説明

ポリエステル繊維の染色方法

【課題】ポリエステル繊維を濃色に、且つ効率良く染色することが可能なポリエステル繊維の染色方法を提供すること。
【解決手段】超臨界二酸化炭素流体中で、ポリエステル繊維を染色するに際し、該超臨界二酸化炭素流体に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、アセトン、アセトフェノン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、エチレングリコール、アセトニトリルからなる群から選ばれた少なくとも一種の極性有機溶媒と水との混合液を0.01〜10モル%添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維の染色方法に関するものであり、更に詳しくは、ポリエステル繊維を濃色に、且つ効率良く染色することが可能なポリエステル繊維の染色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維の染色加工は、水を大量に使用し、しかも染色後に未着染料や染色助剤などが廃水となって大量に排出されるので、水質汚濁の原因となり、これの浄化が企業の大きな負担となりはじめている。
【0003】
このような問題を解決するため、最近、廃液をほとんど出さずにポリエステル繊維を効率よく染色する方法として、超臨界二酸化炭素中で染色を行う方法が提案されている。
【0004】
例えば、特開平5−132880号公報には、分散染料を用いて疎水性繊維、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン等の繊維を高濃度で染色する方法が開示されている。
【0005】
さらに、特開2002−371483号公報、特開2002−363870号公報には、セルロース繊維を超臨界二酸化炭素中にて染色する方法が開示されているが、該方法を採用した場合、高温度では染料が分解し鮮明な染色ができないし、一方、低圧では染料の溶解度が不十分であるため、実質的に濃度の高い染色物が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開平5−132880号公報
【特許文献2】特開2002−371483号公報
【特許文献3】特開2002−363870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、特に、ポリエステル繊維を濃色に、且つ効率良く染色することが可能なポリエステル繊維の染色方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、超臨界二酸化炭素による染色に際し、極性有機溶媒と水との混合液を共溶媒として併用するとき、所望の濃度が発現することを究明し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、超臨界二酸化炭素流体中で、ポリエステル繊維を染色するに際し、該超臨界二酸化炭素流体に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、アセトン、アセトフェノン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、エチレングリコール、アセトニトリルからなる群から選ばれた少なくとも一種の極性有機溶媒と水との混合液を0.01〜10モル%添加することを特徴とするポリエステル繊維の染色方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、廃液をほとんど出さずに、ポリエステル繊維を濃色に、且つ効率良く染色することが可能なポリエステル繊維の染色方法が提供されるので、ポリエステル繊維の染色加工に広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用するポリエステル繊維とは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し成分とするものが好ましく、繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートであるものがより好ましく、さらに繰り返し単位の95モル%以上がエチレンテレフタレートであるものが好ましい。
【0011】
尚、該ポリエステルには、少量の共重合成分が共重合されていても良く、具体的には、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどの脂肪族ジオールなどが例示される。更に該ポリエステル繊維は、本範囲の目的を損なわない範囲内で、安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、触媒、着色剤などを添加したものでもよい。
【0012】
本発明においては、上記ポリエステル繊維を、超臨界二酸化炭素流体中で染色するに際し、該超臨界二酸化炭素流体に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、アセトン、アセトフェノン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、エチレングリコール、アセトニトリルからなる群から選ばれた少なくとも一種の極性有機溶媒と水との混合液を共溶媒として添加する。
【0013】
ここで、添加する混合液の量は0.01〜10モル%、好ましくは0.1〜5モル%である。該添加量が0.01モル%より少ない場合は、本発明の効果が充分に発現せず、一方、該添加量が10モル%を越える場合は、染色性が低下するばかりでなく、処理後の繊維布帛などに溶媒が残存し、溶媒除去の後処理が必要となるので好ましくない。
【0014】
次いで、本発明においては、上記混合液を添加した超臨界二酸化炭素流体中に染料を添加し、7〜35MPaの圧力、及び40〜200℃の温度で染色する。
【0015】
ここで用いる染料としては、水に難溶か又は不溶性の分散染料が使用可能で、その例としては、ニトロ染料、メチン染料、キノリン染料、アミノナフトキノン染料、クマリン染料、好ましくはアントラキノン染料、トリシアノビニル染料、アゾ染料、ジニトロジフェニルアミン、など公知の分散染料が使用できる。
【0016】
染料の添加量は、合成繊維の重量に対し0.01〜10重量部(%owf)であることが好ましい。該添加量が0.01%owfよりも少ない場合には所望の色相に染色できない場合がある。一方、該添加量が20%owfを超える場合には超臨界処理機械の中に染料が多く残存し、洗浄に手間がかかる。
【0017】
本発明の染色方法における超臨界二酸化炭素流体中での圧力は、7〜35MPaであることが好ましい。該圧力が7MPa未満の場合は、染料が繊維に充分に染着されず、本発明の効果が発現しにくくなる。一方、圧力が35MPaを超えると装置が大掛かりになって、加工に要するエネルギーも多くなってしまう。
【0018】
また、本発明の染色方法における温度は40〜200℃が好ましい。該温度が40℃未満の場合は染色時間が長くなり過ぎ、本発明の効果が発現しにくくなる。一方、染色温度が200℃を超えると、繊維や染料が劣化する場合があり、染色に要するエネルギーも大きくなる。より好適には150℃以下で良い。
【0019】
染色に要する時間は、使用する染料の種類によっても異なるが、通常5〜90分が好ましい。90分を超えると作業効率の点から好ましくない場合が多い。より好適には60分以内が良い。一方、5分未満の時間では、所望の色相が得られない場合が多いし、繊維への付着ムラも発生しやすくなる。より好適には15分以上が良い。
【0020】
また、染色浴はオートクレーブを用いることが好ましく、浴比は1:5〜100が好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および効果をさらに詳細に説明する。尚、実施例における各物性は以下の方法により求めたものである。
【0022】
(1)染色性
マクベス・カラーアイ(Macbeth COLOR-EYE)モデルCE−3100を用い、繊維構造物の明度指数L*で表現した。ここで、明度指数L*とは、JIS Z 8701(2度視野XYZ系による色の表示方法)、又はJIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値のYを用いて求められるものであり、明度指数L*の数値が小さい程、濃染化されていることを示す。
【0023】
[実施例1]
44dtex/20fのポリエステル繊維を経糸及び緯糸に配して得た、平織物を常法にて精練し、100℃で1分乾燥した後、180℃で30秒プレセットし、目付50g/mの平織物を得た。
【0024】
次に、容積800ccの小型オートクレーブ内に上記織物と、精製した分散染料(CI.Disperse Blue56)を6%owfを入れ、更に共溶媒として水(二酸化炭素重量に対し1モル%)とメタノール(二酸化炭素重量に対し5モル%)を入れ、オートクレーブを封入した。
【0025】
次に二酸化炭素ガズボンベから、オートクレーブ内に二酸化炭素を注入し、昇温速度2℃/分にて昇温を行った。オートクレーブ内部の温度が135℃、圧力20.0MPaになったことを確認して30分間温度と圧力を保持し、染色を行った。
【0026】
染色後、80℃まで温度を下げ、オートクレーブの圧力を0.5MPa/分で減圧を行い5MPaまで減圧した後、オートクレーブ内部圧力を大気圧まで開放した。
【0027】
得られた被染物は濃い青色に均一に染色されていた。得られた被染物を常法にて還元洗浄、湯洗した後、乾燥した。
【0028】
超臨界二酸化炭素中での処理条件と、得られた織物のL*値を表1に示す。
【0029】
[実施例2〜3、比較例1〜6]
実施例1において、使用する極性溶媒と水の量、及び超臨界二酸化炭素中での染色条件を表1に示す如く変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【0030】
超臨界二酸化炭素中での処理条件と、得られた織物のL*値を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、廃液をほとんど出さずに、ポリエステル繊維を濃色に、且つ効率良く染色することが可能なポリエステル繊維の染色方法が提供されるので、ポリエステル繊維の染色加工に広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素流体中で、ポリエステル繊維を染色するに際し、該超臨界二酸化炭素流体に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、アセトン、アセトフェノン、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、エチレングリコール、アセトニトリルからなる群から選ばれた少なくとも一種の極性有機溶媒と水との混合液を0.01〜10モル%添加することを特徴とするポリエステル繊維の染色方法。
【請求項2】
染料の添加量が0.01〜20%owfである請求項1記載のポリエステル繊維の染色方法。
【請求項3】
染色処理が、7〜35MPaの圧力、及び40〜200℃の温度下で実施される請求項1記載のポリエステル繊維の染色方法。

【公開番号】特開2006−16711(P2006−16711A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193092(P2004−193092)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】