説明

ポリエステル組成物およびその製造方法

【課題】 ポリマーの色調、特にCol−b値に優れながらも、しかも再溶融などの過酷な条件を経ても、ポリマーの色調の変化が小さいポリエステル組成物およびその製造方法提供することにある。
【解決手段】 140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値A)との差(|△Col−b|)が8以下であるポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物およびその製造方法に関する。更に詳しくは、優れた耐熱性を有し、加熱時の熱分解の進行が抑制された、優れた色調を有するポリエステル組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、耐候性、耐電気絶縁性および耐薬品性を有することから、フィルム、繊維またはボトルなどの成形品として広く使用されている。これらを成形する際、ポリエステルを融点以上に加熱溶融する必要があるが、同時に熱分解に伴う固有粘度の低下や着色が生じる。この劣化はまた成形品においても使用環境や経時により製品の品質を低下させる。特にフィルムに製膜する場合、製膜する際のエッジの部分などの屑が大量に出ることから、通常それらを再溶融してもう一度原料として用いるため、熱劣化の抑制が必要となる。
【0003】
このような劣化を抑制する方法として、特開平9−31336号公報(特許文献1)、特開平9−71728号公報(特許文献2)および特開2005−41918号公報(特許文献3)では、熱可塑性樹脂、具体的にはポリオレフィン系、アクリル樹脂系およびポリカーボネート系の熱可塑性樹脂に、フェノール系耐熱安定剤、ホスファイト系耐熱安定剤およびイオウ系耐熱安定剤を添加することが提案されている。また、ポリエステルにこのような耐熱安定剤を添加することも、特開2004−189782号公報(特許文献3)や特開2004−193181号公報(特許文献4)で提案されている。特に、特許文献3および4では、前述の耐熱安定剤の中でもフェノール系耐熱安定剤が好適であると教示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−31336号公報
【特許文献2】特開平9−71728号公報
【特許文献3】特開2004−189782号公報
【特許文献4】特開2004−193181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1〜4の教示にしたがえば、ポリエステルの熱劣化を確かに抑制でき、特に劣化異物の低減などには効果がある。しかしながら、熱劣化による異物が低減できても、ポリマーの色調の変化までは十分には抑制できておらず、特に光学用のフィルムなど、ポリマーの色調が高度に要求される分野での使用は制限されていた。またポリエステルでは、溶融押し出ししてフィルムに製膜する場合、製品とならない押し出されたフィルムのエッジ部を回収し再溶融して原料として用いることから、ポリマーが受ける融点以上での処理が長時間となり、他の熱可塑性樹脂に比べより過酷な状況にあった。
【0006】
そのため、本発明の目的は、ポリマーの色調、特にCol−b値に優れながらも、しかも再溶融などの過酷な条件を経ても、ポリマーの色調の変化が小さいポリエステル組成物およびその製造方法提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、特定の耐熱安定剤を使用するとき、熱劣化によるポリマーの色調の変化を抑制できることを見出し本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値A)との差(|△Col−b|)が8以下であることを特徴とするポリエステル組成物が提供される。
【0009】
さらに本発明によれば、本発明のポリエステル組成物の好ましい態様として、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)が、−5〜0の範囲にあること、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値A)との差(|△Col−L|)が5以下であること、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)が、70〜85の範囲にあること、ポリエステル組成物が、下記構造式(I)または(II)
【化1】

(ここでR1−10は、それぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。)
【化2】

(ここでR11−15は、それぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。)
で表されるホスファイト化合物を含有すること、重縮合反応触媒がアンチモン化合物で、その含有量が、組成物の重量を基準として、アンチモン元素量で30〜200ppmの範囲であること、溶融押出製膜によりフィルムにされることの少なくともいずれかひとつを具備するポリエステル組成物も提供される。
【0010】
さらにまた、本発明によれば、ポリエステルの重縮合反応以降に、上記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を、得られるポリエステル組成物の重量に対して、0.01〜5重量%の割合で添加するポリエステル組成物の製造方法も提供され、その好ましい態様として、アンチモン化合物を重合触媒としてポリエステルを重合するポリエステル組成物の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の耐熱安定剤を用いたことにより、ポリマーの色調に優れ、しかも再溶融などの過酷な条件を経ても、熱劣化によるポリマーの色調、特にCol−b値の変化も小さいポリエステル組成物が提供され、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエステル組成物は、80重量%以上、好ましくは85重量%以上がポリエステルからなるものであり、ポリエステル以外の他の樹脂を混合したものであっても良い。本発明におけるポリエステルとは、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタート、ポリテトラメチレンテレフタレートなど)やポリアルキレンナフタレート(ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートなど)を挙げることができ、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましい。ここで言う、ポリエチレンテレフタレートとは、エチレンテレフタレート成分を主たる繰返し単位とする、具体的には、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上が、エチレンテレフタレート成分からなるものである。また、ここで言うポリエチレンナフタレートとは、エチレンナフタレート成分を主たる繰返し単位とする、具体的には、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上が、エチレンナフタレート成分からなるものであり、好ましくはエチレンー2,6−ナフタレートからなるものである。これらのポリエステルはホモポリマーであっても、本発明の効果を阻害しない範囲で第3成分を共重合したものであっても良い。第3成分(共重合成分)としては、テレフタル酸(ポリアルキレンテレフタレート以外の場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリアルキレンナフタレート以外の場合)、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、エチレングリコール(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート以外の場合)、トリメチレングリコール(ポリトリメチレンテレフタート、ポリトリメチレンナフタレート以外の場合)、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール(ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレート以外の場合)、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが例示でき、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明のポリエステル組成物は、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値A)との差の絶対値(|△Col−b|)が8以下とする必要がある。この数値を超えると、成形した際の黄着色が強く、成形品の色相を悪化させるため、好ましくない。|△Col−b|が上記範囲を外れると、ポリエステル組成物の色調が溶融製膜などの工程で変化し、光学用のフィルムなど色調が要求される用途に用いられがたい。このような△Col−b値は、例えば特定の酸化防止剤を特定量添加することなどで達成できる。好ましくは6以下で、下限は特に制限されないが、酸化防止剤を上限いっぱい添加しても、通常0.5程度である。
【0014】
また本発明のポリエステル組成物は、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)が、−5〜0の範囲にあることが好ましい。この範囲を外れると、ポリエステル組成物の色調が黄色味を帯びるか、青味を帯び、光学用のフィルムなど色調が要求される用途に用いられがたい。このようなCol−b値Bは、使用する重合触媒を選定したり、重合触媒の失活を行うためのリン化合物を選定することなどで達成できる。
【0015】
また本発明のポリエステル組成物は、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値A)との差(|△Col−L|)が5以下であることが好ましい。この数値を超えると、成形した際の黒味が強く、成形品の色相を悪化させるため、好ましくない。
【0016】
また本発明のポリエステル組成物は、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)が、70〜85の範囲にあることが好ましい。この範囲より低いと黒味が強調され、成形品の色相が好ましくない。この範囲より高い場合は、特に不具合は無いが、Col−L値を必要以上に上げることは生産性が落ちる場合があるため好ましくない。
【0017】
さらに本発明では、ポリエステル組成物が下記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を含有することが好ましい。
【0018】
【化3】

ここで上記構造式中のR1〜10はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。
【0019】
【化4】

ここで上記構造式中のR11−15はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。
【0020】
上記式で表される特定の耐熱安定剤を用いることで、ポリマーを再溶融しても色調、特にCol−b値の変化を抑制できる。これらのホスファイト化合物は、ポリエステル熱分解時の色調の変化がより抑制される点で、ポリエステル組成物の中に遊離な状態で存在することが好ましい。この為、例えばエステル形成性を示すような反応性官能基を有さない、すなわちポリエステル分子鎖には組み込まれないような構造であることが好ましい。
【0021】
上記構造において、R1〜5、R6〜10およびR11〜15はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素であり、これらは同一であっても異なっても良い。好ましくはホスファイト化合物の耐熱性や耐加水分解性が高くできることから、R1〜5のうち少なくともt−ブチル基を1つ以上含むことが好ましく、2つ以上を含むことがさらに好ましい。R6〜10およびR11〜15もまたR1〜5と同様なことがいえる。またこれらt−ブチル基の位置は、2位,4位,6位のいずれかにあることが好ましく、特に2位と6位の位置にあることが好ましい。
【0022】
本発明で用いる具体的なホスファイト化合物としては、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(2−メチル−4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト,トリス(2,4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(2,4,6−トリ−ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。これらの中でも、ビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、さらに初期のCol−L値を高めやすく、化合物の耐熱性または耐加水分解性に優れる事から、ビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトまたはトリス(2,4−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく、特にビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。ここで例示した化合物は本発明の一部であり、これらは単独で使用しても複数種を併用する事も出来る。
【0023】
ポリエステル組成物に含有させるホスファイト化合物の量は、得られるポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、添加量で0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜3重量%、特に0.1〜1重量%の範囲で含むように添加することが好ましい。ホスファイト化合物の添加量が下限未満では、熱劣化による色調の変化を抑制する効果が十分に発現され難く、他方上限を超えて添加すると熱劣化による色調の変化を抑制する効果がほとんど向上しないばかりか、耐熱安定剤自身が熱分解することによりポリエステル組成物中に異物を生成したりするため、不適である。
【0024】
本発明で使用するポリエステルは、それ自体公知の方法で製造できる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることが出来る。また、エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。例えば、エステル交換触媒としては、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエステル化触媒としては、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエーテル化防止剤としてはアミン化合物等が好適に例示できる。また、重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン等の化合物が例示でき、さらにリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸等の各種リン化合物を熱安定剤として加えることも有効である。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、離型剤などを加えても良い。
【0025】
これらの中でも、重合触媒としては、得られるポリエステル樹脂組成物の色調をチタン化合物などに比べて高めやすいことから、アンチモン化合物を用いたものが好ましい。アンチモン化合物としては、三酸化二アンチモンなどを挙げることができる。ところで、アンチモン化合物は、色調に優れたポリエステルが得られる反面、ホスファイト化合物によって黒色異物となりやすいという問題がある。しかしながら、本発明で用いるホスファイト化合物では、スピロ環による立体障害のためアンチモン化合物による黒色異物の発生が生じにくいという利点もある。
【0026】
重合触媒として用いるアンチモン化合物の量は、得られるポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、アンチモン元素(Sb)換算で、30〜200重量ppm、さらに50〜150重量ppm、特に80〜120重量ppmの範囲にあることが、アンチモン化合物による析出異物の発生を抑制し、かつホスファイト化合物による黒色異物の生成も抑制できることから好ましい。
【0027】
また、本発明のポリエステル組成物は、ホスファイト化合物のほかに、ポリエステルの重合触媒の失活を行うために、前述のホスファイト化合物とは異なるリン化合物を添加してもよい。このようなリン化合物としては、リン酸、リン酸トリメチルなどのリン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチルなどの亜リン酸エステルあるいはホスホン酸エステルなどが用いられている。これらリン化合物は一般に酸性度が高く、また触媒化合物との反応により析出化合物を形成することがある。本発明においては析出化合物を抑制する観点で、下記一般式で表わされるリン化合物を好ましく用いることができる。
【0028】
【化5】

(式中のR16〜R18は炭素数1〜4のアルキル基、Xは−CH−または−CH(Y)−(Yはフェニル基)を示す。R16〜R18は同一でも異なっていても良い。)
【0029】
これらの中でも、好ましいリン化合物として、ホスホノ酢酸化合物またはホスホノフェニル酢酸の炭素数1〜4のアルキルエステルが挙げられ、ジエトキシホスホノ酢酸エチル、ジエトキシホスホノ酢酸メチルが例示される。また、これらのホスホネート化合物はアルキル鎖の一部または全てがグリコール置換されたものでも良い。このような触媒を失活させるためのリン化合物の量は、使用する重合触媒やその量に応じて変化するが、得られるポリエステル組成物の重量を基準として、リン元素量(P)換算で1〜100重量ppm添加するのが好ましい。好ましいリン元素量(P)は、10〜90重量ppm、特に20〜80重量ppmの範囲である。リン元素量が、下限未満であると、得られるポリエステル組成物中での重合触媒とホスファイト化合物との接触を抑制する効果が乏しくなり、他方上限を超えると、得られるポリエステル組成物の軟化点が低下する。
【0030】
本発明のポリエステル組成物は、固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)が、0.50〜0.90dl/gの範囲にあることが好ましく、さらに0.55〜0.80dl/g、特に0.60〜0.75dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が下限未満であると、成形加工品、例えばフィルムの耐衝撃性が不足したりすることがある。他方、固有粘度が上限を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0031】
本発明のポリエステル組成物は、例えばフィルムへの成形用の場合、取扱い性を向上させるために、平均粒径0.05〜5.0μmの不活性粒子を滑剤として0.05〜5.0重量%程度添加してもよい。この際、本発明のポリエステル組成物の特徴である優れた透明性を維持するために、添加する不活性粒子は粒径の小さいものが好ましい。添加する不活性粒子としては、コロイダルシリカ、多孔質シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ジルコニア、カオリン、複合酸化物粒子、架橋ポリスチレン、アクリル系架橋粒子、メタクリル系架橋粒子、シリコーン粒子などが挙げられる。また、フィルム、繊維、ボトルなど各成形品の要求に応じて、粘度調整剤、可塑剤、色相改良剤、核剤、紫外線吸収剤などの各種機能剤を加えてもよい。また、ポリエステル組成物を成形する際の固有粘度低下を抑制する目的で、上述したホスファイト化合物とは異なる酸化防止剤としてヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物などを添加することも出来る。しかし、これらの酸化防止剤では、成形時の固有粘度の低下は抑制できても、着色を抑えることは困難であり、あくまで補助的な機能剤として添加することが出来る。
【0032】
つぎに、本発明のポリエステル組成物の製造方法について説明する。
まず、ポリエステル組成物を構成するポリエステル自体の製造方法は、前述のとおりである。本発明の一つとしてポリエステル組成物の重量に対して、0.01〜5重量%の割合でホスファイト化合物を添加する方法として、ポリエステル組成物を成形するまでの任意の段階で添加する事ができるが、例えば重縮合反応中に添加する場合、重縮合触媒を失活したりホスファイト化合物が飛散したりする場合があり、好ましく無い。ホスファイト化合物のポリエステル組成物への好ましい添加方法としては、重合反応によって得られたポリエステル組成物とホスファイト化合物とを、溶融混練押出機を用いて混練するのが好ましい。ところで、通常、混練性に優れる事からベント式押出し機が好ましいと言われているが、本発明のようにホスファイト化合物を添加する場合には、カラーL値の低下を抑制できる事から、ベントをしない状態で溶融押し出しすることが好ましい。
【0033】
最後に本発明において提供されるポリエステル成形品について説明する。本発明によって得られるポリエステルは、ポリエステル繊維,フィルム,ボトルなどに成形加工できる。
【0034】
例えば、本発明のポリエステル組成物をフィルムとする場合、原料ポリエステルチップを溶融状態でシート状に押出すことにより得ることが出来る。好ましくは得られるフィルムに寸法安定性や強度を具備できることから、一軸方向に延伸した一軸配向ポリエステルフィルム、さらには直交する二軸方向に延伸した二軸配向ポリエステルフィルムが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムの製膜方法としては、例えば、ポリエステル組成物のチップ状物を、(Tc)〜(Tc+40)℃(Tcはポリエステルの昇温時の結晶化温度)の温度範囲で1〜3時間乾燥した後、(Tm)〜(Tm+70)℃(Tmはポリエステルの融点)の温度範囲内でシート状に溶融押出し、次いで表面温度20〜40℃の回転冷却ドラム上に密着固化させて、実質的に非晶質のポリエステルシート(未延伸フィルム)を得る。次いで未延伸フィルムを縦方向または横方向に延伸する。好ましくは縦方向に延伸した後、横方向に延伸する、いわゆる縦・横逐次二軸延伸法あるいはこの順序を逆にして延伸する方法または同時に二軸遠心する同時二軸延伸法などにより直交する二軸方向に延伸する。延伸する際の温度(熱固定温度)は(Tg−10)〜(Tg+70)℃(Tgはポリエステルの二次転移点温度)であって、延伸倍率は使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、一軸方向に2.5倍以上、さらには3倍以上で、かつ面積倍率が8倍以上、さらには10〜30倍の範囲から選ぶのが好ましい。
【0035】
本発明において、ポリエステルフィルムを製造する際、使用するスリット状ダイの形状や、溶融温度、延伸倍率、熱固定温度等の条件について制限は無く、また単層フィルムや共押出し技術等を用いた積層フィルムのいずれも採用することができる。
【0036】
このようにして得られるポリエステルフィルムは、固有粘度の低下が小さく、極めて優れた色調を有し、しかもその色調が熱劣化によって損なわれにくいことから、特に工学用などの色調の要求されるフィルムに好適に使用できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、ポリエステル組成物の特性は、以下の方法で測定・評価した。
(1)固有粘度(IV)
固有粘度(IV)は、オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0038】
(2)色調(Col−L値、b値)および色調の変化(△Col−L、b)
各実施例のポリエステル組成物のチップ状サンプルを140℃で1時間乾燥処理させた後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、カラーマシン社製CM―7500型カラーマシンを用いてCol−L値BとCol−b値Bを測定した。なお、Col−L値は明度の指標で数値が大きいほど明度が高いことを、Col−b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0039】
また、色調の変化は、各実施例で得られたポリエステル組成物のチップを140℃で1時間乾燥したのち、ガラス製フラスコへ入れ、次いで300℃に保持されたソルトバスにフラスコを浸漬後、20分間溶融状態で攪拌保持し熱分解を促進させたポリマーのチップを得て、このチップを前述のCol−L値B、Col−b値Bと同様な操作を行って、溶融処理後の色調Col−L値A、Col−b値Aを測定した。そして、Col−L値AからCol−L値Bを、Col−b値AからCol−b値Bを差し引いた値の絶対値をそれぞれ|ΔCol−L|、|ΔCol−b|とした。
【0040】
|ΔCol−L|と|ΔCol−b|は以下の基準で評価を行い○以上を合格とした。
◎:0≦|ΔCol−L|≦3
○:3<|ΔCol−L|≦5
△:5<|ΔCol−L|
◎:0≦|ΔCol−b|≦4
○:4<|ΔCol−b|≦8
△:8<|ΔCol−b|
【0041】
(3)ポリマー中のアンチモン含有量:
ポリマーチップ中のチタン元素量、リン元素量、アンチモン元素量はサンプルを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。
【0042】
[実施例1]
SUS(ステンレス)製容器にテレフタル酸ジメチル100部とエチレングリコール64部を仕込み、エステル交換触媒として酢酸マンガン0.01部を添加した。その後、240℃に昇温しながらメタノールを除去しエステル交換反応を終了した。その後、トリエチルホスホノアセテート0.04部と三酸化二アンチモン0.014部を添加し、反応生成物を重合容器に移した。重合容器内温度を300℃まで昇温し、50Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、固有粘度0.62のポリエステルチップを得た。
【0043】
次いで、得られたポリエステルチップを2軸混練機を用いて、表2記載のホスファイト化合物を表1記載の通り添加し、ホスファイト化合物を含むポリエステル組成物のチップを得た。組成物の特性を表1に示す。
【0044】
[実施例2〜4,比較例1〜4]
ホスファイト化合物を表1および表2に示す耐熱安定剤に変更し、かつその量を表1に示す量に変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成部のチップを得た。得られたチップの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例5]
三酸化二アンチモンとホスファイト化合物の添加量を表1に示す割合となるように変更変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成部のチップを得た。得られたチップの特性を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、特定の耐熱安定剤を用いたことにより、ポリマーの色調に優れ、しかも再溶融などの過酷な条件を経ても、熱劣化によるポリマーの色調、特にCol−b値の変化も小さいポリエステル組成物が提供され、特に色調の変化が問題となり、かつ回収ポリマーを再利用することが必要な光学用のポリエステルフィルムに好適に用いることができ、その工業的価値はきわめて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値A)との差(|△Col−b|)が8以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項2】
140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)が、−5〜0の範囲にある請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値A)との差(|△Col−L|)が5以下であることを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項4】
140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)が、70〜85の範囲にある請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
ポリエステル組成物が、下記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を含有する請求項1記載のポリエステル組成物。
【化1】

ここでR1−10は、それぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。
【化2】

ここでR11−15は、それぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。
【請求項6】
重縮合反応触媒がアンチモン化合物で、その含有量が、組成物の重量を基準として、アンチモン元素量で30〜200ppmの範囲である請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
溶融押出製膜によってフィルムにされる請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
ポリエステルの重縮合反応以降に、下記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を、得られるポリエステル組成物の重量に対して、0.01〜5重量%の割合で添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
【化3】

ここでR1−10は、それぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。
【化4】

ここでR11−15は、それぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。
【請求項9】
アンチモン化合物を重合触媒としてポリエステルを重合する請求項8記載のポリエステル組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−274147(P2006−274147A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97932(P2005−97932)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】