説明

ポリエステル繊維および繊維製品

【課題】本発明は産業用、特に安全関連製品に好適な繊維および繊維製品であって、前記従来技術の有する問題を解決し、人体等が受ける衝撃を低減しつつ大きなエネルギーを吸収し、熱的寸法安定性を有する繊維および繊維製品を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルからなる繊維であって、破断強度(Tb)が1.5〜2.5cN/dtex、破断伸度(Eb)が150〜220%、乾熱収縮率(ΔS)が1〜7%、二次立上り応力の傾きが1.0×10−4〜1.0×10−2cN/dtex・%であるポリエステル繊維、(2)ポリエステル繊維の荷重−伸長曲線における定応力伸長域が40〜80%である(1)に記載のポリエステル繊維、(3)(1)または(2)に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部用いてなる、安全帯、安全ネット、安全ベルト、落下防止ロープ、耐衝撃ネット、衝撃吸収ネットからなる群より選ばれた一つである繊維製品であることを好ましい態様とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維に関する。詳しくは高伸度、低収縮、高品位を兼ね備えた産業資材用途、特に安全帯、安全ベルトなど安全関連分野に用いることができ、しかも特異な装置・設備を要することなく、低コストでの生産が可能なポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルからなる繊維は、種々の優れた特性を有することから、衣料用途のみならず、産業用途にも広く使用されている。ポリエステル繊維が産業資材用途、特に安全帯、安全ベルトなど安全関連分野に用いられる場合、一般に重要視される特性は衝突、落下時の衝撃によって繊維製品が破断しないことである。さらには衝突、落下時に人体に加わる応力(衝撃度)が小さいことが要求されている。また、用途によっては、製品に加工される工程あるいは製品に加工されて使用される時に熱が加わる場合がある。このような場合には、ポリエステル繊維の寸法を熱的に安定(熱的寸法安定性)させるために、加熱時の収縮率(乾熱収縮率)が小さいことがさらに要求される。かかる性能を満足させるために、現在までに安全関連分野に使用する繊維について、いくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートに、第3成分としてイソフタル酸、アジピン酸などの二官能性カルボン酸あるいはネオペンチルグリコールなどのジオールを共重合させることにより、延伸後の繊維を収縮させやすくさせ、20%を超える延伸後弛緩処理を行うことで、さらに高伸度のポリエステル繊維を得る方法が開示されており、一般的に特許文献1の図1に示されるような伸度−強度曲線(SS曲線)を有する。特許文献1の図1のように繊維が伸長しながらエネルギーを吸収する場合、繊維の伸長によって吸収されるエネルギー吸収量は、本発明の図1に示すようなSS曲線と伸度軸とで囲まれる面積に対応し、人体等に加わる衝撃度はエネルギー吸収が完了した伸びにおける応力に対応する。したがって、特許文献1の図1のような繊維では、伸長初期には低い応力で伸長するため、この領域でエネルギー吸収が完了するような負荷であれば人体等にかかる衝撃度は小さいものの、大きな負荷がかかった際には、急激に応力が立ち上がる領域まで伸長するため人体等に対する衝撃度が大きいという問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1の問題点を解決するために、大きなエネルギーを小さな衝撃で吸収し得るエネルギー吸収ポリエステル繊維を得る方法が開示されている。かかる技術は降伏点応力(Ty)と破断強度(Tb)がTb/Ty≦1.4であること等を特徴としたポリエステル繊維に関するものであり、該ポリエステル繊維は降伏点定応力と破断伸度の差が小さいことで一定の応力で伸長しながら衝撃を吸収しつつ、かつ人体等に与える負荷を低減することが可能である。しかしながら、大きなエネルギーを小さな衝撃で吸収し得るエネルギー吸収ポリエステル繊維として、さらなる改良が求められていた。
【0005】
特許文献3には、高弾性糸とポリエチレンテレフタレート等の汎用繊維を組み合わせることで初期拘束力と衝撃吸収性の双方に優れた安全ベルトを得る技術が開示されている。しかし、一般的に価格が高く、染色性に乏しいポリアリレート繊維やアラミド繊維等の高弾性繊維を用いるため、得られた繊維製品が高価格かつ染色斑が発生しやすいという問題を有していた。また、複数種の繊維を用いる場合には、製造時の取扱性が悪いだけで無く、染色や熱セット工程において繊維固有の熱収縮率の差などによって織構造が不均一になるといった意匠的な問題も有している。
【0006】
特許文献4には、自己伸長能を有するポリエステルマルチフィラメント未延伸糸の弛緩熱処理糸とポリエステルマルチフィラメント延伸糸を組み合わせてなる複合糸条を得る方法が開示されている。しかし、特許文献4に開示されているような複合糸条の繊維では、製造時の取扱性が悪いだけでなく、染色や熱セット工程において繊維固有の熱収縮率の差などによって織構造が不均一になり、破断強度が低下するといった問題も有している。さらに、自己伸長能により熱的寸法安定性が乏しく、安全帯、安全ネット等の繊維製品に使用する際、形状保持性が著しく不足するといった問題点もあった。上記のように人体等が受ける衝撃(応力)を低減しつつ、大きなエネルギーを吸収し、さらに熱的に安定である繊維および繊維製品に関する技術開発が進められているものの、それら全てを同時に満足する繊維および繊維製品が得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平9−143816号公報
【特許文献2】特開2003−64526号公報
【特許文献3】特開平8−72668号公報
【特許文献4】特開平8−158183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は産業用、特に安全関連製品に好適な繊維および繊維製品であって、前記従来技術の有する問題を解決し、人体等が受ける衝撃を低減しつつ大きなエネルギーを吸収し、熱的寸法安定性を有する繊維および繊維製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる従来技術を鑑み鋭意検討を進めた結果、次の特性を有するポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品が、人体等が受ける負荷を低減しつつ大きなエネルギーを吸収し、さらに熱的寸法安定性に優れていることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は、
(1)エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルからなる繊維であって、破断強度(Tb)が1.5〜2.5cN/dtex、破断伸度(Eb)が150〜220%、乾熱収縮率(ΔS)が1〜7%、二次立上り応力の傾きが1.0×10−4〜1.0×10−2cN/dtex・%であるポリエステル繊維、(2)ポリエステル繊維の伸度−強度曲線における定応力伸長域が40〜80%である(1)に記載のポリエステル繊維、(3)(1)または(2)に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部用いてなる、安全帯、安全ネット、安全ベルト、落下防止ロープ、耐衝撃ネット、衝撃吸収ネットからなる群より選ばれた一つである繊維製品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル繊維は、人体等に与える衝撃を低減するような降伏点応力を有し、定応力で伸長した後、緩やかに応力を立上げながら大きなエネルギー吸収を可能とする。さらに、熱収縮率が低いため熱的寸法安定性に優れており、経時的な物性変化を伴わない。本発明の繊維製品は、衝突、落下時等に衝撃から人体等を守る、安全用資材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリエステル繊維は、破断強度(Tb)が1.5〜2.5cN/dtexであり、好ましくは1.7〜2.4cN/dtex、さらに好ましくは1.8〜2.3cN/dtexである。破断強度が2.5cN/dtexを超える場合には、SS曲線において降伏後に伸長した後の応力の立ち上がり(二次立ち上り応力)が急激になるため、衝撃時に急激な負荷が人体等にかかる懸念がある。破断強度が1.5cN/dtex未満の場合には、衝撃に対して必要なエネルギー量を吸収する前に繊維が破断してしまう懸念がある。また繊維の破断を防ぐため、繊維製品に使用する繊維量を増やした際には、製品の重量が大きく、取り扱い性に劣る問題がある。
【0011】
本発明のポリエステル繊維は、破断伸度(Eb)が150〜220%であり、好ましくは、170〜215%、さらに好ましくは、180〜210%である。破断伸度が220%を超える場合には、SS曲線の降伏応力が低く、エネルギー吸収量であるSS曲線と伸度軸とで囲まれる面積が小さくなってしまうため、低い応力では衝撃に対して十分なエネルギー吸収が行われず、応力が立ち上がる領域まで伸長する必要があり、結果として人体等に対する衝撃度が大きくなってしまう。破断伸度が150%未満の場合には、SS曲線の降伏応力が高く、衝撃が加わった瞬間の人体等にかかる負荷が大きくなってしまう。また二次立ち上がり応力の傾きも大きくなるため、大きな衝撃時に急激な負荷が人体等にかかる懸念がある。本発明でいう降伏応力とは、図1に示すようにSS曲線の初期立ち上がり後、降伏する点での応力を指す。
【0012】
さらに、本発明のポリエステル繊維は、乾熱収縮率(ΔS)が1〜7%であり、好ましくは1〜6.5%、さらに好ましくは1〜6%である。本発明のポリエステル繊維は、染色時や織編後に緊張熱セット処理が施される場合や、炎天下の屋外等の高温雰囲気下で長時間晒される場合がある。本発明の乾熱収縮率が前記範囲を満足する繊維は、染色時や緊張熱セット時、高温雰囲気下に晒された際に繊維の伸長や大きな収縮が無く、繊維製品とした際に品位の良い製品を得ることができる。乾熱収縮率が0以上1%未満である場合には、ネット等の繊維製品とした際、網目の固定が不十分となり、網目がずれ、さらに編自体の強力が低くなるという問題があり、0%未満である場合には、炎天下の屋外等の高温雰囲気下において自己伸長能により熱的寸法安定性が乏しく、形状保持性が著しく不足するといった問題点がある。乾熱収縮率が7%を超える場合には、繊維製品とした時、熱処理を行うと繊維が有する収縮性により繊維製品全体が大きく収縮し厚みが増大してしまい、収納性や軽量性に劣るといった問題がある。
【0013】
本発明のポリエステル繊維は、二次立上り応力の傾きが1.0×10−4〜1.0×10−2cN/dtex・%であり、好ましくは3.0×10−4〜7.5×10−3cN/dtex・%、さらに好ましくは5.0×10−4〜5.0×10−3cN/dtex・%である。ここで、二次立上り応力の傾きとは、図1に示すSS曲線において降伏後に定応力伸長し、その後、応力が立ち上がる点(図1に示す降伏後、応力が一定となる初期の点と、SS曲線上の任意の点とを結んだときの直線の傾きが1.0×10−4cN/dtex・%以上になる最も初期の点を指す)と、その点の伸度から5%伸度が増加した点で結ばれるSS曲線の接線の傾きを指す。本発明の定応力伸長域とは、図1に示すSS曲線において、降伏後、応力が一定となる初期の点と、SS曲線上の任意の点とを結んだときの直線の傾きが1.0×10−4cN/dtex・%よりも小さい領域の伸度を指す。二次立上り応力の傾きが大きい場合には、落下等の衝撃時に、急激に人体等に負荷がかかることを示し、二次立上り応力の傾きが小さい場合には応力が急激に立ち上がる事無く衝撃を吸収することを意味する。二次立上り応力の傾きが1.0×10−4cN/dtex・%未満である場合には、降伏後応力が立ち上がらないため、衝撃を受けた際に繊維が受けた応力が伝播することなく、応力が1点に集中してしまい、衝撃吸収能を発現する前に繊維が破断してしまうという懸念を有している。二次立上り応力の傾きが1.0×10−2cN/dtex・%を超える場合には、応力が急激に立ち上がるため、衝撃時に急激な負荷が人体等にかかる懸念がある。
【0014】
本発明のポリエステル繊維は、SS曲線における定応力伸長域が40〜80%であることが好ましく、より好ましくは45〜80%、さらに好ましくは50〜80%である。定応力伸長域が40〜80%の範囲を満足する場合には、降伏後から応力が立ち上がるまで一定応力で伸長しエネルギーを吸収するため、十分なエネルギー吸収が行われ、立ち上がり後も低い応力でエネルギー吸収を終えることができるため、大きな負荷が人体等にかからない。さらに定応力伸長域後SS曲線が緩やかに立ち上がることで、応力が1点に集中して繊維または繊維製品が破断することなく衝撃吸収能を発現するため好ましい。
【0015】
本発明で、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルからなる繊維とは、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が98モル%以上のものを指し、より好ましくは100モル%である。本発明に用いるポリエステル繊維は、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐蒸熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤および難燃剤などを含むことができる。
【0016】
本発明のポリエステル繊維において、単繊維繊度や総繊度は特に限定されるものではないが、単繊維繊度としては2〜25dtex、総繊度としては500〜3000dtexを好ましい範囲として例示することができる。単繊維繊度が上記の範囲を満足する場合には、耐摩耗性に有利であり、紡出後の冷却工程で均一に冷却を行えるため好ましい。総繊度が上記の範囲を満足する場合には、単位時間当たりの生産性が良く効率的に製造することができ、工業的に有利な生産が可能となるため好ましい。また、本発明のポリエステル繊維の断面形状にも特に決まりはなく、肉薄化や剛性向上、意匠性向上などの目的で、扁平断面、中空断面、芯鞘複合断面といった様々な断面を有する繊維を使用することができる。
【0017】
次に、本発明のポリエステル繊維を得る方法の一例を、ポリエチレンテレフタレート溶融紡糸を例にとって示すが、本発明はこれに限定されることは無く、その他公知の紡糸方法を採用することができる。本発明で用いるポリエステルの固有粘度(IV)は、破断強伸度を制御する点から特定範囲にあることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートの場合には、固有粘度は0.8〜1.3の範囲が好ましく、より好ましくは0.9〜1.2である。窒素雰囲気中でホッパーに充填されたエチレンテレフタレートの繰り返し単位が98モル%以上のポリエチレンテレフタレート樹脂のチップをエクストルーダーにて溶融混練して紡糸パックに導入し、口金より吐出する方法で得ることができる。前述の添加剤等を添加する際は、エクストルーダーにて直接混合する方法や、あらかじめ添加剤等を高濃度に含有したポリエチレンテレフタレート樹脂マスターチップを作成して、溶融前にチップをブレンドする方法が採用できる。
【0018】
溶融紡糸温度は固有粘度、ポリマ種類等により適宜変更することができるが、270〜320℃であることが好ましい。270℃未満で紡糸を行なった場合にはポリマの溶融時に十分な流動性が得られない可能性があり、320℃を越える温度ではポリマが分解し、本発明の如きポリエステル繊維を得られない可能性がある。紡糸口金の直下は、紡糸口金面より0〜15cmを上端とし、その上端から5〜30cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を250〜350℃ の高温雰囲気中を短時間で通過させることで、非晶部配向度が低い未延伸糸が得られる。非晶部配向度が高いと低伸度で、さらに二次立ち上がり応力が急になり本発明の如き物性が得難いため、上記条件が好ましい。
【0019】
高温雰囲気中を通過した未延伸糸条は、次いで10〜100℃ 、好ましくは15〜75℃ の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が100℃を超える場合には紡糸時の単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。空冷装置は横吹き出しタイプ(ユニフロー型)でも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。また、モノフィラメントの様に高い冷却効果が求められる際には、水冷等の冷却方法を採用することができる。
【0020】
冷却固化された未延伸糸条は、次いで給油装置で油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良い。平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含み、ポリエステル樹脂に活性な成分を除いた油剤組成とすることが好ましい。例えば、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤であることがより好ましい。
【0021】
油剤を付与された未延伸糸条は、引取りローラに捲回して引取る。引取りローラの表面速度、即ち引取り速度は1000〜2500m/分が好ましく、さらに好ましくは1300〜2300m/分である。1000m/分未満の引取り速度の場合には、SS曲線の降伏応力が低く、定応力伸長域で吸収できるエネルギー量が小さくなり、十分なエネルギー吸収が行われず、応力が立ち上がる領域まで伸長する必要があり、結果として人体等に加わる応力が大きくなってしまう。2500m/分を超える引き取り速度の場合には、SS曲線において降伏応力が高くなり、衝撃吸収時に人体等にかかる負荷が大きくなってしまう。また本発明の如き、破断伸度150〜220%の繊維を得ることが困難となる。
【0022】
上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して1〜1.35倍の延伸倍率で熱処理するのが好ましく、より好ましくは1〜1.3倍、さらに好ましくは1〜1.25倍である。延伸倍率が1.35倍を超える場合には、定応力伸長域後の二次立上り応力の傾きが急激になるため、本発明の如き、二次立上り応力の傾きが1.0×10−4〜1.0×10−2cN/dtex・%のポリエステル繊維を得ることが困難となり、繊維製品とした際、大きなエネルギー吸収量が必要な衝撃が加わった時に急激な負荷が人体等にかかる懸念がある。
【0023】
例えば延伸方法としては、引取りローラ(以下、1FRと略すことがある)と同様に、2ケのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを給糸ローラ(以下、2FRと略すことがある)、第1延伸ローラ(以下、1DRと略すことがある)、熱セットローラ(以下、2DRと略すことがある)および弛緩ローラ(以下、RRと略すことがある)と並べて配置し、順次糸条を捲回して上記条件にて延伸熱処理を行うが、この時、延伸段数、ローラ数、ローラ間での延伸比率に特に決まりはない。通常、引取りローラと給糸ローラ間では糸条を集束させるためにストレッチを行う。ストレッチ率は1〜5%の範囲が好ましい。引取りローラは50〜90℃に加熱して、引き取り糸条を予熱して次の延伸工程に送る。
【0024】
延伸は給糸ローラと熱セットローラ間で行い、給糸ローラの温度は70〜120℃とし、その後第1延伸ローラ(100〜140℃)にて延伸倍率の90〜98%で糸条の延伸を行い、熱セットローラにて総延伸倍率の1〜5%で糸条の延伸を行いながら熱セットを行なう。第1延伸ローラにて延伸倍率の90〜98%で糸条の延伸を行うのは、分子が結晶化していない流動性を持った状態で延伸を行い、より延伸効果を高め配向を進めるためである。延伸された糸条は熱セットローラにて130〜170℃で熱セットを行なった後、熱セットローラと弛緩ローラとの間で0〜7%、好ましくは0〜5%、さらに好ましくは0〜3%の弛緩処理を行ない、巻取り機にて巻き取られる。弛緩処理では熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。弛緩ローラは非加熱ローラまたは、150℃以下に加熱したローラを用いる。上記条件を満足する場合には、本発明の特性を満足する繊維構造が形成されると考えられる。
【0025】
従来、紡糸した未延伸糸を2500m/分以下の速度で引き取り、延伸倍率1〜1.35倍で延伸し、熱セットローラで結晶化温度以上の熱を急激に加えた場合、非晶部がガラス転移温度(約70℃)を大きく超えることで分子運動が極めて活発となり、糸揺れが大きく製糸性が悪化するといった問題があった。本発明では、上記問題を解決するために、本発明のように紡糸した未延伸糸を1000〜2500m/分の引き取り速度で引き取り、分子鎖を引き揃え、配向させて、給糸ローラから熱セットローラまでで結晶開始温度100〜120℃の熱を加えるのが好ましく、より好ましくは110℃〜120℃であり、結晶開始温度近傍の熱を段階的に長時間(0.2〜0.3秒が好ましく、より好ましくは0.22〜0.28秒)与えゆっくりと結晶化させ、さらに170℃を超える高温熱セットを行わないことで、従来のように、大きい熱を急激に加えることなく結晶化を完了させ、糸揺れなく製糸を行うことが可能となった。ただし、130℃未満の熱セット温度の場合には、十分に結晶化が進まず、熱収縮の緩和が得られないため、本発明の如き、乾熱収縮率(ΔS)1〜7%の繊維を得ることが困難となる。本発明の結晶開始温度とは、DSC曲線において結晶化発熱が始まる温度を指す。
【0026】
また、毛羽の発生を少なくして高品位のポリエステル繊維を得るために、給糸ローラと第1延伸ローラの間に、繊維糸条に高圧流体を吹き付けて、該繊維を構成する糸条に交絡を付与し、糸条を集束させながら延伸を行っても良い。糸条を交絡、集束させるための交絡付与装置は、通常糸条を巻き取る直前に糸条に交絡を付与し、集束させるために用いられる交絡ノズルを用いることができる。該交絡付与装置は1段目の延伸時に行うのが効果的であるが、1段目に加え、2段目および3段目の延伸時にも行っても良い。ポリエステル繊維に施す交絡度(CF値)としては5〜70であることが好ましく、より好ましくは10〜60である。交絡度が5未満の場合には、高次加工における工程通過性が悪くなるため好ましくない。また、交絡度が70より大きい場合には、ループが発生しやすく、安定して高次加工を行うことが困難である。
【0027】
本発明のポリエステル繊維の特徴は、5〜30cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲みポリエステル繊維を急冷固化し、引き取り速度1000〜2500m/分により分子鎖を引き揃えて、配向させ、さらに1〜1.35倍の低倍率延伸を行い段階的かつ長時間、結晶開始温度近傍(100〜120℃)の熱を加え、さらに130〜170℃の低温での熱セットを併せる事で得ることができる。
【0028】
本発明の繊維製品は、前記本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部使用する。本発明のポリエステル繊維を用いることで、衝撃吸収能に優れ、人体等にかかる負荷を低減し、熱的寸法安定性に優れた安全帯、安全ネット、安全ベルト、落下防止ロープ、耐衝撃ネット、衝撃吸収ネット等の安全用途として好適な繊維製品を得ることが可能となる。
【0029】
次に本発明の繊維製品の製造方法を安全帯を例にとって説明するが、本発明の繊維製品の製造方法はこれに限定されるものでは無く、通常知られたネット、ベルト、ロープ、織編物等の製造方法を採用することができる。前述のように製造されたポリエステル繊維を、ニードル織機を用いて下記の条件で製織する。例えば、緯糸には通常の円断面糸からなる合成繊維マルチフィラメントを用い、経糸に繊度1100dtexで単繊維数200本の本発明のポリエステル繊維を用いて安全帯用ウェビングとする。織密度は限定されるものではなく、必要なエネルギー吸収特性に応じて変更できる。また、この時の織構造には特に決まりは無く、平織り、斜文織、朱子織や、それらを組み合わせた織構造を採用することができるが、ウェビングの初期応力を高めるために綾織か朱子織を採用することが好ましい。ウェビングの厚みは特に指定は無いが、2.0〜3.0mmの範囲であることが好ましい。ウェビング厚みが3.0mmを超える場合には収納性に劣るという問題があり、ウェビングの厚みが2.0mmを下回る場合には衝撃がウェビングに加わった際にウェビングが破断してしまう懸念性を有している。
【0030】
ウェビングには必要に応じて染色加工を施しても良い。染色は通常の染色方法を採用すればよく、例えば、染色浴に浸漬後170℃で1分間処理する方法を用いることができる。染料としては、アントラキノン染料、アゾ染料、ニトロジジェニルアミン染料、メチン染料およびナフトキノン染料など通常のポリエステル用染料を用いることができる。また、一般に赤、青、黄色の染料を組み合わせることによって望ましい色彩を得ることができる。さらに、染色に際しては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エトキシ化ジオクチルフェノールやアニオン性非イオン性表面活性剤、アルキルアルコールポリグリコールエーテル、硫酸エステル塩などに代表される分散・均染剤、湿潤剤のほか、抗移行剤、pH調整剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤などの添加物を染料液中に加えても良い。
【0031】
得られた本発明のウェビングは、例えば、図3に示すような本発明のポリエステル繊維のみで構成される安全帯や図4、5に示すようなショックアブソーバ型の安全帯に使用できるが、特に使用法はこれに限定されるものではない。本発明で言うショックアブソーバとは、墜落を防止するときに生ずる衝撃を緩和するための器具を言い、図4に示すような短尺部に本発明のウェビングを、長尺部には通常の円断面糸からなる高強力合成繊維マルチフィラメントウェビングにより構成されるものが挙げられる。図4のようなショックアブソーバ型の安全帯は、短尺部に用いた本発明のポリエステル繊維が伸び始め徐々に衝撃を吸収し、長尺部により安全帯の破断を抑制する。この構成により、短尺部の伸長の始まりでは本発明のポリエステル繊維が有する定応力伸長域により人体等に対し小さな衝撃で大きなエネルギー吸収が行われ、人体等への負荷を低減しつつ、短尺部が伸びきった段階で長尺部の衝撃吸収能が発現し、安全帯の破断を抑制することができる。また、図5に示すような経糸に本発明のポリエステル繊維を用い、からみ経糸(図5参照)として高強力の合成繊維マルチフィラメントを用いたものも挙げられる。この安全帯に衝撃が加わった際、ベルトが伸長するのに併せからみ経糸が伸長し、からみ経糸が伸びきった段階で衝撃吸収能が発現し、安全帯の破断を抑制することができる。かくして、本発明のポリエステル繊維製品を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。特性の定義および測定法は次の通りである。
[総繊度]:JIS L1013(1999)8.3.1a)A法に基づき、中山電気産業(株)社製検尺機を用いて、表示繊度×0.45mN/dtexの初荷重を加え測定し、総繊度とした。
【0033】
[単繊維繊度]
総繊度を単繊維数で除することにより算出した。ここで、単繊維数は、JIS L1013(1999)8.4により算出した。
【0034】
[破断伸度(Eb)、破断強度(Tb)、降伏応力、定応力伸長域、二次立上り応力の傾き]
(株)オリエンテック社製“テンシロン”引張試験機を用い、試料長10cm、引張速度30cm/分の条件で得たSS曲線(伸度‐強度特性)から求める。図1に示すようにSS曲線の初期立ち上がり後、降伏する点での応力を降伏応力とした。またSS曲線において、降伏後、応力が一定となる初期の点と、SS曲線上の任意の点とを結んだときの直線の傾きが1.0×10−4cN/dtex・%よりも小さい領域の伸度を定応力伸長域とし、定応力伸長した後の応力の傾きを二次立上り応力の傾きとした。
【0035】
[乾熱収縮率(ΔS)]
JIS L1013により、150℃の乾熱炉中で無荷重下30分間の熱処理を施し、熱処理試験前後における試長を0.10cN/dtexの荷重下で測定し、下記式に従って求めた。測定は2回行い、平均値を求めた。
乾熱収縮率(%)=(処理前試長−処理後試長)×100/処理前試長
[固有粘度(IV)]
オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解した溶液の相対粘度ηをオストワルド式粘度計を用いて25℃で測定し、IV=0.0242η+0.2634の近似式によって求めた。
【0036】
[交絡度(CF値)]
1m試長の試料に100gの荷重をかけ、6gのフックを下降速度1〜2cm/秒で下降させ、式:交絡度(CF値)=100(cm)/下降距離(cm)により計算して求めた。試行回数10回の平均値を採用した。
【0037】
[本発明のポリエステル繊維のみからなる安全帯評価]
図3に示すような安全帯として、本発明のポリエステル繊維を用いてベルト試長200cm(緯糸に東レ株式会社製ポリエステル原糸560−96−702Cを織密度20本/インチで打ち込み、経糸には、繊度1100dtexで単繊維数120本の本発明ポリエステル繊維を織密度100本/インチで打ち込んで巾51mmのウェビングとした)のものを作成し、85kgの砂のうを用いて労働安全衛生法第四十二条の規定に基づき制定された安全帯の規格(2002)第七条の耐衝撃性等に基づいて荷重落下試験を行い、落下の衝撃エネルギーをSS曲線で囲まれる面積から計算し、人体に加わる応力を求めた。上記の試験においては、ベルトに加わる負荷エネルギー(J(=N・m))は、85kg×9.81m/s×2m=1667.7N・mであり、ベルトのSS曲線と伸度軸とで囲まれる面積に対応していることから、エネルギー吸収が完了した時点の伸びにおける応力が人体に加わる衝撃となる。
【0038】
[ショックアブソーバ型の安全帯評価]
図4に示すようなショックアブソーバ型の安全帯として、短尺部に本発明のポリエステル繊維を用いてベルト試長を200cm(緯糸に東レ株式会社製ポリエステル原糸560−96−702Cを織密度20本/インチで打ち込み、経糸には、繊度1100dtexで単繊維数120本の本発明ポリエステル繊維を織密度100本/インチで打ち込んで巾51mmのウェビングとした)、長尺部に東レ株式会社製ポリエステル原糸1100−240−704Dを用いてベルト試長300cm(緯糸に東レ株式会社製ポリエステル原糸560−96−702Cを織密度20本/インチで打ち込み、経糸には、該ポリエステル繊維を織密度100本/インチで打ち込んで巾51mmのウェビングとした)を作成し、85kgの砂のうを用いて労働安全衛生法第四十二条の規定に基づいき制定された安全帯の規格(2002)第七条の耐衝撃性等に基づいて荷重落下試験を行い、落下の衝撃エネルギーをSS曲線で囲まれる面積から計算し、人体に加わる応力を求めた。上記の試験においては、ベルトに加わる負荷エネルギー(J(=N・m))は、85kg×9.81m/s×2m=1667.7N・mであり、ベルトのSS曲線と伸度軸とで囲まれる面積に対応していることから、エネルギー吸収が完了した時点の伸びにおける応力が人体に加わる衝撃となる。
【0039】
(実施例1)
東レ株式会社製の固有粘度1.23のポリエチレンテレフタレートポリマを、295℃の1軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。溶融ポリマを295℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が1100dtexとなるように計量した後、295℃の紡糸パックに導き、パック内では10ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.6mm、孔長0.78mmの丸型単孔が120個開けられた口金より押し出し紡出した。紡出糸条を口金下に設けた長さ7cm、雰囲気温度285℃の加熱筒を通過させた後、環状型チムニーを用いて40℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ロールにて油剤(三洋化成社製:サンオイルF)を付与した。油剤を付与した糸条を1570m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0040】
1FRを通過した糸条を、一旦巻き取ることなく速度1600m/分の2FR(90℃)、速度1920m/分の1DR(120℃)、速度2000m/分の2DR(140℃)、速度2000m/分のRR(非加熱)に連続して供すことにより延伸を行った。交絡処理装置は2FRと1DRの間(東レ株式会社製 EC−Y23)および、RRと巻取ローラの間(ヘバーライン社製PP3500)に設置し、それぞれ0.5MPaおよび0.6MPaの高圧空気を噴射して、ポリエステル繊維を得た。ここで得られたポリエステル繊維を用いてベルト試長200cmの図3に示すような安全帯(緯糸に東レ株式会社製ポリエステル原糸560−96−702Cを織密度20本/インチで打ち込み、経糸には、上記方法で得られたポリエステル繊維を織密度100本/インチで打ち込んで巾51mmのウェビングとした)を作成した。得られたポリエステル繊維の特性を表1及び図2に、得られた安全帯の評価結果を表2に、またベルトの伸長に対する応力を図6に示した。
【0041】
(実施例2)
1850m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取ったこと、速度1880m/分の2FR(90℃)、速度1920m/分の1DR(120℃)、速度2000m/分の2DR(140℃)、速度2000m/分のRR(非加熱)に連続して供したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0042】
(実施例3)
1500m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取ったこと、速度1540m/分の2FR(90℃)、速度1920m/分の1DR(120℃)、速度2000m/分の2DR(140℃)、速度2000m/分のRR(非加熱)に連続して供したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0043】
(実施例4)
2380m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取ったこと、速度2400m/分の2FR(90℃)、速度2430m/分の1DR(120℃)、速度2500m/分の2DR(150℃)、速度2475m/分のRR(非加熱)に連続して供したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0044】
(実施例5)
2380m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取ったこと、速度2400m/分の2FR(90℃)、速度2430m/分の1DR(120℃)、速度2500m/分の2DR(170℃)、速度2480m/分のRR(非加熱)に連続して供した以外は、実施例1と同様に行った。
【0045】
(実施例6)
図4に示すようなショックアブソーバ型の安全帯として、短尺部に実施例5で得られたポリエステル繊維を用いてベルト試長を200cm(緯糸に東レ株式会社製ポリエステル原糸560−96−702Cを織密度20本/インチで打ち込み、経糸には、実施例5で得られたポリエステル繊維を織密度100本/インチで打ち込んで巾51mmのウェビングとした)、長尺部に東レ株式会社製ポリエステル原糸1100−240−704Dを用いてベルト試長300cm(緯糸に東レ株式会社製ポリエステル原糸560−96−702Cを織密度20本/インチで打ち込み、経糸には、該ポリエステル繊維を織密度50本/インチで打ち込んで巾51mmのウェビングとした)を作成した以外は実施例1と同様に行った。
【0046】
(比較例1)
IV0.68のポリエチレンテレフタレートポリマを用いたこと、紡出糸条を口金下に設けた長さ30cm、雰囲気温度300℃の加熱筒を通過させたこと、環状型チムニーを用いて18℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け固化させたこと4000m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取ったこと、速度4120m/分の2FR(120℃)、速度5155m/分の1DR(120℃)、速度5155m/分の2DR(190℃)、速度5000m/分のRR(非加熱)に連続して供したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
(比較例2)
2DRの熱セット温度を120℃にしたこと意外は実施例4と同様に行った。
【0048】
(比較例3)
1750m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取ったこと、速度1770m/分の2FR(90℃)、速度2390m/分の1DR(120℃)、速度2480m/分の2DR(130℃)、速度2480m/分のRR(非加熱)に連続して供したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0049】
(比較例4)
900m/分の表面速度を有する1FRで巻き取ったこと、ストレッチ、延伸、熱処理を施さず定長条件で巻き取ったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0050】
本発明のポリエステル繊維でない比較例2、4の繊維製品は、衝撃吸収時に人体等に加わる応力は小さいものの、乾熱収縮率が大きく、繊維製品とした時、熱処理を行うと繊維が有する収縮性により繊維製品全体が大きく収縮し厚みが増大してしまい、収納性や軽量性に劣るといった問題がある。また比較例1及び比較例3の繊維製品はエネルギーを吸収する際、急激に応力が増大し、ベルトがほとんど伸長せず人体等に大きな負荷がかかってしまう。これらに対し、本発明の範囲を満足するポリエステル繊維の繊維製品は、伸長することによって大きなエネルギーを低い応力で吸収することができ、人体等に大きな負荷が急激に加わらないため、非常に優しい繊維製品といえる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリエステル繊維は、人体等に与える衝撃を低減するような降伏点応力を有し、定応力で伸長した後、緩やかに応力を立上げながら大きなエネルギー吸収を可能とすること、さらに、熱収縮率が低いため熱的寸法安定性に優れており、経時的な物性変化を伴わないことから繊維製品として使用する場合、衝突、落下時等に衝撃から人体等を守る、安全用資材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】降伏応力・定応力伸長域・二次立上り応力の傾き・エネルギー吸収量の説明図である。
【図2】実施例5、比較例1、比較例4においておのおの得られたポリエステル繊維のSS曲線である。
【図3】本発明のポリエステル繊維のみで作られた安全帯である。
【図4】本発明のポリエステル繊維をショックアブソーバとして使用した安全帯である。
【図5】本発明のポリエステル繊維の安全帯にからみ経糸を併せた安全帯である。
【図6】実施例5、実施例6、比較例1においておのおの得られた安全帯の伸長(m)に対する応力(kN)を示した図である。
【符号の説明】
【0055】
1−1:降伏応力
1−2:応力が一定となる初期の点
1−3:定応力伸長域
1−4:エネルギー吸収量
1−5:二次立上り応力の傾き
3−1:本発明のポリエステル繊維
3−2:縫製部
4−1:短尺部(本発明のポリエステル繊維)
4−2:縫製部
4−3:長尺部(高強度ポリエステル繊維等)
5−1:本発明のポリエステル繊維
5−2:縫製部
5−3:からみ経糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルからなる繊維であって、破断強度(Tb)が1.5〜2.5cN/dtex、破断伸度(Eb)が150〜220%、乾熱収縮率(ΔS)が1〜7%、二次立上り応力の傾きが1.0×10−4〜1.0×10−2cN/dtex・%であるポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル繊維の伸度−強度曲線における定応力伸長域が40〜80%である請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエステル繊維を少なくとも一部用いてなる、安全帯、安全ネット、安全ベルト、落下防止ロープ、耐衝撃ネット、衝撃吸収ネットからなる群より選ばれた一つである繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90504(P2010−90504A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261430(P2008−261430)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】