ポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維およびその製造方法
【課題】繊維布帛としての発色性とソフト性に優れ、そして高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用途に好適なポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維であって、該芯部に配されるポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、該鞘部に配されるポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度が高く、かつその極限粘度差が０．４〜１．０であり、更に下記（Ａ）〜（Ｃ）の要件を満足するポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。（Ａ）単繊維繊度が１．０〜２．８ｄｔｅｘである。（Ｂ）強度が２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。（Ｃ）伸度が９０〜１６０％である。（Ｄ）温水収縮率が１．５〜１０．０％である。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、ポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維であって、該芯部に配されるポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、該鞘部に配されるポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度が高く、かつその極限粘度差が０．４〜１．０であり、更に下記（Ａ）〜（Ｃ）の要件を満足するポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。（Ａ）単繊維繊度が１．０〜２．８ｄｔｅｘである。（Ｂ）強度が２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。（Ｃ）伸度が９０〜１６０％である。（Ｄ）温水収縮率が１．５〜１０．０％である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、芯鞘断面構造を有するポリエステル複合繊維に関するものであり、詳しくは、繊維布帛の発色性とソフト性に優れ、かつ高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用に好適なポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルと、トリメチレンテレフタレートを重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート（以下、３ＧＴと称することがある。）は、低弾性率、ソフトな風合いおよび易染性という特徴に加え、仮撚り加工を施すことにより、高いストレッチ性が得られることから、近年、その需要が大きく拡大している。
【０００３】
この３ＧＴに関する公知技術の中で、仮撚り用途に適した部分配向繊維に関する技術としては、例えば、高重合度の３ＧＴポリマーを溶融紡糸後、極低張力で巻き取ることにより巻き締まりやバルジ発生を抑制し、高速での仮撚り加工性を向上させる技術（特許文献１参照）や、熱処理部にテーパーロールを使用し、熱による繊維の伸張分を補うことにより、糸弛みによる糸切れが抑制できる他、より高温での熱処理ができるため、部分配向繊維の長期保管が可能となる技術（特許文献２参照）が提案されている。しかしながら、何れの公知技術においても、３ＧＴ単独では高い強度を持つ繊維が得られず、仮撚りなど高次加工性の低下に繋がる他、繊維布帛にした場合に強度が不足するという欠点もあり、また、高い収縮性を有するが故に、製織編の際もしくはその後に繊維布帛のカールが発生するため、例えば、カーシートとして使用する際には、成型加工性が著しく低下するという問題もあった。このように、３ＧＴ単独の部分配向繊維において、３ＧＴ特有の優れた発色性、ソフト性および加工性に富んだ高い強度を併せ持つものは、これまで得られていなかった。
これら３ＧＴ単独での欠点を補うために、ポリエチレンテレフタレート（以下、ＰＥＴと称することがある。）と、３ＧＴとの芯鞘複合型繊維の開発が進められ、公知技術としても知られている。例えば、低温可染性、熱セット性および堅牢性があり、また高い強度と適度な弾性率を有していることで織編製時の取り扱い性に優れ、しかもソフトな風合いの繊維布帛が得られる技術（特許文献３参照）が提案されている。しかしながら、これらの芯鞘複合型繊維に関する公知技術では、高強度と３ＧＴの特性が両立し、更に仮撚り用途にも適した芯鞘複合型部分配向繊維に関する技術については開示されていない。
【特許文献１】特開２００２−６１０３８号公報（特許請求の範囲）
【特許文献２】特開２００３−２２７０３１号公報（特許請求の範囲）
【特許文献３】特開平１１−９３０２１号公報（発明の属する技術分野）
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００４】
そこで本発明の目的は、芯鞘断面構造を有するポリエステル複合繊維であって、繊維布帛の発色性とソフト性に優れ、かつ高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用途に適したポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
本発明らは、上述した従来技術では解決できなかった課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【０００６】
すなわち、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維とその製造方法は、次の構成を有するものである。
【０００７】
（１）テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維であって、その芯部に配されるポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、鞘部に配されるポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度が高く、かつその極限粘度差が０．４〜１．０であり、更に下記（Ａ）〜（Ｄ）の要件を満足することを特徴とするポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
（Ａ）単糸繊度が１．０〜２．８ｄｔｅｘである。
（Ｂ）強度が２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。
（Ｃ）伸度が９０〜１６０％である。
（Ｄ）温水収縮率が１．５〜１０．０％である。
【０００８】
（２）芯部と鞘部の重量比が２０：８０〜５５：４５の範囲であり、芯部の極限粘度が０．４０〜０．６８の範囲であり、鞘部の極限粘度が０．８０〜１．６８の範囲であることを特徴とする前記（１）記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【０００９】
（３）延伸仮撚り加工が施されてなる前記（１）または（２）記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【００１０】
（４）カーシート用途として使用することを特徴とする前記（１）〜（３）のいずれかに記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【００１１】
（５）テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維を溶融紡糸するに際し、紡出孔から押出された溶融ポリマーを冷却固化させ、速度２０００〜３５００ｍ／ｍｉｎの部分配向領域にて引き取り、工程張力０．０２〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘでのコントロールと糸条冷却のため２つ以上の複数のローラーを介し、この複数のローラーの何れかにおいて７０〜１３０℃の温度の熱処理を施した後、張力０．０５〜０．２ｃＮ／ｄｔｅｘにて巻き取ることを特徴とする前記（１）記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法。
【００１２】
（６）前記（５）記載の請求項５記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法により得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を、糸速度１００〜１０００ｍ／ｍｉｎ、熱セット温度１００〜２００℃、および巻き取り張力０．０２〜０．１０ｃＮ／ｄｔｅｘの条件で仮撚り加工することを特徴とする仮撚り加工糸の製造方法。
【発明の効果】
【００１３】
本発明によれば、従来成し得なかった、繊維布帛の発色性とソフト性に優れ、かつ高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用途に好適なポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１４】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、芯部と鞘部からなる同心円芯鞘断面形状を有しており、芯部に配されるポリマーのＰＥＴは、９０モル％以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、１０モル％以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、この芯部には、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体や着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【００１５】
また、鞘部に配されるポリマーの３ＧＴは、９０モル％以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリトリメチレンテレフタレートである。ポリトリメチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、１０モル％以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、この鞘部には、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体や着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【００１６】
本発明においては、芯部に配されるポリマーのＰＥＴの極限粘度に対し、鞘部に配されるポリマーの３ＧＴの方の極限粘度を高くするが、その極限粘度差は０．４〜１．０であることが必要である。極限粘度差が規定の範囲より小さい場合は、ＰＥＴの粘度を高くした場合、一般に粘度に合わせ紡糸温度も高く設定する必要があり、高い紡糸温度では３ＧＴの熱劣化が進み、紡糸糸切れの発生はもちろん、強度低下に伴う高次加工性の低下、更には発色性とソフト性の低下が起こり、ソフト性においては、例えば、カーシートにした際に、肌触りが悪くなる。また、３ＧＴの粘度を低くした場合も同様に、発色性やソフト性という３ＧＴの特性が発揮されず、カーシートには適さない。極限粘度差の範囲は、好ましくは０．５以上である。
【００１７】
一方、極限粘度差が規定の範囲より大きい場合は、ＰＥＴの粘度を低くした場合、ＰＥＴの強度補強効果が失われ、低強度糸の発生やそれに伴う高次加工性の低下、またカーシートとしては耐摩擦性や破れに対し弱くなる。また、３ＧＴの粘度を高くした場合には、製糸そのものが困難となる。極限粘度差の範囲は、好ましくは０．８以下である。
【００１８】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の単繊維繊度は、１．０〜２．８ｄｔｅｘであることが必要である。単繊維繊度が１．０ｄｔｅｘに満たない場合、ソフト性には長けるが、ハリコシ感が失われる他、ＰＥＴによる強度補強効果が意味を成さず、高次加工性の低下に繋がる。単繊維繊度の範囲は、好ましくは１．４ｄｔｅｘ以上である。また、単繊維繊度が２．８ｄｔｅｘを上回る場合、風合いが硬くなり、例えば、ベロア調のような嵩高性の高い繊維布帛とした場合でも肌触りが悪く、カーシートには適さない。単繊維繊度の範囲は、好ましくは２．５ｄｔｅｘ以下である。上記範囲の単繊維繊度は、適切なポリマー吐出量とフィラメント数を変更することにより得ることができる。
【００１９】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の強度は、２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であることが必要である。強度が２．０ｄｔｅｘに満たない場合、ＰＥＴによる強度補強効果が全く意味を成しておらず、高次加工性の低下に繋がることはもちろん、ハリコシ感が失われ、肌触りが悪くなるため、カーシートとしては適さない。強度は、好ましくは２．２ｄｔｅｘ以上である。また、３ＧＴ特有のソフト性がより発揮され、より肌触りの良好なカーシートを得るために、強度は、７．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。上記範囲の強度は、糸条を適切な速度のローラーに引き回すことにより得ることができる。
【００２０】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の伸度は、９０〜１６０％であることが必要である。本発明で言う部分配向繊維とは、配向部分と未配向部分が混在してなる繊維であり、特に仮撚り加工等のいわゆる後加工を施すこに好適な繊維である。具体的には、伸度が上述の範囲内であることを意味しており、伸度をこの範囲にコントロールすることによって仮撚り加工や他の繊維との混繊が容易に達成できる。伸度が９０％に満たない場合、仮撚りなどの高次加工性が低下する他、風合いが硬くなり、例えば、ベロア調のような嵩高性の高い布帛とした場合でも肌触りが悪く、カーシートには適さない。伸度の範囲は、好ましくは１００％以上である。また、伸度が１６０％を上回る場合、ハリコシ感が失われ、肌触りが悪くなるため、カーシートとしては適さない。伸度の範囲は、好ましくは１５０％以下である。上記範囲の伸度は、適切な極限粘度のポリマを用いた上で糸条を適切な速度のローラーに引き回すことにより得ることができる。
【００２１】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の温水収縮率は、７０℃温水下での収縮率であり、１．５〜１０．０％であることが必要である。温水収縮率が１．５％に満たない低収縮の場合、ソフト性が低下し、例えば、カーシートとした際に肌触りが悪くなる。温水収縮率の範囲は、好ましくは２．０％以上である。また、温水収縮率が１０．０％を上回る高収縮の場合、すなわち熱結晶化が進んでいない場合は、巻き取り中もしくは巻き取られた後も糸条の収縮が起こり、パッケージが巻き取り機より抜けなくなる現象、いわゆる巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、繊維布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生する。温水収縮率の範囲は、好ましくは８．０％以下であり、より好ましくは６．０％以下である。上記範囲の温水収縮率は、適切な極限粘度のポリマを用いた上で糸条を適切な速度および適切な温度に加熱したローラーに引き回すことにより得ることができる。
【００２２】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、次のようにして製造することができる。例えば、テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維を溶融紡糸するに際し、紡出孔より押出した溶融ポリマーを冷却固化させ、速度２０００〜３５００ｍ／ｍｉｎの部分配向領域にて引き取り、工程張力０．０２〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘでのコントロールと糸条冷却のため２つ以上の複数のローラーを介し、この複数のローラー何れかにおいて７０〜１３０℃の熱処理を施した後、張力０．０５〜０．２ｃＮ／ｄｔｅｘにて巻き取ることによって、製造することができる。
【００２３】
引き取り速度が２０００ｍ／ｍｉｎに満たない低速では、製糸そのものが困難となり、また生産性の低下にも繋がるため好ましくない。また、引き取り速度が３５００ｍ／ｍｉｎを超える高速になると、ポリマー吐出孔から引き取りまでの間に配向が進み、ソフト性が低下するばかりでなく、仮撚り加工性及び仮撚り加工後の品位も著しく低下する ため好ましくない。引き取り速度は、より好ましくは２５００〜３３００ｍ／ｍｉｎであり、更に好ましくは２５００〜３１００ｍ／ｍｉｎである。
【００２４】
また、工程張力は、０．０２ｃＮ／ｄｔｅｘに満たない低張力では、製糸そのものが困難となるため好ましくなく、また、０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘを超える高張力では、パッケージの巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、繊維布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生するため好ましくない。工程張力は、より好ましくは０．０３〜０．１３ｃＮ／ｄｔｅｘである。
【００２５】
また、熱処理温度は、３ＧＴの熱結晶化温度以上で、かつＰＥＴの熱結晶化温度以下であることが好ましい。熱処理温度が７０℃に満たない低温では、３ＧＴの熱結晶化温度に満たないため、収縮性が高くなりパッケージの巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生するため好ましくない。また、熱処理温度が１３０℃を超える高温では、ＰＥＴの熱結晶化温度を超えてしまうため、収縮性が低下し、高次加工性の著しい低下に繋がる他、ソフト性の低下により、例えば、カーシートとした際に肌触りが悪くなるため好ましくない。熱処理温度は、より好ましくは８０〜１２０℃であり、更に好ましくは９０〜１２０℃である。
【００２６】
また、巻き取り張力は、０．０５ｃＮ／ｄｔｅｘに満たない低張力では、製糸そのものが困難となるため好ましくなく、また、巻き取り張力が０．２ｃＮ／ｄｔｅｘを超える高張力では、パッケージの巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、繊維布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生するため好ましくない。巻き取り張力は、より好ましくは０．０７〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘである。
【００２７】
また、巻取りまでの間に公知の交絡装置を用い、繊維糸条に交絡を施すことも可能である。必要であれば、交絡を複数回付与することで交絡数を上げることが可能となる。さらには、巻取直前に、追加で油剤を付与することも許容される。
【００２８】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の好ましい態様によれば、ポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維には、ベルト仮撚り、ピン仮撚りおよびディスク仮撚りなど公知の仮撚り加工が施される。延伸仮撚り加工する際、糸速度は１００〜１０００ｍ／ｍｉｎであることが好ましい。糸速度が１００ｍ／ｍｉｎ以上であると、染め斑の発生を抑制することができ、カーシートとしての品位向上に繋がる。糸速度は、より好ましくは２００ｍ／ｍｉｎ以上である。また、糸速度が１０００ｍ／ｍｉｎ以下であると、仮撚りの加工斑や糸切れを抑制することができ、カーシートとしての品位向上に繋がる。糸速度は、より好ましくは８００ｍ／ｍｉｎ以下である。
【００２９】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を延伸仮撚り加工する際、熱処理温度は１００〜２００℃であることが好ましい。熱処理温度が１００℃以上であると、仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合の、繊維布帛のカール発生によるカーシートとしての品位低下や、それに伴う成形時の加工性低下が抑制される。熱処理温度は、より好ましくは１２０℃以上である。熱処理温度が２００℃以下であると、糸条の走行状態がより安定し、糸切れ等の抑制に繋がる。
【００３０】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を延伸仮撚り加工する際、巻き取り張力は０．０２〜０．１ｃＮ／ｄｔｅｘであることが好ましい。巻き取り張力が０．０２ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であると、パッケージフォーム崩れの発生がない。巻き取り張力は、より好ましくは０．０４ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。巻き取り張力が０．１ｃＮ／ｄｔｅｘ以下であると、パッケージ巻き締まりの発生が無い。
【００３１】
また、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、カーシート用途として使用することができる。
【００３２】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維において、３ＧＴ特有の発色性およびソフト性を損なわないためには、芯部と鞘部の重量比が２０：８０〜５５：４５の範囲であり、ＰＥＴの極限粘度が０．４０〜０．６８の範囲であり、また３ＧＴの極限粘度が０．８０〜１．６８の範囲であることが適当である。
【００３３】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造には、複合構造の安定性と生産性を考慮すると、溶融紡糸法が最も優れている。本発明のポリエステル芯鞘型部分配向繊維を溶融紡糸する上では、芯部となるＰＥＴは、２６０〜３００℃の温度で溶融されることが好ましい。溶融するに際し、プレッシャーメルター法およびエクストルーダー法が挙げられるが、均一溶融及び滞留防止の観点からエクストルーダー法による溶融が好ましい。
【００３４】
また、鞘部となる３ＧＴは、ＰＥＴと同様にエクストルーダーを用い、２４０〜２８０℃の温度で溶融されることが好ましい。別々に溶融されたポリマーは別々の配管を通り、計量された後、パックへ流入する。この際、ポリマー熱劣化抑制の観点から、配管通過時間を５〜３０分とすることが好ましい。パックへ流入したポリマーは口金にて合流した後、公知の技術により同心円芯鞘型の形態に複合され吐出される。この際のポリマー温度は、２６３〜２８０℃が適当である。この範囲であれば、ポリマー熱劣化による生産性低下、発色性およびソフト感の低下を好ましく防止することができる。
【００３５】
図１は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製糸工程を例示説明するための概略工程図であり、図２は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の別の製糸工程を例示説明するための概略工程図である。本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、図１または図２に示すような工程を経て好ましく製造することができる。
【００３６】
図１は、口金１から溶融ポリマーを吐出した後、糸条冷却送風装置２にて糸条を冷却し、油剤付与装置３にて糸条に油剤を付与した後、交絡装置４にて交絡を付与した糸条を第１ローラー５にて引き取り、同時に熱処理を施し、第２ローラー６を介して工程張力をコントロールし、コンタクトローラー７を介して巻き取りパッケージ８とする製糸工程であり、また図２は、口金９から溶融ポリマーを吐出した後、糸条冷却送風装置１０にて糸条を冷却し、油剤付与装置１１にて糸条に油剤を付与した後、糸条を収束させるため交絡装置１２にて交絡を付与し、第１ローラー１３にて引き取り、第１ローラー１３と第２ローラー１４の何れか、もしくは両方にて熱処理を施した後、交絡装置１５にて糸条に交絡を付与し、第３ローラー１６と第４ローラー１７を介して工程張力をコントロールし、コンタクトローラー１８を介して巻き取りパッケージ１９とする製糸工程であり、いずれも糸条の冷却に効果的な製糸工程である。但し、製造工程はこれらに限定されるものではなく、例えば、巻き取りまでに介するローラーの数を必要に応じて変更することも可能である。
【００３７】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、特にカーシート用途に好適である。具体的に、本発明で得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、繊維布帛のカールが発生しにくく、カーシート成型時の加工性が良好である。また、３ＧＴ特有のソフト感や発色性、均一な染色性が生み出す均一な表面感が得られる。カーシートとして、適用方法はこれに限ったことではなく、他の繊維との複合仮撚や混繊、綿など天然繊維との交織、交編が可能である。
【実施例】
【００３８】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例における主な測定値は、以下の方法で測定した。
【００３９】
（１）極限粘度
極限粘度［η］は、純度９８％以上のｏ−クロロフェノールで溶解した温度２５℃の３ＧＴ及びＰＥＴ希釈溶液の粘度を測定し得られるものであり、次の定義式に基づいて求められる値である。
【００４０】
【数１】
【００４１】
定義式のηｒは、純度９８％以上のｏ−クロロフェノールで溶解した３ＧＴ及びＰＥＴの希釈溶液の温度２５℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶剤自体の粘度で割った値であり、相対粘度と定義されているものである。また、ｃは上記溶液１００ｍｌ中のグラム単位による溶質重量値である。
【００４２】
（２）強度と伸度
ＪＩＳ Ｌ１０１３（１９９９）に従い測定した。
【００４３】
（３）温水収縮率
温水収縮率（％）は、次の式に基づいて求められる値である。
温水収縮率（％）＝（（Ｌ０−Ｌ１）／Ｌ０）×１００
Ｌ０：原糸をかせ取りし、測定荷重０．００５３ｃＮ／ｄｔｅｘでのかせ長
Ｌ１：原糸を無荷重の状態で７０℃の温度の温水にて１０分間処理し、風乾後、測定荷重０．００５３ｃＮ／ｄｔｅｘを掛けたときのかせ長。
【００４４】
（４）発色性
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を、ベルト仮撚り機を用い延伸仮撚り加工を施したサンプルＡと、ＰＥＴ単独部分配向繊維を同じくベルト仮撚り機を用い延伸仮撚り加工を施したサンプルＢのサンプルをそれぞれ１００％使い、３６ゲージのトリコットベロア布帛を作製し、８０℃の温度で精練した後、染料として長瀬産業（株）製テトラシールネイビーブルーＳＧＬ０．２７５％ｏｗｆ、助剤として正研化工（株）製テトロシンＰＥ−Ｃ５．０％ｏｗｆ、分散剤として日華化学（株）製“ニッカサンソルト”（登録商標）＃１２００１．０％ｏｗｆを用い、浴比１：１００にて５０℃１５分、さらに９０℃、２０分にて染色を行った。染色後の、サンプルＡとＢの間の染色差を総合的に官能検査し３段階評価し、○と○○を合格とし、×を不合格とした。ＰＥＴ単独部分配向繊維については、１００ｄｔｅｘ−６０フィラメント（以下、ｆと略す。）のものを使用した。
○○：非常に優れている
○ ：優れている
× ：ＰＥＴ同等（発色性向上は無し）。
【００４５】
（５）染色均一性
上記の（４）にて得られた布帛サンプルＡ、Ｂを、（４）と同様の方法にて染色した後、乾燥させものについて染色の均一性を評価した。染色均一性の判断基準は染色後の布帛に斑が無いのものを基準の０点とし、０〜５０点の点数評価を実施、下記評価基準にて３段階評価とし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。
○○：０〜１０点
○ ：１１〜３０点
× ：３１点以上。
【００４６】
（６）ソフト性
上記の（４）にて得られた布帛サンプルＡ、Ｂを、１０人のパネラーに触らせ、ソフト性良好か否かを評価した。なお、評価基準は下記の通りとし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。
○○：非常に良好
○ ：良好
× ：ＰＥＴ同等。
【００４７】
（７）耐カール性
上記の（４）にて得られた布帛を、３０ｃｍ×５０ｃｍに切り取り、布帛短辺の片側を固定、その他は負荷を掛けないフリーな状態で、水平なテーブルの上に置き、その際の布帛の接地面積を測定、布帛全面に対する接地面の比率を求め、下記評価基準にて３段階評価とし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。
○○：１００％（カール無し）
○ ：９５％以上１００％未満
× ：９５％未満。
【００４８】
（８）高次加工性
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を糸速度３００ｍ／ｍｉｎ、熱処理温度１６０℃、巻き取り張力０．０５ｃＮ／ｄｔｅｘの条件にて延伸仮撚加工を施した繊維の毛羽発生数にて評価した。なお、評価基準は下記の通りとし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。毛羽測定には東レ株式会社製フライカウンタ（商品名）を用い、一定速度５００ｍ／分で糸条を走行させながら実施した。
○○：毛羽１個未満
○ ：毛羽１〜５個未満
× ：毛羽５個以上。
【００４９】
（実施例１）
図２に示した工程にしたがって、ポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を製糸した。極限粘度０．５１のＰＥＴと極限粘度１．１３の３ＧＴを、それぞれエクストルーダーを用い、それぞれ２８５℃と２６０℃の温度で溶融後、ポンプによる計量を行い、ポリマー温度２７０℃で同心円芯鞘断面形状を形成すべく、芯部に配するＰＥＴの周辺に鞘部に配する３ＧＴが流れ込むように設計された口金に流入させた。芯部と鞘部の両ポリマーの複合比（重量比）は、ＰＥＴ：３ＧＴ＝３０：７０の割合とした。各ポリマーの配管通過時間は、ＰＥＴが１２分、３ＧＴは５分であった。口金から吐出された糸条は、冷却、油剤付与後、２９００ｍ／分の速度で非加熱の第１ローラー１３に引き取られ、一旦巻き取ることなく、１００℃の温度に加熱した、速度３０００ｍ／ｍｉｎの第２ローラー１４に引き回し、熱処理を行った。その後、第２ローラーと同速度に設定した非加熱の第３ローラー１６と、第４ローラー１７に引き回し、０．１０ｃＮ／ｄｔｅｘの張力にて巻き取り、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また、高次加工性も良好であった。
【００５０】
（実施例２）
熱処理温度を１３０℃としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、実施例１にはやや劣るものの、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また高次加工性も良好であった。
【００５１】
（実施例３）
極限粘度０．７０のＰＥＴを用い、極限粘度差を０．４３とし、ポリマー温度を２７５℃としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、実施例１にはやや劣るものの、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また高次加工性も良好であった。
【００５２】
（実施例４）
複合比をＰＥＴ：３ＧＴ＝５０：５０の割合としたとしたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、実施例１にはやや劣るものの、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また高次加工性も良好であった。
【００５３】
【表１】
【００５４】
（比較例１）
熱処理温度を４０℃としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、発色性とソフト性は良好であったものの、染色均一性と耐カール性においては満足できるものではなく、カーシートに適するものではなかった他、パッケージの巻き締まりによる
（比較例２）
極限粘度０．７５の３ＧＴを用い、極限粘度差を０．２４としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、染色均一性、耐カール性および高次加工性は良好であったものの、発色性とソフト性において満足できるものではなく、カーシートに適するものではなかった。
【００５５】
（比較例３）
単繊維繊度を０．７ｄｔｅｘとしたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−１４４ｆのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、発色性、ソフト性および耐カール性は良好であったものの、染色均一性において満足できるものではなく、カーシートに適するものではなかった他、高次加工性においても毛羽発生数が多く、仮撚り用途としても適するものではなかった。
【００５６】
（比較例４）
極限粘度０．５１のＰＥＴを単独で紡出したこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆの３ＧＴ単独糸を得た。得られたポリエステル単独糸の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、染色均一性、耐カール性および高次加工性には長けていたものの、発色性とソフト性においては最も劣位であり、カーシートに適するものではなかった。
【００５７】
（比較例５）
極限粘度１．１３の３ＧＴを単独で紡出したこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆの３ＧＴ単独糸を得た。得られたポリエステル単独糸の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、ソフト性に長け、染色性および発色性も良好ではあったが、耐カール性においては最も劣位であり、カーシートに適するものではなかった他、高次加工性においても毛羽発生数が多く、仮撚り用途としても適するものではなかった。
【００５８】
【表２】
【産業上の利用可能性】
【００５９】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、繊維布帛のカールが発生しにくく、カーシート成型時の加工性が良好であり、また、３ＧＴ特有のソフト感や発色性、均一な染色性が生み出す均一な表面感が得られる。そのため、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、特に、カーシート用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【００６０】
【図１】図１は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製糸工程を例示説明するための概略工程図である。
【図２】図２は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の別の製糸工程を例示説明するための概略工程図である。
【符号の説明】
【００６１】
１ 口金
２ 糸条冷却送風装置
３ 油剤付与装置
４ 交絡装置
５ 第１ローラー
６ 第２ローラー
７ コンタクトローラー
８ パッケージ
９ 口金
１０ 糸条冷却送風装置
１１ 油剤付与装置
１２ 交絡装置
１３ 第１ローラー
１４ 第２ローラー
１５ 交絡装置
１６ 第３ローラー
１７ 第４ローラー
１８ コンタクトローラー
１９ パッケージ
【技術分野】
【０００１】
本発明は、芯鞘断面構造を有するポリエステル複合繊維に関するものであり、詳しくは、繊維布帛の発色性とソフト性に優れ、かつ高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用に好適なポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルと、トリメチレンテレフタレートを重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート（以下、３ＧＴと称することがある。）は、低弾性率、ソフトな風合いおよび易染性という特徴に加え、仮撚り加工を施すことにより、高いストレッチ性が得られることから、近年、その需要が大きく拡大している。
【０００３】
この３ＧＴに関する公知技術の中で、仮撚り用途に適した部分配向繊維に関する技術としては、例えば、高重合度の３ＧＴポリマーを溶融紡糸後、極低張力で巻き取ることにより巻き締まりやバルジ発生を抑制し、高速での仮撚り加工性を向上させる技術（特許文献１参照）や、熱処理部にテーパーロールを使用し、熱による繊維の伸張分を補うことにより、糸弛みによる糸切れが抑制できる他、より高温での熱処理ができるため、部分配向繊維の長期保管が可能となる技術（特許文献２参照）が提案されている。しかしながら、何れの公知技術においても、３ＧＴ単独では高い強度を持つ繊維が得られず、仮撚りなど高次加工性の低下に繋がる他、繊維布帛にした場合に強度が不足するという欠点もあり、また、高い収縮性を有するが故に、製織編の際もしくはその後に繊維布帛のカールが発生するため、例えば、カーシートとして使用する際には、成型加工性が著しく低下するという問題もあった。このように、３ＧＴ単独の部分配向繊維において、３ＧＴ特有の優れた発色性、ソフト性および加工性に富んだ高い強度を併せ持つものは、これまで得られていなかった。
これら３ＧＴ単独での欠点を補うために、ポリエチレンテレフタレート（以下、ＰＥＴと称することがある。）と、３ＧＴとの芯鞘複合型繊維の開発が進められ、公知技術としても知られている。例えば、低温可染性、熱セット性および堅牢性があり、また高い強度と適度な弾性率を有していることで織編製時の取り扱い性に優れ、しかもソフトな風合いの繊維布帛が得られる技術（特許文献３参照）が提案されている。しかしながら、これらの芯鞘複合型繊維に関する公知技術では、高強度と３ＧＴの特性が両立し、更に仮撚り用途にも適した芯鞘複合型部分配向繊維に関する技術については開示されていない。
【特許文献１】特開２００２−６１０３８号公報（特許請求の範囲）
【特許文献２】特開２００３−２２７０３１号公報（特許請求の範囲）
【特許文献３】特開平１１−９３０２１号公報（発明の属する技術分野）
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００４】
そこで本発明の目的は、芯鞘断面構造を有するポリエステル複合繊維であって、繊維布帛の発色性とソフト性に優れ、かつ高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用途に適したポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００５】
本発明らは、上述した従来技術では解決できなかった課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【０００６】
すなわち、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維とその製造方法は、次の構成を有するものである。
【０００７】
（１）テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維であって、その芯部に配されるポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、鞘部に配されるポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度が高く、かつその極限粘度差が０．４〜１．０であり、更に下記（Ａ）〜（Ｄ）の要件を満足することを特徴とするポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
（Ａ）単糸繊度が１．０〜２．８ｄｔｅｘである。
（Ｂ）強度が２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。
（Ｃ）伸度が９０〜１６０％である。
（Ｄ）温水収縮率が１．５〜１０．０％である。
【０００８】
（２）芯部と鞘部の重量比が２０：８０〜５５：４５の範囲であり、芯部の極限粘度が０．４０〜０．６８の範囲であり、鞘部の極限粘度が０．８０〜１．６８の範囲であることを特徴とする前記（１）記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【０００９】
（３）延伸仮撚り加工が施されてなる前記（１）または（２）記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【００１０】
（４）カーシート用途として使用することを特徴とする前記（１）〜（３）のいずれかに記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【００１１】
（５）テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維を溶融紡糸するに際し、紡出孔から押出された溶融ポリマーを冷却固化させ、速度２０００〜３５００ｍ／ｍｉｎの部分配向領域にて引き取り、工程張力０．０２〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘでのコントロールと糸条冷却のため２つ以上の複数のローラーを介し、この複数のローラーの何れかにおいて７０〜１３０℃の温度の熱処理を施した後、張力０．０５〜０．２ｃＮ／ｄｔｅｘにて巻き取ることを特徴とする前記（１）記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法。
【００１２】
（６）前記（５）記載の請求項５記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法により得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を、糸速度１００〜１０００ｍ／ｍｉｎ、熱セット温度１００〜２００℃、および巻き取り張力０．０２〜０．１０ｃＮ／ｄｔｅｘの条件で仮撚り加工することを特徴とする仮撚り加工糸の製造方法。
【発明の効果】
【００１３】
本発明によれば、従来成し得なかった、繊維布帛の発色性とソフト性に優れ、かつ高強度であり、更には仮撚り加工性にも優れたカーシート用途に好適なポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１４】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、芯部と鞘部からなる同心円芯鞘断面形状を有しており、芯部に配されるポリマーのＰＥＴは、９０モル％以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、１０モル％以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、この芯部には、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体や着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【００１５】
また、鞘部に配されるポリマーの３ＧＴは、９０モル％以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリトリメチレンテレフタレートである。ポリトリメチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、１０モル％以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸およびセバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、この鞘部には、艶消剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体や着色顔料などを、必要に応じて添加することができる。
【００１６】
本発明においては、芯部に配されるポリマーのＰＥＴの極限粘度に対し、鞘部に配されるポリマーの３ＧＴの方の極限粘度を高くするが、その極限粘度差は０．４〜１．０であることが必要である。極限粘度差が規定の範囲より小さい場合は、ＰＥＴの粘度を高くした場合、一般に粘度に合わせ紡糸温度も高く設定する必要があり、高い紡糸温度では３ＧＴの熱劣化が進み、紡糸糸切れの発生はもちろん、強度低下に伴う高次加工性の低下、更には発色性とソフト性の低下が起こり、ソフト性においては、例えば、カーシートにした際に、肌触りが悪くなる。また、３ＧＴの粘度を低くした場合も同様に、発色性やソフト性という３ＧＴの特性が発揮されず、カーシートには適さない。極限粘度差の範囲は、好ましくは０．５以上である。
【００１７】
一方、極限粘度差が規定の範囲より大きい場合は、ＰＥＴの粘度を低くした場合、ＰＥＴの強度補強効果が失われ、低強度糸の発生やそれに伴う高次加工性の低下、またカーシートとしては耐摩擦性や破れに対し弱くなる。また、３ＧＴの粘度を高くした場合には、製糸そのものが困難となる。極限粘度差の範囲は、好ましくは０．８以下である。
【００１８】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の単繊維繊度は、１．０〜２．８ｄｔｅｘであることが必要である。単繊維繊度が１．０ｄｔｅｘに満たない場合、ソフト性には長けるが、ハリコシ感が失われる他、ＰＥＴによる強度補強効果が意味を成さず、高次加工性の低下に繋がる。単繊維繊度の範囲は、好ましくは１．４ｄｔｅｘ以上である。また、単繊維繊度が２．８ｄｔｅｘを上回る場合、風合いが硬くなり、例えば、ベロア調のような嵩高性の高い繊維布帛とした場合でも肌触りが悪く、カーシートには適さない。単繊維繊度の範囲は、好ましくは２．５ｄｔｅｘ以下である。上記範囲の単繊維繊度は、適切なポリマー吐出量とフィラメント数を変更することにより得ることができる。
【００１９】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の強度は、２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であることが必要である。強度が２．０ｄｔｅｘに満たない場合、ＰＥＴによる強度補強効果が全く意味を成しておらず、高次加工性の低下に繋がることはもちろん、ハリコシ感が失われ、肌触りが悪くなるため、カーシートとしては適さない。強度は、好ましくは２．２ｄｔｅｘ以上である。また、３ＧＴ特有のソフト性がより発揮され、より肌触りの良好なカーシートを得るために、強度は、７．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以下であることが好ましい。上記範囲の強度は、糸条を適切な速度のローラーに引き回すことにより得ることができる。
【００２０】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の伸度は、９０〜１６０％であることが必要である。本発明で言う部分配向繊維とは、配向部分と未配向部分が混在してなる繊維であり、特に仮撚り加工等のいわゆる後加工を施すこに好適な繊維である。具体的には、伸度が上述の範囲内であることを意味しており、伸度をこの範囲にコントロールすることによって仮撚り加工や他の繊維との混繊が容易に達成できる。伸度が９０％に満たない場合、仮撚りなどの高次加工性が低下する他、風合いが硬くなり、例えば、ベロア調のような嵩高性の高い布帛とした場合でも肌触りが悪く、カーシートには適さない。伸度の範囲は、好ましくは１００％以上である。また、伸度が１６０％を上回る場合、ハリコシ感が失われ、肌触りが悪くなるため、カーシートとしては適さない。伸度の範囲は、好ましくは１５０％以下である。上記範囲の伸度は、適切な極限粘度のポリマを用いた上で糸条を適切な速度のローラーに引き回すことにより得ることができる。
【００２１】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の温水収縮率は、７０℃温水下での収縮率であり、１．５〜１０．０％であることが必要である。温水収縮率が１．５％に満たない低収縮の場合、ソフト性が低下し、例えば、カーシートとした際に肌触りが悪くなる。温水収縮率の範囲は、好ましくは２．０％以上である。また、温水収縮率が１０．０％を上回る高収縮の場合、すなわち熱結晶化が進んでいない場合は、巻き取り中もしくは巻き取られた後も糸条の収縮が起こり、パッケージが巻き取り機より抜けなくなる現象、いわゆる巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、繊維布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生する。温水収縮率の範囲は、好ましくは８．０％以下であり、より好ましくは６．０％以下である。上記範囲の温水収縮率は、適切な極限粘度のポリマを用いた上で糸条を適切な速度および適切な温度に加熱したローラーに引き回すことにより得ることができる。
【００２２】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、次のようにして製造することができる。例えば、テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維を溶融紡糸するに際し、紡出孔より押出した溶融ポリマーを冷却固化させ、速度２０００〜３５００ｍ／ｍｉｎの部分配向領域にて引き取り、工程張力０．０２〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘでのコントロールと糸条冷却のため２つ以上の複数のローラーを介し、この複数のローラー何れかにおいて７０〜１３０℃の熱処理を施した後、張力０．０５〜０．２ｃＮ／ｄｔｅｘにて巻き取ることによって、製造することができる。
【００２３】
引き取り速度が２０００ｍ／ｍｉｎに満たない低速では、製糸そのものが困難となり、また生産性の低下にも繋がるため好ましくない。また、引き取り速度が３５００ｍ／ｍｉｎを超える高速になると、ポリマー吐出孔から引き取りまでの間に配向が進み、ソフト性が低下するばかりでなく、仮撚り加工性及び仮撚り加工後の品位も著しく低下する ため好ましくない。引き取り速度は、より好ましくは２５００〜３３００ｍ／ｍｉｎであり、更に好ましくは２５００〜３１００ｍ／ｍｉｎである。
【００２４】
また、工程張力は、０．０２ｃＮ／ｄｔｅｘに満たない低張力では、製糸そのものが困難となるため好ましくなく、また、０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘを超える高張力では、パッケージの巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、繊維布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生するため好ましくない。工程張力は、より好ましくは０．０３〜０．１３ｃＮ／ｄｔｅｘである。
【００２５】
また、熱処理温度は、３ＧＴの熱結晶化温度以上で、かつＰＥＴの熱結晶化温度以下であることが好ましい。熱処理温度が７０℃に満たない低温では、３ＧＴの熱結晶化温度に満たないため、収縮性が高くなりパッケージの巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生するため好ましくない。また、熱処理温度が１３０℃を超える高温では、ＰＥＴの熱結晶化温度を超えてしまうため、収縮性が低下し、高次加工性の著しい低下に繋がる他、ソフト性の低下により、例えば、カーシートとした際に肌触りが悪くなるため好ましくない。熱処理温度は、より好ましくは８０〜１２０℃であり、更に好ましくは９０〜１２０℃である。
【００２６】
また、巻き取り張力は、０．０５ｃＮ／ｄｔｅｘに満たない低張力では、製糸そのものが困難となるため好ましくなく、また、巻き取り張力が０．２ｃＮ／ｄｔｅｘを超える高張力では、パッケージの巻き締まりの発生や、パッケージの糸質経時変化の発生に繋がるため、仮撚りなど長期の保管を必要とする用途には適さず、また仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合には、繊維布帛のカールが発生しこれによる品位の低下や、それに伴う成形時の加工性低下が発生するため好ましくない。巻き取り張力は、より好ましくは０．０７〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘである。
【００２７】
また、巻取りまでの間に公知の交絡装置を用い、繊維糸条に交絡を施すことも可能である。必要であれば、交絡を複数回付与することで交絡数を上げることが可能となる。さらには、巻取直前に、追加で油剤を付与することも許容される。
【００２８】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の好ましい態様によれば、ポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維には、ベルト仮撚り、ピン仮撚りおよびディスク仮撚りなど公知の仮撚り加工が施される。延伸仮撚り加工する際、糸速度は１００〜１０００ｍ／ｍｉｎであることが好ましい。糸速度が１００ｍ／ｍｉｎ以上であると、染め斑の発生を抑制することができ、カーシートとしての品位向上に繋がる。糸速度は、より好ましくは２００ｍ／ｍｉｎ以上である。また、糸速度が１０００ｍ／ｍｉｎ以下であると、仮撚りの加工斑や糸切れを抑制することができ、カーシートとしての品位向上に繋がる。糸速度は、より好ましくは８００ｍ／ｍｉｎ以下である。
【００２９】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を延伸仮撚り加工する際、熱処理温度は１００〜２００℃であることが好ましい。熱処理温度が１００℃以上であると、仮撚り後、カーシート用素材として、例えば、トリコットベロアのような組織とした場合の、繊維布帛のカール発生によるカーシートとしての品位低下や、それに伴う成形時の加工性低下が抑制される。熱処理温度は、より好ましくは１２０℃以上である。熱処理温度が２００℃以下であると、糸条の走行状態がより安定し、糸切れ等の抑制に繋がる。
【００３０】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を延伸仮撚り加工する際、巻き取り張力は０．０２〜０．１ｃＮ／ｄｔｅｘであることが好ましい。巻き取り張力が０．０２ｃＮ／ｄｔｅｘ以上であると、パッケージフォーム崩れの発生がない。巻き取り張力は、より好ましくは０．０４ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。巻き取り張力が０．１ｃＮ／ｄｔｅｘ以下であると、パッケージ巻き締まりの発生が無い。
【００３１】
また、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、カーシート用途として使用することができる。
【００３２】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維において、３ＧＴ特有の発色性およびソフト性を損なわないためには、芯部と鞘部の重量比が２０：８０〜５５：４５の範囲であり、ＰＥＴの極限粘度が０．４０〜０．６８の範囲であり、また３ＧＴの極限粘度が０．８０〜１．６８の範囲であることが適当である。
【００３３】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造には、複合構造の安定性と生産性を考慮すると、溶融紡糸法が最も優れている。本発明のポリエステル芯鞘型部分配向繊維を溶融紡糸する上では、芯部となるＰＥＴは、２６０〜３００℃の温度で溶融されることが好ましい。溶融するに際し、プレッシャーメルター法およびエクストルーダー法が挙げられるが、均一溶融及び滞留防止の観点からエクストルーダー法による溶融が好ましい。
【００３４】
また、鞘部となる３ＧＴは、ＰＥＴと同様にエクストルーダーを用い、２４０〜２８０℃の温度で溶融されることが好ましい。別々に溶融されたポリマーは別々の配管を通り、計量された後、パックへ流入する。この際、ポリマー熱劣化抑制の観点から、配管通過時間を５〜３０分とすることが好ましい。パックへ流入したポリマーは口金にて合流した後、公知の技術により同心円芯鞘型の形態に複合され吐出される。この際のポリマー温度は、２６３〜２８０℃が適当である。この範囲であれば、ポリマー熱劣化による生産性低下、発色性およびソフト感の低下を好ましく防止することができる。
【００３５】
図１は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製糸工程を例示説明するための概略工程図であり、図２は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の別の製糸工程を例示説明するための概略工程図である。本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、図１または図２に示すような工程を経て好ましく製造することができる。
【００３６】
図１は、口金１から溶融ポリマーを吐出した後、糸条冷却送風装置２にて糸条を冷却し、油剤付与装置３にて糸条に油剤を付与した後、交絡装置４にて交絡を付与した糸条を第１ローラー５にて引き取り、同時に熱処理を施し、第２ローラー６を介して工程張力をコントロールし、コンタクトローラー７を介して巻き取りパッケージ８とする製糸工程であり、また図２は、口金９から溶融ポリマーを吐出した後、糸条冷却送風装置１０にて糸条を冷却し、油剤付与装置１１にて糸条に油剤を付与した後、糸条を収束させるため交絡装置１２にて交絡を付与し、第１ローラー１３にて引き取り、第１ローラー１３と第２ローラー１４の何れか、もしくは両方にて熱処理を施した後、交絡装置１５にて糸条に交絡を付与し、第３ローラー１６と第４ローラー１７を介して工程張力をコントロールし、コンタクトローラー１８を介して巻き取りパッケージ１９とする製糸工程であり、いずれも糸条の冷却に効果的な製糸工程である。但し、製造工程はこれらに限定されるものではなく、例えば、巻き取りまでに介するローラーの数を必要に応じて変更することも可能である。
【００３７】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、特にカーシート用途に好適である。具体的に、本発明で得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、繊維布帛のカールが発生しにくく、カーシート成型時の加工性が良好である。また、３ＧＴ特有のソフト感や発色性、均一な染色性が生み出す均一な表面感が得られる。カーシートとして、適用方法はこれに限ったことではなく、他の繊維との複合仮撚や混繊、綿など天然繊維との交織、交編が可能である。
【実施例】
【００３８】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例における主な測定値は、以下の方法で測定した。
【００３９】
（１）極限粘度
極限粘度［η］は、純度９８％以上のｏ−クロロフェノールで溶解した温度２５℃の３ＧＴ及びＰＥＴ希釈溶液の粘度を測定し得られるものであり、次の定義式に基づいて求められる値である。
【００４０】
【数１】
【００４１】
定義式のηｒは、純度９８％以上のｏ−クロロフェノールで溶解した３ＧＴ及びＰＥＴの希釈溶液の温度２５℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶剤自体の粘度で割った値であり、相対粘度と定義されているものである。また、ｃは上記溶液１００ｍｌ中のグラム単位による溶質重量値である。
【００４２】
（２）強度と伸度
ＪＩＳ Ｌ１０１３（１９９９）に従い測定した。
【００４３】
（３）温水収縮率
温水収縮率（％）は、次の式に基づいて求められる値である。
温水収縮率（％）＝（（Ｌ０−Ｌ１）／Ｌ０）×１００
Ｌ０：原糸をかせ取りし、測定荷重０．００５３ｃＮ／ｄｔｅｘでのかせ長
Ｌ１：原糸を無荷重の状態で７０℃の温度の温水にて１０分間処理し、風乾後、測定荷重０．００５３ｃＮ／ｄｔｅｘを掛けたときのかせ長。
【００４４】
（４）発色性
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を、ベルト仮撚り機を用い延伸仮撚り加工を施したサンプルＡと、ＰＥＴ単独部分配向繊維を同じくベルト仮撚り機を用い延伸仮撚り加工を施したサンプルＢのサンプルをそれぞれ１００％使い、３６ゲージのトリコットベロア布帛を作製し、８０℃の温度で精練した後、染料として長瀬産業（株）製テトラシールネイビーブルーＳＧＬ０．２７５％ｏｗｆ、助剤として正研化工（株）製テトロシンＰＥ−Ｃ５．０％ｏｗｆ、分散剤として日華化学（株）製“ニッカサンソルト”（登録商標）＃１２００１．０％ｏｗｆを用い、浴比１：１００にて５０℃１５分、さらに９０℃、２０分にて染色を行った。染色後の、サンプルＡとＢの間の染色差を総合的に官能検査し３段階評価し、○と○○を合格とし、×を不合格とした。ＰＥＴ単独部分配向繊維については、１００ｄｔｅｘ−６０フィラメント（以下、ｆと略す。）のものを使用した。
○○：非常に優れている
○ ：優れている
× ：ＰＥＴ同等（発色性向上は無し）。
【００４５】
（５）染色均一性
上記の（４）にて得られた布帛サンプルＡ、Ｂを、（４）と同様の方法にて染色した後、乾燥させものについて染色の均一性を評価した。染色均一性の判断基準は染色後の布帛に斑が無いのものを基準の０点とし、０〜５０点の点数評価を実施、下記評価基準にて３段階評価とし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。
○○：０〜１０点
○ ：１１〜３０点
× ：３１点以上。
【００４６】
（６）ソフト性
上記の（４）にて得られた布帛サンプルＡ、Ｂを、１０人のパネラーに触らせ、ソフト性良好か否かを評価した。なお、評価基準は下記の通りとし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。
○○：非常に良好
○ ：良好
× ：ＰＥＴ同等。
【００４７】
（７）耐カール性
上記の（４）にて得られた布帛を、３０ｃｍ×５０ｃｍに切り取り、布帛短辺の片側を固定、その他は負荷を掛けないフリーな状態で、水平なテーブルの上に置き、その際の布帛の接地面積を測定、布帛全面に対する接地面の比率を求め、下記評価基準にて３段階評価とし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。
○○：１００％（カール無し）
○ ：９５％以上１００％未満
× ：９５％未満。
【００４８】
（８）高次加工性
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を糸速度３００ｍ／ｍｉｎ、熱処理温度１６０℃、巻き取り張力０．０５ｃＮ／ｄｔｅｘの条件にて延伸仮撚加工を施した繊維の毛羽発生数にて評価した。なお、評価基準は下記の通りとし、○と○○を合格とし、×を不合格とした。毛羽測定には東レ株式会社製フライカウンタ（商品名）を用い、一定速度５００ｍ／分で糸条を走行させながら実施した。
○○：毛羽１個未満
○ ：毛羽１〜５個未満
× ：毛羽５個以上。
【００４９】
（実施例１）
図２に示した工程にしたがって、ポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を製糸した。極限粘度０．５１のＰＥＴと極限粘度１．１３の３ＧＴを、それぞれエクストルーダーを用い、それぞれ２８５℃と２６０℃の温度で溶融後、ポンプによる計量を行い、ポリマー温度２７０℃で同心円芯鞘断面形状を形成すべく、芯部に配するＰＥＴの周辺に鞘部に配する３ＧＴが流れ込むように設計された口金に流入させた。芯部と鞘部の両ポリマーの複合比（重量比）は、ＰＥＴ：３ＧＴ＝３０：７０の割合とした。各ポリマーの配管通過時間は、ＰＥＴが１２分、３ＧＴは５分であった。口金から吐出された糸条は、冷却、油剤付与後、２９００ｍ／分の速度で非加熱の第１ローラー１３に引き取られ、一旦巻き取ることなく、１００℃の温度に加熱した、速度３０００ｍ／ｍｉｎの第２ローラー１４に引き回し、熱処理を行った。その後、第２ローラーと同速度に設定した非加熱の第３ローラー１６と、第４ローラー１７に引き回し、０．１０ｃＮ／ｄｔｅｘの張力にて巻き取り、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また、高次加工性も良好であった。
【００５０】
（実施例２）
熱処理温度を１３０℃としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、実施例１にはやや劣るものの、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また高次加工性も良好であった。
【００５１】
（実施例３）
極限粘度０．７０のＰＥＴを用い、極限粘度差を０．４３とし、ポリマー温度を２７５℃としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、実施例１にはやや劣るものの、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また高次加工性も良好であった。
【００５２】
（実施例４）
複合比をＰＥＴ：３ＧＴ＝５０：５０の割合としたとしたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表１のとおりであり、実施例１にはやや劣るものの、発色性とソフト性に優れ、染色均一性および耐カール性においても良好であり、カーシートに適したものであった。また高次加工性も良好であった。
【００５３】
【表１】
【００５４】
（比較例１）
熱処理温度を４０℃としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、発色性とソフト性は良好であったものの、染色均一性と耐カール性においては満足できるものではなく、カーシートに適するものではなかった他、パッケージの巻き締まりによる
（比較例２）
極限粘度０．７５の３ＧＴを用い、極限粘度差を０．２４としたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆ、単繊維繊度１．７ｄｔｅｘのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、染色均一性、耐カール性および高次加工性は良好であったものの、発色性とソフト性において満足できるものではなく、カーシートに適するものではなかった。
【００５５】
（比較例３）
単繊維繊度を０．７ｄｔｅｘとしたこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−１４４ｆのポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、発色性、ソフト性および耐カール性は良好であったものの、染色均一性において満足できるものではなく、カーシートに適するものではなかった他、高次加工性においても毛羽発生数が多く、仮撚り用途としても適するものではなかった。
【００５６】
（比較例４）
極限粘度０．５１のＰＥＴを単独で紡出したこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆの３ＧＴ単独糸を得た。得られたポリエステル単独糸の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、染色均一性、耐カール性および高次加工性には長けていたものの、発色性とソフト性においては最も劣位であり、カーシートに適するものではなかった。
【００５７】
（比較例５）
極限粘度１．１３の３ＧＴを単独で紡出したこと以外は、実施例１と同様の条件にて製糸し、１００ｄｔｅｘ−６０ｆの３ＧＴ単独糸を得た。得られたポリエステル単独糸の物性および風合い評価の結果は表２のとおりであり、ソフト性に長け、染色性および発色性も良好ではあったが、耐カール性においては最も劣位であり、カーシートに適するものではなかった他、高次加工性においても毛羽発生数が多く、仮撚り用途としても適するものではなかった。
【００５８】
【表２】
【産業上の利用可能性】
【００５９】
本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、繊維布帛のカールが発生しにくく、カーシート成型時の加工性が良好であり、また、３ＧＴ特有のソフト感や発色性、均一な染色性が生み出す均一な表面感が得られる。そのため、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維は、特に、カーシート用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【００６０】
【図１】図１は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製糸工程を例示説明するための概略工程図である。
【図２】図２は、本発明のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の別の製糸工程を例示説明するための概略工程図である。
【符号の説明】
【００６１】
１ 口金
２ 糸条冷却送風装置
３ 油剤付与装置
４ 交絡装置
５ 第１ローラー
６ 第２ローラー
７ コンタクトローラー
８ パッケージ
９ 口金
１０ 糸条冷却送風装置
１１ 油剤付与装置
１２ 交絡装置
１３ 第１ローラー
１４ 第２ローラー
１５ 交絡装置
１６ 第３ローラー
１７ 第４ローラー
１８ コンタクトローラー
１９ パッケージ
【特許請求の範囲】
【請求項１】
テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維であって、該芯部に配されるポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、該鞘部に配されるポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度の方が高く、かつその極限粘度差が０．４〜１．０であり、更に下記（Ａ）〜（Ｄ）の要件を満足することを特徴とするポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
（Ａ）単繊維繊度が１．０〜２．８ｄｔｅｘである。
（Ｂ）強度が２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。
（Ｃ）伸度が９０〜１６０％である。
（Ｄ）温水収縮率が１．５〜１０．０％である。
【請求項２】
芯部と鞘部の重量比が２０：８０〜５５：４５の範囲であり、芯部の極限粘度が０．４０〜０．６８の範囲であり、鞘部の極限粘度が０．８０〜１．６８の範囲であることを特徴とする請求項１記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【請求項３】
延伸仮撚り加工が施されてなる請求項１または２記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【請求項４】
カーシート用途として使用することを特徴とする請求項１〜３のいずれかに記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【請求項５】
テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維を溶融紡糸するに際し、紡出孔から押出された溶融ポリマーを冷却固化させ、速度２０００〜３５００ｍ／ｍｉｎの部分配向領域にて引き取り、工程張力０．０２〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘでのコントロールと糸条冷却のため２つ以上の複数のローラーを介し、この複数のローラーの何れかにおいて７０〜１３０℃の温度の熱処理を施した後、張力０．０５〜０．２ｃＮ／ｄｔｅｘにて巻き取ることを特徴とする請求項１記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法。
【請求項６】
請求項５記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法により得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を、糸速度１００〜１０００ｍ／ｍｉｎ、熱セット温度１００〜２００℃、および巻き取り張力０．０２〜０．１０ｃＮ／ｄｔｅｘの条件で仮撚り加工することを特徴とする仮撚り加工糸の製造方法。
【請求項１】
テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維であって、該芯部に配されるポリエチレンテレフタレートの極限粘度に対し、該鞘部に配されるポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度の方が高く、かつその極限粘度差が０．４〜１．０であり、更に下記（Ａ）〜（Ｄ）の要件を満足することを特徴とするポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
（Ａ）単繊維繊度が１．０〜２．８ｄｔｅｘである。
（Ｂ）強度が２．０ｃＮ／ｄｔｅｘ以上である。
（Ｃ）伸度が９０〜１６０％である。
（Ｄ）温水収縮率が１．５〜１０．０％である。
【請求項２】
芯部と鞘部の重量比が２０：８０〜５５：４５の範囲であり、芯部の極限粘度が０．４０〜０．６８の範囲であり、鞘部の極限粘度が０．８０〜１．６８の範囲であることを特徴とする請求項１記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【請求項３】
延伸仮撚り加工が施されてなる請求項１または２記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【請求項４】
カーシート用途として使用することを特徴とする請求項１〜３のいずれかに記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維。
【請求項５】
テレフタル酸を酸成分としエチレングリコールをグリコール成分とするポリエチレンテレフタレートを芯部に配し、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコールをグリコール成分とするポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に配してなる、長手方向に同心円芯鞘断面形状を有する複合繊維を溶融紡糸するに際し、紡出孔から押出された溶融ポリマーを冷却固化させ、速度２０００〜３５００ｍ／ｍｉｎの部分配向領域にて引き取り、工程張力０．０２〜０．１５ｃＮ／ｄｔｅｘでのコントロールと糸条冷却のため２つ以上の複数のローラーを介し、この複数のローラーの何れかにおいて７０〜１３０℃の温度の熱処理を施した後、張力０．０５〜０．２ｃＮ／ｄｔｅｘにて巻き取ることを特徴とする請求項１記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法。
【請求項６】
請求項５記載のポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維の製造方法により得られたポリエステル芯鞘複合型部分配向繊維を、糸速度１００〜１０００ｍ／ｍｉｎ、熱セット温度１００〜２００℃、および巻き取り張力０．０２〜０．１０ｃＮ／ｄｔｅｘの条件で仮撚り加工することを特徴とする仮撚り加工糸の製造方法。
【図１】
【図２】
【図２】
【公開番号】特開２００７−１５４３４３（Ｐ２００７−１５４３４３Ａ）
【公開日】平成１９年６月２１日（２００７．６．２１）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００５−３４９４６２（Ｐ２００５−３４９４６２）
【出願日】平成１７年１２月２日（２００５．１２．２）
【出願人】（０００００３１５９）東レ株式会社 (7,677)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１９年６月２１日（２００７．６．２１）
【国際特許分類】
【出願日】平成１７年１２月２日（２００５．１２．２）
【出願人】（０００００３１５９）東レ株式会社 (7,677)
【Ｆターム（参考）】
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