説明

ポリシラザン含有コーティング液

次式
【化1】


で表される繰り返し単位を有しかつ溶剤中に可溶な無機もしくは有機ポリシラザン0.1〜35重量%、及び4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)などの触媒をポリシラザン純分に対して0.1〜10重量%含むコーティング液。金属、プラスチック、ガラス、セラミック、木、セメント、モルタル、煉瓦などの基材表面に該コーティング液を塗布することによって、基材に強く付着し、かつ耐食性、耐擦傷性に優れると共に、さらに耐摩耗性、長期に渡る防汚性、水に対する濡れ性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、耐熱性、耐火性、帯電防止性などの特性にも優れたシリカ被膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、電車、航空機などの車体・ホイール、入れ歯、墓石、住宅内外装、トイレ、台所、洗面所、浴槽などの水まわり製品、看板、標識、プラスチック製品、ガラス製品など、種々の金属、プラスチック、木、セラミック、セメント、モルタル、煉瓦、粘土などの基材表面をコーティングすることにより、耐食性、耐擦傷性、耐摩耗性、水に対する濡れ性、汚れ除去性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、耐熱性、耐火性、帯電防止性、防汚性などの特性に優れた被膜を形成することのできるコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物品の表面の汚染を防止するために各種の対策が講ぜられている。例えば、自動車車体は、塵埃や排気ガスなどの燃焼生成物等により汚れやすく、このため自動車車体にワックスを塗布し、車体表面にワックス被膜を形成して車体の汚染を防止している。これは、車体表面を撥水性とすることにより、車体表面に水が接したとき水が水滴となって車体表面を転がり落ち、これにより水の中に存在する汚れ成分が車体表面に付着、残留することがなくなり、またワックス被膜により車体表面に汚れ成分が付着し難くなるとともに、付着した場合にも汚れ成分が水により除去され易くなるというものである。
【0003】
また、浴槽、台所のシンク、洗面台などの水まわり製品は、使用時、水の他に油、油性成分を含む石鹸液、洗顔クリーム、染髪剤等種々のものと接するが、これらのうち油性物質や石鹸のカルシウム塩である石鹸カスなどが埃などと共に表面に付着して汚れとなると考えられている。そこで、これら製品の汚れを防止するために、製品表面に形成されているガラス質をなす釉薬面を例えばワックス、フッ素含有材料などにより撥水処理加工し、汚れが釉薬面に残留しないようにすることもなされつつある。住宅内外装、トイレの便器、水まわり製品、看板、標識、墓石などにおいても、撥水処理を施すことにより汚れの付着を防止することが試みられている。
【0004】
一方、界面活性剤を基材表面に塗布することで表面を親水性に改質することは古くから知られており、界面活性剤にポリアクリル酸やポリビニルアルコールなどの水溶性有機高分子を添加・配合することで、親水性の持続性を上げることも知られている(例えば、特許文献1参照)。さらに、疎水性ポリマーよりなる多孔質膜の表面および内部にポリビニルアルコールと酢酸ビニルの共重合体の被覆を介して、セルロースやグリコール類およびグリセリンなどの親水性物質を被覆固定化する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭52−101680号公報
【特許文献2】特公平5−67330号公報
【0006】
しかしながら、従来の撥水性ワックスなどの撥水処理では、撥水効果が十分であるとまではいえないか、あるいは当初十分な撥水処理がなされたとしても、その効果は短期間でなくなり、長期かつ十分な防汚防止効果が発揮されるとまでは言えないものであった。さらに、従来の親水性コーティングは、一時的もしくは短時間の間だけ親水性を付与するのみであり、親水効果の十分な持続性は期待し難いばかりでなく、親水性被膜上で水膜が均一となり難く、透視像や反射像が歪み、上記製品等においては実用化において問題があった。
【0007】
更に、入れ歯の防汚および臭いの発生の防止に関しても、フッ素処理など種々検討がなされているが、一度の処理により、長期間に亘り充分な効果が得られるとまで言えるものではなかった。
【0008】
また、これと共に、耐食性、耐擦傷性、耐摩耗性、汚れ除去性、水に対する濡れ性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、低収縮性、UVバリヤ効果、平坦化効果、耐久性、耐熱性、耐火性、帯電防止性などの特性の優れた被膜を形成することのできるコーティング液も要望されており、特に耐食性、耐擦傷性の改善に関しては極めて強い要望がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、基体との密着性に優れ、塗布後強固で緻密な被膜を形成し、耐食性、耐擦傷性に優れ、しかも長期にわたり持続する親水効果及び防汚効果、耐摩耗性、汚れ除去性、耐擦傷性、耐食性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、低収縮性、UVバリヤ効果、平坦化効果、耐久性、耐熱性、耐火性、帯電防止性などの優れた特性を有する被膜を種々の基体表面に形成することができるコーティング液を提供することを目的とするものであり、これにより自動車車体、自動車ホイール、入れ歯、墓石、住宅内外装、トイレ、台所、洗面所、浴槽などの水を使う個所で用いる水まわり製品、便器、看板、標識、プラスチック製品、ガラス製品、セラミック製品、木製品など種々の製品、あるいは物品表面に耐食性、耐擦傷性をはじめとして上記種々の優れた効果を付与することができるものである。
【0010】
また、コーティング液が塗布される製品、物品などの基体の材質、設置状況、使用態様、コーティング液が塗布される際周囲の環境に対する配慮の必要性などが異なることにより、コーティング後の均一透明性などの外観性、乾燥性、臭い、安全性、基体へのダメージの少なさなどコーティング液に要求される特性が異なる。それゆえ、本発明の他の課題の一つは、各種使用用途に応じた適切なコーティング液を容易に調整することのできるコーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、以下の特徴を有するコーティング液に関する。
(1)Si−H結合を有するポリシラザン、希釈溶剤及び触媒を含有することを特徴とするコーティング液。
【0012】
(2)希釈溶剤として、石油溶剤、芳香族系もしくは環式脂肪族系溶剤、エーテル類、ハロゲン化炭化水素またはテルペン混合物、あるいはこれらの溶剤の混合物を用いることを特徴とする上記(1)記載のコーティング液。
【0013】
(3)希釈溶剤として、パラフィン系溶剤、ミネラルスピリット、パラフィン系溶剤、テルペン混合物またはエーテル類、あるいはこれらの混合物を用いることを特徴とする上記(1)に記載のコーティング液。
【0014】
(4)希釈溶剤として、ジブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ポリグリコールエーテルまたはテトラヒドロフラン、あるいはこれらの混合物を用いることを特徴とする上記(3)記載のコーティング液。
【0015】
(5)希釈溶剤に、さらにキシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンのうち1種または2種以上の溶剤が含まれることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載のコーティング液。
【0016】
(6)Si−H結合を有するポリシラザンの濃度が0.1〜35重量%であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のコーティング液。
【0017】
(7)Si−H結合を有するポリシラザンの濃度が0.5〜10重量%であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のコーティング液。
(8)触媒をSi−H結合を有するポリシラザン純分に対して0.01〜30重量%含むことを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載のコーティング液。
【0018】
(9)触媒が、N−ヘテロ環状化合物、有機もしくは無機酸、金属カルボン酸塩、アセチルアセトナ錯体、金属微粒子、過酸化物、メタルクロライドまたは有機金属化合物であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のコーティング液。
【0019】
(10)Si−H結合を有するポリシラザンが、SiHClと塩基とを反応させてSiHClのアダクツを形成させた後、該SiHClのアダクツとアンモニアとを反応させることにより合成される無機ポリシラザンであることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載のコーティング液。
【0020】
(11)Si−H結合を有するポリシラザンが、SiHClとCHSiHClと塩基とを反応させてSiHClおよびCHSiHClのアダクツを形成させた後、該SiHClおよびCHSiHClのアダクツとアンモニアとを反応させることにより合成されるポリシラザンであることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載のコーティング液。
(12) 製品もしくは物品の基材表面の耐食性、耐摩耗性、防汚性、汚れ除去性、水に対する濡れ性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、耐熱性、耐火性、低収縮性、UVバリヤ効果、平坦化効果、耐久性、帯電防止性及び耐擦傷性を向上させるために、上記(1)〜(11)のいずれかに記載のコーティング液を基材表面のコーティングに使用する方法。
(13) コーティング液が、プライマーと組み合わせて基材表面に適用されることを特徴とする上記(12)の使用方法。
(14) 該コーティング液の適用前に、表面がラッカー、ワニスもしくはペイントでコーティングされていることを特徴とする、上記(12)及び/または(13)の使用方法。
【本発明の好ましい態様】
【0021】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のコーティング液は、Si−H結合を有するポリシラザン、希釈溶剤及び触媒を必須の成分として含有するものである。本発明のコーティング液に用いられるSi−H結合を有するポリシラザンの内、無機ポリシラザンとしては、
【0022】
【化1】

【0023】
で表される繰り返し単位を有し、溶剤に可溶なものを挙げることができる。
【0024】
本発明において用いられる上記一般式で示される繰り返し単位を有し、溶剤に可溶な無機ポリシラザンは、従来知られた方法によって製造されたいずれのものであってもよい。
【0025】
上記一般式で示される繰り返し単位を有し、溶剤に可溶な無機ポリシラザンを製造する方法としては、上記したように従来知られた方法を含め任意の方法を採用すれば良い。このような方法の一つとして、例えば、一般式SiH(式中Xはハロゲン原子)で示されるジハロシランと塩基とを反応させてジハロシランのアダクツを形成させた後、該ジハロシランのアダクツとアンモニアとを反応させることにより合成する方法が挙げられる。一般にハロシランは酸性であり、塩基と反応してアダクツを形成することができる。このアダクツの形成速度及びアダクツとしての安定性は、ハロシランの酸性の強さと塩基性物質の塩基性の強さや立体因子等に依存するため、ハロシランの種類と塩基の種類を適宜選択することにより、安定で且つアンモニアとの反応により容易に無機ポリシラザンを製造することのできるアダクツを形成すればよい。この場合のアダクツの安定性は、必ずしも、アダクツとして単離できる程度の安定性を意味するものではなく、例えば、溶剤中で安定に存在する場合のみならず、実質的に反応中間体として機能するすべての場合を包含する。
【0026】
ハロシランとしては、その取り扱い性や反応性の観点から、一般式SiH(X=F、Cl、Br、又はI)で表されるジハロシランを選択することが好ましく、反応性及び原料価格等の観点から、特にジクロロシランを選択することが好ましい。
【0027】
アダクツを形成するために用いられる塩基は、ハロシランとアダクツを形成する反応以外の反応をしない塩基であればよく、例えば、ルイス塩基、3級アミン類(トリアルキルアミン)、ピリジン、ピリコン及びこれらの誘導体、立体障害性の基を有する2級アミン類、フォスフィン、アルシン及びこれらの誘導体等(例えば、トリメチルフォスフィン、ジメチルエチルフォスフィン、メチルジエチルフォスフィン、トリメチルアルシン、トリメチルスチルベン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、チオフェン、フラン、ジオキサン、セレノフェン等)が好ましいものとして挙げられ、特にピリジン及びピコリンが取扱上及び経済上から好ましい。使用する塩基の量は、特に厳密である必要はなく、アダクツ中のアミンを含めて、シランに対して化学量論的量、即ちアミン:シラン=2:1より過剰に存在することができる。なお、アダクツ生成反応は溶剤中で行われる。
【0028】
アダクツを経由する無機ポリシラザンの合成においては、上記アダクツとアンモニアとを不活性溶液中で反応させることにより無機ポリシラザンが形成されるが、その際のアンモニアの量はシランに対して過剰量であることができ、また反応条件としては、反応温度が通常−78℃〜100℃、好ましくは−40℃〜80℃であり、反応時間、反応圧力は特に制限されない。また、無機ポリシラザンの重合反応は不活性ガス雰囲気下に行うのが好ましく、不活性ガスとしては窒素又はアルゴンが好適である。
【0029】
本発明においては、無機ポリシラザンは、上記一般式で示される繰り返し単位を含む、溶剤に可溶性のものであればよいが、通常600〜3000の範囲の数平均分子量を有するものが好ましく用いられる。また、無機ポリシラザンは、コーティング液全重量に対して好ましくは0.1〜35重量%、特に0.5〜10重量%の量で用いられる。
【0030】
また、本発明のポリシラザンとして適したSi−H結合を有する有機ポリシラザンとして、ジハロシラン(好ましくはジクロロシラン)とRSiX(式中、R及びRは水素原子またはアルキル基(好ましくはメチル基)で両者が同時に水素原子となることはない、XはF、Cl、Br、又はIを表し、Clが好ましい。)と塩基を反応させ、各々のアダクツを形成させ、これらのアダクツとアンモニアとを反応させることにより合成されるポリシラザンを挙げることができる。アダクツを形成するための塩基、反応条件、アダクツとアンモニアとの反応条件は上記無機ポリシラザンを製造する際の塩基、条件と同様とすることができる。
【0031】
一方、本発明で用いられる触媒は、ポリシラザンを常温でシリカに転化させる機能を有するものであればよい。本発明の触媒として好ましいものの例としては、1−メチルピペラジン、1−メチルピペリジン、4,4’−トリメチレンジピペリジン、4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)、ジアザビシクロ−[2,2,2]オクタン、シス−2,6−ジメチルピペラジン、4−(4−メチルピペリジン)ピリジン、ピリジン、ジピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピペリジン、ルチジン、ピリミジン、ピリダジン、4,4’−トリメチレンジピリジン、2−(メチルアミノ)ピリジン、ピラジン、キノリン、キノキサリン、トリアジン、ピロール、3−ピロリン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、1−メチルピロリジンなどのN−ヘテロ環状化合物;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンなどのアミン類;更にDBU(1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]7−ウンデセン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]5−ノネン)、1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,4,7−トリアザシクロノナンなどが挙げられる。
【0032】
また、有機酸、無機酸、金属カルボン酸塩、アセチルアセトナ錯体、金属微粒子も好ましい触媒としてあげられる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、マレイン酸、ステアリン酸などが、また無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、過酸化水素、塩素酸、次亜塩素酸などが挙げられる。金属カルボン酸塩は、式:(RCOO)nM〔式中、Rは脂肪族基、または脂環族基で、炭素数1〜22のものを表し、MはNi、Ti、Pt、Rh、Co、Fe、Ru、Os、Pd、Ir、Alからなる群より選択された少なくとも1種の金属を表し、nはMの原子価である。〕で表わされる化合物である。金属カルボン酸塩は無水物でも水和物でもよい。アセチルアセトナ錯体は、アセチルアセトン(2,4−ペンタジオン)から酸解離により生じた陰イオンacacが金属原子に配位した錯体であり、一般的には、式(CHCOCHCOCH)nM〔式中、Mはn価の金属を表す。〕で表される。好適な金属Mとしては、例えば、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、ロジウムなどが挙げられる。金属微粒子としては、Au、Ag、Pd、Niが好ましく、特にAgが好ましい。金属微粒子の粒径は、0.5μmより小さいことが好ましく、0.1μm以下がより好ましく、0.05μmより小さいことがさらに好ましい。これら以外にも、過酸化物、メタルクロライド、フェロセン、ジルコノセンなどの有機金属化合物も用いることができる。これら触媒は、ポリシラザン純分に対して0.01〜30%、好ましくは0.1〜10%、特に好ましくは0.5〜7%の量で配合される。
【0033】
更に、本発明のコーティング液に用いられる希釈溶剤としては、Si−H結合を有するポリシラザン及び触媒を溶解することができるものであればいずれのものであってもよい。貯蔵安定性を考えた場合には、該ポリシラザン及び触媒に対して持続的な溶解力を有するものが好ましく、また、長期間の使用においても、シラン、水素、アンモニアなどのガスの発生がなく安定性のある溶剤であることが好ましい。本発明のコーティング液において用いられる希釈溶剤としては、ミネラルスピリットなどの石油溶剤、パラフィン系溶剤、芳香族系溶剤、環式脂肪族系溶剤、エーテル類、ハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これら溶剤あるいは溶剤の成分の例としては、パラフィン系溶剤あるいは溶剤成分としては、例えば、C8のオクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、C9のノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、C10のデカン、C11のn−ウンデカンなどが、芳香族系溶剤あるいは溶剤成分としては、例えば、C8のキシレン、C9のクメン、メシチレン、C10のナフタレン、テトラヒドロナフタレン、ブチルベンゼン、p−シメン、ジエチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、C11のペンチルベンゼンなどが、環式脂肪族系溶剤あるいは溶剤成分としては、例えば、C7のメチルシクロヘキサン、C8のエチルシクロヘキサン、C10のp−メンタン、α−ピネン、ジペンテン、デカリンなどが、エーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリグリコールエーテル、テトラヒドロフランなどが、ハロゲン化炭化水素としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの塩素化炭化水素類または対応するフッ素化、臭素化もしくはヨウ素化炭化水素、クロロベンゼンなどの塩素化芳香族化合物などが挙げられる。更に、テルペン混合物、例えばDepanol(R)を溶剤として使用することも有効であることが判明した。なお、これら各溶剤は、単に参考のために例示されたにすぎず、溶剤あるいは溶剤成分がこれら具体的に例示されたものに限定されるものではない。これら各溶剤あるいは溶剤成分は、単独で、あるいは混合物として用いられる。これら溶剤としては、ミネラルスピリット、パラフィン系溶剤、ジブチルエーテルが特に好ましいものとして挙げられる。
【0034】
本発明のコーティング液は、自動車車体、自動車ホイール、入れ歯、墓石、住宅内外装、トイレ、台所、洗面所、浴槽などの水を使う個所で用いる水まわり製品、便器、看板、標識、プラスチック製品、ガラス製品、セラミック製品、木製品などの製品、あるいは各種物品の表面に塗布されることにより、これら製品あるいは物品表面に緻密で親水性の被膜を形成することができる。本発明のコーティング液が適用される基材としては、必要に応じ酸化膜、メッキなどが形成された鉄、スチール、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、コバルト、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、ボロン、スズ、鉛もしくはマンガン、またはこれらの合金などの金属、あるいはポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリウレタン、PETなどのポリエステル、ポリアリルジグリコールカーボネート(PADC)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリチオシアネート、POM、ポリテトラフルオロエチレンなどの種々のプラスチックなどの幅広い様々な材料が挙げられる。この際、必要に応じて、上記基材に対する付着性を高めるためにプライマーが併用される。このようなプライマーは、数例挙げれば、例えばシラン、シロキサン、シラザンなどである。本発明のコーティング液を適用できる更に別の基材としては、ガラス、木、セラミック、コンクリート、モルタル、煉瓦、粘土、繊維などが挙げられる。これら基材は、必要であれば、ポリウレタンラッカー、アクリルラッカー、ディスパージョンペイントなどのラッカー類、ワニス類、ペイント類などで被覆されたものであってもよい。
【0035】
これら本発明のコーティング液を塗布する方法としては、液体の塗布法として知られた方法であればいずれのものでもよい。具体的には、例えば、布拭き法、スポンジ拭き法、スプレーコート、フローコート、ローラーコート、ディップコート等の方法が挙げられるが、塗布法がこれら具体的に例示したものに限定されるものではない。本発明のコーティング液を塗布する方法として好ましい方法は、コーティング液が適用される製品の形状、大きさ、量など種々の条件により異なり、例えば、自動車の車体や墓石などの場合は、布拭き法、スポンジ拭き法、スプレー法が施工上の観点から好ましく、また、住宅内外装などの場合は、ローラーコート、スプレーコ−トが好ましい。入れ歯の場合には、スプレーコート、ディップコートが好ましい。コーティング液の塗布量は、乾燥後の膜厚で約0.1〜2ミクロン程度の被膜が形成されるような量が好ましい。
【0036】
本発明のコーティング液を塗布することにより、製品表面に緻密な被膜が形成され、これにより製品あるいは物品の基体表面に、耐食性、耐摩耗性、防汚性、汚れ除去性、水に対する濡れ性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、耐熱性、耐火性、低収縮性、UVバリヤ効果、平坦化効果、耐久性、帯電防止性、耐擦傷性を付与することができる。これはコーティング液中に含まれるポリシラザンが触媒の作用により緻密なシリカ被膜に転化されることによる。また、シリカ被膜が形成されると、製品もしくは物品の表面は該シリカ被膜による強い親水性を示す。本発明のコーティング液は、常温で乾燥すると、シリカからなる硬くて緻密な被膜を容易に形成する。このシリカ被膜の形成は、ポリシラザン、触媒などの種類により異なるが、約1〜2週間程度の期間をかけて形成される。このように、本発明のコーティング液は、塗布時においては溶液状態なので非常に塗布しやすく、塗布後容易に被膜が形成され、この被膜が緻密で硬質な親水性の膜に転化することで、各種製品あるいは物品の表面に上記種々の特性を付与することができるものである。形成されたコーティング表面は硬くて緻密なため、耐食性膜、耐擦傷性膜として優れると共に、耐摩耗性、汚れ防止効果、汚れた場合の汚れの除去性も優れている。また、本発明のコーティング液は、これら耐食性膜、耐擦傷性膜、耐摩耗性膜、防汚性膜、汚れ除去性の良好な膜としての利用のみでなく、親水性膜、シーリング材、耐薬品性膜、耐酸化膜、物理的なバリヤー膜、耐熱性付与膜、耐火膜、帯電防止膜、低収縮性膜、UVバリヤ膜、平坦化膜、耐久性膜などを形成するための被膜形成コーティング液としても用いることができる。
【0037】
例えば、本発明のコーティング液により自動車、墓石、住宅外壁などの表面に無機ポリシラザンを用いて親水性で緻密なシリカ被膜を形成すると、表面が親水性とされているため、雨水が表面に付着した場合に水滴は形成されずに水膜状になる。なおかつ、該親水性表面は、塵埃等の燃焼生成物などの疎水性物質との親和性よりも水との親和性に優れるため、雨水により前記汚れが容易に洗い流される。また、緻密な表面を形成しているため、塵埃、煤塵の付着量自体も抑制し得る。したがって、視覚的に目立った汚れが生じにくく、かつ汚れ付着量も少なくなる。そして、緻密な膜が形成されていることから、傷も付きにくく、腐蝕の防止もなされる。
【0038】
また、入れ歯の場合には、入れ歯(デンチャー)材質であるアクリルレジンが吸水し、これによりレジンに汚れが入り込むとか、レジンに汚れが吸着或いは付着され、これが入れ歯の臭いの発生の原因となっているが、本発明のコーティング液によれば、デンチャー材質であるアクリルレジンを変形、劣化させない温度で、デンチャーに密着性がよく、親水性で緻密なシリカ被膜が形成される。これにより、レジンへの吸水が防止され、デンチャー材質への汚れの浸入が防止されると共に、シリカ被膜に汚れが付着しても水で簡単に洗い流せるため、臭いの発生を防止することができる。さらに、本発明のコーティング液で入れ歯を被覆することにより、デンチャーの仕上げ研磨において凹凸が存在する場合でも、この凹凸がシリカ被膜で平滑化され、より一層汚れが付着し難くなる。また、形成されたシリカ被膜は、表面硬度が高く、耐久性も高いため、食べ物やかみ合せに対して摩耗することがないし、生体内で安定で、溶出することはない。万一剥離したとしたとしても、シリカは無害である。
【0039】
また、本発明のコーティング液は、適用される製品用途に応じて、コーティング液を塗布した際の外観性、乾燥性、臭い、安全性、基体へのダメージ、コーティング液の保存安定性など要求される性質が少しずつ異なる。これに対処するためには、使用するポリシラザン及び触媒の種類及び量はもちろんであるが、溶剤の種類、配合割合を変え、これによって簡単に各用途に最も適切なコーティング液を提供することができる。
【0040】
例えば、濃色で塗装された自動車、入れ歯、研磨した御影石、鏡面仕上げの金属やメッキ基板、透明な樹脂、ガラスなど汚れが目立ちやすく外観が重視される基材に対しては、溶剤としてミネラルスピリットなど重い溶剤が適する。ミネラルテルペンである、モービル石油のペガソールAN45、ペガソール3040も好ましく使用することができる溶剤である。ミネラルスピリットを溶剤として用いることにより、斑、干渉色、白ぼけ、ざらつきなどが目立ちやすい基体に対しても該コーティング液で美しく施工することができる。しかし、ミネラルスピリットは上記のような利点があるものの、溶解力の点では比較的弱いので、溶解力を付加するためには、ミネラルスピリットの他に例えばエッソ石油のソルベッソ100、ソルベッソ150、モービル石油のペガソールR−100、ペガソールR−150などの芳香族系混合溶剤を配合することができる。さらに、芳香族成分を含まないパラフィン系溶剤も溶剤として使用できる。具体的には、東燃化学の低臭溶剤であるエクソールDSP100/140、エクソールD30、エクソールD40、などを挙げることができる。
【0041】
また、トイレ、台所、洗面所、浴室などの水まわり製品、入れ歯などでは、臭いがしないことも重要である。このような無臭性が要求される製品においては、必要に応じ溶剤の一部にメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの低臭溶剤を加えることによって、臭いが少ないコーティング液を提供することができる。
【0042】
なお、本発明のコーティング液は、新しく製品あるいは物品を製造する際に適用してもよいし、使用中の製品、物品に適用してもよい。
【0043】
次に、各用途に応じたコーティング液の無機ポリシラザン、触媒及び希釈溶剤の配合例を具体的に示す。これらは、単に好ましい一例を示したに過ぎないものであり、コーティング液の組成及び組成割合は、被覆される製品の用途に応じ適宜のものとすればよく、本発明のコーティング液の配合及び配合割合が以下のものに限定されるものではない。
【0044】
A.自動車車体、ホイール用
下地の塗膜層にダメージを与えず、塗装時、特にカップガンを用いる場合に該カップガン中で白くならないなどの溶液安定性が要求される。
(配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.3〜2重量%
DMPP : 0.01〜0.1重量%
キシレン : 0.5〜10重量%
ぺガソールAN45: 残量
なお、DMPPは4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)である(以下同じ)。
【0045】
(好ましい配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.4〜1重量%
DMPP : 0.01〜0.05重量%
キシレン : 1〜4重量%
ぺガソールAN45: 残量
【0046】
B.入れ歯
デンチャー材質であるアクリルレジンを変形、劣化させることなく、臭いが少なく、人体に対し安全で、白濁を生じない溶液の長期安定性が要求される。
(配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.5〜5重量%
DMPP : 0.02〜0.2重量%
ぺガソールAN45: 残量
【0047】
(好ましい配合割合例)
無機ポリシラザン : 1〜2重量%
DMPP : 0.04〜0.08重量%
ぺガソールAN45: 残量
【0048】
C.墓石
御影石などで干渉色が出にくく、かつ溶液が白くならないように長期安定性が要求される。
(配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.5〜4重量%
DMPP : 0.01〜0.2重量%
キシレン : 5〜50重量%
ぺガソール3040: 残量
【0049】
(好ましい配合割合例)
無機ポリシラザン : 1〜3重量%
DMPP : 0.01〜0.1重量%
キシレン : 5〜15重量%
ぺガソール3040: 残量
【0050】
D.住宅内外装、浴槽・台所など
臭いが少なく、人体に安全で、乾燥性が高いことが要求される。
(配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.3〜2重量%
DMPP : 0.01〜0.2重量%
キシレン : 1〜10重量%
ぺガソールAN45 : 5〜88重量%
エチルシクロヘキサン: 5〜88重量%
メチルシクロヘキサン: 5〜88重量%
【0051】
(好ましい配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.5〜2重量%
DMPP : 0.01〜0.1重量%
キシレン : 1〜5重量%
ぺガソールAN45 : 20〜50重量%
エチルシクロヘキサン: 20〜50重量%
メチルシクロヘキサン: 20〜50重量%
【0052】
E.ポリカーボネート板
下地のポリカーボネート板を侵さないことが要求される。
(配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.5〜5重量%、
DMPP : 0.01〜0.4重量%
キシレン : 1〜10重量%
ぺガソール3040: 残量
【0053】
(好ましい配合割合例)
無機ポリシラザン : 0.5〜4重量%、
DMPP : 0.03〜0.2重量%
キシレン : 3〜10重量%
ぺガソール3040: 残量
【0054】
なお、上記溶剤のぺガソールAN45及びぺガソール3040(モービル石油製)は、いずれも原油の常圧蒸留で得られる留出油を水素化精製した留分で、主にC〜C11の範囲の石油系炭化水素であり、アニリン点は各々43℃及び54℃であり、ぺガソールAN45はぺガソール3040に比べ芳香族成分が多い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、製造例及び実施例により本発明をより詳しく説明するが、これら製造例及び実施例により本発明は何等限定されるものではない。
【0056】
製造例1(無機ポリシラザンの製造)
内容積300mlの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、ジュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに脱気した乾燥ピリジン150mlを入れ、これを氷冷した。次に、ジクロロシラン16.1gを50分間かけて加えたところ、白色固体状のアダクツ(SiHCl・2Py)が生成した。反応混合物を激しく攪拌しながら氷冷し、ソーダライム管及び活性炭管を通して予め精製したアンモニア10.9gを窒素ガスと混合して、この混合物を1時間かけて吹き込んだ。反応終了後、固体生成物を遠心分離した後、更に濾過して除去した。濾液から溶剤を減圧除去(50℃、5mmHg、2時間)することにより、ガラス状固体ポリシラザン5.52gを得た。蒸気圧降下法による前記ポリシラザンの分子量は2000であった。収率は77%であった。
【0057】
製造例2(有機ポリシラザンの製造)
内容積300mLの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、ジュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに脱気した乾燥ピリジン150mLを入れ、これを氷冷した。次にメチルジクロロシラン9.2gとジクロロシラン8.1gを加えたところ、白色固体状のアダクツが生成した。反応混合物を激しく攪拌しながら氷冷し、ソーダライム管及び活性炭管を通して予め精製したアンモニア12.0gを窒素ガスと混合し、この混合物を吹き込んだ。反応終了後、固体生成物を遠心分離した後、更に濾過して除去した。濾液から溶剤を減圧除去(50℃、5mmHg、2時間)することにより、粘性液体状ポリシラザン5.2gを得た。蒸気圧降下法による分子量は1600であった。収率は72%であった。
【0058】
実施例1
製造例1で得た無機ポリシラザン0.5重量部及びDMPP(触媒)0.02重量部を、キシレン1.98重量部及びペガソールAN45(モービル石油)97.5重量部からなる溶剤に溶解して、自動車車体、ホイール用の防汚コーティング液を得た。
【0059】
このコーティング液をスプレーガンにより、塗装鋼鈑にシリカ転化後膜厚0.2μmの量で吹き付け、コーティングを行った。乾燥後、屋外曝露試験にかけ、接触角の変化を観察して、表1の結果を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から、シリカ被膜の形成は徐々に進み、2週間後には親水性膜がほぼ形成され、この親水性シリカ被膜により、塗装鋼鈑は長期かつ安定的に被覆された状態が続くことが分る。また、6か月経過及び1年経過後の観察によると、塗装鋼鈑には、いずれの場合も汚れの発生は認められなかった。
【0062】
また、このコーティング液を窒素封入した状態において常温で保存し、1ヶ月、3ヶ月、6か月後のモノシランの発生量を調べたところ、1ヶ月後は43ppm、3ヶ月後は61ppm、6か月後は75ppmであり、保存安定性は良好であった。
【0063】
さらに、実施例1のコーティング液をスプレーガンのカップ中に入れ、30分間常温、大気中に放置したが、液は透明状態を保っていた。一方、上記組成において、ペガソールAN45を、芳香族成分含有量がペガソールAN45より少ないペガソール3040(モービル石油)に替えたところ20分後に液は濁りを生じた。この結果から、スプレーガンを用いてコーティング液を被覆する上記組成の自動車用防汚コーティング液においては、コーティング液の安定性の観点から、下地塗装に影響を及ぼさない範囲で芳香族成分の多い溶剤を用いることが好ましいものであることが認められた。
【0064】
実施例2
製造例1で得た無機ポリシラザン1重量部及びDMPP(触媒)0.04重量部を、ペガソールAN45(モービル石油)98.96重量部からなる溶剤に溶解して、入れ歯(デンチャー)被覆用防汚コーティング液を得た。
【0065】
このコーティング液をデンチャー全体にスプレーガンによりシリカ膜厚0.3μmとなるように塗布した。オーブンにて45℃、60分乾燥後、高温高湿器にて40℃、相対湿度90%の条件で、12時間処理し、被膜を完全にシリカに転換させた。デンチャー表面に親水性で緻密なシリカ被膜が形成され、入れ歯を使用したところ被膜の劣化はなく、汚れは水で簡単に洗い流せ、また臭いの発生も見られなかった。
【0066】
実施例3
製造例1で得た無機ポリシラザン1重量部及びDMPP(触媒)0.04重量部を、キシレン11.46重量部及びペガソール3040(モービル石油)87.5重量部からなる溶剤に溶解して、墓石被覆用防汚コーティング液を得た。
【0067】
このコーティング液を研磨した御影石上にエアゾールスプレーにより塗布した。これにより0.4μm厚の均一被膜が形成された。2週間後には、表面に親水性で緻密なシリカ被膜が形成され、屋外放置後1年後においても被膜の劣化はなく、汚れの発生も見られなかった。
【0068】
実施例4
製造例1で得た無機ポリシラザン0.5重量部及びDMPP(触媒)0.02重量部を、キシレン1.98重量部、ペガソールAN45(モービル石油)32.5重量部、エチルシクロヘキサン32.5重量部、メチルシクロヘキサン32.5重量部からなる溶剤に溶解して、浴槽、洗面台などの水まわり製品被覆用の防汚コーティング液を得た。このコーティング液を陶磁器製の洗面台及びホーロー被覆された浴槽表面に被覆した。各々、0.2μmの均一被膜が形成された。汚れの付着が少なく、付着した場合にも容易に汚れを除去することができた。
【0069】
実施例5
製造例1で得た無機ポリシラザン1重量部及びDMPP(触媒)0.04重量部を、キシレン3.96重量部、ペガソールAN45(モービル石油)31.7重量部、エチルシクロヘキサン31.7重量部、メチルシクロヘキサン31.7重量部からなる溶剤に溶解して、住宅内外装用の防汚コーティング液を得た。このコーティング液を住宅外壁上にローラーにより被覆した。外壁には長期に渡り汚れの発生は見られなかった。また、埃などの汚れは、水の吹き付けにより容易に除去することができた。
【0070】
実施例6
製造例1で得た無機ポリシラザン2重量部及びDMPP(触媒)0.08重量部を、キシレン7.92重量部及びペガソール3040(モービル石油)90重量部からなる溶剤に溶解して、ポリカーボネート板用防汚コーティング液を得た。このコーティング液を布に浸しポリカーボネート板に手塗り被覆した。基板のコーティング液による侵食はなく、表面に親水性の緻密なシリカ被膜を形成することができた。
【0071】
実施例7
製造例1で得た無機ポリシラザン5重量部及びプロピオン酸Pd(触媒)0.035重量部を、キシレン25重量部及びソルベッソ150(エッソ石油)69.97重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚0.3μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚0.3μmになるようコーティングを行った。前記アルミニウム板及びPETフィルムを、乾燥後、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。膜の特性評価を以下のようにして行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0072】
膜特性の評価
(1)耐食性
アルミニウム板にコーティング膜を形成し、塩化ナトリウム水溶液に酢酸及び塩化銅(II)を加えた溶液を噴霧するキャス(CASS)試験を96時間実施し、基板の腐食度合いを評価した。
◎:耐食性が非常に優れている
○:耐食性が優れている
△:耐食性が幾分劣る
×:耐食性が劣る
【0073】
キャス試験法
50℃に設定された試験槽中で4%の塩水と0.027%の塩化第二銅(2水和物)の混合液を試験片に噴霧して、試験片の腐食性及び耐食性を評価する。
なお、キャス(CASS)とは、“COPPER−ACCELERATED ACETIC ACID SALT SPRAY”を略したものである。
【0074】
(2)耐擦傷性
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)にコーティング膜を形成し、スチールウール#000番、荷重500g、(面積2cm)300往復の条件で試験し、ヘイズメーターでヘイズ値を測定した。
【0075】
実施例8
製造例1で得た無機ポリシラザン0.2重量部及びプロピオン酸Pd(触媒)0.002重量部を、キシレン1重量部及びソルベッソ150(エッソ石油)98.80重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚0.03μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚0.03μmになるようコーティングを行った。乾燥後、このPETフィルムを、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。実施例7と同様にして膜の評価を行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0076】
実施例9
製造例1で得た無機ポリシラザン20重量部及びプロピオン酸Pd(触媒)0.14重量部を、キシレン25重量部及びソルベッソ150(エッソ石油)54.86重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚1.2μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚1.2μmになるようコーティングを行った。乾燥後、このPETフィルムを、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。実施例7と同様にして膜の評価を行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0077】
実施例10
製造例2で得た有機ポリシラザン5重量部及びプロピオン酸Pd(触媒)0.035重量部を、ジブチルエーテル94.97重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚0.3μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚0.3μmになるようコーティングを行った。乾燥後、このPETフィルムを、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。実施例7と同様にして膜の評価を行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0078】
実施例11
製造例2で得た有機ポリシラザン20重量部及びプロピオン酸Pd(触媒)0.14重量部を、ジブチルエーテル79.86重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚1.2μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚1.2μmになるようコーティングを行った。乾燥後、このPETフィルムを、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。実施例7と同様にして膜の評価を行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0079】
実施例12
製造例1で得た無機ポリシラザン5重量部及びDMPP(触媒)0.2重量部を、キシレン25重量部及びペガソールAN45(モービル石油)69.8重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚0.3μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚0.3μmになるようコーティングを行った。乾燥後、このPETフィルムを、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。実施例7と同様にして膜の評価を行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0080】
実施例13
製造例1で得た無機ポリシラザン15重量部及びDMPP(触媒)0.6重量部を、キシレン25重量部及びペガソールAN45(モービル石油)59.4重量部からなる溶剤に溶解してコーティング液を得た。このコーティング液をフローコートでアルミニウム板にシリカ転化後膜厚1.0μmになるようコーティングを行った。乾燥後、大気中、120℃で1時間焼成を行い、耐食性試験用のサンプルを得た。さらに、コーティング液をフローコートでPETフィルムにシリカ転化後膜厚1.0μmになるようコーティングを行った。乾燥後、このPETフィルムを、90℃、90%RHで3時間処理して耐擦傷性試験用のサンプルを得た。実施例7と同様にして膜の特性評価を行い、表2の耐食性、表3の耐擦傷性の結果を得た。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

(発明の効果)
【0083】
以上述べたように、本発明のコーティング液によれば、塗布時においては、液状であるため、スプレーコート、布・スポンジ拭き法などにより基材に対し簡単に塗布することができ、塗布後においては液状であったポリシラザンが硬質で緻密な被膜に転化するため、耐食性、耐擦傷性に優れたコーティング膜を容易に形成することができる。しかも、このように形成されたコーティング被膜は親水性であり、親水性には持続性があり、通常1〜2年間有効な親水性を維持することが出来る。さらにこのような親水性の他に、耐摩耗性、防汚性、水に対する濡れ性、耐擦傷性、耐食性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、耐熱性、耐火性、帯電防止性などの特性を製品、物品などに対し付与することができる。また、溶剤の種類、配合材料の量などを調整するだけで、極めて多用途への転用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−H結合を有するポリシラザン、希釈溶剤及び触媒を含有することを特徴とするコーティング液。
【請求項2】
希釈溶剤として、石油溶剤、芳香族系もしくは環式脂肪族系溶剤、エーテル類、ハロゲン化炭化水素またはテルペン混合物、あるいはこれらの溶剤の混合物を用いることを特徴とする請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
希釈溶剤として、パラフィン系溶剤、ミネラルスピリット、テルペン混合物またはエーテル類、あるいはこれらの混合物を用いることを特徴とする請求項2に記載のコーティング液。
【請求項4】
希釈溶剤として、ジブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ポリグリコールエーテルまたはテトラヒドロフラン、あるいはこれらの混合物を用いることを特徴とする請求項3に記載のコーティング液。
【請求項5】
希釈溶剤に、さらにキシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンのうち1種または2種以上の溶剤が含まれることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項6】
Si−H結合を有するポリシラザンの濃度が0.1〜35重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項7】
Si−H結合を有するポリシラザンの濃度が0.5〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項8】
触媒をSi−H結合を有するポリシラザン純分に対して0.01〜30重量%含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項9】
触媒が、N−ヘテロ環式化合物、有機もしくは無機酸、金属カルボン酸塩、アセチルアセトナ錯体、金属微粒子、過酸化物、メタルクロライドまたは有機金属化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項10】
Si−H結合を有するポリシラザンが、SiHClと塩基とを反応させてSiHClのアダクツを形成させた後、該SiHClのアダクツとアンモニアとを反応させることにより合成される無機ポリシラザンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項11】
Si−H結合を有するポリシラザンが、SiHClとCHSiHClと塩基とを反応させてSiHClおよびCHSiHClの各々のアダクツを形成させた後、該SiHClおよびCHSiHClの各アダクツとアンモニアとを反応させることにより合成されるポリシラザンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のコーティング液。
【請求項12】
製品もしくは物品の基材表面の耐食性、耐摩耗性、防汚性、汚れ除去性、水に対する濡れ性、シーリング性、耐薬品性、耐酸化性、物理的バリヤ効果、耐熱性、耐火性、低収縮性、UVバリヤ効果、平坦化効果、耐久性、帯電防止性及び耐擦傷性を向上させるために、請求項1〜11のいずれかに記載のコーティング液を基材表面のコーティングに使用する方法。
【請求項13】
コーティング液を、プライマーとの組み合わせで基材表面に適用することを特徴とする、請求項12に記載の使用方法。
【請求項14】
コーティング液の適用の前に、表面がラッカー、ワニスまたはペイントでコーティングされていることを特徴とする、請求項12及び/または13に記載の使用方法。

【公表番号】特表2006−515641(P2006−515641A)
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501806(P2005−501806)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011614
【国際公開番号】WO2004/039904
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(398025878)クラリアント・インターナシヨナル・リミテッド (74)
【Fターム(参考)】