説明

ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】剛性、セルフタップ強度、寸法安定性、難燃性、流動性及び外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる光学部品を提供すること。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、アクリロニトリル・スチレン系共重合体0.1〜20重量部、ポリカーボネートオリゴマー0.1〜30重量部、燐系難燃剤10〜25重量部、[ガラス繊維/ガラスフレーク]の配合重量比が0.2〜4.0の範囲であるガラス系充填材80〜160重量部、及びポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)0.1〜2.5重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及び該樹脂組成物を成形してなる光学部品に関する。さらに詳しくは、剛性、寸法安定性、セルフタップ強度、難燃性、成形時の流動性、及び成形品の外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は機械的性質、電気的性質、耐熱性等に優れているので、エンジニアリングプラスチックとして種々の分野で使用されており、さらに各種難燃剤やガラス繊維、マイカ、タルク等の強化材を配合して、難燃性、高剛性、寸法安定性等の要求される自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野等で広く利用されている。
また、近年の電気・電子・OA機器分野、例えばレーザー光を利用して書き込み、読み出し等を行うCD、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RW、DVD−RAM等の光情報記録媒体に対して情報の再生、記録を行うための光ピックアップ装置では、機器の高性能化、小型化、軽量化、形状設計の自由度等の観点から樹脂製の部品が多用されている。機器の小型化、軽量化及び製造コスト圧縮のために樹脂の成形材料には、薄肉でハイサイクル成形可能な流動性が求められ、さらに安全性の観点から、薄肉成形品であっても難燃性がUL94規格でV−1もしくはV−0程度であることが求められている。それと同時に、一段と優れた寸法安定性、すなわち、成形収縮率と線膨張係数が共に低く、かつ異方性が小さいことと高剛性等が要求されている。
【0003】
例えば、レーザービームプリンタ(LBP)の樹脂製光学ハウジングには、集光、受光、光路変更、波長分配等の機能を有するレンズ、ミラー、フィルタ等が装備され、昨今の高速印刷化により、光軸又は光軸周りの平面度等の寸法精度・安定性の要求がより高度になり、例えば平面度10μm以下が要求される場合もある。上記装備に加え、光路切替え用モーター等の重量物が装備される場合の寸法安定性を考慮すると、弾性率、殊に曲げ弾性率が大きいほうが有利である。また、樹脂製光学ハウジングにモーター等の金属部品を取り付ける場合は、環境温度が変化しても寸法ずれを防止できるように、線膨張係数が低くかつ異方性が小さく、更に、セルフタップネジ強度に優れた樹脂組成物が要求されている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
このような要求に対し、寸法精度に優れた非結晶性熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的として、ポリカーボネート樹脂とポリスチレン系樹脂とのブレンド物にガラスフレーク、ガラス繊維等の強化充填剤を配合してなる樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。しかし、特許文献3に記載の樹脂組成物は、線膨張係数が高くて曲げ弾性率が低く、また薄肉成形品の難燃性が不十分であり、セルフタップ強度の向上についての検討もなされていない。
また、難燃性、機械的特性の優れたガラス強化難燃性樹脂組成物を提供することを目的として、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、難燃剤、ガラス繊維、特定形状のワラスナイト又はタルク、及びポリテトラフルオロエチレンからなる樹脂組成物が提案されている(特許文献4、5)が、特許文献4及び5に記載の樹脂組成物は共に曲げ弾性率が低く、低い線膨張係数に基づく寸法安定性とセルフタップ強度の向上に関する検討がなされていない。さらに、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ゴム質重合体、マイカ、タルク、リン系難燃剤、及び含フッ素滴下防止剤からなる樹脂組成物も提案されている(特許文献6)が、特許文献6に記載の樹脂組成物は、曲げ弾性率の好ましい上限が9GPaと低く、また低い線膨張係数に基づく寸法安定性の向上に関する検討がなされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2006−72339号公報
【特許文献2】特開2006−126506号公報
【特許文献3】特開昭62−109855号公報
【特許文献4】特開2001−164105号公報
【特許文献5】特開2004−2737号公報
【特許文献6】特開2006−36877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の諸問題を全て解決し、剛性、セルフタップ強度、寸法安定性(成形収縮率と線膨張係数が共に低く、異方性も小さい)、難燃性、流動性、及び成形品の外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂に、アクリロニトリル・スチレン系共重合体、ポリカーボネートオリゴマー、燐系難燃剤、ガラス繊維とガラスフレークからなるガラス系充填材、及びポリフルオロオレフィン系重合体をそれぞれ特定割合配合した樹脂組成物が、剛性、セルフタップ強度、寸法安定性、難燃性、流動性、及び成形品の外観に優れ、電気・電子・OA機器部品、光学部品等として好適であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば上記課題は、
(1)ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)0.1〜20重量部、ポリカーボネートオリゴマー(C成分)0.1〜30重量部、燐系難燃剤(D成分)10〜25重量部、ガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)の配合重量比(ガラス繊維(E1成分)/ガラスフレーク(E2成分))が0.2〜4.0の範囲であるガラス系充填材(E成分)80〜160重量部、及びポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)0.1〜2.5重量部を配合してなる、ポリカーボネート樹脂組成物(以下「第1発明」ということがある)により達成される。
【0008】
また、前記第1発明においては更に下記(2)ないし(10)に記載の態様とすることができる。
(2)前記ポリカーボネート樹脂(A成分)の粘度平均分子量[Mv]が15,000〜30,000である。
(3)前記アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)がシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合して得られる共重合体であり、少なくとも該共重合体中にシアン化ビニル化合物に由来する構造単位が10〜40重量%、及び芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が90〜60重量%含まれており、かつ220°C、49N荷重におけるB成分のメルトフローレート(MFR)が20g/10分以上である。
【0009】
(4)前記ポリカーボネートオリゴマー(C成分)が下記一般式〔I〕で表される、平均重合度2〜15のオリゴマーである。
【化1】


(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、炭素数2〜3のアルキリデン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルフォン基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜14の脂肪族基もしくは置換脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基もしくは置換芳香族基、炭素数1〜8のオキシアルキル基及び炭素数6〜18のオキシアリール基から選ばれる1価の基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ同一又は異なるものであってもよい。)
【0010】
(5)前記ガラス繊維(E1成分)が平均繊維径1〜25μmであり、かつガラスフレーク(E2成分)が平均厚さ1〜20μm及び一辺の平均長さ0.05〜1.0mmの鱗片状である。
(6)前記燐系難燃剤(D成分)が下記の一般式〔II〕で表される非ハロゲンの縮合リン酸エステルである。
【0011】
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、それぞれ0又は1であり、mは1から5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
【0012】
(7)前記ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)がフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンである。
(8)ISO11359に準拠して測定された、樹脂の流動方向の線膨張率(LMD)と該流動方向に垂直方向の線膨張率(LTD)がそれぞれ3.0×10−5(°C−1)以下で、流動方向の線膨張率(LMD)と垂直方向の線膨張率(LTD)の線膨張率比(LMD/LTD)が0.4〜2.0であり、
かつISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が13GPa以上である。
(9)UL94−V規格の難燃性が厚さ2.0mmの試験片でV−1又はV−0を満足する。
(10)前記ポリカーボネート樹脂組成物から成形された、台座(厚み:3mm)上に円筒形ボス部(ボス部形状:内径2.5mm、肉厚1.9mm、ボス部及びボス孔長さ10mm)を有する試験片のボス部に、ねじ山径2.9mm、ねじ谷径2.2mm、長さ8mmのBタイトネジをトルクドライバーにてねじ込み、ボス部が破壊(主に割れによる破壊)に至るセルフタップ破壊トルクが1.6N・m以上である。
【0013】
また、本発明によれば上記課題は、
(11)前記(1)ないし(10)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる光学部品(以下「第2発明」ということがある)により達成される。
また、前記第2発明においては更に下記(12)及び(13)に記載の態様とすることができる。
(12)前記光学部品が光ピックアップ装置、高速カラーレーザー・プリンター、又は高速カラー複写機の光学部品の少なくとも一部である。
(13)前記光学部品がセルフタップネジ用のボスを有する光学ハウジング又はその光学ハウジングの少なくとも一部である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(以下、ポリカーボネート樹脂組成物と記載することがある)は、剛性、セルフタップ強度、寸法安定性、難燃性、流動性、及び成形品の外観に優れているので、電気・電子・OA機器部品用樹脂材料として使用でき、特に、光ピックアップ装置や、高速カラーレーザー・プリンター、高速カラー複写機等の光学部品として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A成分)、アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)、ポリカーボネートオリゴマー(C成分)、燐系難燃剤(D成分)、ガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)からなるガラス系充填材(E成分)、及びポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)からなる樹脂組成物であるが、必要に応じ本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外の熱可塑性樹脂を含ませることができる。
以下に、ポリカーボネート樹脂組成物、当該樹脂組成物の製造方法、特性と用途等について詳細に説明する。
【0016】
〔1〕ポリカーボネート樹脂組成物の各成分について
(1)ポリカーボネート樹脂(A成分)
本発明におけるポリカーボネート樹脂(A成分)は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステル等のカーボネート前駆体とを反応させて得られる、直鎖又は分岐の熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。本発明のポリカーボネート樹脂(A成分)の製造法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている方法によって製造することができる。製造方法としては、界面重合法(ホスゲン法)、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等を挙げることができる。
【0017】
原料として使用される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと記載することがある。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、テトラブロモビスフェノールAと記載することがある。)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
【0018】
これらの中で好ましいのは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類であり、特に耐衝撃性の点から好ましいのは、ビスフェノールAである。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。これらカーボネート前駆体もまた1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
またポリカーボネート樹脂(A成分)は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した、分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で例示されるポリヒドロキシ化合物類、又は3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(通称イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられ、これらの中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。多官能性芳香族化合物は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%の範囲が好ましく、0.1〜2モル%の範囲がより好ましい。
【0021】
界面重合法による反応は、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物、ならびに必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)及び芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミン又は第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによってポリカーボネートを得る。分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお反応温度は例えば、0〜40°Cで、反応時間は例えば数分(例えば10分)〜数時間(例えば6時間)である。
ここで、反応に不活性な有機溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0022】
分子量調節剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。一価のフェノール性水酸基を有する化合物としては、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは1モル以上である。
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
溶融エステル交換法による反応は、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。芳香族ジヒドロキシ化合物は前述したと同様のものが例示でき、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ビスフェノールAが好ましい。
炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が例示される。炭酸ジエステルは、好ましくはジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートであり、より好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0024】
一般的に、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整したり、反応時の減圧度を調整したりすることによって、所望の分子量及び末端ヒドロキシル基量を有するポリカーボネートが得られる。より積極的な方法として、反応時に別途、末端停止剤を添加する調整方法も周知である。この際の末端停止剤としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。末端ヒドロキシル基量は、製品ポリカーボネートの熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす。用途にもよるが、実用的な物性を持たせるためには、好ましくは1,000ppm以下であり、より好ましくは700ppm以下である。
また、エステル交換法で製造するポリカーボネート樹脂(A成分)では、末端ヒドロキシル基量が100ppm以上であることが好ましい。このような末端ヒドロキシル基量とすることにより、分子量の低下を抑制でき、色調もより良好なものとすることができる。従って、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いるのが好ましく、1.01〜1.30モルの量で用いるのがより好ましく、1.02〜1.2のモル比で用いられることが特に好ましい。
【0025】
エステル交換法によりポリカーボネート樹脂(A成分)を製造する際には、通常エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は、特に制限はないが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が好ましい。また、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。上記原料を用いたエステル交換反応としては、100〜320°Cの温度で反応を行い、最終的には絶対圧2.6×10Pa(2mmHg)以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行う方法が例示される。
溶融重縮合は、バッチ式又は連続的に行うことができるが、ポリカーボネート樹脂(A成分)の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。エステル交換法ポリカーボネート中の触媒の失活剤としては、該触媒を中和する化合物、例えば、イオウ含有酸性化合物又はそれより形成される誘導体を使用することが好ましい。このような触媒を中和する化合物は、該触媒が含有するアルカリ金属に対して、好ましくは0.5〜10当量、より好ましくは1〜5当量の範囲で添加する。さらに加えて、このような触媒を中和する化合物は、ポリカーボネートに対して、好ましくは1〜100ppm、より好ましくは1〜20ppmの範囲で添加する。
【0026】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A成分)の分子量は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で、15,000〜30,000の範囲が好ましい。ポリカーボネート樹脂(A成分)の粘度平均分子量が前記15,000未満では機械的強度が劣る場合があり、前記30,000を越えると成形時の流動性が低下して成形加工が困難になる場合があり、また成形品外観に不良を生じ易い。粘度平均分子量[Mv]は、17,000〜28,000がより好ましく、19,000〜26,000が更に好ましい。また、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合することにより、上記粘度平均分子量[Mv]のものを得てもよい。この場合、粘度平均分子量が上記好適な範囲に含まれていないポリカーボネート樹脂を混合に使用することもできる。
【0027】
ここで粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20°Cでの極限粘度[η](単位dl/g)を求め、更にSchnellの粘度式、すなわち、[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83 から算出される値を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0028】
【数1】

【0029】
更に、本発明におけるポリカーボネート樹脂(A成分)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂を使用することもできる。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防等の車両透明部材、飲料水用等のボトル容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生されたポリカーボネート樹脂は、A成分の80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下である。
【0030】
(2)アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)
本発明におけるアクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)とは、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合した熱可塑性共重合体である。ここで使用するシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物を挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましく使用できる。また芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン等のスチレン及びスチレン誘導体が挙げられ、これらのうち好ましいのはスチレンである。なお、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0031】
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)中におけるシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物由来の構造単位のそれぞれの割合としては、全体を100重量%とした場合、シアン化ビニル化合物由来の構造単位が10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%、芳香族ビニル化合物由来の構造単位が90〜60重量%、好ましくは85〜70重量%である。アクリロニトリル由来の単位の含有量が10〜40重量%であると、ポリカーボネート(A成分)との相溶性が維持できて耐衝撃性の低下等の問題が起こりづらい。更に共重合時において、これらのビニル化合物に、共重合可能な他のビニル系化合物を混合して使用することもでき、これらの混合割合は、アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)中で前記他のビニル系化合物由来の構造単位が15重量%以下になることが好ましい。また共重合反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、公知のものが使用可能である。
【0032】
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)は、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合あるいは塊状・懸濁重合等の方法により製造されるが、本発明においては、いわゆるスチレン系重合体、又はスチレン系ランダム共重合体あるいはブロック共重合体の場合には塊状重合、懸濁重合又は塊状・懸濁重合により製造されたものが好適であり、スチレン系グラフト共重合体の場合には塊状重合,塊状・懸濁重合あるいは乳化重合によって製造されたものが好適である。
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)のメルトフローレート(MFR)は、220°C、49N荷重において、好ましくは20g/10分以上、より好ましくは30g/10分以上、特に好ましくは40g/10分以上のものが用いられるが、実用性の点から上記メルトフローレート(MFR)の上限は70g/10分程度である。
また、重量平均分子量は、GPC測定による標準ポリスチレン換算において40,000以上が好ましく、50,000以上がより好ましい、また200,000以下が好ましく、160,000以下がより好ましい。
このようなアクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)は、例えばテクノポリマー(株)製の商品名「290FF」、また日本エイアンドエル(株)製の商品名「BS−218」として市販されているもの等が使用できる。
【0033】
上記した流動性の高いアクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)を使用することにより、機械的特性、難燃性等を低下させることなく、流動性を大幅に向上させることが可能になる。アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し0.1〜20重量部である。B成分が0.1重量部未満では流動性向上による成形性の改良効果が小さく、20重量部を越えると難燃性が低下する。B成分の好ましい配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して2〜18重量部であり、さらに好ましくは4〜15重量部である。
【0034】
(3)ポリカーボネートオリゴマー(C成分)
本発明におけるポリカーボネートオリゴマー(C成分)として好ましいのは、下記の一般式〔I〕の構成単位で表される平均重合度2〜15の芳香族ポリカーボネートオリゴマーであり、二価フェノールとホスゲン又は炭酸のジエステル等で代表されるカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法で反応させて製造されるものである。
【0035】
【化3】

上記一般式〔I〕中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、炭素数2〜3のアルキリデン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルフォン基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜14の脂肪族基もしくは置換脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基もしくは置換芳香族基、炭素数1〜8のオキシアルキル基及び炭素数6〜18のオキシアリール基から選ばれる1価の基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ同一又は異なるものであってもよい。
二価フェノールの組み合わせとしては、例えば、ビスフェノールAとテトラブロモビスフェノールAが挙げられる。好ましいのは、ビスフェノールAとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。
【0036】
本発明におけるポリカーボネートオリゴマー(C成分)を得るには、分子量調節剤又は末端停止剤を通常のポリカーボネート樹脂製造時に使用されるよりも多く使用する以外は、前記のポリカーボネート樹脂(A成分)の製造方法と同様な方法により製造することができる。二価フェノール及びカーボネート前駆体としては前記のポリカーボネート樹脂(A成分)で説明したものが用いられる。分子量調節剤又は末端停止剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物や芳香族カルボン酸基を有する化合物等が挙げられ、通常のフェノール、p−t−ブチルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。本発明で使用されるポリカーボネートオリゴマー(C成分)は一種でも、又は二種類以上を混合して使用してよい。
【0037】
また発明においてポリカーボネートオリゴマー(C成分)は、成形時の流動性を向上させると共に、ガラス系充填剤(E成分)が成形品表面に浮き出す強化材料特有の外観不良が生ずるのを防止する効果を有する。特にポリカーボネートオリゴマー(C成分)は、薄肉成形品又は流動長の長い成形品における流動性を向上させると共に、機械的強度、成形品の反り、収縮率、線膨張率を改良するために組成部中にガラス系充填剤が比較的多く配合される場合に、上記ガラス系充填剤(E成分)が成形品表面に浮き出る現象を防止して、外観特性を向上させるのに重要な成分である。
また、ポリカーボネートオリゴマーの数平均重合度(繰り返し構造単位数の平均値)は、2〜15が好ましい。オリゴマーの重合度が2以上では成形時に成形品からブリードアウトするのが防止可能となり、一方、重合度が15以下で流動性の改良効果が発揮できる。また、平均重合度が15を越えると成形品の表層部にC成分が集まり難くなるので、ガラス系充填材(E成分)が成形品表面に露出し易くなり、外観が低下するおそれがある。より好ましいC成分の平均重合度は4〜12である。
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)は、粘度平均分子量が1,000〜10,000の範囲のオリゴマーが好ましい、オリゴマーの粘度平均分子量が1,000以上であると成形時に成形品からブリードアウトするのを防止でき、粘度平均分子量が10,000以下で流動性が低下するのを防止できる。耐衝撃性や透明性等の物性バランスを維持しながら流動性改良効果を発現させるためには、粘度平均分子量は、1,500〜9,000がより好ましく、2,000〜8,000が更に好ましい。
【0038】
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し0.1〜30重量部である、C成分が0.1重量部未満では、流動性及び外観の改良効果が小さく、30重量部を越えると曲げ強度、セルフタップ強度及び難燃性が低下する場合がある。C成分の好ましい配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して5〜25重量部であり、さらに好ましい配合量は10〜20重量部である。
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)を上記した量含有させることにより、溶融混練時及び成形時における機械的強度を低下させることなく、流動性や成形品の外観を向上させ、総合的にバランスのとれた良好な性能を有する成形品が得られる。
【0039】
(4)燐系難燃剤(D成分)
本発明で使用される燐系難燃剤(D成分)は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されるものではないが、好ましくはトリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等のモノリン酸エステル、レゾルシノールやビスフェノールA等の2官能フェノール及び多官能フェノールを原料とした縮合リン酸エステル、及び下記の一般式〔II〕で表される非ハロゲンの縮合リン酸エステル等が挙げられる。これらの中で、より好ましいのは、下記の一般式〔II〕で表される非ハロゲンの縮合リン酸エステルである。
【0040】
【化4】

上記一般式〔II〕中、R、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、それぞれ0又は1であり、mは1から5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。
【0041】
一般式〔II〕で表される非ハロゲンの縮合リン酸エステルとしては、mが1〜5の縮合燐酸エステルであり、mが異なる縮合燐酸エステルの混合物であってもよい。混合物である場合は、混合物のmの平均値が1〜5であればよい。Xはアリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される基である。
ジヒドロキシ化合物がレゾルシノールである場合は、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル-P-t-ブチルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート、クレジル・キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート等が挙げられる。
ジヒドロキシ化合物がビスフェノールAから誘導されたものである場合は、フェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、クレジル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・ビスフェノール・ポリホスフェート、キシリル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル-P-t-ブチルフェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ビスフェノールポリホスフェート、クレジル・キシリル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・ビスフェノールポリホスフェート等が例示でき、フェニル・ビスフェノールポリホスフェートが好ましい例として挙げられる。
【0042】
燐系難燃剤(D成分)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し10〜25重量部である、D成分が10重量部未満では難燃性が低下し、25重量部を越えると荷重撓み温度、耐衝撃性及びセルフタップ強度が低下して、モールドデボジットも増加するおそれがある。D成分の好ましい配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して12〜23重量部である。
【0043】
(5)ガラス系充填材(E成分)
本発明に使用されるガラス系充填材(E成分)のうち、繊維状のガラス系充填材は通常ガラス繊維(E1成分)といわれ、断面の形状が一般的な真円状の他に、真円状の繊維を平行に重ね合わせたものに代表される各種の異形断面形状のものを使用しても良い。かかるガラス繊維(E1成分)は、平均繊維径1〜25μmが好ましく、5〜17μmがより好ましい。平均繊維径が1μm未満のガラス繊維を使用すると成形加工性が損なわれ易く、一方、平均繊維径が25μmより大きいガラス繊維を使用すると成形品の外観が損なわれ易く、補強効果も不十分になり易い。また、ガラス繊維としては、連続的に巻き取った「ガラスロービング」や長さ1〜10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10〜500μm程度に粉砕した「ミルドファイバー」を用いることができ、またこれらを併用することもできる。ガラス繊維(E1成分)としては、旭ファイバーグラス(株)より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
【0044】
本発明に使用されるガラス系充填材(E成分)のうち、板状のガラス系充填材は、通常ガラスフレーク(E2成分)といわれる。ガラスフレークには、Aガラス、Cガラス、Eガラス等のガラス組成からなるものがあり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)からなるガラスフレークがポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物に悪影響を及ぼさない点で好ましい。
ガラスフレーク(E2成分)は、平均厚さ1〜20μm、一辺の平均長さ0.05〜1.0mmの鱗片状であることが好ましい。ガラスフレークの厚さが1μm以上であると、溶融加工の段階でのガラスフレークの破損を防止して、剛性と線膨張係数の改良効果が発揮し易くなり、一方、20μm以下であると剛性と線膨張係数の改良効果が発揮し易くなる。また、ガラスフレークの一辺の長さが0.05mm以上であると剛性と線膨張係数の改良効果が発揮でき、一方、1.0mm以下であると溶融加工の段階でのガラスフレークの破損が防止できて、剛性と線膨張係数の改良効果が発揮し易くなる。かかるガラスフレーク(E2成分)は、例えば、日本板硝子(株)より、「フレカ」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
これらガラス系充填材(E成分)は、本発明に係る樹脂組成物の特性を損なわない限り、ポリカーボネート樹脂との親和性を向上させるために、例えばシラン系化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物等で表面処理したもの、酸化処理したものであってもよい。
【0045】
本発明に使用されるガラス系充填材(E成分)は、剛性を向上させ、セルフタップ強度及び難燃性を保ち、併せて線膨張係数と成形収縮率を低くかつ異方性を小さくするためにガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)を併用することに特徴があり、E1成分とE2成分の割合は、重量比(E1成分/E2成分)で0.2〜4.0であり、好ましくは0.3〜3.0である。E1成分とE2成分の割合(E1成分/E2成分)が0.2未満では、曲げ強度、曲げ弾性率、セルフタップ強度が低くなり、一方、4.0を越えると線膨張係数と成形収縮率の異方性が大きくなり、また一般的にガラス繊維はガラスフレークよりも耐燃焼性が低いため、難燃性に悪影響を及ぼすおそれもある。
また、ガラス系充填材(E成分)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し80〜160重量部であり、80重量部未満では曲げ強度や弾性率が低く、160重量部を越えるとコンパウンド性や流動性が低下する。尚、E成分の好ましい配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して90〜150重量部である。
【0046】
(6)ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)
ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)は、ポリフルオロエチレン構造を含む重合体、共重合体であり、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体(ポリテトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体)等が挙げられる。これらの中で好ましいのはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、その平均分子量は、500,000以上が好ましい。
また、ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能のあるものがより好ましい。上記フィブリル形成能を有していると、樹脂組成物中で重合体同士を結合して繊維状構造を作り、燃焼時に樹脂が溶融して滴下するのを防止する作用を有する。
このようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より、テフロン(R)6J又はテフロン(R)30Jの商品名で、あるいはダイキン化学工業(株)よりポリフロン(R)の商品名で市販されている。これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0047】
ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し0.1〜2.5重量部であり、0.1重量部未満では滴下防止効果が低く難燃性が不十分となる傾向があり、2.5重量部を越えると押出加工性、成形性が損なわれ、外観が低下する。ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)の好ましい配合量は、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して0.3〜2重量部である。
【0048】
(7)その他の成分
ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上記したA成分ないしF成分の他に衝撃強度向上の為にエラストマー、及びポリカーボネート樹脂(A成分)以外の樹脂を配合することができる。エラストマーやポリカーボネート樹脂(A成分)以外の樹脂としては、種々の公知の物を用いることができ、特に限定されるものではない。また、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、帯電防止剤、流動性改良剤等の添加剤、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム等のウィスカーといった強化材を添加することができる。
【0049】
〔2〕ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法
ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては、(i)各種混練機、例えば、一軸及び多軸混練機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等で、上記各成分を混練した後、冷却固化する方法、(ii)適当な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素及びその誘導体に上記成分を添加し、溶解する成分同士あるいは、溶解する成分と不溶解成分を懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が用いられる。工業的コストからは溶融混練法が好ましいが、これに限定されるものではない。
上記溶融混練においては、単軸や二軸の押出機を用いることが好ましく、中でも二軸押出機を用いて、ガラス繊維(E1成分)、又はガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)を押出機の途中からフィードする方法が好ましい。かかる方法によりガラス繊維及びガラスフレークのガラス系充填材(E成分)の破砕を防止しつつ、生産の安定化が図れる。
【0050】
〔3〕ポリカーボネート樹脂組成物の特性と用途
上記製造方法により得られる、ポリカーボネート樹脂組成物は、剛性、寸法精度、セルフタップ強度、及び難燃性に優れており、更に成形時の流動性、及び成形品の外観性にも優れているので、電気・電子・OA機器部品、光学部品等に好適に使用することができる。
一般に上記剛性は曲げ弾性率により、寸法精度は線膨張率、成形収縮率等により、流動性はバーフロー長により評価することができる。以下にこれらの特性について詳述する。尚、以下の特性を有するポリカーボネート樹脂組成物は、上記した製造法等により製造が可能である。
【0051】
(1)曲げ弾性率
ポリカーボネート樹脂組成物の好ましい特性1は、曲げ弾性率が13GPa以上のポリカーボネート樹脂組成物である。尚、本発明において曲げ弾性率は、ISO178に基づき、三点曲げ試験により測定を行うものとする。
このような高い弾性率のポリカーボネート樹脂組成物は、A成分にB成分とC成分を本発明で規定する割合配合して成形時の流動性を維持すると共に、A成分に対するE成分の配合割合を本発明で規定する割合配合することにより達成可能となる。
【0052】
(2)寸法精度
ポリカーボネート樹脂組成物の好ましい特性2は、ISO11359に準拠して測定された、樹脂の流動方向の線膨張率(LMD)と流動方向に垂直方向の線膨張率(LTD)とがそれぞれ3.0×10−5(°C−1)以下で、流動方向の線膨張率(LMD)と垂直方向の線膨張率(LTD)の線膨張率比(LMD/LTD)が0.4〜2.0のポリカーボネート樹脂組成物である。尚、本発明において曲げ弾性率は、ISO11359による、20°Cから80°Cまでの温度範囲で測定される。
このような特性は、樹脂成分としてA成分ないしC成分を配合する他、ガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)の配合重量比(ガラス繊維(E1成分)/ガラスフレーク(E2成分))が0.2〜4.0の範囲であるガラス系充填材(E成分)を前記割合配合することにより、達成可能となるのである。
このような低線膨張率、及び前記線膨張率比(LMD/LTD)が0.2〜4.0の範囲にあり異方性が小さいことにより、ポリカーボネート樹脂組成物は優れた寸法精度を有している。
【0053】
また、ポリカーボネート樹脂組成物の好ましい特性3は、成形収縮率(S)が0.15%以下で、且つ、成形品における樹脂の流動方向の収縮率(SMD)と垂直方向の収縮率(STD)の成形収縮率比(SMD/STD)が0.4〜2.0のポリカーボネート樹脂組成物である。
尚、本発明において、成形収縮率(S)は、射出成形機(住友重機械工業(株)製、型式:SG−75MII、型締め力75トン)を用い、シリンダー温度290°C、金型温度90°Cの条件で、樹脂組成物を幅40mm、長さ80mm、厚み3.2mmの長方形の試験片に成形した。この試験片の流れ方向(MD)及び流れと垂直方向(TD)の寸法が成形、調湿後、金型寸法からどの程度収縮していたかを測定し、%単位で表した。具体的にはMDは80mmの辺について、TDは40mmの辺についてそれぞれ寸法を測定した。
このような低成形収縮率、及び成形収縮率比(SMD/STD)が0.4〜2.0の範囲にあり異方性が小さいことにより、ポリカーボネート樹脂組成物は優れた寸法精度を有している。
【0054】
(3)難燃性
ポリカーボネート樹脂組成物の好ましい特性4は、UL94−V規格の難燃性が厚さ2.0mmの試験片でV−1又はV−0を満足するポリカーボネート樹脂組成物である。尚、本発明において、このような優れた難燃性は、燐系難燃剤(D成分)及びポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)をそれぞれ本発明に規定する割合配合することにより達成される。
【0055】
(4)セルフタップ強度
ポリカーボネート樹脂組成物の好ましい特性5は、3mm厚の台座上に円筒形ボス部(ボス部形状:内径2.5mm、肉厚1.9mm、ボス部及びボス孔長さ10mm)を有する試験片のボス部に、ねじ山径2.9mm、ねじ谷径2.2mm、長さ8mmのBタイトネジをねじ込み、トルクドライバーによるボス部の締付け破壊(主に割れによる破壊)に至るセルフタップ破壊トルクが1.6N・m以上の、ポリカーボネート樹脂組成物である。尚、本発明において、セルフタップ強度試験は、下記方法により行われる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、型式:IS150、型締め力150T)を用い、シリンダー温度290°C、金型温度60°Cの条件で、3mm厚みの台座上に円筒形ボス部を有する試験片を成形した(ボス部の寸法:内径2.5mm、肉厚1.9mm、ボス部及びボス孔長さ10mm)。
次いで、得られた試験片のボス部に、ねじ山径2.9mm、ねじ谷径2.2mm、長さ8mmのBタイトネジをねじ込み、トルクドライバーを用いてボス部が割れによる破壊に至るトルクを測定し、セルフタップ破壊トルクとした。
【0057】
(5)成形時の流動性
また、ポリカーボネート樹脂組成物は、成形時の流動性にも優れるものである。
ポリカーボネート樹脂組成物において、A成分として粘度平均分子量[Mv]で15,000〜30,000のポリカーボネート樹脂、B成分として220°C、49N荷重におけるメルトフローレート(MFR)が20g/10分以上であるアクリロニトリル・スチレン系共重合体、及びC成分として前記一般式〔I〕で表される、平均重合度2〜15のポリカーボネートオリゴマーを使用し、かつガラス系充填材(E成分)を前記した特定割合に制限することにより、優れた成形時の流動性を維持することができる。
【0058】
(6)ポリカーボネート樹脂組成物の用途
このような高度な特性を有する本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、電気・電子・OA機器の高性能化、小型化、軽量化、安全性(難燃性)、低コスト性、形状設計の自由度等に大きく寄与できる樹脂材料である。この樹脂組成物から得られる射出成形体は、光ピックアップ装置や、高速カラーレーザー・プリンター、高速カラー複写機等の光学部品、特に前記光学部品がセルフタップネジ用のボスを有する光学ハウジング又はその光学ハウジングの少なくとも一部として好適に使用でき、併せて電気・電子機器、家庭電化機器のハウジウングや各種部品、複写機、ファクス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、更には、自動車の内装部品等他の分野にも用いられる。
【0059】
〔4〕成形方法
成形材料としてポリカーボネート樹脂組成物を使用する成形方法は、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法等が挙げられるが、射出成形法が好ましい。
【実施例】
【0060】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。本実施例と比較例において使用した原材料とポリカーボネート樹脂組成物の評価方法を以下に記載する。
[原材料]
(1)ポリカーボネート樹脂(A成分)
三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンS−3000(粘度平均分子量:21,000)
(2)アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)
テクノポリマー(株)製、商品名:290FF(220°C、49N荷重におけるメルトフローレート(MFR):50g/10分)
(3)ポリカーボネートオリゴマー(C成分)
三菱ガス化学(株)製、商品名:AL071(平均重合度:7)
(4)燐系難燃剤(D成分)
燐酸エステル、大八化学(株)製、商品名:PX−200
化学式:[OC63(CH3)2]2P(O)OC64OP(O)[OC63(CH3)2]2
【0061】
(5)ガラス系充填材(E成分)
(5−1)ガラス繊維(E1成分)
オーウェンスコーニングジャパン社製、商品名183F−14P(平均繊維径:14μm)
(5−2)ガラスフレーク(E2成分)
日本板硝子(株)製、商品名:REFG101(Eガラス、平均厚み5μm、平均粒径0.6mmの鱗片状ガラス)
(6)ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)
三井・デュポンフロロケミカル(株)製、商品名:テフロン(R)6J(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン)
尚、表1ないし3中に、アクリロニトリル・スチレン系共重合体はAS系共重合体、ポリカーボネートオリゴマーはPCオリゴマーと記載する。
【0062】
[評価方法]
(1)曲げ弾性率,曲げ強度
ISO178による曲げ試験法に従い、三点曲げ試験を行った。
(2)線膨張率
ISO11359による測定法に基づき、20°Cから80°Cまでの温度範囲で成形物における流動方向の線膨張率(LMD)と流動方向に垂直方向の線膨張率(LTD)を測定した。具体的には、流動方向と垂直方向それぞれについて以下の式で算出した。
(環境温度を20°Cから80°Cに変えた際の膨張率)/(温度変化(°C))
また、流動方向の線膨張率(LMD)と垂直方向の線膨張率(LTD)の線膨張率比(LMD/LTD)を求めて異方性の評価をおこなった。
(3)成形収縮率
射出成形機(住友SG−75MII、型締め力75トン)を用い、シリンダー温度290°C、金型温度90°Cの条件で、評価用の樹脂組成物を幅40mm、長さ80mm、厚み3.2mmの長方形の金型を用いて成形した。
この試験片の流れ方向(MD)及び流れと垂直方向(TD)の寸法が成形、調湿後、金型寸法からどの程度収縮していたかを測定し、%単位で表した。具体的にはMDは80mmの辺について、TDは40mmの辺についてそれぞれ得られた成形品の寸法を測定して、流れ方向の収縮率(SMD)と流れと垂直方向の収縮率(STD)を求め、また収縮率比(SMD/STD)求めて異方性の評価をおこなった。
【0063】
(4)バーフロー長
射出成形機(住友SG−75MII、型締め力75トン)を用い、シリンダー温度290°C、金型温度90°C、射出圧力100MPaの条件において樹脂組成物が、厚み2mm、幅20mmの流動経路を流れる長さを測定した。
(5)セルフタップ破壊強度
評価用の樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械(株)製、型式:IS150、型締め力150T)を用い、シリンダー温度290°C、金型温度60°Cの条件で、台座(肉厚3mm)上に円筒形ボス部を有する試験片を成形した(ボス部の寸法:内径2.5mm/肉厚1.9mm/高さ10mm)。
次いで、得られた試験片のボス部に、ねじ山径2.9mm、ねじ谷径2.2mm、長さ8mmのBタイトネジをトルクドライバーにてねじ込み、ボス部の割れによる破壊に至るトルクを測定し、セルフタップ破壊トルクとした。
(6)燃焼試験
UL94−V規格の垂直燃焼性試験に基づき、2.0mm厚みでの燃焼試験を行った。
(7)外観特性
金型温度を105°Cとした以外は成形収縮率測定用の試験片の作製方法と同様にして、80mm×40mm×3.2mm(厚み)のプレートを成形し、プレートの外観を目視にて観察し、下記基準に基づき判断した。
◎:ガラス系充填剤の浮きが少なく良好
〇:多少ガラス系充填剤の浮きが見られる
×:ガラス系充填剤の浮きが非常に目立つ
【0064】
〔実施例1〕
原材料を表1に示す割合に秤量した。ガラス繊維(E1成分)を除く原材料をブレンダーで混合し、30mmφの2軸押出機(日本製鋼所(株)製、型式:TEX30HSST)のメインフィーダーから供給し、一方、ガラス繊維(E1成分)はこの2軸押出機のサイドフィーダー(28mmφ)から供給して押出し、ペレット化した樹脂組成物を得た。押出条件は、シリンダー温度300°C、メインスクリュウ回転速度200rpm、サイドフィーダースクリュー回転速度150rpm、トータル吐出量20kg/hとした。
次にペレット化した樹脂組成物を射出成形機を用いて、評価用の試験片等に成形した。これらの試験片を用いて、それぞれ曲げ強度、曲げ弾性率、線膨張率、成形収縮率、セルフタップ破壊トルク、及び燃焼試験の評価を行った。評価結果を表1に示す。
表1から実施例1に使用した樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂組成物としてバランスのとれた優れた性能を有していることが確認される。
【0065】
〔実施例2〕
ガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)を本発明の範囲内で、表1に記載の配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法により押出して、原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。この樹脂組成物から射出成形により評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
ガラス系充填剤(E成分)においてガラスフレーク(E2成分)の配合割合を増加したことに伴い、実施例1と比較して異方性の改良が確認される。
【0066】
〔実施例3〕
燐系難燃剤(D成分)を本発明の範囲内で、表1に記載の配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法により押出して、原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。
尚、押出機でペレット化する際、実施例1の温度条件では樹脂粘度が低すぎるため、シリンダー温度を10°C下げて290°Cとした。
このペレット化した樹脂組成物から射出成形により評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
燐系難燃剤(D成分)の配合割合を増加したことに伴い、実施例1と比較して難燃性の向上が確認される。
【0067】
〔実施例4〕
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)の配合割合を本発明の範囲内で、表1に記載の通りに増加し、ポリカーボネートオリゴマー(C成分)配合割合を減少した以外は、実施例1と同様の方法により押出して、原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。尚、押出機でペレット化する際、実施例1の温度条件では樹脂粘度が低すぎるため、シリンダー温度を10°C下げて290°Cとした。
このペレット化した樹脂組成物から射出成形により評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
表1から実施例4で使用した樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂組成物としてバランスのとれた優れた性能を有していることが確認される。
実施例1と比較して、射出成形の際の流動性向上にはポリカーボネートオリゴマー(C成分)より、アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)の方がより効果的であり、難燃性と強度に影響が出ない範囲での流動性の調整が可能であること確認がされた。
【0068】
【表1】

【0069】
〔比較例1〕
燐系難燃剤(D成分)を表2に示す配合割合とした以外は、実施例1と同様の方法により押出して、原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。尚、押出機でペレット化する際、実施例1の温度条件では樹脂粘度が低すぎるため、シリンダー温度を20°C下げて280°Cとした。このペレット化した樹脂組成物から射出成形により評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
燐系難燃剤(D成分)を本発明の配合割合よりも多くしたことに伴い、セルフタップ破壊トルクが低下した。
【0070】
〔比較例2〕
ガラス系充填剤(E成分)中における、ガラス繊維(E1成分)に対するガラスフレーク(E2成分)の配合割合を表2に示す通りに多くした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得て、評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。
ガラス系充填剤(E成分)中のガラスフレーク(E2成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも多くしたことに伴い、曲げ弾性率及びセルフタップ破壊トルクが低下した。
【0071】
〔比較例3〕
ガラス系充填剤(E成分)中における、ガラスフレーク(E2成分)に対するガラス繊維(E1成分)の配合割合を表2に示す通りに多くした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。
尚、ガラス繊維(E1成分)の配合割合を多くしたことに伴い、押出機で原材料をペレット化する際に樹脂の状態が著しく不安定で、ストランド切れ等のトラブルが多発した。サイドフィーダーから多くの割合のガラス繊維(E1成分)を供給することで、樹脂との混練が不十分なまま押出されることが原因と考えられるため、対策として、ガラス繊維(E1成分)を混練する際、すべてをサイドフィーダーからの供給ではなく一部をメインフィーダーから供給すること、またストランド冷却を一般的な水槽からベルトコンベアを用いることで、安定してペレット化することができた。また、ガラス繊維(E1成分)の一部をメインフィーダーから供給する際、他成分と同時に混合するとガラス繊維の解繊による毛羽立ちが激しく、押出し機への安定供給が困難となるため、他成分を十分に混合した後にガラス繊維(E1成分)を解繊が起きない程度に軽く混合する手法を採った。
次に、評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。ガラス系充填剤(E成分)中のガラス繊維(E1成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも多くしたことに伴い、垂直方向(LTD)線膨張率が増加し、難燃性が低下した。
【0072】
〔比較例4〕
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)を表2に示す配合割合に増加した以外は、実施例1と同様の方法により押出して、原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。尚、押出機でペレット化する際、実施例1の温度条件では樹脂粘度が低すぎるため、シリンダー温度を15°C下げて285°Cとした。このペレット化した樹脂組成物から射出成形により評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも多くしたことに伴い、難燃性が低下した。
【0073】
〔比較例5〕
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)を表2に示す配合割合に増加した以外は、実施例1と同様の方法により押出して、原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。
尚、押出機でペレット化する際、実施例1の温度条件では樹脂粘度が低すぎるため、シリンダー温度を10°C下げて290°Cとした。このペレット化した樹脂組成物から射出成形により評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表2に示す。ポリカーボネートオリゴマー(C成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも多くしたことに伴い、難燃性が低下した。
【0074】
【表2】

【0075】
〔比較例6〕
ガラス系充填剤(E成分)の配合割合を表3に示す通りに少なくした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得て、評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。
ガラス系充填剤(E成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも少なくしたことに伴い、セルフタップ破壊トルクは増加したが、曲げ弾性率が低下し、また線膨張率も増加した。
【0076】
〔比較例7〕
ガラス系充填剤(E成分)の配合割合を表3に示す通りに多くした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得た。
尚、ガラス系充填剤(E成分)の配合割合を多くしたことに伴い、押出機で原材料をペレット化する際に樹脂の状態が著しく不安定になり、ストランド切れ等のトラブルが生じたので、前記比較例3に記載したと同様の混練法を採用したが、ペレットの安定的な製造はより困難であった。
次に、実施例1に記載したと同様に、評価用試験片を作製して評価を行った。評価結果を表3に示す。ガラス系充填剤(E成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも多くしたことに伴い、難燃性が劣っていた。
【0077】
〔比較例8〕
ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)の配合量を0とした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得て、評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)を使用しなかったため、燃焼試験時の樹脂のたれおちが激しく、難燃性が劣っていた。
〔比較例9〕
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)の配合量を0.05重量部とした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得て、評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも少なくしたことに伴い、流動性が劣っていた。
【0078】
〔比較例10〕
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)の配合量を0.05重量部とした以外は、実施例1と同様の方法により押出して原材料からペレット化した樹脂組成物を得て、評価用試験片を作製し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)の配合割合を本発明の配合割合よりも少なくしたことに伴い、流動性及び成形品の外観が劣っていた。
【0079】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、
アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)0.1〜20重量部、
ポリカーボネートオリゴマー(C成分)0.1〜30重量部、
燐系難燃剤(D成分)10〜25重量部、
ガラス繊維(E1成分)とガラスフレーク(E2成分)の配合重量比(ガラス繊維/ガラスフレーク)が0.2〜4.0の範囲であるガラス系充填材(E成分)80〜160重量部、
及びポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)0.1〜2.5重量部
を配合してなる、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A成分)の粘度平均分子量[Mv]が15,000〜30,000である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)がシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合して得られる共重合体であって、少なくとも該共重合体中にシアン化ビニル化合物に由来する構造単位が10〜40重量%、及び芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が90〜60重量%含まれており、かつ220°C、49N荷重におけるB成分のメルトフローレート(MFR)が20g/10分以上である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネートオリゴマー(C成分)が下記一般式〔I〕で表される、平均重合度2〜15のオリゴマーである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基、炭素数2〜3のアルキリデン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルフォン基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜14の脂肪族基もしくは置換脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基もしくは置換芳香族基、炭素数1〜8のオキシアルキル基及び炭素数6〜18のオキシアリール基から選ばれる1価の基を示す。R、R、R、及びRは、それぞれ同一又は異なるものであってもよい。)
【請求項5】
前記ガラス繊維(E1成分)が平均繊維径1〜25μmであり、かつガラスフレーク(E2成分)が平均厚さ1〜20μm及び一辺の平均長さ0.05〜1.0mmの鱗片状である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記燐系難燃剤(D成分)が下記の一般式〔II〕で表される非ハロゲンの縮合リン酸エステルである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、それぞれ0又は1であり、mは1から5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
【請求項7】
前記ポリフルオロオレフィン系重合体(F成分)がフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンである、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ISO11359に準拠して測定された、樹脂の流動方向の線膨張率(LMD)と該流動方向に垂直方向の線膨張率(LTD)がそれぞれ3.0×10−5(°C−1)以下で、流動方向の線膨張率(LMD)と垂直方向の線膨張率(LTD)の線膨張率比(LMD/LTD)が0.4〜2.0であり、
かつISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が13GPa以上である、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
UL94−V規格の難燃性が厚さ2.0mmの試験片でV−1又はV−0を満足する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂組成物から成形された、台座(厚み:3mm)上に円筒形ボス部(ボス部形状:内径2.5mm、肉厚1.9mm、ボス部及びボス孔長さ10mm)を有する試験片のボス部に、ねじ山径2.9mm、ねじ谷径2.2mm、長さ8mmのBタイトネジをトルクドライバーにてねじ込み、ボス部が破壊に至るセルフタップ破壊トルクが1.6N・m以上である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる光学部品。
【請求項12】
前記光学部品が光ピックアップ装置、高速カラーレーザー・プリンター、又は高速カラー複写機の光学部品の少なくとも一部である、請求項11に記載の光学部品。
【請求項13】
前記光学部品がセルフタップネジ用のボスを有する光学ハウジング又はその光学ハウジングの少なくとも一部である、請求項11又は12に記載の光学部品。

【公開番号】特開2008−143997(P2008−143997A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331478(P2006−331478)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】