説明

ポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法

【課題】触媒活性に優れ、かつ成形品の透明性に優れたポリエステルを与えるポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともアルミニウム化合物およびリン化合物からなるポリエステル重合触媒において、リン化合物を構成するリン原子と芳香環構造あるいは複素環構造との間に連結基を持たないリン化合物を用いる重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステルおよびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステルならびにポリエステルの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ゲルマニウム、アンチモン化合物を触媒主成分として用いない新規のポリエステル重合触媒、およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)は、機械的特性および化学的特性に優れており、多用途への応用、例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの成形物への応用がなされている。
【0003】
PET は、工業的にはテレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化もしくはエステル交換によってビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて重縮合することで得られる。
【0004】
重縮合時に用いられる触媒としては、三酸化アンチモンが広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、PETに黒ずみや異物が発生するという問題点を有している。また、最近環境面からアンチモンの安全性に対する問題が指摘されている。このような経緯で、アンチモンを含まないか極少量のみ含むポリエステルが望まれている。
【0005】
重縮合触媒として、三酸化アンチモンを用いて、かつ PET の黒ずみや異物の発生を抑制する試みが行われている。例えば、特許文献1においては、重縮合触媒として三酸化アンチモンとビスマスおよびセレンの化合物を用いることで、PET中の黒色異物の生成を抑制している。また、特許文献2においては、重縮合触媒としてナトリウムおよび鉄の酸化物を含有する三酸化アンチモンを用いると、金属アンチモンの析出が抑制されることを述べている。ところが、これらの重縮合触媒では、結局アンチモンを含まないポリエステルという目的は達成できない。
【0006】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒の検討も行われている。特に、テトラアルコキシチタネートに代表されるチタン化合物がすでに提案されているが、これを用いて製造された PET は著しく着色すること、ならびに熱分解を容易に起こすという問題がある。
【0007】
このような、テトラアルコキシチタネートを重縮合触媒として用いたときの問題点を克服する試みとして、例えば、特許文献3では、テトラアルコキシチタネートをコバルト塩およびカルシウム塩と同時に用いる方法が提案されている。また、特許文献4によると、重縮合触媒としてテトラアルコキシチタネートをコバルト化合物と同時に用い、かつ蛍光増白剤を用いる方法が提案されている。ところが、これらの提案では、テトラアルコキシチタネートを重縮合触媒として用いたときの PET の着色は低減されるものの、一方 PETの熱分解を効果的に抑制することは達成されていない。
【0008】
【特許文献1】特許第2666502号公報
【特許文献2】特開平9-291141号公報
【特許文献3】特開昭55-116722号公報
【特許文献4】特開平8-73581号公報
【0009】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒でかつ、テトラアルコキシチタネートを用いたときのような問題点を克服する重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から外へ留出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという問題点を有している。
【0010】
アルミニウム化合物は一般に触媒活性に劣ることが知られている。アルミニウム化合物の中でも、アルミニウムのキレート化合物は他のアルミニウム化合物に比べて重縮合触媒として高い触媒活性を有することが報告されているが、上述のアンチモン化合物やチタン化合物と比べると十分な触媒活性を有しているとは言えず、しかもアルミニウム化合物を触媒として用いて長時間を要して重合したポリエステルは熱安定性に劣るという問題や、アルミニウム化合物由来の異物や着色といった問題点を十分に回避できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ゲルマニウム、アンチモン化合物を触媒主成分として用いずに、アルミニウムを主たる金属成分とし、触媒活性に優れ、かつ成形品の透明性に優れたポリエステルを与える新規のポリエステル重合触媒、およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法を提供するものである。また、本発明の別の目的は、成形品の透明性等の品質に優れたポリエステルを与えるポリエステル重合触媒、およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の筆者らは、上記課題の解決を目指して鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム化合物はもともと触媒活性に劣るが、これに特定のリン化合物を組み合わせて使用することで触媒活性に優れたポリエステル重合触媒となる事を見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち本発明は、
(1)ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種を金属含有成分として含み、下記一般式(化2)で表されるリン化合物の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【化2】

(式(化2)中、R1は炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。)
(2)式(化2)のR1が置換基を有する炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造であることを特徴とするポリエステル重合触媒。
(3)式(化2)で表されるリン化合物の芳香環構造および複素環構造の置換基が、炭素数1〜50の炭化水素基(直鎖状であっても脂環構造、分岐構造、芳香環構造であってもよく、これらがハロゲン置換されたものであってもよい)または水酸基またはハロゲン基または炭素数1〜10のアルコキシル基またはアミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)、ホスホリル含有基、ニトリル基、シアノアルキル基から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とするポリエステル重合触媒。
(4)前記芳香環構造がベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンから選ばれることを特徴とするポリエステル重合触媒。
(5)前記複素環構造がフラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、ナフタランおよびフタリドから選ばれることを特徴とするポリエステル重合触媒。
(6)上記式(化2)中のR2およびR3の少なくとも一方が水素原子であることを特徴とするポリエステル重合触媒。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリエステル重合触媒を用いて製造されたポリエステル。
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリエステル重合触媒を用いることを特徴とするポリエステルの製造方法。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のアンチモン、ゲルマニウムおよびチタン触媒を主触媒としないにもかかわらず、触媒活性に優れ、成形品の透明性に優れ、異物の低減されたポリエステルを与えるポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリステル重合触媒は、アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種を第1金属含有成分として含み、かつ化学式(化3)で表されるリン化合物の少なくとも1種を共存させることを特徴とする。
【化3】

(式(化3)中、R1は炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。置換基の数は複数であってもよい。)
式(化3)のR1は置換基を有する炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造であることが好ましい。
【0016】
式(化3)で表されるリン化合物の芳香環構造および複素環構造の置換基は、炭素数1〜50の炭化水素基(直鎖状であっても脂環構造、分岐構造、芳香環構造であってもよく、これらがハロゲン置換されたものであってもよい)または水酸基またはハロゲン基または炭素数1〜10のアルコキシル基またはアミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)、ホスホリル含有基、ニトリル基、シアノアルキル基から選ばれる1種もしくは2種以上であることが好ましい。
【0017】
本発明で使用できる上記一般式(化3)中の芳香環構造は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンなどが挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ジフェニル、ジフェニルメタンおよびアントラセンであり、より好ましくはベンゼン、ジフェニルおよびナフタレンである。
【0018】
本発明で使用できる上記一般式(化3)中の複素環構造は、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、ナフタランおよびフタリドなどが挙げられる。好ましくは、ベンゾフランおよびイソベンゾフランである。
【0019】
本発明で使用できる前記一般式(化3)中のR2およびR3が、脂肪族アルキル基(置換されていてもよい)の場合、例えばアルキレングリコール中で事前加熱して用いることが好ましい。一般式(化3)中のR2およびR3は少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。一方のみが水素原子であることがより好ましい。このようなリン化合物をアルミニウム化合物と共存して用いることで、アルミニウム化合物とリン化合物が錯形成し、触媒活性に優れたポリエステル重合触媒になると推定される。
【0020】
本発明の芳香環構造を有するリン化合物としては、具体例には、下記式(化4)〜(化30)で表されるリン化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
【化11】

【0029】
【化12】

【0030】
【化13】

【0031】
【化14】

【0032】
【化15】

【0033】
【化16】

【0034】
【化17】

【0035】
【化18】

【0036】
【化19】

【0037】
【化20】

【0038】
【化21】

【0039】
【化22】

【0040】
【化23】

【0041】
【化24】

【0042】
【化25】

【0043】
【化26】

【0044】
【化27】

【0045】
【化28】

【0046】
【化29】

【0047】
【化30】

【0048】
本発明の複素環構造を有するリン化合物としては、具体例には、下記式(化31)〜(化33)が例示されるがこれに限定されるものではない。
【0049】
【化31】

【0050】
【化32】

【0051】
【化33】

【0052】
また、本発明に用いるリン化合物は、分子量が大きいものの方が重合時に留去されにくいため効果が大きく好ましい。
【0053】
この様な特定の構造を有するリン化合物を使用する事により、触媒活性に優れ、かつ触媒の失活もしくは除去をする事無しに、溶融成形時の熱劣化が効果的に抑制されて熱安定性に優れ、更に耐加水分解性にも優れたポリエステルを与え、なおかつ透明性や物性に優れた成形品を与えるポリエステル重合触媒が得られる。
【0054】
本発明のリン化合物を併用することにより、ポリエステル重合触媒中のアルミニウムとしての添加量が少量でも十分な触媒効果を発揮する触媒が得られる。
【0055】
本発明のリン化合物の使用量としては、得られるポリエステルのポリカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.0001〜0.1モル%が好ましく、0.005〜0.05モル%であることがさらに好ましい。リン化合物の添加量が0.0001モル%未満の場合には添加効果が発揮されない場合があり、0.1モル%を超えて添加すると逆にポリエステル重合触媒としての触媒活性が低下する場合があり、その低下の傾向は、アルミニウムの使用量等により変化する。
【0056】
リン化合物を使用せず、アルミニウム化合物を主たる触媒成分とする技術であって、アルミニウム化合物の使用量を低減し、さらにコバルト化合物を添加してアルミニウム化合物を主触媒とした場合の熱安定性の低下による着色を防止する技術があるが、コバルト化合物を十分な触媒活性を有する程度に添加するとやはり熱安定性が低下する。従って、この技術では両者を両立することは困難である。
【0057】
本発明によれば、上述の特定の化学構造を有するリン化合物の使用により、熱安定性の低下、異物発生等の問題を起こさず、しかも金属含有成分のアルミニウムとしての添加量が少量でも十分な触媒効果を有する重合触媒が得られ、この重合触媒を使用する事によりポリエステルフィルム、ボトル等の中空成形品、繊維やエンジニアリングプラスチック等の溶融成形時の熱安定性が改善される。本発明のリン化合物に代えてリン酸やトリメチルリン酸等のリン酸エステルを添加しても添加効果が見られず、実用的でない。
【0058】
本発明の重縮合触媒を構成するアルミニウムないしアルミニウム化合物としては、金属アルミニウムのほか、公知のアルミニウム化合物は限定なく使用できる。
【0059】
アルミニウム化合物としては、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムiso-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩およびキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートがとくに好ましい。
【0060】
本発明のアルミニウムないしアルミニウム化合物の使用量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.001〜0.05モル%が好ましく、さらに好ましくは、0.005〜0.02モル%である。この様にアルミニウム成分の添加量が少なくても本発明の重合触媒は十分な触媒活性を示す点に大きな特徴を有する。その結果、得られるポリエステルの熱安定性や熱酸化安定性、耐加水分解性が優れ、アルミニウムに起因する異物の発生や着色が抑制される。
【0061】
以下に、アルミニウム化合物のとして、塩基性酢酸アルミニウムを用いた同溶液の調製方法の具体例を示す。
(1)塩基性酢酸アルミニウムの水溶液の調製例
塩基性酢酸アルミニウムに水を加え室温で数時間以上攪拌する。攪拌時間は、12時間以上であることが好ましい。その後、60℃以上で数時間以上攪拌を行う。この場合の温度は、60〜80℃の範囲であることが好ましい。攪拌時間は、3時間以上であることが好ましい。水溶液の濃度は、10〜30g/lが好ましく、とくに15〜20g/lが好ましい。
(2)塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
上述の水溶液に対してエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で1〜5倍量が好ましい。より好ましくは1〜3倍量である。該溶液を数時間常温で攪拌することで均一な水/エチレングリコール混合溶液を得る。その後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。温度は80℃以上が好ましく、120℃以下が好ましい。より好ましくは90〜110℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。さらに好ましくは、減圧下および/または窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で加熱し、水を留去し触媒溶液を調製することである。
【0062】
上述の塩基性酢酸アルミニウムは水やグリコールなどの溶媒に可溶化したもの、とくに水および/またはエチレングリコールに可溶化したものを用いることが触媒活性や得られるポリエステルの異物低減の観点からも好ましい。
【0063】
本発明においてアルミニウムもしくはその化合物に加えて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくはこれらの化合物使用することが好ましい。これら物質を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属ないしその化合物の使用がより好ましい。アルカリ金属ないしその化合物を使用する場合、特にLi、Na、Kの使用が好ましい。
【0064】
アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これらの金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫酸水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1-プロパンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、iso-プロポキシ、n-ブトキシ、t−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどのキレート化合物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0065】
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合は、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶剤に溶解しにくい傾向がある為、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合がある。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受けやすくなるとともに、重合したポリエステルは着色しやすくなる傾向がり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属またはそれらの化合物あるいはアルカリ土類金属またはそれらの化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、無機酸塩、有機硫酸塩、アルコキサイド、キレート化合物、酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩が好ましく、酢酸塩がとくに好ましい。
【0066】
アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物を添加する場合、その使用量M(モル%)は、ポリエステルを構成する全ポリカルボン酸ユニットのモル数に対して、1×10-6以上0.1モル%未満であることが好ましく、より好ましくは5×10-6〜0.05モル%であり、さらに好ましくは1×10-5〜0.03モル%であり、特に好ましくは、1×10-5〜0.01モル%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属の添加量が少量であるため、熱安定性低下、異物の発生、着色等の問題を発生させることなく、反応速度を高めることが可能である。アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物の使用量Mが0.1モル%以上になると熱安定性や耐加水分解性の低下、異物の発生や着色の増加が製品加工上問題となる場合が発生する。Mが1×10-6未満では、添加してもその効果が明確ではない。
【0067】
本発明のポリエステル重合触媒には、さらに、コバルト化合物をコバルト原子としてポリエステルに対して10ppm未満の量で添加する事が好ましい態様である。より好ましくは5ppm未満の量で添加する事であり、さらに好ましくは3ppm以下の量で添加する事である。
【0068】
コバルト化合物はそれ自身ある程度の重合活性を有していることは知られているが、前述の様に十分な触媒効果を発揮する程度に添加すると熱安定性が低下する。本発明によれば得られるポリエステルは熱安定性が良好であるが、コバルト化合物を上記の様な少量で、触媒効果が明確でないような添加量にて添加することにより、得られるポリエステルの着色をさらに効果的に消去できる。なお、本発明におけるコバルト化合物は、着色の消去が目的であり、添加時期は重合のどの段階であっても良く、重合反応終了後であってもかまわない。
【0069】
コバルト化合物としては特に限定はないが、具体的には例えば、酢酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトネート、ナフテン酸コバルトおよびそれらの水和物等が挙げられる。その中でも特に酢酸コバルト四水塩が好ましい。
【0070】
本発明によるポリエステルの製造は、触媒として本発明のポリエステル重合触媒を用いる点以外は従来公知の工程を備えた方法で行うことができる。例えば、PETを製造する場合は、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化後、重縮合する方法、もしくは、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を行った後、重縮合する方法のいずれの方法でも行うことができる。また、重合の装置は、回分式であっても、連続式であってもよい。
【0071】
本発明の触媒は、重合反応のみならずエステル化反応およびエステル交換反応にも触媒活性を有する。例えば、テレフタル酸ジメチルなどのジカルボン酸のアルキルエステルとエチレングリコールなどのグリコールとのエステル交換反応による重合は、通常チタン化合物や亜鉛化合物などのエステル交換触媒の存在下で行われるが、これらの触媒に代えて、もしくはこれらの触媒に共存させて本発明の触媒を用いることもできる。また、本発明の触媒は、溶融重合のみならず固相重合や溶液重合においても触媒活性を有しており、いずれの方法によってもポリエステルを製造することが可能である。
【0072】
本発明の重合触媒は、重合反応の任意の段階で反応系に添加することができる。例えばエステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階あるいは重縮合反応の開始直前あるいは重縮合反応途中の任意の段階で反応系への添加することが出きる。特に、アルミニウムないしその化合物は重縮合反応の開始直前に添加することが好ましい。
【0073】
本発明の重縮合触媒の添加方法は、粉末状もしくはニート状での添加であってもよいし、エチレングリコールなどの溶媒のスラリー状もしくは溶液状での添加であってもよく、特に限定されない。また、本発明の重合触媒を構成する各成分を予め混合したものを添加してもよいし、これらを別々に添加してもよいが、各成分を予め混合したものを用いることが好ましい。混合後に加熱処理を行うことがより好ましい。また、本発明の重合触媒を構成する各成分を同じ添加時期に重合系に添加しても良いし、それぞれを異なる添加時期に添加してもよい。
【0074】
本発明の重合触媒は、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、スズ化合物等の他の重合触媒を、これらの成分の添加が前述の様なポリエステルの特性、加工性、色調等製品に問題が生じない添加量の範囲内において共存させて用いることは、重合時間の短縮による生産性を向上させる際に有利であり、好ましい。
【0075】
ただし、アンチモン化合物としては重合して得られるポリエステルに対してアンチモン原子として50ppm以下の量で添加することが好ましい。より好ましくは30ppm以下の量で添加することである。
【0076】
チタン化合物としては重合して得られるポリマーに対して10ppm以下の範囲で添加することが好ましい。より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下の量で添加することである。
【0077】
ゲルマニウム化合物としては重合して得られるポリエステル中にゲルマニウム原子として20ppm以下の量で添加することが好ましい。より好ましくは10ppm以下の量で添加することである。
【0078】
本発明の重合触媒を用いてポリエステルを重合する際には、アンチモン化合物、チタン化合物マニウム化合物、スズ化合物を1種又は2種以上使用できる。
【0079】
本発明で用いられるアンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物およびスズ化合物は特に限定はない。
【0080】
具体的には、アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが挙げられ、これらのうち三酸化アンチモンが好ましい。
【0081】
また、チタン化合物としてはテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、蓚酸チタン等が挙げられ、これらのうちテトラ−n−ブトキシチタネートが好ましい。
【0082】
そしてゲルマニウム化合物としては二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが挙げられ、これらのうち二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0083】
また、スズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアデテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
【0084】
本発明に言うポリエステルとは、ジカルボン酸を含む多価カルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から選ばれる一種または二種以上とグリコールを含む多価アルコールから選ばれる一種または二種以上とから成るもの、またはヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から成るもの、または環状エステルから成るものをいう。
【0085】
ジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、 テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、4、4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0086】
これらのジカルボン酸のうちテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸とくに2,6ーナフタレンジカルボン酸が、得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
【0087】
これらジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3、4、3’、4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0088】
グリコールとしてはエチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、ジエチレングリ コール、トリエチレングリコール、1、2−ブチレングリコール、1、3−ブチレングリコール、2、3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオー ル、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1、12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4, 4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(βーヒドロキシエトキシ)ベン ゼン、1,4−ビス(βーヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1、2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0089】
これらのグリコールのうちエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0090】
これらグリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0091】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−( 2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0092】
環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0093】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0094】
本発明で用いられるポリエステルは主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルが好ましい。より好ましくは、主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体であり、主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルである。
【0095】
主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルとは、全酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルとは、全酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。
【0096】
主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルとは、全グリコール成分に対してアルキレングリコールを合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。ここで言うアルキレングリコールは、分子鎖中に置換基や脂環構造を含んでいても良い。
【0097】
本発明で用いられるナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が好ましい。
【0098】
本発明で用いられるアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、2−ブチレングリコール、1、3−ブチレングリコール、2、3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオー ル、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1、12−ドデカンジオール等があげられる。これらは同時に2種以上を使用しても良い。
【0099】
本発明のポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびこれらの共重合体が好ましく、これらのうちポリエチレンテレフタレートおよびこの共重合体が特に好ましい。
【0100】
また、本発明のポリエステルには公知のリン化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性等を向上させることが可能である。
【0101】
本発明のポリエステルの構成成分として、ポリエステルを繊維として使用した場合の染色性改善のために、スルホン酸アルカリ金属塩基を有するポリカルボン酸を共重合成分とすることは好ましい態様である。
【0102】
共重合モノマーとして用いる金属スルホネート基含有化合物としては、特に限定されるものではないが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、2−リチウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、またはそれらの低級アルキルエステル誘導体などが挙げられる。本発明では特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の使用が好ましい。
【0103】
金属スルホネート基含有化合物の共重合量はポリエステルを構成する酸性分に対して、0.3〜10.0モル%が好ましく、より好ましくは0.08〜5.0モル%である。共重合量が少なすぎると塩基性染料可染性に劣り、多すぎると繊維とした場合、製糸性に劣るだけでなく、増粘現象により繊維として十分な強度が得られなくなる。また、金属スルホネート含有化合物を2.0モル%以上共重合すると、得られた改質ポリエステル繊維に常圧可染性を付与することも可能である。また適切な易染化モノマーを選択することで金属スルホネート基含有化合物の使用量を適宜減少させることは可能である。易染化モノマーとしては特に限定はしないが、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールに代表される長鎖グリコール化合物やアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0104】
本発明の方法に従ってポリエステル重合をした後に、このポリエステルから触媒を除去するか、またはリン系化合物などの添加によって触媒を失活させることによって、ポリエステルの熱安定性をさらに高めることができる。
【0105】
本発明のポリエステル中には、有機系、無機系、および有機金属系のトナー、並びに蛍光増白剤などを含むことができ、これらを1種もしくは2種以上含有することによって、ポリエステルの黄み等の着色をさらに優れたレベルにまで抑えることができる。また他の任意の重合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系などの酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、イオウ系、アミン系などの安定剤が使用可能である。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例により説明するが本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法を以下に説明する。
【0107】
(1)固有粘度(IV:dl/g)
溶融重縮合および固相重縮合で得られたそれぞれのポリエステルペレット(長さ約3mm、直径約2mm、シリンダー状)を、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの6/4(重量比)混合溶媒に80〜100℃で数時間かけ溶解し、ウベローデ粘度計を用いて、温度30℃で測定した。濃度は、4g/lを中心にして何点か測定し、常法に従ってIVを決定した。
(2)中空成形体の成形
ポリエステルを脱湿窒素を用いた乾燥機で乾燥し、名機製作所製M−150C(DM)射出成型機により樹脂温度295℃でプリフォームを成形した。このプリフォームの口栓部を自家製の口栓部結晶化装置で加熱結晶化させた後、コーポプラスト社製LB−01E延伸ブロー成型機を用いて二軸延伸ブロー成形し、引き続き約140℃に設定した金型内で約7秒間熱固定し、1500ccの中空成形体(胴部は円形)を得た。
(3)中空成形体の透明性評価
上記(2)の方法で成形加工して得た中空成形体の透明性評価を、次に示すような目視による3段階評価法を用いて評価した。
○:透明性に優れている。
△:透明性にやや劣る。
×:透明性に劣る。
【0108】
以下に重合触媒の調製法を示すがこれに制限されるものではない。
(アルミニウム化合物の調製例1)
撹拌下80℃で2時間加熱処理して調製され、かつ、塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート;アルドリッチ社製)の20g/l水溶液に対して、等量(容量比)のエチレングリコールを共にフラスコへ仕込み、室温で6時間攪拌した後、減圧(133Pa)下、90〜110℃で数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
【0109】
(リン化合物の調製例1)
リン化合物として(化5)で表されるエチル、3メチル−、5ニトロ−フェニルホスホネート(アルドリッチ社製)をエチレングリコールと共にフラスコへ仕込み、窒素置換下攪拌しながら液温60℃で2.5時間加熱し、50g/lのリン化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
【0110】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1)
上記アルミニウム化合物の調製例1および上記リン化合物の調製例1で得られたそれぞれのエチレングリコール溶液をフラスコに仕込み、アルミニウム原子とリン原子がモル比で1:2となるように室温で混合し、1日間攪拌して触媒溶液を調製した。
【0111】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例2)
上記アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1で得たものをフラスコに仕込み、窒素置換下攪拌しながら、80℃に昇温し、そのまま30分間維持した後、約40℃まで冷却しポリエステル用重合触媒とした。
【0112】
(実施例1)
攪拌機付き2リッターステンレス製オートクレーブに高純度テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを酸成分に対して0.3モル%加え、0.25MPaの加圧下250℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を行いエステル化率が約95%のビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物(以下BHET混合物という)を得た。このBHET混合物に重縮合触媒として、上記“アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1”の重合触媒を用い、ポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子およびリン原子としてそれぞれ0.014モル%および0.028モル%になるように加え、次いで、窒素雰囲気下、常圧にて250℃で10分間攪拌した。その後、60分間かけて280℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに280℃、13.3Pa下で重縮合反応を行った。放圧に続き、微加圧下のレジンを冷水にストランド状に吐出して急冷し、その後20秒間冷水中で保持した後、カティングして長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得た。重縮合反応に要した時間(重合時間)および得られたポリエステルのIVを表1に示す。
溶融重合で得られたポリエステルペレットを、減圧乾燥(13.3Pa以下、80℃、12時間)した後、引き続き結晶化処理(13.3Pa以下、130℃、3時間、さらに、13.3Pa以下、160℃、3時間)を行った。放冷後のこのポリエステルペレットを固相重合反応器内で、系内を13.3Pa以下、215℃に保ちながら固相重合を行い、IVが0.77dl/gのポリエステルペレットを得た。固相重合を経て成形された中空成形体の透明性の評価結果を表1に示す。
【0113】
(実施例2)
上記“アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例2”を用いる以外は、実施例1と同様に実施した。重縮合反応に要した時間(重合時間)および得られたポリエステルのIV、固相重合を経て成形された中空成形体の透明性の評価結果を表1に示す。
【0114】
(実施例3〜7)
実施例1において、リン化合物(化5)に替えてそれぞれ(化8)、(化11)、(化18)、(化24)およひ(化29)を用いる以外は、実施例1と同様に実施した。重縮合反応に要した時間(重合時間)および得られたポリエステルのIV、固相重合を経て成形された中空成形体の透明性および異物の評価結果を表1に示す。
【0115】
(比較例1)
実施例1において、リン化合物を3−ホスホノプロピオン酸(ランカスター社製)に替える以外は、実施例1と同様に実施した。重縮合反応を180分間行ったが、ポリエステルのIVが0.60dl/gに到達しなかった。
【0116】
(比較例2)
実施例1において、リン化合物をジエチル2,2−ジエトキシエチルホスホネート(ランカスター社製)に替える以外は、実施例1と同様に実施した。重縮合反応を180分間行ったが、ポリエステルのIVが0.60dl/gに到達しなかった。
【0117】
(比較例3)
重縮合触媒として三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液をポリエステル中の酸成分に対してアンチモン原子として0.04モル%となるように加えたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。重合時間と得られたポリエステルのIVならびに固相重合を経て成形された中空成形体の透明性の評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の重合触媒は、触媒活性に優れ、透明性に優れたポリエステル成形物を与えるため、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野で利用することができ、産業界に寄与するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物から選ばれる少なくとも1種を金属含有成分として含み、下記一般式(化1)で表されるリン化合物の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【化1】

(式(化1)中、R1は炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。)
【請求項2】
1が置換基を有する炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル重合触媒。
【請求項3】
式(化1)で表されるリン化合物の芳香環構造および複素環構造の置換基が、炭素数1〜50の炭化水素基(直鎖状であっても脂環構造、分岐構造、芳香環構造であってもよく、これらがハロゲン置換されたものであってもよい)または水酸基またはハロゲン基または炭素数1〜10のアルコキシル基またはアミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)、ホスホリル含有基、ニトリル基、シアノアルキル基から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項4】
上記芳香環構造がベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル、ジフェニルスルホン、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンから選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項5】
上記複素環構造がフラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、ナフタランおよびフタリドから選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項6】
2およびR3の少なくとも一方が水素原子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のいずれかの重合触媒を用いることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6に記載のいずれかの重合触媒を用いて製造されたポリエステル。
【請求項9】
請求項8に記載のポリエステルからなる中空成形体。
【請求項10】
請求項8に記載のポリエステルからなる繊維。
【請求項11】
請求項8に記載のポリエステルからなるフィルム。
【請求項12】
ポリエステル重合触媒であって、上記一般式(化1)で表されるリン化合物から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【請求項13】
上記一般式(化1)で表されるリン化合物から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル。

【公開番号】特開2006−52394(P2006−52394A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205833(P2005−205833)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】