み防止の観点から、比重の小さいシリカが好ましい。
【0041】
流動性付与剤の平均粒径は、加熱工程でのポリエステル粒子中への埋没防止と遊離防止の観点から、5〜150nmが好ましく、8〜100nmがより好ましく、10〜50nmがさらに好ましい。
【0042】
シリカは、攪拌時の流動性向上の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。疎水化の方法は特に限定されず、疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、メチルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらの中ではヘキサメチルジシラザン及びジメチルジクロロシランが好ましい。疎水化処理剤の処理量は、無機微粒子の表面積当たり1〜7mg/m2が好ましい。
【0043】
流動性付与剤の量は、粉砕物100重量部に対して、0.2重量部以上が好ましく、0.2〜20重量部がより好ましく、0.4〜15重量部がさらに好ましく、0.5〜10重量部がよりさらに好ましい。
【0044】
なお、流動性付与剤は、加熱工程でのポリエステル粒子中への埋没防止と遊離防止の観点から、平均粒径が好ましくは8〜120nm、より好ましくは12〜80nm、さらに好ましくは15〜40nmの流動性付与剤(流動性付与剤A)を用いることが好ましい。流動性付与剤Aは粉砕物と同極性のものを用いることが好ましく、遊離防止の観点から、流動性付与剤Aとともに、流動性付与剤Aとは帯電極性が反対の流動性付与剤(流動性付与剤B)を用いることがより好ましい。流動性付与剤Bの平均粒径は、遊離防止の観点から、6〜30nmが好ましく、8〜20nmがより好ましく、10〜14nmがさらに好ましい。
【0045】
流動性付与剤Aの量は、加熱時の凝集防止の観点から、粉砕物100重量部に対して、0.1重量部以上が好ましく、0.3〜8.0重量部がより好ましく、2.0〜7.0重量部がさらに好ましい。
【0046】
流動性付与剤Bの量は、遊離防止の観点から、粉砕物100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましく、0.03〜0.5重量部がより好ましく、0.1〜0.3重量部がさらに好ましい。
【0047】
流動性付与剤Aと流動性付与剤Bの重量比(流動性付与剤A/流動性付与剤B)は、5〜30が好ましく、10〜28がより好ましく、15〜26がさらに好ましい。
【0048】
粉砕物と流動性付与剤との攪拌には、加熱を迅速に行える点、及び消費エネルギーを低く抑える観点から、加熱手段を備えた攪拌手段を有する装置が好適に用いられる。
【0049】
攪拌手段としては、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速攪拌機、V型ブレンダー等を用いることができる。これらの中では、加熱を迅速に行える点から、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速撹拌混合機がより好ましい。高速攪拌混合機を用いる場合、攪拌周速(翼先端周速)としては、加熱時間短縮の観点から、10m/s以上が好ましく、15m/s以上がより好ましい。
【0050】
加熱手段としては、例えば、攪拌手段を有する装置の外部にジャケットを備え付け、そのジャケットに加熱媒体(例えば、温水)を流通させることで、装置内部を加熱することができる。その温度としては40〜80℃の範囲が好ましい。
【0051】
装置内における粉砕物の充填率としては流動性の観点から、低速攪拌混合機の場合には40〜90容量%、高速攪拌混合機の場合には50容量%以下が好ましい。
【0052】
流動性付与剤は、粉砕物とあらかじめ混合して高速攪拌機やV型ブレンダーに添加してもよく、また流動性付与剤と粉砕物とを別々に添加してもよい。
【0053】
粉砕物の加熱温度t1及び保持温度t2は、ケーキングや凝集物の発生を抑えながら効果的に再結晶化を行い、粉砕性を良好にする観点から、式(1):
Tg1≦t≦Tm-10 (1)
(式中、tは加熱温度t1又は保持温度t2であり、Tg1は加熱前の粉砕物のガラス転移点(℃)、Tmは2種以上のポリエステルの軟化点の中で最も低い軟化点(℃)である)
を満たす温度に調整する。保持温度t2は加熱温度t1と同じであってもよく、式(1)を満たす温度であれば、加熱温度t1より高い温度又は低い温度であってもよいが、t1とt2との温度差は、生産効率を向上させる観点から、10℃以内が好ましく、5℃以内がより好ましい。
【0054】
また、式(1)は、ケーキングや凝集物の発生を抑えながら効果的に再結晶化を行い、粉砕性を良好にする観点から、Tg1≦t≦Tm-20が好ましく、Tg1≦t≦Tm-30がより好ましい。具体的には温度維持工程後の粉砕性の観点から、45℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、55℃以上がさらに好ましい。また、粒子同士の融着を防止する観点及び省エネルギーの観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0055】
温度保持時間は、生産性と効果的に再結晶化を行い、粉砕性を良好にする観点から、3〜36時間が好ましく、4〜24時間がより好ましく、5〜12時間がさらに好ましい。また、無攪拌条件下で温度保持することが好ましい。
【0056】
温度保持装置は、粉砕物を一定の温度に維持することができる装置であれば特に限定されないが、例えば、攪拌手段を有さない乾式の恒温槽、電気ヒーター等が挙げられる。また、保温容器としては、品種替えやその洗浄、及び小ロットの管理が容易な点から、フレコンバックが好適に用いられる。
【0057】
本発明の効果は、加熱処理に供する粉砕物の量が多いほど、顕著に奏される。かかる観点から、加熱処理に供する粉砕物の量は、1kg以上が好ましく、3kg以上がより好ましい。また、粉砕物量の上限値は、特に限定されないが、取扱い重量の観点から、500kg以下が好ましく、300kg以下がより好ましい。これらの観点から、加熱処理に供する粉砕物の量は、1〜500kgが好ましく、3〜300kgがより好ましい。
【0058】
加熱処理後、ポリエステル粒子は、用途に応じて適宜、さらに粉砕(微粉砕)して用いることができる。本発明の方法により加熱処理したポリエステル粒子は、結晶化度が向上し、硬度が増すため、効率よく微粉砕することができる。
【0059】
ポリエステル粒子は、各種用途に用いることができるが、例えば、電子写真用粉体インクとして用いる場合は、加熱処理後、ポリエステル粒子を、好ましくは体積中位粒径が20μm以下、より好ましくは10μm以下に微粉砕し、適宜所望の粒径に分級することが好ましい。本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0060】
微粉砕工程に用いられる粉砕機は特に限定されないが、例えば、ジェットミル、衝突板式ミル、回転型機械ミル等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0062】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度及びガラス転移点〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、DSC Q20)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度を求める。また、非晶質樹脂特有のガラス転移点は、前記測定で、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0063】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法により測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0064】
〔粉砕物の平均粒径〕
まず、粉砕物100gを、2000μm、1000μm、850μm、500μm、355μm、250μm、150μm、75μm、及び45μmの目開きの篩でふるい、各篩上に残った粉砕物の重量を測定して重量頻度(%)を求め、次に、得られた値を下記式に代入することによって、粉砕物の平均粒径を求めた。
平均粒径(μm)=2000×(2000μm篩上粗砕物重量の重量頻度%)+1000×(1000μm篩上粗砕物重量の重量頻度%)+・・・・+75×(75μm篩上粗砕物重量の重量頻度%)+45×(45μm篩上粗砕物重量の重量頻度%)
【0065】
〔加熱工程に供する粉砕物のガラス転移点(Tg)〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、DSC Q20)を用いて、-20℃から160℃までサンプルを10℃/分の昇温速度で昇温した際に得られる吸熱カーブにおいて、吸熱ピークのなかで最も低い温度で観測されるピークの温度以下のベースラインの延長線と、該ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点(Tg)として読み取る。
【0066】
〔流動性向上剤の平均粒径〕
走査電子顕微鏡(TEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの平均値を平均粒径とする。
【0067】
〔ポリエステル粒子の体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0068】
結晶性ポリエステルの製造例1
1,6-ヘキサンジオール1508重量部、フマル酸1565重量部及び重合禁止剤(ハイドロキノン)2重量部を温度計、ステンレス製攪拌機、流下式コンデンサー及び窒素導入管の付帯した反応器に入れ、窒素気流下、攪拌しつつ、160℃で5時間かけて反応させた後、200℃に昇温して1時間反応させた。さらに8.0kPaにて一時間反応させて、樹脂aを得た。樹脂aの吸熱の最高ピーク温度は115℃、軟化点は120℃、吸熱の最高ピーク温度/軟化点は0.96であった。
【0069】
非晶質ポリエステルの製造例1
ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2800重量部、フマル酸980重量部及びエステル化触媒(2-エチルヘキサン酸錫(II))8重量部を、温度計、ステンレス製攪拌機、流下式コンデンサー及び窒素導入管の付帯した反応器に入れ、窒素気流下、攪拌しつつ、220℃で8時間かけて反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。さらに210℃で所望の軟化点に達するまで反応させて、樹脂Aを得た。樹脂Aの吸熱の最高ピーク温度は65℃、軟化点は100℃、吸熱の最高ピーク温度/軟化点は0.65、ガラス転移点は57℃、酸価は20mgKOH/gであった。
【0070】
粉砕物の製造例
樹脂a 10重量部及び樹脂A 90重量部をヘンシェルミキサーで十分混合し、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機「PCM-30-30」(池貝鉄工社製)を用いてバレル内加熱温度100℃、スクリュー回転数200r/min、吐出量10kg/hrで溶融混練を行った。得られた溶融混練物を冷却ロールで圧延し、25℃以下に冷却した。得られた冷却物を、ロートプレックスで粉砕して、平均粒径0.25mmの粉砕物Aを得た。粉砕物Aのガラス転移点Tg1は42℃であり、2種類のポリエステルの軟化点の中で最も低い軟化点Tm(この場合、樹脂Aの軟化点)は100℃であった。
【0071】
実施例1
粉砕物A 100重量部と、流動性付与剤として負帯電性疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル社製、平均粒径16nm、比重 2.3、疎水化処理剤 DMDS)5重量部、負帯電性疎水性シリカ「HDK H13TX」(ワッカー社製、平均粒径 16nm、比重2.3、疎水化処理剤 HMDS+シリコーンオイル)1.2重量部、及び正帯電性疎水性シリカ「HVK2150」(ワッカー社製、平均粒径12nm、比重 2.3、疎水化処理剤 アミノ変成シリコーンオイル)0.3重量部とを混合して得られた混合物A 10kgを、30L容のナウターミキサー(ホソカワミクロン社製、型番:NX-S)に仕込み、10分間混合した。
【0072】
〔加熱工程〕
次に、ナウターミキサーの撹拌周速1m/s、ジャケット温度75℃の条件で45分間加熱した。加熱処理後のナウターミキサーには混合物の付着は認められなかった。加熱後、混合物の温度は65℃であった。
【0073】
〔温度保持工程〕
加熱工程後の混合物をポリエチレン製の袋に抜き出し、65℃に設定した恒温槽に6時間入れた。
【0074】
温度保持工程に使用した混合物には、混合物中心部、混合物下部の中心部、混合物上部の中心部、混合物中部の右側部、及び混合物中部の左側部の合計5箇所に温度計を設置し、5秒間隔で測定を行い、測定データはパーソナルコンピューターに取込んだ。
【0075】
温度保持工程終了時における5箇所の混合物の温度の最高温度と最低温度との差(℃)を温度ムラの指標として算出した。
【0076】
さらに、温度保持工程後の混合物を、粉砕機(ホソカワミクロン社製、AFG-250型)を用いて微粉砕し、ノズル5mmφ450KPa、風量3.6m3/min、ロータ回転数9100r/minの条件で、微粉砕物の体積中位粒径(D50)5.0μmが得られるフィード量を測定した。フィード量が多いほど、粉砕性が良好であることを示しており、フィード量が4.0kg/h以上を良好な粉砕性とする。
【0077】
温度保持工程後の温度ムラは、表1に示すように、0.5℃以下であり、フィード量は4.5kg/hrであった。
【0078】
実施例2〜7
表1に示す条件で、実施例1と同様にして、粉砕物を加熱工程に供し、温度保持工程後、温度ムラとフィード量を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
比較例1
加熱工程を行わなかった以外は、表1に示す条件で、実施例1と同様にして、粉砕物を温度保持工程に供し、温度保持工程後、温度ムラとフィード量を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
比較例2
100L容のナウターミキサー(ホソカワミクロン社製、型番:NXV-1)を用いて、加熱せずに攪拌し、表1に示す条件で、実施例1と同様にして、粉砕物を温度保持工程に供した。即ち、恒温槽で6時間温度保持後、温度ムラとフィード量を測定し、さらに19時間、合計25時間温度保持後、再度、温度ムラとフィード量を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
比較例3
流動性付与剤を使用しなかった以外は、表1に示す条件で、実施例1と同様にして、粉砕物を加熱工程に供した。加熱開始後3分で混合物の温度は55℃となったが、装置の振動が激しく加熱を中止した。ヘンシェルミキサーの内部を確認したところ装置内部に樹脂が多量に付着していた。
【0082】
【表1】

【0083】
以上の結果より、実施例1〜7のポリエステル粒子は温度保持工程後の温度ムラが小さく、良好な粉砕性を有している。また加熱装置への混合物の付着も少ないことが分かる。
これに対し、比較例1、2の結果より、加熱工程を行わなかった結晶性樹脂は温度保持工程後の温度ムラが大きく、粉砕性が劣る結果となっている。また、流動性付与剤を添加しなかった比較例3では加熱装置への樹脂の付着が多く、加熱工程を継続することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の方法により加熱処理したポリエステル粒子は、電子写真用粉体インク等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルを含有する溶融混練物の粉砕物を、流動性付与剤の存在下、撹拌条件下で、式(1):
Tg1≦t≦Tm-10 (1)
(式中、tは加熱温度t1又は保持温度t2であり、Tg1は加熱前の粉砕物のガラス転移点(℃)、Tmは2種以上のポリエステルの軟化点の中で最も低い軟化点(℃)である)
を満たす温度t1に加熱し、次いで式(1)を満たす温度t2で保持する工程を含む、ポリエステル粒子の加熱処理方法。
【請求項2】
粉砕物の平均粒径が0.07〜3mmである、請求項1記載のポリエステル粒子の加熱処理方法。
【請求項3】
温度t2に保持する時間が3〜36時間である、請求項1又は2記載のポリエステル粒子の加熱処理方法。
【請求項4】
撹拌を攪拌周速が10m/s以上の高速撹拌混合機で行う、請求項1〜3いずれか記載のポリエステル粒子の加熱処理方法。
【請求項5】
粉砕物100重量部に対して0.2重量部以上の流動性付与剤の存在下で、撹拌及び加熱を行う、請求項1〜4いずれか記載のポリエステル粒子の加熱処理方法。
【請求項6】
流動性付与剤がシリカである、請求項1〜5いずれか記載のポリエステル粒子の加熱処理方法。

【公開番号】特開2011−256238(P2011−256238A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130076(P2010−130076)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】