説明

ポリケトン不織布及びポリケトン繊維フィブリル状物

【課題】高強度、高弾性、寸法安定性、耐薬品性、耐熱性、接着性、電気絶縁性に優れ、かつ、低吸水性である厚さの薄い多孔性の均一な脂肪族ポリケトン不織布を提供する
【解決手段】本発明は、下記(1)で示される繰り返し単位からなる脂肪族ポリケトン繊維および/または水分散液のろ水度が20°SR〜60°SRである脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物からなる、坪量が5〜30g/m2であり、厚さが7〜100μmであるポリケトン不織布において、密度が0.3g/cm3〜0.7g/cm3であり、平滑度が40秒〜300秒であることを特徴とするポリケトン不織布である。
−CH−CH−CO− (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を用いた湿式のポリケトン不織布、脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、プリント配線板用積層基板の芯材、電池、コンデンサー、電気二重層キャパシタなどの電極を隔離するセパレータとして用いられる、高強度、高弾性、寸法安定性、耐薬品性、耐熱性、接着性、電気絶縁性に優れ、かつ低吸水性であり、厚さの薄い平滑性に優れた均一な脂肪族ポリケトン不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線基板の芯材、電池、コンデンサー、電気二重層キャパシタの両極を隔離するセパレーターとしてセルロース繊維や合成繊維からなる不織布が用いられているが、近年プリント配線基板では配線の高密度化にともない芯材の薄膜化、積層化が要望され、電池やコンデンサーについても小型化、大容量化にともないそれらのセパレーターについても薄膜化が要望されている。
【0003】
たとえば、プリント配線基板においては特許文献1で芳香族ポリアミド繊維を用いた不織布が開示され、力学的強度、寸法安定性、耐熱性などに優れるので、多層プリント配線基板用芯材などに使用されている。しかし、芳香族ポリアミド繊維は吸水性が高く、高温処理すると吸水された水が脱着してプリント配線基板の膨れなど起こすので、改良が要望されている。また電池や電気二重層キャパシタのセパレーターとしては、特許文献2ではフィブリル化したセルロース繊維からなるシートが、また特許文献3ではポリエチレン、ポリプロピレン等の不織布があるが、セルロース繊維からなるシートでは、吸水性が問題となり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の不織布はシートが厚く、薄くすると分散ムラが問題となる。
【0004】
ポリケトン繊維を用いたシート状物は特許文献4で開示され、低吸水で剛性、耐薬品性、力学的強度、寸法安定性、耐熱性、接着性などに優れた100μm〜10mmのシート状構造体材料を提供するとしている。しかし、シートを薄くするためには繊維を微細化する必要があり、同特許文献4ではポリケトン繊維がフィブリル化しにくいので、微細繊維を得るために機械的シェアをかけて破砕する方法を記載しているが、破砕の際に繊維が絡まるため十分な分散が得られなくなり、プリント配線基板においては芯材のムラ、電池及び電気二重層キャパシタなどのセパレーターにおいてもムラ等が生じ、問題がある。
【特許文献1】特許第3138215号公報
【特許文献2】特開平10−140493号広報
【特許文献3】特開平10−172533号広報
【特許文献4】特開2001−207335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来技術に見られる上記問題点を解決するものである。即ち本発明の目的は、高強度、高弾性、寸法安定性、耐薬品性、耐熱性、接着性、電気絶縁性に優れ、かつ、低吸水性であり、厚さの薄い平滑性に優れた均一な脂肪族ポリケトン不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため、耐薬品性、耐熱性、寸法安定性、接着性、電気絶縁性に優れ、かつ、低吸水性である脂肪族ポリケトン繊維に着目し、繊維の微細化と均一なシート形成について鋭意検討した結果、厚さの薄い平滑性に優れた均一な脂肪族ポリケトン不織布を実現できることを見出し本発明に至ったものである。
すなわち、本発明の第1は、下記(1)で示される繰り返し単位からなり、水分散液のろ水度が25°SR〜60°SRであることを特徴とする脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物である。
−CH−CH−CO− (1)
【0007】
発明の第2は発明の第1の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含有し、坪量5〜30g/m2、厚さが7〜100μmであり、密度が0.3g/cm3〜0.7g/cm3であり、平滑度が40秒〜300秒であることを特徴とするポリケトン不織布である。
本発明の第3は、透気抵抗度が1.5秒〜50秒であることを特徴とするポリケトン不織布である。
本発明の第4は、繊維長1mm〜7mmの脂肪族ポリケトン短繊維をろ水度12°SR〜18°SRに予備破砕した後、ろ水度20°SR〜60°SRに破砕処理することを特徴とする脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物の製造方法である。
本発明の第5は、予備破砕を叩解機で処理することを特徴とする脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物の製造方法である。
本発明の第6は、破砕処理を高圧ホモジナイザーですることを特徴とする脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリケトン不織布は、高強度、高弾性、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、低吸水性、電気絶縁性、接着性に優れた厚さの薄い平滑性に優れた均一な脂肪族ポリケトン不織布を提供するものであり、プリント配線基板芯材などのムラが無く薄い、また、電池、コンデンサー及び電気二重層キャパシタなどにおいてはセパレーターの地合が均一で薄い、従来に無い特徴を持った効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明は微細繊維化した脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含有した湿式のポリケトン不織布であり、脂肪族ポリケトン繊維が融点付近で急激に軟化し変形する性質を利用し、脂肪族ポリケトン繊維同士が熱融着して強度を発現することを特徴とする。したがって、薄くて、多孔性であっても平滑性に優れ均一で強靭な不織布にすることができる。
本発明に用いる脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物は水分散液のろ水度が20°SR〜60°SRであることが好ましい。ろ水度はJIS−P8121によるショッパーろ水度試験機を用い、繊維濃度を0.2質量%(絶乾量に対し)となるように水に希釈し、2回測定した平均値とした。
【0010】
本発明に用いる脂肪族ポリケトン繊維は叩解機、好ましくはビーター又はレファイナーでの予備破砕前に繊維長を1mm〜7mmにカットすることにより均一な破砕を行うことができるため好ましい。また、高圧ホモジナイザーで繊維詰まりの発生を防止するため、叩解機、好ましくはビーター又はレファイナーによりろ水度を12°SR〜18°SR、好ましくは12°SR〜15°SRに予備破砕することが好ましい。叩解機で予備破砕処理する際の濃度は、ビーターでは0.5質量%〜2質量%、レファイナーでは0.5質量%〜10質量%が好ましい、この範囲で処理することにより叩解機への繊維詰まりの発生を防ぎ、繊維の潰れが無く効率的な処理が可能である。叩解機による破砕時の破砕強度、時間、処理回数については破砕後の繊維のろ水度が12°SR〜18°SRの範囲となるように適宜調整することができる。また消泡剤、分散剤を適宜添加することで叩解機で破砕を効率よくすることができるので好ましい。
【0011】
本発明のポリケトン繊維を高圧ホモジナイザーで破砕する際は繊維つまりの発生を防ぎ効率的な処理を行うために濃度は0.1質量%〜2質量%とすることが好ましい。高圧ホモジナイザーの処理圧力は50MPa〜150MPaが好ましく、繊維径の極めて小さいフィブリルを得るため、ろ水度20°SR〜60°SRとなるように処理回数を適宜調整することが好ましい。より好ましくは水度20°SR〜50°SR、さらに好ましくは水度25°SR〜50°SRである。これらの破砕処理によって得られる脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物は繊維の絡まりによる凝集物が無く、平滑で均一な不織布を作ることが可能となる。
【0012】
本発明の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含むポリケトン不織布は坪量5〜30g/m2であることが好ましい。この範囲の坪量とすることで薄くても強度があり、通気性も良好な不織布が得られる。また、ポリケトン不織布の厚さは7〜100μmであることが好ましい。良好な通気性、液浸透性を得られ、かつ強度を得るために、不織布の密度を0.3g/cm3〜0.7g/cm3とすることが好ましい。本発明のポリケトン不織布の平滑度を40秒〜300秒とすることで強度ムラが無く、均一なシートができるので好ましい。平滑度はより好ましくは40秒〜200秒である。平滑度はJIS−P8119にあるベック平滑度試験機による平滑度試験方法を用い不織布の表裏それぞれ各5回測定の平均値とした。
【0013】
本発明の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物からなる不織布の透気抵抗度を1.5秒〜50秒とすることでプリント基板用途として良好な樹脂含浸を行うことが出来、セパレーター用途として電解液の浸透性が良好となるため好ましい。透気抵抗度はより好ましくは1.5秒〜40秒である。透気抵抗度はJIS−P8117にあるガーレー試験機法による透気度試験方法を用い5回の測定の平均値とした。
【0014】
本発明に用いる脂肪族ポリケトン繊維は下記(1)で示される繰り返し単位が90モル%以上からなる構造を有する。90モル%以上であると高強度、高弾性を得ることができ、耐熱性にも優れる。また、該繊維の結晶化度は30%以上が好ましい。30%以上であると高強度、高弾性を発現する。ポリケトン繊維の製法としては亜鉛塩、カルシウム塩、イソシアネート塩などを用いたポリケトン水溶液から湿式紡糸法で得たうえで、熱延伸して製造したポリケトン繊維が高強度、高弾性を有しており好ましい。
−CH−CH−CO− (1)
【0015】
本発明の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含むポリケトン不織布は湿式抄造法で作製することができる。脂肪族ポリケトン繊維および/または脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を離解機で水に均一に分散した後、円網抄紙機、長網抄紙機、または傾斜短網抄紙機、あるいはそれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などで抄造し、網上に該繊維が平面状に均一に分散した紙層を形成する。抄紙時の添加剤としてポリアクリルアミドやポリエチレンオキサイド等の粘剤や水溶性エポキシ樹脂やエポキシ変性ポリアミド等の紙力増強剤を添加することができる。また消泡剤や分散剤も適宜添加することにより抄紙の作業性を高めることができる。本発明の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含むポリケトン不織布は抄紙後ドラムドライヤー、ヤンキードライヤー、熱風ドライヤーなどの乾燥機で十分乾燥した後、熱ロールプレスなどで繊維同士を融着することにより紙の最終強度を発現させることができる。
【0016】
脂肪族ポリケトン繊維同士の全部または一部を熱融着させるためにはポリケトン繊維の融点温度の−40℃〜+40℃で熱プレスすることが好ましい。融点温度の−40℃以上でポリケトン繊維が熱融着する。また、融点温度の+40℃以下では溶融、焼け付きを起こさず好ましい。熱プレス時のプレス線圧は公知の範囲で実施することができるが、厚さをコントロールするために1〜200kN/mが好ましい。
【0017】
本発明の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含むポリケトン不織布は熱プレスでの強度発現後、酸、アルカリ、有機溶剤等により洗浄処理することができる。
本発明の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含むポリケトン不織布は熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂などの高分子樹脂を含浸または塗布して強度をさらに高めたり、加工性や別の機能を不織布に付与することができる。
【実施例】
【0018】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。不織布の構成要件および特性測定結果を表1に示す。
【0019】
[実施例1]
平均繊維径10μm、繊維長3mmの脂肪族ポリケトン短繊維100質量%に消泡剤を添加し、高速離解機で水分散して繊維分散液を調整した。この繊維分散液の濃度0.5質量%としてビーターを用いてろ水度が13°SRとなるまで予備破砕した。さらに高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)で圧力100MPaで処理を行い、ろ水度39°SRとなるまで破砕し脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を得た。このようにして得られた脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物に粘剤を添加し、抄紙直前で真空脱気を行い、100メッシュの抄紙網を備えた円網抄紙機で坪量10g/m2となるように抄紙し表面温度130℃のヤンキードライヤーで乾燥後、表面温度250℃の熱プレスロールで熱プレス線圧20kN/mで熱プレスを行い、厚さ22μmの不織布を得た。
このようにして作製した不織布の平滑度は80秒であり、透気抵抗度は20秒であった。
【0020】
また、該不織布は230℃に3時間保存しても黄変することなく、また寸法変化することなく一定で、耐熱性、寸法安定性は良好であった。また、40%硫酸、40%苛性ソーダ水溶液、およびヘキサンに室温で1日浸漬しても変化は無く、耐薬品性も良好であった。さらに、該不織布を温度23℃、相対湿度80%下に3日間保存しても、吸水率は1質量%未満で、低吸水性であった。また、概不織布をJIS−k−2238に規定するマシン油ISOVG10に含浸した後、表面の余分な油を拭き取り半透明膜を得た。この半透明膜を用いてマシン油含浸ムラを目視で評価した。含浸ムラが無く均一な半透明膜が得られたものを○、部分的に含浸ムラがあり半透明膜に斑点状の曇りがあるものを△、部分的に含浸ムラがあり繊維凝集部分が見られるものを×とした。次に半透明膜を5枚重ね合わせ、プレス後の密着度を目視で評価した。密着性が良く半透明膜間に空隙が無いものを○、密着性が不十分で空隙部がわずかに見られるものを△、密着性が悪く多数の空隙部が見られるものを×とした。結果を表1に記載した。
【0021】
[実施例2〜4]
実施例1と同様の製造方法を用いて脂肪族ポリケトン繊維フィブリル化物の不織布を得た。製造方法中の条件の異なる部分については表1に記載した。
【0022】
[比較例1]
平均繊維径10μm、繊維長3mmの脂肪族ポリケトン短繊維100質量%に消泡剤を添加し、高速離解機で水分散し繊維分散液を調整した。この繊維分散液の濃度0.5質量%としてビーターを用いてろ水度が10°SRとなるまで予備破砕し、ポリケトン繊維フィブリル状物を得た。さらに高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)で圧力100MPaで処理を試みたが繊維詰まりにより処理できなかった。そこで、予備破砕した脂肪族ポリケトン繊維フィブリル状物に粘剤を添加し、抄紙直前で真空脱気を行い、100メッシュの抄紙網を備えた円網抄紙機で坪量35g/m2となるように抄紙し表面温度130℃のヤンキードライヤーで乾燥後、表面温度260℃の熱プレスロールで熱プレス線圧20kN/mで熱プレスを行い厚さ137μmの不織布を得た。このようにして作製した不織布の平滑度は2秒であり、透気抵抗度は1秒未満であった。
【0023】
[比較例2〜4]
比較例1と同様の製造方法を用いて、表1に示す脂肪族ポリケトン繊維を用いた不織布を得た。製造方法中の条件の異なる部分については表1に記載した。
実施例1〜4および比較例1〜4で作製した不織布を評価比較した。結果を表1に示した。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のポリケトン不織布は、プリント配線基板用芯材、アルミ電解コンデンサー、あるいは電気二重層キャパシタなどのコンデンサー用電極セパレーターまたはセパレーター芯材、燃料電池、リチウムイオン電池、ニッケル−水素電池など電池用の電極セパレーターまたはセパレーター芯材、イオン交換膜用芯材などの用途で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)で示される繰り返し単位からなり、水分散液のろ水度が20°SR〜60°SRであることを特徴とする脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物。
−CH−CH−CO− (1)
【請求項2】
請求項1記載の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物を含有し、坪量5〜30g/ m2、厚さが7〜100μmであり、密度が0.3g/cm3〜0.7g/cm3であり、平滑度が40秒〜300秒であることを特徴とするポリケトン不織布。
【請求項3】
透気抵抗度が1.5秒〜50秒であることを特徴とする請求項2に記載のポリケトン不織布。
【請求項4】
繊維長1mm〜7mmの脂肪族ポリケトン短繊維の水分散液をろ水度12°SR〜18°SRに予備破砕した後、ろ水度20°SR〜60°SRに破砕処理することを特徴とする請求項2に記載の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物の製造方法。
【請求項5】
予備破砕を叩解機で処理することを特徴とする請求項4に記載の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物の製造方法。
【請求項6】
破砕処理を高圧ホモジナイザーですることを特徴とする請求項4に記載の脂肪族ポリケトン繊維のフィブリル状物の製造方法。

【公開番号】特開2006−342474(P2006−342474A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171536(P2005−171536)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】