説明

ポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布分析法

【課題】ポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布分析を簡便かつ短時間で行なうことのできる方法の提供。
【解決手段】温度上昇溶出法分析において、カラムオーブンの温度が−17℃以下の温度で流路に送液できる溶剤を溶離液に用いてポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する方法。溶液中のポリマー成分を担体に担持する条件が、カラム温度を−17℃以下に冷却して3時間以上保持することが好ましい。使用する溶剤としては1〜10%(V/V)のアセトンを含むモノクロルベンゼンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの分離分析法に関する。さらに詳細には、温度上昇溶出法(TREF:Temperature Rising Elution Fractionation)を用いてポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する分離分析法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TREFは、結晶性の高いエチレン/α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/ブテン共重合体等の結晶性ポリオレフィンを対象として、その組成分布、立体規則性分布、結晶性分布の分析に利用されている(非特許文献1)。
【0003】
結晶性ポリオレフィンの組成分布や結晶性分布を行なうためのTREFの装置例としては、一般的には、溶離液を送液する送液ポンプ、試料溶液をカラムに注入する注入バルブ、担体を充填させたカラム、ポリマー濃度を検出する検出器、注入バルブとカラムを温調するカラムオーブンを有してなる。
【0004】
送液ポンプから溶離液が装置外に排出されるまでの間は溶離液を流す管で接続され、更に、オーブン以降、溶離液が排出されるまでの流路は試料ポリマーが溶離液に溶解する温度以上で溶離液の沸点以下の温度に加熱される。送液ポンプで送液された溶離液は注入バルブ、カラム、検出器の順に流れて廃液として排出される。必要により各構成機器はパーソナルコンピューター等を用いて制御する。
【0005】
TREFによる一般的な分析法としては、通常、以下の工程により行なう。
(1) カラムオーブンとオーブン以降、溶離液が装置より排出されるまでの流路とを、試料ポリマーが溶離液に溶解する温度以上でかつ溶離液の沸点以下の温度に加熱する(装置準備工程)。
(2) 所定濃度となるように溶離液で試料ポリマーを加熱溶解して試料溶液を作製する(試料調整工程)。
(3) 注入バルブを用いて試料溶液を注入して送液ポンプで溶離液を所定量送液することによりカラム中央に注入溶液を位置付けた後にオーブン温度を下げてほとんどの試料ポリマーが析出する所定の温度とする(担持工程)。
(4) 所定の流量で溶離液の送液を開始するとともにオーブン温度を所定の速度で昇温させる。これにより、カラム内で析出したポリマーはオーブン温度の上昇とともに溶けやすい成分より順に溶離液に溶解し、カラムから溶出されて検出器に送られる(溶出工程)。
(5) カラムより溶出された液に溶解しているポリマー成分を赤外分光器等の検出器を用いて検出する(検出工程)。
(6) 昇温時のオーブン温度とその温度で溶出したポリマー量またはポリマーの相対濃度をプロットすることにより、試料の組成分布や結晶性分布等と密接に相関する温度上昇分別曲線が得られる。また、試料ポリマー種の組成や結晶性と試料が溶出する温度との相関を捉えれば、温度上昇分別曲線を組成分布や結晶性分布に変換することができる(データ処理工程)。
【0006】
ここで、結晶性ポリオレフィンの組成分布や結晶性分布の分析のためのTREFに用いる溶離液(溶剤)は、試料ポリマーを溶解し得ることが必要であり、また、TREFでは検出器として一般に赤外分光器を利用していることから使用する溶剤は試料と赤外吸収が重ならないことが必要である。このことから、TREFでは、溶剤として一般的にo−ジクロロベンゼン(以下、ODCBと略す)が用いられている。
【0007】
しかし、結晶性が低いか非晶性であるポリオレフィン系共重合ゴムは、室温においてもODCB等の溶剤に溶解する割合が多い。またODCBの融点は−17℃であるため、それを溶離液として用いたTREF分析の溶出温度範囲は−15〜140℃となるが、−15℃程度まで温度を下げてもポリオレフィン系共重合ゴムには溶解する成分が存在することが多い。したがって、実際上、TREFではポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析することはできなかった。
【0008】
ポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する方法としては、ポリオレフィン系共重合ゴムに対する溶解力の異なる幾つかの溶剤を利用する方法が知られている。具体的には、ポリオレフィン系共重合ゴムに対する溶解力の異なる幾つかの溶剤を用意し、まず溶解力の弱い溶剤を用いて抽出して可溶成分と不溶成分に分離する。その後、前記不溶成分を溶解力がやや強い溶剤を用いて抽出し、可溶成分と不溶成分に分離する。これを繰り返すことにより幾つかの成分に分画するとともに、分画した成分の組成分析等のキャラクタリゼーションを行う方法である(非特許文献2)。この方法では、使用できる溶剤の種類が限られており分画できる数が限定されることから詳細な組成分布を得るのは困難であるとともに、分析に要する時間や手間がかかる。
上述のような状況において、ポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布分析の精度向上と分析に要する時間の低減が望まれていた。
【0009】
【非特許文献1】AOYAGIら、「Improved Temperature Rising Elution Fractionation Method for the Study of Structural Distribution in Ethylene-alfa-olefin Copolymer」、Bulletin of the Institute for Chemical Research, Kyoto University、1991年、第69巻、第2号、177−183ページ
【非特許文献2】井上ら、「エチレン・プロピレン系ゴムの組成分布」、高分子論文集、1987年、第44巻、第1号、59−66ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布分析を簡便かつ短時間で行なうことのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成からなるポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する方法である。
[1]温度上昇溶出法分析において、カラムオーブンの温度が−17℃以下の温度で流路に送液できる溶剤を溶離液に用いてポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する方法。
[2]溶液中のポリマー成分を担体に担持する条件が、カラム温度を−17℃以下に冷却して3時間以上保持するものである前記1に記載の方法。
[3]前記溶剤が1〜10%(V/V)のアセトンを含むモノクロルベンゼンである前記1または2に記載の方法。
[4]検出器がFT−IRである前記1〜3のいずれかに記載の方法。
[5]ポリオレフィン系共重合ゴムが、その50質量%以上が−10℃のo−ジクロロベンゼンに溶解するものである前記1〜4のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分離分析法によれば、従来利用できなかった−17℃以下の低温領域でのTREF分析が可能になったことから、前記低温領域で初めて担持化できるポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布をTREFにより分析することができ、またTREF分析法が適用できるようになったことから組成分析に要する手間及び時間を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のTREFを用いたポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する分離分析法では、−17℃以下の温度で溶離液として使用できる溶剤を用いて分析を行なう。具体的には、カラムオーブンの温度が−17℃以下の温度においてTREFのカラム等の流路(管路)に送液できる溶剤を溶離液として用いて分析を行なう。−17℃で溶離液をカラム等の流路に送液できるとは、溶出時のポンプ流量で溶離液を送液した場合、温度(オーブン温度)を−17℃としたときの送液圧力が温度を25℃とした時の送液圧力に比べて1.5MPa以内の昇圧で送液できることをいう。
−17℃以下の温度は、好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−22℃以下である。下限は、使用する溶剤の融点より高い温度である。
【0014】
TREF分析の観点から、溶離液は、測定温度域において試料ポリマーを溶解することができるとともに、TREFで使用する検出器で溶出試料の検出結果に影響を与えないことが必要がある。TREFでは、検出器として一般に赤外分光器が使用されていることから、溶離液は溶出試料と赤外吸収が重ならないものを使用することが望ましい。
【0015】
このような条件を満足する溶剤としては、融点が−45℃であるモノクロルベンゼン(以下、MCBと略す)、融点が−68℃である1,1,1,2−テトラクロロエタン、融点が−42℃である1,1,2,2−テトラクロロエタンなどが挙げられる。このような溶媒は単独溶剤としても2種以上混合した混合溶剤としても良い。
【0016】
このような溶剤を溶離液に用いることにより、融点が−17℃であるODCB(o−ジクロロベンゼン)を溶離液とするTREF分析より低い温度範囲で分析することが可能となる。ODCBを溶離液とするTREF分析では、溶出開始温度をODCBの融点近くまで下げても、その温度で多くが溶解してしまうような結晶性が低いポリオレフィン系共重合ゴムや非晶性エポリオレフィン系共重合ゴムの組成分析はできないが、上記のような溶剤を用いて、より低い温度範囲を用いて分析することにより、組成分析が可能となる。
【0017】
試薬として市販されているMCB(例えば和光純薬株式会社製)には、特級品であってもMCBに比べて融点が高いベンゼンやトリクロルベンゼン等の不純物が1%前後含まれている。そのため、−17℃以下の温度に冷却されたMCB中では不純物のベンゼンやトリクロルベンゼンが氷結することがある。不純物が氷結すると、その氷結物により装置内の微細な流路が閉塞することがある。
【0018】
具体的には、装置構成が液体クロマトグラフィーと同じTREFにおいては、溶離液が流れる配管には内径=0.25〜0.8mmの金属チューブが使われる。また、担体が充填されているカラムでは、担体の流出を防ぐためにカラムエンドフィルターに2〜100μm孔を有する焼結フィルターが使われている。装置内のこのような微細な流路はMCB中の氷結した不純物により閉塞されることがあることから、送液ポンプでの送液が困難となることがある。したがって、市販レベルのMCBでは−17℃以下でのTREF分析は問題が生じる可能性が高い。
【0019】
MCBとして、高度に精製したものを用いることもできるが、好ましくは融点が低くMCBや−10℃以下で氷結する不純物と相溶する溶媒を加える。加える溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノンなどが挙げられ、その濃度は1〜10vol%、好ましくは3〜7vol%程度である。アセトンを数vol%程度含むMCBは、試料ポリマーを溶解し、赤外分光器によるポリマー成分を検出に悪影響を及ぼすことなく、−17℃以下の温度においても不純物による氷結が生じずカラム等の流路に送液でき、よって−17℃以下の温度域での測定を含むTREF分析の溶離液として好ましく利用できる。
【0020】
本発明で使用するTREFの装置例としては、前述の背景技術の欄に記載するような、結晶性ポリオレフィンの組成分布や結晶性分布の測定に使用する一般的なものが挙げられ、TREF分析の工程としても、前述の背景技術の欄に記載するような一般的な手順により行なうことができるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0021】
本発明で分析可能なポリマーとは、構成単位とよばれる一種または数種の原子または原子団が互いに数多く繰り返し結合していることを特徴とする物質で、ガラス転移温度がほぼ一定となる等、物理的、化学的性質が分子量によって変化しない程度の分子量を有する物質である。一般的には、2個以上のモノマーが重合して高分子になったものであり、1種類のモノマーが重合してできたホモポリマー、2種類以上のモノマーが重合してできたコポリマー(共重合体)がある。
【0022】
本発明の分析方法に適したポリオレフィン系共重合ゴムとしては、代表的にはポリオレフィン系共重合体が挙げられ、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレンとα−オレフィンおよび/または共役ジエンや非共役ジエン等の多不飽和化合物との共重合体が挙げられる。
【0023】
α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等が挙げられる。
【0024】
多不飽和化合物としては、例えばジビニルベンゼン、ノルボルナジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、ビニルノルボルネン、ビニルシクロヘキセン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。好ましくはノルボルナジエン、シクロペンタジエンである。
【0025】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的にはエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体等が挙げられる。
プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的にはプロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−4−メチルペンテン−1共重合体等が挙げられる。
エチレン−プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、具体的にはエチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキセン−1共重合体等が挙げられる。
エチレンとα−オレフィンおよび/または共役ジエンや非共役ジエン等の多不飽和化合物との共重合体としては、具体的にはエチレン−プロピレン−ジビニルベンセン共重合体、エチレン−プロピレン−ノルボルナジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体等が挙げられる。
【0026】
本発明の分析方法に適したポリオレフィン系共重合ゴムとしては、結晶性が低いポリオレフィン系共重合体で、−10℃のODCBに試料の50質量%以上が溶解するとともに、150℃のODCBへの溶解成分量が80℃のODCBへの溶解成分量に対して5質量%以内の増加であるものが好ましい。
【0027】
以上のとおり、本発明を具体的に説明したが、本発明は上記の具体的な例示に限定されるものではなく、必要に応じて、適宜、種々の変更を行って実施することができる。
【実施例】
【0028】
実施例及び比較例では以下の構成を有するTREF分析装置を使用した。
(1) デガッサー:ESR−3322(株式会社エルマー製);
(2) 送液ポンプ:CCPM(東ソー株式会社製);
(3) カラムオーブン:Silvery Prince(株式会社カトー製);
(4) 注入バルブ:バルコ社製6方バルブ、注入容積:7.5ml;
(5) カラムサイズ:21mm(ID)×150mm(L);
(6) 担体:ガラスビーズ 0.15〜0.17mmΦ;
(7)検出器:フェーリエ変換赤外分光器 Spectrum One(パーキン・エルマ製)、セル長=1mmのフローセルを用いた;
(8) 制御装置:分析条件で分析するためにSC−8010(東ソー株式会社製)を用いて送液ポンプ、オーブン、検出器を制御した;
(9) 溶離液がオーブンから装置外に排出するまでの配管は80℃に加熱した。
【0029】
実施例1:
エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体(エスプレンE512F:住友化学株式会社製)を以下のTREF条件で分析を行って温度上昇分別曲線を得た。
TREF分析条件:
(a) 溶離液:MCB/アセトン=95/5(容積比、混合溶剤18リットルに安定剤BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を1.8g添加した。);
(b) 注入時の試料濃度:1(wt/vol%);
(c) 試料注入時のオーブン温度:80℃;
(d) オーブン冷却条件:80℃より−20℃まで冷却速度=0.25℃/min.で冷却した後に、−20℃で4Hr保持した;
(e) 流量を2ml/min.として昇温開始から80℃まで送液した;
(f) 溶出時のオーブン昇温条件:−20℃より80℃まで昇温速度=0.25℃/min.で昇温した;
(g) 溶出ポリマーの検出:オーブン温度が−20〜80℃の間で1℃毎に赤外分光器で赤外スペクトルを測定した。赤外分光の測定条件は分解能を8cm-1として積算回数が100回である。赤外スペクトルでポリマー量を求める際はベースラインを赤外波数2730cm-1と2440cm-1を結んだ直線として、2975〜2820cm-1間の吸収面積を用いた。
【0030】
分析手順は、作製した試料溶液を注入バルブと送液ポンプを用いて80℃に温調したオーブン内のカラム中央に位置付けた後に送液を停止して、オーブン冷却条件でオーブンを冷却した。オーブン温度を−20℃で保持した後に送液とオーブンの昇温を開始するとともにカラムから溶出するポリマー成分を検出器で検出した。
【0031】
赤外分光器が各溶出温度で検出した試料の吸収面積を全ての溶出温度で検出した試料の吸収面積の100分率を溶出量(質量%)とした。また、溶出量を低温より累積した値を累積溶出量(質量%)とした。
【0032】
上記条件により得られた温度上昇分別曲線(溶出温度と溶出量及び溶出温度と累積溶出量により作図したグラフ)を図1および図2に示す。
図1および図2から読み取れるように、本条件では−20℃の溶出開始温度付近での溶出量は試料中の21質量%であり、残りの79質量%は溶出温度=−15〜50℃の広い温度範囲で溶出している。
【0033】
比較例:
実施例1で使用したものと同じエチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体(エスプレンE512F:住友化学株式会社製)を以下のTREF条件で分析を行って温度上昇分別曲線を得た。ただし、溶離液がオーブンから装置外に排出するまでの配管は145℃に加熱した。
TREF分析条件
(a) 溶離液:ODCB(ODCB18リットルに安定剤BHTを1.8g添加した);
(b) 注入時の試料濃度:1(wt/vol%);
(c) 試料注入時のオーブン温度:145℃;
(d) オーブン冷却条件:145℃より120℃までを冷却速度=1℃/min.で冷却後、120℃より−10℃までは冷却速度=0.25℃/min.で冷却後、−10℃で2Hr保持した;
(e) 流量を2ml/min.として昇温開始から145℃まで送液した;
(f) 溶出時のオーブン昇温条件:−10℃より120℃までを昇温速度=0.25℃/min.で昇温後、120℃より145℃までは昇温速度=1℃/min.で昇温した;
(g) 溶出ポリマーの検出:オーブン温度が−10〜120℃の間を1℃毎に赤外分光器で赤外スペクトルを測定した。赤外分光の測定条件は分解能を8cm-1として積算回数が100回である。赤外スペクトルでポリマー量を求める際はベースラインを赤外波数2730cm-1と2440cm-1を結んだ直線として、2975〜2820cm-1間の吸収面積を用いた。
【0034】
分析手順は、作製した試料溶液を注入バルブと送液ポンプを用いて145℃に温調したオーブン内のカラム中央に位置付けた後に送液を停止して、オーブン冷却条件でオーブンを冷却した。オーブン温度を−10℃で保持した後に送液とオーブンの昇温を開始するとともにカラムから溶出するポリマー成分を検出器で検出した。
【0035】
各溶出温度で赤外分光器が検出した試料の吸収面積を全ての溶出温度で検出した試料の吸収面積の百分率を溶出量(質量%)とした。また、溶出量を低温より累積した値を累積溶出量(質量%)とした。
上記条件により得られた温度上昇分別曲線(溶出温度と溶出量及び溶出温度と累積溶出量により作図したグラフ)を図3および図4に示す。
図3および図4から読み取れるように、本条件では−10℃の溶出開始温度付近で試料中の85質量%が分離しないで溶出していることから、試料の組成分布特性を知ることができないことがわかる。
【0036】
実施例1と比較例とから明らかなように、比較例ではオーブン温度を下げても注入した試料溶液が溶液状態のままで溶出開始時に溶出した溶出量は85質量%であったのに対して、実施例1では溶出開始時に溶出した溶出量は21質量%へと大幅に低下した。すなわち、従来、TREFにより分析することができなかったポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布分析が本発明の方法に従えば行えるようになった。
【0037】
実施例2:
実施例1と同一分析条件でエチレン−オクテン−1共重合体(ENGAGE8200:デュポンダウエラストマー社製)の分析を行って温度上昇分別曲線を得た。得られた温度上昇分別曲線(溶出温度と溶出量により作図したグラフ)を図5に示す。
E512Fより高エチレン含量であるENGAGE8200は、E512Fに比べて高い溶出温度を示すとともに、−20℃の溶出開始温度付近での溶出量は試料中の2質量%と非常に少ないものであった。
【0038】
実施例1及び2において、赤外分光器により得られた各溶出温度での赤外スペクトルを用いてメチル基とメチレンの吸光度比を求めて溶出温度に対してプロットしたグラフを図6に示す。吸光度算出に用いたメチル基とメチレンの赤外吸収波数は2955cm-1と2927cm-1であり、赤外波数2730cm-1と2440cm-1を結んだ直線をベースラインとした。図中、○が実施例1、◇が実施例2である。
図6から明らかなように、エチレン/α−オレフィン共重合体でのメチル基とメチレンの吸光度比はエチレン含量と相関して、低エチレン含量(実施例1)では吸光度比は高く、高エチレン含量(実施例2)では吸光度比は低くなる。
図6に示した各溶出温度での吸光度比は溶出温度に対して負の相関を示すことから、実施例に用いたポリオレフィン系共重合ゴムの溶出温度はエチレン含量と正の相関があるといえる。これは本発明の分離分析法が共重合体をエチレン含量によって分離することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1により求めたE512Fの温度上昇分別曲線(溶出温度と溶出量をプロット)である。
【図2】実施例1により求めたE512Fの温度上昇分別曲線(溶出温度と累積溶出量をプロット)である。
【図3】比較例により求めたE512Fの温度上昇分別曲線(溶出温度と溶出量をプロット)である。
【図4】比較例により求めたE512Fの温度上昇分別曲線(溶出温度と累積溶出量をプロット)である。
【図5】実施例2により求めたENGAGE8200の温度上昇分別曲線(溶出温度と溶出量をプロット)である。
【図6】実施例1と実施例2をもとにしたTREF本分析条件時の溶出温度と赤外分光によるメチル基とメチレンの吸光度比の相関関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度上昇溶出法分析において、カラムオーブンの温度が−17℃以下の温度で流路に送液できる溶剤を溶離液に用いてポリオレフィン系共重合ゴムの組成分布を分析する方法。
【請求項2】
溶液中のポリマー成分を担体に担持する条件が、カラム温度を−17℃以下に冷却して3時間以上保持するものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶剤が1〜10%(V/V)のアセトンを含むモノクロルベンゼンである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
検出器がFT−IRである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリオレフィン系共重合ゴムが、その50質量%以上が−10℃のo−ジクロロベンゼンに溶解するものである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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