説明

ポリオレフィン微多孔膜の製造方法

【課題】低透気度と高耐電圧性能とを両立し得るポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供する。
【解決手段】下記(A),(B)の各工程、
(A)ポリオレフィン樹脂と、フィラーと、可塑剤とを含む原料組成物を混練してシートを形成するシート形成工程、
(B)(A)工程後、前記シートから前記可塑剤を抽出してフィラー含有微多孔シートを形成し、当該フィラー含有微多孔シートを2枚以上重ねてTDに延伸する延伸工程、
を含むポリオレフィン微多孔膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ、非水系リチウム蓄電素子などと呼ばれるものも含む)の開発が活発に行われている。蓄電デバイスには通常、微多孔膜(セパレータ)が正負極間に設けられている。このようなセパレータは、正負極間の接触を防ぎ、イオンを透過させる機能を有する。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、ポリオレフィンと可塑剤、微粒子粗面化剤を含む原料組成物を加熱溶融してシート化し、可塑剤を除去して微粒子粗面化剤を含む多孔シートを形成した後、微粒子粗面化剤を含まない多孔シートと積層し、更に適当な手法にて熱固定する製造方法が開示されている。また、特許文献2には、ポリオレフィンと可塑剤、フィラーを含む原料組成物を加熱溶融してシート化し、可塑剤を除去して多孔シートを形成した後、この多孔シートを単層の状態で少なくとも1方向に延伸するというポリオレフィン微多孔膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−060792号公報
【特許文献2】特表2008−523211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、セパレータには、蓄電デバイスの良好な安全性確保の観点から、一定以上の耐電圧性能を備えることが求められる。また、蓄電デバイスの高出力を達成する観点から、低透気度が求められる。よって、このような機能を併せ持つポリオレフィン微多孔膜の製造方法の開発が望まれる。
しかしながら、特許文献1、2に記載されたポリオレフィン微多孔膜はいずれも、低透気度と高耐電圧性能とを両立する観点からは、なお改良の余地を有するものであった。
本発明は、低透気度と高耐電圧性能とを両立し得るポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記事情に鑑み鋭意検討の結果、特定の原料を用い、特定の手法を用いてポリオレフィン微多孔膜を形成することにより、低透気度と高耐電圧性能を両立するポリオレフィン微多孔膜を実現し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
下記(A),(B)の各工程、
(A)ポリオレフィン樹脂と、フィラーと、可塑剤とを含む原料組成物を混練してシートを形成するシート形成工程、
(B)(A)工程後、前記シートから前記可塑剤を抽出してフィラー含有微多孔シートを形成し、当該フィラー含有微多孔シートを2枚以上重ねてTDに延伸する延伸工程、
を含むポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
[2]
前記延伸工程が、前記フィラー含有微多孔シートをMD,TDの両方向にそれぞれ1回以上延伸する工程である[1]記載の製造方法。
[3]
前記延伸工程が、MD延伸後にTD延伸を行う工程である[2]記載の製造方法。
[4]
前記延伸工程が、MD延伸倍率≧TD延伸倍率を満たす工程である[2]又は[3]記載の製造方法。
[5]
前記ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が30万以上1000万以下である[1]〜[4]記載のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記フィラーがシリカ粉体である[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低透気度と高耐電圧性能とを両立し得るポリオレフィン微多孔膜の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態の製造方法は、下記(A),(B)の各工程、
(A)ポリオレフィン樹脂と、フィラーと、可塑剤とを含む原料組成物を混練してシートを形成するシート形成工程、
(B)(A)工程後、前記シートから前記可塑剤を抽出してフィラー含有微多孔シートを形成し、当該フィラー含有微多孔シートを2枚以上重ねてTDに延伸する延伸工程、
を含む。
【0011】
ここで、本実施の形態においては上記のような工程を経ることにより、得られるポリオレフィン微多孔膜の低透気度と高耐電圧性能とを両立し得るものである。
その理由は詳らかではないが、フィラーとポリオレフィン樹脂との適度な相互作用(フィラー表面とポリオレフィン樹脂との親和性に基づく相互作用、又はフィラー形状に基づくポリオレフィン樹脂との相互作用)がフィラーの含まれる同一シート内だけでなく、界面を介して他のシートを形成するポリオレフィン樹脂との間でも生じることにより、樹脂の吐出方向(本明細書において、「MD」と略記することがある)に配向したポリオレフィン分子鎖が、膜幅方向(本明細書において、「TD」と略記することがある)への延伸により適度に引裂かれ、適度な気孔率、孔径分布、強度発現が実現し、その結果として低透気度と高耐電圧性能が達成されているものと考える。
【0012】
前記(A)の工程において用いられるポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これら重合体は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
また、前記ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン)、ポリプロピレン(例えば、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン)、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
ここでいう「低密度ポリエチレン」とは、密度0.910〜0.930g/cmのポリエチレン、「高密度ポリエチレン」とは、密度0.942g/cm以上のポリエチレンを意味する。なお、以下、ポリエチレンを「PE」、ポリプロピレンを「PP」と略記することがある。
【0013】
前記ポリオレフィン樹脂としては、ポリオレフィン微多孔膜の耐電圧性を向上させる観点から、高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。
高密度ポリエチレンが、前記ポリオレフィン樹脂中に占める割合としては、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0014】
前記ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(複数のポリオレフィン樹脂を用いる場合には、その全体の粘度平均分子量)としては、好ましくは30万以上、より好ましくは50万以上であり、好ましくは1000万以下、より好ましくは300万以下である。当該粘度平均分子量を30万以上とすることは、耐電圧性や機械強度、溶融成形の際のメルトテンションを高く維持し良好な成形性を確保する観点から好ましい。一方、粘度平均分子量を1000万以下とすることは、均一な溶融混練を実現し、シートの成形性、特に厚み安定性を向上させる観点から好ましい。更に、粘度平均分子量を300万以下とすることは、より成形性を向上させる観点から好ましい。
【0015】
前記ポリオレフィン樹脂(複数のポリオレフィン樹脂を用いる場合には、その総量)が、前記原料組成物中に占める割合としては、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、上限として好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0016】
前記(A)の工程において用いられるフィラーとしては、有機微粒子、無機微粒子のいずれを用いることもできる。
有機微粒子としては、例えば、変性ポリスチレン微粒子、変性アクリル酸樹脂粒子などが挙げられる。
また、無機微粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維などが挙げられる。
これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニアがより好ましい。特にシリカが好ましい。
【0017】
前記フィラーの平均粒径としては、好ましくは1nm以上、より好ましくは6nm以上、更に好ましくは10nm以上であり、上限として好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは60nm以下である。
平均粒径を100nm以下とすることは、延伸等を施した場合でもポリオレフィン樹脂とフィラー間での剥離が生じにくい傾向となり、ボイドの発生を抑制する観点から好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂とフィラー間での剥離が生じにくいことは、微多孔膜を構成するフィブリル自身の高硬度化の観点から好ましく、ポリオレフィン微多孔膜の局所領域での耐圧縮性能に優れる傾向、又は耐熱性に優れる傾向が観察されるため好ましい。また、ポリオレフィン樹脂とフィラー間とが密着していることは、蓄電デバイス用セパレータの非水電解液との親和性を向上させ、出力保持性能、サイクル保持性能等に優れたセパレータを実現する観点から好ましい。
一方、平均粒径を1nm以上とすることは、フィラーの分散性を確保し、局所領域における耐圧縮性を向上させる観点から好ましい。
なお、フィラーの平均粒径は、試料を電子顕微鏡により拡大観察し、無作為に20個の粒子径を測り、その平均値とした。なお粒子径としては、観察される面積と同一の面積を有する円の径とした。
【0018】
前記フィラーが、前記原料組成物中に占める割合としては、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。当該割合を10質量%以上とすることは、ポリオレフィン微多孔膜を高気孔率に成膜する観点、又は耐熱性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を70質量%以下とすることは、高延伸倍率での成膜性を向上させ、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度を向上させる観点から好ましい。
【0019】
前記(A)工程において用いられる可塑剤としては、例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類;
フタル酸ジエチルヘキシルやフタル酸ジブチル等のエステル類;
オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール類;
等が挙げられる。
特にフタル酸ジオクチルを用いることが、混練物を溶融押出しする際の負荷を上昇させ、シリカの分散性を向上させる観点から好ましい。
【0020】
前記可塑剤が、前記原料組成物中に占める割合としては、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、上限として好ましくは80質量%以下、好ましくは60質量%以下である。当該割合を80質量%以下とすることは、溶融成形時のメルトテンションを高く維持し、成形性を確保する観点から好ましい。一方、当該割合を30質量%以上とすることは、成形性を確保する観点、及び、ポリオレフィン樹脂の結晶領域におけるラメラ晶を効率よく引き伸ばす観点から好ましい。ここで、ラメラ晶が効率よく引き伸ばされることは、ポリオレフィン鎖の切断が生じずにポリオレフィン鎖が効率よく引き伸ばされることを意味し、均一かつ微細な孔構造の形成や、ポリオレフィン微多孔膜の機械強度乃び結晶化度の向上に寄与し得る。
【0021】
前記原料組成物には必要に応じて、各種添加剤を混合して使用できる。このような添加剤としては、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等が挙げられる。
なお、添加剤が前記原料組成物中に占める割合としては、好ましくは5質量%以下である。
【0022】
前記(A)の工程において、前記ポリオレフィン樹脂、フィラー、及び可塑剤を混練する方法としては、例えば、以下の(a),(b)の方法が挙げられる。
(a)ポリオレフィン樹脂とフィラーとを押出機、ニーダー等の樹脂混練装置に投入して混練し、更に加熱しながら可塑剤を導入し混練する方法。
(b)予めポリオレフィン樹脂とフィラーと可塑剤を、ヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練する工程を経て、該混練物を押出機に投入し、加熱溶融させながら更に可塑剤を導入し混練する方法。
【0023】
前記(A)の工程において、シートを形成する方法としては、原料組成物を混練した後、Tダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて冷却固化させる方法等が挙げられる。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できる。また、冷却固化をロール間で挟み込むことにより行なうことは、シート状成形体の膜強度を増加させる観点や、シート状成形体の表面平滑性を向上させる観点から好ましい。
【0024】
一方、前記(B)の工程において、可塑剤を抽出してフィラー含有微多孔シートを形成する方法としては、塩化メチレンに浸漬する方法等が挙げられる。なお、このような可塑剤抽出工程において、可塑剤に加えてフィラーの一部が抽出されることも、妨げられるものではないが、フィラーは実質的に抽出されないことが好ましい。
【0025】
前記(B)工程においては、フィラー含有微多孔シートが2枚以上重ねられて、TD方向に延伸される。ここで、フィラー含有微多孔シート同士は直接重ねられることが好ましい。なお、ここでいう「直接」とは、実質的に他のシート層が介在していないことを意味するが、本実施形態の目的を損なわない範囲で、他の層(例えば、フィラー含有微多孔シート表面のコート層や他の薄膜シート、等)が介在しても良い。
TDへの延伸に加えてMDへの延伸を行うこと、特に、MD延伸後にTD延伸を行うことは、得られる微多孔膜の低透気度化と高耐電圧性能をより高度な次元で両立させる観点から好ましい。
【0026】
前記(B)工程における延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法が挙げられる。延伸する順序としては、TD延伸後にMD延伸を行うことも可能である。
MD延伸倍率としては、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下である。また、TD延伸倍率としては、好ましくは8倍以下、より好ましくは4倍以下である。
また、MD延伸倍率とTD延伸倍率との関係としては、MD延伸倍率≧TD延伸倍率となることが好ましい。
更に、面倍率としては、好ましくは100倍以下、より好ましくは50倍以下、更に好ましくは16倍以下、特に好ましくは10倍以下である。
このような延伸を行うことは、ボイドの発生や機械強度低下を抑制する観点から好ましい。
【0027】
なお、延伸を行う際には、ロールやテンター等、公知の延伸機を用いることができるが、延伸工程の一部にロールを用いることが、ポリオレフィン微多孔膜の低透気度化と高耐電圧性能とをより良好に発現させる観点から好ましい。
【0028】
MD延伸温度としては、膜を構成するポリオレフィン樹脂の融点温度を基準温度として、好ましくは融点温度−50℃以上、より好ましくは融点温度−30℃以上、更に好ましくは融点温度−20℃以上であり、上限として好ましくは融点温度+10℃以下である。延伸温度を融点温度−50℃以上とすることは、ポリオレフィン樹脂とフィラーとの界面、もしくはポリオレフィン樹脂と可塑剤との界面を良好に密着させ、ポリオレフィン微多孔膜の局所的かつ微小領域での耐圧縮性能を向上させる観点および、2枚の膜を一体化させる観点から好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂として高密度ポリエチレンを用いた場合、延伸温度としては115℃以上150℃以下が好適である。複数のポリオレフィン樹脂を混合し用いた場合は、その融解熱量が大きい方のポリオレフィン樹脂の融点を基準とすることができる。
【0029】
TD延伸温度としては、ポリオレフィン樹脂の融点温度を基準として、好ましくは融点温度+40℃以下、より好ましくは融点温度+30℃以下であり、下限として好ましくは融点温度以上である。温度を融点温度以上とすることは、膜の破れ等の発生を抑制し、また、ポリオレフィン微多孔膜の140℃条件下での熱収縮率を低減する観点および、2枚の膜を一体化させる観点から好適である。一方、融点温度+40℃以下とすることは、ポリオレフィン樹脂の収縮を抑制し、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率を低減する観点から好適である。
【0030】
なお、前記(B)工程の後、更に熱処理を施す工程や、後処理を施す工程が含まれていても良い。
熱処理の温度としては、ポリオレフィン樹脂の融点温度を基準として、好ましくは融点温度+40℃以下、より好ましくは融点温度+30℃以下であり、下限として好ましくは融点温度以上である。熱処理の温度を融点温度以上とすることは、膜の破れ等の発生を抑制し、また、ポリオレフィン微多孔膜の140℃条件下での熱収縮率を低減する観点から好適である。一方、融点温度+40℃以下とすることは、ポリオレフィン樹脂の収縮を抑制し、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率を低減する観点から好適である。
【0031】
また、後処理としては、例えば、界面活性剤等による親水化処理や、電離性放射線等による架橋処理、等が挙げられる。
【0032】
本実施の形態の製造方法により得られる微多孔膜の気孔率としては、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上であり、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下である。気孔率を50%以上とすることは、電池の出力を確保する観点から好適である。一方、90%以下とすることは、耐電圧性能や機械強度を確保する観点から好ましい。
【0033】
前記微多孔膜の、最終的な膜厚さとしては、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。膜厚さを2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好適である。一方、200μm以下とすることは、出力特性が維持され、電池の高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0034】
前記微多孔膜の透気度としては、好ましくは10秒以上、より好ましくは50秒以上であり、好ましくは1000秒以下、好ましくは500秒以下、さらに好ましくは300秒以下である。透気度を10秒以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好適である。一方、1000秒以下とすることは、良好な充放電特性が得る観点から好ましい。
【0035】
前記微多孔膜の耐電圧としては、膜厚80μm換算値において、好ましくは1.5kV以上、より好ましくは1.7kV以上である。耐電圧を1.5kV以上とすることは、蓄電デバイスの安全性確保の観点から好ましい。
【0036】
なお、上記気孔率、膜厚、透気度、耐電圧は、原料配合の調整、延伸温度や延伸倍率の調整、熱処理工程の温度の調整、等により調節可能である。
また、上述した各種パラメータの測定値は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【0037】
本実施の形態の製造方法により得られる微多孔膜は、特に非水電解液を用いるような蓄電デバイス用セパレータとして有用である。蓄電デバイスは一般に、ポリオレフィン微多孔膜をセパレータに用い、正極と、負極と、電解液とを含む。
前記蓄電デバイスは、例えば、前記微多孔膜を幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして調製し、当該セパレータを、正極―セパレータ―負極―セパレータ、または負極―セパレータ―正極―セパレータの順で重ね、円または扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得、当該巻回体を電池缶内に収納し、更に電解液を注入することにより製造することができる。
なお、前記蓄電デバイスは、正極―セパレータ―負極―セパレータ、または負極―セパレータ―正極―セパレータの順に平板状に積層し、袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程を経て製造することもできる。
【0038】
本実施の形態の製造方法により得られる微多孔膜を用いた蓄電デバイスは、高出力性能(低透気度)、信頼性(高耐電圧性能)に優れるので、電気自動車やハイブリッド自動車、電気二重層キャパシタ用として特に有用である。
【実施例】
【0039】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0040】
(1)膜厚(μm)
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて室温23℃で測定した。
【0041】
(2)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂とフィラーの各々の密度と混合比より計算で求められる値を用いた。
【0042】
(3)透気度(秒)
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製)にて測定した。比例計算により、80μm厚み当たりの値に換算した。
【0043】
(4)耐電圧(kV)
直径3cmのアルミニウム製電極で微多孔膜を挟み15gの荷重をかけ、これを菊水電子工業製の耐電圧測定機(TOS9201)に繋いで測定を実施した。測定条件は、交流電圧(60Hz)を1.0kV/secの速度でかけていき、短絡した電圧値を微多孔膜の耐電圧測定値とした。比例計算により、80μm厚み当たりの値に換算した。
なお、測定はTDに15点、かつMDに7点(合計105点)測定した値の最小値と最大値の値を用いて、「(最小値)〜(最大値)」の形で評価結果とした。
【0044】
(5)粘度平均分子量(Mv)
デカヒドロナフタリンへ試料の劣化防止のため2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.1w%の濃度となるように溶解させ、これ(以下DHNと略す)を試料溶媒として用いる。
試料をDHNへ0.1w%の濃度となるように150℃で溶解させ試料溶液を作成する。作成した試料溶液を10ml採取し、キャノンフェンスケ粘度計(SO100)により135℃での標線間通過秒数(t)を計測する。また、DHNを150℃に加熱した後、10ml採取し、同様の方法により粘度計の標線間を通過する秒数(t)を計測する。得られた通過秒数t、tBを用いて次の換算式により極限粘度[η]を算出した。
[η]=((1.651t/tB−0.651)0.5−1)/0.0834
求められた[η]より、次式によりMvを算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
【0045】
(6)融点
島津製作所社製DSC60を使用し測定した。試料3mgを直径5mmのアルミ製オープンサンプルパンに敷き詰め、クランピングカバーを乗せサンプルシーラーでアルミパン内に固定した。窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで30℃から200℃までを測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線のピークトップ温度を融点(℃)とした。
【0046】
(7)突刺強度
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(N)を得た。
【0047】
(8)引張強度
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG−A型(商標)を用いて、長さ方向(MD)及び幅方向(TD)のサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。また、サンプルはチャック間を50mmとした。引張強度(MPa)は、破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除することで求めた。なお、測定は、温度23±2℃、チャック圧0.30MPa、引張速度200mm/分で行った。
【0048】
(9)平均孔径
ASTM F−316−86に準拠し、ハーフドライ法により算出した。
【0049】
(10)最大孔径
ASTM E−128−61に準拠し、エタノール中でのバブルポイント(BP)により算出した。
【0050】
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)25万の高密度ポリエチレン「SH800」(旭化成ケミカルズ(株)製、融点135.5℃)12.8質量部、Mv100万の超高分子量ポリエチレン「UH650」(旭化成ケミカルズ(株)製、融点136.6℃)19.2質量部、平均一次粒径が15nmであるシリカ「LP」((株)東ソー・シリカ製)20質量部、酸化防止剤0.3質量部、可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DOP)48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ100μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜を2枚重ねて130℃に加熱のもとMDに5倍、ロールにて延伸した後、最大温度140℃に加熱のもとTDに1.7倍、テンターにて延伸した。
得られた膜は突刺強度37N、MDの引張強度29MPa、TDの引張強度5MPa、平均孔径0.20μm、最大孔径0.27μmであった。製膜条件およびその他の膜特性を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
実施例1のポリオレフィンの原料組成をMv25万のSH800を21.3質量部、Mv100万のUH650を10.7質量部に変更し、表1に示す条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
実施例1のポリオレフィンの原料組成をMv25万のSH800を29.9質量部、Mv100万のUH650を2.1質量部に変更し、表1に示す条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
実施例1のポリオレフィンの原料組成をMv25万のSH800を32質量部に変更し、表1に示す条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0054】
[実施例5]
Mv25万のSH800を12.8質量部、Mv100万のUH650を19.2質量部、シリカLPを20質量部、酸化防止剤0.3質量部、DOP48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ100μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜を3枚重ねて130℃に加熱のもとMDに5倍、ロールにて延伸した後、最大温度140℃に加熱のもとTDに1.7倍、テンターにて延伸した。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
Mv25万のSH800を12.8質量部、Mv100万のUH650を19.2質量部、シリカLPを20質量部、酸化防止剤0.3質量部、DOP48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ100μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜1枚を130℃に加熱のもとMDに5倍、ロールにて延伸した。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
Mv25万のSH800を12.8質量部、Mv100万のUH650を19.2質量部、シリカLPを20質量部、酸化防止剤0.3質量部、DOP48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ100μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜1枚を130℃に加熱のもとMDに5倍、ロールにて延伸した後、最大温度140℃に加熱のもとTDに1.7倍、テンターにて延伸を試みたが、途中で膜が破断したため延伸物は得られなかった。
【0057】
[比較例3]
Mv25万のSH800を12.8質量部、Mv100万のUH650を19.2質量部、シリカLPを20質量部、酸化防止剤0.3質量部、DOP48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ100μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜を2枚重ね130℃に加熱のもとMDに8.5倍ロールにて延伸した。製膜条件および膜特性を表1に示す。
【0058】
[比較例4]
Mv25万のSH800を12.8質量部、Mv100万のUH650を19.2質量部、シリカLPを20質量部、酸化防止剤0.3質量部、DOP48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ250μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し、水酸化ナトリウム水溶液でシリカを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜2枚を126℃に加熱のもとMDに6倍、ロールにて延伸した。製膜条件および、膜特性を表1に示す。
【0059】
[比較例5]
Mv25万のSH800を12.8質量部、Mv100万のUH650を19.2質量部、シリカLPを20質量部、酸化防止剤0.3質量部、DOP48質量部をヘンシェルミキサーで混合して造粒した。その後、T−ダイを装着した二軸押出機にて200℃で混練・押出し、厚さ400μmのシート状に成形した。該成形物から塩化メチレンにてDOPを抽出除去し、水酸化ナトリウム水溶液でシリカを抽出除去し微多孔膜とした。該微多孔膜2枚を126℃に加熱のもとMDに6倍、ロールにて延伸した後、最大温度138℃に加熱のもとTDに2倍、テンターにて延伸した。製膜条件および、膜特性を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から、実施例のポリオレフィン微多孔膜は、比較例のポリオレフィン微多孔膜に比べ、低透気度と高耐電圧性能とを両立することが分かった。また、実施例のポリオレフィン微多孔膜は、良好な延伸性をも有していた。実施例のポリオレフィン微多孔膜は一体化しており、剥れることなく400mの捲回体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、低透気度と高耐電圧性能とを両立し得るポリオレフィン微多孔膜の製造方法が提供される。得られるポリオレフィン微多孔膜は、特に、リチウムイオン電池用セパレータとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A),(B)の各工程、
(A)ポリオレフィン樹脂と、フィラーと、可塑剤とを含む原料組成物を混練してシートを形成するシート形成工程、
(B)(A)工程後、前記シートから前記可塑剤を抽出してフィラー含有微多孔シートを形成し、当該フィラー含有微多孔シートを2枚以上重ねてTDに延伸する延伸工程、
を含むポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【請求項2】
前記延伸工程が、前記フィラー含有微多孔シートをMD,TDの両方向にそれぞれ1回以上延伸する工程である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記延伸工程が、MD延伸後にTD延伸を行う工程である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記延伸工程が、MD延伸倍率≧TD延伸倍率を満たす工程である請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が30万以上1000万以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記フィラーがシリカ粉体である請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−202829(P2010−202829A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52195(P2009−52195)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】