説明

ポリエステル高密度織物

【課題】ポリエステル系長繊維と導電性繊維を使用した防塵用織物の着用快適性を向上させるとともに、伸長した状態においても高い塵埃捕集性を有する防塵用織物を提供する。
【解決手段】経糸にポリエステル系マルチフィラメント糸を用い、緯糸に構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維のマルチフィラメント糸を用いるとともに、さらに経糸および/または緯糸の一部に導電性繊維を用い、かつカバーファクター(CF)が1500〜3500であるポリエステル高密度織物。
ただし、カバーファクター(CF)=x・d1/2 +y・d’1/2
x :織物の2.54cm当たりの経糸本数
y :織物の2.54cm当たりの緯糸本数
d :経糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
d’:緯糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防塵用に好適なポリエステル高密度織物に関するものである。さらに詳しくは、緯糸に構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるポリエステル系複合繊維を用いたストレッチ性と塵埃捕集性に優れるポリエステル高密度織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子産業、精密機器、医療機器、食品加工や医療技術の進展により、製造現場や医療現場における微細な粉塵や細菌、また静電気が障害となるため、それら現場環境のクリーン化が進められている。その一環として、クリーンな環境に対応できる防塵衣、無塵衣、無菌衣等の開発が進められている。
【0003】
一般的には、防塵衣や無塵衣、無菌衣(以下、「防塵衣」と総称する)用素材には、形態安定性、機械強度、耐薬品性、耐熱性、洗濯耐久性、に優れていることから、ポリエステル長繊維が中心に使用されている。しかしながら、ポリエステル長繊維のみでは制電性が不良であるため、カーボンブラックや導電性金属酸化物の微粒子を重合体に含有させた導電成分を複合した導電糸を併用した織物が用いられている。
【0004】
かかる従来の技術において、防塵性能、制電性能を有する防塵衣が提供されているが、これら従来の防塵衣は、衣服内で発生した塵埃が布帛を通じて衣服外へ排出されることを阻止するために、高密度織物とすることで、繊維間隙を少なくし、塵埃を通さない設計とする必要がある。
【0005】
しかしながら、繊維間隙を少なくすることによって、織物の経糸方向、緯糸方向、バイアス方向に自由度がなくなり、防塵衣の着用においては、座ったり、しゃがんだりなど身体の動きが加わるため、身体の動きに対して布帛が追随し、身体の動きが阻害されず、圧迫も感じずに軽く自由な動きができる状態とするには、肘や膝などの関節部はゆとりをもった縫製仕様とする必要があるが、このような仕様では、通常の衣服よりもサイズが大きく、だぶついたものとなるため、着用快適性に劣っていた。
【0006】
一方、着用快適性を向上させるために、高いストレッチ性を有する防塵衣用織物の開発が進められていたが、ストレッチ性を持つ織物は、伸長時に経糸と緯糸の交錯点に隙間が生じ、塵埃捕集性が低下するという問題があった。
【0007】
従来、ストレッチを有する防塵衣用織物として、弾性糸にポリエステル捲縮加工糸を被覆したカバリング糸を用いた織物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この提案は、織物に高いストレッチを付与することができるが、ストレッチが大きすぎるため、最大に伸長した状態では繊維間隙が大きくなり、塵埃捕集性が悪くなるという欠点を有している。さらに、防塵衣は衣服内で発生した塵埃が布帛を通じて衣服外へ排出されることを阻止すると同時に、袖口や裾など人体との隙間からも塵埃が排出されることを阻止する縫製仕様とする必要があり、弾性糸を用いた織物はその優れた弾力性、張り腰を有するが故に、防塵衣特有の袖口や裾を絞った縫製仕様には適した素材とはいえず、また、洗濯やタンブル乾燥時の収縮が大きく、寸法安定性に劣るという欠点を有している。
【0008】
一方、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いた防塵衣用布帛も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これはポリトリメチレンテレフタレート繊維が持つ耐加水分解性を利用することによって、耐蒸気滅菌性を付与した蒸気滅菌用のポリエステル布帛を用いた防塵衣に関するものであるが、高いストレッチ性を有しないため、前記したとおり、通常の衣服よりもサイズが大きく、だぶついたものとなるという問題点を有している。
【特許文献1】特許第2874996号公報
【特許文献2】特許第3315972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、従来のポリエステル系長繊維と導電性繊維を使用した防塵用織物の着用快適性を向上させるとともに、伸長した状態においても高い塵埃捕集性を有する防塵用に好適なポリエステル高密度織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)経糸にポリエステル系マルチフィラメント糸を用い、緯糸に構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維のマルチフィラメント糸を用いるとともに、さらに経糸および/または緯糸の一部に導電性繊維を用い、かつカバーファクター(CF)が1500〜3500であることを特徴とするポリエステル高密度織物。
ただし、カバーファクター(CF)=x・d1/2 +y・d’1/2
x :織物の2.54cm当たりの経糸本数
y :織物の2.54cm当たりの緯糸本数
d :経糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
d’:緯糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
(2)緯糸方向の伸長率が10%以上であり、かつ1.5kg/5cmの荷重を付加して伸長した状態での粒径0.3μm以上の塵埃の通塵捕集効率が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル高密度織物。
(3)防塵用であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル高密度織物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来のポリエステル系長繊維と導電性繊維を使用した防塵用織物にストレッチ性を付与することで着用快適性を向上させるとともに、複合繊維を熱処理することによって得られる3次元コイル捲縮による緻密なフィルター効果により、布帛に高い塵埃捕集性とストレッチを付与し、伸長した状態においても高い塵埃捕集性を有する防塵用織物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、前記課題、つまり従来のポリエステル系長繊維と導電性繊維を使用した防塵用織物にないストレッチ性を有するとともに、高い塵埃捕集性を有する織物について鋭意検討し、経糸にポリエステル系マルチフィラメント糸を用い、緯糸に構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維のマルチフィラメント糸を用いるとともに、さらに経糸および/または緯糸の一部に導電性繊維を用い、かつカバーファクター(CF)が1500〜3500であることを特徴とするポリエステル高密度織物とすることで、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0013】
以下、本発明の防塵用素材について、さらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の織物は、経糸にポリエステル系マルチフィラメント糸を用いる。経糸を構成するポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体から合成されるポリマーである。このようなポリエステルとして具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、なかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0015】
また、ポリエチレンテレフタレートのジカルボン酸成分やグリコール成分に共重合成分を含有していても良い。ジカルボン酸成分として例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルカルボン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体等を挙げることができ、グリコール成分として例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物等またはそのエステル形成性誘導体等を挙げることができ、またパラヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体等を挙げることができる。
【0016】
また、上記の経糸を構成するポリエステルには、必要に応じて各種添加物、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、熱安定剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、増粘剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などが添加されていてもよい。
【0017】
次に、本発明の織物は、緯糸に構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維のマルチフィラメント糸を用いる。
【0018】
本発明に用いられるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維は、固有粘度や共重合成分、共重合率が異なる重合体を貼り合わせて、それらの弾性回復特性や収縮特性の差によって、捲縮を発現するものである。固有粘度差を有するサイドバイサイド型複合もしくは偏心芯鞘型の場合、紡糸、延伸時に高固有粘度側に応力が集中するため、2成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および織物の熱処理工程での熱収縮差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によって決まるといってもよく、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。
【0019】
ストレッチ素材として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多い(伸長特性に優れ、見映えが良い)、コイルの耐へたり性が良い(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れる)、さらにはコイルの伸長回復時におけるヒステリシスロスが小さい(弾発性に優れ、フィット感が良い)等である。これらの要求を全て満足しつつ、ポリエステルとしての特性、例えば適度な張り腰、ドレープ性、高染色堅牢性を有することで、トータルバランスに優れたストレッチ素材とすることができる。
【0020】
また、防塵素材として要求されるコイル捲縮においても、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多い(単繊維間隙が小さく、塵埃が通りにくい)ことによりフィルター効果を高めることができる。
【0021】
ここで、前記のコイル特性を満足するためには高収縮成分(高粘度成分)の特性が重要となる。コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮特性が支配的となるため、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性および回復性が要求される。
【0022】
そこで、本発明者らはポリエステルの特性を損なうことなく、前記特性を満足させるために鋭意検討した結果、高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記する)を主体としたポリエステルを用いることを見いだした。PTT繊維は、代表的なポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)やポリブチレンテレフタレート繊維と同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、弾性回復性、伸長回復性が極めて優れている。これはPTTの結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴ−シュ−ゴ−シュの構造(分子鎖が90度に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転による分子鎖が容易に伸長・回復するためと考えている。
【0023】
ここで、本発明におけるPTTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%、より好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合の形成が可能な共重合成分を含むものであってもよい。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0024】
さらに、PTTはPETと比べて耐加水分解性に優れており、手術衣等に代表される蒸気滅菌処理においても優れた強度保持率を有することができる。
【0025】
本発明におけるポリエステル系複合繊維マルチフィラメント糸には、構成成分のもう一方(低収縮成分)は高収縮成分として用いたPTTよりも低収縮であれば特に限定されないがポリエステルで構成されることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、また高収縮成分として用いたPTTと特性の異なる、特に粘度の異なるPTTを用いることもできる。なかでも、高収縮成分であるPTTに対して、低収縮成分(低粘度成分)には、界面接着性が良好で、力学的特性、化学的特性及び原料価格を考慮した結果、PETが最も好ましい。
【0026】
本発明におけるポリエステル系複合繊維マルチフィラメント糸の構成成分に用いられるPETとは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体成分からなるものが好ましい。
【0027】
すなわち、本発明においてPETとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルが好ましい。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で含まれるものも好ましく、10モル%以下の割合で含まれるものはより好ましい。共重合可能な化合物としては、例えば、スルフォン酸、ナトリウムスルフォン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸ジエチル、硫酸エチル、脂肪族スルフォン酸、エタンスルフォン酸、クロロベンゼンスルフォン酸、脂環式スルフォン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸などのジカルボン酸類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類が好ましく使用される。
【0028】
また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0029】
すなわち、本発明において、コイル状捲縮を発現させ、織物を形成した際に所望の伸縮性を得る観点から、PTTの極限粘度は1.0以上であることが好ましく、1.2以上、1.6以下であることがより好ましい。もう一方の構成成分をPETとする場合はPETの極限粘度は0.45以上、0.85以下であることが好ましく、両者間の極限粘度差が0.4以上、1.1以下であることが好ましい。
【0030】
なお、極限粘度は、オルソクロロフェノール10mlに対し試料0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定したものである。
【0031】
本発明に用いるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型複合繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、扁平断面、ダルマ型断面、X断面その他の異形断面であってよいが、捲縮発現性と風合いのバランスから、丸断面の半円状サイドバイサイドや軽量、保温を狙った中空サイドバイサイド、ドライ風合いを狙った三角断面サイドバイサイド等が好ましく用いられる。さらに、3次元コイル捲縮によるシボ発生を抑制するために、単繊維の位相をずらす観点から異形断面が好ましく、より好ましくはダルマ型断面である。
【0032】
また、単繊維繊度は、1.1〜10デシテックス(dtex)が好ましく、より好ましくは、1.1〜6dtexである。1.1dtex以上とすることで、捲縮による優れたストレッチ性を得ることができ、また、10dtex以下とすることによりシボ感を抑えることができる。
【0033】
また、布帛拘束力に打ち勝ってコイル捲縮を発現させるためには、サイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型複合繊維の収縮応力が高いことが好ましい。布帛の熱処理工程で捲縮発現性を高めるには、収縮応力の極大を示す温度は110℃以上、応力の極大値は0.25cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは応力の極大値は0.28cN/dtex以上、さらに好ましくは0.30cN/dtex以上である。また、シボの抑制という点では、0.5cN/dtex以下とすることが好ましい。
【0034】
本発明においては、このサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型複合繊維を実質的に無撚で用いることが好ましい。実質的に無撚とは、製織性を向上させるために経糸および/または緯糸に施す500回/m以下の実撚は許容し、これを超えて実撚を施さないことを意味する。好ましくは、300回/m以下である。これを超えて実撚を施した場合には、滑らかな感触やソフトな風合いが損なわれ風合いが硬くなるばかりか、繊維間隙が多くなるため、塵埃捕集性が低下する。
【0035】
製織する織機は特に限定するものではなく、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルームを用いることができる。
【0036】
織物組織としては、平織物、綾織物が好ましく用いられるが、特に限定されるものではないが、より好ましくは綾織物である。平織物の場合は、繊維間隙が大きくなり、塵埃捕集性が悪化する傾向にある。
【0037】
本発明ではカバーファクターが1500〜3500の範囲であり、好ましくは2000〜3000の範囲である。ここでいうカバーファクター(CF)とは、織物の経糸または緯糸が幅2.54cm当たりに並ぶ本数をそれぞれの糸密度とするとき、次式で与えられる。
カバーファクター(CF)=x・d1/2 +y・d’1/2
x :織物の2.54cm当たりの経糸本数
y :織物の2.54cm当たりの緯糸本数
d :経糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
d’:緯糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
カバーファクター(CF)が1500未満では、経糸と緯糸のスリップにより目ズレが発生し、十分な塵埃捕集性が得られない。また、カバーファクター(CF)が3500を超えると、風合いが粗硬となり、着用快適性に劣る。
【0038】
本発明においては、高密度布帛でありながら、構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維の熱処理による3次元コイル捲縮発現によるストレッチ性と緻密なフィルター効果による塵埃捕集性に優れた布帛が得られる。
【0039】
本発明における着用快適性とは、身体の動きに対して布帛が追随し、身体の動きが阻害されずに圧迫も感じずに軽く自由な動きができる状態、および布帛のゴワゴワ感、擦れ音などを感じずに快い着用感覚をいう。本発明では緯糸方向の伸長率が10%以上であり、かつ1.5kg/5cmの荷重を付加して伸長した状態での粒径0.3μm以上の塵埃の通塵捕集効率が50%以上であることが好ましい。上記、着用快適性を維持するためには、少なくとも10%以上、さらに好ましくは15%以上の伸長率を保有することが、身体の動きに生地が追従し、圧迫感を感じずに良好な着用快適性が得られるものである。しかし、伸長率が30%を超えると、洗濯時の寸法安定性に劣るため、好ましくなく、したがって、緯糸方向の伸長率は30%以下であることが好ましい。また、通塵補修効率は、精密機械工業や電子情報材料、無菌手術衣や医薬製造業のクリーンルームで使用される防塵衣としての要求特性が40%以上であり、好ましくは50%以上、さらに好ましくは、80%以上の通塵補修効率を維持すれば、どのような業種においてもクリーンルームで使用される防塵衣の特性として満足するものである。
【0040】
このようにして得た本発明の高密度織物は、上記性能面から塵埃捕集性に優れ、なおかつ適度の通気性とストレッチ性を合わせ持つため、無塵衣や防塵衣として快適性に優れたものが得られる。
【0041】
なお、無塵衣、防塵衣等の布帛材料として使用する場合、静電気発生による障害を避けるために、織物に導電性繊維を混入する。混入の方法としては、織物では導電性長繊維を経糸および/または緯糸に等間隔に織り込み、ストライプ状または格子状にするのが好ましい。導電性繊維としては、例えば表面に金属メッキを施した合成繊維やカーボンブラック等の導電物質を多量に含有する合成繊維を用いることができ、この他導電性を有する繊維であれば特に限定されるものではない。本発明では、導電性繊維を経糸および/または緯糸の一部に使うものである。すなわち、好ましくは経糸および/または緯糸に2〜10mmの間隔で使用するものであり、より好ましくは3〜6mmである。導電性繊維の使用間隔が2mm未満であると制電性能は良好になるが、地糸のポリエステルフィラメントと導電性繊維との繊度差が生じるため繊維間隙が多くなり、塵埃捕集性が低くなる。逆に、10mmを超えると塵埃捕集性は高くなるが、制電性が悪くなる。
【0042】
本発明ではこのようにして得た高密度織物にプレス加工等を行うことにより、織物面を平滑にし、かつ繊維間隙を少なくして、防塵性を向上させることもできる。
【0043】
このプレス加工方法としては、二対のロール、ベルト、平板などの間で常温あるいは高温下で加圧して加工を行うが、加工性、目つぶし効果、風合い面などから一方がメタル製の加熱ロール、他方がメタル製、樹脂製など硬質の低温ペーパーロール、あるいはゴム、フェルトなどの中硬質の低温ロールとからなる一般のカレンダー加工機を用いるのが好ましい。
【0044】
本発明によって得られた防塵用ポリエステル織物は無塵衣、防塵衣、制電衣などの衣類だけではなく、クリーンルームで用いられる帽子やマスクなどのアイテムに使用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<評価方法>
実施例中での評価は次の方法に従った。
(1)伸長率
JIS L1096 A法にに基づいて、1.5cm/5kgの荷重付加時における織物の伸長率を測定した。
判定は、伸長率0〜15%未満を不良、15〜30%未満を良好、30%以上を最良とした。
(2)通塵捕集効率
JIS B9923に規定の顕微鏡法を基本とし、次の点を変更して測定した。
【0046】
空気中の塵埃が1ft当たり0.1μm以上の粒子が10個以下であるクリーンルームにおいて、室外に線香1本に火をつけその煙を含む空気をホースで引き込み、ホースの先に内径17.5cm、長さ30cmの中央部に織物サンプルがシールして装着できるアクリル樹脂製の筒を取り付け、織物サンプルを通過した空気に含まれる塵埃を0.17μm以上、0.30μm以上、0.50μm以上の粒子の3段階に分け、光散乱式自動粒子計測器(日立電子エンジニアリング(株)製レーザーダストモニタTS−6500を使用した)で計測した。
ただし、空気の吸引量等の測定条件はJIS B9923と同じとした。また、織物サンプルは、切り端がほつれないようにオーバーロックした後、クリーンルーム内に設置した洗濯機にて純水で5分間すすぎを行い、同じくクリーンルーム内に設置したタンブルドライヤーで乾燥し、織物サンプルに付着している塵埃を除去した後、伸長させない状態の通塵捕集効率と上記伸長率の値(1.5kg/5cmの荷重を付加)に織物を伸ばした状態での通塵捕集効率を測定した。
【0047】
通塵捕集効率は、織物サンプルを装着しない場合と比較した次式により計算する。
F=(A/B)×100
F:通塵捕集効率(%)
A:織物サンプルを装着した場合の塵埃粒子の数(個/ft
B:織物サンプルを装着しない場合の塵埃粒子の数(個/ft
判定は、伸長させない状態および伸長した状態において0.3μm以上の通塵捕集効率が50%以上であることを合格とした。
(3)洗濯収縮率
JIS L1096 F−2法に基づいて洗濯を行った後、I−2法に基づいて高温タンブル乾燥(80℃を超えない温度で乾燥)し、収縮率を測定した。
判定は、2.5%以下を合格とした。
【0048】
実施例1
経糸に84デシテックス36フィラメントのポリエチレンテレフタレートよりなるポリエステル長繊維を用い、経糸30本に1本の割合で、22デシテックス1フィラメントの導電性繊維と56デシテックス24フィラメントのポリエステル長繊維の合撚糸を配列し、緯糸に56デシテックス24フィラメントのポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートを50:50の割合でサイドバイサイド型に配した潜在捲縮性ポリエステル長繊維の双糸を用いて1/2綾織物(経糸密度165本/2.54cm、緯糸密度101本/2.54cm)に製織した。次いで常法にて精練、リラックス、プレセットし、白色で染色し、乾燥した後、ピンテンターで経糸密度194本/2.54cm、緯糸密度114本/2.54cmになるよう仕上げた。得られた織物のカバーファクター(CF)は2985であった。該防塵用織物の伸長率と通塵捕集効率を評価した結果を表1に示す。
得られた織物を使用した防塵衣は、着用快適性に優れ、かつクリーンルームでの使用においても問題ないものであった。
【0049】
比較例1
経糸に84デシテックス36フィラメントのポリエチレンテレフタレートよりなるポリエステル長繊維を用い、経糸30本に1本の割合で、22デシテックス1フィラメントの導電性繊維と56デシテックス24フィラメントのポリエステル長繊維の合撚糸を配列し、緯糸に110デシテックス48フィラメントのポリエステル長繊維の仮撚加工糸を用いて1/2綾織物(経糸密度174本/2.54cm、緯糸密度101本/2.54cm)に製織した。次いで常法にて精練、リラックス、プレセットし、白色で染色し、乾燥した後、ピンテンターで経糸密度194本/2.54cm、緯糸密度114本/2.54cmになるよう仕上げた。得られた織物のカバーファクター(CF)は2974であった。該防塵用織物の伸長率と通塵捕集効率を評価した結果を表1に示す。得られた織物を使用した防塵衣は、身体の動きに追従する伸長性を保有しないため、縫製仕様としては関節などの動きがある部位について大きめのサイズ設計としたため、着用中にだぶついた生地同士の摩擦やスレなどによるノイズが発生したり、着用快適性に劣るものであった。
【0050】
比較例2
経糸に84デシテックス36フィラメントのポリエチレンテレフタレートよりなるポリエステル長繊維を用い、経糸30本に1本の割合で、22デシテックス1フィラメントの導電性繊維と56デシテックス24フィラメントのポリエステル長繊維の合撚糸を配列し、緯糸に44デシテックス1フィラメントのポリウレタン弾性糸を84デシテックス36フィラメントのポリエステル長繊維の仮撚加工糸で被覆したカバリング糸を用いて1/2綾織物(経糸密度150本/2.54cm、緯糸密度101本/2.54cm)に製織した。次いで常法にて精練、リラックス、プレセットし、白色で染色し、乾燥した後、ピンテンターで経糸密度194本/2.54cm、緯糸密度114本/2.54cmになるよう仕上げた。得られた織物のカバーファクター(CF)は2952であった。該防塵用織物の伸長率と通塵捕集効率を評価した結果を表1に示す。得られた織物を使用した防塵衣は着用快適性には優れているものの、伸長時の通塵補修効率の低下が大きく、また、洗濯による寸法変化率も大きいため、防塵衣として満足できるものではなかった。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸にポリエステル系マルチフィラメント糸を用い、緯糸に構成成分の少なくとも一方がポリトリメチレンテレフタレートで構成されるサイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型のポリエステル系複合繊維のマルチフィラメント糸を用いるとともに、さらに経糸および/または緯糸の一部に導電性繊維を用い、かつカバーファクター(CF)が1500〜3500であることを特徴とするポリエステル高密度織物。
ただし、カバーファクター(CF)=x・d1/2 +y・d’1/2
x :織物の2.54cm当たりの経糸本数
y :織物の2.54cm当たりの緯糸本数
d :経糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
d’:緯糸のマルチフィラメント糸のトータル繊度(デシテックス)
【請求項2】
緯糸方向の伸長率が10%以上であり、かつ1.5kg/5cmの荷重を付加して伸長した状態での粒径0.3μm以上の塵埃の通塵捕集効率が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル高密度織物。
【請求項3】
防塵用であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル高密度織物。

【公開番号】特開2007−113153(P2007−113153A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308118(P2005−308118)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】