説明

ポリカーボネートの製造方法

【課題】耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れたポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造することが可能な、ポリカーボネートの製造方法を提供する。
【解決手段】構造の一部に−(−CH−O−)−で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応器に連続的に供給し、連続的に重縮合してポリカーボネートを製造する方法であって、(A)少なくとも2器の直列に接続された反応器を用いる、(B)1器目の第1反応器で反応した反応液が2器目の反応器に連続的に供給する、(C)第1反応器が還流冷却器を具備する、(D)第1反応器における還流比が留出量に対して0.01以上10以下である、の各条件のすべてを満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性または機械的強度などに優れたポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的にビスフェノール類をモノマー成分とし、透明性、耐熱性または機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、光学記録媒体またはレンズ等の光学分野等でいわゆるエンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。
【0003】
従来のポリカーボネートは、石油資源から誘導される原料を用いて製造されるが、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後に廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。
【0004】
かかる状況下、バイオマス資源から得られるジヒドロキシ化合物であるイソソルビド(ISB)をモノマー成分とし、炭酸ジエステルとのエステル交換により、副生するモノヒドロキシ化合物を減圧下で留去しながら、ポリカーボネートを得る方法が提案されている(例えば特許文献1〜7参照)。
【0005】
ところが、イソソルビド(ISB)のようなジヒドロキシ化合物は、ビスフェノール類に比べると沸点が低いため、高温、減圧下で行うエステル交換反応中の揮散が激しく、原料原単位の悪化を招くだけではなく、ジヒドロキシ化合物を複数種使用する場合には、使用するジヒドロキシ化合物のモル比率が重合中に変化し、所望の分子量または組成のポリカーボネートが得られないという問題があった。
【0006】
これらの問題を解決するために、反応初期に常圧で反応を行ってモノマーを消費させて揮散を抑制させる方法、または特定の還流冷却器を有する重合反応器を用いる方法が提案されている(特許文献8参照)。
【0007】
しかし、本発明者らの検討により、従来の方法では得られるポリカーボネートの色調の悪化を招くことが明らかとなった。エステル交換反応は平衡反応であることから、反応副生物を反応系から除去することにより反応が促進されるため、反応初期にモノマーの揮散を抑制すると、同時に反応速度が抑制されてしまい、それによって反応にかかる熱履歴が増大し、さらには熱分解物が反応系に滞留してしまうためである。とりわけ本発明の特殊な構造を有するジヒドロキシ化合物を原料としたポリカーボネートは従来のビスフェノール類を原料としたポリカーボネートに比して熱安定性に劣るので、色調の悪化は顕著に表われる。
【0008】
また、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いたエステル交換法では、多量のフェノールが副生するため、その処理方法として、副生フェノールを蒸留精製により回収し、ジフェニルカーボネートまたはビスフェノールAの原料として再利用する方法が提案されている(例えば特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献2】特開2006−232897号公報
【特許文献3】特開2006−28441号公報
【特許文献4】特開2008−24919号公報
【特許文献5】特開2009−91404号公報
【特許文献6】特開2009−91417号公報
【特許文献7】特開2009−161745号広報
【特許文献8】特開2008−56844号公報
【特許文献9】特開平9−165443号公報
【0010】
しかしながら、イソソルビドに代表される特殊な構造を有するジヒドロキシ化合物はビスフェノール類と比べて分子量が小さいために、従来のポリカーボネートよりも単位ポリマー量あたりのフェノールのようなモノヒドロキシ化合物の生成量が多くなるため、製造コストおよび資源の有効活用の観点からより一層、モノヒドロキシ化合物を再利用することが望まれる。
【0011】
しかし、本発明者らの検討によると、前述したように脂肪族ジヒドロキシ化合物が揮散しやすいため、留出液中の不純物が多くなり、フェノールのようなモノヒドロキシ化合物の回収コストへの負荷が高まる課題も見出される。このため、ポリカーボネートの品質向上の課題との両方を解決する手段が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、フェノール等のモノヒドロキシ化合物を回収する際の留出液中のジヒドロキシ化合物の留出量を低減し、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性または機械的強度などに優れた所望の分子量、組成を有するポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを重縮合してポリカーボネートを製造する方法において、少なくとも反応器を2器以上用い、かつ第一段目の反応器を特定のものとすることにより、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性または機械的強度などに優れたポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は、下記[1]〜[14]に存する。
【0014】
[1]構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応器に連続的に供給し、連続的に重縮合してポリカーボネートを製造する方法であって、下記条件(A)から(D)のすべてを満たすことを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
(A)少なくとも2器の直列に接続された反応器を用いる。
(B)1器目の第1反応器で反応した反応液を2器目の第2反応器に連続的に供給する。
(C)第1反応器が還流冷却器を具備する。
(D)第1反応器における還流比が留出量に対して0.01以上10以下である。
【化1】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。)
[2]第1反応器の内温が150℃以上、250℃以下の範囲内であり、該内温の変動が10℃以内である[1]に記載のポリカーボネートの製造方法。
[3]第1反応器の内圧が5kPa以上、80kPa以下の範囲内であり、該内圧の変動が5kPa以内である[1]又は[2]に記載のポリカーボネートの製造方法。
[4]第1反応器の加熱媒体の温度が265℃以下で、第1反応器の内温との温度差が5℃以上80℃以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[5]第2反応器が、還流冷却器を具備する[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[6]第1反応器の内容積が20L以上である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[7]第1反応器において、エステル交換反応によって副生するモノヒドロキシ化合物の留出量が理論量の30%以上、90%以下である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[8]第1反応器の出口の反応液中のモノヒドロキシ化合物の含有量が20wt%以下である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[9]前記ジヒドロキシ化合物の内、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物の5kPaにおける沸点が250℃以下である[1]乃至[8]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[10]反応に用いる前記ジヒドロキシ化合物の平均分子量が220以下である[1]乃至[9]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[11]前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、環状エーテル構造を有する化合物である[1]乃至[10]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[12]前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(2)で表される化合物である[1]乃至[11]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
【化2】

[13]全反応器から留出する留出液からモノヒドロキシ化合物を蒸留により精製し、回収する工程を含む[1]乃至[12]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
[14]前記モノヒドロキシ化合物がフェノールである[7]乃至[13]のいずれか1つに記載のポリカーボネートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリカーボネートの製造方法により、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性または機械的強度などに優れたポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造することができる。特に、本発明のポリカーボネートの製造方法によれば、原料であるジヒドロキシ化合物の留出が抑えられ、留出液の精製または廃棄にかかるコストをおさえて効率良くリサイクルすることが可能となる。さらに、複数種のジヒドロキシ化合物を用いて共重合させる場合であっても、ジヒドロキシ化合物の留出が抑えられることによって仕込み通りの組成で安定して共重合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明のポリカーボネートの製造方法における製造工程の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
なお、本明細書において、「〜」という表現を用いた場合、その前後の数値または物理値を含む意味で用いることとする。
【0018】
本発明のポリカーボネートの製造方法は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応器に連続的に供給し、連続的に重縮合してポリカーボネートを製造する方法であって、下記条件(A)から(D)のすべてを満たすことを特徴とするポリカーボネートの製造方法である。
(A)少なくとも2器の直列に接続された反応器を用いる。
(B)1器目の第1反応器で反応した反応液を2器目の第2反応器に連続的に供給する。
(C)第1反応器が還流冷却器を具備する。
(D)第1反応器における還流比が留出量に対して0.01以上10以下である。
【化3】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。)
【0019】
<ポリカーボネートの製造工程>
本発明の方法においては、少なくとも2器の直列に接続された反応器を用いる2段階以上の多段工程で、上記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、通常、重合触媒(以下、「触媒」、「エステル交換反応触媒」と称する場合がある。)の存在下で反応させる(溶融重縮合)ことによりポリカーボネートが製造される。
なお、以下において、複数器の反応器を用いる場合において、1器目の反応器を第1反応器、2器目の反応器を第2反応器、3器目の反応器を第3反応器、……と称する。
【0020】
重合工程は前段反応と後段反応の2段階に分けられる。前段反応は通常好ましくは150℃〜270℃、より好ましくは170℃〜230℃の温度で、好ましくは0.1時間〜10時間、より好ましくは0.5時間〜3時間実施され、副生するモノヒドロキシ化合物を留出させ、オリゴマーを生成させる。後段反応は、反応系の圧力を前段反応から徐々に下げ、反応温度も徐々に上げていき、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力が2kPa以下で、通常好ましくは200℃〜280℃、より好ましくは210℃〜260℃の温度範囲のもとで重縮合反応を行い、ポリカーボネートを生成させる。なお、本明細書における圧力とは、真空を基準に表した、いわゆる絶対圧力を指す。
【0021】
この重合工程で用いる反応器は、上記のとおり、少なくとも2器が連結されたものであり、第1反応器の出口から出た反応液は第2反応器に入るものが用いられる。連結する反応器の数は特に限定されないが、2器〜7器が好ましく、3器〜5器がより好ましく、3器〜4器が更に好ましい。反応器の種類も特に限定されないが、前段反応の反応器は竪型攪拌反応器が1器以上であることが好ましく、後段反応の反応器は横型攪拌反応器が1器以上であることが好ましい。反応器を複数設置する場合は、反応器毎に段階的に温度を上昇させ、段階的に圧力を減少させた設定とすることが好ましい。
【0022】
第1反応器については、エステル交換反応によって副生するモノヒドロキシ化合物の留出量が理論量に対して30%以上、90%以下であることが好ましい。留出量が少なすぎると生産性が低下する傾向にあり、一方、留出量が多すぎると過度の熱履歴を与えすぎており、ポリカーボネートの品質が悪化する傾向にある。第1反応器でのモノヒドロキシ化合物の留出量は40%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、一方、85%以下であることがより好ましく、80%以下であることが更に好ましい。第1反応器でのモノヒドロキシ化合物の留出量は、後記する反応温度若しくは圧力、滞留時間、または触媒量によって制御される。
なお、副生するモノヒドロキシ化合物の理論量とは、モノヒドロキシ化合物の分子量に、反応に用いた炭酸ジエステルのモル数の2倍を乗じた値(重量)である。
【0023】
また、第1反応器出口の反応液中のモノヒドロキシ化合物の含有量が20wt%以下であることがポリカーボネートの品質の観点から好ましい。モノヒドロキシ化合物が長時間反応系に滞留するとポリカーボネートの着色などが生じうる可能性がある。第1反応器出口の反応液中のモノヒドロキシ化合物の含有量はより好ましくは15wt%以下である。第1反応器出口の反応液中のモノヒドロキシ化合物の含有量は、後記する圧力または還流比の調整で可能となる。具体的には、圧力を低下させたり、還流比を小さくすることにより低減可能である。
【0024】
反応器の大きさは特に制限されないが、第1反応器の内容積は、20L以上であることが好ましく、30L以上であることがより好ましい。2器目以降の反応器の内容積は反応スケールまたは選択する反応条件により最適な内容積は異なるが、10L以上であることが好ましい。反応器の内容積が小さすぎると、反応器全体の容積に対して、反応器同士を連結する配管内の容積の割合が大きくなり、配管内で余計な滞留時間がかかるようになるため、ポリカーボネートの品質悪化の要因となりうる。一方、反応器の内容積の上限は、特に限定はないが、反応効率、現実性の観点から、20mである。
【0025】
前記の反応器と次の反応器との連結は、直接連結していてもよいし、必要に応じて、配管等を介して連結していてもよい。配管は二重管式等で反応液を冷却固化させることなく移送ができることが好ましく、気相部を有さず、かつデッドスペースを生じないものが好ましい。
【0026】
前記のそれぞれの反応器を加熱する加熱媒体の温度は、通常300℃以下であることが好ましく、より好ましくは270℃以下、更に好ましくは260℃以下である。加熱媒体の温度が高すぎると、反応器壁面での熱劣化が促進され、異種構造若しくは分解生成物の増加、または色調の悪化等の不具合を招くことがある。下限温度は、上記反応温度が維持可能な温度であれば特に制限されない。
【0027】
本発明で使用する反応器は公知のいかなるものでもよい。例えば、熱油またはスチームを加熱媒体とした、ジャケット形式の反応器または内部にコイル状の伝熱管を有する反応器等が挙げられる。
【0028】
次に、本発明の方法について、さらに具体的に説明する。本発明の方法は、原料モノマーとして、式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート(DPC)等の炭酸ジエステルをそれぞれ溶融状態にて、原料混合溶融液を調製し(原料調製工程)、これらの化合物を、重合触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。DPCを用いた場合、モノヒドロキシ化合物としてフェノールが副生するため、減圧下で反応を行い、該フェノールを反応系から除去することにより、反応を進行させ、ポリカーボネートを生成させる。
【0029】
反応方式は、連続式であり、反応器は、複数器の竪型攪拌反応器、及びこれに続く少なくとも1器の横型攪拌反応器が用いられることが好ましい。通常、これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、ポリカーボネート中の未反応原料若しくは反応副生物であるモノヒドロキシ化合物を脱揮除去する工程、熱安定剤、離型剤若しくは色剤等を添加する工程、または得られたポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程等を適宜追加してもよい。
【0030】
発生したフェノール等のモノヒドロキシ化合物は、タンク等に収集しておき、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行って回収した後、DPCまたはビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。本発明の製造方法において、副生モノヒドロキシ化合物の精製方法に特に制限はないが、蒸留法を用いることが好ましい。この場合の蒸留は、単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されないが、精製効率および生産性の観点から理論段を設けた複数の蒸留塔を用いた連続蒸留が好ましい。2基の蒸留塔を用いる場合は、第1蒸留塔では、減圧下にて還流をかけながら蒸留を行い、軽沸成分を一部モノヒドロキシ化合物とともに塔頂より留去し、缶出液を第2蒸留塔へ供給する。第2蒸留塔では、第1蒸留塔よりも圧力を低下させた条件にて蒸留を行い、塔頂より精製したフェノール等のモノヒドロキシ化合物を回収する。また、本発明においては使用される全反応器において留出する留出液からモノヒドロキシ化合物を蒸留により精製し、回収する工程を含むことが好ましい。
【0031】
精製前のモノヒドロキシ化合物の純度が高いほど精製も容易となるため、蒸留塔の理論段を減らせることにより蒸留塔の建設コストが削減でき、また、蒸留で生成する廃棄物の量も低減するため、廃棄物の処理コストも削減できる。
【0032】
次に、製造方法の各工程について説明する。
<原料調製工程>
ポリカーボネートの原料として使用する前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物、及び炭酸ジエステルは、通常、窒素若しくはアルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の攪拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製される。溶融混合の温度は、例えば、式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としてISBを用いると共に、後記するような脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用い、炭酸ジエステルとしてDPCを用いる場合は、通常好ましくは80℃〜180℃、より好ましくは90℃〜120℃の範囲から選択される。また、この原料混合溶融液に酸化防止剤等を添加してもよい。通常知られるヒンダードフェノール系酸化防止剤またはリン系酸化防止剤を添加することで、原料調製工程での原料の保存安定性を向上することができる。また、重合中での着色を抑制することにより、得られるポリカーボネートの色調を改善することができる。
【0033】
使用する重合触媒は、通常、予め水溶液として準備される。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエンまたはフェノール等の他の溶媒を選択することもできる。なお、重合触媒の具体例については、後記する。
【0034】
触媒の溶解に使用する水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水または脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0035】
<前段反応工程>
先ず、前段反応工程において、上記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合物を、溶融下に、好ましくは竪型反応器に供給して、通常、好ましくは温度150℃〜270℃で重縮合反応を行い、オリゴマーを得る。
【0036】
この前段反応は、通常好ましくは1器以上、より好ましくは2器〜6器の反応器で連続的に行われ、副生するモノヒドロキシ化合物の40%から95%を留出させることが好ましい。反応器の内温は、通常150℃〜280℃であることが好ましく、より好ましくは160℃〜240℃であり、反応器の内圧は好ましくは80kPa〜1.3kPaである。複数の反応器による連続反応の場合、各反応器の内温を、上記範囲内で順次上げ、各反応器の内圧を、上記範囲内で順次下げることが好ましい。平均滞留時間は、通常0.1時間〜10時間であることが好ましく、より好ましくは0.5時間〜5時間、更に好ましくは0.5時間〜3時間である。
【0037】
本発明の方法において、前段反応工程における第1反応器の反応条件は得られるポリカーボネートの品質だけでなく、原料原単位や、回収した留出液からのフェノールの精製コスト、プラント全体の熱収支など、幅広い観点から慎重に決定することが好ましい。
【0038】
第1反応器の内温は、特定の温度範囲内で、かつ変動が少ないことが好ましい。具体的には、第1反応器の内温は、150℃以上250℃以下の範囲内であることが好ましく、160℃以上230℃以下の範囲内であることがより好ましい。更に、該内温の変動は10℃以内であることが好ましく、5℃以内であることがより好ましく、3℃以内であることが更に好ましい。第1反応器の内温が高すぎると熱劣化が促進され、異種構造または着色成分の生成が増加し、ポリカーボネートの品質の悪化を招く可能性があり、又、該第1反応器からフェノール等のモノヒドロキシ化合物と共にジヒドロキシ化合物の揮散が促進され、留出液中の不純物が多くなったり、仕込み原料組成と相違する組成を有するポリカーボネートが製造される場合がある。一方、第1反応器の内温が低すぎると反応速度が低下するために、色調が悪化したり、生産性が低下する場合がある。更に、該内温の変動が大きいと、色相および熱安定性が良好で所望の組成のポリカーボネートを安定して製造することが困難となる可能性がある。
【0039】
さらに、溶融重縮合反応は平衡反応であるため、副生するモノヒドロキシ化合物を反応系外に除去することで反応が促進されるため、減圧状態にすることが好ましい。第1反応器の内圧は5kPa以上80kPa以下の範囲内であることが好ましく、5kPa以上、40kPa以下の範囲内がより好ましく、5kPa以上、30kPa以下の範囲内が更に好ましい。第1反応器の内圧が高すぎるとモノヒドロキシ化合物が留出しないために反応性が低下し、生産性が低下する場合がある。第1反応器の内圧が低すぎるとモノヒドロキシ化合物と共に未反応のジヒドロキシ化合物または炭酸ジエステルなどの原料が留出するため、原料モル比がずれて所望の分子量やまたは組成のポリカーボネートまで到達しないなど、反応の制御が難しくなり、また、原料原単位が悪化してしまうおそれ場合がある。更に、第1反応器の内圧の変動は5kPa以内であることが好ましく、4kPa以内であることがより好ましい。該内圧の変動が大きいと、色相または熱安定性が良好で所望の組成のポリカーボネートを安定して製造することが困難となる可能性がある。
【0040】
第1反応器を加熱する加熱媒体の温度は通常265℃以下であることが好ましく、第1反応器内温との温度差が5℃以上80℃以下であることが好ましい。該加熱媒体の温度は250℃以下がより好ましく、235℃以下が更に好ましい。加熱媒体温度が高すぎると、第1反応器壁面、とりわけて気相部壁面に反応液が付着した場合、熱劣化し、着色の原因となる可能性がある。更に、第1反応器を加熱する加熱媒体の温度と第1反応器の内温との温度差は7℃以上70℃以下がより好ましく、10℃以上60℃以下が更に好ましい。該温度差が小さすぎると、次の二つの状況が考えられ、いずれも色調悪化を招く可能性がある。一つ目は第1反応器において反応が十分に進行しない可能性があり、モノヒドロキシ化合物の生成量が少ないために、蒸発潜熱による熱ロスが小さくなっている。二つ目は第1反応器に投入されるまでに原料の温度を高く上げすぎている可能性がある。いずれの場合も反応の進行とは別の熱負荷を反応液に与えていることになり、色調の悪化を招く可能性がある。該温度差が大きすぎると、過度の加熱により着色する可能性がある。
【0041】
更に本発明における第2反応器には第1反応器と同様に還流冷却器が具備されていることが好ましい。第2反応器に還流冷却器があることにより、得られるポリカーボネートの組成を安定化したり、回収されたフェノール等のモノヒドロキシ化合物中の不純物量を低減する可能性がある。
【0042】
未反応原料の留出の抑制と、減圧による反応の促進を両立させるために、本発明の製造方法においては、第1反応器に還流冷却器を設ける。しかし、還流量を増やしすぎる、すなわち還流比を大きくしすぎると、還流冷却器で冷却された還流液を第1反応器において、加熱媒体により再度加熱する必要がある。そうすると、第1反応器内の反応液は過度の加熱を受けることにより、着色の原因になる可能性がある。また、還流比を小さくしすぎると、副生するモノヒドロキシ化合物と共に前記原料モノマー等も系外へ留出する場合があるために、所望の構造単位比を有するポリカーボネートとならない可能性がある。第1反応器は通常、副生するモノヒドロキシ化合物の発生量が最も多いために、第1反応器に供給する熱量が増えすぎると、しばしばプラント全体の熱収支バランスにも影響を及ぼし、他の工程に供給する熱量が不足する事態を招くことがある。
【0043】
上記の様々な観点から、第1反応器における還流比は留出量に対して0.01以上10以下とする。好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上であり、一方、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、特に好ましくは1以下、とりわけて好ましくは0.4以下である。第1反応器における還流比は反応器の圧力と還流冷却器でのモノヒドロキシ化合物の蒸気の凝縮温度をそれぞれ調整することにより、制御可能である。
【0044】
さらに、上記の複数の問題は、反応に用いるジヒドロキシ化合物の平均分子量が小さいほど深刻になる。本発明の溶融重縮合反応は高温、減圧下で反応させるため、沸点が低いジヒドロキシ化合物は未反応で留去することがあり、反応の制御が難しくなる。また、通常、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルはほぼ等モルで仕込むため、ジヒドロキシ化合物の分子量が小さいほど、単位ポリマー量あたりに必要な炭酸ジエステル量が増える、つまり、副生するモノヒドロキシ化合物の生成量が増えることになるため、上記の問題が顕在化してくる。
【0045】
従来のポリカーボネートに使用されるジヒドロキシ化合物であるビスフェノールAは分子量228であり、沸点も十分に高かったが、本発明の製造方法は、特に反応に用いるジヒドロキシ化合物のうち、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物の5kPaにおける沸点が250℃以下であることが効果の観点から好ましく、5kPaにおける沸点が240℃以下であることがより好ましく、5kPaにおける沸点が220℃以下であることが更に好ましい。
【0046】
前記ジヒドロキシ化合物は特定の沸点を有するものであれば特に限定されないが、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては例えば、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはトリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。オキシアルキレングリコール類としては例えば、ジエチレングリコールまたはトリエチレングリコール等が挙げられる。また、反応に用いるジヒドロキシ化合物の平均分子量は、効果の観点から220以下であることが好ましく、より好ましくは200以下、更に好ましくは180以下である。
なお、反応に用いるジヒドロキシ化合物の平均分子量は、各ジヒドロキシ化合物の分子量に、全ジヒドロキシ化合物に対するモル分率を乗じ、足し合わせた数値を示す。
【0047】
<後段反応工程>
次に、前段反応工程で得られたオリゴマーを例えば横型攪拌反応器に供給して、通常、温度200℃〜280℃で重縮合反応を行い、ポリカーボネートを得る。この反応は通常1器以上、好ましくは1器〜3器の反応器で連続的に行われる。
【0048】
反応温度は、好ましくは210℃〜270℃、より好ましくは220℃〜260℃である。圧力は、通常13.3kPa〜1.3Paであることが好ましく、より好ましくは2kPa〜3Pa、更に好ましくは1kPa〜10Paである。平均滞留時間は、通常0.1時間〜10時間であることが好ましく、より好ましくは0.5時間〜5時間、更に好ましくは0.5時間〜2時間である。
【0049】
後段反応工程における各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するフェノール等をより効果的に系外に除去するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定することが好ましい。尚、得られるポリカーボネートの色調等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温および短滞留時間の設定が好ましい。
【0050】
<反応器>
重縮合工程を行う場合は、通常、竪型攪拌反応器を含む複数器の反応器を設けて、ポリカーボネートの平均分子量(還元粘度)を増大させることが好ましい。
【0051】
ここで、反応器としては、例えば、竪型攪拌反応器または横型撹拌反応器が挙げられる。具体例としては、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器またはワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が挙げられる。
【0052】
前記の竪型攪拌反応器とは、垂直回転軸と、この垂直回転軸に取り付けられた攪拌翼とを具備している。攪拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼またはねじり格子翼((株)日立製作所製)等が挙げられる。
【0053】
また、前記の横型攪拌反応器とは、攪拌翼の回転軸が横型(水平方向)で、この水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼を有するものであり、攪拌翼の形式としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの攪拌翼、またはHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、メガネ翼、若しくは格子翼((株)日立製作所製)等の二軸タイプの攪拌翼が挙げられる。また、横型反応器の水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15であることが好ましく、より好ましくは2〜14である。
【0054】
<製造装置の一例>
次に、図1を用いて、本実施の形態が適用される本発明の方法の一例を具体的に説明する。以下に説明する製造装置や原料または触媒は本発明の実施態様の一例であり、本発明は以下に説明する例に限定されるものではない。
【0055】
図1は、本発明の方法で用いる製造装置の一例を示す図である。図1に示す製造装置において、本発明のポリカーボネートは、原料の前記ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原料調製工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程を経て製造される。重縮合工程で生成した留出液は凝縮器12a、12b、12c、12dにて液化して留出液回収タンク14aに回収される。尚、以下は、原料のジヒドロキシ化合物としてISBと1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を、原料の炭酸ジエステルとしてDPCをそれぞれ用い、また、触媒として酢酸カルシウムを用いた場合を例示して説明する。
【0056】
重縮合工程後、重合反応液中の未反応原料若しくは反応副生物を脱揮除去する工程(図示せず)や、熱安定剤、離型剤若しくは色剤等を添加する工程(図示せず)、またはポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程(図示せず)を経て、ポリカーボネートのペレットが成形される。
【0057】
まず、原料調製工程において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPCの溶融液を原料供給口1aから原料混合槽2aに連続的に供給される。また、窒素ガス雰囲気下で計量されたISBの溶融液、CHDMの溶融液が、それぞれ原料供給口1b、1cから、原料混合槽2aに連続的に供給される。そして、原料混合槽2a内でこれらは混合され、原料混合溶融液が得られる。
【0058】
次に、得られた原料混合溶融液は、原料供給ポンプ4a、原料フィルター5aを経由して第1竪型攪拌反応器6aに連続的に供給される。触媒として、酢酸カルシウム水溶液が、原料混合溶融液の移送配管途中の触媒供給口1dから連続的に供給される。
【0059】
図1の製造装置の重縮合工程においては、第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6dが直列に設けられる。各反応器では液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われ、第1竪型攪拌反応器6aの槽底より排出された重合反応液は第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて、第3竪型攪拌反応器6cへ、第4横型攪拌反応器6dへと順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定することが好ましい。図1の装置を用いた場合、第1竪型攪拌反応器6aが本発明における第1反応器に相当し、第2竪型攪拌反応器6bが本発明における第2反応器に相当する。
【0060】
第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b及び第3竪型攪拌反応器6cには、マックスブレンド翼7a、7b、7cがそれぞれ設けられる。また、第4横型攪拌反応器6dには、2軸メガネ型攪拌翼7dが設けられる。第3竪型攪拌反応器6cの後には移送する反応液が高粘度になるため、ギアポンプ4bが設けられる。
【0061】
第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bは、供給熱量が特に大きくなることがあるため、熱媒温度が過剰に高温にならないように、それぞれ内部熱交換器8a、8bが設けられる。
【0062】
なお、これらの4器の反応器には、それぞれ、重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管11a、11b、11c、11dが取り付けられる。第1竪型攪拌反応器6aと第2竪型攪拌反応器6bについては留出液の一部を反応系に戻すために、還流冷却器9a、9bと還流管10a、10bがそれぞれ設けられる。還流比は反応器の圧力と、還流冷却器の熱媒温度とをそれぞれ適宜調整することにより制御可能である。
【0063】
留出管11a、11b、11c、11dは、それぞれ凝縮器12a、12b、12c、12dに接続し、また、各反応器は、減圧装置13a、13b、13c、13dにより、所定の減圧状態に保たれる。
【0064】
尚、本実施の形態においては、各反応器にそれぞれ取り付けられた凝縮器12a、12b、12c、12dから、フェノール(モノヒドロキシ化合物)等の副生物が連続的に液化回収される。また、第3竪型攪拌反応器6cと第4横型攪拌反応器6dにそれぞれ取り付けられた凝縮器12c、12dの下流側にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に固化回収される。
【0065】
<連続製造装置における溶融重縮合の開始>
本実施の形態では、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく重縮合は、以下の手順に従い開始される。
【0066】
先ず、図1に示す連続製造装置において、直列に接続された4器の反応器(第1竪型攪拌反応器6a、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d)を、予め、所定の内温と圧力とにそれぞれ設定する。ここで、各反応器の内温、熱媒温度と圧力とは、特に限定されないが、以下のように設定することが好ましい。
【0067】
(第1竪型攪拌反応器6a)
内温:150℃〜250℃、圧力:80kPa〜5kPa、加熱媒体の温度150℃〜265℃、還流比0.01〜10
(第2竪型攪拌反応器6b)
内温:160℃〜250℃、圧力:40kPa〜8kPa、加熱媒体の温度170℃〜280℃、還流比0.01〜5
(第3竪型攪拌反応器6c)
内温:190℃〜260℃、圧力:10kPa〜1.3kPa、加熱媒体の温度190℃〜280℃
(第4横型攪拌反応器6d)
内温:210℃〜270℃、圧力:1kPa〜1Pa、加熱媒体の温度210℃〜280℃
【0068】
次に、別途、原料混合槽2aにて窒素ガス雰囲気下、前記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、所定のモル比で混合し、原料混合溶融液を得る。
【0069】
続いて、前述した4器の反応器の内温と圧力が、それぞれの設定値の±5%の範囲内に達した後に、別途、原料混合槽2aで調製した原料混合溶融液を、第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給する。また、原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1dから触媒を連続供給し、エステル交換反応を開始する。
【0070】
エステル交換反応が行われる第1竪型攪拌反応器6aでは、重合反応液の液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように一定に保たれる。第1竪型攪拌反応器6a内の液面レベルを一定に保つ方法としては、通常、液面計等で液レベルを検知しながら槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御する方法が挙げられる。
【0071】
ここで、第1竪型攪拌反応器6aにおける平均滞留時間は、特に限定されないが、通常30分〜120分であることが好ましい。
【0072】
続いて、重合反応液は、第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出され、第2竪型攪拌反応器6bへ、続いて第2竪型攪拌反応器6bの槽底から排出され、第3竪型攪拌反応器6cへ逐次連続供給される。この前段反応工程において、副生するフェノールの理論量に対して50%から95%が留出され、オリゴマーが生成する。
【0073】
次に、上記前段反応工程で得られたオリゴマーをギアポンプ4bにより移送し、水平回転軸と、この水平回転軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有し、かつ水平回転軸の長さをLとし、攪拌翼の回転直径をDとしたときにL/Dが1〜15である横型攪拌反応器6dに供給して、後述するような後段反応を行なうのに適した温度および圧力条件下で、副生するフェノールおよび一部未反応モノマーを、留出管11dを介して系外に除去してポリカーボネートを生成させる。
【0074】
この横型攪拌反応器6dは、1本または2本以上の水平な回転軸を有し、この水平回転軸に円板型、車輪型、櫂型、棒型、窓枠型などの攪拌翼を1種または2種以上組合せて、回転軸当たり少なくとも2段以上設置されており、この攪拌翼により反応溶液をかき上げ、または押し広げて反応溶液の表面更新を行なう横型高粘度液処理装置である。
なお、本明細書中、上記「反応溶液の表面更新」という語は、液表面の反応溶液が液表面下部の反応溶液と入れ替わることを意味する。
【0075】
このように本発明で用いられる横型攪拌反応器は、水平軸と、この水平軸にほぼ直角に取り付けられた相互に不連続な攪拌翼とを有する装置であり、押出機と異なりスクリュー部分を有していない。本発明の方法においては、このような横型攪拌反応器を少なくとも1器用いることが好ましい。
【0076】
上記後段反応工程における反応温度は、通常200℃〜280℃であることが好ましく、より好ましくは210℃〜260℃の範囲である。後段反応工程における反応圧力は、通常13.3kPa〜1.3Paであることが好ましく、より好ましくは2kPa〜3Pa、更に好ましくは1kPa〜10Paである。
【0077】
本発明の方法において、横型攪拌反応器6dを、装置構造上、2軸ベント式押出機と比較してホールドアップが大きいものを用いることにより、反応液の滞留時間を適切に設定でき、かつ剪断発熱を抑制されることによって温度を下げることができ、より色調の改良された、機械的性質の優れたポリカーボネートを得ることが可能となる。
【0078】
本発明における反応装置においては、ポリカーボネートの色調の観点から、反応装置を構成する機器若しくは配管などの構成部品の原料モノマーまたは重合液に接する部分(以下「接液部」と称する)の表面材料は、接液部の全表面積の少なくとも90%以上を占める割合で、ニッケル含有量10重量%以上のステンレス、ガラス、ニッケル、タンタル、クロムおよびテフロン(登録商標)のうち1種または2種以上から構成されていることが好ましい。本発明においては、接液部の表面材料が上記物質から構成されていればよく、上記物質と他の物質とからなる張り合わせ材料、または上記物質を他の物質にメッキした材料などを表面材料として用いることができる。
【0079】
各反応器において溶融重縮合反応と同時に副生するフェノールは、各反応器に取り付けられた留出管(11a、11b、11c、11d)により系外に留去される。
【0080】
このように、本実施の形態では、図1に示す連続製造装置において、4器の反応器の内温と圧力が所定の数値に達した後に、原料混合溶融液と触媒とが予熱器を介して連続供給され、エステル交換反応に基づく溶融重縮合が開始される。
【0081】
このため、各反応器における重合反応液の平均滞留時間は、溶融重縮合の開始直後から定常運転時と同等となる。その結果、重合反応液は必要以上の熱履歴を受けることがなく、得られるポリカーボネート中に生じるゲルまたはヤケ等の異物が低減する。また色調も良好となる。
【0082】
本発明のポリカーボネートは、上述の通り重縮合反応後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。ペレット化の方法は限定されるものではないが、例えば、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0083】
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮、または通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤若しくは難燃剤等を添加、混練することも出来る。
【0084】
押出機中の溶融混練温度は、ポリカーボネートのガラス転移温度または分子量に依存するが、通常150℃〜300℃であることが好ましく、より好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度を150℃以上とすることにより、ポリカーボネートの溶融粘度を抑え、押出機への負荷が大きくなるのを防ぎ、生産性を向上することができる。また、溶融混練温度を300℃以下とすることにより、ポリカーボネートの熱劣化を抑え、分子量の低下による機械的強度の低下若しくは着色、またはガスの発生を防ぐことができる。
【0085】
さらに、炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネートまたはジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネートを製造する場合は、フェノールまたは置換フェノールが副生し、ポリカーボネート中に残存することは避けられないが、フェノールまたは置換フェノールは成型時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート中には、通常の反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有するモノヒドロキシ化合物が含まれているが、臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器または真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。
【0086】
なお、これらモノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
本発明のポリカーボネートを製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが好ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。
【0087】
本発明のポリカーボネートの押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJIS B9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
【0088】
押出されたポリカーボネートを冷却し、チップ化する際は、空冷または水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm〜0.45μmであることが好ましい。
【0089】
このようにして得られた本発明のポリカーボネートの分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.20dL/g以上であることが好ましく、0.30dL/g以上であることがより好ましく、一方、通常1.20dL/g以下であることが好ましく、1.00dL/g以下であることがより好ましく、0.80dL/g以下であることが更に好ましい。ポリカーボネートの還元粘度が低すぎると成形品の機械強度が小さくなる可能性があり、高すぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性または成形性を低下する傾向がある。尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
【0090】
本発明のポリカーボネートは、射出成形法、押出成形法または圧縮成形法等の通常知られている方法で成形物にすることができる。ポリカーボネートの成形方法は特に限定されないが、成形品形状に合わせて適切な成形法が選択される。成形品がフィルムまたはシートの形状である場合は押出成形法が好ましく、射出成形法では成形品の自由度が得られる。
【0091】
また、本発明のポリカーボネートは、種々の成形を行う前に、必要に応じて、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤または難燃剤等の添加剤を、タンブラー、スーパーミキサー、フローター、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサーまたは押出機などで混合することもできる。
【0092】
また、本発明のポリカーボネートは例えば、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン、ABS若しくはASなどの合成樹脂、ポリ乳酸若しくはポリブチレンスクシネートなどの生分解性樹脂、またはゴムなどの1種又は2種以上と混練して、ポリマーアロイとしても用いることもできる。
【0093】
<原料と触媒>
以下、本発明のポリカーボネートに使用可能な原料、触媒について説明する。
(ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネートの製造に用いられるジヒドロキシ化合物は、下記式(1)で表される部位を有するものである。
【化4】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。)
【0094】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、具体的には、例えば、オキシアルキレングリコール類、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物、または環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0095】
前記オキシアルキレングリコール類としては、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0096】
前記主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、またはビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等が挙げられる。
【0097】
前記環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物、または下記式(3)若しくは下記式(4)で表されるスピログリコール等が挙げられる。
【0098】
これらの中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネートの色相の観点から、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物または下記式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物がさらに好ましく、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物等の、糖由来の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物である無水糖アルコールが特に好ましい。
【0099】
これらのジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネートの耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物等の無水糖アルコールが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性またはカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0100】
これらは得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、上記の「環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。
【0101】
【化5】

【0102】
【化6】

【0103】
【化7】

【0104】
上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニドまたはイソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
本発明のポリカーボネートは、上記のジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物または芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。
【0106】
前記の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオールまたは1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
【0107】
前記の直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールまたはヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0108】
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノールまたはリモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0109】
前記の芳香族ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルまたは4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0110】
これらは得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリカーボネートの耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物または脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、これらを併用してもよい。
【0111】
この脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3〜6で両末端にヒドロキシ基を有する直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましい。脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはトリシクロデカンジメタノールが好ましく、より好ましいのは、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサン構造を有するジヒドロキシ化合物であり、最も好ましいのは1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0112】
その他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネートの柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることも可能であるが、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下または耐熱性の低下を招くことがある。そのため、全てのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位のモル数に対する、前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合は、好ましくは90mol%以下、更に好ましくは85mol%以下、特に好ましくは80mol%以下である。一方、好ましくは20mol%以上、更に好ましくは30mol%以上、特に好ましくは40mol%以上である。
【0113】
本発明のジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤または熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよく、特に酸性下で本発明のジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩若しくは脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド若しくはブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール若しくはアミノキノリン等のアミン系化合物またはジ−(tert−ブチル)アミン若しくは2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。安定剤の中でも安定化の効果からはナトリウム若しくはカリウムのリン酸塩、モルホリンまたはジ−tert−ブチルアミンが好ましい。
【0114】
これら塩基性安定剤の本発明のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、本発明のジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるので、上記の安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7以上となるように安定剤を添加することが好ましい。少なすぎると本発明のジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明のジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明のジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0115】
これら塩基性安定剤を含有した本発明のジヒドロキシ化合物をポリカーボネートの製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度または品質の制御が困難になるだけでなく、樹脂色相の悪化を招くため、ポリカーボネートの製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂または蒸留等で除去することが好ましい。
【0116】
本発明で用いられるジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管または製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネートを製造すると、得られるポリカーボネートの着色を招いたり、物性を著しく劣化させたりするだけでなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない可能性がある。
【0117】
上記の酸化分解物を含まない本発明で用いられるジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンまたは窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。このような蒸留精製で、前記本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネートの製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相または熱安定性に優れたポリカーボネートの製造が可能となる。
【0118】
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネートは、上述した本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(5)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【化8】

【0119】
上記式(5)において、AおよびAは、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基または置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。AおよびAの好ましいものは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、より好ましいのは無置換の芳香族炭化水素基である。
【0120】
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が挙げられる。これらの中でもジフェニルカーボネートまたは置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネートの色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0121】
(エステル交換反応触媒)
本発明のポリカーボネートは、上述のように本発明のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させてポリカーボネートを製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0122】
本発明のポリカーボネートの製造時に使用し得るエステル交換反応触媒は、反応速度またはポリカーボネートの色調に非常に大きな影響を与え得る。
【0123】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネートの透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されないが、例えば、長周期型周期表における1族若しくは2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0124】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0125】
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩若しくはフェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩または酢酸塩が好ましく、色相または重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0126】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩または2セシウム塩等が挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
【0127】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物またはバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
【0128】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩またはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0129】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンまたは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0130】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドまたはブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0131】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリンまたはグアニジン等が挙げられる。
【0132】
上記重合触媒の使用量は、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmolであることが好ましく、より好ましくは0.5μmol〜100μmolである。中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常、0.1μmolであることが好ましく、より好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上である。また上限としては、通常20μmol以上であることが好ましく、より好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmolである。重合触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量のポリカーボネートを得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネートの色相が悪化したり、また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られるポリカーボネートの色相の悪化または成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
【0133】
また、1族金属、中でもナトリウム、カリウムまたはセシウムは、ポリカーボネート中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料または反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート中のこれらの合計量は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常2μmol以下であることが好ましく、より好ましくは1μmol以下、更に好ましくは0.5μmol以下である。
【実施例】
【0134】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下において、反応液と留出液、およびポリカーボネートの組成分析と物性の評価は次の方法により行った。
【0135】
1)反応液中のフェノール含有量
試料約0.5gを精秤し、塩化メチレン5mlに溶解した後、総量が25mlになるようにアセトンを添加した。溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにてフェノールの定量を行った後、含有量を算出した。
用いた装置および条件は、次のとおりである。
・装置:島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 4.6mmΦ×250mm
オーブン温度:40℃
・検出波長:260nm
・溶離液:A液:0.1%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=40/60(vol%)からA/B=0/100(vol%)まで
10分間でグラジエント
・試料注入量:10μl
【0136】
2)反応液と留出液中のジヒドロキシ化合物の含有量
所定量のウンデカンをアセトニトリル250mLに溶解し、これを内部標準溶液とした。試料約1gを精秤し、内部標準溶液10mLをホールピペットで加えて溶解した。溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過し、ガスクロマトグラフィーにてジヒドロキシ化合物の定量を行った後、ジヒドロキシ化合物の含有量を算出した。
【0137】
用いた装置および条件は、次のとおりである。
・装置:アジレント・テクノロジー社製 6850
・カラム:アジレント・テクノロジー社製 DB−1
(内径250μm、長さ30m、膜圧0.25μm)
・オーブン温度:50℃ 3分保持 → 昇温10℃/分 → 250℃
→ 昇温50℃/分 → 300℃ 6分保持
・検出器:水素炎イオン化検出器
・注入口温度:250℃
・検出器温度:320℃
・キャリアガス:ヘリウム
・試料注入量:1μl
【0138】
3)ポリカーボネート中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比の測定
ポリカーボネート中の各ジヒドロキシ化合物構造単位比は、ポリカーボネート30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、H NMRスペクトルを測定した。各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に基づくシグナル強度比より各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比を求めた。
【0139】
用いた装置および条件は、次のとおりである。
・装置:日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)
・測定温度:常温
・緩和時間:6秒
・積算回数:128回
【0140】
4)還元粘度
溶媒として塩化メチレンを用い、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。森友理化工業社製ウベローデ型粘度管を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求めた。ηrel=t/t
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。この値が高いほど分子量が大きい。
【0141】
5)ポリカーボネートのペレットYI値
ポリカーボネートの色相は、ASTM D1925に準拠して、ペレットの反射光におけるYI値(イエローインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM−5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM−A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM−A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。白色校正板CM−A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が−0.43±0.01、YIが−0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。YI値が小さいほど樹脂の黄色味が少なく、色調に優れることを意味する。
【0142】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(新日本理化(株)製、商品名:SKY
CHDM)
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学(株)製)
【0143】
[実施例1]
前述した図1に示すように、竪型攪拌反応器3器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の条件でポリカーボネートを製造した。尚、第1反応器及び第2反応器それぞれに還流冷却器が具備されており、第1反応器の内容積は230Lであった。
【0144】
先ず、各反応器を表1のとおりの温度・圧力に設定した。
次に別途、原料調製工程にて窒素ガス雰囲気下、ISBとCHDMとDPCとを一定のモル比(ISB/CHDM/DPC=0.500/0.500/0.995)で混合し、120℃に加熱して、原料混合溶融液を得た。
【0145】
続いて、この原料混合溶融液を、140℃に加熱した原料導入管を介して、前述した所定温度・圧力の±5%の範囲内に制御した第1竪型攪拌反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が80分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
【0146】
上記原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器6a内に触媒供給口1dから触媒として酢酸カルシウム水溶液を、全ジヒドロキシ成分1molに対し、1.5μmolの割合で連続供給した。
【0147】
第1竪型攪拌反応器6aの槽底から排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型攪拌反応器6b、第3竪型攪拌反応器6c、第4横型攪拌反応器6d(2軸メガネ翼、L/D=4)に、逐次、連続供給された。
【0148】
重合反応の間、表1に示した平均滞留時間となるように各反応器の液面レベルを制御し、また、重合反応と同時に副生するフェノールの留去を行った。第1竪型攪拌反応器の還流冷却器の温度を調節し、還流比を1.3にした。
【0149】
上記の反応条件にて24時間運転を行った後、留出管11aに取り付けた流量計により測定したところ、第1竪型攪拌反応器からの留出率は68%であった。還流冷却器出口と第1竪型攪拌反応器出口に取り付けられたバルブから留出液と反応液のサンプリングを行い、組成分析を行ったところ、留出液中のジヒドロキシ化合物は0.1wt%未満、反応液中のフェノール含有率は9.6wt%、反応液中のジヒドロキシ化合物の含有量は1.0wt%であった。第1反応器の内温は194℃〜196℃の範囲内であり、第1反応器の内圧は25kPa〜27kPaの範囲内であった。尚、第1竪型攪拌反応器の加熱媒体の温度は217℃であった。
【0150】
第4横型攪拌反応器からこうして得られたポリカーボネートの還元粘度は0.645、ペレットYI値は9.7、ポリカーボネートのジヒドロキシ化合物構造単位のモル比はISB/CHDM=50.1/49.9となり、仕込みどおりの組成になった。
【0151】
全反応器から留出した留出液の組成分析を行ったところ、ジヒドロキシ化合物の含有量は0.2wt%であった。
これらの結果をまとめて表2に示す。
【0152】
[実施例2]
第1竪型攪拌反応器の還流冷却器の温度を調節し、還流比を7.5とした以外、実施例1と同様に行ったところ、第1竪型攪拌反応器の内温が所定よりも低下したため、加熱媒体の温度を上昇させたが、内温は185℃までしか上がらなかったため、この反応条件にて運転を行った。
得られたポリカーボネートのペレットYI値は15.6であり、実施例1よりも色調が悪かった。結果を表2に示す。
【0153】
[実施例3]
第1竪型攪拌反応器の還流冷却器の温度を調節し、還流比を0.1とした以外、実施例1と同様に行った。ジヒドロキシ化合物の留出量は実施例1と同等でありながら、第1竪型攪拌反応器の加熱媒体の温度を低下させることができ、得られたポリカーボネートの色調が向上した。結果を表2に示す。
【0154】
[比較例1]
第1竪型攪拌反応器の圧力を常圧にし、還流を行わなかった(全留出)以外は実施例1と同様に行った。第1竪型攪拌反応器からの留出率が5%、反応液中のジヒドロキシ化合物の含有量が18.0wt%であり、実施例1よりも反応が進行していなかった。
得られたポリカーボネートのペレットYI値は20.5であり、実施例1よりも著しく色調が悪化した。結果を表2に示す。
【0155】
[比較例2]
第1竪型攪拌反応器の還流を行わなかった(全留出)以外は実施例1と同様に行ったが、ポリカーボネートの分子量が所定まで到達しなかったために、原料のモル比をISB/CHDM/DPC=0.500/0.500/0.970に変更したところ、分子量が所定に到達した。
得られたポリカーボネートのペレットYI値は9.5であり、色調は良好であったが、ポリカーボネート中のジヒドロキシ化合物構造単位のモル比はISB/CHDM=53.5/46.5となり、仕込み組成から大幅に外れてしまった。また、全反応器から留出した留出液中のジヒドロキシ化合物の含有量は5.4wt%であり、実施例1よりも未反応モノマーの留出が増加し、回収フェノールの純度が低下した。結果を表2に示す。
【0156】
表2に示した結果から、第一段目の反応器の反応条件を適切に設定することで、ポリカーボネートの品質を向上できるとともに、未反応モノマーの留出が抑制されるために、重合反応と樹脂物性の制御が可能となる。さらに、原料原単位またはフェノール回収などのコスト面へのメリットが得られる。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】

尚、上記表2中、内温、内圧の値が一定である場合は、24時間運転を行い、振れがないことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明により、耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性または機械的強度などに優れたポリカーボネートを、効率的かつ安定に製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0160】
1a:原料(炭酸ジエステル)供給口
1b、1c:原料(ジヒドロキシ化合物)供給口
1d:触媒供給口
2a:原料混合槽
3a:アンカー型攪拌翼
4a:原料供給ポンプ
4b:ギアポンプ
5a:原料フィルター
6a:第1竪型攪拌反応器
6b:第2竪型攪拌反応器
6c:第3竪型攪拌反応器
6d:第4横型攪拌反応器
7a、7b、7c:マックスブレンド翼
7d:2軸メガネ型攪拌翼
8a、8b:内部熱交換器
9a、9b:還流冷却器
10a、10b:還流管
11a、11b、11c、11d:留出管
12a、12b、12c、12d:凝縮器
13a、13b、13c、13d:減圧装置
14a:留出液回収タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応器に連続的に供給し、連続的に重縮合してポリカーボネートを製造する方法であって、下記条件(A)から(D)のすべてを満たすことを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
(A)少なくとも2器の直列に接続された反応器を用いる。
(B)1器目の第1反応器で反応した反応液を2器目の第2反応器に連続的に供給する。
(C)第1反応器が還流冷却器を具備する。
(D)第1反応器における還流比が留出量に対して0.01以上10以下である。
【化1】

(但し、上記式(1)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。)
【請求項2】
第1反応器の内温が150℃以上、250℃以下の範囲内であり、該内温の変動が10℃以内である請求項1に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
第1反応器の内圧が5kPa以上、80kPa以下の範囲内であり、該内圧の変動が5kPa以内である請求項1又は2に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
第1反応器の加熱媒体の温度が265℃以下で、第1反応器の内温との温度差が5℃以上80℃以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
第2反応器が、還流冷却器を具備する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項6】
第1反応器の内容積が20L以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
第1反応器において、エステル交換反応によって副生するモノヒドロキシ化合物の留出量が理論量の30%以上、90%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項8】
第1反応器の出口の反応液中のモノヒドロキシ化合物の含有量が20wt%以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項9】
前記ジヒドロキシ化合物の内、少なくとも1種のジヒドロキシ化合物の5kPaにおける沸点が250℃以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項10】
反応に用いる前記ジヒドロキシ化合物の平均分子量が220以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項11】
前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、環状エーテル構造を有する化合物である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項12】
前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(2)で表される化合物である請求項1乃至11のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【化2】

【請求項13】
全反応器から留出する留出液からモノヒドロキシ化合物を蒸留により精製し、回収する工程を含む請求項1乃至12のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項14】
前記モノヒドロキシ化合物がフェノールである請求項7乃至13のいずれか1項に記載のポリカーボネートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153886(P2012−153886A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−1156(P2012−1156)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】