説明

ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む食品

【課題】 従来のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの界面活性能を飛躍的に向上させ、風味が良好で、また、低pH、塩、加熱あるいはアルコールに対する乳化安定性が改善されたポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有するW/O乳化食品、分散食品、二重乳化食品などの加工食品を提供することにある。
【解決手段】ポリグリセリン組成中のトリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が60重量%以上であり、且つ、トリグリセリンおよびテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンと、縮合度が3〜10の縮合リシノール酸とから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする食品をいう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリグリセリン組成を有するポリグリセリンと特定の縮合度を有する縮合リシノール酸とから成るポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有する加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、ポリグリセリンとリシノール酸を縮合した縮合リシノール酸とをエステル化反応することによって得られ、W/O乳化能や水溶性成分の油脂中への分散性に優れ、加工食品の品質改良剤として広く利用されている。
【0003】
ポリグリセリン縮合リシノール酸の原料として用いられるポリグリセリンは、一般的には、グリセリンに触媒として少量のアルカリまたは酸を添加し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下で、200℃以上の高温に加熱し、生成する水を除去しながら、逐次的な分子間脱水反応により重縮合させる方法によって得られる。
【0004】
そのため、ポリグリセリンの反応組成物は均質なものではなく、重合度1から10程度までの異なるポリグリセリン重合物および環状ポリグリセリン成分の混合物で、重合度分布の広いものである。したがって、ポリグリセリン中のポリグリセリン組成は、各々のポリグリセリン成分の含量が低く、高いものでも20%程度に過ぎないものであった。
【0005】
一般的に、トリグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリンなどに表現されるポリグリセリンの名称は、末端基分析法によるポリグリセリンの水酸基価から算出される平均重合度(n)から決定されており、実際の成分を示すものではない。
【0006】
これらのポリグリセリンから成るポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを配合した加工食品において、乳化、均質化、殺菌、冷却などの各工程や流通過程において乳化破壊が発生する場合がある。さらに、加工食品の中には、酸性食品、高塩濃度食品、アルコールを含有した食品が多く、従来のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを配合した場合、安定性は充分とは言えず、添加量を多くして安定性を向上させると、加工食品の本来の風味を損なう問題もあった。
【0007】
そこで、たとえば、特許文献1では、ポリグリセロール混合物(組成;グリセロール:5〜35重量%、ジグリセロール:15〜40重量%、トリグリセロール:10〜30重量%、テトラグリセロール:8〜20重量%、ペンタグリセロール:3〜10重量%、オリゴグリセロール:100重量%まで)と、2〜10の自動縮合度を有するポリリシノール酸から構成されるポリグリセロールポリリシノレエートを用いることでW/O乳化力が改善されることを見出している。しかしながら、上記ポリグリセロールポリリシノレエートでは、安定なW/O乳化物を調製するのは極めて困難である。
【0008】
さらに、特許文献2では、ポリグリセリン組成中のペンタグリセリンの含量が42%以上である縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを分散食品に使用した場合、添加量も少なく、安定したW/O型乳化食品、二重乳化食品を作れることを見出している。しかしながら、上記縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを製造しようとする場合、副生成物として環状物が多量に含有されるものとなり、安定に製造できる分散食品が限定されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平9−510393号公報
【特許文献2】特許第3877396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの界面活性能を飛躍的に向上させ、加工食品を製造する際に必要とされる耐熱性、耐酸性、耐塩性、耐アルコール性に優れ、乳化力および分散力が改善されたポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含有するW/O乳化食品、分散食品、二重乳化食品などの加工食品を提供することにある。さらに、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの性能が飛躍的に向上しているため、添加量が少なくて済むことから、風味が良好な加工食品を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が60重量%以上であるポリグリセリンと、縮合度が3〜10の縮合リシノール酸とから成るポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを用いることによって、上記の課題を解決することを見出し、より優れた機能のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを提供できることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルをW/O乳化食品、W/O/W乳化食品などの乳化剤として、また、チョコレートの粘度低下剤として加工食品に配合することにより、加熱、酸性、高塩濃度、アルコールに対する乳化・分散安定性を改善することができる。また、風味が良好な加工食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルに用いられるポリグリセリンは、グリセリンの脱水縮合反応、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリセリンハロヒドリンなどのグリセリン類縁物質を用いての合成、あるいは合成グリセリンのグリセリン蒸留残分から回収などによって得られるが、一般的には、グリセリンに少量のアルカリ触媒を加えて200℃以上の高温に加熱し、生成する水を除去しながら重縮合させる方法によって得られる。反応は逐次的な分子間脱水反応により、順次高重合体が生成するが、反応組成物は均一なものではなく、未反応グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンなどの複雑な混合組成物となり、反応温度が高いほど、あるいは反応時間が長いほど反応物は高重合度側にシフトする。また、未反応のグリセリンは減圧蒸留による蒸留が可能であり、ジグリセリンは分子蒸留による蒸留が可能であるため、一般的にはジグリセリンは高純度品が使用され、それ以上の重合度のポリグリセリンは、複雑な多成分の混合物や、グリセリン、ジグリセリンを蒸留した残分が使用される。
【0014】
本発明で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルに用いられるポリグリセリンは、ポリグリセリン組成中のトリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が60重量%以上であり、好ましくは65重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。60重量%未満のポリグリセリンを用いた場合では、分子量分布の広いポリグリセリン縮合リシノール酸となり、乳化安定性や長期保存安定性が低下する。さらに、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの添加量を多くしなければならず、風味を悪くするため、好適な加工食品を製造することが困難となる。
【0015】
さらに、本発明で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルに用いられるポリグリセリンは、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が60重量%以上のポリグリセリンについて、トリグリセリンおよびテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であり、さらに好ましくは20重量%〜70重量%である。これらの下限範囲を外れる組成の場合では、前記同様にポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの分子量分布が広くなることにより、乳化・分散安定性が低下する。また、上限範囲を外れる組成のポリグリセリンの場合、これを製造するには複数の蒸留工程が必要となるため、非常に不経済なものとなる。
【0016】
さらに、本発明で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルに用いられるポリグリセリンは、好ましくは、実質的にグリセリンを全く含まず、かつ、ジグリセリン濃度が10重量%未満、より好ましくはジグリセリン濃度が5重量%未満である。これらの範囲を外れる組成の場合では、前記同様にポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの分子量分布が広くなることにより、著しく乳化・分散安定性が低下し、風味に影響を及ぼさずに加工食品を製造することが困難となる。
【0017】
ポリグリセリンの組成分析は、トリメチルシリル化を行い、ポリグリセリンを誘導体化し、その上でGC法(ガクスロマトグラフィー)にて分離定量を行い面積法にて求めることができる。一例として、ポリグリセリン試料を約0.03g精秤し、TMS−HT(試薬;東京化成工業)を約0.3mL添加し、80℃以上で約5分間加熱反応させ、上清から2μLを下記の分析に供することで判定される。
【0018】
ガスクロマトグラフ:GC−14B(島津製作所製)
カラム:OV−1(GLサイエンス製、内径3mm、長さ1.5m)
オーブン温度:100℃〜350℃(昇温速度10℃/min)
キャリアーガス:窒素(50mL/min)
注入部温度:350℃
検出器温度:350℃
検出器:FID
【0019】
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの原料として用いられる縮合リシノール酸は、リシノール酸の分子内脱水縮合反応によって公知の方法で得ることができる。本発明で使用される縮合リシノール酸の縮合度としては、3〜10、好ましくは4〜8、より好ましくは4〜6である。縮合度が3未満の場合では、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしたときの性能が充分に発揮されない。また、縮合度が10以上の場合では、縮合反応にかかる時間が非常に長時間となり、不経済なものとなる。
【0020】
本発明で使用されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、ポリグリセリンと縮合リシノール酸との、従来公知のエステル化反応によって得られる。ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルのエステル化率は10%〜90%であることが好ましく、より好ましくは15%〜60%である。
【0021】
エステル化率とは、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加している脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。また、水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油脂化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。また、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、次式(式1)および(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0022】
本発明のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは乳化剤としての乳化、可溶化、分散性能に優れているため、これを単独で用いることが可能である。この場合、配合する対象物により添加量は異なるが、一般的に0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.1〜1重量%の範囲の添加量で使用される。また、他の種々の乳化剤と併用した場合には、他の乳化剤の使用量とともに配合する乳化剤全体の総量を減らすことができる。
【0023】
以下に本発明の実施例を挙げてその効果を詳説するが、これは例示であって発明範囲の限定を意味するものではない。
【実施例】
【0024】
〔ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの製造例〕
温度計、撹拌装置を付した四ツ口フラスコに精製グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)、および触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて250℃で反応させ、ポリグリセリン組成物を得た。次いで、この組成物を減圧蒸留し、イオン交換樹脂を使用し脱塩処理を行い、表1の実施例1〜5に示す5種の精製ポリグリセリンを得た。
【0025】
温度計、撹拌装置を付した四ツ口フラスコにリシノール酸および触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて200℃で反応し、縮合度4.0、5.0、6.0および8.0の縮合リシノール酸を得た。
【0026】
これに、精製ポリグリセリンを加え、窒素気流下にて200℃で反応して表1の実施例1〜5に示したポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを得た。
【0027】
温度計、撹拌装置を付した四ツ口フラスコに精製グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)、および触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて250℃で反応させ、ポリグリセリン組成物を得た。次いで、この組成物を、イオン交換樹脂を使用し脱塩処理を行い、表1の比較例1〜4に示す4種の精製ポリグリセリンを得た。
【0028】
温度計、撹拌装置を付した四ツ口フラスコにリシノール酸および触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて200℃で反応し、比較例1〜4に示した縮合度2.0、3.0、4.0および6.0の縮合リシノール酸を得た。
【0029】
これに、精製ポリグリセリンを加え、窒素気流下にて200℃で反応して表1の比較例1〜4に示したポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを得た。
【0030】
【表1】

【0031】
〔試験例1〕
パーム油IV52/PMF/大豆サラダ油を5/3/2の割合で配合した調合油150gにβ−カロテン0.0015g、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを1g添加して80℃で溶融混合し、油相を調製した。水相は、イオン交換水330g、カゼインナトリウム5g、食塩5g、増粘剤を10g入れて溶解し、80℃に調温した。
SUS製ジョッキに油相を入れ、乳化機を用いて4,500rpmで30秒間撹拌後、回転速度を7,000rpmに上げ、水相を全量滴下した。さらに、回転数を15,000rpmにし、3分間の乳化を行った。その後、氷水浴中にて、乳化物の内温が25℃になるまで冷却し、ファットスプレッドを調製した。
【0032】
実施例1〜5、比較例1〜4のポリグリセリン縮合リシノール酸を用いて得たファットスプレッドを40℃で7日間保存し、油滴の有無や油相もしくは水相の分離について観察した。この結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

油水の分離がない ;○
油水の分離が5%未満 ;△
油水の分離が5%以上 ;×
【0034】
結果より、実施例1〜5は、比較例1〜4に比べて、乳化安定性が向上していることが確認された。
【0035】
実施例1〜5、比較例1〜4のポリグリセリン縮合リシノール酸を用いて得たファットスプレッドを5℃にて保存し、一定荷重をかけた後の油滴や離水の有無を14日保存後まで確認した。なお、ファットスプレッドが明らかに分離しているなど安定な状態でない場合には、評価は行わなかった。この結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

油水分離なし ;○
微小な油水分離あり ;△
油水分離あり ;×
実施せず ;―
【0037】
結果より、実施例1〜5は、比較例1〜4に比べて、分散安定性が向上していることが確認された。
【0038】
〔試験例2〕
ステンレス製ボウルにチョコレートと、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが0.3%(w/w)になるように量り入れ、ゴムベラで均一になるよう充分撹拌し、ガラス製の容器に入れた。これを、40℃で30分調温後、BH型粘度計(株式会社東京計器製)を用いて、5分後の数値を読み取り、見掛け粘度を測定した。
【0039】
実施例1〜5、比較例1〜4のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを添加したチョコレートの見掛け粘度を、無添加のチョコレートの見掛け粘度を100%とした場合の相対粘度として、表4に示した。
【0040】
【表4】

【0041】
結果より、実施例1〜5は、比較例1〜4に比べ、チョコレートの粘度が著しく低下していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が60重量%以上であるポリグリセリンと、縮合度が3〜10の縮合リシノール酸とから成るポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む食品。
【請求項2】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が60重量%以上であり、且つトリグリセリンおよびテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンから構成されることを特徴とする請求項1記載のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む食品。
【請求項3】
ポリグリセリンを構成するジグリセリン濃度が10重量%未満であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む食品。

【公開番号】特開2012−95561(P2012−95561A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244309(P2010−244309)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】