説明

ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜およびその製造方法ならびに濾材

【課題】少ない工程数で高通気性のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】まず、ポリテトラフルオロエチレン微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物を所定方向に延びるシート状に成形する。ついで、このシート状成形体から液状潤滑剤を除去する。その後、シート状成形体を、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で長手定方向に40〜250倍に延伸した後に、幅方向に3〜40倍に延伸して、高通気性のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)多孔質膜およびその製造方法ならびにPTFE多孔質膜を用いた濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアーフィルタや掃除機用フィルタ、あるいは焼却炉用バグフィルタや濾過膜などでは、濾材にPTFE多孔質膜が用いられている。このようなPTFE多孔質膜は、通気性だけでなく気体中に含まれる粒子の捕集性能も重要視されていて、例えば平均孔径が1μm以下となるように構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、近年は捕集性能よりも高い通気性が優先的に求められる用途が見られるようになってきた。例えば、気体が入っている容器に防塵用に濾材を取り付けた場合、外部からの熱や冷気によって容器内の気体が膨張または収縮して容器内外に圧力差が生じる。このとき、濾材の通気性が高ければ容器内外の圧力差を解消する能力が高く、容器への負荷が軽くなる。このように特定の容器や装置を使用する上で、外部環境変化による容器への負荷を小さくするためには、高通気性のPTFE多孔質膜が必要となる。
【0004】
高通気性のPTFE多孔質膜を得るための方法として、特許文献2には次のような製造方法が開示されている。まず、PTFE微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物を押出法によりシート状に成形した後に、このシート状成形体を幅方向に予備延伸する。ついで、加熱によりシート状成形体から液状潤滑剤を除去した後に、このシート状成形体をPTFEの融点(327℃)以下の温度で二軸方向に延伸し、さらに延伸後のシート状成形体をPTFEの融点以上に加熱して熱固定を行う。
【特許文献1】特許第2792354号公報
【特許文献2】特公平8−32791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示された製造方法では、予備延伸や熱固定を行う分工程数が多くなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、少ない工程数で高通気性のPTFE多孔質膜を得ることのできる製造方法およびこの製造方法により製造されるPTFE多孔質膜ならびにこのPTFE多孔質膜を用いた濾材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、高通気性のPTFE多孔質膜を得るために、延伸温度、延伸時間などを検討した結果、シート状成形体をまずPTFEの融点以上の温度で一方向に40倍以上の高倍率に延伸し、ついで一方向と直交する方向に3倍以上に延伸することにより、蜘蛛の巣のようなフィブリルが長くて大きな孔を持つ構造を有する高通気性のPTFE多孔質膜が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、PTFE微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物を所定方向に延びるシート状に成形し、このシート状成形体を、当該シート状成形体から液状潤滑剤を除去した上で、PTFEの融点以上の温度で前記所定方向に40〜250倍に延伸した後に、前記所定方向と直交する幅方向に3〜40倍に延伸する、PTFE多孔質膜の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記のPTFE多孔質膜の製造方法により得られたPTFE多孔質膜であって、通気度がフラジール数で表示して30〜200cm3/cm2/sである、PTFE多孔質膜を提供する。
【0010】
ここで、フラジール数とは、JIS L 1096に規定されるフラジールテスター法を用いて測定される数値である。
【0011】
さらに、本発明は、上記のPTFE多孔質膜と、このPTFE多孔質膜に接合された通気性支持材と、を備える、濾材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少ない工程数で高通気性のPTFE多孔質膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のPTFE多孔質膜の製造方法について説明する。
【0014】
まず、PTFE微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物を押出法および圧延法の少なくとも1つの方法により未焼成状態で所定方向に延びるシート状に成形してシート状成形体を得る。
【0015】
PTFE微粉末は、特に制限されるものではなく、種々の市販のものを使用できる。例えば、ポリフロンF104(ダイキン工業社製)、フルオンCD−123(旭硝子社製)、テフロン6J(三井・デュポンフロロケミカル社製)などが挙げられる。
【0016】
液状潤滑剤は、PTFE微粉末を濡らすことができ、蒸発や抽出などの方法によって除去できるものであれば特に制限されるものではない。例えば、炭化水素類の流動パラフィン、ナフサ、トルエン、キシレンが挙げられ、他にもアルコール類、ケトン類、エステル類、フッ素系溶剤が挙げられる。また、これらの2種類以上の混合物を使用してもよい。潤滑剤の添加量は、シート状成形体の成形方法によって異なるが、通常、PTFE微粉末100重量部に対して約5〜50重量部である。
【0017】
PTFE微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物をシート状に成形する方法の一例としては、液状潤滑剤を加えたPTFE微粉末をシリンダーで圧縮し、ラム押出機で押し出してシート状に成形した後に、ロール対で適当な厚み(通常、0.05〜0.5mm)に圧延する。
【0018】
その後、加熱法または抽出法によりシート状成形体から液状潤滑剤を除去してシート状成形体を乾燥させる。
【0019】
次に、液状潤滑剤が除去されたシート状成形体を、PTFEの融点以上の温度で前記所定方向(以下、「長手方向」という。)に延伸する。このときの延伸倍率は、40〜250倍が好ましい。40倍よりも低い倍率では、最終的に得られる膜中に見られるフィブリル長さが短くなり、平均孔径が小さくなって高い通気性が得られ難くなるからである。また、倍率が高くなりすぎると、シート状成形体の破断が起こり、膜を得ることができない。より好ましい延伸倍率は60〜200倍であり、さらに好ましい延伸倍率は80〜160倍である。
【0020】
その後、長手方向に延伸されたシート状成形体を、通常40〜400℃で長手方向と直交する幅方向に延伸する。このときの延伸倍率は、3〜40倍が好ましい。また、延伸時の温度は、高通気性を得るため、および延伸時の破断を防ぐために、100〜300℃がより好ましい。
【0021】
工業的には、工程数が少ない方が好ましいが、上記の延伸工程を複数回に分けて行ってもよい。
【0022】
以上の工程により、フィブリルが長手方向に支配的に伸びた膜構造を有するPTFE多孔質膜が得られる。このPTFE多孔質膜では、通気度がフラジール数で表示して30〜200cm3/cm2/sであり、長手方向におけるフィブリルの長さが100μm以上である。
【0023】
ところで、例えば特許文献2に記載された方法で製造されたPTFE多孔質膜では、PTFE多孔質膜に撥油処理を施して異物の付着性を改善しようとすると、通気度が著しく低下する。これに対し、上記のようにして得られたPTFE多孔質膜では、PTFE多孔質膜に撥油処理を施しても通気度はそれほど低下せず、通気性を確保したまま異物の付着性を改善することができる。
【0024】
撥油処理は、表面張力の小さな物質を含む撥油剤をPTFE多孔質膜に塗布し、これを乾燥することにより行うことができる。撥油剤はPTFE多孔質膜より表面張力の低い被膜を形成できればよく、例えば、パーフルオロアルキル基を有する高分子を含む撥油剤が好適である。撥油剤の塗布は、含浸やスプレーなどで行うことができる。なお、撥油処理が施された後のPTFE多孔質膜の通気度は、フラジール数で表示して10〜100cm3/cm2/sであることが好ましい。
【0025】
以上のようにして得られたPTFE多孔質膜を濾材に用いる場合は、PTFE多孔質膜に通気性支持材を接合して強度を向上させることが好ましい。通気性支持材は、材質、構造、形態が特に限定されるものではないが、通気性支持材には、PTFE多孔質膜より通気性に優れた材料、例えば、不織布、メッシュ(網目状ネット)、その他の多孔質材を用いることができる。ただし、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは不織布が好ましい。また、通気性支持材の材質としては、例えば、ポリオレフィレン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など)、ポリアミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)など)、芳香族ポリアミドあるいはこれらの複合材などを用いることができる。
【0026】
PTFE多孔質膜と通気性支持材とを接合する方法は、特に限定されるものではないが、例えば熱ラミネートにより行うことが好ましい。熱ラミネートによりPTFE多孔質膜上に通気性支持材を積層するには、熱ロール温度を例えば130〜200℃に加熱し、これを例えば10〜40N/mで押し付けることにより、PTFE多孔質膜と通気性支持材とを接合することができる。そのときのライン速度は、熱ロール径や加熱温度もしくは加熱方法により異なるが、例えば5.0〜20.0m/minが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。
【0028】
(実施例)
PTFE微粉末(ポリフロンF−104、ダイキン工業社製)100重量部に対して、液状潤滑剤(n−ドデカン、ジャパンエナジー社製)20重量部を均一に混合し、シリンダーに圧縮した後にラム押出機で押し出して所定方向に延びるシート状成形体を得た。このシート状成形体を液状潤滑剤を含んだ状態で金属製圧延ロール間に通して厚さ0.2mmに圧延した。その後、シート状成形体を150℃に加熱することにより液状潤滑剤を除去し、シート状成形体を乾燥させた。このシート状成形体を、370℃で長手方向に20倍の倍率で延伸し、さらに370℃でもう一度長手方向に4.1〜10.3倍の倍率で延伸した。ついで、長手方向に延伸されたシート状成形体を、150℃で幅方向に4倍または9倍の倍率で延伸して、PTFE多孔質膜を得た(サンプル1〜8)。
【0029】
シート状成形体を375℃で長手方向に20倍の倍率で延伸し、さらに375℃でもう一度長手方向に3倍まはた5倍の倍率で延伸した後、150℃で幅方向に5倍の倍率で延伸した以外は上記と同様にして、PTFE多孔質膜を得た(サンプル9,10)。
【0030】
(比較例1)
シート状成形体を375℃で長手方向に3倍の倍率で延伸した後、150℃で幅方向に10倍の倍率で延伸した以外は上記と同様にして、PTFE多孔質膜を得た。
【0031】
(比較例2)
従来技術である特公平8−32791号公報を参考にして、PTFEの融点以下での延伸を行って比較例のPTFE多孔質膜を製造した。具体的には、PTFE微粉末(フルオンCD−1、旭硝子社製)100重量部に対して、液状潤滑剤(n−ドデカン、ジャパンエナジー社製)20重量部を均一に混合し、シリンダーに圧縮した後にラム押出機で押し出して所定方向に延びるシート状成形体を得た。このシート状成形体を液状潤滑剤を含んだ状態で金属製圧延ロール間に通して厚さ0.2mmに圧延した。その後、液状潤滑剤を含んだ状態のままでシート状成形体を幅方向に4倍の倍率で予備延伸した後、シート状成形体を150℃に加熱することにより液状潤滑剤を除去し、シート状成形体を乾燥させた。このシート状成形体を、280℃で長手方向に20倍の倍率で延伸し、さらに150℃で幅方向に10倍の倍率で延伸した。ついで、長手方向および幅方向に延伸されたシート状成形体を拘束したまま360℃に加熱して熱固定を行い、PTFE多孔質膜を得た。
【0032】
(試験)
実施例および比較例1,2のPTFE多孔質膜に対して、フラジール数(通気度)の測定を行った。測定は、任意の5点で行い、その平均値を算出した。測定には、JIS L 1096に基づくテクステスト社製のフラジール試験機(FX3300)を用いた。
【0033】
また、実施例および比較例1,2のPTFE多孔質膜を150倍に拡大して撮影した顕微鏡写真(図1〜図7参照)から、長手方向におけるフィブリルの長さをノギスにて測定した。測定は、任意に選定したフィブリル10本に対して行い、その平均値を算出した。なお、フィブリル長さの測定は、実施例については、サンプル1,2,4,5,7,9,10についてのみ行った(サンプル9,10については顕微鏡写真を省略)。
【0034】
これらの試験の結果ならびに製造時の延伸倍率および延伸温度を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、長手方向への延伸倍率が大きくなるにつれて、フィブリルの長さが長くなり、通気性がよくなることが分かる。特に、長手方向の延伸倍率が3倍と小さな比較例1ではフィブリルの長さが10μmであるが、長手方向の延伸倍率が40倍以上の実施例ではフィブリルの長さが100μmを超えるようになる。
【0037】
また、比較例2のPTFE多孔質膜は、サンプル2のPTFE多孔質膜と同程度の通気度を有しているが、図8(a)および図8(b)に示すように、それらでは膜構造が全く異なっており、本発明の製造方法の効果が見られる。
【0038】
次に、サンプル9,10および比較例1,2のPTFE多孔質膜に撥油処理を施し、その後の通気度を上述したのと同様にして測定した。撥油処理に関しては、まず、撥油剤として信越化学社製のX−70−029Bを用い、これを重量%で0.5%になるように希釈剤(FSシンナー、信越化学社製)で希釈して撥油処理液を生成した。そして、この撥油処理液を20℃に保ち、この中に、PTFE多孔質膜を収縮がないように20cm角の枠に固定した状態で約3秒間浸し、その後にこれを常温で約1時間放置して乾燥させた。撥油処理前後の通気度を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から、比較例2では撥油処理によって通気度が約98.5%低下しているのに対し、サンプル9,10では撥油処理による通気度の低下が6割程度に抑えられることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、特に、通気性支持材に接合されてフィルタ用濾材を構成するPTFE多孔質膜を得るための方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】サンプル1のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図2】サンプル2のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図3】サンプル4のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図4】サンプル5のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図5】サンプル7のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図6】比較例1のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図7】比較例2のPTFE多孔質膜を150倍で撮影した顕微鏡写真である。
【図8】(a)は図2の拡大写真であり、(b)は図7の拡大写真である(撮影倍率は共に1000倍)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン微粉末に液状潤滑剤を加えた混合物を所定方向に延びるシート状に成形し、このシート状成形体を、当該シート状成形体から液状潤滑剤を除去した上で、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で前記所定方向に40〜250倍に延伸した後に、前記所定方向と直交する幅方向に3〜40倍に延伸する、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記シート状成形体が前記所定方向および前記幅方向に延伸されて得られたポリテトラフルオロエチレン多孔質膜に、撥油処理を施す、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法により得られたポリテトラフルオロエチレン多孔質膜であって、
通気度がフラジール数で表示して30〜200cm3/cm2/sである、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項4】
請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の製造方法により得られたポリテトラフルオロエチレン多孔質膜であって、
通気度がフラジール数で表示して10〜100cm3/cm2/sである、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項5】
フィブリルが所定方向に支配的に伸びた膜構造を有し、前記所定方向における前記フィブリルの長さが100μm以上である、請求項3または4に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と、このポリテトラフルオロエチレン多孔質膜に接合された通気性支持材と、を備える、濾材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−297702(P2009−297702A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203441(P2008−203441)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】