説明

ポリカーボネート樹脂

【課題】光学材料用途に好適な、透明性、耐熱性、低い光弾性係数、及び高い機械強度を有する新規なポリカーボネート樹脂並びに該ポリカーボネート樹脂を使用した光学材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明性、耐熱性、低い光弾性係数、及び高い機械強度を有する新規なポリカーボネート樹脂及びそれを用いた光学材料に関する。本発明のポリカーボネート樹脂は、光学用フィルム、位相差フィルム、光ファイバー等に用いる光学材料として好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、オプトエレクトロニクスの進歩に伴い、光学的に優れた等方性を有する光学用透明高分子に対する要請が高まっている。特に、液晶ディスプレイの位相差フィルム等に適用可能な光学特性を有する光学用フィルムが切望されている。
【0003】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)をホスゲンあるいは炭酸ジエステルと反応させて得られるポリカーボネート樹脂、殊にポリカーボネートフィルムは包装用途、光学装置、表示装置その他各種産業用途に使用されているが、最近液晶表示装置など光電子装置において位相差板、偏光板、プラスチック基板等の材料として注目され、その実用化が進められている。とりわけ、近年の液晶ディスプレーなかでも、進歩が著しいTFT型液晶ディスプレー素子においては画像の視認性を向上させるために液晶層と偏光板との間で使用する位相差フイルムとして注目される。
【0004】
この位相差フイルムは、液晶層を透過した楕円偏光を直線偏光に変換する役割を担っている。そして、その材質は主としてビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂の一軸延伸フイルムが用いられている。
【0005】
しかしながら位相差フィルムとして考えた場合、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂を成形して得られるフィルムではポリカーボネート樹脂のベンゼン環の光学的異方性から光弾性係数が大きく、そのため低延伸倍率による位相差のばらつきが大きいことが問題になる。さらに液晶ディスプレーに用いるフィルムは配向膜形成プロセス等で180℃以上の高温処理を要し、その耐熱性が不足するという問題がある。
【0006】
耐熱性の高い、低光弾性係数のポリカーボネート樹脂として特定のフルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂が提案されている。(たとえば特許文献1,2を参照)
しかしながら、これらの構造を有するポリカーボネート樹脂は耐熱性が高く光弾性率が低いものの、フィルムの延伸や巻取りの際に破断したり、また折り曲げに対して弱く、折り曲げ強度の弱いものはフィルム巻取り時のカッティングの際にスムーズなカッティング面が得られず、延伸時に破断を生じる恐れがあるなどフィルム強度の点で十分でなく、その改善が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平6−25398号公報
【特許文献2】特開2001−253960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる状況に鑑み、光学材料用途に好適な、透明性、耐熱性、低い光弾性係数、及び高い機械強度を有する新規なポリカーボネート樹脂並びに該ポリカーボネート樹脂を使用した光学材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂により、光学材料用途に好適な、透明性、耐熱性、低い光弾性係数、及び高い機械強度を達成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。)
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すポリカーボネート樹脂及び光学材料に関する。
(1) 下記式(1)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂。
【化2】

(式(1)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。)

(2) 固有粘度が、0.3〜2.0dl/gである(1)記載のポリカーボネート樹脂。
(3) ポリカーボネート樹脂が、さらに下記一般式(2)で表される構造単位とからなる(1)又は(2)記載のポリカーボネート樹脂。
【化3】

(式(2)中、Rは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、mはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。
Xは、
【化4】





であり、ここにRとRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。また、RとRが結合して炭素環または複素環を形成しても良い。
とRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基又は炭素数6〜12アリール基を表す。Rは1〜9のアルキレン基である。aは0〜20の整数を表し、bは1〜500の整数を表す。)
(4) ガラス転移温度が150℃以上、光弾性係数が50×10-12m2/N以下、及び100μmのフィルムとしたときの強度が70MPa以上である請求項1〜3何れか1項記載のポリカーボネート樹脂。
(5) 上記(1)〜(4)何れかに記載のポリカーボネート樹脂を用いてなる光学材料。
(6) 上記(1)〜(4)何れかに記載のポリカーボネート樹脂を用いてなる光学用フィルム。
(7) 上記(1)〜(4)何れかに記載のポリカーボネート樹脂を用いてなる位相差フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂を使用することにより、優れた透明性、耐熱性、低い光弾性係数、及び機械強度を有する光学用フィルム等の光学材料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係わるポリカーボネート樹脂並びにこれらの製造方法を具体的に説明する。
【0013】
1.ポリカーボネート樹脂
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表される構造単位から構成される。
【0014】
下記一般式(1)で表される構造単位に加え、下記式(2)で表される構造単位とから構成されても良い。
【0015】
一式(1)で表される構造単位(「構造単位(1)」)と式(2)で表される構造単位(「構造単位(2)」)とからなる共重合体において、構造単位(1)の割合(mol%)は、〔構造単位(1)/(構造単位(1)+構造単位(2))〕として、5モル%以上であることが好ましい。この構造単位(1)の割合が、5モル%以上であると、耐熱性が向上するので好ましい。
この共重合体の場合、この構造単位(1)の割合が10〜85であるものが、光学物性と成形加工性のバランスが良好で特に好ましい。
【0016】
【化5】

(式(1)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。)
【0017】
【化6】

(式(2)中、Rは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、mはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。
Xは、
【化7】





であり、ここにRとRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。また、RとRが結合して炭素環または複素環を形成しても良い。
とRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基又は炭素数6〜12アリール基を表す。Rは1〜9のアルキレン基である。aは0〜20の整数を表し、bは1〜500の整数を表す。)
【0018】
ここで、式(1)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。好ましくは、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数7〜13のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示す。更に好ましくは、Rは、メチル、シクロヘキシル、又はフェニルである。
【0019】
nは、好ましくは0〜4の整数である。好ましくは、Yは炭素数1〜4のアルキレン基であり、pは0〜4の整数である。
【0020】
このような構造単位(1)の具体例としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセナフテンや、1,1−ビス(4−クレゾール)アセナフテンや、1,1−ビス(フェノキシエタノール)アセナフテン等の残基が挙げられる。これらは、2種以上含有していても良く、特に1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセナフテンが好ましい。
【0021】
式(2)中、Rは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、mはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。好ましくは、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数7〜13のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示す。更に好ましくは、Rは、メチル、シクロヘキシル又はフェニルである。
【0022】
2.ポリカーボネート樹脂の製造方法
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(3)で表されるビスフェノールと、下記式(4)で表されるビスフェノールと炭酸エステル形成化合物とを反応させる工程を含む方法により製造される。
具体的には、ビスフェノールAと炭酸エステル形成化合物からポリカーボネートを製造する際に用いられている公知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法で製造することができる。
【0023】
【化8】

(式(3)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。)
【0024】
【化9】

(式(4)中、Rは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、mはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。
Xは、
【化10】





であり、ここにRとRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。また、RとRが結合して炭素環または複素環を形成しても良い。
とRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基又は炭素数6〜12アリール基を表す。Rは1〜9のアルキレン基である。aは0〜20の整数を表し、bは1〜500の整数を表す。)
【0025】
ここで、一般式(3)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。好ましくは、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数7〜13のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示す。更にこのましくは、Rは、メチル、シクロヘキシル、又はフェニルである。
【0026】
nは、好ましくは0〜4の整数である。好ましくは、Yは炭素数1〜4のアルキレン基であり、pは0〜4の整数である。
【0027】
ここで、上記一般式(3)で表されるビスフェノールとして、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセナフテンや、1,1−ビス(4−クレゾール)アセナフテンや、1,1−ビス(フェノキシエタノール)アセナフテン等の残基が挙げられる。これらは、2種以上使用しても良く、特に1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセナフテンが好ましい。
【0028】
一般式(4)中、Rは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、mはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。好ましくは、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数7〜13のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示す。更に好ましくは、Rは、メチル、シクロヘキシル又はフェニルである。
【0029】
ここで、上記一般式(4)で表されるビスフェノールとしては、様々なものがあり、具体的には以下の化合物が挙げられる。1,1’−ビフェニル−4,4’−ジオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、α,ω−ビス[2−(p−ヒドロキシフェニル)エチル]ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス[3−(o−ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンなどが例示される。これらは、2種類以上併用して用いてもよい。また、これらの中でも特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA:BPA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC:BPC)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ:BPZ)及び、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(ビスフェノールAP:BPAP)から選ばれることが好ましく、さらにはBPA又はBPZが好ましい。
【0030】
一方、炭酸エステル形成化合物としては、例えばホスゲンや、ジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリルカーボネートが挙げられる。これらの化合物は2種類以上併用して使用することも可能である。
【0031】
ホスゲン法においては、通常酸結合剤および溶媒の存在下において、一般式(III)で表されるビスフェノールと一般式(IV)で表されるビスフェノールとホスゲンを反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどが用いられる。さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を、また重合度調節には、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール、オレフィン置換フェノール等一官能基化合物を分子量調節剤として加えることが好ましい。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなど分岐化剤を小量添加してもよい。反応は通常0〜150℃、好ましくは5〜40℃の範囲とするのが適当である。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分〜10時間、好ましくは1分〜2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが望ましい。
【0032】
一方、エステル交換法においては、一般式(III)で表されるビスフェノールと一般式(IV)で表されるビスフェノールとビスアリールカーボネートとを混合し、減圧下で高温において反応させる。反応は通常150〜350℃、好ましくは200〜300℃の範囲の温度において行われ、また減圧度は最終で好ましくは1mmHg以下にして、エステル交換反応により生成した該ビスアリールカーボネートから由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1〜4時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく。また、所望に応じ、分子量調節剤、酸化防止剤や分岐化剤を添加して反応を行ってもよい。
【0033】
本発明のポリカーボネート樹脂がフィルムやシートとして十分な強度を得るためには固有粘度が0.30〜2.0dl/gであることが好ましく、さらには0.40〜1.5dl/gであることが好ましい。尚、固有粘度とは高分子同士の接触による影響が無視できるような希薄溶液において求めた高分子の単位濃度あたりの粘度増加率をいう。
【0034】
本発明において、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂共重合体に、上記の特定の化合物と共にその物性を損なわない範囲で目的に応じ、各種公知の添加剤を加えることが望ましい。
【0035】
酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト、ビス(モノノニルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4−t−ブチル−6−メチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)ヘキシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ヘキシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ステアリルホスファイト等のホスファイト化合物;ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス[2−メチル−4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]ブタン等のヒンダードフェノール系化合物;5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン等が挙げられる。これらは、単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
【0036】
これらの酸化防止剤の添加量は、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂共重合体100重量%に対して0.005〜0.1重量%、好ましくは、0.01〜0.08重量%、さらに好ましくは、0.01〜0.05重量%であり、これより少ないと所望の効果が得られず、過剰では耐熱物性、機械的物性が低下し適当ではない。
【0037】
紫外線吸収剤としては、例えば、2−(5−メチル―2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ジヒドロキソベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。これらは、単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
【0038】
離型剤としては、一般的に使用されているものでよく、例えば、天然、合成パラフィン類、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス類、蜜蝋、ステアリン酸、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニン、ラウリル酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等の脂肪酸エステル等が挙げられ、これらは、単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
【0039】
その他難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料、高分子改質剤、滑剤、可塑剤等必要に応じて単独または組み合わせて用いることができる。
【0040】
フィルム・シートの製造方法としては、任意の方法を採用し得るが、溶液キャスト法(流延法)が特に好適である。溶液キャスト法に用いられる溶媒としては、当該ポリカーボネート共重合体を溶解できる各種溶媒を使用することができ、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が好適である。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
1)固有粘度:ウベローデ粘度管使用。20℃、0.5%ジクロロメタン溶液、ハギンズ定数0.45で測定。
2)ガラス転移温度(Tg):示差熱走査熱量分析計(DSC)により測定した。
3)光弾性係数:エリプソメーターにより、厚さ100μmのキャストフィルムを用い、レーザー波長633nmの光をあて、荷重変化に対する複屈折測定から算出した。
4)フィルム強度及び伸度:実施例で得られた厚み100μmのフィルムの引張強度及び引張伸度をASTM D882―61Tに準拠して、島津製作所製島津オートグラフAGS-100Gを用いて測定した。

【0042】
〈実施例1〉
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液1100mlに、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセナフテン(以下、「ANBP」と略称)203.0g(0.6mol)とハイドロサルファイト0.1gを溶解した。
これにメチレンクロライド500mlを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、ついでホスゲン90gを90分で吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、分子量調節剤としてp−t−ブチルフェノール(以下「PTBP」と略称:大日本インキ化学工業株式会社製)4.18gを加え激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.6mlのトリエチルアミンを加え、20〜25℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、先液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
この重合体の塩化メチレンを溶媒とする濃度0.5g/dlの溶液の20℃における極限粘度は0.60dl/gであった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm−1付近の位置にカルボニル基による吸収、1240cm−1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂であることが確認された。
【0043】
得られた樹脂を塩化メチレンに溶解し(ポリマー溶液濃度20wt%)キャスティングすることによりフィルムを作製した。
【0044】
〈実施例2〉
ANBPを101.5g(0.3mol)、BPAを68.4g(0.3mol)使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0045】
〈比較例1〉
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂として、ユーピロンE−2000(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)を用いた。
【0046】
〈比較例2〉
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン175.2g(0.5モル)を使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0047】
〈比較例3〉
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン105.1g(0.3モル)BPAを68.4g(0.3mol)使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0048】
本発明のポリカーボネート樹脂は、アセナフテン骨格を持つ新規なモノマーからなる樹脂である。本発明により、優れた強度、透過性を持つ、光弾性係数が低く、位相差フィルム用途に好適なバランスのとれたポリカーボネート樹脂を提供することができる。
【0049】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂。
【化1】



(式(1)中、Rは炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、nはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。Yは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、pは0〜4の整数である。)
【請求項2】
固有粘度が、0.3〜2.0dl/gである請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂が、さらに下記式(2)で表される構造単位とからなる請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】

(式(2)中、Rは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数7〜17のアラルキル基及びハロゲンから選ばれる1種を示し、mはRがベンゼン環上に置換している数を示し、0〜4の整数である。
Xは、
【化3】



であり、ここにRとRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数2〜5のアルケニル基又は炭素数7〜17のアラルキル基を表す。また、RとRが結合して炭素環または複素環を形成しても良い。
とRはそれぞれ、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基又は炭素数6〜12アリール基を表す。Rは1〜9のアルキレン基である。aは0〜20の整数を表し、bは1〜500の整数を表す。)
【請求項4】
ガラス転移温度が150℃以上、光弾性係数が50×10-12m2/N以下、及び100μmのフィルムとしたときの強度が70MPa以上である請求項1〜3何れか1項記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4何れかに記載のポリカーボネート樹脂を用いてなる光学材料。
【請求項6】
請求項1〜4何れかに記載のポリカーボネート樹脂を用いてなる光学用フィルム。
【請求項7】
請求項1〜4何れかに記載のポリカーボネート樹脂を用いてなる位相差フィルム。





【公開番号】特開2008−285638(P2008−285638A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134847(P2007−134847)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】