説明

ポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物およびその製造方法

【課題】 ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)含有量を高くしても、ブロッキング現象、ブリッジング現象、輸送ライン中の詰まり現象などがないPTFE含有粉体組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 PTFE40〜90質量%および有機重合体60〜10質量%からなるポリマー(A)粒子と、ポリマー(A)粒子100質量部に対し、ガラス転移温度が80〜170℃の有機重合体(B)粒子0.1〜10質量部とを含有し、有機重合体(B)粒子がポリマー(A)粒子の表面に付着しているPTFE含有粉体組成物;ポリマー(A)100質量部を含むラテックスを凝固して得られるスラリーに、有機重合体(B)0.1〜10質量部を含むラテックスを添加し、脱水、乾燥工程を経てPTFE含有粉体組成物を得るその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、粉体計量の自動化および輸送方式の大型化によって、粉体を取り扱う工程の省力化が進められており、これにともない粉体自体のハンドリングの問題がクローズアップされている。すなわち、粉体同士が貯蔵中に固まるというブロッキング現象、ホッパー中に粉体が止まるというブリッジング現象、流動性不足による輸送ラインの詰まり、などのトラブルに対し、耐ブロッキング性、流動性およびかさ比重で代表される粉体特性の改良が強く望まれている。
【0003】
熱可塑性樹脂のドリップ防止等のために、改質剤として用いられるポリテトラフルオロエチレンは、フィブリル形成能を有するために、ブロッキング現象やブリッジング現象が生じ易い。この粉体特性を改良するための方法が、これまで種々検討されている。
【0004】
例えば、ポリテトラフルオロエチレン存在下で単量体を重合することにより、ポリテトラフルオロエチレンを完全または部分的にカプセル封じする方法がある(特許文献1)。しかしながら、この方法では、ポリテトラフルオロエチレン含有量が多くなるほど得られる粉体の粒度は大きくなり、粉体の流動性も低下する傾向にある。すなわち、この方法では、ポリテトラフルオロエチレン含有量の増加と共に取扱い性が低下する傾向にある。
【0005】
また、有機熱可塑性重合体とポリテトラフルオロエチレンのラテックスとを混合、凝固することにより、粉末状重合体混合物を形成する方法がある(特許文献2)。しかしながら、この方法では、ポリテトラフルオロエチレンの含有量が増加すると共にポリテトラフルオロエチレンが表層に出易くなり、ポリテトラフルオロエチレン含有量の増加と共に取扱い性が低下する傾向にある。
【0006】
さらに、炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる構成単位を70質量%以上含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル系ポリマーを用いたポリテトラフルオロエチレン含有改質剤が、特許文献3に開示されている。この文献には、ポリテトラフルオロエチレン含有量が70質量%のものまで開示されているものの、ポリテトラフルオロエチレン含有量が高くなると、粉体流動性および貯蔵安定性は低下する傾向にあり、実施例を再現するのが容易ではない。
【0007】
これらの技術を用いた製品として、「メタブレンA3800(三菱レイヨン(株)製)」や「Blendex449(Crompton社製)」が市販されている。しかしながら、これらに含まれるポリテトラフルオロエチレン含有量は約50質量%であり、より高いポリテトラフルオロエチレン含有量で粉体特性、分散性良好な樹脂添加剤が望まれていた。
【特許文献1】特許第3469391号公報
【特許文献2】特開昭60−258263号公報
【特許文献3】国際公開第02/090440号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、本発明の目的は、ポリテトラフルオロエチレン含有量を高くしても、ブロッキング現象、ブリッジング現象、輸送ライン中の詰まり現象などがなく、その結果粉体計量の自動化、輸送方式の大型化などの省力化が可能なポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる現状に鑑み鋭意検討した結果、ポリテトラフルオロエチレンおよび有機重合体からなるポリマー(A)粒子の表面の一部もしくは全部を、ガラス転移温度が80〜170℃の有機重合体(B)で被覆することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物は、ポリテトラフルオロエチレン40〜90質量%および有機重合体60〜10質量%からなるポリマー(A)粒子と、該ポリマー(A)粒子100質量部に対し、ガラス転移温度が80〜170℃の有機重合体(B)粒子0.1〜10質量部とを含有し、有機重合体(B)粒子の少なくとも一部がポリマー(A)粒子の表面に付着していることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン40〜90質量%および有機重合体60〜10質量%からなるポリマー(A)100質量部を含むラテックスを凝固して得られるスラリーに、有機重合体(B)0.1〜10質量部を含むラテックスを添加したのち、脱水、乾燥工程を経て、有機重合体(B)粒子の少なくとも一部がポリマー(A)粒子の表面に付着した粉体組成物を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物は、ポリテトラフルオロエチレン含有量を高くしても、ブロッキング現象、ブリッジング現象、輸送ライン中の詰まり現象などがなく、その結果粉体計量の自動化、輸送方式の大型化などの省力化を可能にする。また、本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物の製造方法によれば、このようなポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<ポリマー(A)>
本発明におけるポリマー(A)(以下、(A)成分とも記す)は、ポリテトラフルオロエチレン40〜90質量%、好ましくは60〜80質量%、および有機重合体60〜10質量%、好ましくは40〜20質量%からなるものである[ポリテトラフルオロエチレンおよび有機重合体の合計100質量%]。
(A)成分中のポリテトラフルオロエチレンの含有量が少ない場合には、公知の技術により(A)成分自体が充分な粉体特性を有することが多く、本発明の粉体組成物の構成とする必要はない。一方、90質量%を超えると、後記の有機重合体(B)を加えたとしても、粉体特性が充分な粉体組成物を得ることが困難である。
【0014】
(ポリテトラフルオロエチレン)
本発明におけるポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンモノマーを単独重合、またはテトラフルオロエチレンモノマーと共重合成分とを共重合させることにより得られるものである。共重合成分としては、ポリテトラフルオロエチレンの特性を損なわない範囲で、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィン;パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートなどを用いることができる。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10質量%以下であることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンは、水性分散液として入手可能であり、このような水性分散液としては、旭硝子フロロポリマーズ社製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業社製のポリフロンD−1、D−2、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J等を代表例として挙げることができる。
【0015】
(有機重合体)
本発明における有機重合体は、ビニル系単量体を重合して得られる重合体や重縮合によって得られる重合体などである。
ビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、その他の共重合可能な単量体が挙げられる。
【0016】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルキシレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、モノブロムスチレン、フルオロスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらは1種または2種以上で使用される。芳香族ビニル化合物としては、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0017】
シアノ化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上で使用される。シアン化ビニル化合物としては、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上で使用される。(メタ)アクリル酸エステルとしては、特にメチルメタクリレートが好ましい。
【0019】
その他の共重合可能な単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−(p−メチルフェニル)マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物;グリシジルメタクリレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。なお、マレイミド化合物には、例えば、無水マレイン酸を共重合させ、これをアニリンなどでイミド化したものも含まれる。
以上のビニル系単量体は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
(ポリマー(A)の製造)
ポリマー(A)は、ポリテトラフルオロエチレンの存在下に有機重合体を構成するビニル系単量体を重合する方法や、ポリテトラフルオロエチレンのラテックスと有機重合体のラテックスとを混合する方法によって得られる。ポリテトラフルオロエチレンの存在下にビニル系単量体を重合する方法は、好ましくは乳化重合である。ポリテトラフルオロエチレンのラテックスと有機重合体のラテックスとを混合する方法において、有機重合体のラテックスを得る方法としては、乳化重合による方法や、溶液重合やバルク重合により得られた重合体を公知の方法により乳化して用いる方法が挙げられる。
【0021】
ビニル系単量体の乳化重合は、具体的には、ビニル系単量体に、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などを加えたものを攪拌しながら、通常、5〜98℃に加熱して行われる。
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機ハイドロパーオキサイド類と、含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などの還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤、あるいは過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物が使用される。
【0022】
連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなどのメルカプタン類;クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、四臭化炭素などの炭化水素類;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン類;α−メチルスチレンダイマー、9,10−ジヒドロアントラセン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、2,5−ジヒドロフランなどが挙げられる。
【0023】
乳化剤としては、一般に用いられる乳化剤が使用でき、ロジン酸、オレイン酸、ラウリル酸、ステアリン酸、アルケニルコハク酸などの脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸などの、アニオン性界面活性剤が好ましい。共凝固性の観点から、脂肪酸の塩が特に好ましい。
乳化重合法としては、単量体の一括添加重合、単量体の連続添加重合、多段階重合などの一般に知られている乳化重合法を採用することができ、乳化剤も単量体と同様にして添加することができる。
【0024】
<有機重合体(B)>
本発明における有機重合体(B)(以下、(B)成分とも記す)は、ビニル系単量体を重合して得られる重合体や重縮合によって得られる重合体などである。ビニル系単量体としては、ポリマー(A)を構成するビニル系単量体と同様のものを用いることができる。
【0025】
有機重合体(B)のガラス転移温度は、80〜170℃であり、好ましくは90〜120℃である。有機重合体(B)のガラス転移温度が低すぎと、充分な粉体特性が得られず、一方、有機重合体(B)のガラス転移温度が170℃を超えると、凝固が困難となり超微粉が大量に発生する、あるいは凝固が不充分となる場合がある。有機重合体(B)のガラス転移温度は、用いられるビニル系単量体の種類、量を適宜選ぶことにより容易に調整することができる。
ここで、有機重合体(B)のガラス転移温度は、例えばDSC測定装置〔セイコー電子(株)製、DSC6200等〕によって測定することができる。
【0026】
また、有機重合体(B)の質量平均分子量は、好ましくは100万以下、さらに好ましくは3〜90万である。有機重合体(B)の質量平均分子量が100万を超えると、得られる粉体組成物が配合された熱可塑性樹脂組成物を成形した場合、成形物にフィッシュアイが生じる場合があるので好ましくない。この質量平均分子量の調整は、連鎖移動剤あるいは重合開始剤量などを調整することにより容易に達成することができる。ここで、質量平均分子量は、例えば、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、LC−10Aシステム)において、カラム(昭和電工(株)製、K−806L)を用い、PMMA換算で求めた値である。
【0027】
有機重合体(B)の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、あるいは、溶液重合やバルク重合により得られた重合体を公知の方法により乳化する方法などが挙げられる。中でも、乳化重合法によりビニル系単量体を重合する方法が好ましい。(B)成分を製造する際の乳化重合法は、(A)成分を調製する際の乳化重合法と同様である。
【0028】
<ポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物>
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物は、ポリマー(A)粒子および有機重合体(B)粒子を含有し、有機重合体(B)粒子の一部または全部がポリマー(A)粒子の表面に付着しているものである。
【0029】
有機重合体(B)の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.1〜10質量部であり、好ましくは1〜7質量部であり、さらに好ましくは2〜5質量部である。有機重合体(B)の含有量が少なすぎると、充分な粉体特性が得られず、有機重合体(B)の含有量が多過ぎると、機械物性を低下させるので好ましくない。
【0030】
ポリマー(A)粒子の質量平均粒子径は、好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは100〜800μm、特に好ましくは200〜600μmである。ポリマー(A)粒子の質量平均粒子径が上記の範囲にあると、一段と優れた粉体特性を有する粉体組成物が得られる。ここで、質量平均粒子径は、粉体20gを5分間振とうさせて分級し、その平均粒子径を標準ふるいにより求めた値である。
【0031】
有機重合体(B)粒子の質量平均粒子径は、好ましくは30〜1000nm、さらに好ましくは50〜800nm、特に好ましくは80〜500nmである。有機重合体(B)粒子の質量平均粒子径が小さすぎる場合には、乳化剤を大量に必要とするために好ましくなく、大きすぎる場合には、ポリマー(A)粒子を被覆し難くなるため好ましくない。
【0032】
<ポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物の製造方法>
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば下記(i)〜(iii)のいずれか1つの方法によって容易に製造することができる。
【0033】
(i)ポリマー(A)100質量部(固形分換算)のラテックスを凝固して得られるスラリーに、有機重合体(B)0.1〜10質量部(固形分換算)のラテックスを添加・混合したのち、脱水、乾燥工程を経て粉体組成物を得る方法。
(ii)ポリマー(A)100質量部(固形分換算)のラテックスを凝固して得られるスラリーに、有機重合体(B)0.1〜10質量部(固形分換算)のラテックスを凝固し得られるスラリーおよび/または該スラリーの乾燥後の粉体を添加・混合したのち、脱水、乾燥工程を経て粉体組成物を得る方法。
(iii)ポリマー(A)の粉体100質量部に、有機重合体(B)の粉体0.1〜10質量部を添加・混合し、粉体組成物を得る方法。
【0034】
これらの製造方法のうち、好ましい方法は(i)の方法である。この方法によれば、(B)成分の粒子径が小さいため、(B)成分が(A)成分をより高確率で覆い、粉体特性が一段と優れた粉体組成物が得られる。
ポリマー(A)のラテックスおよび有機重合体(B)のラテックスを凝固する際の凝固剤としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸;酢酸などの有機酸;ナトリウム、カリウムなどのいわゆるアルカリ金属のハロゲン化物;無機酸とのアルカリ金属塩;有機酸とのアルカリ金属塩などが用いられる。これらの凝固剤は、単独であるいは2種以上組み合わせて用いられる。これらの凝固剤は水溶液として用い、その添加量は特に限定されるものではないが、ラテックスを充分に凝固させる量が使用される。
【0035】
<改質剤>
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物は、例えば、熱可塑性樹脂の添加剤、具体的には、熱可塑性樹脂のドリップ防止等のための改質剤として用いることができる。
【0036】
以上説明した本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物にあっては、ポリテトラフルオロエチレンを含有するポリマー(A)に、特定量の有機重合体を含ませるとともに、該ポリマー(A)の表面に、ガラス転移温度が80〜170℃の有機重合体(B)を付着させ、ポリマー(A)粒子の表面の一部もしくは全部を有機重合体(B)で被覆することによって、ポリテトラフルオロエチレンがフィブリルを形成しにくくなり、粉体特性が良好となる。これにより、ブロッキング現象、ブリッジング現象、輸送ライン中の詰まり現象などがなく、その結果粉体計量の自動化、輸送方式の大型化などの省力化が可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に何ら制約されるものではない。
実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。また、実施例中の各種の測定は、下記の方法に拠った。
【0038】
(1)質量平均分子量測定:
ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、LC−10Aシステム)において、カラム(昭和電工(株)製、K−806L)を用いて測定を行った。
(2)質量平均粒子径測定:
粒子の分散液を蒸留水で希釈したものを試料として、米国MATEC社製CHDF2000型粒度分布計を用いて測定した。測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件で行った。すなわち、専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジおよびキャリア液を用い、液性はほぼ中性、流速1.4ml/min、圧力約4000psi(2600KPa)および温度35℃を保った状態で、濃度約3%の希釈ラテックス試料0.1mlを測定に用いた。標準粒子径物質としては、米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを0.02μmから0.8μmの範囲内で合計12点用いた。
【0039】
(3)粉体の流動性測定:
JIS K6721に準拠した嵩比重計(筒井理化学器械(株)製)を用いて測定を行った。この測定においては、嵩比重計の漏斗に粉体を充填したのち、漏斗から粉体を10秒間流して、流れ出た粉体を計量して、粉体の流動性(g/10sec)の指標とした。10秒間に流れ出る粉体の量が多いほど、粉体の流動性が良好であることを意味している。実作業においても、流動性の良好な粉体は取扱性も良好であることを意味する。
【0040】
(4)粉体の貯蔵安定性測定:
アクリル樹脂製の容器に粉体20gを充填して、5Kgの重りを容器上に載せた状態で、オーブン内を50℃としたギヤオーブン(タバイ(株)製、GHPS−222)に入れて6時間放置し、その後取り出して室温にて冷却して、粉体のブロックを作製した。この粉体のブロックを目開きが12メッシュの篩に載せて、振動ふるい機(筒井理化学器械(株)製、ミクロ形電磁振動ふるい機M−2)で破砕し、破砕量が60%に到達した時点の時間を粉体の貯蔵安定性とした。この破砕量が60%に到達する時間が短いほど、実際に粉体を貯蔵しておいた際に粉体が固まりにくく、固まった場合でも容易に粉体の塊を崩すことができることを意味する。
【0041】
(5)難燃性試験:
UL94規格に従い、垂直型燃焼試験を実施した。試験片は1.6mm厚のものを用いた。
(6)分散性:
射出成形した試験片中の凝集物の有無を目視にて観察し以下の基準にて判定した。
◎:試片中に凝集物無し。
○:試片中に0.5mm以下の凝集物有り。
×:試片中に0.5mm以上の凝集物有り。
【0042】
[有機重合体(B−1)ラテックスの調製]
蒸留水290部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)1.0部、メチルメタクリレート98部、エチルアクリレート2部、n−オクタンチオール0.003部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.2部を蒸留水10部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体(B−1)ラテックスを得た。このラテックスの固形分濃度は26%であり、有機重合体(B−1)の質量平均粒子径は100nmであり、質量平均分子量は80万であった。また、DSCによって測定される有機重合体(B−1)のガラス転移温度は101℃である。
【0043】
[実施例1:粉体組成物(X−1)の調製]
蒸留水145部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)1.0部、メチルメタクリレート40部、ブチルアクリレート10部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.1部を蒸留水5部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体ラテックスを得た。
このラテックスに、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略す)粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)83.3部(PTFE分として50部)および蒸留水16.7部を加え、ポリマー(A−1)ラテックスを得た。
【0044】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−1)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−1)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−1)を得た。
【0045】
[実施例2:粉体組成物(X−2)の調製]
蒸留水85部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)0.6部、メチルメタクリレート24部、ブチルアクリレート6部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.06部を蒸留水5部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体ラテックスを得た。
このラテックスに、PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)116.7部(PTFE分として70部)および蒸留水63.3部を加え、ポリマー(A−2)ラテックスを得た。
【0046】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−2)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−1)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−2)を得た。
【0047】
[実施例3:粉体組成物(X−3)の調製]
蒸留水55部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)0.4部、メチルメタクリレート16部、ブチルアクリレート4部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.04部を蒸留水5部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体ラテックスを得た。
このラテックスに、PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)133.3部(PTFE分として80部)および蒸留水86.7部を加え、ポリマー(A−3)ラテックスを得た。
【0048】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−3)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−1)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−3)を得た。
【0049】
[実施例4:粉体組成物(X−4)の調製]
PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)83.3部(PTFE分として50部)、蒸留水161.7部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)1.0部、メチルメタクリレート40部、ブチルアクリレート10部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.1部を蒸留水5部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、ポリマー(A−4)ラテックスを得た。
【0050】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−4)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−1)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−4)を得た。
【0051】
[実施例5:粉体組成物(X−5)の調製]
PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)83.3部(PTFE分として50部)、蒸留水161.7部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)1.0部、スチレン40部、アクリロニトリル10部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.1部を蒸留水5部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、ポリマー(A−5)ラテックスを得た。
【0052】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−5)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−1)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−5)を得た。
【0053】
[実施例6:粉体組成物(X−6)の調製]
蒸留水140部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)1.0部、2−エチルヘキシルアクリレート30部、メチルメタクリレート10部の混合液を、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌して予備分散を行った。その後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、本分散を行った。これを攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、クメンハイドロパーオキサイド0.4部を加え、さらに硫酸鉄(II)0.0005部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0015部、ロンガリット塩0.12部、蒸留水5部の混合液を加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持した。
【0054】
その後、系内の温度を80℃まで昇温し、硫酸鉄(II)0.0005部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0015部、ロンガリット塩0.12部、蒸留水5部の混合液を加え、同温度を保持したまま、さらにメチルメタクリレート8部、ブチルアクリレート2部、ターシャルブチルハイドロパーオキサイド0.1部の混合液を30分かけて滴下し、2段目の重合を行った。発熱が終了した後、系内の温度を80℃で1時間保持し、有機重合体ラテックスを得た。
この有機重合体ラテックスに、PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)83.3部および蒸留水116.7部を添加し、ポリマー(A−6)ラテックス400部を得た。
【0055】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−6)ラテックス400部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−1)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−6)を得た。
【0056】
[実施例7:粉体組成物(X−7)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスの使用量を20部(ポリマー分として5部)とする以外は、実施例2(粉体組成物(X−2))と同様に行い、本発明の粉体組成物(X−7)を得た。
【0057】
[有機重合体(B−2)ラテックスの調製]
蒸留水390部、メチルメタクリレート98部、エチルアクリレート2部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した。次いで、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロリド(和光純薬製、V−50)1部を蒸留水10部に溶解したものを加え、ラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を70℃で1時間保持し、有機重合体(B−2)ラテックスを得た。このラテックスの固形分濃度は20%であり、有機重合体(B−2)の質量平均粒子径は300nmであり、質量平均分子量は30万であった。また、Foxの式によって計算される有機重合体(B−2)のガラス転移温度は101℃である。
【0058】
[実施例8:改質剤(X−8)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックス(B−1)のかわりに有機重合体(B−2)ラテックスを用いる以外は、実施例2(粉体組成物(X−2))と同様に行い、本発明の粉体組成物(X−8)を得た。
【0059】
[有機重合体(B−3)ラテックスの調製]
蒸留水290部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)1.0部、硫酸鉄(II)0.0005部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0015部、ロンガリット塩0.12部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いでスチレン80部、アクリロニトリル20部、クメンハイドロパーオキサイド0.4部の混合液を2時間かけてゆっくり滴下して、ラジカル重合を行った。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体(B−3)ラテックスを得た。このラテックスの固形分濃度は26%であり、有機重合体(B−3)の質量平均粒子径は100nmであり、質量平均分子量は80万であった。また、DSCによって測定される有機重合体(B−3)のガラス転移温度は100℃である。
【0060】
[実施例9:粉体組成物(X−9)の調製]
蒸留水90部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)0.6部、硫酸鉄(II)0.0005部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0015部、ロンガリット塩0.12部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いでスチレン19.2部、アクリロニトリル4.8部、ブチルアクリレート6部、クメンハイドロパーオキサイド0.4部の混合液を2時間かけて滴下して、ラジカル重合を行った。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体ラテックスを得た。
このラテックスに、PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)116.7部(PTFE分として70部)および蒸留水63.3部を加え、ポリマー(A−9)ラテックスを得た。
【0061】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−9)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−3)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−9)を得た。
【0062】
[有機重合体(B−4)ラテックスの調製]
スチレン80部、アクリロニトリル20部の代わりに、スチレンを100部とする以外は、有機重合体(B−3)ラテックスの調製と同様に行い、有機重合体(B−4)ラテックスを得た。このラテックスの固形分濃度は26%であり、有機重合体(B−4)の質量平均粒子径は100nmであり、質量平均分子量は80万であった。また、DSCによって測定される有機重合体(B−4)のガラス転移温度は100℃である。
【0063】
[実施例10:粉体組成物(X−10)の調製]
蒸留水90部、乳化剤としてアルケニルコハク酸ジカリウム(花王(株)製、「ラテムルASK」)0.6部、硫酸鉄(II)0.0005部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0015部、ロンガリット塩0.12部を、攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いでスチレン24部、ブチルアクリレート6部、クメンハイドロパーオキサイド0.4部の混合液を2時間かけて滴下して、ラジカル重合を行った。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持し、有機重合体ラテックスを得た。
このラテックスに、PTFE粒子分散液である旭フロロポリマーズ社製「フルオンXAD938」(固形分濃度63.0%、PTFEに対して5%の界面活性剤を含む)116.7部(PTFE分として70部)および蒸留水63.3部を加え、ポリマー(A−10)ラテックスを得た。
【0064】
1%酢酸カルシウム水溶液400部を80℃に加熱攪拌し、温度を保ちながらポリマー(A−10)ラテックス300部(ポリマー分として100部)を徐々に滴下して、固形物を凝固、析出させスラリーとした。さらに、このスラリー中に、有機重合体(B−4)ラテックス8部(ポリマー分として2部)を加え、5分間攪拌を続けた。その後、スラリーの温度を95℃まで昇温し、固化を行った。
最後に、この析出物を分離、濾過、乾燥して、本発明の粉体組成物(X−10)を得た。
【0065】
[有機重合体(B−5)ラテックスの調製]
メチルメタクリレートを80部、エチルアクリレートを20部とする以外は、有機重合体(B−1)ラテックスの調製と同様に行い、有機重合体(B−5)ラテックスを得た。このラテックスの固形分濃度は26%であり、有機重合体(B−5)の質量平均粒子径は100nmであり、質量平均分子量は80万であった。また、DSCによって測定される有機重合体(B−5)のガラス転移温度は71℃である。
【0066】
[比較例1:粉体組成物(Y−1)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例1(粉体組成物(X−1))と同様に行い、粉体組成物(Y−1)を得た。
【0067】
[比較例2:粉体組成物(Y−2)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例2(粉体組成物(X−2))と同様に行い、粉体組成物(Y−2)を得た。
【0068】
[比較例3:粉体組成物(Y−3)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例3(粉体組成物(X−3))と同様に行い、粉体組成物(Y−3)を得た。
【0069】
[比較例4:粉体組成物(Y−4)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例4(粉体組成物(X−4))と同様に行い、粉体組成物(Y−4)を得た。
【0070】
[比較例5:粉体組成物(Y−5)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例5(粉体組成物(X−5))と同様に行い、粉体組成物(Y−5)を得た。
【0071】
[比較例6:粉体組成物(Y−6)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例6(粉体組成物(X−6))と同様に行い、粉体組成物(Y−6)を得た。
【0072】
[比較例7:粉体組成物(Y−7)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスのかわりに有機重合体(B−5)ラテックスを用いる以外は、実施例7(粉体組成物(X−7))と同様に行い、粉体組成物(Y−7)を得た。
【0073】
[比較例8:粉体組成物(Y−8)の調製]
有機重合体(B−1)ラテックスを用いない点を除いては、実施例2(粉体組成物(X−2))と同様に行い、粉体組成物(Y−8)を得た。
【0074】
[比較例9:粉体組成物(Y−9)の調製]
有機重合体(B−3)ラテックスを用いない点を除いては、実施例9(粉体組成物(X−9))と同様に行い、粉体組成物(Y−9)を得た。
【0075】
[比較例10:粉体組成物(Y−10)の調製]
有機重合体(B−4)ラテックスを用いない点を除いては、実施例10(粉体組成物(X−10))と同様に行い、粉体組成物(Y−10)を得た。
【0076】
[比較例11:PTFE粉体]
PTFE(100%)粉体として、旭硝子(株)製、商品名:アフロンPTFE CD−1を用いた。
【0077】
実施例1〜10、比較例1〜11の粉体組成物について、流動性および貯蔵安定性を評価した。結果を表1に示す。
表1から明らかなように、本発明の粉体組成物は、比較例に比べて粉体性状が良好である。
【0078】
【表1】

【0079】
[実施例11〜28、比較例12〜31:改質剤としての評価(I)]
粉体組成物(X−1)〜(X−10)、粉体組成物(Y−1)〜(Y−10)、およびPTFE(100%)粉体を、熱可塑性樹脂の改質剤として用い、得られた熱可塑性樹脂組成物の難燃性を評価した。
【0080】
また、改質剤以外の成分としては、下記のものを用いた。
「PC」ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンS−2000F。
「グラフト共重合体」ブチルアクリレート−ブタジエンのゴム重合体にアクリロニトリル/スチレンをグラフト重合したグラフト共重合体、三菱レイヨン(株)製、商品名:MUX−30。
「ビニル共重合体」アクリロニトリル−スチレン共重合体、三菱レイヨン(株)製、商品名:AP−20。
「難燃剤」トリフェニルフォスフェート、大八化学工業(株)製、商品名:TPP。
【0081】
表2に示す各成分を各割合(質量比)で混合し、シリンダー温度260℃に設定した同方向二軸押出機(TEX−30α、JSW製)で賦形し、ペレットを作製した。次いで、このペレットを用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機(SAV−60、山城精機製作所製)により射出成形を行って、燃焼試験片を得た。燃焼試験結果を表2に示す。
表2から明らかなように、本発明の粉体組成物からなる改質剤は、比較例と同等の難燃性を示す。
【0082】
【表2】

【0083】
[実施例29〜37、比較例32〜41:改質剤としての評価(II)]
粉体組成物(X−1)〜(X−10)、粉体組成物(Y−1)〜(Y−10)、およびPTFE(100%)粉体を、熱可塑性樹脂の改質剤として用い、得られた熱可塑性樹脂組成物の分散性を評価した。
【0084】
表3に示す各成分を各割合(質量比)で混合し、シリンダー温度280℃に設定した25φ単軸押出機で賦形し、ペレットを作製した。次いで、このペレットを用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃に設定した射出成形機(SAV−60)により燃焼試験片と同じ金型を用いて射出成形を行い、分散性評価用試験片を得た。分散性評価結果を表3に示す。
表3から明らかなように、本発明の粉体組成物からなる改質剤は、比較例と同等の分散性を示す。
【0085】
【表3】

【0086】
以上から明らかなように、本発明の粉体組成物では、従来用いられているPTFE含有改質剤と同等の分散性と、PTFEのドリップ防止性に由来する難燃性付与効果とを示すと共に、粉体性状を著しく改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物は、粉体計量の自動化および輸送方式の大型化に対応でき、ハンドリング性の改善された熱可塑性樹脂組成物用改質剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン40〜90質量%および有機重合体60〜10質量%からなるポリマー(A)粒子と、
該ポリマー(A)粒子100質量部に対し、ガラス転移温度が80〜170℃の有機重合体(B)粒子0.1〜10質量部とを含有し、
有機重合体(B)粒子の少なくとも一部がポリマー(A)粒子の表面に付着していることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレン40〜90質量%および有機重合体60〜10質量%からなるポリマー(A)100質量部を含むラテックスを凝固して得られるスラリーに、有機重合体(B)0.1〜10質量部を含むラテックスを添加したのち、脱水、乾燥工程を経て、有機重合体(B)粒子の少なくとも一部がポリマー(A)粒子の表面に付着した粉体組成物を得ることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン含有粉体組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−63176(P2006−63176A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246568(P2004−246568)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】