説明

ポリオレフィン系樹脂発泡体及び透気防水フィルター

【課題】実用に充分な透気性と防水性とが、長期に渡って持続するポリオレフィン系樹脂発泡体を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂を含む壁により区画された複数の気泡を有するポリオレフィン系樹脂発泡体であって、見掛け密度が30〜100kg/m3、連続気泡率が80%以上、気泡破れ率が5〜30%であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡体及び透気防水フィルターに関する。更に詳しくは、本発明は、長時間の使用によっても優れた透気性を有する透気防水フィルター及びそれを与えるポリオレフィン系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂発泡体は、高強度で柔軟性に優れることから、緩衝材、包装材、パッキン材等として広く用いられている。通常これら用途では、独立気泡率の高い発泡体が使用されている。
上記以外の用途として、透気防水フィルターがある。具体的には、電子部材を構成するエアフィルターが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂発泡体は、高強度で柔軟性に優れ、更に耐薬品性及び耐熱性も優れていることから、このフィルターとして使用できれば有用である。しかし、ポリオレフィン系樹脂発泡体は、一般に、透気性がなく、エアフィルターとして使用できなかった。
【0003】
ところで、発泡体に透気性を付与するには、独立気泡率を下げ、連続気泡率を上げることが考えられる。しかし、連続気泡率を上げると、水が通過することがあり、防水性が低下することになるため、連続気泡率の調整のみで透気性と防水性を実現することは困難である。
このような現状の下で、透気性と防水性とを高い次元で両立させたポリオレフィン系樹脂発泡体が、特開2011−74127号公報(特許文献1)に示されている。この公報では、透湿度とガーレー透気抵抗度を特定の範囲とすることで、優れた透気性と防水性とを有するポリオレフィン系樹脂発泡体が得られたとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−74127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に記載されたポリオレフィン系樹脂発泡体においても、実用に充分な透気性と防水性とを有している。しかしながら、より過酷な条件でこれら性質が長期に渡って要求される用途に使用するために、更に透気性と防水性を改善することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、連続気泡からなるポリオレフィン系樹脂発泡体を透気性フィルターとして用いた場合に、連続気泡率が同じであっても長期に渡る使用において、透気性の低下度が異なることを観察した。この知見を元に、発明者等は鋭意検討した結果、連続気泡発泡体を構成する個々の気泡を区画するポリオレフィン系樹脂製の壁に形成されている破れの割合を調整することで長期に渡る使用において、ほこりや粉じんによる連続気泡の目詰まりが抑制され、その結果、上記性質の低下を抑制できることを意外にも見い出し本発明に至った。
【0007】
かくして本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂を含む壁により区画された複数の気泡を有するポリオレフィン系樹脂発泡体であって、見掛け密度が30〜100kg/m3、連続気泡率が80%以上、気泡破れ率が5〜30%であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体が提供される。
更に、本発明によれば、上記ポリオレフィン系樹脂発泡体から構成された透気防水フィルターが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、実用に充分な透気性と防水性とが、長期に渡って持続するポリオレフィン系樹脂発泡体を提供できる。このようなポリオレフィン系樹脂発泡体は、透気防水フィルターとして特に有用である。
気泡の平均気泡径が、0.02〜0.20mmである場合、実用に充分な透気性と防水性とが、より長期に渡って持続するポリオレフィン系樹脂発泡体を提供できる。
厚さが0.1〜3mmである場合、実用に充分な透気性と防水性とが、より長期に渡って持続するポリオレフィン系樹脂発泡体を提供できる。
両主表面に気泡断面を露出させた状態でのガーレー透気抵抗度が0.1〜100秒/100mLである場合、実用に充分な透気性と防水性とが、より長期に渡って持続するポリオレフィン系樹脂発泡体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1のポリオレフィン系樹脂発泡体の断面の写真である。
【図2】比較例1のポリオレフィン系樹脂発泡体の断面の写真である。
【図3】本発明の一実施形態を示す円環ダイの概略断面図である。
【図4】本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体の断面の2値化前後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ポリオレフィン系樹脂発泡体)
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体(以下、単に発泡体とも称する)は、複数の気泡と、複数の気泡を気泡ごとに区画するポリオレフィン系樹脂を含む壁とを有している。更に、本発明の発泡体は、個々の気泡を区画する多くの壁が、破れを有していること、すなわち、気泡破れを有することを特徴の1つとしている。例えば、図1は気泡破れを多く有している本発明の発泡体の断面の走査電子顕微鏡写真、図2は気泡破れの少ない発泡体の断面の走査電子顕微鏡写真である。これら写真から、本発明の発泡体は、個々の気泡に多くの破れがあることがわかり、本発明の発泡体は、後述する特定の比率で気泡破れを有することにより、長時間の使用によっても優れた透気性を有するものとなる。。
【0011】
本発明において、破れの程度は、気泡破れ率で規定し、その範囲が5〜30%である。気泡破れ率が5%未満の場合、長期使用後の発泡体の透気性の低下を抑制し難い。気泡破れ率が30%より高い場合、発泡体の充分な強度が得られないことがある。好ましい気泡破れ率は5〜20%の範囲であり、より好ましい範囲は5〜15%である。
なお、気泡破れ率は、発泡体の断面の走査電子顕微鏡写真を、破れ箇所とそれ以外の箇所が白黒となるように2値化処理し、2値化処理写真から得られた写真の面積に対する破れの面積の割合を意味する。具体的な測定法は、実施例の欄で説明する。
【0012】
また、本発明の発泡体は、30〜100kg/m3の見掛け密度を有している。この範囲の見掛け密度を有することで、高強度で柔軟性に優れた発泡体を提供できる。見掛け密度が30kg/m3未満の場合、強度が劣る。100kg/m3より大きい場合、柔軟性が劣る。好ましい見掛け密度は30〜90kg/m3の範囲であり、より好ましい範囲は35〜70kg/m3である。
【0013】
更に、本発明の発泡体は、80%以上の連続気泡率を有している。本発明においては、長期使用後においても発泡体の透気性維持するために、従来検討されてきた連続気泡率のみならず、連続気泡率と気泡破れ率とを適切に調整する必要があることを見出している。連続気泡率が80%未満の場合、充分な透気性を発泡体に付与し難い。好ましい連続気泡率は83〜98%の範囲であり、より好ましい範囲は85〜95%である。
【0014】
本発明の発泡体は、気泡の平均気泡径が、0.02〜0.20mmであることが好ましい。平均気泡径が0.02mm未満であると、充分な透気性が得られないことや、発泡体の見掛け密度が大きくなることがある。平均気泡径が0.20mmを超えると、発泡体の防水性及び柔軟性等の物性が低下することがある。平均気泡径のより好ましい範囲は0.05〜0.18mm、更に好ましい範囲は0.07〜0.15mmである。
本発明の発泡体は、厚さが0.1〜3mmであることが好ましい。厚さが0.1mm未満であると、厚みが気泡径より薄くなり、防水性及び柔軟性等の物性が低下することがある。厚さが3mmを超えると、透気性が低下することがある。厚さのより好ましい範囲は、0.2〜3mm、更に好ましい範囲は、0.3〜2mmである。また、厚さは、平均気泡径の1.0倍以上であることが好ましく、2.0〜30倍の範囲であることがより好ましい。
【0015】
本発明の発泡体は、両主表面に気泡断面を露出させた状態でのガーレー透気抵抗度が0.1〜100秒/100mLであることが好ましい。ガーレー透気抵抗度が0.1秒/100mL未満であると、液体の水そのものを通してしまうことがある。また、透気抵抗度が小さいことは、一般的に発泡体を構成する気泡径が大きいことを意味し、その結果、発泡体の柔軟性が低下することがある。また、気泡径が大きいため、発泡体により通過を阻止すべき微粉末が通過することがある。ガーレー透気抵抗度のより好ましい範囲は0.2〜30秒/100mL、更に好ましい範囲は0.3〜10秒/100mLである。
また、本発明の発泡体は、例えば透気回数を500回と透気回数が12回の状態とを比較しても、ガーレー透気抵抗度の変化がほとんど見られない。
【0016】
発泡体を構成するポリオレフィン系樹脂は、上記各種物性を発泡体に付与できさえすれば、その種類は特に限定されない。具体的には、ホモポリエチレン、ホモポリプロピレン、エチレン又はプロピレンと他のオレフィンとの共重合体等が挙げられる。共重合体は、ランダム共重合体又はブロック共重合体の何れであってもよい。ポリオレフィン系樹脂は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を適宜組み合わせ混合して用いてもよい。
他のオレフィンとしては、例えば、エチレンやプロピレンの他に、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等の炭素数が4〜10であるα−オレフィンが挙げられる。
これらの内、発泡性や耐熱性が優れるホモポリプロピレンや、ポリプロピレンのブロック共重合体が好ましい。中でも、耐熱性に優れるホモポリプロピレンがより好ましい。
【0017】
また、ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.2〜5g/10minの樹脂を使用することが好ましい。MFRは低いと、押出機の負荷が大きくなって生産性が低下し、又は、発泡剤を含む溶融した発泡体の原料混合物が金型内を円滑に流れることができなくなって、得られる発泡体の表面にムラが発生して外観が低下することがある。一方、高いと、金型円環ダイ手前での樹脂圧力が低下し、円環ダイ気泡生成部における樹脂圧力も低下することから、気泡生成部手前で気泡が生成してしまい発泡体成形部で破泡が急激に生じることにより発泡性が低下し、得られる発泡体の外観が低下もしくは、発泡体が得られないことがある。より好ましいMFRは、0.2〜4g/10minであり、更に好ましいMFRは0.2〜3.5g/10minである。
ポリプロピレン系樹脂は、優れた発泡性を有する、高溶融張力ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。高溶融張力ポリプロピレン系樹脂としては、電子線架橋により分子構造中に自由末端長鎖分岐を有しているもの(HMS−PP)や、高分子量成分を含むことで溶融張力を上げたもの等がある。この高溶融張力ポリプロピレン系樹脂としては、市販品を使用でき、市販品の具体例としては、日本ポリプロ社製の商品名ニューストレンSH9000や、Borealis社製の商品名「DaployWB135HMS」等が挙げられる。
【0018】
発泡体には、ポリオレフィン系樹脂以外に他の成分が含まれていてもよい。例えば、熱可塑性エラストマーが挙げられる。
熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントを組み合わせた構造を有するもので、常温でゴム弾性を示し、高温では熱可塑性樹脂と同様に可塑化され成形できるという性質を有する。一般的には、ハードセグメントがポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂であり、ソフトセグメントがエチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のゴム成分又は非結晶性ポリエチレンである。
【0019】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとなるモノマーとソフトセグメントとなるモノマーの重合を多段階で行い、重合反応容器内において直接製造される重合タイプのエラストマー;バンバリーミキサーや二軸押出機等の混練機を用いてハードセグメントとなるポリオレフィン系樹脂と、ソフトセグメントとなるゴム成分とを物理的に分散させて製造されたブレンドタイプのエラストマー;バンバリーミキサーや二軸押出機等の混練機を用いてハードセグメントとなるポリオレフィン系樹脂と、ソフトセグメントとなるゴム成分とを物理的に分散させる際に架橋剤を加えることによって、ポリオレフィン系樹脂マトリックス中に、ゴム成分を完全架橋又は部分架橋させミクロ分散させて得られる、動的架橋されたエラストマーが挙げられる。
【0020】
上記熱可塑性エラストマーの内、ポリオレフィン系樹脂とゴム成分とを物理的に分散させて製造された非架橋のエラストマーを用いることが、製造された製品のリサイクル性を考慮すると特に好ましい。
非架橋エチレン−プロピレン−ジエン共重合体を構成するジエン成分としては、例えばエチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。ここで、非架橋エチレン−プロピレン−ジエン共重合体エラストマーは、一種又は二種以上を混合してもよい。このような非架橋エチレン−プロピレン−ジエン共重合体エラストマーを使用することにより、通常のポリプロピレン系樹脂を押出発泡成形する場合と同様の押出機での製造が可能となる。更に、発泡体をリサイクルし再び押出機へ供給して発泡成形をする場合でも、架橋エラストマーを用いた時に問題となる架橋ゴムによる発泡不良も抑制できる。
【0021】
熱可塑性エラストマーは、JIS K6253で規定されるデュロA硬度で90以下の硬度を有していることが好ましい。この硬度を有することで、優れた柔軟性を有する発泡体を提供できる。より好ましいデュロA硬度は、80〜20程度である。
熱可塑性エラストマーの含有量は、少ないと、発泡体の緩衝性や柔軟性が乏しくなることがある。一方、多いと、熱可塑性樹脂組成物のゴム弾性が強くなりすぎることによる発泡性の低下や、発泡体の収縮の増加が生じることがある。含有量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して10〜300重量部程度であることが好ましく、20〜150重量部程度がより好ましく、30〜100重量部程度が更に好ましく、40〜70重量部程度が特に好ましい。
【0022】
発泡体は、熱可塑性エラストマー以外に、界面活性剤、分散剤、耐候性安定剤、光安定剤、顔料、染料、難燃剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
界面活性剤は、すべり性及びアンチブロッキング性を付与するものである。また、分散剤は、無機充填剤の分散性を向上させるものである。分散剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
他の添加剤の含有量は、気泡の形成、発泡体の物性等を損なわない範囲で適宜選択でき、通常の発泡体に含まれる含有量を採用できる。
【0023】
発泡体は、表皮をスライス加工によって除去してもよい。本発明の発泡体はスライス加工性に優れている。発泡体の表皮を除去することで、折れ曲がった際の折れ皺の発生を抑制できる。加えて、透気性、透湿性、柔軟性及び緩衝性等により優れた発泡体を提供できる。スライス加工機としては、刃物が回転するタイプのもの等の公知のものを使用できる。
本発明の発泡体は、緩衝包装材又は建材用として、電子機器又は電子機器部材のシール材として、又各種粘着シートの基材シート、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用材等としても、好適に使用できる。
【0024】
(ポリオレフィン系樹脂発泡体の製法)
本発明の発泡体は、押出発泡成形法により製造できる。この方法に使用できる押出機としては、単軸押出機、二軸押出機、タンデム型押出機等が挙げられる。これらの内、押出条件を調整しやすいことから、タンデム型押出機が好ましい。
発泡体の原料は、押出機内で混練され、押出機から押し出されて発泡することで発泡体となる。発泡体の原料が押出機から押し出される部位には、通常ダイが設置されている。そのようなダイの一例として、図3の概略断面図に示す円環ダイがある。
【0025】
図3に示す円環ダイDは、発泡剤含有混練溶融樹脂流路部3の絞りに形成された気泡生成部2と、気泡生成部2に連続し、この生成した気泡の成長及び発泡体表面の平滑化を行う発泡体成形部1とを有している。図3中、4は円環ダイイン側金型、5は円環ダイアウト側金型である。
円環ダイ手前での樹脂圧力は、押出機先端から円環ダイまでの流路において、ストレインゲージのような測定器によって測定される圧力である。具体的には、押出機先端フランジ、両サイドにフランジのある直管金型、円環ダイと順に接続した直管金型部に取り付けた、ストレインゲージにて測定できる。
【0026】
上記のような円環ダイを用いて発泡体を形成することで、発泡体を構成する気泡が従来より微細であっても、表面平滑性を低下させる多数のコルゲートの表面での発生を抑制できる。これは、円環ダイが、発泡体成形部における適度なすべり抵抗によって、気泡生成部でのコルゲートの発生を抑制できるためであると発明者等は考えている。ここで言うコルゲートとは、円環ダイから出た発泡体が体積膨張による円周方向の線膨張分を吸収するために波打ちしてできる、多数の山谷状のヒダのことを意味する。
ここで、円環ダイDの気泡生成部2における樹脂の吐出速度Vが、50〜300kg/cm2・hrかつ、円環ダイD手前での樹脂圧力が7MPa以上となる条件下で押出発泡させることが好ましい。
【0027】
吐出速度Vが50kg/cm2・hr程度より小さい場合、気泡の微細化や高発泡倍率の発泡体を得ることが困難となる。一方で300kg/cm2・hr程度より大きい場合、金型気泡生成部で樹脂が発熱して気泡破れをきたし、発泡倍率が低下しやすくなる。また、皺状のコルゲートが発生しやすくなり気泡径が不均一となって発泡体の表面平滑性が低下することがある。吐出速度Vは、円環ダイ気泡生成部の断面積、押出吐出量により適宜調節できる。
【0028】
ここで、樹脂の吐出速度V(kg/cm2・hr)は、下記式によって、定義された値である。
V=押出樹脂重量/金型気泡生成部断面積・時間
押出樹脂重量は、金型から押し出された総重量をいう。従って、押出樹脂重量は、熱可塑性樹脂組成物と発泡剤との合計量となる。また、押出樹脂重量は、1時間当りの吐出量(kg/hr)で表すことができる。
【0029】
吐出速度Vは70〜250kg/cm2・hr程度であることが好ましく、100〜200kg/cm2・hr程度であることがより好ましい。円環ダイ手前での樹脂圧力は8MPa以上20MPa以下であることが好ましい。上記条件による押出発泡で、ポリプロピレン系樹脂の発泡性を向上でき、気泡を微細化でき、気泡膜の強度を高めることができる。これら条件により、得られた発泡体は二次加工する場合の加工性が向上し、例えばスライス加工して得られるシート状の発泡体は、表面平滑性に優れたものが得られる。
気泡生成部の断面積の調整方法としては、金型の気泡生成部の長さ(フラット金型の場合)や口径(円環ダイの場合)を変える方法と、金型の気泡生成部の間隔(フラット金型又は円環ダイの場合)を変える方法との2通りの方法が挙げられる。
【0030】
円環ダイ手前での樹脂圧力は、7MPaよりも低いと円環ダイ気泡生成部より手前で気泡生成が始まり、良好な発泡体が得られないことがある。また、20MPaより高くなると、押出機の負荷が高くなりすぎることがある。また、注入圧力が高くなりすぎて発泡剤を圧入できなくなることがある。
円環ダイ手前での樹脂圧力は、溶融樹脂粘度と押出吐出量、円環ダイ気泡生成部断面積によって適宜調節できる。更に溶融樹脂粘度は配合樹脂組成物の粘度と発泡剤の添加量、及び溶融樹脂温度によって適宜調節できる。なお、溶融樹脂温度とは、円環ダイ手前での樹脂圧力を測定する直管金型において、溶融樹脂に直接接触させる形で取り付けられた熱電対にて測定された温度を意味する。
【0031】
樹脂温度は、概ねポリプロピレン系樹脂の融点より10℃〜20℃の高い範囲とすることが、発泡性を高める上で好ましい。樹脂温度が融点に近づくと、ポリプロピレンの結晶化が始まり、急激に粘度が上昇し押出条件が不安定になったり、押出機の負荷が上昇したりすることがある。逆に高すぎると発泡後の樹脂固化が発泡スピードに追い着かず、発泡倍率が上がらないことがある。
樹脂圧力で気泡破れ率を調整するためには、独立気泡発泡体や気泡破れ率の小さい発泡体が得られる押出条件よりも、円環ダイ手前での樹脂圧力が10〜30%低くなるようにすればよい。
樹脂温度で気泡破れ率を調整するためには、独立気泡発泡体や気泡破れ率の小さい発泡体が得られる押出条件よりも、樹脂温度を1〜3℃高くすればよい。
環状金型で気泡破れ率を調整するには、独立気泡発泡体や気泡破れ率の小さい発泡体が得られる金型に比べ、金型の気泡生成部2の直径及び金型の発泡体成形部1の直径を5〜10%小さくし、更に、金型の気泡生成部2の間隔を10〜30%広くする等で調整できる。
【0032】
発泡体の原料には、発泡剤が含まれる。発泡剤は、特に限定されず、種々の公知の発泡剤を使用できる。例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、n−ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル等の低沸点のエーテル化合物、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のハロゲン含有炭化水素、二酸化炭素、窒素、アンモニア等の無機ガス等が挙げられる。これらの発泡剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記発泡剤のうち、無機ガスが好ましく、特に二酸化炭素が好ましい。二酸化炭素は、超臨界状態、亜臨界状態、又は液化された二酸化炭素を用いることで、それ以外の形態の二酸化炭素を用いて得られた従来の発泡体よりも、より微細な気泡を有する発泡体を得ることができる。微細な気泡を有する発泡体は、その表面平滑性や柔軟性を向上させることができる。
【0034】
押出機内に圧入される発泡剤の量は、発泡体の見掛け密度に応じて適宜、調整できる。しかし、少ないと、発泡体の見掛け密度が低くなり、軽量性及び柔軟性が低下することがある。一方、多いと、金型内において発泡を生じ、発泡体中に大きな空隙が生じることがある。従って、発泡剤の量は、発泡体の原料100重量部に対して1〜10重量部であるのが好ましく、2〜8重量部であるのがより好ましく、3〜6重量部であるのが特に好ましい。
【0035】
発泡体の原料には、気泡核剤が含まれていてもよい。気泡核剤は発泡時に気泡核の生成を促すものであり、気泡の微細化と均一性と気泡破れ率に影響を与える。気泡核剤としては、例えばタルク、マイカ、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、炭酸水素ナトリウム、ガラスビーズ等の無機化合物あるいはポリテトラフルオロエチレン等の有機化合物が挙げられる。破れ率の大きい発泡体が得られやすいことから、タルクが好ましい。一方で、ポリテトラフルオロエチレンは用いると独立気泡発泡体や気泡破れ率の小さい発泡体が得られやすいので好ましくない。
【0036】
気泡核剤の量は、少ないと、発泡体の気泡数を増加させることが困難となり平均気泡径を小さくできなかったり、気泡破れ率を大きくできないことがある。一方、多いと、二次凝集を起こして、押出し発泡不良等を生じることがある。従って、気泡核剤の量は、発泡体の原料100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜6重量部であることがより好ましい。
【0037】
気泡核剤は、そのものを発泡体の他の成分と混合することで発泡体の原料混合物として、又は個別に押出機内へ供給してもよい。また、気泡核剤は、取扱いの容易性や粉体飛散による製造環境汚染の防止のため、又熱可塑性樹脂中への分散性を向上させるため、予め基材樹脂と混合することでマスターバッチとして供給することが好ましい。
【0038】
マスターバッチの基材樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂に対する相溶性に優れる樹脂であることが好ましい。例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、各種測定法を以下で説明する。
(メルトフローレート)
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210:1999のB法に準拠して、試験温度230℃、試験荷重21.18Nにて測定されたものをいう。
ポリプロピレン系樹脂のMFRは、ポリプロピレン系樹脂を一種単独で用いた場合には、その樹脂のMFRを上記方法で測定されたものをいう。
また、ポリプロピレン系樹脂二種以上を混合して用いた場合には、それぞれ個々のポリプロピレン系樹脂のMFRを上記測定方法で測定し、それぞれのMFRの値から、下記の様にして、算出したものをいう。
即ち、ポリプロピレン系樹脂が、n種類のポリプロピレン系樹脂の混合物であるとした場合、ポリプロピレン系樹脂1のMFRをMFR1、ポリプロピレン系樹脂2のMFRをMFR2、・・・ポリプロピレン系樹脂nのMFRをMFRnとすると共に、ポリプロピレン系樹脂1の含有量をC1、ポリプロピレン系樹脂2の含有量をC2・・・ポリプロピレン系樹脂nの含有量をCnとする。なお、ポリプロピレン系樹脂nの含有量は、ポリプロピレン系樹脂nの重量をポリプロピレン系樹脂全体の重量で除したものとする。そして、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、下記式によって算出される。
MFR(g/10min)=(MFR1C1×(MFR2C2×・・・×(MFRnCn
【0040】
(平均気泡径)
発泡体の平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して、下記の様にして、測定されたものをいう。
具体的には、発泡シートを厚み方向に平行な直線を含む任意の面で切断し、その切断面(D1)の中央部を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製S−3000N)で拡大して撮影する。
次に、撮影した画像をA4用紙上に印刷し、画像上に長さ60mmの直線を一本、描く。なお、それぞれの画像の水平方向(シートに対して水平)と垂直方向(シートに対して垂直)に直線を描く。このとき、60mmの直線上に気泡が10〜20個程度となる様に、上記の電子顕微鏡での拡大倍率を調整する。
上記直線上に存在する気泡数から気泡の平均弦長(t)を下記式により算出し、この平均弦長をその断面の平均気泡径とする。
平均弦長t=60/(気泡数×写真の倍率)
なお、直線を描くにあたっては、できるだけ直線が気泡に点接触することなく貫通した状態となるようにする。また、一部の気泡が直線に点接触してしまう場合には、この気泡も気泡数に含め、更に、直線の両端部が気泡を貫通することなく、気泡内に位置した状態となる場合には、直線の両端部が位置している気泡も気泡数に含める。
前記式で算出された平均弦長tに基づいて次式により気泡径を算出する。
気泡径(mm)D=t/0.616
同様にして、前記断面(D1)と垂直な面で切断した切断面(D2)と発泡シートの厚み方向と平行な直線と直交する直線を含む面で発泡シートを切断した切断面(D3)で同様にして気泡径を算出する。
そして、それぞれの相加平均値をオレフィン系樹脂発泡シートの平均気泡径とする。
平均気泡径(mm)=(D1+D2+D3)/3
【0041】
(見掛け密度)
発泡体の見掛け密度はJIS K 7222−1999記載の方法に準拠した方法により測定される。具体的には、試料から10cm3以上(半硬質及び軟質材料の場合は100cm3以上)の試験片を試料の元のセル構造を変えない様に切断し、その質量を測定し、次式により算出する。
見掛け密度(kg/m3)=試験片質量(g)/試験片体積(cm3)×103
【0042】
(気泡破れ率)
発泡体の気泡破れ率は、下記の様にして、測定されたものをいう。
具体的には、発泡シートを厚み方向に平行な直線を含む任意の面で切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製S−3000N)で倍率20倍に拡大して撮影する。
次に、発泡体評価ソフト(ナノシステム株式会社製Nano Hunter NS2K−Pro)に切断面の画像を取り込み、測定範囲を座標幅370×370の正方形とし、設定した範囲の2値化を行う。2値化はしきい値=50で白黒反転させる。例えば、図4(a)(2値化前)と図4(b)(2値化後)のように2値化を行う。
2値化した画像で、気泡に破れがなく、完全に連通化している部分の削除を行っていき、面積の計測をし、全体に占める面積に対しての白色部分の面積の割合をその切断面の気泡破れ率とする。
更に、前記切断面に対して垂直な面で切断し、その切断面で同様にして気泡破れ率をもとめ、それぞれの平均値を発泡シートの破れ率とする。
【0043】
(透気抵抗度)
透気抵抗度はJIS P8117−1998記載の方法に準拠した方法により測定される。具体的には、液面に浮かぶ内筒の垂直方向の重さによって空気を圧縮し、この空気が試験片を透過し、内筒は徐々に下降し、一定体積の空気が透過する。この空気の透過を繰り返し行い、12回目及び500回目の透過に要した時間を測定する。測定装置は、東洋精機製作所より市販されているガーレー試験機B型を用いる。
【0044】
(連続気泡率)
連続気泡率は、ASTM D−2856−87に準拠して、測定する。具体的には、島津製作所社製環式自動密度計を用いて試験片の体積Vを測定する。また、試験片の外形から試験片の見掛けの体積V0を算出する。体積V及びV0を下記式に代入することで連続気泡率を算出する。
連続気泡率(%)=(V0−V)/V0×100
【0045】
実施例1
口径が65mmの第一押出機の先端に、口径が75mmの第二押出機を接続してなるタンデム型押出機を用意した。
このタンデム型押出機の第一押出機に、ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ社製ニューストレンSH9000 MFR:0.2g/10min)100重量部に、非架橋エチレン−プロピレン−ジエン共重合体エラストマーである熱可塑性エラストマー(三菱化学社製サーモランZ101N、MFR:14g/10min)を67重量部加えて配合樹脂組成物を得た。この配合樹脂組成物100重量部に、気泡核剤として平均粒子径12μmのタルクを70重量%含有したマスターバッチ(日東粉化社製「タルペット70P」)10重量部を混合させて熱可塑性樹脂組成物を得た。熱可塑性樹脂組成物を第一押出機に供給して溶融混練した。第一押出機の途中から発泡剤として超臨界状態の二酸化炭素を4.2重量部圧入した。圧入後、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物と二酸化炭素を均一に混合混練した上で、この発泡剤を含む溶融樹脂組成物を第二押出機に連続的に供給して溶融混練しつつ発泡に適した樹脂温度に冷却した。その後、第二押出機の先端に取り付けた金型の気泡生成部直径φ33mm、金型の気泡生成部間隔0.3mm(気泡生成部の断面積:0.275cm2)、発泡体成形部の間隔3.5mm、発泡体成形部の出口直径φ66mmの円環ダイから吐出量30kg/hr(吐出速度V=109kg/cm2・hr)、樹脂温度178℃、円環ダイ手前での樹脂圧力7〜8MPaの条件で押出発泡させた。円環ダイの発泡体成形部において成形された円筒状の発泡体を、冷却されているマンドレル上に添わせるとともに、その外面をエアリングからエアーを吹き付けて冷却することで、円筒状の発泡体を成形した。次いで、マンドレル上の一点で、カッターにより円筒状の発泡体を切開して、シート状のポリプロピレン系樹脂発泡体を得た。得られた発泡体をスプリッティングマシン(フォーチュナ社製「AB−320D」)によりスライス加工して表皮を除去して、両主表面がスライス面とされた厚み0.5mmのシート状発泡体を得た。発泡体の切断面の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0046】
実施例2
MFRが0.3g/10minのポリプロピレン系樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして厚み0.5mmのシート状発泡体を得た。
実施例3
MFRが0.4g/10minのポリプロピレン系樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして厚み0.5mmのシート状発泡体を得た。
【0047】
比較例1
気泡核剤をポリテトラフルオロエチレンを20重量%含有したマスターバッチ(三菱レイヨン社製「MZX−4」)1.7重量部とし、押出機の先端に取り付けた金型を気泡生成部直径をφ35mm、金型の気泡生成部間隔を0.25mm、発泡体成形部の出口直径をφ70mmとし、樹脂温度を176℃、円環ダイ手前での樹脂圧力を10.8MPaに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂発泡体を得た。得られた発泡体をスプリッティングマシン(フォーチュナ社製「AB−320D」)によりスライス加工して表皮を除去して、両主表面がスライス面とされた厚み0.5mmのシート状発泡体を得た。発泡体の切断面の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0048】
比較例2
気泡核剤の添加量を9重量部に変更したこと以外は比較例2と同様にして、ポリプロピレン系樹脂発泡体を得た。得られた発泡体をスプリッティングマシン(フォーチュナ社製「AB−320D」)によりスライス加工して表皮を除去して、両主表面がスライス面とされた厚み0.5mmのシート状発泡体を得た。
比較例3
市販されているシート状発泡体である日東電工社製「SCF100」を使用した。
物性試験
各実施例及び比較例で得られた発泡体について、平均気泡径の測定、引張試験及び密度の試験を行なった。表1に、各実施例、比較例の発泡体について、平均気泡径、見掛け密度、厚み、気泡破れ率、透気抵抗度(12回後及び500回後)及び連続気泡率の結果を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から、気泡破れ率が5〜30%の範囲の実施例の発泡体は、範囲外の発泡体より、500回繰り返し後の透気抵抗度の上昇が顕著に抑制できていることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
1:発泡体成形部
2:気泡生成部
3:発泡剤含有混練溶融樹脂流路部
4:円環ダイイン側金型
5:円環ダイアウト側金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含む壁により区画された複数の気泡を有するポリオレフィン系樹脂発泡体であって、見掛け密度が30〜100kg/m3、連続気泡率が80%以上、気泡破れ率が5〜30%であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記気泡の平均気泡径が、0.02〜0.20mmである請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項3】
厚さが0.1〜3mmである請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項4】
両主表面に気泡断面を露出させた状態でのガーレー透気抵抗度が0.1〜100秒/100mLである請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂発泡体から構成された透気防水フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28760(P2013−28760A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167004(P2011−167004)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】