説明

ポリカーボネート系樹脂組成物、及びその射出成型体

【課題】 本発明の目的は、射出成形体を得る際に、銀条や発泡の発生が防止され、また成型性に優れたポリカーボネート系樹脂組成物を提供することで、耐衝撃性に優れた薄肉大型の射出成形体であって、かつ、フラッシュ発生が防止され優れた外観を有する射出成形体を得ることである。
【解決手段】 本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂50〜100重量部、ポリエステル樹脂5〜20重量部、ポリエステル−ポリエーテル共重合体10〜50重量部、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体0.5〜40重量部、及びフェノール系安定剤0.3〜3重量部を含むポリカーボネート系樹脂組成物であって、その組成物の平均アンチモン金属濃度が100ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂組成物、及びその射出成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート樹脂は、エンジニアリングプラスチックの中でも最高の耐衝撃性を有し、耐熱性も良好な樹脂として知られており、これらの特徴を生かして種々の分野に使用されているが、耐薬品性、成形加工性がよくなく、衝撃強度の厚さ依存性を有するなどの欠点を有している。
【0003】
一方、ポリエステル樹脂は、耐薬品性、成形加工性に優れているが、耐衝撃性、寸法安定性などに劣るなどの欠点を有している。
【0004】
このようなそれぞれの材料の特徴を生かし、欠点を補完することを目的として種々の樹脂組成物がポリカーボネート系樹脂として提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、分子量1000のビスフェノールAポリエチレンオキシド付加物を30%含有するポリエチレンテレフタレートブロック共重合体5部、及びポリカーボネート95部からなるポリカーボネート系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性に優れた成形体を開示している。
【0006】
しかし、薄肉大型、かつ、耐衝撃性に優れたポリカーボネート系樹脂組成物の射出成形体を得ようとすると、ポリカーボネート樹脂は一般に加水分解し易く熱安定性が不十分なので、金型内、特にゲート部で局所的に生じる加熱や剪断によりポリカーボネート系樹脂が分解して炭酸ガスを放出し銀条や発泡が発生したり、得られた成形体にフラッシュが発生したりするといった問題や、非常に高価なゲルマニウム化合物を触媒として用いたポリエステル樹脂やポリエステル−ポリエーテル共重合体を使用する必要があるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平5−77704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した問題点に鑑み、本発明の目的は、射出成形体を得る際に、銀条や発泡の発生が防止され、また成型性に優れたポリカーボネート系樹脂組成物を提供することで、耐衝撃性に優れた薄肉大型の射出成形体であって、かつ、フラッシュ発生が防止され優れた外観を有する射出成形体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、特定組成のポリカーボネート系樹脂組成物とすることで、射出成形体を得る際に、銀条や発泡の発生が防止され、また成型性に優れ、さらに比較的低コストのポリカーボネート系樹脂組成物を提供すること、及び、その耐衝撃性に優れた薄肉大型の射出成形体であって、かつ、フラッシュ発生が防止され優れた外観を有する射出成形体を得ることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂50〜100重量部、ポリエステル樹脂5〜20重量部、ポリエステル−ポリエーテル共重合体10〜50重量部、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体0.5〜40重量部、及びフェノール系安定剤0.3〜3重量部を含むポリカーボネート系樹脂組成物であって、その組成物の平均アンチモン金属濃度が100ppm以下である、ポリカーボネート系樹脂組成物に関する。ポリエステル樹脂、ポリエステル−ポリエーテル共重合体、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体、及びフェノール系安定剤を含むこと、かつ、その組成物の平均アンチモン金属濃度が100ppm以下とすることで、優れた成形性を有する樹脂組成物となり、その成形体は優れた機械的特性、及び外観を有する。
【0011】
好ましい実施態様は、前記アンチモン金属濃度を10ppm以上とすることである。ポリエステル樹脂やポリエステル−ポリエーテル共重合体を重合する際の重合触媒として安価なアンチモン触媒を用いて樹脂組成物中の残触媒濃度を10〜100ppmにすることで成型品の表面外観を損なわれない優れた特性を有する成形体が得られる成形性・耐熱性・耐衝撃性のバランスに優れる低コストの樹脂組成物とすることができる。
【0012】
好ましい実施態様は、前記ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体を、アルキルベンゼンスルホン酸塩を乳化剤として乳化重合されてなり、かつ、体積平均粒子径が150〜200nmとすることである。
【0013】
好ましい実施態様は、前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体を、芳香族ポリエステル単位95〜45重量%と変性ポリエーテル単位5〜55重量%からなるものとすることである。
【0014】
好ましい実施態様は、前記変性ポリエーテル単位を、下記一般式1で表される変性ポリエーテル単位で
あるとすることである。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、18≦m+n≦50である。)
【0017】
好ましい実施態様は、前記芳香族ポリエステル単位を、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレプタレート単位、及びポリプロピレンテレフタレート単位からなる群から選ばれる1種以上とすることである。
【0018】
好ましい実施態様は、前記ポリエステル樹脂を、フタル酸系ポリエステル樹脂とすることである。
【0019】
また、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物を射出成型してなる射出成形体に関し、家電部材、及び車両用部材として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、射出成形体を得る際に、銀条や発泡の発生が防止され、また成型性に優れ、かつ、成形性・耐熱性・耐衝撃性のバランスが優れ、さらに比較的低コストのポリカーボネート系樹脂組成物であり、その成形体は耐衝撃性に優れた薄肉大型の射出成形体であって、かつ、フラッシュ発生が防止され優れた外観を有する射出成形体となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ポリカーボネート系樹脂組成物)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂50〜100重量部、ポリエステル樹脂5〜20重量部、ポリエステル−ポリエーテル共重合体10〜50重量部、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体0.5〜40重量部、及びフェノール系安定剤0.3〜3重量部を含む。耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、及び成形加工性のバランスの観点から、より好ましくは、ポリカーボネート樹脂50〜100重量部に対して、各々、ポリエステル樹脂は5〜15重量部とすることが好ましく、7〜13重量部とすることがさらに好ましく、ポリエステル−ポリエーテル共重合体は10〜45重量部とすることが好ましく、15〜30重量部とすることがさらに好ましく、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体は1〜15重量部とすることが好ましく、3〜7重量部とすることがさらに好ましく、フェノール系安定剤は0.5〜2重量部とすることが好ましく、0.5〜1重量部とすることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、上述の如くポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂組成物なので、特に大型の射出成型品につき優れた外観の成形体が得られ、また、好ましくはフィラーを添加して使用される。
【0023】
また、本発明の組成物には必要に応じて、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体(MB)以外のコア/シェル型グラフト共重合体やポリオレフィン系重合体、オレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、熱可塑性ポリエステル系エラストマー等が耐衝撃改良剤として、また、フェノール系安定剤以外のリン系安定剤、硫黄系安定剤等が安定剤として、添加され使用される。
【0024】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明に用いるポリカーボネート樹脂とは、フェノール性水酸基を2個有する化合物(以下、2価フェノールという)より誘導されるポリカーボネート樹脂であり、通常2価フェノールとホスゲン、あるいは2価フェノールと炭酸ジエステルとの反応により得られる樹脂のことである。
【0025】
前記2価フェノールとしては、とくにビスフェノールAが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
前記ポリカーボネート樹脂の分子量としては、耐衝撃性、耐薬品性、成形加工性等の観点から、粘度平均分子量で10,000〜60,000範囲のものが好ましい。
【0027】
(ポリエステル樹脂)
本発明に係るポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとを重縮合することにより得られる単位を90重朗%以上含む樹脂であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、フタル酸系ポリエステルが挙げられるが、好ましくはフタル酸系ポリエステルであり、例えば、DIC株式会社製ポリサイザーA55(登録商標)である。
【0028】
(ポリエステル−ポリエーテル共重合体)
本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体は、成形性の改善効果の観点、及び耐熱性維持の観点から、芳香族ポリエステル単位50〜80重量%、及び前記一般式1で表される変性ポリエーテル単位20〜50重量%からなる重合体であることが好ましく、より好ましくは芳香族ポリエステル単位60〜80重量%、及び前記変性ポリエーテル単位20〜40重量%からなる重合体である。
【0029】
前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体の分子量にはとくに限定はないが、通常テトラクロロエタン/フェノール=50/50(重量比)の混合溶剤中、25℃、0.5g/dlでの対数粘度(IV)が0.3〜2.0の範囲にあるような分子量であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5の範囲である。
【0030】
ポリエステル−ポリエーテル共重合体の製造方法は、アンチモン化合物、場合によってゲルマニウム化合物を添加した触媒を用いて、(1)芳香族ジカルボン酸、ジオール、変性ポリエーテルの三者の直接エステル化法、(2)芳香族ジカルボン酸ジアルキル、ジオール、変性ポリエーテル、及び/又は、変性ポリエーテルのエステルの三者のエステル交換法、(3)芳香族ジカルボン酸ジアルキル、ジオールのエステル交換中、又は、エステル交換後に変性ポリエーテルを加えて、重縮合する方法、(4)高分子の芳香族ポリエステルを用い、変性ポリエーテルと混合後、溶融減圧下でエステル交換する方法等が挙げられ、これらに限定されるものではないが、組成コントロール性の観点から、前記(4)の製造法が好ましい。
【0031】
このような本発明に係る触媒として用いられるアンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのアンチモン化合物の中では、三酸化アンチモンが特に好ましい。重合時に投入するアンチモン化合物触媒量は、反応速度の観点、及び経済的観点から、樹脂量の50〜2000重量ppmとするのが好ましく、より好ましくは100〜1000重量ppmとすることである。
【0032】
前記触媒として用いられるゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム酸化物、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトライソプロポキシド等のゲルマニウムアルコキシド、水酸化ゲルマニウム及びそのアルカリ金属塩、ゲルマニウムグリコレート、塩化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのゲルマニウム化合物の中では、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。重合時に投入する二酸化ゲルマニウム触媒量は、反応速度の観点、及び経済的観点から、樹脂量の50〜2000重量ppmとするのが好ましく、より好ましくは100〜1000重量ppmとすることである。
【0033】
前記芳香族ジカルボン酸は、特にテレフタル酸が好ましく、その他イソフタル酸、ジフエニルジカルボン酸、ジフエノキシエタンジカルボン酸等が例示される。これら芳香族ジカルボン酸の他に、少ない割合(15%以下)のオキシ安息香酸等の他の芳香族オキシカルボン酸、あるいは、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサン1・4−ジカルボン酸等の脂肪族、又は肪環族ジカルボン酸を併用してもよい。
【0034】
前記ジオールは、エステル単位を形成する低分子量グリコール成分であり、炭素数2〜10の低分子量グリコール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等である。特にエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールが、入手のし易さの点から好ましい。
【0035】
前記芳香族ジカルボン酸ジアルキルのアルキル基としては、メチル基がエステル交換反応性の観点から好ましい。
【0036】
前記高分子の芳香族ポリエステルの溶液粘度としては、得られる成形品の耐衝撃性、耐薬品性や成形加工性の観点から、フェノール/テトラクロロエタン=1/1(重量比)混合溶媒中、25℃で濃度0.5g/dlにおける対数粘度(IV)が0.3〜2.0、さらには0.5〜1.5の範囲のものが好ましい。
【0037】
(芳香族ポリエステル単位)
本発明に用いる芳香族ポリエステルの単位は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とからえられる重合体ないし共重合体であって、通常、交互重縮合体であり、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレプタレート単位、及びポリプロピレンテレフタレート単位からなる群から選ばれる1種以上である。
【0038】
前記芳香族ポリエステル単位の好ましい具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート、あるいはポリトリメチレンテレフタレート共重合体が挙げられ、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート、及びポリプロピレンテレフタレート単位よりなる群から選ばれる1種以上である。
【0039】
(変性ポリエーテル単位)
本発明に係る変性ポリエーテル単位は、前記一般式1で表される単位であり、一般式1中のオキシアルキレン単位の繰り返し単位数m、nにつき、(m+n)の数平均が18未満では、衝撃性の改善が少なく、(m+n)の数平均が50を越えると、成形性が悪くなるので、18以上、50以下であることを要し、更に、好ましくは25以上、40以下である。
【0040】
【化2】

【0041】
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、18≦m+n≦50である。)
【0042】
前記変性ポリエーテル単位は、入手のし易さの観点から、好ましくは下記一般式2で表される単位であり、(m+n)が18の場合の式量は1018、(m+n)が50の場合の式量は2426である。従って、一般式2で表される単位を分子として本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体に導入する場合の好ましい分子量は1020以上、2430以下であり、さらに好ましくは、1330以上、2000以下である。
【0043】
【化3】

【0044】
(ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体(MB))
本発明に係るブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体(MB)は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、より好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを乳化剤として乳化重合されてなり、かつ、体積平均粒子径が150〜210nmのコア/シェル型のグラフト共重合体である。
【0045】
前記コアとなるブタジエンゴムは、ブタジエンを主成分とする、好ましくは66重量部以上含む単量体の重合体であり、好ましくは乳化重合のみで所定の粒子径まで大きくした、即ち、乳化重合以外の肥大化工程を伴わないブタジエンゴムである。この単量体としては、ブタジエンと共重合可能な他の単量体、好ましくはスチレンを含んでいても良い。
【0046】
前記シェルとなるグラフト成分は、主成分であるメチルメタクリレート(MMA)にブチルアクリレート(BA)を添加した混合モノマーの重合体であり、場合によって、この混合モノマーにスチレンを添加しても良い。
【0047】
(MB以外のコア/シェル型グラフト共重合体、耐衝撃改良剤)
前記コア/シェル型グラフト共重合体とは、ゴム状弾性体にビニル系化合物をグラフト重合させたものである。
【0048】
前記ゴム状弾性体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好ましく、より好ましくは−40℃以下のものである。
【0049】
MB以外のコア/シェル型グラフト共重合体のゴム状弾性体の具体例としては、たとえばブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリル酸エステル共重合体(ブタジエンアクリルゴム)、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体などのジエン系共重合体ゴム、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル、ジメチルシロキサン−アクリル酸ブチルゴム、シリコン系/アクリル酸ブチル複合ゴムなどのアクリル系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのオレフィン系ゴム、が例示され、ブタジエン−アクリル酸エステル共重合体の具体的なゴムとしてブタジエン−アクリル酸ブチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸2エチルヘキシル共重合体が例示出来る。耐衝撃性の面より、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリル酸ブチル共重合体が好ましく使用される。
【0050】
ゴム状弾性体の平均粒子径にもとくに限定はないが、0.05〜2.00μmの範囲のものが好ましく、小粒子ゴムを肥大して0.1〜2μmにして使用しても良い。また、ゲル含有量についてもとくに限定はないが、10〜90重量%、さらには40〜90重量%の範囲のものが好ましく使用される。
【0051】
前記コア/シェル型グラフト共重合体の製造に使用されるビニル系化合物としては、たとえば芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。前記芳香族ビニル化合物の例としてはスチレン、αメチルスチレン、シアン化ビニル化合物の例としてはアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸エステルの例としてはブチルアクリレート、2エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸エステルの例としてはメチルメタクリレートがとくに好ましいものとしてあげられる。
【0052】
コア型/シェル型グラフト共重合体を調製する際のゴム状弾性体とビニル系化合物との使用割合はゴム状弾性体10〜90重量%、さらには30〜85重量%に対して、ビニル系化合物90〜10重量%、さらには15〜70重量%が好ましい。ゴム状弾性体の割合が10重量%未満では耐衝撃性が低下しやすくなり、一方、90重量%をこえると耐熱性が低下する傾向が生ずる。
【0053】
前記ポリオレフィン系重合体の具体例としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−4−メチルペンテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等が挙げられる。
【0054】
前記オレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体において、オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が、不飽和カルボン酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、i−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリル酸グリシジル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、i−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸グリシジル等が、挙げられる。
【0055】
前記オレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体の具体例として、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸プロピル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸ヘキシル共重合体、エチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ヘキシル共重合体、エチレン−メタクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−アクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。
【0056】
(フェノール系安定剤)
本発明に係るフェノール系安定剤としては、好ましくはヒンダードフェノール系安定剤であり、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート(例えば、チバスペシャルティケミカルズ製イルガノックス1010(登録商標))、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(例えば、チバスペシャルティケミカルズ製イルガノックス1076(登録商標))等が挙げられるが、より好ましくは、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートである。
【0057】
(その他の安定剤)
本発明の樹脂組成物に必要に応じて添加するフェノール系安定剤以外の安定剤としては、リン系安定剤や硫黄系安定剤等が挙げられる。
【0058】
前記リン系安定剤としては、ホスファイト系安定剤が挙げられ、例えば、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト(例えば、旭電化株式会社製アデカブスタPEP36(登録商標))が挙げられる。
【0059】
前記硫黄系安定剤としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート等が挙げられる。
【0060】
(添加剤)
本発明の樹脂組成物には、光安定剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、無機充填剤、アクリロニトリル−スチレン共重合体などを配合しうる。
【0061】
(混練)
本発明の樹脂組成物の製造は任意の方法で行なうことができる。たとえば、ブレンダー、スーパーミキサーなどを用いての混合、単軸または多軸のスクリュー押出機などでの混練により製造される。
【0062】
(用途)
このようにして得られた樹脂組成物は、射出成形法により、家電部材、及び車両用部材として好適に用いられる、耐熱性、耐衝撃性、剛性、寸法安定性、耐薬品性、成形加工性、耐候性ならびに熱安定性に優れ、成形品の表面光沢、外観に優れた射出成型品となる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の樹脂組成物を実施例に基づき具体的に説明する。
【0064】
[測定条件]
(アンチモン金属濃度)
組成物や原料共重合体等の平均アンチモン金属濃度は、サンプルをプラズマ発光分析(ICP分析)、具体的には、島津製作所製ICP発光分析装置ICPS−8100を用いて、定量することにより測定した。
【0065】
(耐熱性:HDT)
試験片サンプルを、ASTM D−696に準拠して、測定した。具体的には、油温を一定昇温(120℃/h)させ、試料(幅12.7mm、厚み6.4mm、長さ127mm)に指定の曲げ応力(0.45MPa)を与え、規定のたわみ量(曲げ歪0.2%)に達した温度を荷重たわみ温度とした。
【0066】
(アイゾット衝撃値)
試験片サンプルを、ASTM D−256に準拠して、1/4インチ、ノッチ付、23℃の条件で測定した。
【0067】
(成型性:MFR)
試験片サンプルを、に準拠して、測定した。具体的には、シリンダ内で溶融した樹脂を、一定の温度(280℃)と荷重条件(2.16kg)のもと、シリンダ底部に設置された規定口径のダイス(直径2mm、長さ8mm)から10分間あたり押し出される樹脂量を測定した。
【0068】
(滞留試験後の外観)
樹脂組成物サンプルを、日精樹脂工業株式会社製射出成形機FN−1000を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃で5分滞留させて成形した120*120*3mmの平板の成形品の外観を肉眼で観察して、つぎの基準にしたがって評価した。
○:表面のフラッシュがほとんど認められないもの
△:表面のフラッシュが少し認められるもの
×:表面のフラッシュが著しいもの
【0069】
[使用材料]
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂(PC)としては、出光興産(株)製のタフロンA2200(粘度平均分子量22,000)を用いた。
【0070】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂としては、フタル酸系ポリエステルであるDIC株式会社製ポリサイザーA55(登録商標)を用いた。
【0071】
(ポリエステル−ポリエーテル共重合体)
ポリエステル−ポリエーテル共重合体としては、以下の方法で製造したポリエステル−ポリエーテル1〜3を用いた。
【0072】
即ち、攪拌機、ガス排出出口を備えた反応器に、アンチモン系触媒で製造されたアンチモン金属濃度200重量ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)(IV=0.65のもの)70重量部、PET及びポリエーテルに対して表1に示す投入触媒量となる三酸化アンチモン、及び酸化防止剤(チバ・スペシャリティーケミカルズ製のイルガノックス1010)0.2重量部、以下で説明するビスオール18ENであるポリエーテル30重量部を仕込んだ後、270℃で2時間保持した後、真空ポンプで減圧し、1torr、3時間保持後とりだした。このようにして、ポリエステル−ポリエーテル共重合体として、その共重合体を100重量%に対して表1のアンチモン金属濃度のポリエステル−ポリエーテル1〜3を製造した。
【0073】
前記ビスオール18ENは、前記一般式2の構造における(m+n)の数平均が18のものである。
【0074】
なお、このリエステル−ポリエーテル1〜3はその共重合体100重量%に対して0.2重量%のフェノール系安定剤(イルガノックス1010)を含む。
【0075】
【表1】

【0076】
(ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体)
ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体(MB)としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを乳化剤として乳化重合のみで重合したブタジエンゴムに、グラフト成分としてメチルメタクリレート(MMA)にブチルアクリレート(BA)を添加した混合モノマーをドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム乳化剤の下、乳化グラフト重合した体積平均粒子径が180nmのグラフト共重合体を用いた。なお、このグラフト共重合体はその共重合体100重量%中に3重量%のフェノール系安定剤を含む。
【0077】
(ブタジエンアクリルゴム含有グラフト共重合体)
ゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体、即ち、本発明に係るブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体(BM)でないコア/シェル型グラフト共重合体として、乳化重合法により、ブチルアクリレート67%およびブタジエン33%からなる平均粒子径0.15μmのゴム状弾性体60部に、アクリロニトリル20%、メチルメタクリレート30%およびスチレン50%からなる混合物40部をグラフト共重合させたコア/シェル型グラフト共重合体を用いた。
【0078】
(フェノール系安定剤)
フェノール系安定剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナートである、チバ・スペシャリティーケミカルズ製イルガノックス1010(登録商標)を用いた。
【0079】
(その他の安定剤)
その他の安定剤として、ホスファイト系安定剤である、旭電化工業株式会社製のPEP−36を用いた。
【0080】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
実施例1〜5、及び比較例1〜3として、表2に示す乾燥した原料を、表2に示す割合で予備混合し、それぞれ280℃で2軸押出機を用いて溶融混練し、ペレットを各樹脂組成物サンプルとして製造した。
【0081】
また、得られた各樹脂組成物サンプルを用いて、日精樹脂工業株式会社製射出成形機FN−1000を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃にて試験片サンプルを作製し、上記方法により評価した。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2に示されるとおり、本発明の樹脂組成物によれば、成形性・耐熱性・耐衝撃性・外観のバランスが優れた樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂50〜100重量部、ポリエステル樹脂5〜20重量部、ポリエステル−ポリエーテル共重合体10〜50重量部、ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体0.5〜40重量部、及びフェノール系安定剤0.3〜3重量部を含むポリカーボネート系樹脂組成物であって、その組成物の平均アンチモン金属濃度が100ppm以下である、ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂組成物であって、前記アンチモン金属濃度が10ppm以上であるポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ブタジエンゴム含有メチルメタクリレートグラフト共重合体が、アルキルベンゼンスルホン酸塩を乳化剤として乳化重合されてなり、かつ、体積平均粒子径が150〜200nmである、請求項1、又は2に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体が、芳香族ポリエステル単位95〜45重量%と変性ポリエーテル単位5〜55重量%からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性ポリエーテル単位が、下記一般式1で表される変性ポリエーテル単位である、請求項4に記載
のポリカーボネート系樹脂組成物。
【化4】

(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、R9、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、18≦m+n≦50である。)
【請求項6】
前記芳香族ポリエステル単位が、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレプタレート単位、及びポリプロピレンテレフタレート単位からなる群から選ばれる1種以上である、請求項4、又は5に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂が、フタル酸系ポリエステル樹脂である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート系樹脂組成物の射出成形体。

【公開番号】特開2011−231280(P2011−231280A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105131(P2010−105131)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】