説明

ポリエステル製シート

【目的】 本発明は、土壌等に埋めた場合生分解性を有し、引張り強さ、剛性、衝撃強度に優れたシートを提供することにある。
【構成】 温度190℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度が1.0×103 〜1.0×106 ポイズであり、融点が70〜190℃である脂肪族ポリエステルを主成分として成形されてなるシート。
【効果】 生分解性を有し、焼却処理したとしても燃焼発熱量がポリエチレンやポリプロピレンと比較して低く、引張り強さ、剛性、衝撃強度に優れたシートが得られた。また、本発明のシートを延伸したものは、各種機械的強度および透明性に優れている。さらに本発明のシートは、香料の収着が少なく、ヒートシール性および成形加工性が良好である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、生分解性を有し、実用上十分な高分子量と特定の溶融特性を有する脂肪族ポリエステルを用いた、熱安定性および機械的強度に優れたシートに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、包装資材のプラスチック化が進む一方、これら多量に使用されているプラスチックの廃棄物が、河川、海洋、土壌を汚染する可能性を有し、大きな社会問題になっており、この汚染防止のために生分解性を有するプラスチックの出現が待望され、既に、例えば、微生物による発酵法により製造されるポリ(3−ヒドロキシブチレート)やブレンド系の天然高分子である澱粉と汎用プラスチックとのブレンド物等が知られている。しかし、前者はポリマーの熱分解温度が融点に近いため成形加工性に劣ることや微生物が作りだすため、原料原単位が非常に悪い欠点を有している。また、後者は天然高分子自身が熱可塑性でないため、成形性に難があり、利用範囲に大きな制約を受けている。一方、脂肪族のポリエステルは生分解性を有することは知られていたが、実用的な成形品物性を得るに十分な高分子量物が得られないために、ほとんど利用されなかった。最近、ε−カプロラクトンが開環重合により高分子量になることが見いだされ、生分解性樹脂として提案されているが、融点が62℃と低く、原料が高価なため特殊用途への利用に限定されている。グリコール酸や乳酸などもグリコリドやラクチドの開環重合により高分子量が得られ、僅かに医療用繊維等に利用されているが、融点と分解温度が近く、成形加工性に欠点を持ち、前記包装資材の分野に大量に使用されるには至っていない。
【0003】これら包装材料に使用されるシートの成形に通常用いられている高分子量ポリエステル(ここで言う高分子量ポリエステルとは、数平均分子量が10,000以上のものを指す)は、テレフタル酸(ジメチルテレフタレートを含む)とエチレングリコールとの縮合体であるポリエチレンテレフタレートに限定されるといっても過言ではない。テレフタル酸の代りに、2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いた例もあるが、いずれも、生分解性を付与しようとする試みの報告はまだされていないのが現状である。従って、従来ジカルボン酸に脂肪族タイプを使用した、生分解性を有する脂肪族のポリエステルを用いて、シートを成形し、実用化しようとする思想は皆無といってよい。この実用化の思想の生まれていない理由の一つは、前記シートが、特殊な成形条件と成形品物性が要求されるにもかかわらず、たとえ結晶性であったとしても、前記脂肪族のポリエステルの融点は100℃以下のものがほとんどであり、その上溶融時の熱安定性に乏しいこと、更に重要なことはこの脂肪族のポリエステルの性質、特に引張り強さで代表される機械的性質が、上記ポリエチレンテレフタレートと同一レベルの数平均分子量でも著しく劣った値しか示さず、強度等を要する成形物を得ようとする発想をすること自体困難であったものと考えられる。さらに脂肪族のポリエステルの数平均分子量をより上昇させて物性向上を期待する研究は、その熱安定性の不良から十分に進展していないこともその理由の一つと推察される。
【0004】一方、香気成分は食品、化粧品、洗剤、塗料、糊料、茶、コーヒー、香辛料など多くの商品の商品価値を高める重要な要素の一つである。多くの食品は、それ自体極微量であるが多数の香気成分を含有し、各成分は一定の比率を保つことによって各食品に特有の香りを与えている。また、商品価値を高めるために種々の香気成分を商品に添加して香りの強化あるいは着香することも広く行われている。
【0005】これらの香気成分としては、p−メンタン、ビネン、d−リモネン、ミルセン、テルビネン、カレン、サビネン、およびβ−カリオフィレン等のテルベン系炭化水素化合物、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、テルビネオール、リナロール、メントール、ネロリドール、ボルネオール等のテルベン系アルコール化合物あるいはそれらのエステル類、シトラール、シトロネラール等のテルベン系アルデヒド化合物、オクタノール、ベンジルアルコール、オイゲノール等のアルコール類、カプロン酸エチルエステル、安息香酸アミルエステル、ケイ皮酸エチルエステル等のエステル類など、あるいはその他多くの有機化合物が知られている。
【0006】そしてこれらの香気成分を含有する製品は、ガラス製、金属製あるいは合成樹脂製の包装材により包装され、貯蔵、運搬あるいは販売されている。特に、簡単な包装形態として合成樹脂製のシート又は熱成形容器を使用した包装材による包装は、多層化技術の発展及びヒートシール技術の進歩などと相俟ち、安価なこと、自動包装が容易なこと、美麗な印刷が可能なこと、酸素及び水分の完全遮断が出来ることなどの利点を有するところから多くの商品の包装に適用されている。
【0007】しかし、上記包装材の原料として使われる多くの合成樹脂シートは、被包装製品原料中、あるいは添加した香気成分を多量にしかも急速に収着する性質を有するために被包装物の香りが薄れ、商品価値が損なわれるという問題がある。
【0008】しかも、この収着現象は、香気成分の種類によって収着度が異なるため、多数の香気成分の組み合わせで成立している香りが、一部の香気成分を特に強く収着されて香りの性質が変わり、その商品価値を著しく損なわせることも問題となっている。
【0009】ここで収着とは、香気成分が被包装製品から合成樹脂中に溶解し、拡散する現象や、溶液中に溶解された香気成分が合成樹脂中に溶解し、拡散する現象を指すものである。
【0010】保香性及び香気成分の収着と合成樹脂との関係に関しては、渡辺渉ら、日本食品工業学会誌、10 No.4,P.118 (1963)や食品工業別冊、食品の包装と材料、光琳(S55 年)や棒田滋行、ジャパンフードサイエンス3月号 P.49(1987)、PRECEEDING OF FUTURE− PAK '87(RYDER ASSOCIATES INC; ) November 9 −11(1987)等に述べられている。
【0011】これら香気成分の保持に関する従来技術としては、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロンのうち一種あるいは一種以上のものを内容物と接する最内層に用いる方法(特開昭57−163654号公報および同60−48344号公報)、最内層をポリエステルとポリアミドとの混合物として用いる方法(特開昭61−64449号公報)、ペーパーボードにコロナ処理又は火焔処理した低密度ポリエチレンを介してエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いる方法(特開昭63−3950号公報)、同じくポリオレフィンに接着層を介してエチレン−ビニルアルコール共重合体を積層し、エチレン−ビニルアルコール共重合体をヒートシール層として用いる方法(実開昭63−21031号公報)等が知られている。しかし、これらの方法はいずれもポリオレフィンより融点が高く、脆く、ヒートシール性が悪いという問題があった。
【0012】これとは別に、最内層を形成する樹脂に収着される香気成分を予め見込んで練り込んでおく方法(例えば特開昭59−174348号公報、同59−174470号公報)等が提案されている。しかし、この方法では食品香料を最内層樹脂に練り込むとき、香料が熱劣化を起こす、あるいは香気成分のバランスを崩し、被包装製品とは異なる香りとなるなど別の問題を起こす危険もあった。
【0013】例えば、包装材としてヒートシール性に優れ、また耐湿度透過性に優れているポリプロピレン、中・低圧法ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略記する。)のようなポリオレフィン系樹脂は、前記の香気成分のうち、テルベン系炭化水素化合物を特に強く収着するが、アルコール系、エステル系香気成分はあまり収着せず、特にアルコール系の収着は極めて少ないため、香気成分のバランスを失って、被包装製品の香りを変質させ、商品価値を失う危険性があった。
【0014】一方、フィルムに収着された香気成分のフィルム外への透過散逸は包装の内面フィルムの外側にアルミニウムフォイルをラミネートすることにより防止される。最近ではアルミニウムに代えてガスバリア性の高いプラスチックフィルムのラミネートも試みられている。しかし、透過散逸防止の処理を施しても香気成分を含む食品が食品容器の内面層内材の収着し易い面に直接接触しているかぎり、これら内面層材樹脂への収着は免れ得ない。
【0015】他方、包装材に要求される大きな特性は包装したものの密封性である。密封性に関してはヒートシール性の高いフィルム用樹脂が選択される。
【0016】成膜性に優れた汎用樹脂としては、ポリプロピレン、中・低圧法ポリエチレン高圧法ポリエチレン等があるが、いずれもテルベン系炭化水素系香気成分の収着性が大きいので、前述した香気成分の収着のない樹脂としては好ましいものとは言い難い。
【0017】他方、ビニルアルコール成分を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記する。)は、優れた香気成分収着防止能力を有するが、ヒートシール性に乏しく、フィルム系包装材の内装材としては問題がある。例えば、ビニルアルコール含有量が25モル%以下のEVOHは、ガスバリアー性が充分でなく、また75モル%以上含有のEVOHは、ポリオレフィンと同様な押出成形が困難であるため、ガスバリアー性を必要とする樹脂としてはビニルアルコールグループ含有量が25〜75モル%のEVOHが選ばれるのが普通である。これであれば、ポリオレフィン系樹脂と同様な押出成形加工が可能であり、ガスバリアー性も充分あって、このための用途にしばしば用いられてはいるが、フィルム系包装材の内面層材としての必要なヒートシール密封性が良好でないため、ヒートシール包装用内面層材と用いられることはほとんどなかった。また、芳香族ポリエステルは優れた香気成分収着防止能力を有するが、同様に、ヒートシール密封性が良好でないため、ヒートシール包装用内面層材と用いられることはほとんどなかった。
【0018】すなわち、香気成分収着防止能力とヒートシール性とは相反する性質であって、フィルム系包装材の内面層材はこの両者の性質を備えた材料を開発する必要があることが分かる。一方、このようなプラスチック系の包装材の発展は、一方ではその廃棄物が多量に出て、河川、海洋、土壌を汚染する可能性を持ち、この防止のため、生分解性を有するプラスチックの出現が待望されてきた。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、これら脂肪族のポリエステルをその成分として用い、実用上十分な高分子量を有し、熱安定性および引張り強さに代表される機械的性質に優れ、且つ、廃棄処分手段のひとつとしての生分解性、即ち、微生物等による分解も可能な、使用後廃棄処分のしやすいシートを提供することを課題とする。また本発明は、上記脂肪族ポリエステルを用いて成形したポリエステル製延伸シートを提供することを課題とする。さらに、本発明は、上記脂肪族ポリエステルを用い、前記の機械的性質に優れ、且つ香気成分収着防止能力とヒートシール性の両者の性質を備えたフィルム系包装材またはその内面層材として使用可能なポリエステル製シートを提供することを課題とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、高分子量で十分な実用性をもったシート成形性を有するポリエステルを得るための反応条件を種々検討した結果、生分解性を保持しつつ、実用上十分な高分子量を有する特定の脂肪族ポリエステルを得、これから成形されたシートおよび延伸シートは上記生分解性を有することはもちろん、熱安定性および機械的強度に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに本発明者らは、前記脂肪族ポリエステルを用いて成形されたシートは香気成分収着防止能力とヒートシール性の両者の性質を備えていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】即ち、本発明の要旨は、(A)温度190℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度が1.0×103 〜1.0×106 ポイズであり、融点が70〜190℃である脂肪族ポリエステルを主成分として成形されてなるシート、押出成形後延伸して得られる延伸シートにある。さらに本発明の要旨は、d−リモネンの分配比が6以下且つn−オクタンの分配比が7以下の前記のシートにある。以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0022】本発明でいう脂肪族ポリエステルとは、グリコール類とジカルボン酸(またはその酸無水物)との2成分、あるいは必要に応じて、これに第三成分として、3官能または4官能の多価アルコール、オキシカルボン酸および多価カルボン酸(またはその酸無水物)から選ばれる少なくとも1種の多官能成分を加えて反応して得られたポリエステルを主成分とするものであり、分子の末端にヒドロキシル基を有する、比較的高分子量のポリエステルプレポリマーを作り、これをカップリング剤により、さらに高分子量化させたものである。
【0023】従来から、末端基がヒドロキシル基である、数平均分子量が2,000〜2,500の低分子量ポリエステルプレポリマーをカップリング剤としてのジイソシアナートと反応させて、ポリウレタンとし、ゴム、フォーム、塗料、接着剤とすることは広く行われている。しかし、これらのポリウレタン系フォーム、塗料、接着剤に用いられるポリエステルプレポリマーは、無触媒で合成されうる最大限の、数平均分子量が2,000〜2,500の低分子量プレポリマーであり、この低分子量プレポリマー100重量部に対して、ポリウレタンとしての実用的な物性を得るためには、ジイソシアナートの使用量は10〜20重量部にも及ぶ必要があり、このように多量のジイソシアナートを150℃以上の溶融した低分子量ポリエステルに添加すると、ゲル化してしまい、通常の溶融成形可能な樹脂は得られない。従って、このような低分子量のポリエステルプレポリマーを原料とし、多量のジイソシアナートを反応させて得られるポリエステルは本発明のシート用原料には用いえない。
【0024】またポリウレタンゴムの場合のごとく、ジイソシアナートを加えて、ヒドロキシル基をイソシアナート基に転換し、さらにグリコールで数平均分子量を増大する方法も考えられるが、使用されるジイソシアナートの量は前述のように実用的な物性を得るにはプレポリマー100重量部に対して10重量部以上であり、上記と同様の問題がある。比較的高分子量のポリエステルプレポリマーを使用しようとすればそのプレポリマー合成に必要な重金属系の触媒が上記使用量のイソシアナート基の反応性を著しく促進して、保存性不良、架橋反応、分岐生成をもたらし、好ましくないことから、ポリエステルプレポリマーとして無触媒で合成されたものを使用しようとすれば、数平均分子量は高くても2,500位のものが限界である。
【0025】本発明に用いられる脂肪族ポリエステルを得るためのポリエステルプレポリマーはその合成用触媒を含有する上記のような比較的高分子量のものであり、末端基が実質的にヒドロキシル基であり、数平均分子量が5,000以上、好ましくは10,000以上の比較的高分子量であり、融点が60℃以上の飽和脂肪族のポリエステルであり、グリコール類と多塩基酸(またはその無水物)とを触媒反応させて得られる。数平均分子量が5,000未満であると、本発明で利用する0.1〜5重量部という少量のカップリング剤では、良好な物性を有するシート用ポリエステルを得ることができない。数平均分子量が5,000以上のポリエステルプレポリマーは、ヒドロキシル価が30以下であり、少量のカップリング剤の使用で、溶融状態といった苛酷な条件下でも残存する触媒の影響を受けないので、反応中にゲルを生ずることなく、高分子量ポリエステルを合成することができる。
【0026】すなわち本発明のシートを構成するポリマーは、脂肪族グリコールと脂肪族ジカルボン酸からなる数平均分子量(Mn)が5,000以上、好ましくは10,000以上のポリエステルプレポリマーが、例えばカップリング剤としてのジイソシアナートに由来するウレタン結合を介して連鎖した構造をとるものである。さらにまた本発明のシートを構成するポリマーは、上記のポリエステルプレポリマーが、多官能成分に由来する長鎖分岐を有し、これが例えばカップリング剤としてのジイソシアナートに由来するウレタン結合を介して連鎖した構造をとるものである。カップリング剤としてオキサゾリン、ジエポキシ化合物、酸無水物を使用する場合は、ポリエステルプレポリマーはエステル結合を介して連鎖構造をとる。
【0027】用いられるグリコール類としては、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等があげられる。エチレンオキシドも利用することができる。これらのグリコール類は、併用してもよい。
【0028】グリコール類と反応して脂肪族ポリエステルを形成する多塩基酸(またはその酸無水物)には、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、などが一般に市販されており、本発明に利用することができる。多塩基酸(またはその酸無水物)は併用してもよい。
【0029】(第三成分)これらのグリコール類およびジカルボン酸の他に、必要に応じて、これに第三成分として、3官能または4官能の多価アルコール、オキシカルボン酸および多価カルボン酸(またはその酸無水物)から選ばれる少なくとも1種の多官能成分を加えて反応させてもよい。この第三成分を加えることにより、分子に長鎖の枝別れを生じ、分子量が大となるとともにMw/Mnが大となり、すなわち分子量分布が広くなって、フィルム成形等に望ましい性質を付与することができる。添加される多官能成分の量は、ゲル化の危険がないようにするためには、脂肪族ジカルボン酸(またはその酸無水物)の成分全体100モル%に対して3官能の場合は0.1〜5モル%であり、4官能の場合は0.1〜3モル%である。
【0030】(多官能成分)第三成分として使用される多官能成分としては、3官能または4官能の多価アルコール、オキシカルボン酸および多価カルボン酸が挙げられる。3官能の多価アルコール成分としては、トリメチロールプロパン、グリセリンまたはその無水物が代表的であり、4官能の多価アルコール成分は、ペンタエリトリットが代表的である。3官能のオキシカルボン酸成分は、(i)カルボキシル基が2個とヒドロキシル基が1個を同一分子中に有するタイプと、(ii)カルボキシル基が1個とヒドロキシル基が2個のタイプとに分かれるが、市販品が容易に、且つ低コストで入手可能といった点からは、(i)の同一分子中に2個のカルボキシル基と1個のヒドロキシル基とを共有するリンゴ酸が実用上有利であり、本発明の目的には十分である。4官能のオキシカルボン酸成分には、次の3種類がある。すなわち、(i)3個のカルボキシル基と1個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(ii)2個のカルボキシル基と2個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(iii )3個のヒドロキシル基と1個のカルボキシル基とを同一分子中に共有するタイプがあり、いずれのタイプも使用可能であるが、市販品が容易に、且つ低コストで入手可能といった点からは、クエン酸ならびに、酒石酸が実用上有利であり、本発明の目的には十分である。3官能の多価カルボン酸(またはその酸無水物)成分は、例えばトリメシン酸、プロパントリカルボン酸等を使用することができるが、実用上から無水トリメリット酸が有利であり、本発明の目的には十分である。4官能の多価カルボン酸(またはその酸無水物)は、文献上では脂肪族、環状脂肪族、芳香族等の各種タイプがあるが、市販品を容易に入手し得るといった点からは、例えば無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物が挙げられ、本発明の目的には十分である。
【0031】これらグリコール類および多塩基酸は脂肪族系が主成分であるが、少量の他成分たとえば芳香族系を併用してもよい。但し、他成分を導入すると生分解性が悪くなるため、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0032】本発明に用いられる脂肪族ポリエステル用ポリエステルプレポリマーは、末端基が実質的にヒドロキシル基であるが、そのためには合成反応に使用するグリコール類および多塩基酸(またはその酸無水物)の使用割合は、グリコール類を幾分過剰に使用する必要がある。
【0033】比較的高分子量のポリエステルプレポリマーを合成するには、エステル化に続く脱グリコール反応の際に、脱グリコール反応触媒を使用することが必要である。脱グリコール反応触媒としては、例えばアセトアセトイル型チタンキレート化合物、並びに有機アルコキシチタン化合物等のチタン化合物があげられる。これらのチタン化合物は、併用もできる。これらの例としては、例えばジアセトアセトキシオキシチタン(日本化学産業(株)社製“ナーセムチタン”)、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等があげられる。チタン化合物の使用割合は、ポリエステルプレポリマー100重量部に対して0.001〜1重量部、望ましくは0.01〜0.1重量部である。チタン化合物はエステル化の最初から加えてもよく、また脱グリコール反応の直前に加えてもよい。
【0034】さらに、数平均分子量が5,000以上、望ましくは10,000以上の末端基が実質的にヒドロキシル基であるポリエステルプレポリマーに、さらに数平均分子量を高めるためにカップリング剤が使用される。カップリング剤としては、ジイソシアナート、オキサゾリン、ジエポキシ化合物、酸無水物等があげられ、特にジイソシアナートが好適である。なお、オキサゾリンやジエポキシ化合物の場合はヒドロキシル基を酸無水物等と反応させ、末端をカルボキシル基に変換してからカップリング剤を使用することが必要である。ジイソシアナートはその種類には特に制限はないが、例えば2,4−トリレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナートと2,6−トリレンジイソシアナートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、水素化キシリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナートがあげられ、特に、ヘキサメチレンジイソシアナートが、生成樹脂の色相、ポリエステル添加時の反応性等の点から好ましい。
【0035】これらカップリング剤の添加量は、ポリエステルプレポリマー100重量部に対して0. 1〜5重量部、望ましくは0. 5〜3重量部である。0. 1重量部未満では、カップリング反応が不十分であり、5重量部を超えると、ゲル化が発生し易くなる。
【0036】添加は、ポリエステルプレポリマーが均一な溶融状態であり、容易に撹拌可能な条件下で行われることが望ましい。固形状のポリエステルプレポリマーに添加し、エクストルーダーを通して溶融、混合することも不可能ではないが、脂肪族ポリエステル製造装置内か、或は溶融状態のポリエステルプレポリマー(例えばニーダー内での)に添加することが実用的である。
【0037】本発明において使用される脂肪族ポリエステルは溶融成形をしてシートにするためには、特定の溶融特性が要求される。即ち、温度190℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度は1.0×103 〜1.0×106 ポイズであり、好ましくは5.0×103 〜5.0×105 ポイズであり、特に6.0×103 〜1.0×105 ポイズが好ましい。1.0×103 ポイズ未満では粘度が低過ぎるためシート成形が困難であり、1.0×106 ポイズを超えると押出成形が困難である。なお、溶融粘度の測定はノズル径が1.0mmであり、L/D=10のノズルを用い樹脂温度190℃で測定した剪断速度と見かけ粘度の関係のグラフより剪断速度100sec-1の時の粘度を求めた。
【0038】さらに、本発明において使用される脂肪族ポリエステルの融点は70〜190℃であることが必要であり、70〜150℃であることがより好ましく、特に80〜135℃が好ましい。70℃未満では耐熱性が不十分であり、190℃を超えるものは製造が難しい。70℃以上の融点を得るためには、ポリエステルプレポリマーの融点は60℃以上であることが必要である。
【0039】本発明において使用される脂肪族ポリエステル中にウレタン結合を含む場合のウレタン結合量は0.03〜3.0重量%であり、0.05〜2.0重量%がより好ましく、0.1〜1.0重量%が特に好ましい。ウレタン結合量はC13NMRにより測定され、仕込み量とよく一致する。0.03重量%未満ではウレタン結合による高分子量化の効果が少なく、成形加工性に劣り、3.0重量%を超えるとゲルが発生する。
【0040】本発明に係るシート成形のため、上記の脂肪族ポリエステルを使用するに際しては、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等の他、滑剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤等を併用できることは勿論である。すなわち、酸化防止剤としては、p−t−ブチルヒドロキシトルエン、p−t−ブチルヒドロキシアニソール等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤等、熱安定剤としては、トリフェニルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等、紫外線吸収剤としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン等、滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸ナトリウム等、帯電防止剤としては、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルアミン、アルキルアリルスルホネート、アルキルスルフォネート等、難燃剤として、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス−(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ペンタブロモフェニルアリルエーテル等があげられる。
【0041】本発明に係る脂肪族ポリエステル製シートは、カレンダー法、T−ダイス法、サーキュラーダイス法等の各種成形法によってシート化される。カレンダー法の場合、樹脂温度は100〜270℃、好ましくは100〜250℃である。融点未満では粘度が高すぎシート成形が困難であり、270℃を越えると樹脂が劣化してしまい不都合がある。又、T−ダイス法の場合、押出温度は100〜270℃、好ましくは100〜250℃である。融点未満では粘度が高すぎシート成形が困難であり、270℃を越えると樹脂が劣化してしまい不都合がある。
【0042】本発明に係るシートは、MD、TDの両方向とも引張り破断強さが350kg/cm2 以上であり、破断伸びが200%以上であり、剛性が4000kg/cm2 以上である。また、M方向とT方向の破断伸びの比率がEMD/ETD=0.7〜3.0であり、750μmのダートインパクト衝撃強度が23℃で100Kg・cm以上ある優れた機械的性質を有する。更に、燃焼発熱量が7000Kcal/Kg以下と、ポリエチレンやポリプロピレンと比べ低いため焼却処理もしやすい。
【0043】ここで、引張特性は、JIS K7113、ダートインパクト衝撃強度は,ASTM D1709により測定した。尚、測定値はすべてシート厚みを750μmに換算して行った。剛性は、オルゼン式スティフネスメーター(ASTM D747)で測定した。又、燃焼発熱量はJIS M8814の熱量計法に従って測定した。
【0044】本発明において用いられる脂肪族ポリエステルは数平均分子量10,000以上、望ましくは20,000以上、融点が70〜190℃で結晶性があれば、強靭なシートとすることができ、包装材料または一般用プラスチックシートとして利用することが可能である。
【0045】また、本発明に係る延伸シートは、従来公知の各種の成形方法によって製造することができる。例えば、逐次二軸延伸法による場合には、該脂肪族ポリエステルを押出機で加熱溶融し、T−ダイからフィルム状に押出し、これを静電ピニング等の公知のキャスティング法を用いてキャスティングロールの表面にて急冷して、実質的に無定形で無配向のシートを得、この未延伸シートをロール式縦延伸機により2〜4倍延伸し、次いでテンター式横延伸機により3〜5倍延伸し、得られたシートを所望により熱処理した後、このシートを徐冷しつつ、連続的に巻き取ることによって製造することができる。更に、この延伸シートは、テンター式同時二軸延伸法、チューブラー法等の他の方法でも製造でき、縦横いずれかの一軸方向に延伸するばかりでなく、縦横の延伸倍率を目的に応じて変えて成形する方法でも製造できる。また印刷インクの乗りや他のフィルム(例えばシーラントフィルム)との接着性を向上させるために、コロナ処理等の表面処理を施すこともできる。延伸倍率は面積比で通常1.5以上であり、2倍以上が好ましく2.5倍以上が好適である。1.5倍未満の場合、未延伸物と比較して機械物性の向上がほとんど見られず好ましくない。一方、高延伸側は高い程よいが、通常30倍までである。また、シートは延伸により透明性を有するようになるため、透明性が必要な用途にも実用可能である。本発明の延伸シートの厚さは7〜2,000μmであり、20〜1,000μmが好ましく、50〜700μmが特に好ましい。7μm未満では成形が困難であり、2,000μmを超えるものが用途的に実用性が低い。本発明により得られる引張破断強度が10kg/mm2 以上であり且つ引裂強度が2kg/cm2 以上である延伸シートは、包装材料または一般プラスチックシートとして利用することが可能である。
【0046】また、本発明による脂肪族ポリエステルシートは、真空成形、圧空成形、熱板加熱式圧空成形等の一般的手法により容易に容器状に成形することができる。
【0047】香気成分の収着性の指標として、d−リモネンの分配比は6以下、好ましくは5以下、好適には4以下であり、且つn−オクタンの分配比は7以下、好ましくは6以下、好適には5以下であることが必要である。d−リモネンの分配比は6を超えるか、n−オクタンの分配比が7を超えると香気成分のバランスが大きく壊れ、被包装製品の香りの変質が激しくなり、好ましくない。ここで、d−リモネンの分配比、n−オクタンの分配比とは、シートを真空成形した容器をウレタン系接着材を用いて9μmのアルミニウムフォイルを蓋としてラミネートし、容器内に香気成分を含有する水溶液(可溶化剤としてシュガーエステルN−1170を0.3重量%使用)を封入して測定する。香気成分として、d−リモネン、n−オクタンをそれぞれ300ppmの水溶液とし、これを真空成形容器に封入し23℃、50日間保存する。その後、開封し、容器及び蓋内面が収着した香気成分をエーテルにより抽出し、また水溶液中に残存する香気成分もエーテル抽出を行う。次にそれぞれについてガスクロマトグラフィーを利用して、元の水溶液濃度に換算した収着量及び残存量を各香気成分について定量する。得られた結果より、次式に従ってフレーバー収着の分配比を計算した。ここで分配比とは下記(1)式のように定義される。
【数1】


【0048】
【実施例】以下、本発明を実施例、比較例により説明する。なお、生分解性は10cm×20cmのシート状の試料を窓口にポリエチレン製のネットを備えたステンレス製型枠に挟んで、深さ10cmの土中に埋め、5ヶ月後に掘り出しその分解性を評価した。又、同厚みの市販の板紙を比較した。下記状態Aの評価であることが好ましい。
状態A:シートの試料が、紙よりも分解が進んでおり、シートに穴開きを伴いボロボロの状態であるとき。
状態B:シートの試料より、紙の分解が進んでおり、いまだシートの試料がしっかりしているとき。
【0049】(実施例1)700Lの反応機を窒素置換してから、1,4−ブタンジオール183kg、コハク酸224kgを仕込んだ。窒素気流下で昇温を行い、192〜220℃にて3.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下にて3.5時間にわたり脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取された試料は、酸価が9.2mg/g、数平均分子量(Mn)が5,160、また重量平均分子量(Mw)が10,670であった。引続いて、常圧の窒素気流下に触媒のテトライソプロポキシチタン34gを添加した。温度を上昇させ、温度215〜220℃で15〜0.2mmHgの減圧下にて5.5時間、脱グリコール反応を行った。採取された試料は数平均分子量(Mn)が16,800、また重量平均分子量(Mw)が43,600であった。このポリエステル(A1)は、凝縮水を除くと収量は339kgであった。
【0050】ポリエステル(A1)339kgを含む反応器にヘキサメチレンジイソシアナート5.42kgを添加し、180〜200℃で1時間カップリング反応を行った。粘度は急速に増大したが、ゲル化は生じなかった。ついで、抗酸化剤としてイルガノックス1010(チバガイギー(株)製)を1.70kgおよび滑剤としてステアリン酸カルシウムを1.70kgを加えて、更に30分間撹拌を続けた。この反応生成物をエクストルーダーにて水中に押出し、カッターで裁断してペレットにした。90℃で6時間、真空乾燥した後のポリエステル(B1)の収量は300kgであった。
【0051】得られたポリエステル(B1)は、僅かにアイボリー調の白色ワックス状結晶で、融点が110℃、数平均分子量(Mn)が35,500、重量平均分子量(Mw)が170,000、MFR(190℃)は1.0g/10分、オルトクロロフェノールの10%溶液の粘度は230ポイズ、温度190℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度は1.5×104 ポイズであった。平均分子量の測定は、Shodex GPC System−11(昭和電工(株)製ゲルクロマトグラフィー),溶媒はCF3 COONaのHFIPA5mmol溶液、濃度0.1重量%、検量線は昭和電工(株)製PMMA標準サンプルShodexStandard M−75で行った。
【0052】ポリエステル(B1)を、スクリュー径40mmφ、L/D=32の押出機を用いて樹脂温度170℃で、350mm幅のT−ダイス(リップ幅1.0mm)で押出し、第1および第2冷却ロール温度60℃の条件でシート成形し厚さ約750μmのシートを製造した。成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0053】(実施例2)樹脂温度を190℃にした以外は(実施例1)と同じ条件で成形したが、成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0054】(実施例3)シート厚みを約500μmとした以外は、(実施例1)と同じ条件で成形したが、成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0055】(実施例4)700Lの反応機を窒素置換してから、1,4−ブタンジオール177kg、コハク酸198kg、アジピン酸25kgを仕込んだ。窒素気流下で昇温を行い、190〜210℃にて3.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下にて3.5時間にわたり脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取された試料は、酸価が9.6mg/g、数平均分子量(Mn)が6,100、また重量平均分子量(Mw)が12,200であった。引続いて、常圧の窒素気流下に触媒のテトライソプロポキシチタン20gを添加した。温度を上昇させ、温度210〜220℃で15〜0.2mmHgの減圧下にて6.5時間、脱グリコール反応を行った。採取された試料は数平均分子量(Mn)が17,300、また重量平均分子量(Mw)が46,400であった。このポリエステル(A2)は、凝縮水を除くと収量は337kgであった。
【0056】ポリエステル(A2)333kgを含む反応器にヘキサメチレンジイソシアナート4.66kgを添加し、180〜200℃で1時間カップリング反応を行った。粘度は急速に増大したが、ゲル化は生じなかった。ついで、抗酸化剤としてイルガノックス1010(チバガイギー(株)製)を1.70kgおよび滑剤としてステアリン酸カルシウムを1.70kgを加えて、更に30分間撹拌を続けた。この反応生成物をエクストルーダーにて水中に押出し、カッターで裁断してペレットにした。90℃で6時間、真空乾燥した後のポリエステル(B2)の収量は300kgであった。
【0057】得られたポリエステル(B2)は、僅かにアイボリー調の白色ワックス状結晶で、融点が103℃、数平均分子量(Mn)が36,000、重量平均分子量(Mw)が200,900、MFR(190℃)は0.52g/10分、オルトクロロフェノールの10%溶液の粘度は680ポイズ、温度190℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度は2.2×104 ポイズであった。
【0058】ポリエステル(B2)を(実施例1)と同様にしてシート成形したが、成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0059】(実施例5)ポリエステル(B2)を用い樹脂温度を190℃にした以外は(実施例1)と同じ条件で成形したが、成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0060】(実施例6)ポリエステル(B2)を用いシート厚みを500μmとした以外は(実施例1)と同じ条件で成形したが、成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0061】(実施例7)700Lの反応機を窒素置換してから、エチレングリコール145kg、コハク酸251kg、クエン酸4.1kgを仕込んだ。窒素気流下で昇温を行い、190〜210℃にて3.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下にて5.5時間にわたり脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取された試料は、酸価が8.8mg/g、数平均分子量(Mn)が6,800、また重量平均分子量(Mw)が13,500であった。引続いて、常圧の窒素気流下に触媒のテトライソプロポキシチタン20gを添加した。温度を上昇させ、温度210〜220℃で15〜0.2mmHgの減圧下にて4.5時間、脱グリコール反応を行った。採取された試料は数平均分子量(Mn)が33,400、また重量平均分子量(Mw)が137,000であった。このポリエステル(A3)は、凝縮水を除くと収量は323kgであった。
【0062】(実施例8)700Lの反応機を窒素置換してから、1,4−ブタンジオール200kg、コハク酸250kgおよびトリメチロールプロパン2.8kgを仕込んだ。窒素気流下に昇温を行い、192〜220℃にて4.5時間、更に窒素を停止して20〜2mmHgの減圧下にて5.5時間にわたり脱水縮合によるエステル化反応を行った。採取された試料は、酸価が10.4mg/g、数平均分子量(Mn)が4,900、また重量平均分子量(Mw)が10,000であった。引続いて、常圧の窒素気流下に触媒のテトライソプロポキシチタン37gを添加した。温度を上昇させ、温度210〜220℃で15〜1.0mmHgの減圧下にて8.0時間、脱グリコール反応を行った。採取された試料は数平均分子量(Mn)が16,900、また重量平均分子量(Mw)が90,300であった(Mw/Mn=5.4)。このポリエステル(A4)は、理論的に凝縮水76kgを除くと収量は367kgであった。
【0063】ポリエステル(A4)367kgを含む反応器にヘキサメチレンジイソシアナート3.67kgを添加し、160〜200℃で1時間カプリング反応を行った。粘度は急速に増大したが、ゲル化は生じなかった。ついで、抗酸化剤としてイルガノックス1010(チバガイギー(株)製)を367gおよび滑剤としてステアリン酸カルシウムを367gを加えて、更に30分間撹拌を続けた。この反応生成物をエクストルーダーにて水中に押出し、カッターで裁断してペレットにした。90℃で6時間、真空乾燥した後のポリエステル(B4)の収量は350kgであった。
【0064】得られたポリエステル(B4)は、僅かにアイボリー調の白色ワックス状結晶で、融点が110℃、数平均分子量(Mn)が17,900、重量平均分子量(Mw)が161,500(Mw/Mn=9.0)、MFR(190℃)は0.21g/10分、温度180℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度は2.0×104 ポイズであった。平均分子量の測定は、Shodex GPC System−11(昭和電工(株)製ゲルクロマトグラフィー)、溶媒はCF3 COONaのHFIPA2mmol溶液、濃度0.1重量%、検量線は昭和電工(株)製PMMA標準サンプルShodex Standard M−75で行った。
【0065】ポリエステル(B4)を実施例1と同様にしてシート成形したが、成形上の問題はなかった。得られたシートの物性測定結果を表1、表2に示す。
【0066】(比較例1)ポリエステル(A1)を用いて実施例1と同様に成形したが、良好なシートは得られなかった。
【0067】(比較例2)市販の厚みが750μmの結晶化度(DSC法で測定)が4%である急冷ポリエチレンテレフタレートシートについて、燃焼発熱量と生分解性を調べたところ、燃焼発熱量は5500kcal/kgと低かったが、生分解性は状態Bであった。
【0068】(実施例9)実施例1で用いたポリエステル(B1)を、65mmφの押出機にて160℃の条件で加熱溶融し、T−ダイより連続的にシート状に押出し、表面温度が50℃のロールで冷却し、厚み830μmの実質的無定形で無配向のシートを得た。このシートをロール式縦延伸機にて、シート温度50℃の条件で縦方向に4倍延伸し、この縦延伸シートを直ちにテンター式横延伸機に導き、シート温度を60℃に昇温しこの条件で横方向に4倍延伸し、これに続きシート温度100℃の条件下にて熱固定処理を施して、厚み50μmの透明な二軸延伸ポリエステルシートを得た。
【0069】得られたシートの引張特性をJIS C2318の条件で測定したところ、破断強度は23〜25kg/mm2 の値を示し、頗る強靭であった。又、引裂強度をJIS P8112に基づき測定したところ5.5kg/cm2 であった。生分解性の評価の結果は状態Aであった。なお、実施例9〜13および比較例3〜6の生分解性の評価においては、3カ月後に掘り出したこと以外は、上記実施例1〜8の生分解性の評価条件において行った。
【0070】(実施例10)ポリエステル(B1)の無配向シートを延伸する際の倍率を縦横2倍にした他は実施例9と同様の条件で厚み210μmの透明なシートを製造した。得られたシートの引張破断強度を実施例9と同様にして測定したところ16〜18kg/mm2 の値を示し、頗る強靭であった。又、シートの引裂強度の値は4.0kg/cm2 であった。生分解性の評価の結果は状態Aであった。
【0071】(実施例11)実施例4で用いたポリエステル(B2)を、実施例9と同様にしてシート成形し、実施例9と同様に物性を評価したところ、引張破断強度は19〜21kg/mm2 、頗る強靭であった。又、引裂強度は、4.5kg/cm2 であった。また生分解性は状態Aであった。
【0072】(実施例12)ポリエステル(B2)の無配向シートを延伸する際の倍率を縦のみ2倍にした他は実施例9と同様の条件でシートを製造した。得られたシートの引張破断強度を測定したところ、11〜16kg/mm2 の値を示し、頗る強靭であった。又、引裂強度は2.2〜3.5kg/cm2 であった。また生分解性は状態Aであった。
【0073】(実施例13)実施例8で用いたポリエステル(B4)を、実施例1と同様にしてシート成形し、実施例9と同様に物性を評価したところ、引張破断強度は17〜19kg/mm2 、頗る強靭であった。又、引裂強度は、4.0kg/cm2 であった。また生分解性は状態Aであった。
【0074】(比較例3)実施例9で用いたポリエステル(B1)の無配向シートを、延伸する際の倍率を縦横1.1倍にした他は実施例1と同様の条件でシートを製造した。得られたシートの引張破断強度を測定したところ、7〜9kg/mm2 の値を示し引裂強度は1.5kg/cm2 であり、物性の劣るシートしか得られなかった。生分解性は状態Aであり、良好であった。
【0075】(比較例4)実施例4で用いたポリエステル(B2)の無配向シートを延伸する際の倍率を縦横1.1倍にした他は実施例9と同様の条件でシートを製造した。得られたシートの引張破断強度を測定したところ、5〜7kg/mm2 の値を示し引裂強度は1.2kg/cm2 であり、物性の劣るシートしか得られなかった。生分解性は状態Aであり、良好であった。
【0076】(比較例5)実施例1で用いたポリエステル(A1)を実施例9と同様にしてシート成形を試みたが、実用に耐えうる延伸シートは得られなかった。
【0077】(比較例6)テレフタフ酸とエチレングリコールの縮重合によって得られる一般的に市販されているポリエチレンテレフタレートの延伸シートの引張破断強度を測定したところ、20〜22kg/mm2 の値を示し引裂強度は5〜6kg/cm2 の値を示した。一方、生分解性はBの状態であり、全く生分解していなかった。
【0078】(実施例14)実施例1で用いたポリエステル(B1)をスクリュー径40mmφ、L/D=32の押出機を用い樹脂温度160℃で、320mm幅のT−ダイ(リップ幅1.0mm)で押出し第1および第2冷却ロール温度を60℃の条件でシート成形し厚さ約750μm及び300μmのシートを製造した。
【0079】以上の様な条件で製造した厚さ約750μmのポリエステル(B1)のシートを浅野研究所製真空成形機を用いて容量90cc(L/D=0.4)の容器を成形した。
【0080】この真空成形容器をウレタン系接着材を用いて9μmのアルミニウムフォイルを蓋としてラミネートし、容器内に香気成分を含有する水溶液(可溶化剤としてシュガーエステルN−1170を0.3重量%使用)を封入した。
【0081】香気成分としては、テルペン系炭化水素化合物としてd−リモネンおよびミルセン、有機炭化水素としてn−オクタン、テルペン系アルコール化合物としてリナロール、エステル系化合物としてカプロン酸エチルエステルをそれぞれ300ppmの水溶液とし、これを真空成形容器に封入し23℃、50日間保存した。その後、開封し、容器及び蓋内面が収着したフレーバー成分をエーテルにより抽出し、また水溶液中に残存するフレーバー成分もエーテル抽出を行った。次にそれぞれについてガスクロマトグラフィーを利用して、元の水溶液濃度に換算した収着量及び残存量を各フレーバー成分について定量した。得られた結果より、次式に従ってフレーバー収着の分配比を計算した。ここで分配比とは下記(1)式のように定義される。
【数2】


【0082】即ち、分配比が大きい程フレーバー収着は強く、分配比1のときは封入前に水溶液中に含まれていたフレーバーの半分がパウチの内面層側に収着されており、分配比が1より大きくなるに従って水溶液中に残るフレーバーの濃度は少なくなっていく。この様に評価したフレーバー収着の結果を表3に示す。
【0083】(ヒートシール性の評価)さらに、ヒートシール性を測定するため、シート表面同士(750μm及び330μm)を一定の剥離条件(フィルム巾15mm、剥離速度300mm/分、角度180°)の下でヒートシール強度が500gとなるときのシール温度を求めた。なお、ヒートシール条件はシール時間1秒、圧力2Kg/cm2 である。結果は表4に示す。
【0084】(生分解性の評価)観察の結果、状態Aであった。なお、実施例14〜15および比較例7の生分解性は、シートの厚さを330μm、対照サンプルを上質紙および1年後掘り出したこと以外は、実施例1〜8の評価条件に準じて行った。
【0085】(実施例15)実施例8で用いたポリエステル(B4)を、実施例14と同様にしてシート成形後、真空成形により容器を得た。この容器に関して実施例1と同様にしてフレーバー収着テストおよびヒートシール性を評価した。結果を表3および表4に示す。さらに生分解性も同様にして評価したところ、状態Aであった。
【0086】(比較例7)市販のポリエチレンテレ蓋レートの押出グレードを通常のT−ダイフィルム成形法により厚み750μm及び300μmのシートとした。このシートを実施例1と同様に真空成形品の評価を行い、分配比及びヒートシール温度を求めた。結果を表3および表4に示す。一方、生分解性に関しては状態Bであり、生分解性は観察されなかった。
【0087】
【表1】


【0088】
【表2】


【0089】
【表3】


【0090】
【表4】


【0091】
【発明の効果】本発明の脂肪族ポリエステルシートは、土壌等に埋めた場合生分解性を有し、焼却処理したとしても燃焼発熱量はポリエチレンやポリプロピレンと比較して低く引張り強さ、衝撃強度に優れており、包装用シート、一般用シートとして有用である。また、上記脂肪族ポリエステルを押出成形した後、延伸することにより得られた延伸シートも同様に生分解性を示し、引張強度、引裂強度等の機械的物性および透明性に優れており、包装用シート等として有用である。さらにd−リモネンの分配比が6以下且つn−オクタンの分配比が7以下の前記シートは、同様に生分解性を示し、香料の収着が少なく、ヒートシール性が良好であり、しかも成形加工性が良好である。、おのため、多方面にわたって利用することができ、例えば微量の香料成分を含む液体(例えばジュース)の包装材料、酒の包装材、スープなどの包装材に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 温度190℃、剪断速度100sec-1における溶融粘度が1.0×103 〜1.0×106 ポイズであり、融点が70〜190℃である脂肪族ポリエステルを主成分として成形されてなるシート。
【請求項2】 シートのMD、TDの両方向とも引張破断強さが350kg/cm2 以上であり、破断伸びが200%以上であり、剛性が4000kg/cm2 以上である、請求項1に記載のシート。
【請求項3】 前記脂肪族ポリエステルを主成分として押出成形した後、延伸した延伸シートである、請求項1に記載のシート。
【請求項4】 引張破断強度が10kg/mm2 以上であり且つ引裂強度が2kg/cm2 以上である、請求項3に記載のシート。
【請求項5】 d−リモネンの分配比が6以下且つn−オクタンの分配比が7以下である、請求項1に記載のシート。
【請求項6】 脂肪族ポリエステルが数平均分子量10,000以上であり、0.03〜3.0重量%のウレタン結合を含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項7】 数平均分子量が5,000以上、融点が60℃以上の脂肪族ポリエステルプレポリマー100重量部に、0.1〜5重量部のジイソシアナートを反応させることにより得られる脂肪族ポリエステルを用いてなる請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項8】 脂肪族ポリエステルが、脂肪族グリコール、脂肪族ジカルボン酸および3官能または4官能の多価アルコール、オキシカルボン酸および多価カルボン酸もしくはその無水物から選ばれる少なくとも1種の多官能成分を加えて反応させてなる、数平均分子量(Mn)が5,000以上のポリエステルプレポリマーを、ウレタン結合を介して連鎖した構造をとるものである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項9】 ポリエステルプレポリマーが、グリコール単位としてエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる単位を有し、ジカルボン酸単位としてコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸からなる群から選ばれる単位を有する、請求項7または請求項8に記載のシート。
【請求項10】 ポリエステルプレポリマーが第三成分としての3官能または4官能の多価アルコールとして、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリトリットからなる群から選ばれる1種以上を含有する、請求項8に記載のシート。
【請求項11】 ポリエステルプレポリマーが第三成分としての3官能または4官能のオキシカルボン酸として、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸からなる群から選ばれる1種以上を含有する、請求項8に記載のシート。
【請求項12】 ポリエステルプレポリマーが第三成分としての3官能または4官能の多価カルボン酸として、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物およびシクロペンタンテトラカルボン酸無水物からなる群から選ばれる1種以上を含有する、請求項8に記載のシート。

【公開番号】特開平7−47598
【公開日】平成7年(1995)2月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−86458
【出願日】平成5年(1993)4月13日
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)