説明

ポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物

【課題】 ポリオレフィン系樹脂に対する密着性に優れ、しかも極性を有する塗料用樹脂との相溶性や溶液安定性にも優れたコーティング組成物およびその製造方法を提供する。【解決手段】 塩素化ポリオレフィンに(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールをグラフト重合させた後に、(メタ)アクリル酸系モノマーをグラフト共重合させたポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物の製造方法。塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は16〜35重量%である。(メタ)アクリル酸系モノマーと塩素化ポリオレフィンとの質量比は50:50〜97:3である。(メタ)アクリル酸系モノマーは(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールを5〜30重量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂との密着性に優れたコーティング組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は、優れた性質を持ち安価であることから、自動車部品等に多量に使用されている。しかしながら、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の極性を有する合成樹脂とは異なり、非極性でかつ結晶性のため、塗装や接着が困難であるという不都合を有する。
【0003】
そのため、このようなポリオレフィン系樹脂成形品の表面をプラズマ処理やガス炎処理して活性化することにより付着性を改良することが行われている。しかし、この方法は、工程が複雑で多大な設備費や時間的ロスを伴うこと、また成形品の形の複雑さおよび顔料や添加物の影響により、表面処理効果にバラツキを生ずる等の不都合を有している。
【0004】
そこで、従来より、このような表面処理(前処理)なしに塗装する方法としては、自動車のポリプロピレンバンパー塗装に見られるようなプライマー組成物を用いる方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、塩素化ポリプロピレンと液状ゴムへのラジカル重合性不飽和物のグラフト重合により、ポリオレフィンと他の極性樹脂との両者に付着するバインダーとしての効果が確認されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特公平6−2771号公報
【特許文献2】特公平3−60872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、プライマー組成物や上塗り塗料に含まれるアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系樹脂等との相溶性が悪く、均一なフィルムを形成するのが困難であった。また、液状ゴムを使用した変性物は、塗膜にタックが生じることがあり、相溶性、溶液安定性を十分に改善することはできなかった。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、ポリオレフィン系樹脂に対する密着性に優れ、しかも、極性を有する塗料用樹脂との相溶性や溶液安定性にも優れたコーティング組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、塩素化ポリオレフィンと(メタ)アクリル酸系モノマーをグラフト共重合して得られる変性塩素化ポリオレフィンにより、溶液安定性、密着性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物は、塩素化ポリオレフィンに(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールがグラフト重合された後に、(メタ)アクリル酸系モノマーがグラフト共重合されてなるものである。
【0010】
また、塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が16〜35重量%となされたものであってもよい。
【0011】
さらに、(メタ)アクリル酸系モノマーと塩素化ポリオレフィンとの質量比が50:50〜97:3となされたものであってもよい。
【0012】
さらに、(メタ)アクリル酸系モノマーが(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールを5〜30重量%含むものであってもよい。
【0013】
本発明のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物の製造方法は、塩素化ポリオレフィンに(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールをグラフト重合させた後に、(メタ)アクリル酸系モノマーをグラフト共重合させるものである。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物を製造するには、まずポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種以上を塩素化して塩素化ポリオレフィン(a)を得る。
【0016】
本発明において使用するポリプロピレンおよびプロピレン−α−オレフィン共重合体は、結晶質、非晶質にかかわらない。プロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体として、これにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのを1種または数種用いることができる。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率には特に制限はないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが望ましい。
【0017】
この塩素化は、例えば、塩素系溶媒中にポリオレフィンを溶解し、ラジカル触媒の存在下または不存在下で、塩素含有率が16〜35重量%になるまでは塩素ガスを吹き込んで行うことができる。塩素系溶媒としては、例えば、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム等が挙げられる。溶解、反応温度としては、塩素系溶媒中でポリオレフィンが溶解する温度以上が望ましい。
【0018】
このグラフト共重合においては、酸変性塩素化ポリオレフィンと(メタ)アクリル酸系モノマーの重量比が50:50〜10:90となるようにするのが好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸系モノマーを50〜90重量%グラフト共重合するのが好ましい。(メタ)アクリル酸系モノマーが50重量%未満では、ポリウレタン系塗料樹脂、ポリエステル系塗料樹脂等の各種極性塗料樹脂に対する相溶性が低下する傾向があり、90重量%を超えると、相溶化剤として他の塩素化ポリオレフィンとの相溶性が低下する傾向がある。
【0019】
グラフト共重合させる(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ポリプロピレングリコール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ポリプロピルグリコール等が挙げられる。
【0020】
なお、塗料の構成を考えた場合、塩素化ポリオレフィンと他樹脂(アクリル樹脂とかアルキッド樹脂)を混合使用することが常です。この時、極性の低い塩素化ポリオレフィンと比較的極性の高い他樹脂は相溶性が悪いため、溶液の層分離とか接着不良が懸念される。したがって、塩素化ポリオレフィンに極性の高い水酸基を導入すれば、このような溶液の層分離とか接着不良を懸念することなく、他樹脂との相溶性を飛躍的に向上させることができる。そのため、グラフト共重合は、目的組成物の溶液安定性の点から、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールを共重合して極性の高い水酸基を導入した後に、(メタ)アクリル酸系モノマーを共重合し、グラフト共重合させた(メタ)アクリル酸系モノマーの中に、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールが5〜30重量%含まれた状態とすることが好ましい。この状態は、例えば、先にグラフト共重合する(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールの使用量で調整することができる。(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールが5重量%未満だと、目的組成物の溶液安定性が悪くなり2層分離する傾向がある。一方、30重量%を超えると、ポリウレタン塗料等との相溶性が悪くなり塗膜性能が乏しくなる傾向がある。
【0021】
グラフト共重合の際に用いられるラジカル発生剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物を使用できるが、有機過酸化物を使用するのが好ましい。
【0022】
溶剤としては、トルエン等の芳香族溶剤、メチルシクロヘキサン等の脂環式化合物、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、イソプロピルアルコール(IPA)、変性アルコール等のアルコール系溶剤や、これらの混合溶剤等を用いても良い。
【0023】
本発明の組成物は、顔料を添加し、混練りして使用することができる。顔料としては、カーボンブラック、二酸化チタン、タルク、亜鉛華、アルミペースト等の無機系顔料や、アゾ系等の有機系顔料が使用できる。また、得られる樹脂組成物溶液は、実用濃度において均一な溶液であり、これをフィルム等にキャストしたコーティング膜は、均一で透明である。このため、ワンコート塗料として用いても、塗膜光沢性が良好な塗膜が得られる。また、必要があれば、耐摩耗性向上のためのポリエチレンワックスやブロッキング防止のための二酸化珪素等の添加剤を添加しても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物は、ポリオレフィン系樹脂に対する密着性に優れ、溶液安定性も良好である。また、極性を有する塗料用樹脂との相溶性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
撹拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコ中で、塩素化ポリオレフィン(塩素含量28重量%)15.25重量部をトルエン52.5重量部に溶解し、95℃で1時間加熱した。その中にメタクリル酸ポリプロピレングリコール5.25重量部、ベンゾイルパーオキサイド0.25重量部を添加し、十分な撹拌を行いながら、反応を1時間した。その後、メタクリル酸メチル42重量部、メタクリル酸イソブチル21重量部、メタクリル酸2−エチルヘキシル15.75重量部、メタクリル酸0.25重量部、トルエン30重量部およびベンゾイルパーオキサイド0.5重量部を十分に混合した溶液を3時間かけて滴下した。十分に撹拌を行いながら、反応を4時間継続した後、トルエン82重量部を加え冷却した。
【0027】
得られた樹脂溶液の濃度は40重量%で25℃での溶液粘度は180mPa・sであった。
【0028】
実施例2
実施例1のメタクリル酸イソブチルの代わりにアクリル酸n−ブチルを用いる以外は実施例1と同様にして、グラフト共重合を行い、樹脂溶液を得た。
【0029】
比較例1
メタクリル酸ポリプロピレングリコールを予め添加せずに、グラフト共重合する際に他の(メタ)アクリル酸系モノマーと混合して滴下した以外は実施例1と同様にして、樹脂溶液を得た。
【0030】
比較例2
メタクリル酸ポリプロピレングリコールの代わりにアクリル酸2−エチルヘキシルを用いる以外は実施例1と同様にして、グラフト共重合を行い、樹脂溶液を得た。
【0031】
比較例3
メタクリル酸ポリプロピレングリコールの代わりにメタクリル酸2−エチルヘキシルを用いる以外は実施例1と同様にして、グラフト共重合を行い、樹脂溶液を得た。
【0032】
実施例1、2および比較例1、2、3で得られた樹脂溶液について、溶液安定性および密着性を、以下の方法で行った。結果を表1に示す。
【0033】
溶液安定性:室温で2週間放置した時の溶液状態を確認した。
【0034】
1C(ワンコート)評価用塗板:変性塩素化ポリオレフィンと、ポリプロピレン(PP)板との密着性確認のため、変性塩素化ポリオレフィン溶液(樹脂分20重量%トルエン溶液)に酸化チタンを樹脂分に対して0.5重量%添加して十分撹拌した後、イソプロパノール(IPA)で表面を拭いたPP板上に、乾燥後の塗膜厚が10μmになるようにスプレー塗装した。塗装後80℃で30分間乾燥させた。その後、48時間室温で養生することで、密着性の評価用塗板を得た。
【0035】
2C(ツーコート)評価用塗板:変性塩素化ポリオレフィンと、ポリプロピレン(PP)板との密着性確認のため、変性塩素化ポリオレフィン溶液(樹脂分20重量%トルエン溶液)を、イソプロパノール(IPA)で表面を拭いたPP板上に、乾燥後の塗膜厚が10μmになるようにスプレー塗装した。塗装後80℃で10分間乾燥させた。次に2液硬化ウレタン塗料主剤(関西ペイント株式会社製レタンPG80)および同硬化剤を100:25重量比で混合し、シンナーを塗布量が50〜60g/m2 になるように調合し、スプレー塗装した。塗装後80℃で30分間乾燥させた。その後、48時間室温で養生することで、密着性の評価用塗板を得た。
【0036】
密着性:付着性(JISK5600に準ずる)
ゴバン目(2mm間隅)状になるように、縦横5×5マス(計25マス)になるように、塗膜にカッターで切り込みを入れセロハンテープ(ニチバン(株)製のNo.405)を貼り、25個の塗膜のマスと、セロハンテープとを完全に密着させた。
【0037】
1〜2分後、上記セロハンテープ(瞬間的に)塗膜表面から剥離させ、残存するマスの数をカウントした。
【0038】
【表1】









表1中の略号の意味は次の通りである。MMA :メタクリル酸メチル、i−BMA:メタクリル酸イソブチル、n−BA:アクリル酸n−ブチル、EHMA:メタクリル酸2−エチルヘキシル、PGMA:メタクリル酸ポリプロピレングリコール、MAA:メタクリル酸。
【産業上の利用可能性】
【0039】
ポリオレフィン系樹脂の表面を塗装する場合の塗料の下塗りまたは塗料の添加剤として利用したり、ポリオレフィン系樹脂の表面のコーティング剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリオレフィンに(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールがグラフト重合された後に、(メタ)アクリル酸系モノマーがグラフト共重合されてなることを特徴とするポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物。
【請求項2】
塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が16〜35重量%である請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸系モノマーと塩素化ポリオレフィンとの質量比が50:50〜97:3である請求項1または2に記載のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸系モノマーが(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールを5〜30重量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物。
【請求項5】
塩素化ポリオレフィンに(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールをグラフト重合させた後に、(メタ)アクリル酸系モノマーをグラフト共重合させることを特徴とするポリオレフィン系樹脂用コーティング組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−282928(P2006−282928A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107320(P2005−107320)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000222554)東洋化成工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】