説明

ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物及びその医療用成形体

【課題】日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験の泡立ち試験による泡の消失時間が短く、耐加水分解性に優れ、溶融粘度が高く、医療用器具の材料に好適なポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が提供する。
【解決手段】以下の成分(a)のジカルボン酸残基成分及び成分(b)〜(d)のジオール残基成分を含有し、成分(a)及び(b)が主成分であり、ジオール残基成分(b)〜(d)の合計量に対して、成分(b)を50.0〜98.0重量%、成分(c)を0.1〜0.8重量%、成分(d)を1.9〜49.9重量%含有することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
成分(a)脂環式ジカルボン酸残基成分が主成分であり、トランス体とシス体との合計に対してトランス体を70〜90モル%含有するジカルボン酸残基成分
成分(b)脂環式ジオール残基成分
成分(c)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分
成分(d)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエーテルエステルブロック共重合体組成物及びその成形体に関するものであり、特に、医療用器具の材料として好適なポリエーテルエステルブロック共重合体組成物及びその医療用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、各種成形方法により、フィルム、繊維、成形体などに成形することができ、広い分野で利用されている。中でも脂環式ジカルボン酸、特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、「1,4−CHDA」と略記することがある)を主たるジカルボン酸残基成分とし、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下「1,4−CHDM」と略記することがある)等の脂環式ジオールを主たるジオール残基成分とするポリエステル樹脂は、透明性や耐熱性、耐候性に優れることから、その用途が拡がりつつあり、特に、化学的安定性などの点から医療用具材料として期待されている。
【0003】
ポリエステル樹脂を医療用具材料として用いる場合の規格としては、日本国内では、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験における泡立ち試験(泡の消失時間:3分(180秒)以下)がある。
【0004】
従来、泡立ち試験の規格を満たすポリエステル樹脂としては、1,4−CHDA及び1,4−CHDMを必須原料成分とするポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−298555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シートの成形性の観点から、更に溶融粘度が高いポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が求められている。
【0006】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであって、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験の泡立ち試験による泡の消失時間が短く、耐加水分解性に優れ、溶融粘度が高く、医療用器具材料として好適なポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。この結果、以下のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物によって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は以下を要旨とする。
[1] 以下の成分(a)のジカルボン酸残基成分及び成分(b)〜(d)のジオール残基成分を含有し、成分(a)及び(b)が主成分であり、ジオール残基成分(b)〜(d)の合計量に対して、成分(b)を50.0〜98.0重量%、成分(c)を0.1〜0.8重量%、成分(d)を1.9〜49.9重量%含有することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
成分(a)脂環式ジカルボン酸残基成分が主成分であり、トランス体とシス体との合計に対してトランス体を70〜90モル%含有するジカルボン酸残基成分
成分(b)脂環式ジオール残基成分
成分(c)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分
成分(d)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分
[2] 成分(A)のジカルボン酸成分及び以下の比率の成分(B)〜(D)のジオール成分から得られることを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
成分(A)脂環式ジカルボン酸成分が主成分であり、トランス体とシス体との合計に対してトランス体を70〜90モル%含有するジカルボン酸成分
成分(B)脂環式ジオール成分;ジオール成分(B)〜(D)の合計量に対して、50.0〜98.0重量%
成分(C)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール成分;ジオール成分(B)〜(D)の合計量に対して、0.1〜0.8重量%
成分(D)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール成分;ジオール成分(B)〜(D)の合計量に対して、1.9〜49.9重量%
[3] [1]又は[2]に記載のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を成形してなる医療用成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験の泡立ち試験による泡の消失時間が短く、耐加水分解性に優れ、溶融粘度が高く、医療用器具の材料に好適なポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0010】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物は、以下の成分(a)〜(d)を含有する。
成分(a) 脂環式ジカルボン酸残基成分が主成分であり、トランス体とシス体との合計に対してトランス体を70〜90モル%含有するジカルボン酸残基成分
成分(b)脂環式ジオール残基成分
成分(c)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分
成分(d)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分
【0011】
なお、本発明において、「主成分とする」とは、当該成分の通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは95モル%以上を占める成分をさす。また、主成分の上限は、実質100モル%である。
【0012】
[成分(a)ジカルボン酸残基成分]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に含まれるジカルボン酸残基成分(以下、「本発明のジカルボン酸残基成分」と記す場合がある)は、脂環式ジカルボン酸残基成分を主成分とする。
脂環式ジカルボン酸には、所謂、狭義の脂環式ジカルボン酸のみでなく、そのエステル形成性誘導体も含まれる。具体的には、例えば1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のシクロヘキサンジカルボン酸;1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸等のデカヒドロナフタレンジカルボン酸などのみでなく、これらのアルキルエステル、酸無水物及び酸ハライド等も含まれる。
本発明のジカルボン酸残基成分に含まれる脂環式ジカルボン酸残基成分となる脂環式ジカルボン酸がエステル形成性誘導体である場合は、アルキルエステルが好ましい。アルキルエステルのアルキル基は、炭素数が少ない方が好ましく、具体的には6以下が好ましく、3以下が更に好ましく、1のメチル基が特に好ましい。脂環式ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のジメチルエステル;1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸等のジメチルエステル等が挙げられる。これらのうち、工業的に入手しやすく、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の成形温度がポリブチレンテレフタレートなどの従来のポリエステル樹脂の成形温度に近いことから、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(1,4−CHDA)及びそのエステル形成性誘導体が最も好ましい。
【0013】
脂環式ジカルボン酸は、通常、トランス体とシス体が混在している。本発明のジカルボン酸残基成分に含まれる脂環式ジカルボン酸残基成分中のトランス体の含有率は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の耐熱性の観点から高いほど好ましく、トランス体とシス体との合計量(モル%)に対して、通常70モル%以上であり、好ましくは80モル%以上である。一方、成形温度を低くすることにより熱分解を抑えやすい点及び日本薬局方の泡立ち試験で良好な結果が得られやすい点からは低いことが好ましく、通常90モル%以下であり、好ましくは87モル%以下である。
本発明のジカルボン酸残基成分に含まれる脂環式ジカルボン酸残基は、1種類のみでも、2種類以上でもよい。
【0014】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に含まれるジカルボン酸残基成分には、本発明の優れた効果を大幅に損ねなければ、主成分以外のジカルボン酸残基成分が含まれていてもよい。主成分以外のジカルボン酸残基成分となるジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、1,4−フェニレンジオキシジカルボン酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等及びそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0015】
主成分以外のジカルボン酸残基成分となるジカルボン酸がエステル形成性誘導体である場合は、例えば、上記のジカルボン酸のアルキルエステル、酸無水物、酸ハライド等が挙げられる。これらのうち、アルキルエステルが好ましい。アルキルエステルのアルキル基は、炭素数が少ない方が好ましく、具体的には6以下が好ましく、3以下が更に好ましく、1のメチル基が特に好ましい。具体例を挙げると、テレフタル酸ジメチル、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、1,4-フェニレンジオキシジカルボン酸ジメチル、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸ジメチル、4,4’-ジフェニルジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸ジメチル、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸ジメチル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル等の芳香族ジカルボン酸ジメチルエステル;コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、ウンデカジカルボン酸ジメチル、ドデカジカルボン酸ジメチル等の脂肪族ジカルボン酸のジメチルエステル等がある。これらの主成分以外のジカルボン酸残基成分となるジカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
[成分(b)脂環式ジオール残基成分]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に含まれる脂環式ジオール残基成分(以下、「本発明の脂環式ジオール残基成分」と記す場合がある)となる脂環式ジオールとしては、具体的には、例えば、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール等のシクロペンタンジオール;1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール等のシクロペンタンジメタノール;ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン等の5員環ジオール及び1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等のシクロヘキサンジオール;1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のシクロヘキサンジメタノール;2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン等の6員環ジオール等が挙げられる。
【0017】
これらのうち、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の耐熱性から、6員環ジオールが好ましく、シクロヘキサンジメタノールが更に好ましく、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。中でも、1,4−シクロヘキサンジメタノールは、高分子量で高ガラス転移点のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が得やすいことから最も好ましく用いられる。1,4−シクロヘキサンジメタノールは、通常、トランス体とシス体が混在している。本発明の脂環式ジオール残基成分中のトランス体の含有率は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の耐熱性の観点から高いほど好ましく、高いほど好ましく、トランス体とシス体との合計に対して、60モル%以上であるのが特に好ましい。これらの脂環式ジオール残基成分となる脂環式ジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中に含まれる成分(b)の脂環式ジオール残基成分の量は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が適度な硬度となりやすい点から、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中に含まれるジオール残基成分の合計量に対して、下限が通常50.0重量%、好ましくは70.0重量%、更に好ましくは80.0重量%であり、同上限は耐熱性及び軟質性の点から通常98.0重量%、好ましくは95.0重量%、更に好ましくは93.0重量%、特に好ましくは90.0重量%である。
【0018】
[成分(c)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に含まれる数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分(以下、「本発明の脂肪族鎖式ジオール残基成分」と記す場合がある)となる脂肪族鎖式ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(別名ブタンジオール)、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。これらの内、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の溶融粘度及び原料の入手の容易さの点から、プロピレングリコール及びブチレングリコール(別名ブタンジオール)が好ましく、ブチレングリコール(別名ブタンジオール)が特に好ましい。なお、これらの脂肪族鎖式ジオール残基成分となる脂肪族鎖式ジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の脂肪族鎖式ジオール残基成分となる脂肪族鎖式ジオールの沸点は、エステル交換条件で揮発しにくいことから200℃以上であるのが好ましく、210℃以上であるのが更に好ましく、また、重合条件下で未反応物を除去しやすいことから250℃以下であるのが好ましく、240℃以下であるのが好ましい。
【0019】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中に含まれる成分(c)の数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分の量は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が適度な溶融粘度となり易い点から、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中に含まれるジオール残基成分の合計量に対して、下限が通常0.1重量%、好ましくは0.2重量%、更に好ましくは0.3重量%であり、同上限は通常0.8重量%、好ましくは0.7重量%、更に好ましくは0.6重量%、特に好ましくは0.5重量%である。
【0020】
[成分(d)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物には、柔軟性の点から、数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分(以下、「本発明のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分」と記す場合がある)が含まれている。
本発明のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の融点降下が小さく、耐熱性に優れることから、数平均分子量の下限が、好ましくは300、更に好ましくは500、特に好ましくは800である。一方、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の粘度上昇による相分離が起こり難いことから、数平均分子量の上限は6000が好ましく、5000がより好ましく、4000が特に好ましく、3000が最も好ましい。なお、これらのポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分となるポリテトラメチレンエーテルグリコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中に含まれる成分(d)の数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中に含まれるジオール残基成分の合計量に対して、下限が柔軟性の点から通常1.9重量%、好ましくは5.0重量%、更に好ましくは10.0重量%であり、同上限が耐熱性の点から通常49.9重量%、好ましくは40.0重量%、更に好ましくは30.0重量%、特に好ましくは25.0重量%である。
【0022】
[ジオール残基成分/ジカルボン酸残基成分比]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物におけるジカルボン酸残基成分(成分(a)等)とジオール残基成分(成分(b)〜(d)等)のモル比は、通常1:1である。但し、ジカルボン酸残基成分又はジオール残基成分のどちらかの未反応成分が残っていてもよい。なお、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物におけるジカルボン酸残基成分に対するジオール残基成分のモル比は、高重合度で高粘度なポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を得やすい点では小さい方が好ましいが、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の末端酸価及び末端アルキルエステル量を小さくしやすい点では大きい方が好ましい。本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中にジカルボン酸残基成分又はジオール残基成分のどちらか一方が他方に対して多量にある場合、2モル%以下である方が好ましい。
【0023】
[その他の成分]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物には、本発明の優れた効果を著しく損なわない範囲で上記成分(a)〜(d)以外の成分を含んでいても構わない。但し、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物における成分(a)〜(d)の合計含有量は、通常90重量%以上であり、93重量%以上が好ましく、95重量%が更に好ましく、97重量%が特に好ましく、99重量%が最も好ましい。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に含まれていてもよいその他成分としては、数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール以外の脂肪族鎖式ジオール残基成分;トリシクロデカンジメタノール、キシリレングリコール、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン及びビス(4−β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール等の残基成分が挙げられる。
また、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の溶融粘度を調整し、成形性を高めるために、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物には三官能以上の多官能成分が含まれていてもよい。多官能成分としては、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸;アルコキシカルボン酸、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の残基成分が挙げられる。これらのその他成分は、1種を単独でも、2種以上でもよい。
【0024】
[ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の製造方法]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の製造方法は、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を製造することができれば、どのような方法で製造してもよく、特に制限は無い。好ましい製造方法の態様としては、例えば、上記成分(a)〜(d)となる原料成分を各々成分(A)〜(D)とすると、成分(A)と成分(B)〜(D)をエステル化反応又はエステル交換反応させてから溶融重縮合反応させる方法などが挙げられる。また、これらの反応に続けて更に固相重縮合反応を行い、より高粘度なポリエステルエーテルブロック共重合体組成物とすることもできる。固相重縮合反応により高粘度にする場合は、溶融重縮合反応でポリエステルエーテルブロック共重合体組成物の固有粘度(IV)を0.1dl/g以上0.8dl/g未満にしてから固相重縮合で0.8dl/g以上にするのが好ましい。この方法により、後述の好適物性を有するポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0025】
原料成分(A)〜(D)の好ましい仕込み比は、基本的に、上述の本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物における成分(a)〜(d)の好ましい含有量と同一である。
但し、原料成分(A)として、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体ではなく、所謂、狭義のジカルボン酸を用いる場合は、成分(A)等のジカルボン酸成分に対する成分(B)〜(D)等のジオール成分のモル比は、その下限が1.00であるのが好ましく、1.01であるのが更に好ましく、1.02であるのが特に好ましい。一方、同上限は、1.50であるのが好ましく、1.40であるのが更に好ましく、1.30であるのが特に好ましい。また、特に、原料成分(B)として1,4−CHDMを用いる場合は、反応中に蒸発しやすいため、ジオール残基成分を過剰とするのが好ましい。
また、原料成分(A)としてジカルボン酸のアルキルエステルを用いる場合は、成分(A)等のジカルボン酸成分に対する成分(B)〜(D)等のジオール成分のモル比は、その下限が0.70であるのが好ましく、0.75であるのが更に好ましく、0.80であるのが特に好ましい。一方、同上限は、1.50であるのが好ましく、1.40であるのが更に好ましく、1.30であるのが特に好ましい。また、特に、成分(A)として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下1,4―DMCDと略す)を用いる場合、反応中に昇華しやすいため、ジカルボン酸成分を過剰とするのが好ましい。
【0026】
エステル化、エステル交換反応及び溶融重縮合反応は、触媒存在下で行っても、不在下で行っても構わないが、反応速度及び選択率等の点から、通常、触媒存在下で行う。触媒を用いる場合、反応を促進すれば、どのような触媒を用いてもよく、ポリエステルのエステル化又はエステル交換用の触媒として従来公知の各種触媒を使用可能である。具体的には、例えば、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。中でも、チタン化合物は、高活性であることから好ましく用いられる。チタン化合物としては、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等の有機チタネート又はこれらの加水分解物などが挙げられる。触媒は、1種単独で用いても、複数種を併用してもよい。触媒を用いる場合の触媒濃度は、原料成分の合計量に対して、触媒中の各金属原子(Ti、Ge、Sb、Mg、Sn等)換算で、触媒による反応促進効果の点から通常5ppm以上、好ましくは10ppm以上用いる。また、同上限は、生成したポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に着色が生じにくいことから、通常2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下とする。
【0027】
エステル化反応及びエステル交換反応の反応条件は、反応が進めば特に限定されないが、通常、従来公知のポリエステルのエステル化又はエステル交換の反応条件で反応可能である。具体的には、例えば、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に原料成分及び触媒を仕込み、攪拌しながら反応させ、生成した水又はアルコールを留去しながら行うことができる。反応温度は、生成するオリゴマーの融点以上としやすいことから高いのが好ましく、圧力等のその他条件にも依存するが、通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、一方、原料ジカルボン酸残基成分及びジオール残基成分の沸点以下とするには低いのが好ましく、圧力等のその他条件にも依存するが、通常230℃以下、好ましくは220℃以下である。反応時の圧力は、反応が進めば特に限定されないが、原料が沸騰しないように常圧以上であるのが好ましく、絶対圧力101〜110kPaであるのが更に好ましい。反応時の雰囲気は、反応が安全に進めば特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。反応時間は、通常10分〜10時間、好ましくは30分〜5時間行われる。
【0028】
エステル化反応又はエステル交換反応終了後に、更に溶融重縮合反応を行う場合は、通常、エステル化反応又はエステル交換反応終了後の反応槽内を徐々に減圧することにより、エステル化反応又はエステル交換反応の生成物を溶融重縮合反応させる。エステル化反応又はエステル交換で触媒を用いている場合、エステル化反応又はエステル交換反応終了後の反応液に更に溶融重縮合触媒を添加してもよいが、通常、エステル化反応又はエステル交換反応の触媒をそのまま溶融重縮合触媒とする。
【0029】
溶融重縮合触媒としては、上述のエステル化反応又はエステル交換用の触媒と同種の物を用いることができる。具体的には、例えば、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、スズ化合物、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。中でも、チタン化合物は、高活性であることから好ましく用いられる。チタン化合物としては、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等の有機チタネート又はこれらの加水分解物などが挙げられる。触媒は、1種単独で用いても、複数種を併用してもよい。重縮合触媒濃度は、原料成分の合計量に対して、触媒中の各金属原子(Ti、Ge、Sb、Mg、Sn等)換算で、触媒による反応促進効果の点から通常3ppm以上、好ましくは5ppm以上、更に好ましくは10ppm以上用いる。また、同上限は、生成したポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に着色が生じにくいことから、通常2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下とする。
なお、エステル化又はエステル交換触媒をそのまま重縮合触媒としても使用する場合は、エステル化触媒又はエステル交換触媒と溶融重縮合触媒として添加された触媒中の合計金属量が、上記範囲となるように用いるのが望ましい。
【0030】
エステル化、エステル交換又は重縮合反応時には、本発明の優れた効果を著しく阻害しない範囲であれば、生成するポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の色調をよくするなどの目的で、マグネシウム化合物、リン化合物などを併用して、反応させてもよい。本反応においてはチタン化合物とマグネシウム化合物を組み合わせて触媒とした場合が反応活性、ポリマーの色調とも最も好ましい結果が得られる。
【0031】
溶融重縮合反応の反応条件は、反応が進めば特に限定されないが、通常、減圧装置を備えた反応槽を用いて行う。この際に、エステル化反応又はエステル交換反応の反応槽が減圧装置を備えていれば、エステル化又はエステル交換反応から続けて同一槽で行うことも可能である。反応温度は、圧力等のその他条件にも依存するが、下限が、通常200℃、好ましくは230℃であり、一方、上限が、通常270℃、好ましくは265℃である。反応時の圧力は、反応が進めば特に限定されないが、常圧から絶対圧力1kPa以下であるのが好ましく、絶対圧力0.5kPa以下であるのが更に好ましい。反応時の雰囲気は、反応が安全に進めば特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。反応時間は、通常10分〜10時間、好ましくは30分〜5時間行われる。
溶融重縮合反応後のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の固有粘度(IV)は、0.4dl/g以上1.5dl/g未満とするのが好ましい。
【0032】
通常、エステル化後、エステル交換後又は溶融重縮合反応後に、生成物であるポリエーテルエステルブロック共重合体組成物は、反応槽底部からストランド状に抜き出され、水冷されながらカッティングされることにより、ペレットとして得られる。
【0033】
このペレットは、更に固相重縮合反応させることもできる。固相重縮合の方法は、反応が進めば特に限定されず、例えば、ペレットを結晶化させた後、イナートオーブン又は真空乾燥機中に静置することにより重縮合させる、ダブルコーン型固相重縮合装置又は移動床、流動床を用いて重縮合させるなどの方法が挙げられる。固相重縮合反応は、通常、生成するポリマーの融点より10〜50℃低い温度、好ましくは10〜40℃低い温度で行う。反応時の圧力は、反応が進めば特に限定されないが、絶対圧力1kPa以下の減圧下で行うのが好ましい。反応時の雰囲気は、反応が安全に進めば特に限定されないが、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。反応は、通常1〜48時間、好ましくは2〜48時間行われる。固相重縮合反応により、固有粘度(IV)0.8dl/g以上の高重合度なポリエーテルエステルブロック共重合体を得ることができる。
これらの一連の反応は、回分法でも連続法でも行うことができる。
上記の反応により、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が得られたことは、核磁気共鳴装置(以下、「NMR」と略記することがある)測定及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記することがある)などにより確認できる。
【0034】
[水素−1核磁気共鳴装置分析]
本発明のジカルボン酸残基成分に含まれる脂環式ジカルボン酸残基成分中のトランス体の含有率及び本発明の脂環式ジオール残基成分中のトランス体の含有率は、水素−1核磁気共鳴装置(以下、「1H―NMR」と略記することがある)で分析することにより求められる。具体的には、ポリエステルペレットの核磁気共鳴スペクトルを、ブルカー・バイオスピン株式会社製NMR装置「AVANCE400」を用いて、重水素化クロロホルムを溶媒として、内部基準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。即ち、脂環式ジカルボン酸残基成分中のトランス体の比率は、H−NMR測定を行い、その3.89ppmのピーク(トランス体)と3.98ppmのピーク(シス体)の面積比から算出される。また、脂環式ジオール残基成分のトランス体の比率は、H−NMR測定を行い、その2.27ppmのピーク(トランス体)と2.46ppmのピーク(シス体)の面積比から算出される。
【0035】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物におけるポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中の成分(c)および(d)の量は、H−NMRのエーテル結合部のメチレン基のプロトン(3.41ppm)とエステル結合部のメチレン基のプロトン(4.08ppm)の合計から算出される。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物におけるポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の総末端に対するアルキルエステル末端の割合は、重合反応時の触媒量増加による成形物表面への触媒残渣(ブツ等の発生)が起こりにくいことから低いのが好ましい。本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物における該末端の割合は、通常10モル%以下、好ましいものは5モル%以下、更に好ましいものは2モル%以下である。ここで、該末端の割合は、H−NMR測定を行い、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の総末端に対するアルキルエステル末端(3.67ppmのピーク)の割合(ピーク面積比)として算出される。
【0036】
[炭素−13核磁気共鳴装置分析]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中の各成分の量比は、以下の条件で炭素−13核磁気共鳴装置(以下、「13C―NMR」と略記することがある)分析することにより求められる。即ち、ポリエステルペレット350mgを外径10mmのNMR測定用試験管に測り取り、これに重クロロホルム3.0cmを加えて溶解させ、Varian社製13C―NMR装置「Unity400」を用いて、室温で13C―NMRスペクトルを測定する。ここで、パルス間の繰り返し時間は10秒(FID取り込み時間1.5秒+待ち時間8.5秒)、フリップ角は45°とし、化学シフトの基準は、クロロホルムのシグナルを77.0ppmとする。本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中の成分(c)及び(d)のモル比は、63.66ppmのピーク(ブチレングリコール末端)及び64.07ppmのピーク(ポリテトラメチレンエーテルグリコール末端)の面積比から算出する。なお、13C―NMRスペクトルのピークの帰属は、”M.Bumchan et al. :Polym.Bull.,42,587(1999) "に基づいて行う。
【0037】
[GPC分析]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の数平均分子量は、以下の条件でGPC分析することにより求められる。即ち、ポリエステルペレット20mgをクロロホルム13.5cmに溶解して0.1重量%ポリエステルクロロホルム溶液を作製し、これを孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過した後、100μLを東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC−8220GPC」に注入し、カラム「PL10u Mixed B(30cm×2)」を用いて、カラム温度40℃、移動相クロロホルム、流速1.0mL/分で示差屈折率検出器を用いて測定し、較正試料として単分散ポリスチレンを用いてポリスチレン換算数平均分子量を算出する。
また、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち好ましいものは、GPCによる分子量分布のチャートにおいて、数平均分子量がポリスチレン換算で12000〜35000(重量平均分子量はポリスチレン換算で50000〜100000)である。
【0038】
[成形方法]
ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物は、例えば、溶融成型法などの従来公知の各種成形方法により成形して、シートやフィルムなどに成形して使用できる。具体的には、例えば、スクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイやIダイを使用して溶融樹脂をシート状もしくはフィルム状に押し出すキャスト成形法、またこのキャストフィルムをロール群の周速差を利用して縦延伸して成形した一軸延伸法、この一軸延伸フィルムをさらにテンターオーブンを使用して横延伸した二軸延伸法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸法等が挙げられる。成形されたシート又はフィルムの厚みは、TダイやIダイの開口部の厚みにより、例えば0.1〜10mmに制御して成形することができる。
【0039】
[ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の物性]
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち特に好ましいもののイエローネスインデックス(JIS K7103)は、18以下である。なお、イエローネスインデックスは、日本電色工業株式会社製光電色彩計「ZE2000」を用いて、試料ペレットの三刺激値X、Y及びZを測定し、下式により求められる。
イエローネスインデックス=100(1.28X−1.06Z)/Y (1)
【0040】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち好ましいものの溶融粘度は、通常2400poise以上である。一般的に、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に、上述の本発明の成分(c)のような短鎖長のジオール残基成分が含まれると、軟質成分であるポリテトラメチレンエーテルグリコールの見かけ上の連鎖長が短くなり、溶融粘度は低くなると考えられる。しかしながら、意外なことに、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の溶融粘度は高い。その理由については、以下のように推定される。即ち、長鎖長のジオール残基成分(d)と短鎖長のジオール残基成分(c)がランダムに存在し、長鎖長ジオール残基成分のみを共重合させた場合と比べ、分子量分布や融点を変化させずに溶融粘度のみ高くすることができたと考えられる。ここで、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の溶融粘度は、株式会社東洋精機製作所製溶融粘度測定装置「CAPIROGRAPH 1B」を用いて測定される。具体的には、245℃で溶融させたポリエステルペレットを直径1mm、長さ10mmのキャピラリーから押出速度を2、3、5、7.5、10、15、20、30、50、75、100、150、200、300、500mm/minと変化させて押し出した粘度を測定し、この内、押出速度20mm/minにおける粘度を溶融粘度とする。
【0041】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち好ましいものの固有粘度(IV)は、下限が通常0.4dl/g、好ましくは0.6dl/gであり、上限が通常1.5dl/g、好ましくは1.3dl/g以下である。固有粘度が上記下限以上であると、流動性が高く成形しやすい点で優れ、一方、上記上限以下であると成形時の溶融粘度が高く成形性に優れ、得られる成形体が高機械的強度になる。ここで、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の固有粘度(IV)は、ポリエステルペレットをフェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒で、ウベローデ型粘度計を用いて30℃で測定することにより求められる。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち、好ましいものの耐熱性は、通常90%以上である。耐熱性は、溶融粘度測定によるポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の固有粘度(IV)の減少率である。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち好ましいものの耐加水分解性は、通常70%以上である。ここで、耐加水分解性は、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を水蒸気雰囲気下111kPa(ゲージ圧)、120℃で24時間処理による固有粘度(IV)の減少率である。
【0042】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の末端酸価(AV)は、耐加水分解性の点から低いのが好ましい。本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の末端酸価(AV)は、通常40当量/トン以下、好ましいものは35当量/トン以下、更に好ましいものは30当量/トン以下である。ここで、末端酸価(AV)は、ポリマー1トン当たりの酸当量であり、具体的には、ポリエステルペレット0.4gをベンジルアルコール25cmに溶解し、0.1モル/lの水酸化ナトリウム水溶液により滴定した値である。
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち好ましいものについて、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験に準拠した泡立ち試験を行うと、泡の消失時間は、本規格で定められた3分(180秒)以下である。また、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のうち好ましいものの溶出液蒸発残留物の量は、通常、本規格で定められた1.0mg以下より遙かに少ない40ppm以下である。なお、一般的に、成分(c)のような低分子量成分が含まれると、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に熱水処理を施した場合の溶出物は増加すると考えられる。しかしながら、意外なことに、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の溶融粘度は、溶出液蒸発残留物が少なく、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験に準拠した泡立ち試験における泡の消失時間が短い。その理由については、以下のように推定される。即ち、長鎖長のジオール残基成分(d)と短鎖長のジオール残基成分(c)がランダムに存在し、長鎖長ジオール残基成分のみを共重合させた場合と比べ、溶出液蒸発残留物を少なくすることができたと考えられる。なお、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験に準拠した泡立ち試験及び溶出液蒸発残留物の定量法は、実施例で後述する日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験に定められた方法で行う。なお、日本薬局方における溶出液蒸発残留物量の規格では、1.0mg以下と定めている。
【0043】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物は、特に医療用具材料として好適に用いられる。具体的には、例えば、溶融成型法等により、輸液バッグ、輸血管、注射器、絆創膏、サージカルテープ、医療補助用テープの基材等の医療用具とすることができる。また、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物は、高溶融粘度であることから成形加工性に優れ、薄膜化に適しているため、特に、輸液バッグ、絆創膏、サージカルテープ、医療補助用テープ等の多層フィルムに適している。
【0044】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を成形して医療用途に用いる場合、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験の溶出物試験を満足する範囲であれば、必要に応じて各種添加成分を配合してもよい。具体的には、例えば、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機充填材、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、相溶化剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、パラフィンオイル等の可塑剤、フッ素樹脂パウダー、スリップ剤、分散剤、着色剤、防菌剤、蛍光増白剤等などが挙げられる。これらの配合量は、本発明の優れた効果を大幅に損なわなければ特に制限は無い。具体的には、例えば、本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物に対して、配合効果の点で、通常0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上配合し、また、本発明の効果発現の点から、通常1質量%以下、好ましくは0.6質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下の範囲とする。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
以下において、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物の組成分析法及び物性の評価方法は、次の通りである。
【0046】
[日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験に準拠した泡立ち試験]
泡立ち試験は、第十五改正日本薬局方の「7.02プラスチック製医薬品容器試験法の2.溶出物試験(i)泡立ち」に従って以下のとおり行った。
サンプルシートを表裏の合計表面積が1200cmになるように切断し、切断片を集め、更にこれらを長さ5cm、幅0.5cmの大きさに細断し、水洗後に室温で乾燥する。このサンプルシートをアルカリ溶出試験に適合する内容300mlの硬質ガラス容器に入れ、水200mlを加え、密栓した後、高圧蒸気滅菌機を用いて121℃で1時間加熱してからサンプルシートを取り出し、室温になるまで放冷した硬質ガラス容器中の液を試験液とした。試験液5cmを内径15mm、長さ200mmの共栓試験管に入れ、3分間激しく振り混ぜ、目視で生じた泡が殆ど消失するまでの時間(泡消失時間)を測定する。
【0047】
[日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験に準拠した蒸発残留物試験]
泡立ち試験の試験液20mLを水浴上で蒸発乾固し、残留物を105℃1時間乾燥し、その質量を量った。
[融点の測定法]
セイコーインスツル株式会社製の示差走差熱量分析装置「DSC220」を使用して、昇温温度20℃/分で測定し、結晶融解に伴う吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。
なお、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物中の各成分、特に脂環式ジカルボン酸残基成分中のトランス体の含有率、数平均分子量、アルキルエステル末端の割合、溶融粘度、固有粘度、耐熱性、耐加水分解性及び末端酸価(AV)は、上述の方法で測定した。
【0048】
[実施例1]
撹拌機、留出管、温度計、圧力計及び減圧装置を備えた容量450mlの反応器に、1,4−DMCD(和光純薬工業株式会社製、トランス体の割合85モル%)91.06g(0.455モル)、1,4−CHDM(エスケーケミカルズ株式会社製、トランス体の割合70モル%)60.54g(0.420モル)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学株式会社製「PTMG1000」、Mn=1000)22.50g(0.0225モル)、酢酸マグネシウム四水和物(関東化学株式会社製)の1重量%水溶液1.3232g(得られるポリエステルに対してマグネシウムとして10重量ppm)、トリメリット酸無水物(東京化成工業株式会社製)0.2621g(0.00136モル)及びIrganox1010(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)0.315gを仕込んだ。
反応器内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で、油浴により反応器内を150℃に加熱し、テトラ−n−ブチルチタネート(キシダ化学株式会社製)の18重量%1,4−ブタンジオール(三菱化学株式会社製)溶液(得られるポリエステルに対してチタンとして50ppm)を0.59g添加した(ジカルボン酸残基成分に対するジオール残基成分のモル比は0.980)。更に1時間かけて200℃まで昇温し、その後200℃に2時間保持してエステル交換反応を行った。反応器内温を更に30分かけて240℃に昇温させながら徐々に反応器内を減圧にして、重縮合反応を行った。反応器内の圧力を絶対圧力0.1kPa、温度を240℃に保ち、固有粘度が1.0dl/g以上になるまで反応させた。反応後、反応器内を窒素で復圧し、得られたポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を反応器底部からストランド状に水中に抜き出し、ペレット状にカッティングした。重縮合時間(減圧開始から反応が終了して反応槽内が常圧に戻るまでの時間)は、2時間であった。
【0049】
得られたポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のペレット及び240℃、250kgf/cmで1分間プレス成形した厚さ0.3mmのシートついて、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0050】
[実施例2]
1,4−DMCDとして、和光純薬工業株式会社製のトランス体の割合80モル%の1,4−DMCDを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0051】
[実施例3]
1,4−DMCDの代わりに1,4−CHDA(三菱化学(株)製、トランス体の割合95モル%)を78.30g(0.455モル)用いて、1,4-CHDMの量を64.94g(0.450モル)に、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%1,4―ブタンジオール溶液の量を0.3554g(得られるポリエステルに対してチタンとして20重量ppm)(ジカルボン酸残基成分に対するジオール残基成分のモル比1.035)にした以外は、実施例1と同様にして原料を反応器内に仕込んだ。反応器内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で、油浴により反応器内を150℃に加熱し、更に1時間かけて200℃まで昇温し、その後200℃に1時間保持してエステル化反応を行った。反応器内温を更に45分かけて250℃に昇温させながら徐々に反応器内を減圧にし、重縮合反応を行った。反応器内の圧力を絶対圧力0.1kPa、温度を250℃に保ち、固有粘度が1.0dl/g以上になるまで反応させた。反応後、反応器内を窒素で復圧し、得られたポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を反応器底部からストランド状に水中に抜き出し、ペレット状にカッティングした。重縮合時間(減圧開始から反応が終了して反応槽内が常圧に戻るまでの時間)は、3時間であった。
得られたポリエーテルエステルブロック共重合体組成物のペレットについて、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0052】
[実施例4]
1,4−DMCDの量を93.73g(0.468モル)に、1,4−CHDMの量を62.98g(0.437モル)に、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの量を18.75g(0.0188モル)に、トリメリット酸無水物の量を0.2698g(0.00140モル)にした以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0053】
[実施例5]
1,4−DMCDの量を85.70g(0.428モルに)、1,4−CHDMの量を55.66g(0.386モル)に、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの量を30.00g(0.0300モル)に、トリメリット酸無水物の量を0.2467g(0.00128モル)にした以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0054】
[比較例1]
1,4−DMCDとして、和光純薬工業株式会社製のトランス体の割合95モル%の1,4−DMCDを用いて、プレス成形温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を製造し、各物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0055】
[比較例2]
テトラ−n−ブチルチタネートの18重量%1,4−ブタンジオール溶液の代わりに、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール(和光純薬工業株式会社製)溶液1.7768gを添加した以外は実施例1と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物(成分(c)無品)を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0056】
[比較例3]
テトラ−n−ブチルチタネートの18重量%1,4−ブタンジオール溶液の代わりに、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール(和光純薬工業株式会社製)溶液0.3554gを添加した以外は実施例3と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物(成分(c)無品)を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0057】
[比較例4]
テトラ−n−ブチルチタネートの18重量%1,4−ブタンジオール溶液の代わりに、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール(和光純薬工業株式会社製)溶液1.7768gを添加した以外は実施例4と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物(成分(c)無品)を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0058】
[比較例5]
テトラ−n−ブチルチタネートの18重量%1,4−ブタンジオール溶液の代わりに、テトラ−n−ブチルチタネートの6重量%ブタノール(和光純薬工業株式会社製)溶液1.7768gを添加した以外は実施例5と同様にして、ポリエーテルエステルブロック共重合体組成物(成分(c)無品)を製造し、組成分析を行い、物性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】


【0061】
表1及び2より、本発明によれば、日本薬局方プラスチック製医薬品容器試験の泡立ち試験による泡の消失時間が短く、耐加水分解性に優れ、溶融粘度が高く、特に医療用器具の材料に好適なポリエーテルエステルブロック共重合体組成物が提供されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)のジカルボン酸残基成分及び成分(b)〜(d)のジオール残基成分を含有し、成分(a)及び(b)が主成分であり、ジオール残基成分(b)〜(d)の合計量に対して、成分(b)を50.0〜98.0重量%、成分(c)を0.1〜0.8重量%、成分(d)を1.9〜49.9重量%含有することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
成分(a)脂環式ジカルボン酸残基成分が主成分であり、トランス体とシス体との合計に対してトランス体を70〜90モル%含有するジカルボン酸残基成分
成分(b)脂環式ジオール残基成分
成分(c)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール残基成分
成分(d)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール残基成分
【請求項2】
成分(a)中の脂環式ジカルボン酸残基成分が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、前記成分(b)が1,4−シクロヘキサンジメタノールであることを特徴とする請求項1に記載のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
【請求項3】
成分(c)の沸点が200〜250℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
【請求項4】
成分(A)のジカルボン酸成分及び以下の比率の成分(B)〜(D)のジオール成分から得られることを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体組成物。
成分(A)脂環式ジカルボン酸成分が主成分であり、トランス体とシス体との合計に対してトランス体を70〜90モル%含有するジカルボン酸成分
成分(B)脂環式ジオール成分;ジオール成分(B)〜(D)の合計量に対して、50.0〜98.0重量%
成分(C)数平均分子量200以下の脂肪族鎖式ジオール成分;ジオール成分(B)〜(D)の合計量に対して、0.1〜0.8重量%
成分(D)数平均分子量200超のポリテトラメチレンエーテルグリコール成分;ジオール成分(B)〜(D)の合計量に対して、1.9〜49.9重量%
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のポリエーテルエステルブロック共重合体組成物を成形してなる医療用成形体。

【公開番号】特開2010−70613(P2010−70613A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238041(P2008−238041)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】