説明

ポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】界面法による着色の少ないポリカーボネート樹脂の連続的製造方法を提供する。
【解決手段】連続的に供給されたジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と塩化カルボニルとを安定剤を含有する塩化メチレンの存在下に界面重縮合させる反応工程と、当該反応工程で使用した塩化メチレンを回収した後に精製して反応工程に循環する反応溶媒回収工程とを包含する、ポリカーボネート樹脂の製造方法において、反応工程で使用する塩化メチレン中の安定剤の濃度を1〜20重量ppmの範囲に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂の製造方法に関し、詳しくは、界面法によるポリカーボネート樹脂の連続的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂の製造方法として、反応溶媒として塩化メチレンを使用し、ジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と塩化カルボニルとを界面重縮合させる方法は界面法として周知である。上記の塩化メチレンには、光や酸素による酸化分解を抑制する観点から、各種の安定剤が微量添加されている(特許文献1〜4)。そして、反応工程で使用した塩化メチレンは回収した後に例えば蒸留などの手段によって精製して反応工程に循環される。
【0003】
【特許文献1】特開昭54−61004公報
【特許文献2】特開昭60−78922公報
【特許文献3】特開昭62−297321公報
【特許文献4】特開昭63−268736公報
【0004】
ところで、特に光学用途においては着色が少なくて製品色相に優れるポリカーボネート樹脂が要求されるが、上記の従来法は必ずしも満足し得る方法ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、界面法による着色の少ないポリカーボネート樹脂の連続的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、次のような意外な知見を得た。すなわち、長期間の連続運転においては、反応工程における塩化メチレン中の安定剤の濃度が変化し所定の範囲から逸脱してくると、これに起因して得られるポリカーボネート樹脂の製品色相が悪化することがある。
【0007】
本発明は、上記の知見に基づき更に研究を重ねて完成されたものであり、その要旨は、連続的に供給されたジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と塩化カルボニルとを安定剤を含有する塩化メチレンの存在下に界面重縮合させる反応工程と、当該反応工程で使用した塩化メチレンを回収した後に精製して反応工程に循環する反応溶媒回収工程とを包含する、ポリカーボネート樹脂の製造方法において、反応工程で使用する塩化メチレン中の安定剤の濃度を1〜20重量ppmの範囲に制御することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、色調の良いポリカーボネート樹脂を連続的に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
界面法によるポリカーボネート樹脂の連続的製造方法それ自体は周知の技術であり、本発明においては、基本的に従来公知の方法を採用することが出来る。
【0011】
ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」、以下、BPAと略記することがある。)等の芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0012】
また、前述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部は、実質的にその特性を損なわない範囲で、他の脂肪族ジヒドロキシ化合物で置き換えてもよい。そのような脂肪族ジヒドロキシ化合物としては二価アルコールが挙げられる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等を挙げることが出来る。
【0013】
ジヒドロキシ化合物は、水およびアルカリ又はアルカリ土類金属化合物と共に水相を形成する。そのようなアルカリ又はアルカリ土類金属化合物としては、通常、水酸化物が好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、これらの中では水酸化ナトリウムが好ましい。この場合、ジヒドロキシ化合物に対するアルカリ又はアルカリ土類金属化合物の割合は、通常1.0〜1.5(等量比)、好ましくは1.02〜1.04である。アルカリ又はアルカリ土類金属化合物の割合が多くても少なくても得られるオリゴマー末端基に影響し、その結果、重縮合反応が異常となる。また、水相には、ハイドロサルファイト等の還元剤を少量添加してもよい。
【0014】
反応溶媒としては塩化メチレンが使用される。塩化メチレンには、光や酸素により酸化分解を抑制する観点から、各種の安定剤が微量添加されている。安定剤としては、前述の先行技術で使用される安定剤を使用することが出来る。市販の塩化メチレンには、安定剤として、アルコール、アミン、オレフィン等が添加されている。本発明において、好ましい安定剤はオレフィンである。オレフィンの中では2−メチル−2−ブテン等のアミレン(ペンテン)(C10)が好ましく、通常アミレン混合物(ペンテン混合物)が使用される。代表的なアミレン混合物は、2−メチル−2−ブテンを主体とし、2−メチル−1−ブテンと3−メチル−1−ブテンとを夫々10重量%以下の割合で含有する。塩化メチレン中の安定剤の濃度は、塩化メチレンの酸化分解の抑制および得られたポリカーボネート樹脂の色調の観点から、1〜20重量ppm、好ましくは2〜15重量ppmである。塩化メチレン中の安定剤の濃度が20重量ppmを超える場合は得られたポリカーボネート樹脂の色調が悪化する傾向にある。
【0015】
また、本発明においては、任意の分岐剤もポリカーボネートの原料とすることが出来る。使用される分岐剤は、3個またはそれ以上の官能基を有する種々の化合物から選ぶことが出来る。適当な分岐剤としては、3個またはそれ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が挙げられ、例えば、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン及び1,4−ビス(4,4′−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼンが挙げられる。また、3個の官能基を有する化合物である、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌルも使用し得る。中でも、3個またはそれ以上のフェノール性ヒドロキシル基を持つものが好適である。分岐剤の使用量は、目的とする分岐度によっても異なるが、通常、ジヒドロキシ化合物に対し、0.05〜2モル%の量で使用される。
【0016】
本発明において、連鎖停止剤として使用されるモノフェノール類には種々のフェノール類、例えば、通常のフェノールの他、p−t−ブチルフェノール及びp−クレゾールのような炭素数1〜20のアルキルフェノール、p−クロロフェノール及び2,4,6−トリブロモフェノールのようなハロゲン化フェノールが含まれる。モノフェノール類の使用量は、目的とする重縮合体の分子量によっても異なるが、通常、ジヒドロキシ化合物に対して、0.5〜10モル%(0.005〜0.1倍)の量で使用される。
【0017】
本発明は、連続的に供給されたジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と塩化カルボニルとを安定剤を含有する塩化メチレンの存在下に界面重縮合させる反応工程と、当該反応工程で使用した塩化メチレンを回収した後に蒸留精製して反応工程に循環する反応溶媒回収工程とを包含する。
【0018】
上記の反応工程は、具体的には、塩化カルボニル化反応工程、オリゴマー化工程、重縮合工程とから成る。そして、重縮合工程の後には、通常、洗浄工程、樹脂単離工程などが設けられる。
【0019】
(塩化カルボニル化反応工程)
塩化カルボニルはガス状または液状でジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と塩化メチレンとの混合溶液中に添加される。塩化カルボニルの添加量は、ジヒドロキシ化合物1モルに対し、通常1.3〜2モルの範囲、好ましくは1.6〜1.9モルの範囲である。塩化カルボニルの添加量1.3モル未満の場合は、未反応モノマーが多く残り、反応率が低下し、2モルを超える場合は、塩化カルボニルが過剰であり、これを中和するためのアルカリが余分に必要となり好ましくない。塩化カルボニル化の反応温度は、通常10〜25℃、好ましくは18〜22℃である。反応温度が10℃未満の場合は、反応速度が遅くなり、反応率や得られるポリカーボネート樹脂の純度が低下し、25℃を超える場合は、ポリカーボネートオリゴマーの分解反応が起こり易く、得られるポリカーボネート樹脂の純度が低下する。また、塩化カルボニル化の反応時間は通常20分〜100分程度である。水溶液のpHは9以上に保持することが好ましい。
【0020】
(オリゴマー化工程)
本発明においては二相界面重縮合法を採用した場合、塩化カルボニルとの接触に先立って有機相と水相とを接触させ、乳濁液を形成させるのが特に好ましい。乳濁液を形成させるためには、通常の撹拌翼を有する撹拌機の他、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、フロージェットミキサー、超音波乳化機などの動的ミキサーや、静的ミキサー等の混合機を使用するのが好ましい。乳濁液は、通常0.01〜10μmの液滴径を有し、乳化安定性を有する。
【0021】
オリゴマー化においては重縮合触媒の存在下で行うことが出来る。添加は、塩化カルボニルを消費した後に行う方がよく、重縮合触媒としては、二相界面重縮合法に使用されている多くの縮重合触媒の中から、任意に選択することが出来る。中でも、トリアルキルアミン、N−エチルピロリドン、N−エチルピペリジン、N−エチルモルホリン、N−イソプロピルピペリジン及びN−イソプロピルモルホリンが適しており、特にトリエチルアミン及びN−エチルピペリジンが特に適している。
【0022】
オリゴマー化工程の反応温度は、通常80℃以下、好ましくは60℃以下、更に好ましくは10℃〜50℃の範囲である。また、反応時間は、反応温度によっても左右されるが、通常0.5分〜10時間、好ましくは1分〜2時間である。反応温度が高すぎる場合は、副反応の制御が出来ず、塩化カルボニル原単位が悪化する。一方、反応温度が低すぎる場合は、反応制御上は好ましい状況ではあるが、冷却に要する負荷が増大して、その分コストアップとなり好ましくない。有機相中のオリゴマー濃度は、得られるオリゴマーが可溶な範囲であればよく、具体的には、10〜40重量%程度である。有機相の割合はジヒドロキシ化合物のアルカリ又はアルカリ土類金属塩水溶液、即ち、水相に対して0.2〜1.0の容積比であることが好ましい。
【0023】
(重縮合工程)
カーボネートオリゴマーから、常法に従い、界面重縮合を実施する。本発明の好ましい実施態様においては、オリゴマーの溶存する有機相を水相から分離し、必要に応じて前述の塩化メチレンを追加し、当該オリゴマーの濃度を調節する。すなわち、重縮合によって得られる塩化メチレン相中のポリカーボネートの濃度が5〜30重量%となるように塩化メチレンの量が調節される。その後、新たに水およびアルカリ金属水酸化物を含む水相を加え、更に、重縮合条件を整えるために好ましくは重縮合触媒を添加し、界面重縮合法に従って所期の重縮合を完結させる。重縮合時の有機相と水相の割合は容積比で有機相:水相=1:0.2〜1程度が好ましい。
【0024】
重縮合時に添加するアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられるが、工業的には水酸化ナトリウムを使用するのがよい。アルカリ化合物の使用量は、重縮合反応中、常にアルカリ性が保たれる量以上であればよく、反応終了後における水相のアルカリ化合物濃度が通常0.05N以上、好ましくは0.05N〜0.30N程度となるようにするのがよい。重縮合反応の温度は、常温付近で十分であり、反応時間は0.5〜5時間で十分である。
【0025】
(洗浄工程)
重縮合完結後は、残存するクロロフォルメート基(CF基)が0.1μeq/g以下になるまで、水酸化ナトリウムのようなアルカリで洗浄処理する。その後、常法によって酸洗浄および水洗浄を行うことにより不純物を除去した後、塩化メチレンを除去することによって粒状体のポリカーボネートを分離する。
【0026】
(樹脂単離工程)
ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液から固体のポリカーボネート樹脂を得る方法としては、当該溶液から塩化メチレンをニーダー等で蒸発させる方法(ニーダー法)、塩化メチレンと非溶媒とを混合してポリカーボネート樹脂を沈殿させる方法、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を攪拌翼を有する造粒槽に供給し水中懸濁状態を保ちながら加熱して塩化メチレンを蒸発させポリカーボネート樹脂粒状体を得る方法(造粒法)がある。乾燥性、溶融押出によるペレット化などの加工性の点から造粒法が好ましい。
【0027】
(反応溶媒回収工程)
前述の反応工程で使用した塩化メチレンは樹脂単離工程から回収した後に精製して反応工程に循環する。塩化メチレンの精製手段としては、一般的には蒸留法が採用されるが、他の精製手段を採用してもよい。他の精製手段としては、例えば、膜分離手段などが考えられる。そして、反応工程に塩化メチレンを循環するに当たっては系外にリークした損失分を補うことが出来る。
【0028】
本発明の特徴は、反応工程で使用する塩化メチレン中の安定剤の濃度を1〜20重量ppmの範囲に制御する点にある。
【0029】
塩化メチレン中の安定剤の濃度は、前述のように所定の範囲から逸脱して変化する。その原因の一つとしては、光や酸素による酸化分解を抑制するという安定剤の役割からして、安定剤の少なくとも一部が何らかの成分をトラップして高沸点(高分子量)成分に変化し、反応溶媒回収工程における塩化メチレンの精製の際に失われるのではないかと考えられる。また、塩化メチレンの精製手段として蒸留手段を採用し、塩化メチレンより低沸点の安定剤を使用した場合は、回収される塩化メチレン中の安定剤の濃度は濃縮されて高められることも考えられる。何れにしても、反応工程で使用した塩化メチレンを回収した後に精製して反応工程に循環する結果、加えて、系外にリークした塩化メチレンの損失分を補う結果、前述した濃度範囲(1〜20重量ppm)から逸脱して変化する。多くの場合、反応工程における塩化メチレン中の安定剤の濃度は所定の範囲より低くなるため、不足分を添加することによって濃度制御を行う必要がある。
【0030】
塩化メチレン中の安定剤の濃度の分析は、塩化カルボニル化反応工程、オリゴマー化工程、重縮合工程の何れの反応工程で行ってもよく、また、これらの全工程で行ってもよい。また、安定剤の不足分の添加は、反応溶媒回収工程の蒸留精製以降であれば任意であるが、通常は、反応溶媒回収工程にて回収された塩化メチレン中に添加される。反応工程で使用する塩化メチレン中の安定剤の濃度は、前述の通り、1〜20重量ppm、好ましくは2〜15重量ppmである。なお、塩化メチレン中の安定剤の濃度の分析手法としては、安定剤の種類によって異なるが、多くの場合、ガスクロマトグラフィーが採用される。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例で使用した測定方法は次の通りである。また、塩化メチレンとしては安定剤としてアミレン混合物(2−メチル−2−ブテン:88重量%、2−メチル−1−ブテンと3−メチル−1−ブテンの合計:12重量%)を含有するものを使用した。そして、濃度制御のために追加する安定剤としては、和光純薬製 の商品「ペンテン混合物」(2−メチル−2−ブテンと2−メチル−1−ブテン:純度98重量%以上)を使用した。
【0032】
(1) 塩化メチレン中のアミレン濃度の分析:
ガスクロマトグラフ(カラム:「Thermon−3000 」10% 「Chromosorb WAW-DMCS 」80 100mesh,3mmφ×5mL、検出器:水素炎イオン化検出器、温度:カラム 70℃,注入口 150℃、検出器150℃)により、予め、2−メチル−2−ブテンの塩化メチレン溶液を調製し、面積補正係数を求め、サンプル中の2−メチル−2−ブテン濃度を定量した。なお、アミレン混合物中の各異性体は上記の条件では分離されずにクロマトグラム(ピーク図形)が重なるめ、検量線は主成分の2−メチル−2−ブテンを使用して作成した。
【0033】
(2) ポリカーボネート樹脂の色調(YI)の測定:
射出成形機(日製樹脂工業株式会社製「FS80S-12ASE」を使用し、280℃でフレークを可塑化後、シリンダー内で15秒滞留させ、厚さ3.2mm、60mm角の見本板を成形した。 見本板について、色差計(スガ試験機株式会社製「SM−4−CH」を使用し色調(YI値)を測定した。
【0034】
比較例1:
ビスフェノールA(BPA)15.09kg/時、水酸化ナトリウム(NaOH)5.49kg/時および水93.5kg/時を、ハイドロサルファイト0.017kg/時の存在下に、35℃で溶解した後、25℃まで冷却した水相ならびに5℃に冷却した塩化メチレン(塩化メチレン中の安定剤濃度15重量ppm)61.9kg/時の有機相を、各々内径6mm、外径8mmのテフロン(登録商標)製配管に供給し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却した液化ホスゲン7.2kg/時と接触させた。
【0035】
上記原料(ビスフェノールA・水酸化ナトリウム溶液)は、ホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速度にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応を行った。この時、反応温度は、断熱系で塔頂温度60℃に達した。反応物の温度は、次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行い調節した。オリゴマー化に際し、触媒としてトリエチルアミン0.005kg/時、及び分子量調節剤としてp−t−ブチルフェノール0.63kg/時を使用し、これらは、各々オリゴマー化槽に導入した。このようにしてパイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液を、更に、内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス(N2 )雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することにより、水相中に存在する未反応のビスフェノールAのナトリウム塩(BPA−Na)を完全に消費させた後、水相と油相を静置分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
【0036】
上記オリゴマーの塩化メチレン溶液を23kg/時を、希釈用塩化メチレン10kg/時、25重量%水酸化ナトリウム水溶液2.2kg/時、水6kg/時、及び濃度1重量%のトリエチルアミン水溶液0.22kg/時を直列に接続した内容積70リットルのファウドラー翼付き反応槽2基に連続的に供給して重縮合反応を進行させた。得られた重縮合液は塩化メチレンで希釈した後、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗浄の工程を経て、ポリカーボネートを含む塩化メチレン相と水相とに分離した。更に、得られた精製ポリカーボネート溶液を、造粒槽に40℃温水中にフィードすることにより粒状化し、その後、乾燥機を通して塩化メチレンを分離し、ポリカーボネートの粒状体(フレーク)を得た。このポリカーボネートの粘度平均分子量は15,100であった。
【0037】
一方、主として、造粒槽、乾燥機から塩化メチレンを蒸気として回収し、冷却後貯槽に溜めた。この回収された塩化メチレンのうち20重量%を蒸留(段数10、塔頂温度43℃、塔低温度48℃、還流比2)し、この蒸留した塩化メチレンと前記回収した塩化メチレンとを混合し、重合及び洗浄用の塩化メチレンに再使用した。
【0038】
200時間連続運転後における塩化メチレン回収貯槽での塩化メチレン中の2−メチル−2−ブテン濃度を測定したところ0.4ppmであった。また、その際に得られたポリカーボネートの成形品について、色調(YI)を測定した結果1.7であった。
【0039】
実施例1:
比較例1において、200時間連続運転期間中、塩化メチレン回収貯槽の塩化メチレン中の安定剤の濃度が13〜15ppmになるように「ペンテン混合物」を添加した以外は、比較例1と同様の操作を行った。200時間連続運転直後に得られたポリカーボネートの成形品について、色調(YI)を測定した結果1.5であった。
【0040】
実施例2:
比較例1において、200時間連続運転中、塩化メチレン回収貯槽の塩化メチレン中の安定剤の濃度が2〜5ppmになるように「ペンテン混合物」を添加した以外は、比較例1と同様の操作を行った。200時間連続運転直後に得られたポリカーボネートの成形品について、色調(YI)を測定した結果1.5であった。
【0041】
比較例2:
比較例1において、200時間連続運転中、塩化メチレン回収貯槽の塩化メチレン中の安定剤の濃度が22〜25ppmになるように「ペンテン混合物」を添加した以外は、比較例1と同様の操作を行った。200時間連続運転直後に得られたポリカーボネートの成形品について、色調(YI)を測定した結果1.7であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に供給されたジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液と塩化カルボニルとを安定剤を含有する塩化メチレンの存在下に界面重縮合させる反応工程と、当該反応工程で使用した塩化メチレンを回収した後に精製して反応工程に循環する反応溶媒回収工程とを包含する、ポリカーボネート樹脂の製造方法において、反応工程で使用する塩化メチレン中の安定剤の濃度を1〜20重量ppmの範囲に制御することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項2】
安定剤がアミレンである請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−132756(P2009−132756A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307920(P2007−307920)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】