説明

ポリエステル系複合繊維の製造方法

【課題】優れたストレッチ性を有するとともに、適切な交絡処理方法により製糸性良好でかつ糸加工、製編織工程などの高次加工工程での工程通過性が良好な、毛羽の非常に少ないポリエステル系複合繊維を製造する方法を提供する。
【解決手段】粘度の異なる成分がサイドバイサイド型に接合されたポリエステル系複合繊維において、少なくとも高粘度成分が繰り返し単位の80モル%以上がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル系複合繊維を紡糸して引き取るに際し、加熱引取ローラーと加熱延伸ローラーとの間で延伸し、更に加熱延伸ローラーと非加熱の冷ローラーとの間で下記条件(a)〜(c)を満足するように交絡処理を施すことを特徴とするポリエステル系複合繊維の製造方法。
(a)加熱延伸ローラーと冷ローラーとの間のリラックス率:0.5〜7%
(b)交絡処理部の糸条屈曲角θ:1〜3°
(c)交絡度(CF値):5個/m以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ性を有するサイドバイサイド型のポリエステル系複合繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、優れたストレッチ性を有するとともに適切な交絡処理方法により糸加工工程、製編織工程などの高次加工工程での工程通過性の良好な毛羽の少ないポリエステル系複合繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレッチバック性を有した織編物を得るためには、極限粘度の異なる2種類のポリエステルをサイドバイサイド型に接合した潜在捲縮性の複合繊維を使用することは良く知られている。例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)とポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略す)をサイドバイサイド型に接合したポリエステル系複合繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、粘度の異なるPTTとPETからなるサイドバイサイド型複合繊維が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
一方、このような高いストレッチバック性を有したポリエステル繊維の製造方法として、ポリエステル系重合体を溶融紡糸、冷却、固化して一旦巻き取ることなく連続して巻き取る直接紡糸延伸方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
しかしながら、これら従来の直接紡糸延伸方法は、延伸ローラーと巻取機の間に設置された中間ローラーを経てから交絡処理が施されるため、原糸の特徴上、高い潜在捲縮を有するため中間ローラー上にて糸条のバラケが発生し、交絡処理の際に毛羽が発生するという問題があった。
【特許文献1】特開平6−101116号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2003−247125号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2002−155337号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上述の問題を解決し、優れたストレッチ性を有するとともに、適切な交絡処理方法により製糸性良好でかつ糸加工工程、製編織工程などの高次加工工程での工程通過性が良好な、毛羽の非常に少ないポリエステル系複合繊維を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、
粘度の異なる成分がサイドバイサイド型に接合されたポリエステル系複合繊維において、少なくとも高粘度成分が繰り返し単位の80モル%以上がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル系複合繊維を紡糸して引き取るに際し、加熱引取ローラーと加熱延伸ローラーとの間で延伸し、更に加熱延伸ローラーと非加熱の冷ローラーとの間で下記条件(a)〜(c)を満足するように交絡処理を施すことを特徴とするポリエステル系複合繊維の製造方法である。
【0007】
(a)加熱延伸ローラーと冷ローラーとの間のリラックス率:0.5〜7%
(b)交絡処理部の糸条屈曲角θ:1〜3°
(c)交絡度(CF値):5個/m以上
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、交絡処理の場所および交絡処理部の屈曲角を適正な範囲とすることで、優れたストレッチ性を有するとともに、製糸性良好かつ糸加工工程、製編織工程などの高次加工工程での工程通過性および織編物にした際の品位が良好で、毛羽の少ないポリエステル系複合繊維を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリエステル系複合繊維は、複合繊維を構成する2成分の重合体のうち、少なくとも高粘度成分は繰り返し単位の80モル%以上がトリメチレンテレフタレートからなるポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略す)である。PTTは、結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシューゴーシュの構造(分子鎖が90°に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するという特有のストレッチバック性を有している。このPTT固有のストレッチバック性を複合繊維においても十分発揮するためである。なお、本発明において、複合繊維を構成する2成分の複合比率はサイドバイサイド型複合により十分なストレッチバック性を発現するものであり、重量%で65:35〜35:65の範囲が好ましく、より好ましくは60:40〜40:60である。
【0011】
また、本発明において、複合繊維を構成する2成分の重合体のうち、低粘度成分はポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)やポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略す)などを用いれば良く、また低粘度のPTTを用いても良く、低粘度PTTの固有粘度[IV]は高粘度のPTTよりも0.3〜1.0低めであることが好ましい。
【0012】
本発明におけるポリエステル系複合繊維の伸縮伸長率は30%以上であることが織編物にした際のストレッチ性が十分となり好ましい。さらに好ましくは、50%以上である。また、伸縮伸長率のより好ましい上限は、150%を超えると、織編物にした際に、シボ、耳シワ、ヨコ段などの品位面での問題が発生しやすくなるため、150%以下がより好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル系複合繊維に用いるPETやPBT、あるいはPTTからなるポリエステル成分には本発明の目的を損なわない範囲において、必要に応じてイソフタル酸、2−2ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパン等の共重合成分や、酸化チタン等の艶消し剤、ヒンダートフェノール系化合物等の酸化防止剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、消臭剤、導電性付与剤等が配合されていても良い。
【0014】
次に、本発明のポリエステル系複合繊維の製造方法について記述する。
【0015】
本発明のポリエステル系複合繊維は複合繊維を構成する2成分の重合体のうち、少なくとも高粘度成分は繰り返し単位の80モル%以上がトリメチレンテレフタレートからなるPTTを用い、低粘度のPETやPBTなどの低粘度成分ポリエステルを繊維軸方向に貼り合わせた状態で口金より吐出、冷却、固化して引き取り、加熱引取ローラーと加熱延伸ローラーとの間で延伸し、さらに熱処理された糸条を、延伸することのない範囲で、延伸ローラーと巻取機の間に設置された非加熱の冷ローラーを経てから巻き取り、かつ加熱延伸ローラーと冷ローラーとの間で交絡処理を施すものである。本発明においては、加熱延伸ローラーで熱セットし捲縮の発現した糸条をローラーを介さずに交絡処理を施すために、糸に余計なダメージを付与することなく交絡処理を施すことができる。
【0016】
加熱引取ローラーの表面温度は40〜100℃とすることが好ましく、加熱延伸ローラーの表面温度は130〜180℃とすることが好ましい。
【0017】
また、非加熱の冷ローラーとは、強制的に加熱されておらず、ローラーの表面温度が20〜50℃の範囲内のものを意味する。
【0018】
交絡処理装置は、交絡処理の設置場所の制約上、糸条間ピッチが狭くなるため、流体噴射孔を有するノズル板を複数連結して平行に並べた多連式の交絡ノズルを用いることが好ましい。さらには、交絡処理による油剤などの飛散を抑制するため、ボックスなどで交絡処理装置を囲い排煙ダクトを設置してもよい。
【0019】
また、本発明においては、上の工程において、以下のような要件を満足することが重要である。
(a)加熱延伸ローラーと冷ローラーとの間のリラックス率:0.5〜7%
(b)交絡処理部の糸条屈曲角θ:1〜3°
加熱延伸ローラーと冷ローラーとの間のリラックス率が0.5%未満では糸条の張力が大きくなり交絡が入りにくくなるばかりか、交絡処理の際に高擦過を受け毛羽などを発生させることとなる。また、リラックス率が7%を超えるとリラックス率が大きくなりすぎるため、糸条の揺れが大きくなり、安定に製糸ができなくなる。より好ましくは、リラックス率は1.0〜5.0%である。
【0020】
交絡処理部には前後に糸道ガイドを設置して糸条の走行を規制するが、図2に示す糸条の屈曲角θを1〜3°とするものである。屈曲角θが1°未満では走行糸条の規制ができず、交絡部での糸条の揺れなどにより交絡が不均一になるばかりか、毛羽の発生を助長することとなる。また、屈曲角θが3°を超えると、糸道ガイドと糸条の擦過が過多となり、毛羽の発生を助長することとなる。より好ましくは、交絡処理部での糸条の屈曲角θは1〜2°である。
【0021】
本発明のポリエステル系複合繊維の交絡度(CF値)は5個/m以上とするものである。CF値が5個/m未満の場合は、得られるポリエステル系複合繊維の収束性が悪く、製織・製編での毛羽、糸切れが多発することとなる。より好ましくは、CF値は10個/m以上である。また、交絡度のより好ましい上限は、交絡度が20個/mを超えると、毛羽、ループが発生するため、20個/m以下がより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例のみに本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は次の方法により求めた。
A.固有粘度[IV]
オルソクロロフェノール(以下OCPと略す)10ml中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度[ηr]を次式により算出した値(IV)である。
【0023】
相対粘度[ηr]=η/η=(t×q)/(t×q
固有粘度[IV]=0.0242ηr+0.2634
但し、η:ポリマー溶液の粘度、η:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、q:溶液の密度(g/cm)、t:OCPの落下時間(秒)、q:OCPの密度(g/cm)。
B.伸縮伸長率
得られた糸を1回転1mの検尺機で10回転させてカセとした試料を0.18×10−3cN/dtex荷重下で90℃、20分間の熱水処理を施し、加熱処理後のカセ長を測定し、下記式より算出した。
【0024】
伸縮伸長率=(L1−L0)/L0
但し、L0:加熱処理後のカセに0.18×10−3cN/dtexの荷重をかけたときのカセ長、
L1:加熱処理後のカセに8.8×10−2cN/dtexの荷重をかけたときのカセ長。
C.交絡度(CF値)
ロッシールド社(Rothschild社、スイス)製のエンタングルメントテスター(Entanglement Tester Type R2060)を用い以下のように行った。糸条に針を刺したままで初張力9.8cNを掛けて一定速度5m/minで走行させ、交絡点で張力が規定値(トリップレベル)の15cNまで達する長さを30回測定し、30回分を平均した長さに基づいて糸条1m当たりの交絡数を求めたものをCF値(個/m)とした。
D.製糸性
合計500kgのポリマーを実施例記載の方法で得た際の糸切れ回数で示した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0025】
◎ : 糸切れ1回以下
○ : 糸切れ2〜5回
× : 糸切れ5回以上
E.毛羽
得られた糸を東レ株式会社製フライカウンター(商品名)を用い、一定速度500m/minで糸条を走行させながら毛羽の検知を行って、試長1万m当たりの毛羽の数を測定し判定した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0026】
◎ :なし
○ :2個以下
× :3個以上
F.高次通過性
得られたストレッチ繊維の丸編み製編時の、下記式で示される糸切れ率から判定した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0027】
糸切れ率=糸切れ本数/丸編み仕掛け本数×100(%))
◎ :糸切れ率5%未満
○ :糸切れ率5%以上10%未満
× :糸切れ率10%以上
実施例1〜3、比較例1、2
図1に示すような装置を用い、固有粘度[IV]が1.40のポリトリメチレンテレフタレートと固有粘度[IV]が0.51のポリエチレンテレフタレートを50:50の重量比率、275℃の紡糸温度で溶融し、紡糸パック(1)に導入し溶融吐出した。吐出糸条を冷却後、1200m/minで55℃に加熱した引取ローラー(6)で引き取り、4200m/minで155℃に加熱した延伸ローラー(7)に引き回し、延伸、熱処理を実施し、引き続き、糸条の屈曲角θが1°となるように設置した交絡付与装置(8)にて交絡処理を施した後、リラックス率を表1に示すように種々変更し、非加熱の第3冷ローラー(9)にて引き取り、非加熱の第4冷ローラー(10)にて引き取った後に、巻取機(11)で巻き取り、56dtex−24フィラメント(fil)の糸条からなるドラム巻パッケージを得た。得られた糸条の物性および製糸性、毛羽、高次通過性評価結果を表1に示す。
【0028】
実施例4〜6、比較例3、4
固有粘度[IV]が1.40のポリトリメチレンテレフタレートと固有粘度[IV]が0.51のポリエチレンテレフタレートを50:50の重量比率、275℃の紡糸温度で溶融し、紡糸パックに導入し溶融吐出した。吐出糸条を冷却後、1200m/minで55℃に加熱した引取ローラーで引き取り、4200m/minで155℃に加熱した延伸ローラーに引き回し、延伸、熱処理を実施し、引き続き、糸条の屈曲角θを表2に示すように0〜4°の間で種々変更し、設置した交絡付与装置にて交絡処理を施した後、4.5%のリラックス率(速度4011m/min)で非加熱の第3冷ローラーにて引き取り、4011m/minで非加熱の第4冷ローラーにて引き取った後に、巻取機で巻き取り、56dtex−24フィラメント(fil)の糸条からなるドラム巻パッケージを得た。得られた糸条の物性および製糸性、毛羽、高次通過性評価結果を表2に示す。
【0029】
比較例5
固有粘度[IV]が1.40のポリトリメチレンテレフタレートと固有粘度[IV]が0.51のポリエチレンテレフタレートを50:50の重量比率、275℃の紡糸温度で溶融し、紡糸パックに導入し溶融吐出した。吐出糸条を冷却後、1200m/minで55℃に加熱した引取ローラーで引き取り、4200m/minで155℃に加熱した延伸ローラーに引き回し、延伸、熱処理を実施し、引き続き、4.5%のリラックス率(速度4011m/min)で非加熱の第3冷ローラーにて引き取り、糸条の屈曲角θが1°となるように設置した交絡付与装置にて交絡処理を施した後、4011m/minで非加熱の第4冷ローラーにて引き取った後に、巻取機で巻き取り、56dtex−24フィラメント(fil)の糸条からなるドラム巻パッケージを得た。得られた糸条の物性および製糸性、毛羽、高次通過性評価結果を表3に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表1に示すように、実施例1〜3は、製糸性、毛羽、高次通過性ともに良好であった。
【0034】
これに対し、比較例1は延伸ローラーと第3冷ローラーとの間のリラックス率が小さく、毛羽、高次通過性が悪い結果となった。比較例2は延伸ローラーと第3冷ローラーとの間のリラックス率が大きく、製糸性、毛羽、高次通過性ともに悪い結果となった。比較例3は交絡処理部の糸条屈曲角θが小さく、毛羽、高次通過性が悪い結果となった。比較例4は交絡処理部の糸条屈曲角θが大きく、毛羽、高次通過性が悪い結果となった。比較例5は交絡付与装置の位置が第3冷ローラーと第4冷ローラーとの間にあるため、毛羽、高次通過性が悪い結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の製造方法の実施例を示す工程概略図である。
【図2】交絡処理部の糸条屈曲角θを説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
1:紡糸パック
2:糸条
3:チムニー糸条冷却装置
4:油剤付与装置
5,8:交絡付与装置
6:引取ローラー
7:延伸ローラー
9:第3ローラー
10:第4ローラー
11:巻取機
12:交絡処理部
13:糸道ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度の異なる成分がサイドバイサイド型に接合されたポリエステル系複合繊維において、少なくとも高粘度成分が繰り返し単位の80モル%以上がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル系複合繊維を紡糸して引き取るに際し、加熱引取ローラーと加熱延伸ローラーとの間で延伸し、更に加熱延伸ローラーと非加熱の冷ローラーとの間で下記条件(a)〜(c)を満足するように交絡処理を施すことを特徴とするポリエステル系複合繊維の製造方法。
(a)加熱延伸ローラーと冷ローラーとの間のリラックス率:0.5〜7%
(b)交絡処理部の糸条屈曲角θ:1〜3°
(c)交絡度(CF値):5個/m以上

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−97177(P2006−97177A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283765(P2004−283765)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】