説明

ポリオール脱水素酵素の製造方法

【課題】グリセロール等のポリオールの定量に用いられる、ポリオール脱水素酵素の生産量を向上させる方法の提供。
【解決手段】グルコノバクター属に属する微生物による、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法において、炭素源としてポリオールおよび有機酸/塩を含む培地中で前記微生物を培養する段階を有することを特徴とする、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法。また、該酵素を用いるポリオールの定量方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素(以下、PQQ依存性PDHとも称する。)の製造方法、該PQQ依存性PDHを含むポリオール測定試薬キット、および該PQQ依存性PDHを用いたポリオールの定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリセロールの定量方法としては、下記式(1)および式(2)で示すような、グリセロールキナーゼ(GK)とグリセロール−3リン酸オキシダーゼ(GPO)またはグリセロール−3リン酸デヒドロゲナーゼとを用いることによる定量方法が知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
しかし、この方法は二種類の酵素を用いるため反応が煩雑であった。さらに、グリセロール−3リン酸オキシダーゼを用いた場合は溶存酸素の影響を受けるという問題点があり、またグリセロール−3リン酸デヒドロゲナーゼを用いた場合は、高価なNAD+を添加する必要がある。
【0005】
溶存酸素の影響を受けず、一種類の酵素を用いる方法としては、下記式(3)で示すように、NAD依存性グリセロールデヒドロゲナーゼを用いる方法が知られている。
【0006】
【化2】

【0007】
しかし、この方法を用いた場合においても高価なNAD+を添加する必要がある。したがって、より安価で簡便なグリセロール測定法が求められてきた。
【0008】
一方、PQQ依存性PDHは、試料中のグリセロール、ソルビトール、および中性脂肪などの定量に利用可能であることが知られている。PQQ依存性PDHを用いるグリセロールの定量方法は、下記式(4)の反応によって行われる。
【0009】
【化3】

【0010】
該反応においては、溶存酸素の影響を受けない、反応が簡便で複数の酵素を用いる必要がない、高価なNAD+を添加する必要がないなどのメリットがあるため、グリセロールの定量方法として非常に有用である。
【0011】
PQQ依存性PDHを細菌によって生産する方法は従来から知られており、該細菌培養培地には、種々の培地が使用されてきた。例えば、特許文献1では、グルコノバクター属によるPQQ依存性PDH生産培地の炭素源として、糖類、有機酸(例えばグルコン酸および酢酸)、アルコール(例えばグリセリンおよびエタノール)および糖アルコール(例えばマンニトールおよびソルビトール)などを含むPQQ依存性PDH生産培地が利用することができるとの記載がある。また、特許文献2においては、グリセリンや糖アルコール(例えばソルビトール、マンニトール)などを炭素源として用いることが記載されている。
【特許文献1】特公昭61−22952号公報
【特許文献2】特開平8−242850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、例えば、特許文献1や2に具体的に開示されているような公知の培地成分の組合せでは、工業的観点からみた場合、PQQ依存性PDHの生産量は充分とは言いがたく、生産量を向上させる方法が依然求められている。
【0013】
また、上記特許文献1または2においては、いかなる種の炭素源を培地に添加することによって、微生物が効率よく生産されるかという観点からの記載はなく、また酵素生産向上の観点からはどの程度の炭素源濃度がよいかについての考察や記載はない。また、2種以上の特定種類の化合物を炭素源として組み合わせて用いることに関する詳細な検討はされていない。
【0014】
そこで本発明は、グルコノバクター属に属する微生物による補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素生産量を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記従来の問題点に鑑み鋭意研究した結果、培地中に特定の炭素源を用いることによって、従来から知られている培地成分で培養した場合と比べてPQQ依存性PDH生産量を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、培地のpHが酸性域(pH4.0〜7.0)である場合に、PQQ依存性PDH生産量の向上という本発明の効果が顕著に得られることも見出した。
【0016】
すなわち、上記目的は、グルコノバクター属に属する微生物による補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法において、炭素源としてポリオールならびに有機酸および有機酸塩の少なくとも一方を含む培地中で前記微生物を培養する段階を有することを特徴とする、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、安価かつ簡便にPQQ依存性PDHの生産量を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の第一は、グルコノバクター属に属する微生物による補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法において、炭素源としてポリオールおよび有機酸および有機酸塩の少なくとも一方を含む培地中で前記微生物を培養する段階を有することを特徴とする、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法に関するものである。
【0020】
第一の発明の特徴は、微生物の培養培地中に、炭素源として、ポリオールと有機酸および/または有機酸塩(以下、「有機酸/塩」とも称する)とを必須に組み合わせて用いることにある。ポリオール単独でもPQQ依存性PDHの生産誘導性能があることは知られているが(特開2006−271257号公報)、本発明のようにさらに有機酸を含む培地で培養することによって、グルコノバクター属に属する微生物のPQQ依存性PDHの生産量が格段に向上する。
【0021】
本発明で用いられるポリオールとしては、2つ以上の水酸基を有するアルコール(糖アルコールを含む)であれば、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ラクチトールなどの二糖由来アルコール、グリセリンなどのトリトール、エリスリトールなどのテトリトール、アラビトール、キシリトール、リビトールなどのペンチトール、マンニトール、ソルビトールなどのヘキシトール、イノシトールなどのシクリトールなどが挙げられる。中でも、本発明の効果が顕著に得られることから、マンニトール、ソルビトールなどのヘキシトールを用いることが好ましく、ソルビトールを用いることがより好ましい。なお、糖アルコールを用いる場合は、D体、L体、ラセミ体のいずれを用いてもよいが、D体を用いることが好ましい。ポリオールは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。PQQ依存性PDHの生産量が増大することから、培地中のポリオール濃度は、培地1Lに対して、5〜30g/Lであることが好ましく、10〜25g/Lであることがより好ましい。
【0022】
本発明で用いられる有機酸としては、グルコン酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸などが挙げられる。中でも、本発明の効果が顕著に得られることから、グルコン酸、クエン酸を用いることが好ましく、グルコン酸を用いることがより好ましい。また、有機酸塩としては、上記列挙した有機酸とのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。有機酸およびその塩は単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。PQQ依存性PDHの生産量が増大することから、培地中の有機酸/塩の濃度(有機酸および有機酸塩の合計の濃度)が、培地1Lに対して、1〜30g/Lであることが好ましく、1〜20g/Lであることがより好ましく、2〜10g/Lであることがさらに好ましい。
【0023】
本発明において、ポリオールと有機酸/塩(有機酸および有機酸塩の合計)との培地中の含有質量比が、ポリオール:有機酸/塩=30:1〜1:1であることが好ましく、25:1〜1:1であることがより好ましい。かような範囲であれば、グルコノバクター属に属する微生物のPQQ依存性PDHの生産量が格段に向上する。
【0024】
また、培養段階で用いる培地のpHが、PQQ依存性PDHの生産量の向上に非常に重要であることを本発明者らは見出した。特に培地pHが酸性域である場合に、PQQ依存性PDHの生産量が格段に向上する。したがって、培地pHは、4〜7であることが好ましく、4.5〜6.5であることがより好ましい。
【0025】
本発明で用いられるグルコノバクター属に属する微生物は、従来公知の菌を使用することができ、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3130、3171、3172、3189、3244、3250、3253、3255、3256、3257、3258、3285、3287、3289、3290、3291、3292、3293、3294、3462、3990、12467、14819;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii) NBRC 3251、3254、3260、3264、3265、3268、3270、3271、3272、3273、3274、3286、16669;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3262、3263、3266、3267、3269、3275、3276等を使用することができる。中でも、生産性の観点から、グルコノバクター・オキシダンスを用いることが好ましい。またこれらの自然突然変異株または、人為突然変異株でもよい。人為突然変異処理は、当業者に周知の方法によって行うことができる。このような微生物の代表菌株として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291がある。
【0026】
グルコノバクター属に属する微生物の培養にあたって使用する培地としては、グルコノバクター属に属する微生物が資化しうるポリオールおよび有機酸以外の炭素源、窒素源、無機物、その他必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地、天然培地いずれも使用することができる。
【0027】
炭素源としては、上記ポリオールおよび有機酸以外には、リボース、フルクトース、グルコース、スクロース等の糖類が使用される。
【0028】
窒素源としては、例えばポリペプトンなどのペプトン類、肉エキス、魚エキス、酵母エキス、尿素、およびコーンスティープリカー等の窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の無機窒素含有化合物等が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等が使用される。
【0029】
培養は通常、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行う。培養温度は通常20〜50℃であり、好ましくは20〜40℃、より好ましくは28〜32℃である。かような条件下以外でも、使用する菌株が生育すれば実施される。培養期間は通常0.5〜5日であり、好ましくは1〜5日である。
【0030】
本発明の酢酸菌であるグルコノバクター属に属する微生物の培養をするにあたって、寒天培地等の固体培地に斜面培養したものを直接培養用の培地に植菌して、本発明の方法による培養を行なってもよい(場合によっては、種培養と区別するために「本培養」とも記載する)が、微生物を予め液体培地で培養(種培養)したものを、本発明の方法にかかる培養(本培養)に使用することもできる。
【0031】
本発明の第二は、本発明の第一のPQQ依存性PDHを含むポリオール測定試薬キットである。
【0032】
本発明の第二のポリオール測定試薬キットは、本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHを含み、ポリオール測定用の試薬群からなる。ポリオール脱水素酵素として本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHを使用する点に特徴があり、例えば特許公報第3041840号、特許公報第3450911号、特許公報第3494398号などに記載されるポリオール測定で使用するポリオール脱水素酵素として本発明の第一の発明によって得られるPQQ依存性PDHを使用することができる。
【0033】
PQQ依存性PDHをポリオール測定試薬に用いるためには、上記の培養方法の培地中に含まれるPQQ依存性PDHを精製単離することが好ましい。PQQ依存性PDHは、グルコノバクター属に属する細菌の細胞膜に存在しており、PQQ依存性PDHを抽出、精製する方法は種々の公知の方法がある。したがって、精製単離方法は従来公知の方法により行うことができるが、具体例を以下に述べる。なお、精製方法は下記方法に限定されるものではない。
【0034】
まず培養終了後、培養液から菌体を遠心分離などにより回収し、ついで集菌した菌体を適当な溶媒で懸濁する。次に、菌体を破砕する。破砕法としては、フレンチプレス法、超音波破砕法等を用いればよい。
【0035】
次いで破砕された抽出物を精製する。精製法は一般に使用される精製法を用いることができ、例えば硫安やぼう硝などの塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、さらにはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロースなどのイオン交換クロマト法などにより精製することができる。
【0036】
また、上記方法で得られた粗酵素液や精製酵素液は、そのままの形態で使用されても、あるいは化学修飾された形態で使用されてもよい。さらに、例えばスプレードライや凍結乾燥によって粉末化してもよい。
【0037】
本発明の第三は、本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHをポリオールと反応させることを特徴とする、ポリオールの定量方法である。本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHは、下記式(5)のようにポリオールがグリセロールである場合、グリセロールと酸化型電子受容体とを、対応する脱水素物と還元型電子受容体とに変換することができる。
【0038】
【化4】

【0039】
式(5)において電子受容体の減少、還元型電子受容体の増加、ジヒドロキシアセトンの量を測定することによって簡便にグリセロールが定量できる。
【0040】
本発明において好適に使用できる電子受容体としては、フェリシアン化カリウム、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)、Wurster’s blue、ニトロテトラゾリウムブルー等がある。
【0041】
本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHが基質とするポリオールとしては、グリセロール(ピロロキノリンキノン依存性グリセロール脱水素酵素)、アラビトール(ピロロキノリンキノン依存性アラビトール脱水素酵素)、及びマンニトール(ピロロキノリンキノン依存性マンニトール脱水素酵素)などがあり、これらのポリオールを本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHによって定量できる。
【0042】
本発明の第三の定量方法において、ポリオールを含む試料としては、食品、血清、血漿や全血等がある。また本発明のPQQ依存性PDHは血清や血漿、全血等の中性脂肪測定にも使用することができる。すなわちこれらの試料に含まれる中性脂肪は、例えばリポプロテインリパーゼにより遊離脂肪酸とグリセロールに分解されるが、ここで生じたグリセロールを本発明の第一によって得られるPQQ依存性PDHを使用して、定量することができる。中性脂肪測定時には精神病治療患者、透析患者では遊離グリセロールが問題になるが、本発明のPQQ依存性PDHを用いてグリセロールを予め消去するか、もしくはその量を測定しておくことで真の中性脂肪値を求めることが可能である。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0044】
(酵素活性)
PQQ依存性PDHの酵素活性を、下記方法により測定した。
【0045】
50μM DCIP、0.2mM PMS(フェナジンメトサルフェート)、450mM グリセロールを含んだ0.1% トリトンX−100を含む10mM リン酸緩衝液pH 7.0中に、酵素溶液を加え、酵素と基質の反応をDCIPの600nmの吸光度変化によって追跡し、その吸光度の減少速度を酵素の反応速度とした。1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1単位(U)とした。なお、DCIPのpH 7.0におけるミリモル吸光係数は16.3 mM−1とした。
【0046】
(参考例1〜8)
培地全体100mLに対して、ソルビトール 2g、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gからなる培地(pH 7.0)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0047】
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。種培養液を検討用の培地(本培養液)に、本培養液100mLに対して5mL植菌した。なお、本培養液は、培地全体100mLに対して、表1に記載の化合物を2g、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gを含む培地(pH 7.0)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0048】
30℃で24時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、10mM KPB pH 7.0で懸濁後、超音波破砕機により菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)して無細胞抽出液を得、その酵素活性を測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1に示される結果から、炭素源としてポリオールであるソルビトールがピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素生産において、最も有効であることが確認された。また、有機酸塩であるグルコン酸ナトリウムを単独で使用した場合は、ピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素生産量を著しく低下させることが確認された。
【0051】
(実施例1〜2および比較例1)
培地全体100mLに対して、ソルビトール 2g、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gからなる培地(pH 7.0)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0052】
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。種培養液を検討用の培地(本培養液)に、本培養液100mLに対して5mL植菌した。なお、本培養液は、培地全体100mLに対して、ソルビトール 2g、表2に記載の有機酸塩 0.2g(比較例1は未添加)、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gを含む培地(pH 5.5)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0053】
30℃で24時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、10mM KPB pH 7.0で懸濁後、超音波破砕機により菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)して無細胞抽出液を得、その酵素活性を測定した。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
(実施例3〜6)
培地全体100mLに対して、ソルビトール 2g、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gからなる培地(pH 7.0)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0056】
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。種培養液を検討用の培地(本培養液)100mLに対して5mL植菌した。なお、本培養液は、培地全体100mLに対して、ソルビトールおよびグルコン酸ナトリウムを表3に記載の質量、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gを含む培地(pH 5.5)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0057】
30℃で24時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、10mM KPB pH 7.0で懸濁後、超音波破砕機により菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)して無細胞抽出液を得、その酵素活性を測定した。その結果を表3に示す。なお、以下表における比較例2は、上記参考例1である。
【0058】
【表3】

【0059】
(実施例7および比較例3)

培地全体100mLに対して、ソルビトール 2g、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gを含む培地(pH 7.0)100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。
【0060】
上記培地に、種菌として、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans) NBRC 3291を一白金耳植菌し、30℃で24時間、140min−1で振とう培養し、これを種培養液とした。種培養液を検討用の培地(本培養液)100mLに対して5mL植菌した。なお、本培養液は、培地全体100mLに対して、ソルビトール 1.5g、グルコン酸ナトリウム 0.5g、酵母エキス 0.3g、肉エキス 0.3g、コーンスティープリカー 0.3g、ポリペプトン 1g、尿素 0.1g、KHPO 0.1g、MgSO・7HO 0.02g、CaCl・2HO 0.1gを加え、塩酸(HCl)または水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液にて表4に記載の各pHに調整して培地100mLを調製し、500mL容の坂口フラスコに該培地80mLを移し、121℃、20分間オートクレーブ処理した。 30℃で24時間培養した後、この培養液を遠心分離(8,000×g、10分、4℃)して集菌し、10mM KPB pH 7.0で懸濁後、超音波破砕機により菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(4,000×g、10分、4℃)して無細胞抽出液を得、その酵素活性を測定した。その結果を表4に示す。
【0061】
なお、比較例3は、実施例7において、ソルビトール1.5g、グルコン酸ナトリウム0.5gの代わりにソルビトール2gを用いたこと以外は、実施例7と同様に行った。結果を下記表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4に示される結果から、炭素源としてソルビトールのみを単独で使用した場合よりも、炭素源としてソルビトールにグルコン酸ナトリウムを加えた場合、ポリオール脱水素酵素の生産量が著しく向上することが確認された。特にpHが低い領域で、ポリオール脱水素酵素の生産量が著しく向上することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコノバクター属に属する微生物による補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法において、炭素源としてポリオールならびに有機酸および有機酸塩の少なくとも一方を含む培地中で前記微生物を培養する段階を有することを特徴とする、補欠分子族としてピロロキノリンキノンを含むポリオール脱水素酵素の製造方法。
【請求項2】
前記培地のpHが4〜7である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオールがヘキシトールであり、前記有機酸および有機酸塩がグルコン酸、クエン酸、グルコン酸塩およびクエン酸塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオールがソルビトールであり、前記有機酸および有機酸塩がグルコン酸およびグルコン酸塩の少なくとも一方である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機酸および有機酸塩に対する前記ポリオールの培地中質量比が1〜30である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリオール濃度が培地1Lに対して5〜30g/Lであり、前記有機酸および有機酸塩の濃度が培地1Lに対して1〜30g/Lである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造されたポリオール脱水素酵素を含む、ポリオール測定試薬キット。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造されたポリオール脱水素酵素を、ポリオールと反応させる、ポリオールの定量方法。

【公開番号】特開2008−220367(P2008−220367A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29550(P2008−29550)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】