説明

ポリエチレン系粉体塗料

【課題】 ポリエチレン系粉体塗料について、基材の変形に追従しやすく、亀裂が発生しにくい塗膜を形成できるようにする。
【解決手段】 ポリエチレン系粉体塗料は、伸び率が50〜300%の直鎖状低密度ポリエチレン50〜95重量%と、伸び率が300〜1,000%の高圧法低密度ポリエチレン5〜50重量%とを含んでいる。ここで用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは、通常、メルトフローレートが0.5〜50g/10分、密度が0.910〜0.940g/cmおよび引張強度が9〜25MPaのものである。また、高圧法低密度ポリエチレンは、通常、メルトフローレートが0.5〜50g/10分、密度が0.900〜0.935g/cmおよび引張強度が8〜20MPaのものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料、特に、ポリエチレン系粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系粉体塗料は、耐候性、耐薬品性および耐衝撃性などに優れた塗膜を形成することができ、しかも、塗装効率が高く、厚膜の塗装が容易で自由に着色できること等の利点があることから、家庭用品や工業用品等の金属製品のコーティング材料として広く用いられている。
【0003】
しかしながら、一般的なポリエチレン系粉体塗料は、塗膜にピンホールや亀裂が発生しやすく、また、基材のエッジ部のカバー性が不十分である。塗膜にピンホールや亀裂が発生すると、外観が損なわれるだけでなく、基材が鋼材の場合は、錆びが発生して剥離現象が一気に進むことになる。
【0004】
そこで、このような不具合を解消した各種のポリエチレン系粉体塗料が提案されている。例えば、特許文献1は、中位粒度が125〜150μm、メルトフローインデックスが7〜11g/10min、嵩比重が0.35g/cc以上および安息角が35度以下の各条件を備えたポリエチレン系粉体塗料を開示している。また、特許文献2は、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、不飽和カルボン酸類変性ポリエチレンおよびエラストマー化合物を特定の割合で含むポリエチレン系粉体塗料を開示している。
【0005】
特許文献1のポリエチレン系粉体塗料は、フェンスパネルとして用いられる溶接金網を流動浸漬法により薄膜塗装した場合において、塗膜にピンホールが発生しにくく、エッジ部のカバー性が良好である。また、特許文献2のポリエチレン系粉体塗料は、パイプ、線材および鋼板などに対し、表面硬度、耐環境応力亀裂性およびエッジカバー性が良好な塗膜を形成することができるとされている。
【0006】
しかし、上記両特許文献に記載のポリエチレン系粉体塗料からなる塗膜は、亀裂の発生抑制効果が不十分である。特に、当該塗膜は、基材に大きな収縮等の変形が生じた場合において、亀裂が発生しやすい。例えば、各種化学プラントの冷却配管や、海浜に設置された発電所において冷却用海水の吸引用および排出用に用いられる配管などの鋼管は、大口径のものほど熱膨張および熱収縮による変形が大きいため、端面部に大きな引張応力が発生する。このため、このような鋼管に上記両特許文献に記載のポリエチレン系粉体塗料を適用した場合は、端面部において亀裂が発生しやすい。
【0007】
【特許文献1】特開平9−316367号公報
【特許文献2】特開平9−143400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリエチレン系粉体塗料について、基材の変形に追従しやすく、亀裂が発生しにくい塗膜を形成できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、耐候性、硬度および耐環境応力亀裂等に優れた塗膜を形成可能な直鎖状低密度ポリエチレンと、耐熱性や衝撃強度の点では劣るが優れた伸び率を有する塗膜を形成可能な高圧法低密度ポリエチレンとを特定の割合で混合した場合において、伸び率が非常に大きく、しかも耐候性および耐衝撃性などに優れた塗膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のポリエチレン系粉体塗料は、伸び率が50〜300%の直鎖状低密度ポリエチレン50〜95重量%と、伸び率が300〜1,000%の高圧法低密度ポリエチレン5〜50重量%とを含むものである。
【0011】
ここで用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは、通常、メルトフローレートが0.5〜50g/10分、密度が0.910〜0.940g/cmおよび引張強度が9〜25MPaのものである。また、高圧法低密度ポリエチレンは、通常、メルトフローレートが0.5〜50g/10分、密度が0.900〜0.935g/cmおよび引張強度が8〜20MPaのものである。
【0012】
本発明のポリエチレン系粉体塗料として好ましいものは、中位粒度が75〜500μm、安息角が24〜38度および嵩比重が0.25〜0.50g/cmのものである。
【0013】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、通常、伸び率が400〜1,600%である。
【0014】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、通常、直鎖状低密度ポリエチレンおよび高圧法低密度ポリエチレンのどちらの伸び率よりも大きな伸び率を示す。これについての明確な根拠は見出せないが、一般に、高圧法低密度ポリエチレンの構造は、直鎖状低密度ポリエチレンの構造とは異なり、分岐が多いとされている。本発明のポリエチレン系粉体塗料は、直鎖状低密度ポリエチレンおよび高圧法低密度ポリエチレンという、異なる分岐構造を有する二種類のポリエチレンを特定の割合で含むため、上述のような大きな伸び率を示すものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、上述のような二種類のポリエチレンを特定の割合で含むため、基材の変形に追従しやすく、亀裂が発生しにくい塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、直鎖状低密度ポリエチレンと高圧法低密度ポリエチレンとを含んでいる。
【0017】
本発明において用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、エチレンとα−オレフィンとを共重合すると製造することができる。直鎖状低密度ポリエチレンの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法によることができる。例えば、特開平6−9724号公報、特開平6−136195号公報、特開平6−136196号公報、特開平6−207057号公報等に記載されているメタロセン触媒成分を含む、いわゆるメタロセン系オレフィン重合用触媒の存在下において、エチレンとα−オレフィンとを共重合させた場合に目的の直鎖状低密度ポリエチレンを得ることができる。
【0018】
ここで用いられるα−オレフィンは、特に限定されるものではないが、通常、炭素原子数が3〜12のものが好ましい。このようなα−オレフィンとして特に好ましいものは、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテンである。また、α−オレフィンは、一種類のものがエチレンと共重合されてもよいし、二種以上のものがエチレンと共重合されてもよい。
【0019】
本発明で用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは、伸び率が50〜300%のものであり、好ましくは伸び率が100〜300%のものである。直鎖状低密度ポリエチレンの伸び率が50%未満の場合は、亀裂の発生しにくい塗膜が得られにくい場合がある。
【0020】
ここで、「伸び率」とは、日本工業規格:JIS K 7161(1994年)に記載されている「プラスチックの引張特性の試験方法」により測定される「引張ひずみ」を意味する。この試験方法において用いる試験片は、被験体である直鎖状低密度ポリエチレンの粉体を圧縮成形したものであり、具体的には次のようにして調製したものである。
【0021】
先ず、鋼板(250mm×250mm×5mm)上にブリキ板(JIS G 3303:SPTE,250mm×250mm×0.3mm)をずらさずに積み重ね、また、それらの中央部に対角線を合わせるようにして枠板(外寸200mm×200mm、内寸150mm×150mm、厚さ1mm)を積み重ねる。次に、直鎖状低密度ポリエチレンの粉体25gを当該枠板内に略均等に入れた後、当該枠板上に上記のものと同形のブリキ板および鋼板をこの順にずらさないようにして積み重ね、150℃で4.5分間静置する。そして、ゲージ圧力1MPaにより150℃で0.5分間の加熱プレスと、ゲージ圧力2MPaにより150℃で5分間の加熱プレスとを続けて実施した後、ゲージ圧力0.2MPaにより18℃で3分間の冷却プレスを実施する。このような加熱プレスおよび冷却プレスにより得られる圧縮成形片を試験片として用いる。
【0022】
また、本発明で用いられる直鎖状低密度ポリエチレンとして好ましいものは、メルトフローレート、密度および引張強度が次の範囲のものである。
[メルトフローレート]
本発明において、メルトフローレート(以下、「MFR」という場合がある)とは、日本工業規格:JIS K 7210(1999年)に記載されている「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に従い、その「B法」の「条件D」(試験温度:190℃、公称荷重:2.16kg)において測定されるMFRを意味する。
【0023】
直鎖状低密度ポリエチレンのMFRは、0.5〜50g/10分が好ましく、1〜40g/10分がより好ましい。MFRが0.5g/10分未満の場合は、本発明の粉体塗料による塗膜の表面平滑性が不十分になるおそれがある。逆に、MFRが50g/10分を超える場合は、本発明の粉体塗料による塗膜において、タレが発生したり衝撃強度が低下したりするおそれがある。
【0024】
[密度]
本発明において密度とは、日本工業規格:JIS K 7112(1999年)に記載されている「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のうち、「A法(水中置換法)」により測定される比重から算出される密度を意味する。この密度を測定する場合に用いる試験片は、上述の「伸び率」の測定において用いる試験片を100℃の熱水に1時間浸漬した後、室温まで冷却したものである。
【0025】
直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.910〜0.940g/cmが好ましく、0.915〜0.935g/cmがより好ましい。密度が0.910g/cm未満の場合は、本発明の粉体塗料の塗装作業性が損なわれるおそれがある。逆に、密度が0.940g/cmを超える場合は、本発明の粉体塗料による塗膜の引張強度が低下するおそれがある。
【0026】
[引張強度]
本発明において、引張強度とは、日本工業規格:JIS K 7161(1994年)に記載されている「プラスチック−引張特性の試験方法」により測定される引張応力を意味する。この測定において用いられる試験片は、上述の「伸び率」の測定において用いる試験片と同じものである。
【0027】
直鎖状低密度ポリエチレンの引張強度は、9〜25MPaが好ましく、10〜20MPaがより好ましい。引張強度が9MPa未満の場合は、本発明の粉体塗料による塗膜の衝撃強度が低下するおそれがある。逆に、引張強度が25MPaを超える場合は、本発明の粉体塗料を製造するための、後述する粉体化の作業性が損なわれるおそれがある。
【0028】
なお、直鎖状低密度ポリエチレンとしては、上述の伸び率を有するものであれば、各種の市販品を使用することもできる。この市販品は、MFR、密度および引張強度が上述のものが特に好ましい。
【0029】
本発明で用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、例えば、エチレンの高圧ラジカル重合法により製造することができるものである。高圧ラジカル重合法は、一般に、槽型反応器または管型反応器を用い、ラジカル発生剤の存在下において、重合圧力1,400〜3,
000kg/cm、重合温度200〜300℃の条件でエチレンを重合反応させる方法であり、分子量調節剤としての水素やメタン、エタン等の炭化水素を用いることによりMFRを調節することができる。
【0030】
本発明で用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、通常、エチレンの単独重合体であるが、本発明の目的を損なわない範囲であれば、他のα-オレフィン、酢酸ビニルおよびアクリル酸エステル等の重合性単量体とエチレンとの共重合体であってもよい。
【0031】
本発明で用いられる高圧法低密度ポリエチレンは、伸び率が300〜1,000%のもの、好ましくは400〜1,000%のものである。高圧法低密度ポリエチレンの伸び率が300%未満の場合は、亀裂の発生しにくい塗膜が得られにくい場合がある。
【0032】
なお、高圧法低密度ポリエチレンに関する「伸び率」の意味およびその測定方法は、上述の直鎖状低密度ポリエチレンの場合と同じである。
【0033】
また、本発明で用いられる高圧法低密度ポリエチレンとして好ましいものは、メルトフローレート、密度および引張強度が次の範囲のものである。
[メルトフローレート]
0.5〜50g/10分が好ましく、1〜40g/10分がより好ましい。MFRが0.5g/10分未満の場合は、本発明の粉体塗料による塗膜の表面平滑性が不十分になるおそれがある。逆に、MFRが50g/10分を超える場合は、本発明の粉体塗料による塗膜において、タレが発生するおそれがある。
【0034】
[密度]
0.900〜0.935g/cmが好ましく、0.905〜0.933g/cmがより好ましい。密度が0.900g/cm未満の場合は、本発明の粉体塗料の塗装作業性が損なわれるおそれがある。逆に、密度が0.935g/cmを超える場合は、本発明の粉体塗料による塗膜の衝撃強度が低下するおそれがある。
【0035】
[引張強度]
8〜20MPaが好ましく、9〜18MPaがより好ましい。引張強度が8MPa未満の場合は、本発明の粉体塗料による塗膜の衝撃強度が低下するおそれがある。逆に、引張強度が20MPaを超える場合は、本発明の粉体塗料を製造するための後述する粉砕作業時において、ヒゲ状の形状の粉体が発生し、実質的に均一な粉体塗料を得るのが困難になる。この結果、表面平滑性等が良好な塗膜が形成できなくなるおそれがある。
【0036】
高圧法低密度ポリエチレンに関する上述の「MFR」、「密度」および「引張強度」の意義および測定方法は、上述の直鎖状低密度ポリエチレンの場合と同じである。
【0037】
なお、高圧法低密度ポリエチレンとしては、上述の伸び率を有するものであれば、各種の市販品を使用することもできる。この市販品は、MFR、密度および引張強度が上述のものが特に好ましい。
【0038】
本発明のポリエチレン系粉体塗料において、直鎖状低密度ポリエチレンの含有割合は、50〜95重量%であり、好ましくは60〜90重量%である。一方、高圧法低密度ポリエチレンの含有割合は、5〜50重量%であり、好ましくは10〜40重量%である。直鎖状低密度ポリエチレンの含有割合が95重量%を超え、かつ、高圧法低密度ポリエチレンの含有割合が5重量%未満の場合は、塗膜の伸び率が低下し、塗膜において亀裂の発生を効果的に抑制できなくなる可能性がある。逆に、直鎖状低密度ポリエチレンの含有割合が50重量%未満であり、かつ、高圧法低密度ポリエチレンの含有割合が50重量%以上の場合は、直鎖状低密度ポリエチレンと高圧法低密度ポリエチレンとの相溶性が低下する等の理由により、塗膜の引張強度および衝撃強度が低下したり、塗膜の表面平滑性が不十分になったりする可能性がある。
【0039】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じ、例えば、滑材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤および難燃剤等の成分を含んでいてもよい。
【0040】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、粉体塗料を製造するための公知の各種の方法により製造することができる。具体的には、上記各成分をバンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダー若しくは押出機等の各種混練機を用いて混合、混練し、ペレットを製造する。そして、このペレットを機械粉砕法や冷凍粉砕法により粉砕し、篩を用いて所定の粒度に分級するなどすると、本発明のポリエチレン系粉体塗料を得ることができる。
【0041】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、主に、塗装作業性を高めることができる適度の粉末流動性を得る観点、および、塗膜にピンホールが発生するのを防止し、塗膜の表面平滑性を高める観点から、例えば上述のような製造方法におけるペレットの粉砕や分級を適宜実施することにより、中位粒度が75〜500μm、安息角が24〜38度および嵩比重が0.25〜0.50g/cmになるよう設定するのが好ましい。
【0042】
ここで、「中位粒度」は、次のようにして測定したものである。先ず、被験体である粉体塗料試料100gを秤量し、これをJIS標準篩を使用して篩分けする。そして、篩毎に篩上に残留している粉体の重量を秤量し、その積算重量が50%になる粒子径を次式により算出すると、粉体塗料の中位粒度を測定することができる。
【0043】
(数1)
中位粒度(μm)=(50−A/C−A)×(D−B)+B
【0044】
式中、A、B、CおよびDは次の通りである。
A:粒度分布の粗い方から順次積算し、積算重量が50%未満であり、かつ、50%に最も近い点の積算値(g)
B:Aの積算値の篩目開き(μm)
C:粒度分布の粗い方から順次積算し、積算重量が50%以上であり、かつ、50%に最も近い点の積算値(g)
D:Cの積算値の篩目開き(μm)
【0045】
また、「嵩比重」は、日本工業規格:JIS K 7122(2004年)に記載されている「ポリ塩化ビニリデン試験方法」に従って測定された見掛け密度を意味する。
【0046】
さらに、「安息角」は、次のようなものである。先ず、嵩比重(すなわち、上述の見掛け密度)を測定する際に用いる漏斗から、被験体である粉体塗料試料60gを漏斗の下端から119mm下方に水平に配置した直径100mmの円形台上に落下させ、円錐状に堆積させる。安息角は、当該円錐状の堆積物の母線と円形台の水平面とにより形成される角度を意味する。
【0047】
本発明のポリエチレン系粉体塗料は、粉体塗料に関する公知の塗装方法、例えば、流動浸漬塗装法、静電塗装法および溶射塗装法等の塗装方法により、各種の金属やセラミック等からなる基材に対して塗装することができ、また、ピンホールが発生しにくくエッジカバー性が良好な、表面平滑性、耐熱性、耐久性、耐候性および衝撃強度等に優れた塗膜を基材に対して付与することができる。
【0048】
特に、本発明のポリエチレン系粉体塗料は、上述のような直鎖状低密度ポリエチレンおよび高圧法低密度ポリエチレンを特定の割合で含むため、通常、400〜1,600%若しくは700〜1,600%という、大きな伸び率を示す。なお、ここでの伸び率の意味および測定方法は、上述の通りである。このため、本発明のポリエチレン系粉体塗料による塗膜は、伸び率が大きく、基材が熱膨張や熱収縮等により変形した場合であっても、基材の変形に追従しやすく、亀裂が発生しにくい。したがって、本発明のポリエチレン系粉体塗料は、各種の建築部材、厨房用品、自動車部品および日用品等に対して塗膜を付与するのに適しているのは勿論であるが、熱膨張・熱収縮が発生しやすい基材、例えば、各種化学プラントの冷却配管や、海浜に設置された発電所において冷却用海水の吸引用および排出用に用いられる配管などの鋼管、特に、大口径の鋼管の被覆用に特に適している。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
表1に示す伸び率、MFR、密度および引張強度を有する、直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社の商品名“UJ580”)と高圧法低密度ポリエチレン(住友化学株式会社の商品名“スミカセンG801”)とを表2に示す割合で混合した。そして、得られた混合物を押出機に投入してペレットを製造し、このペレットを機械粉砕した。これにより得られた粉体を篩を用いて分級し、ポリエチレン系粉体塗料を得た。このポリエチレン系粉体塗料の特性を表3に示す。
【0051】
実施例2、3
直鎖状低密度ポリエチレンと高圧法低密度ポリエチレンとの混合割合を表2に示すように変更した点を除き、実施例1と同様にしてポリエチレン系粉体塗料を得た。このポリエチレン系粉体塗料の特性を表3に示す。
【0052】
比較例1、2
直鎖状低密度ポリエチレンと高圧法低密度ポリエチレンとの混合割合を表2に示すように変更した点を除き、実施例1と同様にしてポリエチレン系粉体塗料を得た。このポリエチレン系粉体塗料の特性を表3に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
評価
鋼板(70mm×150mm×2mm)に対して実施例1〜3および比較例1、2で得られたポリエチレン系粉体塗料を流動浸漬塗装法により塗装し、塗装試料を得た。この際、流動浸漬塗装法の条件は、前加熱を360℃で5分、流動浸漬時間を6秒、後加熱を200℃で2分とした。そして、塗装試料について、平面部における塗膜の表面平滑性を調べ、また、端面部における亀裂の発生状況を調べた。また、端面部に対して塩水噴霧試験を実施し、錆の発生状況を調べた。さらに、冷熱サイクル試験を実施し、試験後の塗装試料について、端面部における亀裂の発生状況を調べた。
【0057】
ここで、表面平滑性および亀裂の発生状況は、肉眼観察により評価した。また、塩水噴霧試験は、日本工業規格:JIS K 5400(1990年)に記載されている「塗膜の長期耐久性に関する試験方法」に準拠して実施し、塩水噴霧時間を500時間とした。さらに、冷熱サイクル試験は、冷熱衝撃試験器(タバイエスペック株式会社の商品名“TSC−10A”)を用い、80℃で2時間保持から−30℃で2時間保持する過程を1サイクルとして500サイクル実施した。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4によると、実施例1〜3のポリエチレン系粉体塗料を用いた塗装試料の塗膜は表面平滑性が優れており、塗装直後だけではなく冷熱サイクル試験後においても端面部に亀裂の発生は認められなかった。また、端面部の耐塩水性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸び率が50〜300%の直鎖状低密度ポリエチレン50〜95重量%と、
伸び率が300〜1,000%の高圧法低密度ポリエチレン5〜50重量%と、
を含むポリエチレン系粉体塗料。
【請求項2】
前記直鎖状低密度ポリエチレンは、メルトフローレートが0.5〜50g/10分、密度が0.910〜0.940g/cmおよび引張強度が9〜25MPaである、請求項1に記載のポリエチレン系粉体塗料。
【請求項3】
前記高圧法低密度ポリエチレンは、メルトフローレートが0.5〜50g/10分、密度が0.900〜0.935g/cmおよび引張強度が8〜20MPaである、請求項1または2に記載のポリエチレン系粉体塗料。
【請求項4】
中位粒度が75〜500μm、安息角が24〜38度および嵩比重が0.25〜0.50g/cmである、請求項1から3のいずれかに記載のポリエチレン系粉体塗料。
【請求項5】
伸び率が400〜1,600%である、請求項1から4のいずれかに記載のポリエチレン系粉体塗料。


【公開番号】特開2006−219507(P2006−219507A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31284(P2005−31284)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】