説明

ポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法

【課題】広い密度範囲にわたって良好なポリカーボネート系樹脂発泡ブロー成形体等を製造することができる発泡成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂と、該ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して5〜100重量部のポリエステル系樹脂と、発泡剤とを混練してなる発泡性溶融樹脂を押出して発泡パリソンを形成し、軟化状態の該発泡パリソンを金型にて成形する発泡成形体の製造方法であって、該ポリエステル系樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位を10〜80mol%含むジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であるポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡パリソンを金型にて成形するポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法に関する。さらに詳しくは、広い密度範囲において、高い独立気泡率を有し、表面状態が良好なポリカーボネート系樹脂発泡成形体を製造することができる発泡成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、中空状の発泡成形体を得る方法として、押出機内で熱可塑性樹脂と発泡剤とを溶融混練し、これをダイより押出して発泡層を有するパリソンを形成し、この発泡パリソンを金型で挟み、パリソンの内部に加圧気体を吹き込んでパリソンを金型内面形状に沿わせて成形する方法、所謂発泡ブロー成形法が開発されている。
このようにして得られた中空状の発泡成形体は、一般の無発泡の中空成形体に比べて軽量であり、断熱性にも優れる。このような特性から、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする中空状の発泡成形体が、自動車のエアコン用ダクトなどに採用されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性や機械的強度のバランスに優れる樹脂であるが、使用される用途によっては、特に高温熱源周辺で使用される用途や冷凍用途などには適応が難しく、このような用途では、更に広い温度範囲にわたって機械的強度の高い材料が求められている。
一方、ポリカーボネート樹脂は、ポリプロピレン系樹脂よりも耐熱性が高く、低温での機械的特性にも優れ、さらに自己消火性を有する。
しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、ポリスチレン等の一般に押出発泡に用いられている汎用樹脂と比べると、適性押出発泡温度付近での溶融粘度が高く、溶融張力が低いために押出発泡性に劣る。さらに、軟化状態にある発泡パリソンを金型にて成形する、発泡ブロー成形などの成形方法においては、発泡パリソンが金型にて成形されるまで軟化状態を維持している必要があり、その軟化状態において、気泡構造を維持し、かつ過度なドローダウンが生じないようにする必要があるため、通常の押出発泡よりも高い発泡特性が要求される。
【0004】
従来、発泡特性に劣るポリカーボネート樹脂を基材樹脂とする発泡ブロー成形体は、その発泡倍率が1.3倍程度と、低い発泡倍率のものしか得られていなかった。
特許文献1には、特定の溶融張力を有するポリカーボネート樹脂を用いることにより、発泡パリソンにおける気泡の破壊や発泡パリソンのドローダウンを抑制して、従来のものよりも低みかけ密度の発泡ブロー成形体が得ることが可能になることが記載されている。
更に、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂に、ポリエチレンテレフタレートを配合し、さらに、これらの混合樹脂にカルボン酸無水物等の架橋剤を添加して押出発泡することにより、ポリカーボネート樹脂に分散しているポリエチレンテレフタレートに架橋構造を導入して混合樹脂の溶融粘度、溶融張力及び弾性特性を押出発泡に好ましく変化させ、その結果ポリカーボネート樹脂を含む混合樹脂の押出発泡ができるようになることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−033643号公報
【特許文献2】特開平11−080411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、環境問題の高まりから、元々軽量性に優れる発泡成形体においても、より一層の軽量化が要求されている。軽量化を達成するためにはこれまで以上に高発泡倍率化や薄肉化する必要があるが、単に高倍率化や薄肉化を行うと独立気泡率が低下し易くなる。独立気泡率が低下すると発泡成形体の機械的強度が大きく低下してしまう傾向にある。
特許文献1に記載の方法によって、ポリカーボネート樹脂を基材樹脂とする、高発泡倍率の発泡ブロー成形体を得ることが可能となったが、高発泡倍率化したときや、気泡を微細化したときに、独立気泡率が低下しやすく、独立気泡構造を得るという点では、改善の余地があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法は、通常の押出発泡においては良好な発泡体は得られていたが、発泡ブロー成形に適用しても、発泡パリソンを成形する前にポリエチレンテレフタレートが結晶化してしまうため、成形時に発泡パリソンの延展性が著しく低下してしまい良好な発泡成形体が得られなかった。さらに、架橋剤を添加する特許文献2の方法では、その押出条件によってはポリエステル樹脂の架橋が過度に進行してしまい、押出発泡自体ができなくなることがあった。また、架橋剤を添加しない場合には、一般のポリエチレンテレフタレート自体が発泡性に劣り、ポリカーボネート樹脂との相溶性にも劣ることから、ポリカーボネート樹脂の発泡性を改善することはできず、やはり良好な発泡成形体を得ることはできなかった。
【0008】
本発明の目的は、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂から得られる発泡パリソンを型内で成形して発泡ブロー成形体等の発泡成形体を得る方法において、ポリカーボネート樹脂の発泡性を向上させることにより、ポリカーボネート樹脂が有する機械的強度などの優れた特性を実質的に損なうことなく、広い密度範囲において、良好なポリカーボネート系樹脂発泡成形体を製造することができる、発泡成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリカーボネート系樹脂と発泡剤とを押出機により溶融混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂を押出して発泡パリソンを形成した後、軟化状態にある該パリソンを金型にて成形することにより、ポリカーボネート系樹脂発泡成形体を製造するに当たって、基材樹脂としてポリカーボネート系樹脂に、特定のポリエステル系樹脂を混合して発泡パリソンを形成することにより上記課題が解決できることを見出し本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の〈1〉〜〈8〉に記載する発明を要旨とする。
〈1〉ポリカーボネート系樹脂(A)と、ポリカーボネート系樹脂(A)100重量部に対して5〜100重量部のポリエステル系樹脂(B)と、発泡剤とを混練してなる発泡性溶融樹脂を発泡させて発泡パリソンを形成し、軟化状態の該発泡パリソンを金型にて成形する発泡成形体の製造方法であって、
ポリエステル系樹脂(B)が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に10〜80mol%含むジオール成分単位とジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であることを特徴とするポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
〈2〉前記ポリカーボネート系樹脂(A)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が2000〜6000Pa・sであることを特徴とする前記〈1〉に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
〈3〉前記ポリカーボネート系樹脂(A)が、ポリカーボネート系樹脂(A1)とポリカーボネート系樹脂(A2)とからなり、樹脂(A1)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が2000〜3000Pa・sであり、樹脂(A2)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が3500〜6000Pa・sであり、樹脂(A1)と樹脂(A2)との配合比が重量比で90:10〜50:50であることを特徴とする前記〈1〉に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
〈4〉前記ポリカーボネート系樹脂(A1)の250℃における溶融張力が15cN以上であることを特徴とする前記〈3〉に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0010】
〈5〉前記ポリエステル系樹脂(B)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が300〜1500Pa・sであることを特徴とする前記〈1〉から〈4〉のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
〈6〉前記ポリエステル系樹脂(B)を構成するジオール成分単位が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン成分単位15〜50mol%とエチレングリコール成分単位85〜50mol%(ただし、両者の合計は100mol%である。)とからなり、ジカルボン酸成分単位がテレフタル酸成分単位からなることを特徴とする前記〈1〉から〈5〉のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
〈7〉前記ポリエステル系樹脂(B)を熱流束示差走査熱量測定により300℃で10分間保持した後冷却速度10℃/分で冷却した際に得られるDSC曲線において、発熱量が5J/g以下(0J/gを含む。)であることを特徴とする前記〈1〉から〈6〉のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
〈8〉前記発泡剤が無機物理発泡剤であることを特徴とする前記〈1〉から〈7〉のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
ポリカーボネート系樹脂と発泡剤とを押出機にて混練して発泡性溶融樹脂とし、該発泡性溶融樹脂をダイから押出して発泡パリソンを形成し、軟化状態にある該発泡パリソンを金型にて成形することにより発泡成形体を製造するに当たって、ポリカーボネート系樹脂に対して、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に10〜80mol%含むジオール成分単位とジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体を混合した混合樹脂を基材樹脂として発泡パリソンを形成することにより、ポリカーボネート系樹脂の優れた機械的強度などの特性や成形性を実質的に損なうことなく、ポリカーボネート系樹脂の発泡性を向上させることができるため、広い密度範囲にわたって高い独立気泡率を有し、優れた表面状態を有する良好な発泡成形体を得ることが可能になる。本発明の製造方法によって得られた発泡成形体は、軽量でありながらも曲げ強さや耐衝撃性などの機械的強度に優れ、ポリカーボネート系樹脂が本来有している耐熱性、耐寒衝撃性にも優れることから、自動車や電気電子部品、容器等の各種用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ポリカーボネート系樹脂(A)100重量部に対して5〜100重量部のポリエステル系樹脂(B)と、発泡剤とを混練してなる発泡性溶融樹脂を押出して発泡パリソンを形成し、軟化状態の該発泡パリソンを金型にて成形する発泡成形体の製造方法であって、ポリエステル系樹脂(B)が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に10〜80mol%含むジオール成分単位とジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であることを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の発泡成形体の製造方法は、基材樹脂と発泡剤とを混練してなる発泡性溶融樹脂を押出して発泡パリソンを形成し、軟化状態の該発泡パリソンを金型にて成形して発泡成形体を得る方法である。
発泡パリソンを金型にて成形する方法としては、(1)発泡パリソンを金型にて挟み込み、次いで発泡パリソンの内部に圧縮気体を吹き込んで発泡パリソンの外面を金型内面に押し付けて、発泡パリソンを金型の形状どおりに成形する、所謂ブロー成形により、中空状の発泡成形体を得る方法や、(2)発泡パリソンを金型に挟み込んで、発泡パリソンの内面の少なくとも一部を融着させると共に発泡パリソンを圧縮して金型の形状どおりに成形することにより、中実状の発泡成形体を得る方法が挙げられる。本発明においては、これら両者の方法を併せて発泡パリソン成形ともいう。
【0014】
パリソンを金型にて成形する際に、金型どおりの形状にパリソンを成形するためには、パリソンを押出してから金型にて成形するまでの間、パリソンの軟化状態を維持する必要がある。特に、発泡パリソンを成形する発泡パリソン成形においては、発泡パリソンの軟化状態を維持しつつ、気泡が破壊しないようにする必要があり、さらに発泡パリソンに過度にドローダウンが生じないようにする必要がある。気泡構造が破壊し連続気泡化してしまうと、発泡パリソンの成形性が低下し得られる成形体の厚み精度が低下するばかりか、所望の形状の成形体が得られるなくなることもある。また、ドローダウンが大きすぎると、気泡が過度に変形してその部分の機械的強度が低下することがあるばかりか、得られる成形体の厚み精度が悪くなることがある。
【0015】
過度のドローダウンを防ぐためには、吐出速度を上げて短時間で発泡パリソンを形成するか、溶融粘度の高い樹脂を基材樹脂として使用するか、或いは発泡パリソンの押出温度を低くする方法などがある。
しかしながら、良好な発泡パリソンを形成するためには、発泡に適した範囲に発泡温度を調整する必要があるため、押出温度の自由度が低く、さらに、あまりにも押出温度を低くすると、発泡後直ちに発泡パリソンの固化が始まってしまう。また、過度の吐出速度アップや、高粘度の樹脂の使用は、ダイ内で過度な剪断発熱が生じやすくなるため、発泡パリソンが連続気泡化してしまうおそれや、或いは成形前に収縮してしまうおそれがあるため、やはり好ましくない。
ポリカーボネート系樹脂発泡ブロー成形においては、良好な発泡成形体を得るためには、ポリカーボネート系樹脂の発泡性を如何にして向上させるかが重要である。
【0016】
本発明においては、ポリカーボネート系樹脂に、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に10〜80mol%含むジオール成分単位とジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体(以下、ポリエステル系樹脂(B)という。)を混合して押出することにより、発泡パリソンの発泡性を向上させることが可能となり、発泡性の向上により、軟化状態において発泡パリソンの気泡構造を維持し、かつ収縮を抑制することが可能となるため、見掛け密度が低い場合であっても高い独立気泡率を有し、かつ表面状態に優れる成形体を得ることができる。さらに、発泡性が向上することにより、気泡径を従来のポリカーボネート系樹脂発泡成形体よりも小さくした場合にも高い独立気泡率の成形体を得ることができるため、機械的強度に優れた発泡成形体を得ることができる。
【0017】
ポリカーボネート系樹脂に、上記ポリエステル系樹脂(B)を混合することにより、発泡パリソンの発泡性が向上する理由は定かではないが、ポリエステル系樹脂(B)中に環状エーテル骨格を有するグリコール成分が特定量含まれていることにより、ポリカーボネート系樹脂中にポリエステル系樹脂(B)が微細に分散し、ポリカーボネート系樹脂の溶融特性を発泡パリソンの形成に適した溶融特性に変化させたためと考えられる。なお、ポリカーボネート系樹脂とポリエステル系樹脂(B)との相溶性の良さは、それらの混合物が一つのガラス転移点を示すことからも覗える。
かかる観点から、ポリエステル系樹脂(B)を構成するジオール成分単位中の環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位の含有量の下限は、15mol%であることが好ましく、より好ましくは20mol%であり、さらに好ましくは、25mol%である。一方、上限は、50mol%であることが好ましく、より好ましくは45mol%であり、さらに好ましくは40mol%である。
【0018】
ポリカーボネート系樹脂(A)に対するポリエステル系樹脂(B)の配合割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)100重量部に対して、5〜100重量部である。ポリエステル系樹脂(B)の配合割合が少なすぎると、ポリカーボネート系樹脂の発泡性を向上させる効果が得られない。かかる観点から、ポリエステル系樹脂(B)の配合割合は、10重量部以上であることが好ましく、より好ましくは15重量部以上である。一方、ポリエステル系樹脂(B)の配合割合が多い場合にはポリカーボネート系樹脂の発泡性を向上させる効果は十分に得られるが、配合割合が多すぎると、用途によっては要求される耐熱性や機械的強度を満足できないおそれがある。かかる観点からは、ポリエステル系樹脂(B)の配合割合は、80重量部以下であることが好ましく、より好ましくは60重量部以下であり、さらに好ましくは、45重量部以下である。
【0019】
本発明で用いられるポリエステル系樹脂(B)は、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に10〜80mol%含むジオール成分単位とジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体である。本発明の目的を達成する上で、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位としては環状アセタール骨格を有するグリコール成分単位が好ましい。
本発明で使用されるポリエステル系樹脂(B)の原料モノマーの一成分である環状エーテル骨格を有するジオールは、一般式(1)又は(2)で表される化合物であることが好ましく、各種ヒドロキシアルデヒドとペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等から酸触媒存在下で製造できる。
【0020】
【化1】

【0021】
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の非環状炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基から選ばれる特性基、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基を表す。)
【0022】
【化2】

【0023】
(式(2)中、Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の非環状炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基から選ばれる特性基、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体、たとえば、イソプロピル基、イソブチル基を表す。)
【0024】
前記一般式(1)の具体例として、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下「スピログリコール」ということがある。)が例示できる。
前記一般式(2)の具体例として、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オールなどが例示できる。
【0025】
ポリエステル系樹脂(B)の中でも、発泡パリソンの発泡性が特に向上することから、ポリエステル系樹脂(B)は、該樹脂を構成するジオール成分単位が、スピログリコール成分単位15〜50mol%とエチレングリコール成分単位85〜50mol%とからなるジオール成分単位と(ただし、両者の合計は100mol%である。)、ジカルボン酸成分単位がテレフタル酸成分からなるポリエステル樹脂共重合体であることが好ましい。該テレフタル酸成分は、テレフタル酸のエステルとしてジオール成分と共重合することにより形成されることが望ましく、テレフタル酸のエステルとしては、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジイソプロピル、テレフタル酸ジブチル、テレフタル酸ジシクロヘキシルなどが例示される。
更に、本発明のポリエステル系樹脂(B)としては、そのジオール成分としてスピログリコール成分単位20〜50mol%、及びエチレングリコール成分単位80〜50mol%からなるものがより好ましく、スピログリコール成分単位30〜40mol%、及びエチレングリコール成分単位70〜60mol%からなるものが更に好ましい。
【0026】
本発明において、ポリエステル系樹脂(B)は、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位とエチレングリコール成分単位以外のジオール成分単位を少量含んでも良い。このようなジオール成分単位としては、特に制限されるものではないが、例えばトリメチレングリコール、2−メチルプロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環族ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’―ジヒドロキシビフェニル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等に由来するジオール成分単位が例示できる。その含有量は、ジオール成分単位中に10mol%を超えない範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明では、ポリエステル系樹脂(B)は、テレフタル酸成分単位以外のジカルボン酸成分単位を含有しても良い。テレフタル酸以外の使用可能なジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸及びそれらのエステル化物等由来のジカルボン酸成分単位が例示できるがこれらに限定されるものではない。その含有量は、ジカルボン酸成分単位中に20mol%を超えない範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル系樹脂(B)を製造する方法に特に制限はなく、従来公知の方法を適用することが出来る。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることが出来る。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエーテル化防止剤としてアミン化合物等が例示される。
重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン等の化合物が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸等の各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等を加えても良い。
【0029】
本発明におけるポリカーボネート系樹脂とは、炭酸とグリコール又はビスフェノールから形成されるポリ炭酸エステルを意味し、2,2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン(別名ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−オキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)イソブタン、1,1−ビス(4−オキシフェニル)エタン等のビスフェノールから誘導されるポリカーボネート系樹脂から選択することができる。
【0030】
ポリカーボネート系樹脂(A)として、250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(以下、溶融粘度η(a)という。)が、2000〜6000Pa・sであるポリカーボネート系樹脂を用いることが好ましく、より好ましくは2000〜4000Pa・sである。溶融粘度η(a)が低すぎると、発泡パリソンのドローダウンが大きくなりすぎ、得られる発泡成形体の厚み精度が悪くなるおそれがある。一方、溶融粘度η(a)が高すぎると、吐出速度を大きくすることが難しくなり、成形開始までの間に発泡パリソンの一部が固化してしまって成形不良が生じるおそれがある。また、無理に吐出速度を大きくしようとするとダイ内で過度のせん断発熱が生じやすく、発泡性が低下して、連続気泡化や収縮が発生し、機械的強度の低下や外観不良などの問題が生じるおそれがある。すなわち、溶融粘度η(a)が上記溶融粘度範囲であると、発泡パリソンの発泡性および成形性に特に優れたものとなる。
【0031】
ポリカーボネート系樹脂(A)として、低粘度のポリカーボネート系樹脂(A1)と高粘度のポリカーボネート系樹脂(A2)とを併用することが好ましい。低粘度と高粘度のポリカーボネート系樹脂を併用することにより、発泡パリソンのドローダウンを抑制しつつ、適性発泡温度を広げることが可能となる。
ポリカーボネート系樹脂(A1)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(以下、溶融粘度η(a1)という。)は2000〜3000Pa・sであることが好ましく、ポリカーボネート系樹脂(A2)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(以下、溶融粘度η(a2)という。)は3500〜6000Pa・sであることが好ましい。
また、ポリカーボネート系樹脂(A1)とポリカーボネート系樹脂(A2)との配合比(A1:A2)は、重量比で90:10〜50:50で使用することが好ましく、より好ましくは85:15〜60:40である。
【0032】
さらに、発泡性をより向上させるという観点から、ポリカーボネート系樹脂(A1)の溶融張力は15cN以上であることが好ましく、17〜40cNであることがより好ましく、18〜30cNであることがさらに好ましい。
尚、溶融張力は、(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dを使用して測定することができる。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径2.095mm、長さ8.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を250℃とし、熱風循環式乾燥機により120℃で12時間乾燥させた試料(ポリカーボネート系樹脂)の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛け、4分で引取速度が0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーで紐状物を引取って紐状物が破断した際の直前の張力の極大値を得る。ここで、引取り速度が0m/分から200m/分に達するまでの時間を4分とした理由は、樹脂の熱劣化を抑えるとともに得られる値の再現性を高めるためである。上記操作を異なる試料を使用し、計10回の測定を行い、10回で得られた極大値の最も大きな値から順に3つの値と、極大値の最も小さな値から順に3つの値を除き、残った中間の4つの極大値を相加平均して得られた値を本発明方法における溶融張力(cN)とする。
【0033】
上記方法で溶融張力を測定し、引取り速度が200m/分に達しても紐状物が切れない場合には、引取り速度を200m/分の一定速度にして得られる溶融張力(cN)の値を採用する。詳しくは、上記測定と同様にして、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を張力検出用プーリーに掛け、4分間で0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーを回転させ、回転速度が200m/分になるまで待つ。回転速度が200m/分に到達してから溶融張力のデータの取り込みを開始し、30秒後にデータの取り込みを終了する。この30秒の間に得られたテンション荷重曲線から得られたテンション最大値(Tmax)とテンション最小値(Tmin)の平均値(Tave)を本発明方法における溶融張力とする。ここで、上記Tmaxとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたピーク(山)値の合計値を検出された個数で除した値であり、上記Tminとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたディップ(谷)値の合計値を検出された個数で除した値である。尚、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出す際には該紐状物に、できるだけ気泡が入らないようにする。
【0034】
本発明のポリカーボネート系樹脂(A)に増粘剤を添加して粘度調整を行うことができるが、特に、リサイクル原料などの低粘度のポリカーボネート系樹脂に増粘剤を添加して粘度調整を行うことは有用である。この場合、使用する増粘剤は特に限定されず公知のものが使用でき、例えば、酸二無水物、金属化合物、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物等を使用することができる。これらの中でも、多官能エポキシ化合物が好ましい。
【0035】
ポリエステル系樹脂(B)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度(以下、溶融粘度η(b)という。)は300〜1500Pa・sであることが好ましい。溶融粘度η(b)が上記範囲であるとせん断発熱抑制効果が高まり、優れた発泡性を得ることができる。
本発明における、ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂の溶融粘度は、オリフィス径1mm、オリフィス長10mm、測定温度250℃、剪断速度100sec−1の条件にて測定される。測定装置として、(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dなどを使用することができる。
【0036】
ポリエステル系樹脂(B)は、JIS K7122−1987に準拠し、熱流束示差走査熱量測定により300℃で10分間保持した後冷却速度10℃/分で冷却した際に得られるDSC曲線において求められる発熱ピークの熱量が5J/g以下(0J/gを含む。)であることが好ましい。発熱ピークの熱量が小さいまたは発熱ピークが観察されないということは、上記冷却条件下ではポリエステル系樹脂(B)が殆ど結晶化しないか、或いは全く結晶化しないということであり、ポリエステル系樹脂(B)の結晶化速度が極度に遅いか、ポリエステル系樹脂(B)が非結晶性或いは極めて低結晶性であることを意味する。上記発熱ピークの熱量が5J/g以下であると、発泡パリソンの成形性が特に優れたものとなる。かかる観点から、上記発熱ピークの熱量は3J/g以下(0J/gを含む。)がより好ましく、さらに好ましくは0J/gである。
なお、本発明で使用するポリエステル系樹脂(B)には明確な融点を示さないものも含まれるため、保持温度として300℃を採用する。また、窒素ガスの流入速度は30ml/分とする。
【0037】
また、本発明においてポリエステル系樹脂(B)は、ガラス転移温度が90℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が高いと、ポリカーボネート系樹脂が本来有する耐熱性を損なうことなく、得られた発泡成形体は優れた耐熱性を有する。かかる観点から、ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度は95℃以上であることがより好ましく、さらに好ましくは100℃以上である。耐熱性の観点からはその上限は特に制限されるものではないが、その上限は概ね130℃程度である。
本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121−1987に基づき、窒素ガスの流入速度は30ml/分とし、(3)「一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用して、熱流束示差走査熱量測定により測定される値である。
【0038】
発泡性溶融樹脂組成物に添加される発泡剤として、物理発泡剤および/または化学発泡剤、好ましくは物理発泡剤のみ、又は物理発泡剤と化学発泡剤との複合発泡剤が使用される。
物理発泡剤としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、塩化メチル、塩化エチル、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、二酸化炭素,窒素、アルゴン、水等が挙げられる。また、化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、重曹、重曹とクエン酸との混合物等が挙げられる。これらの発泡剤は単独で、または他の発泡剤と混合して使用することが可能である。
【0039】
本発明においては、これらの発泡剤のうち、無機物理発泡剤がより好ましく、物理発泡剤においては二酸化炭素を50〜100mol%(二酸化炭素のみからなる場合を含む)含有するものが、成形サイクルの短縮や得られる発泡中空成形体の寸法安定性を図ることができるため更に好ましく、二酸化炭素等の無機物理発泡剤のみからなることが特に好ましい。
本発明において、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)からなる基材樹脂にタルク等の気泡調整剤を添加することができる。気泡調整剤は、マスターバッチの形態で使用してもよい。気泡調整剤の使用量は、通常、基材樹脂100重量部に対して0.05〜10重量部である。
また、上記の発泡樹脂パリソンの発泡層および表面層を形成する基材樹脂には、所望に応じて、難燃剤、流動調整剤、紫外線吸収剤、導電性付与剤、着色剤、熱安定剤、酸化防止剤、無機充填剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0040】
本発明において、発泡パリソンは、ポリカーボネート系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)からなる基材樹脂と、発泡剤と、必要に応じて、例えばタルク等の気泡調整剤とを押出機にて混練してなる発泡性溶融樹脂を発泡に適した樹脂温度に調整しダイから筒状に押出すことにより形成される。発泡剤として物理発泡剤を用いる場合には、物理発泡剤を押出機内の溶融樹脂に圧入することにより供給することができる。
【0041】
本発明の製造方法により得られる発泡成形体のうち、上記ブロー成形により得られる中空状の発泡成形体は、その平均厚みは0.3〜20mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜15mm、さらに好ましくは1.0〜10mmである。
【0042】
また本発明の製造方法により得られる発泡成形体は、発泡樹脂層と非発泡樹脂層とから構成される多層構造とすることができる。この場合、発泡成形体の製造時に、非発泡樹脂層を発泡パリソンの発泡層の内外両面または内外いずれの面に設けられてもよく、また発泡層の間に存在させた構成としてもよい。非発泡樹脂層を外面側に有する発泡パリソンをブロー成形することにより得られる発泡中空成形体では、発泡成形体の外面側に非発泡樹脂層を有し、内面側には非発泡樹脂層を有さない構造となる。非発泡樹脂層の厚みは、0.05〜3mmであることが好ましく、より好ましくは0.25〜1.5mmである。
【0043】
なお、本発明の製造方法により得られる中空状の発泡成形体の厚みは、発泡成形体の長手方向中央部および両端部付近の計3箇所における長手方向に対する垂直断面を測定対象とし、各垂直断面において等間隔に5箇所の垂直断面の厚み方向の厚み測定を行う。得られた15箇所の厚みの最大値と最小値を除く値の算術平均値を中空状の発泡成形体の厚みとする。
【0044】
本発明の製造方法によって得られる発泡成形体の密度は、0.08〜0.8g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.4g/cmである。密度が上記範囲であることにより曲げ強度、圧縮強度などの機械的物性と軽量性、断熱性とのバランスに優れた発泡成形体となる。上記密度は、発泡成形体の重量(g)を発泡成形体の体積(cm)で除した値である。
【0045】
本発明の製造方法によって得られる発泡成形体独立気泡率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。発泡成形体の独立気泡率が上記範囲であることにより、高倍率化、薄肉化により軽量化した場合であっても、ポリカーボネート系樹脂が本来有してる優れた曲げ強度、圧縮強度などの機械的強度を十分に発揮することができる。
【0046】
本明細書において、独立気泡率は、発泡成形体から試験片を切り出し、ASTM D2856−70(1976再認定)の(手順C)によりVxを求め、下記(1)式により算出される値である。規定の体積の試験片が切り出せない場合は、複数の試験片を重ね合わせることにより規定の体積に極力近づけることとする。
独立気泡率(%)=
(Vx−Va(ρf/ρs))×100/(Va−Va(ρf/ρs)) (1)
Vx;試験片の実容積(独立気泡部分の容積と樹脂部分の容積との和)(cm
Va;試験片の外形寸法から求められる見掛けの容積(cm
ρf;試験片の見掛け密度(g/cm
ρs;試験片の基材樹脂の密度(g/cm
【0047】
本発明の製造方法により得られる発泡成形体の厚み方向の平均気泡径は、50〜800μmであることが好ましく、より好ましくは100〜500μmである。発泡成形体の平均気泡径が上記範囲であると、ポリカーボネート系樹脂が本来有している優れた曲げ強度、圧縮強度などの機械的強度を十分に発揮することができる。
本明細書において、発泡成形体の厚み方向の平均気泡径の測定は、発泡成形体の長手方向(押出方向)に対する垂直断面を拡大投影し、投影画像上にて厚み方向に発泡成形体の全厚みに亘る直線を引き、その直線と交差する気泡数をカウントし、画像上の直線における拡大前の実際の長さを気泡数で割ることによって求めた値を成形体厚み方向の気泡径とする。この操作を発泡成形体の長手方向中央部付近及び両端部付近の計3部位(但し、測定箇所としては、嵌合部などの特殊な形状部分は除くものとする。)の垂直断面において行うこととし、更に、各垂直断面において等間隔に5箇所(中空状の発泡成形体の場合には成形体の開口周縁に沿って周方向に等間隔に5箇所、中実状の発泡成形体の場合には幅方向に等間隔に5箇所)測定を行うこととする。得られた15箇所の気泡径の内、最大及び最小の値を除く13箇所の気泡径の算術平均値を発泡成形体の厚み方向の平均気泡径とする。
【0048】
本発明の製造方法により、広い密度範囲において、独立気泡率の高いポリカーボネート系樹脂発泡成形体を容易に得ることが可能となる。特に、従来の方法では、密度0.2g/cm未満の高発泡倍率とすると独立気泡率の高い発泡成形体を製造することは難しかったが、本発明の製造方法により、密度0.2g/cm未満であっても、独立気泡率50%以上の発泡成形体が製造可能となる。さらに、発泡成形体の平均気泡径を小さくすると、気泡膜が薄くなりすぎて、連続気泡率が高くなる傾向にあるが、本発明の製造方法により、気泡径が小さな場合、特に平均気泡径が500μm以下であっても、広い密度の範囲において、独立気泡率50%以上の発泡成形体を製造することが可能となる。
【0049】
本発明の製造方法において、発泡成形体の密度、独立気泡率等を前記した範囲内に調整する方法としては、物理発泡剤の使用量、発泡性溶融樹脂組成物をダイスから押出す際の吐出速度、樹脂温度などを調整する方法が挙げられる。
すなわち、物理発泡剤の添加量を増加すると得られる発泡成形体の平均密度は小さくなる傾向にある。物理発泡剤の添加量は、所望の発泡倍率や発泡剤の種類によって適宜決定されるものであるが、発泡剤として二酸化炭素を使用し、密度0.08〜0.8g/cmの発泡成形体を得るためには、樹脂1kgあたり0.1〜1モルとすることが好ましい。
また、上記吐出速度が速すぎると剪断発熱により発泡パリソンが連続気泡化しやすくなり、吐出速度が遅すぎると、ダイ内で発泡が生じる、所謂内部発泡と呼ばれる現象が発生して連続気泡化してしまったり、内部発泡が発生しなくても押出中に固化してしまうため、金型にて成形する際に連続気泡化してしまったりすることがある。吐出速度は概ね10〜100kg/h・cmとすることが好ましい。発泡パリソンを押出時の樹脂温度は、概ね220〜240℃とすることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではない。本実施例、比較例で使用したポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂を以下に記載する。
ポリカーボネート系樹脂
使用したポリカーボネート系樹脂は、表1に示すPC1、PC2、及びPC3の3種類である。
【0051】
【表1】

【0052】
*1:PC2は、内径47mmの二軸押出機を用いて、押出機設定温度280℃、吐出量30kg/hrの条件にてPC1をリペレタイズしたものである。
*2:PC3は、内径47mmの二軸押出機を用いて、押出機設定温度280℃、吐出量30kg/hrの条件にてPC1に分岐導入剤ARUFON UG−4035(東亞合成(株)製)を0.5重量%添加してリペレタイズしたものを、押出機設定温度280℃、吐出量30kg/hrの条件にて再度リペレタイズしたものである。
ポリエステル系樹脂
使用したポリエステル系樹脂を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2中のジオール成分の略号は以下の通りである。
EG :エチレングリコール
SPG :スピログリコール
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
【0055】
ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂の250℃、せん断速度100sec−1における溶融粘度および250℃における溶融張力は、原料ペレットを120℃で12時間乾燥した後に、測定装置として(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dを使用して前記方法により測定した。また、DSC曲線における発熱ピークの熱量は、JIS K7122−1987に準拠する前記方法により求めた。
【0056】
〈1〉ガラス転移温度
発泡成形体のガラス転移温度は、JIS K7121−1987に基づく前記方法により測定した。
〈2〉溶融粘度
発泡成形体の溶融粘度は、発泡成形体を120℃にて12時間乾燥した後、発泡成形体から測定に必要な量を切り出して測定用サンプルとし、原料ペレットと同様な方法にて測定した、250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度である。
〈3〉密度
発泡成形体の密度は、発泡成形体の重量(g)を、水没法により求めた該発泡成形体の体積(cm)によって除することによって求めた。
〈4〉平均厚み
発泡成形体の平均厚みは、前記測定方法に従って求めた。
〈5〉独立気泡率
測定装置として東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計(型式:930型)を用い、発泡成形体の上記厚み測定を行った3部位付近において、上記の測定方法に従って独立気泡率を測定し、それらの算術平均値を発泡成形体の独立気泡率とした。
〈6〉厚み方向平均気泡径
成形体の厚み方向の平均気泡径は前記方法に従って求めた。発泡成形体の上記厚み測定を行った3部位の垂直断面を測定部位とし、各断面を光学顕微鏡により50倍に拡大投影し、この投影画像をもとに平均気泡径を求めた。
【0057】
〈7〉耐衝撃性(シャルピー衝撃強さ)
耐衝撃性をJIS K 7111−1996に基づきシャルピー衝撃強さを測定することにより評価した。試験片は発泡成形体の平坦な部分から切り出し、試験温度は23℃とし、方法の分類はISO179/1eAを採用した。成形体の異なる部位から切り出した5つの試験片に対して衝撃試験を行い、求められた衝撃強さの算術平均値をシャルピー衝撃強さとした。
〈8〉耐熱性(ヒートサグ値)
耐熱性の評価は、JIS K 7195−1993の「プラスチックのヒートサグ試験」に準拠して行った。発泡成形体の平坦な部分から長さ125mm×幅10mm×厚みは成形体厚みの大きさの試験片を切り出し、該試験片の先端部に5gの錐を乗せ、測定温度130℃の雰囲気下にて1時間保持し、ヒートサグ値を測定した。当該測定を成形体の異なる部位から切り出した5つの試験片に対して行い、それらの測定値の算術平均値を耐熱性の指標とした。ヒートサグ値が小さいほど耐熱性に優れることを意味する。
〈9〉外観
外観の評価を下記基準で行った。
○:成形体表面に著しい表面荒れが観察されなかった。
×:成形体表面に著しい表面荒れが観察された。
【0058】
[実施例1〜13]
成形金型として、最大長さ650mm、最大幅150mm、最大厚み70mmの成形キャビティを有する中空成形体用の金型を使用した。
表3に示す種類、配合量のポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる基材樹脂と気泡調整剤としてのタルク(松村産業社製、商品名:ハイフィラー#12)とを口径65mmの押出機に供給し、280℃に設定した押出機内にて溶融混練した。
次いで押出機の途中から二酸化炭素(CO)を基材樹脂1kg当たり表3に示す圧入量(mol/kg)となるように圧入して混練して発泡性溶融樹脂とし、発泡適正温度まで冷却して押出機に連結したアキュームレータに充填した。次にアキュームレータの先端に配置した直径70mmの環状ダイより発泡性溶融樹脂を常圧域に押出すことにより発泡させて発泡パリソンを形成した。
【0059】
その後、発泡パリソンにプリブローエアを吹き込みながら、発泡パリソンをダイ直下に配置した2分割式の金型間に挟み、発泡パリソンの内部にブローピンからブローエアを吹き込むこと及び金型に設けた孔より発泡パリソンの外面側を吸引することにより、発泡パリソンの外面を金型内面に押し付けることにより、発泡パリソンをブロー成形した。冷却後、金型を開き発泡成形体を取り出し、バリ及びポケット部を取り除くことにより、中空状の発泡成形体を得た。
吐出量、リップクリア、開口面積当たりの吐出量、押出時の発泡パリソン表面温度等の発泡パリソンの製造条件を表3に示す。なお、押出時の発泡パリソン表面温度は、ブロー成形を行う前に予め発泡パリソンのみを形成し、発泡パリソンの押出が完了した直後にダイ先端部から100mm下の位置を測定した値である。測定装置として、佐藤計量製作所製、赤外線温度計(型式:SK−8700II)を使用し、測定の際の発泡パリソン表面と測定器の距離は50mmとした。得られた発泡成形体のガラス転移温度、溶融粘度、密度、平均厚み、独立気泡率、成形体厚み方向の平均気泡径(表中、単に「平均気泡径」と記す。)、23℃におけるシャルピー衝撃強さ、ヒートサグ値を測定し、外観を評価した。これらの評価結果を表4にまとめて示す。
【0060】
[比較例1]
ポリエステル系樹脂を用いなかった以外は、実施例1と同様の成形条件にて中空状の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体について、実施例で得られた発泡成形体と同様の評価を行った。製造条件を表3に、評価結果を表4に示す。
【0061】
[比較例2〜4]
ポリエステル系樹脂として本発明におけるポリエステル系樹脂(B)の条件を満足しないPET1(比較例2)、PET2(比較例3)、PET3(比較例4)を用いた以外は、実施例1と同様の成形条件にて中空状の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体について、実施例1で得られた発泡成形体と同様の評価を行った。製造条件を表3に、評価結果を表4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表中、「PC1/PC2=20/80」は、ポリカーボネート系樹脂としてPC1 20重量部とPC2 80重量部とをドライブレンドして使用したことを意味する。
また、ポリエステル系樹脂及び気泡調整剤の配合量は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対する値である。
【0064】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の製造方法によって得られるポリカーボネート系樹脂発泡成形体は、断熱性、耐熱性、機械的強度に優れており、自動車や電気電子部体、包装資材等、種々の用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂(A)と、ポリカーボネート系樹脂(A)100重量部に対して5〜100重量部のポリエステル系樹脂(B)と、発泡剤とを混練してなる発泡性溶融樹脂を押出して発泡パリソンを形成し、軟化状態の該発泡パリソンを金型にて成形する発泡成形体の製造方法であって、
ポリエステル系樹脂(B)が、環状エーテル骨格を有するグリコール成分単位をジオール成分単位中に10〜80mol%含むジオール成分単位と、ジカルボン酸成分単位とからなるポリエステル共重合体であることを特徴とするポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリカーボネート系樹脂(A)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が2000〜6000Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネート系樹脂(A)が、ポリカーボネート系樹脂(A1)とポリカーボネート系樹脂(A2)とからなり、樹脂(A1)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が2000〜3000Pa・sであり、樹脂(A2)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が3500〜6000Pa・sであり、樹脂(A1)と樹脂(A2)との配合比が重量比で90:10〜50:50であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネート系樹脂(A1)の250℃における溶融張力が15cN以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂(B)の250℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が300〜1500Pa・sであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂(B)を構成するジオール成分単位が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン成分単位15〜50mol%とエチレングリコール成分単位85〜50mol%(ただし、両者の合計は100mol%である。)とからなり、ジカルボン酸成分単位がテレフタル酸成分単位からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリエステル系樹脂(B)を熱流束示差走査熱量測定により300℃で10分間保持した後冷却速度10℃/分で冷却した際に得られるDSC曲線において、発熱量が5J/g以下(0J/gを含む。)であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
前記発泡剤が無機物理発泡剤であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂発泡成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−7055(P2012−7055A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143283(P2010−143283)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】