説明

ポリエステル繊維及びその製造方法

【課題】触媒粒子等に起因するボイド等の欠点が少なく、物性バラツキや毛羽発生の少ないポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステルからなる繊維であって、1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである金属−リン系の層状ナノ粒子を含むことを特徴とするポリエステル繊維。さらには、該層状ナノ粒子中の金属元素が二価金属であることや、該二価金属が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であること、該二価金属が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。さらには該層状ナノ粒子を構成する金属−リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業資材等、特に繊維・高分子複合体などの補強用繊維として有用な、高強力ポリエステル繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は高強度、高ヤング率、耐熱寸法安定性等の多くの優れた特性を有するため、衣料用あるいは産業用などの幅広い分野に使用されている。そしてこのポリエステル繊維の物性は、ポリマーの重縮合反応の触媒の種類によって大きく異なることが知られている。
【0003】
例えばポリエチレンテレフタレート繊維の重縮合触媒としては、アンチモン化合物が、優れた重縮合触媒機能を有する点から広く使用されている。また特許文献1等には特定のリン化合物を添加する例が記載されている。特許文献2にはチタン化合物とリン化合物との反応生成物を用いた例が記載されている。
【0004】
しかし、いずれの触媒を用いた場合でも、製糸性改善の効果は見られるものの、その効果は不十分であり、さらなる製糸性向上が求められていた。またその製糸性の不良に対応し、得られる繊維物性にばらつき等が発生しており、さらなる高性能なポリエステル繊維の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−206018号公報
【特許文献2】特開2002−293909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は触媒粒子等に起因するボイド等の欠点が少なく、物性バラツキや毛羽発生の少ないポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステルからなる繊維であって、1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである金属−リン系の層状ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0008】
さらには、該層状ナノ粒子中の金属元素が二価金属であることや、該二価金属が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であること、該二価金属が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。
【0009】
また、該層状ナノ粒子を構成する金属−リン化合物が、下記一般式(I)で表されるリン化合物由来であることが、さらには該層状ナノ粒子を構成する金属−リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体であることが好ましい。
【0010】
【化1】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0011】
また、ポリエステル中の金属およびリンの含有量が下記(III)式及び(IV)式を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 (III)
0.8≦P/M≦2.0 (IV)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0012】
本発明のポリエステル繊維のポリエステルの主たる繰り返し単位が、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることや、特にはポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、繊維の赤道方向のXRD回折において、2θ=5〜7°に回折ピークを有することが好ましい。
【0013】
もう一つの本発明のポリエステル繊維の製造方法は、層状ナノ粒子を含むポリエステルを溶融紡糸するポリエステル繊維の製造方法であって、該層状ナノ粒子が金属とリン化合物からなり、かつその形状が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmであることを特徴とする。
【0014】
また、該層状ナノ粒子が、金属とリン化合物を製造工程中に添加することにより内部析出したものであることや、該金属が二価金属であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒粒子等に起因するボイド等の欠点が少なく、物性バラツキや毛羽発生の少ないポリエステル繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られたポリエステル繊維の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。なお、図中の矢印は繊維軸方向を示したものである。
【図2】実施例1及び比較例1で得られたポリエステル繊維のX線回折結果である。縦軸は回折強度、横軸は角度2θ(°)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリエステル繊維に用いられるポリエステルポリマーとしては、産業資材等、特にタイヤコードや伝動ベルトなどのゴム補強用繊維として優れた特性を有する汎用的なポリエステルポリマーが用いられる。中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましい。とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなるものであることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0018】
そして本発明のポリエステル繊維は上記のようなポリエステルからなる繊維であって、かつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである金属−リン系の層状ナノ粒子を含むことを必須とする。さらには該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であって、該層状ナノ粒子の構成成分である金属元素が二価金属であることが好ましい。通常ポリエステル繊維は、そのエステル交換触媒・重縮合触媒として用いられた球状の触媒粒子を含むことが多いが、本発明ではその触媒粒子の形状が、層状ナノ粒子であることにその最大の特徴がある。この本発明の作用機構は定かではないが、ポリマー中の粒子形状が層状構造をとることにより、球状粒子に比べてその表面積が大きくなり表面エネルギー活性も高く、結晶核剤としての作用を促進させるためであると考えられる。そしてこの触媒微粒子が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmとの微小構造をとることによりさらにポリマーの結晶性が向上し、結晶構造の均一化や微分散化が促進され、分子配向を適切に抑制するため、繊維の物性が著しく向上したものであると考えられる。なお、このときの触媒粒子は一般には金属含有粒子である。
【0019】
層状ナノ粒子の一辺の長さとしてはさらには6〜80nmであることが好ましく、10〜60nmであることがさらに好ましい。このような本発明のポリエステル繊維中の層状ナノ粒子は透過型電子顕微鏡により確認することができる。層状ナノ粒子の大きさが100nmより大きいと繊維中で異物として作用し断糸や単糸切れが発生しやすく、強度やモジュラス等の物理的特性、ひいてはタイヤやベルトなどの補強用繊維に用いた場合にも、当該製品の耐久性の低下を引き起こしてしまう。一方、粒子が小さすぎる場合には、ポリマーの結晶性向上や製糸性向上などの効果が得られにくく、得られる繊維の物性、特にタイヤの補強用繊維として用いた場合はその耐久性やユニフォーミニティー、ベルト用途に用いた場合にはその耐久性や寸法安定性が低下する。
【0020】
本発明ではこのように100nm以下の層状ナノ粒子をポリエステル繊維中に含有するが、層状ナノ粒子としてはポリエステル中にて二価金属とリン化合物を添加することにより内部析出したものであることが好ましい。層状珪酸塩等の通常の層状粒子を外部添加した場合には層状粒子が凝集する傾向にあり、このような微小な粒子をポリエステル中に含有させることは困難である。そして本発明においては、含有する層状ナノ粒子の大きさが100nm以下、さらには80nm以下のみであることが好ましい。
【0021】
また層状ナノ粒子の各層の層間間隔としては1〜5nm、さらには1.5〜3nmであることが好ましい。層状ナノ粒子の一辺の長さが長すぎると微小構造とならずに欠点が目立つようになる。また一辺の長さが小さすぎると層状構造をとりにくくなる。一方、この層状ナノ粒子の層間間隔としては通常1〜5nm、さらに多くは1.5〜3nmの範囲をとることが好ましい。なおここで層間間隔とは、主に金属元素から成る層と、それ以外の元素である炭素、リン、酸素などの元素からなる層の間隔である。また層状構造とは、各層が少なくとも3層以上、好ましくは5〜100層並行して並んでいる状態である。またその各層の間隔は、各層の配列のほぼ直角方向に、各層の長さの1/5以下の間隔にて並んでいる状態であることが好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル繊維はこのような金属−リン系の層状ナノ粒子を含むことを必須とするが、好ましくは粒子の50%以上が金属とリン化合物からなる層状構造をとることが好ましく、さらには70%以上が、最も好ましくは全ての粒子が金属含有の層状構造であることが好ましい。
【0023】
さらに本発明のポリエステル繊維は、繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)回折において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有することが好ましい。この数値は、nmオーダーの層間間隔を有する層状ナノ粒子が繊維軸方向に規則正しく配向していることを示すものである。このように繊維軸方向に特異的に配向することによって、本発明のポリエステル繊維は、ポリエステル製糸工程での断糸率が極めて低くなる。つまり生産性が飛躍的に向上する。また得られたポリエステル繊維も欠点が少なくなり、その物性を極めて高いレベルにすることが可能となった。その結果として補強用途、特にタイヤコード用途やベルト用途等のゴム補強用途に適した繊維となった。
【0024】
また、本発明の層状ナノ粒子は、金属−リン系であることを必須とし、この層状ナノ粒子の構成成分である金属元素としては二価金属であることが好ましい。金属−リン系の層状ナノ粒子としては、二価金属とリン化合物からなることが好ましい。さらに金属元素としては、周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。さらには層状ナノ粒子としては、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。このような金属元素は、本発明の微小な層状ナノ粒子を構成しやすいとともに、触媒活性が高く好ましい。
【0025】
さらに本発明で用いられる層状ナノ粒子は、金属−リン系であることを必須とするが、この金属−リン系の層状ナノ粒子に用いられるリン化合物としては、下記一般式(I)で表されるリン化合物由来であることが好ましい。
【0026】
【化2】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0027】
このような一般式(I)の化合物としては、例えばフェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノメチル、フェニルホスホン酸モノエチル、フェニルホスホン酸モノプロピル、フェニルホスホン酸モノフェニル、フェニルホスホン酸モノベンジル、(2−ヒドロキシエチル)フェニルホスホネート、2−ナフチルホスホン酸、1−ナフチルホスホン酸、2−アントリルホスホン酸、1−アントリルホスホン酸、4−ビフェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸エチル、フェニルホスフィン酸プロピル、フェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸ベンジル、(2−ヒドロキシエチル)フェニルホスフィネート、2−ナフチルホスフィン酸、1−ナフチルホスフィン酸、2−アントリルホスフィン酸、1−アントリルホスフィン酸、4−ビフェニルホスフィン酸、4−メチルフェニルホスフィン酸、4−メトキシフェニルホスフィン酸などを挙げることができる。
【0028】
ちなみに式中で用いられているArは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を挙げることができる。さらにはRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましい。例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることができる。また上記(I)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。
【0029】
かかる置換基で置換されたアリール基としては、好適には、下記官能基及びその異性体を例示することができる。
【0030】
【化3】

【0031】
しかし、例えばフェニルホスホン酸ジメチルなどのアルキルジエステルではアルキル基の存在により立体障害が起き、層状構造をとることができないために好ましくない。
またこのようなアリール基を有するリン化合物を添加すると、高い結晶性向上効果が現れる傾向にあり、好ましい。
【0032】
特にはこのリン化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸およびそれら誘導体であることが最適である。中でも下記式で表されるフェニルホスホン酸およびその誘導体は使用量も少なくて済むため有効である。物性面として、得られるポリエステルの色相・溶融安定性、製糸性、高い層状ナノ粒子の形成能などが向上する。作業性の面として、ポリエステル製造工程での副生成物が発生しない点などに優れる。特にフェニルホスホン酸であることが最も好ましい。
【0033】
【化4】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0034】
逆に水酸基を有さないフェニルホスホン酸ジメチルなどのジアルキルエステルでは沸点が低く、真空下で飛散しやすいため本願では好ましくない傾向にある。飛散した場合には、添加したリン化合物がポリエステル中に残存する量が減り効果が得られない傾向にある。そのように飛散した場合には、真空系の閉塞が発生しやすい傾向にある。ホスホン酸のジアルキルエステルには水酸基を有さず飛散性が高いため、高温で溶融・吐出される紡糸工程において、ポリマーから遊離・溶出する現象が発生し、口金に固着した異物を形成しやすい欠点がある。このため長期間での製糸の安定性を悪化させる要因となり、好ましくない。また、ホスホン酸ジアルキルエステルではリンに直接結合する水酸基を有していない。このためエステル交換触媒・重合触媒などの金属化合物を失活する能力が低く、得られるポリマーの溶融安定性・色相の悪化を招き、好ましくない。
【0035】
本発明で用いられる層状ナノ粒子は金属成分とリン成分からなることが好ましいが、この場合本発明に用いられているポリエステル中の金属およびリンの含有量としては、下記の数式(III)式及び数式(IV)式を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 (III)
0.8≦P/M≦2.0 (IV)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0036】
金属含有量が少なすぎると、結晶核剤として機能する層状ナノ粒子の量が不十分であり、製糸性向上の効果が得にくい傾向にある。逆に多すぎると異物として繊維中に残存し物性を低下させる、ポリマーの熱劣化が激しくなるなどの傾向にある。また式(IV)で示されるP/M比が小さすぎる場合には、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/M比が大きすぎる場合には、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物成分がポリエステルの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル繊維は上記の層状ナノ粒子を含むことをその特徴とするものであるが、ポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーとしては、より具体的には次のような製造方法にて得られるものであることが好ましい。
【0038】
例えば、本発明で用いられるポリエステルポリマーとしては、テレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。
【0039】
適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン―2,7―ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのカルボン酸;グリコール酸、p―オキシ安息香酸、p―オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸;プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p―キシリレングリコール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p′―ジフェノキシスルホン―1,4―ビス(β―ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2―ビス(p―β―ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコール、p―フェニレンビス(ジメチルシクロヘキサン)などのオキシ化合物、あるいはその機能的誘導体;前記カルボン酸類、オキシカルボン酸類、オキシ化合物類またはその機能的誘導体から誘導される高重合度化合物などや、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。さらに(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸なども、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
【0040】
また、前記ポリエステル中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていても良いことはいうまでもない。
【0041】
より具体的に本発明で用いられるポリエステルポリマーの製造方法を述べると、従来公知のポリエステルポリマーの製造方法を挙げることができる。すなわち製造方法としては、まず酸成分として、テレフタル酸ジメチル(DMT)あるいはナフタレン−2,6−ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表されるジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させる。その後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させる方法である。あるいは従来公知の直接重合法により、まず酸成分としてテレフタル酸(TA)あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、製造することもできる。
【0042】
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、上記の層状ナノ粒子を構成する金属を用いることが効率的であるが、それ以外の金属を用いてもよい。一般的には、マンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛化合物などを用いることができる。触媒となる化合物としては、例えばマンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛の酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。
【0043】
中でも、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト化合物が好ましい。さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0044】
重合触媒については、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム化合物が好ましい。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウムの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0045】
中でも、アンチモン化合物が特に好ましい。ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有するからである。
【0046】
なお、テレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法においては、上記のようなエステル交換触媒やその直接エステル化反応の際の触媒は本来は不要である。しかし本発明の効果を発現させるために、あえて層状ナノ粒子を形成しうる触媒成分を含有せしめることが必要となる。触媒中の金属成分の含有量としては、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲内であることが好ましい。
【0047】
また、本発明では最終的にはポリエステル中に層状ナノ粒子を含有するが、この層状ナノ粒子としてはポリエステルポリマーを製造する任意の段階にて金属およびリン化合物を系外から外部添加することにより、内部析出したものであることが好ましい。
【0048】
本発明のポリエステル繊維の製造方法としては、本発明の製造方法に用いられるポリエステル中の層状ナノ粒子が、ポリエステル中に金属元素とリン化合物を添加することにより生じたものであることが好ましいが、このように層状ナノ粒子が内部析出することにより、外部から層状ナノ粒子を添加する場合に比べ、さらに層状ナノ粒子の微分散化を促進させることができ、得られる繊維の性能が向上する。また、このような層状ナノ粒子を高濃度含有するポリエステルマスターポリマーをあらかじめ作成し、ポリエステルベースポリマーにて希釈して用いることも好ましい態様の一つである。
【0049】
さらに詳しくは、ジカルボン酸成分とジオール成分とでエステル化反応させる製造方法の場合、エステル化反応から製糸直前までのどの段階においても、前記金属およびリン化合物を添加させ、層状ナノ粒子をポリエステルの内部で析出させることができる。
【0050】
ジカルボン酸のジアルキルエステルとジオール成分とでエステル交換反応させる製造方法の場合、エステル交換反応から製糸直前までのどの段階においても、前記金属およびリン化合物を添加させ、層状ナノ粒子をポリエステルの内部で析出させることができる。より好ましくは重縮合が完了する以前に、金属およびリン化合物を添加することが好ましい。重縮合後では、ポリマーの粘度が高く、金属およびまたはリン化合物を均一に均一に分散させることが困難であるためである。
【0051】
なお金属およびリン化合物の添加順序は同時でも、別々でも、あるいはいずれが先であっても構わない。好ましくは、いずれか片方を先に添加させ攪拌装置などを用い十分に分散させた後に、もう片方を添加すること方法を提示できる。この方法により、層状ナノ粒子の凝集を抑制することが可能となる。ただしエステル交換反応による製造方法の場合には、後述の反応阻害の問題があるため、リン化合物の添加時期に注意が必要である。また金属としては二価金属であることが好ましい。
【0052】
層状ナノ粒子を生成するためには、触媒成分としての金属が存在するポリエステル中にリン化合物を添加することが好ましいのである。このリン化合物のポリエステルポリマー中の含有量としては、次式を満たす範囲が好適である。
0.8≦P/M≦2.0 (IV)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0053】
式(IV)で示されるP/M比が小さすぎる場合には、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/M比が大きすぎる場合には、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物成分がポリエステルの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
【0054】
このリン化合物の添加時期は、特に限定されるものではない。ポリエステル製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間である。より好ましくはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間である。特にエステル交換反応の場合、エステル交換反応の終了後にリン化合物を添加することが好ましい。エステル交換反応前の添加では、リン化合物によりエステル交換の反応が阻害され、生産性の低下や得られるポリエステルポリマーの色相悪化などの問題が生じる場合がある。
【0055】
あるいは、ポリエステルの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。混練する方法は特に限定されるものではないが、通常の一軸、二軸混練機を使用することが好ましい。さらに好ましくは、得られるポリエステル組成物の重合度の低下を抑制するために、ベント式の一軸、二軸混練機を使用する方法を例示できる。
【0056】
この混練時の条件は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルの融点以上、滞留時間は1時間以内、さらに好ましくは1分〜30分である。また、混練機へのリン化合物、ポリエステルの供給方法は特に限定されるものではない。例えばリン化合物、ポリエステルを別々に混練機に供給する方法、高濃度のリン化合物を含有するマスターチップとポリエステルを適宜混合して供給する方法などを挙げることができる。
【0057】
このように重合された、本発明で用いられるポリエステルのポリマーは、紡糸直前の樹脂チップの極限粘度としては、公知の溶融重合や固相重合を行うことによって、ポリエチレンテレフタレートでは0.80〜1.20、ポリエチレンナフタレートでは0.65〜1.2の範囲とすることが好ましい。樹脂チップの極限粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また極限粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点等からも好ましくない。極限粘度としては、さらにはそれぞれポリエチレンテレフタレートでは0.9〜1.1、ポリエチレンナフタレートでは0.7〜1.0の範囲内であることが好ましい。
【0058】
本発明のポリエステル繊維は、このようにして得られた層状ナノ粒子を含むポリエステルポリマーを溶融紡糸することによって製造することができる。
すなわち、もう一つの本発明のポリエステル繊維の製造方法としては、層状ナノ粒子を含むポリエステルを溶融紡糸するポリエステル繊維の製造方法であって、該層状ナノ粒子が金属とリン化合物からなり、かつその形状が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmであることを必須とする。さらには層状ナノ粒子中の金属が二価金属であり、さらにはこの層状ナノ粒子が、金属とリン化合物を製造工程中に外部添加することにより層状ナノ粒子を発生させたものであることが好ましい。
【0059】
より具体的な本発明のポリエステル繊維の製造方法としては、得られたポリエステルポリマーを285〜335℃の温度にて溶融し、紡糸口金としてはキャピラリーを具備したものを用いて紡糸することができる。また、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過させることが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。
【0060】
加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。次いで、冷却された糸状については、油剤を付与することが好ましい。
【0061】
また、このようにして溶融ポリマー組成物を紡糸口金から吐出し成形する場合、紡糸速度としては300〜6000m/分であることが好ましい。さらには本発明の製造方法における成形方法としては、紡糸後さらに延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。
【0062】
特に本発明のポリエステル繊維は、高速にて紡糸することが好ましく、紡糸速度としては1500〜5500m/分であることが好ましい。この場合、延伸前に得られる繊維は部分配向糸となる。このように高速にて紡糸し、繊維を高度に配向結晶化させた場合、従来では紡糸段階で断糸することが多かった。しかし本発明では上記の層状ナノ粒子をポリマー中に分散形成し含有せしめる効果により、配向結晶化が均一に進み紡糸欠点を低減することができたものと推定される。そして結果的には製糸性が大幅に向上することを見出したのである。
【0063】
また延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜10倍に延伸することが好ましい。このように紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能である。従来は例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明では層状ナノ化合物の存在により延伸による結晶化において微細結晶が均一に形成され、延伸欠点が発生しにくい。結果として高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
【0064】
本発明のポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよい。あるいは引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
【0065】
延伸時の予熱温度としては、ポリエステル未延伸糸のガラス転移点より20℃低い温度以上、結晶化開始温度より20℃低い温度以下にて行うことが好ましい。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率が60〜95%となる延伸倍率にて延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃から繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
【0066】
このような本発明の製造方法においては、ポリエステルポリマーが本発明特有の層状ナノ粒子を含有することにより、ポリマー組成物の結晶性が向上する。そして溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成することとなる。この微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させる。結晶の微分散化が各工程での断糸率を大幅に低下させ、最終的に得られるポリエステル繊維の物性が向上したのであると考えられる。
【0067】
このとき本発明のポリエステル繊維の製造方法としては、本発明の製造方法に用いられるポリエステル中の層状ナノ粒子が、金属元素とリン化合物をポリエステル製造工程中に外部添加することにより生じたものであることが好ましい。このように層状ナノ粒子が内部析出することにより、外部から層状ナノ粒子を添加する場合に比べ、さらに層状ナノ粒子の微分散化を促進させることができ、得られる繊維の性能が向上する。また、このような層状ナノ粒子を高濃度含有するポリエステルマスターポリマーをあらかじめ作成し、ポリエステルベースポリマーにて希釈して用いることも好ましい態様の一つである。
【0068】
従来よりポリエステル繊維を高速紡糸するためにはさまざまな工夫が行われているが、本発明では本発明特有の層状ナノ粒子を含有することにより、紡糸安定性が飛躍的に向上し、高速紡糸も可能となった。さらに断糸が起きにくいことから、実用的な延伸倍率を高めることができ、より高い強度のポリエステル繊維を得ることが可能となったのである。
【0069】
本発明のポリエステル繊維は、繊維の極限粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い。そして高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点が少なく、製糸性も良好となる。
【0070】
この本発明の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、微小な層状ナノ粒子を含有し、この微粒子が分散することにより、ポリエステルポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、繊維の構造的欠陥が低減したためであると考えられる。また、本発明のポリエステル繊維では、層状ナノ粒子が繊維軸に平行に特異的に配向していることが好ましい。それによりポリマー分子が規則的に配向し、破断紡速の向上、毛羽欠点の低減、製糸性の向上、物性バラツキの減少などの効果を発揮しているものと考えられる。
【0071】
以上のような製造方法により得られる本発明のポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexであることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり、工業繊維としての品質安定性に問題がある。
【0072】
また180℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
【0073】
得られるポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特にタイヤコード、V−ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。
【0074】
総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましい。特にタイヤコード、V−ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
【0075】
さらに本発明のポリエステル繊維は、上記のようなポリエステル繊維をマルチフィラメントとし撚りを掛けてコードの形態としたものであることも好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましい。このとき下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
【0076】
本発明のポリエステル繊維の製造方法では、さらに得られた繊維を撚糸したり、合糸することにより、所望の繊維コードを得ることができる。さらにはその表面に接着処理剤を付与することも好ましい。接着処理剤としてはRFL系接着処理剤を処理することが、ゴム補強用途には最適である。
【0077】
より具体的には、このような繊維コードは、上記のポリエステル繊維に、常法に従って撚糸を加え、あるいは無撚の状態でRFL処理剤を付着させ、熱処理を施すことにより得ることができ、このような繊維はゴム補強用に好適に使用できる処理コードとなる。特に本発明のポリエステル繊維と高分子からなる複合体は、補強に用いられる本発明のポリエステル繊維が、耐熱性や寸法安定性に優れているため、複合体としたときの成形性に非常に優れたものとなる。特にゴム補強用として最適であり、例えばタイヤ、Vベルト、コンベアベルトなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0079】
(1)固有粘度:
ポリエステルチップ、ポリエステル繊維を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
IVと表記した。
【0080】
(2)ジエチレングリコール含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル組成物チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0081】
(3)リン、各金属原子の含有量測定
各金属元素の含有量は、サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。基本的には、この抽出液について日立製作所製Z−8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。
なお、原子吸光法が適さないリンおよびアンチモン、マンガン、コバルト、亜鉛などの各元素の含有量は、蛍光X線装置(リガク社 3270E型)を用いて測定し、定量分析を行った。そしてこの蛍光X線測定の際には、チップ・繊維状のポリエステル樹脂ポリマーについては、圧縮プレス機でサンプルを2分間260℃に加熱しながら、7MPaの加圧条件下で平坦面を有する試験成形体を作成し、測定を実施した。
【0082】
(4)X線回折
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。なお、層状ナノ粒子の層間距離d(オングストローム)は、2θ(シータ)=2〜7°の赤道方向に現れる回折ピークから2θ(シータ)-d換算表を用いて算出した。
【0083】
(5)層状ナノ粒子の解析
層状ナノ粒子の有無、構成元素の確認は、ポリエステル樹脂・繊維を、常法によって厚さ50〜100nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(FEI社製 TECNAI G2)加速電圧120kVで観察し、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM−2010)加速電圧100kV・プローブ径10nmで元素分析を行った。得られた画像から粒子の1片の長さを求めた。
【0084】
(6)繊維の強度、伸度及び中間荷伸(荷伸)
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。これを50点測定した平均値を求め、さらに各物性のばらつきを表す標準偏差σ(シグマ)を算出した。
【0085】
(7)繊維の乾熱収縮率(乾収)
JIS−L1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋に24時間放置した。その後無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
【0086】
(8)製品の毛羽欠点
巻き取った繊維製品の外観検査における単糸切れによる毛羽欠点に応じて以下で評価した。
◎:毛羽欠点が無く非常に良好
○:わずかな毛羽欠点の発生が見られるが良好
△:やや毛羽の発生があり製品ロスがやや多い
×:毛羽多発により製品ロスが非常に多い
【0087】
(9)製糸性
巻き取った繊維製品1トンあたりの糸切れ回数に応じて以下で評価した。
◎:0以上0.5回未満/トン
○:0.5回以上1.0回未満/トン
△:1.0回以上3.0回未満/トン
×:3.0回以上/トン
【0088】
[実施例1]
・ポリエステル組成物チップの製造
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込んだ。次いで140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、フェニルホスホン酸0.0522質量部(DMT対比33mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移した。引き続き290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。
得られたポリエステルチップを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの層状ナノ粒子を含有していた。結果を表1に示す。
【0089】
・ポリエステル繊維の製造
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下160℃にて3時間の乾燥、予備結晶化した。さらに230℃真空下にて固相重合反応を行った。得られたポリエチレンテレフタレート組成物チップの極限粘度は1.02であった。
これをポリマー溶融温度296℃にて口径直径1.0mm、250孔数の紡糸口金より紡出した。紡出した糸条は、口金直下に具備した長さ200mmの300℃に加熱した円筒状加熱帯を通した。次いで吹き出し距離500mmの円筒状チムニーより20℃、65%RHに調整した冷却風を紡出糸条に吹き付けて冷却した。さらに脂肪族エステル化合物を主体成分とする油剤を、繊維の油剤付着量が0.5%となるように油剤付与した。その後、表面温度50℃のローラーにて2500m/minの速度で引き取った。
【0090】
また、糸条の破断紡速を測定するために、引取りローラー速度を徐々に上げ、紡出糸条が破断する速度を求めた。
2500m/minの速度で紡糸した吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて表面温度60℃の第一ローラーとの間で1.4倍の第一段延伸を行った。次いで第一ローラーと表面温度75℃の第二ローラーとの間で1.15倍の第二段延伸を行い、さらに表面温度190℃の第3ローラーとの間で1.4倍の第三段延伸を行った。このとき第3ローラー上に走行糸条を巻き付け、190℃、0.2秒間の熱セットを施した。最後に冷却ローラーに定長で引き取ったのちに、巻取速度5000m/minで巻き取り、ポリエステル繊維を得た。
【0091】
得られたポリエステル繊維を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの平均11層の層状ナノ粒子を含有していた。一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。また、層状ナノ粒子は繊維軸に平行して配向していることが、透過型顕微鏡観察やX線回折から観察された。得られた繊維の極限粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高かった。また高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さいものであった。さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。繊維の物性および工程通過性を表2に示す。
【0092】
[実施例2〜8]
実施例1において、酢酸マンガン・四水和物、フェニルホスホン酸の代わりに表1に示す化合物種、量に変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステルポリマーを得た。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。得られた繊維には層状ナノ粒子が含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。また得られた繊維の極限粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高かった。また高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さいものであった。さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。特にフェニルホスホン酸を用いた場合には、少ない含有量であってもその効果が良く発揮されていた。結果を表2に併せて示す。
【0093】
[実施例9]
テレフタル酸166.13質量部とエチレングリコール74.4部とからなるスラリーを重縮合槽に供給して、常圧下250℃でエステル化反応を行い、エステル化反応率95%のビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体を調製した。その後、酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(TA対比30mmol%)を加え、5分間攪拌した後、フェニルホスホン酸0.0522質量部(TA対比33mmol%)と三酸化アンチモン0.0964質量部(TA対比33mmol%)とを加えて、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移した。反応容器を290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空下で重縮合反応を行ない、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表1に併せて示す。
【0094】
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。得られた繊維には層状ナノ粒子が含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。また得られた繊維の極限粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高かった。また高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さかった。さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。結果を表2に併せて示す。
【0095】
[比較例1〜8]
実施例1において、酢酸マンガン・四水和物、フェニルホスホン酸の代わりに表1に示す化合物種、量に変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステルポリマーを得た。電子顕微鏡で観察したところ、層状ナノ粒子は観察されず、粒子が存在した場合でも一般的な球状の形態であった。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。結果を表2に併せて示す。
【0096】
[比較例9]
酢酸マンガン・四水和物、フェニルホスホン酸を添加しない以外は実施例9と同様に実施し、ポリエステルポリマーを得た。電子顕微鏡で観察したところ、層状ナノ粒子は観察されなかった。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。結果を表2に併せて示す。
【0097】
[比較例10]
実施例9において、酢酸マンガン・四水和物、フェニルホスホン酸の代わりに表1に示す化合物種、量に変更したこと以外は実施例9と同様に実施しポリエステルポリマーを得た。電子顕微鏡で観察したところ、層状ナノ粒子は観察されなかった。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。結果を表2に併せて示す。
【0098】
[比較例11]
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込んだ。次いで140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、正リン酸0.0304質量部(DMT対比31mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に、層状珪酸塩(モンモリロナイト:クニミネ工業(株)製 クニピアF)のエチレングリコール溶液を、層状珪酸塩の含有量がポリエステル組成物に対して1質量部になるよう添加し、次いで、三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移した。引き続き290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。
得られたポリエステルチップを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ150nm、層間距離1.3nmの層状粒子(層状珪酸塩)を含有していたが、一部に1辺の長さが1μm以上のモンモリロナイトの凝集塊が見られた。結果を表1に示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行いポリエステル繊維を得た。結果を表2に併せて示す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0101】
このようにして得られた本発明のポリエステル繊維は、触媒粒子等に起因するボイド等の欠点が少なく、物性バラツキや毛羽発生の少ない高品質かつ高効率生産可能なポリエステル繊維であったこのポリエステル繊維は、シートベルト、ターポリン、魚網、ロープ、モノフィラメント等の産業資材用織編物など幅広い産業資材用途に対して非常に有用である。
さらに高分子と併用して、繊維・高分子複合体とすることも好ましい。特には高分子がゴム弾性体であるゴム補強用繊維として好適に用いられ、例えばタイヤ、ベルト、ホースなどに最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルからなる繊維であって、1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである金属−リン系の層状ナノ粒子を含むことを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
該層状ナノ粒子中の金属元素が二価金属である請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
該二価金属が周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素である請求項2記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
該二価金属が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属である請求項2または3記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
該層状ナノ粒子を構成する金属−リン化合物が、下記一般式(I)で表されるリン化合物由来である請求項1〜4のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【化1】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【請求項6】
該層状ナノ粒子を構成する金属−リン化合物がフェニルホスホン酸誘導体である請求項1〜5のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
ポリエステル中の金属およびリンの含有量が下記数式(III)及び数式(IV)を満たしている請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
10≦M≦1000 (III)
0.8≦P/M≦2.0 (IV)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【請求項8】
ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものである請求項1〜7のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項9】
ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1〜8のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項10】
繊維の赤道方向のXRD回折において、2θ(シータ)=5〜7°に回折ピークを有する請求項1〜9のいずれか1項記載のポリエステル繊維。
【請求項11】
層状ナノ粒子を含むポリエステルを溶融紡糸するポリエステル繊維の製造方法であって、該層状ナノ粒子が金属とリン化合物からなり、かつその形状が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmであることを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
【請求項12】
該層状ナノ粒子が、金属とリン化合物を製造工程中に添加することにより内部析出したものである請求項11記載のポリエステル繊維の製造方法。
【請求項13】
該金属が二価金属である請求項12記載のポリエステル繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74552(P2011−74552A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5869(P2010−5869)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【特許番号】特許第4634526号(P4634526)
【特許公報発行日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】