説明

ポリエステル組成物

【課題】 再溶融などの過酷な条件を経ても、ポリマーの色調の変化が小さく、しかも触媒残渣の析出による透明性の低下も抑えられたポリエステル組成物の提供。
【解決手段】 ポリエステル組成物が、特定の構造を有するホスファイト化合物を含有し、アンチモン化合物の含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、アンチモン元素量で高々5ppmであるポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた色調と透明性とを兼備し、特にフィルムなどに製膜するのに適したポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、耐候性、耐電気絶縁性および耐薬品性を有することから、フィルム、繊維またはボトルなどの成形品として広く使用されている。これらを成形する際、ポリエステルを融点以上に加熱溶融する必要があるが、同時に熱分解に伴う固有粘度の低下や着色が生じる。この劣化はまた成形品においても使用環境や経時により製品の品質を低下させる。特にフィルムに製膜する場合、製膜する際のエッジの部分などの屑が大量に出ることから、通常それらを再溶融してもう一度原料として用いるため、熱劣化の抑制が必要となる。
【0003】
このような劣化を抑制する方法として、特開平9−31336号公報(特許文献1)および特開平9−71728号公報(特許文献2)および特開2005−41918号公報(特許文献3)では、熱可塑性樹脂、具体的にはポリオレフィン系、アクリル樹脂系およびポリカーボネート系の熱可塑性樹脂に、フェノール系耐熱安定剤、ホスファイト系耐熱安定剤およびイオウ系耐熱安定剤を添加することが提案されている。また、ポリエステルにこのような耐熱安定剤を添加することも、特開2004−189782号公報(特許文献4)や特開2004−193181号公報(特許文献5)で提案されている。特に、特許文献3および4では、前述の耐熱安定剤の中でもフェノール系耐熱安定剤が好適であると教示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−31336号公報
【特許文献2】特開平9−71728号公報
【特許文献3】特開2005−41918号公報
【特許文献4】特開2004−189782号公報
【特許文献5】特開2004−193181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1〜5の教示にしたがえば、ポリエステルの熱劣化を確かに抑制でき、特に劣化異物の低減などには効果がある。しかしながら、熱劣化による異物が低減できても、ポリマーの色調(Col−L値やCol−b値など)の変化までは十分には抑制できておらず、特に光学用のフィルムなど、ポリマーの色調が高度に要求される分野での使用は制限されていた。またポリエステルでは、溶融押し出ししてフィルムに製膜する場合、製品とならない押し出されたフィルムのエッジ部を回収し再溶融して原料として用いることから、ポリマーが受ける融点以上での処理が長時間となり、他の成形に比べより過酷な状況にあった。
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決しようと鋭意研究した結果、特定の耐熱安定剤を使用するとき、熱劣化によるポリマーの色調の変化も抑制できることを見出した。ところが、色調は向上するものの、耐熱安定剤によって触媒残渣の析出が進み、ポリマーの透明性が損なわれるという問題があることを新たに見出した。
【0007】
そのため、本発明の目的は、再溶融などの過酷な条件を経ても、ポリマーの色調の変化が小さく、しかも触媒残渣の析出による透明性の低下も抑えられたポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、本発明によれば、ポリエステル組成物が、下記構造式(I)または(II)
【化1】

(ここでR1〜10はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。)
【化2】

(ここでR11〜15はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。)
で表されるホスファイト化合物を含有し、アンチモン化合物の含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、アンチモン元素量で高々5ppmであるポリエステル組成物によって達成される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、ポリエステル組成物中の析出した触媒残渣が、ポリエステル組成物の重量を基準として高々100ppmであること、ポリエステルが、ゲルマニウム化合物、チタン化合物およびアルミニウム化合物からなる群よりなる少なくとも1種を重縮合反応触媒とすること、ポリエステル組成物中の、ゲルマニウム元素量、チタン元素量およびアルミニウム元素量が、以下の式(1)〜(4)
10≦Ge≦100 (1)
3≦Ti≦30 (2)
10≦Al≦100 (3)
10≦Ge+Al+3.3Ti≦100 (4)
(式中のGe、TiおよびAlは、ポリエステル組成物の重量を基準として、それぞれチタン元素、ゲルマニウム元素およびアルミニウム元素の量(ppm)を示す。)
の少なくともいずれかひとつを具備すること、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値A)との差(|△Col−L|)が5以下であること、140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値A)との差(|△Col−b|)が8以下であること、および溶融押出製膜によりフィルムに成形されることの少なくともいずれかを具備するポリエステル組成物も提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の耐熱安定剤を用い、かつアンチモン化合物以外の製造触媒を採用したことにより、ポリマーの色調の変化が小さく、しかも透明性にもすぐれることから、光学用フィルムなどの原料として好適であり、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のポリエステル組成物は、ポリマーの色調の変化を抑え、かつ触媒残渣の析出を抑えるために、上記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を含有することが必要である。これらのホスファイト化合物は、ポリエステル熱分解時の色調の変化がより抑制される点で、ポリエステル組成物の中に遊離な状態で存在することが好ましい。この為、例えばエステル形成性を示すような反応性官能基を有さない、すなわちポリエステル分子鎖には組み込まれないような構造であることが好ましい。
【0012】
上記構造において、R1〜5、R6〜10およびR11〜15はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素であり、これらは同一であっても異なっても良い。好ましくはホスファイト化合物の耐熱性や耐加水分解性が高くできることから、R1〜5のうち少なくともt−ブチル基を1つ以上含むことが好ましく、2つ以上を含むことがさらに好ましい。R6〜10およびR11〜15もまたR1〜5と同様なことがいえる。
【0013】
本発明で用いる具体的なホスファイト化合物としては、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(2−メチル−4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト,ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト,トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(2,4,6−トリ−ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト,トリス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。これらの中でも、ビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、さらに初期のCol−L値を高めやすく、ホスファイト化合物の耐熱性または耐加水分解性に優れることから、ビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトまたはトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく、特にビス(4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。ここで例示した化合物は本発明の一部であり、これらは単独で使用しても複数種を併用する事も出来る。
【0014】
本発明のポリエステル組成物に含有させるホスファイト化合物の量は、得られるポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、添加量で0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜3重量%、特に0.1〜1重量%の範囲で含むように添加することが好ましい。ホスファイト化合物の添加量が下限未満では、熱劣化による色調の変化を抑制する効果が十分に発現され難く、他方上限を超えて添加すると熱劣化による色調の変化を抑制する効果がほとんど向上しないばかりか、耐熱安定剤自身が熱分解することによりポリエステル組成物中に異物を生成したりする。
【0015】
本発明で使用するポリエステルは、エステル交換法や直接エステル化法を経由して重縮合反応を行う溶融重合法または溶液重合法などそれ自体公知の方法で製造できる。ところで、一般にポリエステルは、重縮合反応触媒として、安価でかつ得られるポリエステルに優れた熱安定性を付与できることから、アンチモン化合物が一般的に使用されている。しかしながら、前述の通り、アンチモン化合物を重縮合反応触媒として用いると、もともとアンチモン化合物は析出しやすい傾向はあるが、その傾向が前述のホスファイトを添加するとポリマーの透明性やCol−L値などの色調が著しく損なわれることが判明した。そのため、本発明では実質的にアンチモン化合物以外の重縮合反応触媒を用い、組成物中のアンチモン化合物量を、アンチモン元素量で高々5ppm以下にすることが必要である。好ましいアンチモン元素量は、3ppm以下、もっとも好ましくは全く含有しないものである。
【0016】
アンチモン化合物以外の重縮合反応触媒としては、ゲルマニウム化合物、スズ化合物、チタン化合物およびアルミニウム化合物などが挙げられ、これらの中でも、重縮合反応後のポリマーの色調に優れ、触媒残渣の析出が少なく透明性に優れることから、重縮合反応触媒はチタン化合物、ゲルマニウム化合物およびアルミニウム化合物のいずれかが好ましい。特に、チタン化合物は他の触媒に比べて非常に活性が高いことから、本発明で使用するホスファイト化合物による色調変化の抑制効果が顕著に現れるという利点もある。具体的なゲルマニウム化合物としては酸化ゲルマニウムが、チタン化合物としては、チタンテトラブトキシドやチタンテトライソプロポキシドなどのアルコキシチタン化合物が例示できる。具体的なアルミニウム化合物としては、酢酸アルミニウムや水酸化アルミニウムなどを例示できる。これらの重縮合反応触媒は1種類に限らず2種以上を併用しても良いし、触媒活性やポリエステル色相を制御するなどの目的で変性させることもできる。
【0017】
重縮合反応触媒の量は触媒種によって異なるが、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を用い、ポリエステル組成物の重量を基準として、それらのゲルマニウム元素量、チタン元素量およびアルミニウム元素量が、以下の式(1)〜(4)の少なくともいずれかひとつを具備することが、本発明の効果を得るうえで好ましい。
10≦Ge≦100 (1)
3≦Ti≦30 (2)
10≦Al≦100 (3)
10≦Ge+Al+3.3Ti≦100 (4)
(式中のGe、TiおよびAlは、ポリエステル組成物の重量を基準として、それぞれチタン元素、ゲルマニウム元素およびアルミニウム元素の量(ppm)を示す。)
【0018】
上記式のいずれも満足しない場合、触媒活性が不十分となって所望とする固有粘度や強度が得られなかったり、本発明で使用する特定のホスファイト化合物を用いても、色調の変化が十分に抑えるのが困難になりやすい。さらにそれぞれ単独で用いる場合は、チタン化合物では黄着色を抑制できる点から、5〜20ppm、さらに8〜15ppmが好ましい。また、ゲルマニウム化合物では軟化点の低下を抑制できる点から、15〜80ppm、さらに20〜70ppmが好ましい。さらにまた、アルミニウム化合物を用いる場合は黄着色を抑制できる点から、15〜80ppm、さらに20〜70ppmが好ましい。
【0019】
本発明のポリエステル組成物は、前述のとおり、特定のホスファイト化合物とアンチモン化合物以外の重縮合反応触媒を用いることで、触媒残渣の析出が抑えられ、透明性に優れる。特に、本発明のポリエステル組成物を用いて得られる成形品が光学用フィルムなど透明性が特に要求される場合、触媒残渣の析出量は、ポリエステル組成物をヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させた溶解液をろ過した際のろ過残渣量で、ポリエステル組成物の重量を基準として、100ppm以下、さらに60ppm以下、よりさらに40ppm以下であることが好ましい。なお、本発明における触媒残渣の析出量には、後述の得られる成形品の取扱い性を向上させるために添加される不活性粒子などは含まない。
【0020】
本発明のポリエステル組成物は、140℃で結晶化処理した後のCol−L値(Col−L値B)と、300℃で20分間溶融状態で保持してから140℃で結晶化処理した後のCol−L値(Col−L値B)との差(△Col−L)が2以下であることが好ましい。△Col−L値が上記範囲を外れると、ポリエステル樹脂組成物の色調が溶融製膜などの工程で変化し、光学用のフィルムなど色調が要求される用途に用いられがたい。このような△Col−L値は、上述のホスファイト化合物を上述の量添加することや使用する触媒種を選択することなどで達成できる。好ましい△Col−L値は1以下で、下限は特に制限されない。また、本発明のポリエステル組成物は、Col−L値Bが、77〜89の範囲、さらに79〜85の範囲にあることが好ましい。Col−L値Bが上記範囲より低いと得られるポリマーの明度が低下して、光学用フィルムとして用いがたくなる。また上記範囲を超える場合は特に問題は無いが、品質過剰で不経済となったり、わずかの劣化でも変化が目立ちやすくなることがある。
【0021】
また、本発明のポリエステル組成物は、140℃で結晶化処理した後のCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間溶融状態で保持してから140℃で結晶化処理した後のCol−b値(Col−b値B)との差(△Col−b)が8以下であることが好ましい。△Col−b値が上記範囲を外れると、ポリエステル組成物の色調が溶融製膜などの工程で変化し、光学用のフィルムなど色調が要求される用途に用いられがたい。このような△Col−b値は、上述のホスファイト化合物を上述の量添加することなどで達成できる。好ましい△Col−b値は6以下で、下限は特に制限されないが、ホスファイト化合物を上限いっぱい添加しても、通常0.5程度である。また、本発明のポリエステル組成物は、Col−b値Bが、−2〜8の範囲、さらに0〜4の範囲にあることが好ましい。Col−b値Bが上記範囲より高いと、得られるポリマーの黄色味が強くなり光学用フィルムとしては用いがたくなる。また上記範囲よりも低い場合は、特に問題は無いが品質過剰で不経済となったり、わずかの劣化でも変化が目立ちやすくなることがある。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は、固有粘度(ο−クロロフェノール、35℃)が、0.50〜0.90dl/gの範囲にあることが好ましく、さらに0.55〜0.80dl/g、特に0.60〜0.75dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が下限未満であると、成形加工品、例えばフィルムの耐衝撃性が不足したりすることがある。他方、固有粘度が上限を超えると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり不経済である。
【0023】
本発明のポリエステル組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステル以外のものを例えば20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは5%以下の範囲で含有していてもよい。本発明におけるポリエステルとは、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタート、ポリテトラメチレンテレフタレートなど)やポリアルキレンナフタレート(ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリテトラメチレンナフタレートなど)を挙げることができ、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましい。ここで言う、ポリエチレンテレフタレートとは、エチレンテレフタレート成分を主たる繰返し単位とする、具体的には、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上が、エチレンテレフタレート成分からなるものである。また、ここで言うポリエチレンナフタレートとは、エチレンナフタレート成分を主たる繰返し単位とする、具体的には、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上が、エチレンナフタレート成分からなるものであり、好ましくはエチレンー2,6−ナフタレートからなるものである。これらのポリエステルはホモポリマーであっても、本発明の効果を阻害しない範囲で第3成分を共重合したものであっても良い。第3成分(共重合成分)としては、テレフタル酸(ポリアルキレンテレフタレート以外の場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリアルキレンナフタレート以外の場合)、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、エチレングリコール(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート以外の場合)、トリメチレングリコール(ポリトリメチレンテレフタート、ポリトリメチレンナフタレート以外の場合)、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール(ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレート以外の場合)、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが例示でき、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明のポリエステル組成物は、ホスファイト化合物のほかに、ポリエステルの触媒を失活するために、前述のホスファイト化合物とは異なるリン化合物を添加してもよい。このようなリン化合物としては、リン酸、リン酸トリメチルなどのリン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチルなどの亜リン酸エステルあるいはホスホン酸エステルなどが用いられている。これらリン化合物は一般に酸性度が高く、また触媒化合物との反応により析出化合物を形成することがある。本発明においては析出化合物を抑制する観点で、下記一般式で表わされるリン化合物を好ましく用いることができる。
【化3】

(式中のR16〜R18は炭素数1〜4のアルキル基、Xは−CH−または−CH(Y)−(Yはフェニル基)を示す。R16〜R18は同一でも異なっていても良い。)
【0025】
これらの中でも、好ましいリン化合物として、ホスホノ酢酸化合物またはホスホノフェニル酢酸の炭素数1〜4のアルキルエステルが挙げられ、ジエトキシホスホノ酢酸エチル、ジエトキシホスホノ酢酸メチルが例示される。また、これらのホスホネート化合物はアルキル鎖の一部または全てがグリコール置換されたものでも良い。このような触媒を失活させるためのリン化合物の量は、使用する重合触媒やその量に応じて変化するが、得られるポリエステル組成物の重量を基準として、リン元素量(P)換算で1〜100ppm添加するのが好ましい。好ましいリン元素量(P)は、10〜90ppm、特に20〜80ppmの範囲である。リン元素量が、下限未満であると、得られるポリエステル組成物中での重合触媒とホスファイト化合物との接触を抑制する効果が乏しくなり、他方上限を超えると、得られるポリエステル組成物の軟化点が低下する。
【0026】
本発明のポリエステル組成物は、透明性など本発明の効果を損なわない範囲で、例えばフィルムへ成形する際の取扱い性を向上させるために、平均粒径0.05〜5.0μmの不活性粒子を滑剤として0.05〜5.0重量%程度添加してもよい。添加する不活性粒子は、本発明のポリエステル組成物の特徴である優れた透明性を維持するために、できる限り小さいものを少量用いるのが好ましい。添加する不活性粒子としては、コロイダルシリカ、多孔質シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ジルコニア、カオリン、複合酸化物粒子、架橋ポリスチレン、アクリル系架橋粒子、メタクリル系架橋粒子、シリコーン粒子などが挙げられる。また、フィルム、繊維、ボトルなど各成形品の要求に応じて、粘度調整剤、可塑剤、色相改良剤、核剤、紫外線吸収剤などの各種機能剤を加えてもよい。なお、不活性粒子を添加することで透明性は低下するが、本発明のポリエステル組成物に不活性粒子を添加することで、優れた取扱い性と透明性とを高度に兼備させることができるという利点がある。
【0027】
つぎに、本発明のポリエステル組成物の製造方法について説明する。
まず、ポリエステル組成物を構成するポリエステル自体の製造方法は、前述のとおり、アンチモン化合物以外の製造触媒を採用するそれ自体公知の方法によって製造できる。重要なことは、ポリエステル組成物が前記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を含有し、かつアンチモン元素を組成物の重量を基準として高々5ppmしか含有しないことである。
【0028】
上記ホスファイト化合物はポリエステルの重縮合反応が終了した以降の任意の段階で添加するのが好ましい。重縮合反応の終了以前に添加したのでは、触媒を失活させたりホスファイト化合物が飛散しやすい。ホスファイト化合物のポリエステル組成物への好ましい添加方法としては、重合反応によって得られたポリエステルとホスファイト化合物とを押出機を用いて溶融混練するのが好ましい。ところで、通常、混練性に優れることからベント式押出し機が好ましいと言われているが、本発明ではホスファイト化合物の飛散を抑制できることから、ベント式でない押出し機を用いることが好ましい。
【0029】
最後に本発明において提供されるポリエステル成形品について説明する。本発明によって得られるポリエステルは、ポリエステル繊維、フィルム、ボトルなどに成形加工できる。
【0030】
例えば、本発明のポリエステル組成物をフィルムとする場合、原料ポリエステルチップを溶融状態でシート状に押出すことにより得ることが出来る。好ましくは得られるフィルムに寸法安定性や強度を具備できることから、一軸方向に延伸した一軸配向ポリエステルフィルム、さらには直交する二軸方向に延伸した二軸配向ポリエステルフィルムが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムの製膜方法としては、例えば、ポリエステル組成物のチップ状物を、(Tc)〜(Tc+40)℃(Tcはポリエステルの昇温時の結晶化温度)の温度範囲で1〜3時間乾燥した後、(Tm)〜(Tm+70)℃(Tmはポリエステルの融点)の温度範囲内でシート状に溶融押出し、次いで表面温度20〜60℃の回転冷却ドラム上に密着固化させて、実質的に非晶質のポリエステルシート(未延伸フィルム)を得る。次いで未延伸フィルムを縦方向または横方向に延伸する。好ましくは縦方向に延伸した後、横方向に延伸する、いわゆる縦・横逐次二軸延伸法あるいはこの順序を逆にして延伸する方法または同時に二軸延伸する同時二軸延伸法などにより直交する二軸方向に延伸する。延伸する際の温度(熱固定温度)は(Tg−10)〜(Tg+70)℃(Tgはポリエステルの二次転移点温度)であって、延伸倍率は使用する用途の要求に応じて適宜調整すればよいが、一軸方向に2.5倍以上、さらには3倍以上で、かつ面積倍率が8倍以上、さらには10〜30倍の範囲から選ぶのが好ましい。
【0031】
本発明において、ポリエステルフィルムを製造する際、使用するスリット状ダイの形状や、溶融温度、延伸倍率、熱固定温度等の条件について制限は無く、また単層フィルムや共押出し技術等を用いた積層フィルムのいずれも採用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、ポリエステル組成物の特性は、以下の方法で測定・評価した。
(1)固有粘度(IV)
固有粘度(IV)は、オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0033】
(2)色調(Col−L値、b値)および色調の変化(△Col−L、b)
ポリエステル組成物のチップ状サンプルを140℃で1時間乾燥処理させた後、色差計調整用の白色標準プレート上に置き、カラーマシン社製CM―7500型カラーマシンを用いてCol−L値BとCol−b値Bを測定した。なお、Col−L値は明度の指標で数値が大きいほど明度が高いことを、Col−b値はその値が大きいほど黄着色の度合いが大きいことを示す。
【0034】
また、色調の変化は、各実施例で得られたポリエステル組成物のチップを140℃で1時間乾燥したのち、ガラス製フラスコへ入れ、次いで300℃に保持されたソルトバスにフラスコを浸漬後、20分間溶融状態で攪拌保持し熱分解を促進させたポリマーのチップを得て、このチップを前述のCol−L値B、Col−b値Bと同様な操作を行って、溶融処理後の色調Col−L値A、Col−b値Aを測定した。そして、Col−L値AからCol−L値Bを、Col−b値AからCol−b値Bを差し引いた値の絶対値をそれぞれ|ΔCol−L|、|ΔCol−b|とした。
|ΔCol−L|および|ΔCol−b|は、それぞれ小さいほど色調の変化が小さいことを示す。
【0035】
(3)ポリマー中の元素量:
ポリマーチップ中のチタン元素量、リン元素量、アンチモン元素量、ゲルマニウム元素量およびアルミニウム元素量はサンプルを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。
【0036】
(4)触媒残渣の析出量:
前述の(2)のCol−L値AおよびCol−b値Aを測定する熱処理後のポリマーチップを、チップ重量に対して50倍量のヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、目開き3μmのテフロン(登録商標)フィルターを用いてろ過した。ろ紙残渣物を乾燥させた後、ろ過残渣量を計量(ポリマーが不活性粒子を別途添加されている場合は、その添加された不活性粒子の量を除く)して、そのチップ重量に対するろ過残渣濃度を求め、これを触媒残渣の析出量とした。
【0037】
[実施例1]
テレフタル酸179部とエチレングリコール95部とを混合して調製されたスラリーを、ステンレス製容器に一定速度で供給した。その後、250℃まで昇温し発生する水とエチレングリコールを系外に留去ながら、エステル化反応を4時間行った。この時のエステル化率は98%以上で、生成されたオリゴマーの重合度は5〜7であった。エステル化反応で得られたオリゴマー225部を重縮合反応槽に移し、重縮合触媒として、チタンテトラブトキシド0.01部とジエトキシホスホノ酢酸0.02部を添加した。次いで重合容器内温度を290℃まで昇温し、50Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、これを米粒状のチップに裁断し、固有粘度0.62のホスファイト化合物を含有させていないポリエステル組成物のチップを得た。
【0038】
次いで、得られたポリエステル組成物を2軸混練機を用いて、表2に記載のホスファイト化合物を表1記載の通り添加し、ホスファイト化合物を含むポリエステル組成物の同じくチップを得た。得られたホスファイト化合物を含むポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0039】
[実施例2〜5、比較例3〜5]
ホスファイト化合物の種類および量を表1および表2に示すとおり変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0040】
[実施例6、7および比較例1および2]
重縮合反応触媒をチタンテトラブトキシドから酸化ゲルマニウム、酢酸アルミニウムまた三酸化二アンチモンに変更し、かつその割合を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。なお、比較例1ではホスファイト化合物も添加しなかった。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表1中の耐熱安定剤の種類にあるA〜Fは、それぞれ表2に示す耐熱安定剤を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のポリエステル組成物は、高温に長時間晒されても色調の変化が小さく、かつ触媒残渣の析出が少ないことから透明性にも優れ、光学用のポリエステルフィルムなど透明性と色調とが求められる成形品の材料として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル組成物が、下記構造式(I)または(II)で表されるホスファイト化合物を含有し、アンチモン化合物の含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、アンチモン元素量で高々5ppmであることを特徴とするポリエステル組成物。
【化1】

(ここでR1〜10はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。)
【化2】

(ここでR11〜15はそれぞれ水素あるいは炭素数1〜10の炭化水素である。)
【請求項2】
ポリエステルが、ゲルマニウム化合物、チタン化合物およびアルミニウム化合物からなる群よりなる少なくとも1種を重縮合反応触媒とする請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
ポリエステル組成物中のゲルマニウム元素量、チタン元素量およびアルミニウム元素量が、以下の式(1)〜(4)の少なくともいずれかひとつを具備する請求項2記載のポリエステル組成物。
10≦Ge≦100 (1)
3≦Ti≦30 (2)
10≦Al≦100 (3)
10≦Ge+Al+3.3Ti≦100 (4)
(式中のGe、TiおよびAlは、ポリエステル組成物の重量を基準として、それぞれチタン元素、ゲルマニウム元素およびアルミニウム元素の量(ppm)を示す。)
【請求項4】
140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−L値(Col−L値A)との差(|△Col−L|)が2以下である請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値B)と、300℃で20分間保持してから140℃で1時間結晶化処理したときのCol−b値(Col−b値A)との差(|△Col−b|)が8以下である請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
溶融押出製膜によりフィルムに成形される請求項1記載のポリエステル組成物。

【公開番号】特開2007−2161(P2007−2161A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186224(P2005−186224)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】