説明

ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性ディスパージョン

本発明は、水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンであって、ディスパージョンの総重量を基準にして30〜70重量%の量の非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子と、1種もしくはそれ以上の非イオン系界面活性剤とを含み、かつ、前記非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が、イオン基を含む繰り返し単位を有する、ポリテトラフルオロエチレンのポリマー鎖を含むディスパージョンを提供する。本発明は、さらに、そのディスパージョンを得るための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にその表面に、1つもしくはそれ以上のイオン基を有する繰り返し単位を含むポリテトラフルオロエチレンのポリマー鎖を有する、ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性のディスパージョン(dispersions)に関する。本発明は、また、そのような水性ディスパージョンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー、すなわちフッ素化された主鎖を有するポリマーは、古くから知られており、耐熱性、耐薬品性、耐候性、UV安定性などの、いくつかの望ましい特性を有することから、様々の用途に使用されてきた。例えば、(非特許文献1)には、種々のフルオロポリマーが記載されている。フルオロポリマーは、部分的にフッ素化された主鎖、一般には少なくとも40重量%がフッ素化された主鎖、あるいは、完全にフッ素化された主鎖を有し得る。フルオロポリマーの特定の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(FEPポリマー)、パーフルオロアルコキシコポリマー(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとビニリデンフルオライド(THV)とのターポリマー、およびポリビニリデンフルオライドポリマー(PVDF)が挙げられる。
【0003】
特にPTFEディスパージョンは、PTFEの特異でかつ望ましい化学的および物理的特性によって、広範な用途が見出されている。例えば、PTFEディスパージョンは、PTFEの優れた耐熱性と、非付着性によって、調理器具などの金属基材をコーティングするためのコーティング用組成物の調製に頻繁に使用されている。PTFEの耐薬品性および耐食性は、化学品製造プラントなどの工業用途に活用されている。その比類のない耐候性によって、PTFEはさらに建築ファブリック用ガラス織布のコーティングに使用されてきた。PTFEディスパージョンの製造や加工に関する詳細は、(非特許文献2)を参照されたい。
【0004】
PTFEの水性ディスパージョンは、通常、水性乳化重合で製造される。水性乳化重合は、通常、フッ素化界面活性剤の存在下で行なわれる。しばしば使用されるフッ素化界面活性剤としては、パーフルオロオクタン酸およびその塩、特にパーフルオロオクタン酸アンモニウムが挙げられる。使用されるさらに他のフルオロ化界面活性剤としては、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)および(特許文献7)で開示されているようなパーフルオロポリエーテル界面活性剤が挙げられる。これまでに使われてきたさらに他の界面活性剤は、(特許文献8)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)および(特許文献15)に開示されている。PTFEを製造する水性乳化重合法はよく知られており、例えば、(特許文献16)、(特許文献17)、(特許文献18)および(特許文献19)に開示されている。
【0005】
PTFEのある特性を向上させるために、PTFEのコア−シェル重合もまた報告されている。PTFEのコア−シェル重合は、例えば、(特許文献17)、(特許文献20)および(特許文献21)に記載がある。(特許文献22)には、樹脂、エラストマーまたは塗料中で良好なブレンド性および分散性を示すPTFEを得るためのコア−シェル重合法が開示されている。この特許では、PTFE粒子のシェルの分子量が約10,000〜800,000g/molである必要があると教示されている。コアシェル粒子のシェル部分の分子量を小さくするために、連鎖移動剤が、通常、使用される。
【0006】
(特許文献23)には、直径に対する長さの比が少なくとも5であるロッド状PTFE粒子を少なくとも1.5重量%含むコアシェルPTFEディスパージョンが教示されている。このディスパージョンのPTFE粒子の大部分は円柱状、すなわち、直径に対する長さの比が1.5以上である。そのようなディスパージョンは、高い臨界亀裂膜厚とともに優れた剪断安定性を有することが教示されている。しかしながら、非球形粒子を製造するには、重合条件を注意深くコントロールする必要がある。さらに、(特許文献23)は、重合の最終段階でテロゲン剤を使用すると、非常に低分子量のPTFEが相当量製造され、PTFEの望ましい特性が損なわれるおそれがあることを教示している。
【0007】
(特許文献24)は、イオン基を有する改質剤をシース層に有するPTFE粒子を製造するための、TFEのコア−シェル重合を教示している。そのような改質されたPTFE粒子はカチオン交換膜の作製に使用することができると教示されている。改質剤の量は、30重量%までとすることができる。
【0008】
コーティング組成物の調製に使用するために、ディスパージョンは、一般に、水性乳化重合の後に濃縮され、所望のフルオロポリマー固形分濃度とされる。通常、それは40〜70重量%である。濃縮の方法としては、例えば、加熱による濃縮、(特許文献25)に記載されているような限外濾過および(特許文献26)に記載されているようなデカンテーションが挙げられる。一般に、ディスパージョンは、非イオン系界面活性剤などの安定化界面活性剤の存在下で濃縮される。
【0009】
多くの用途では、重合および濃縮の後に得られたPTFEディスパージョンは、さらに添加剤または成分が加えられて、最終組成物が製造される。例えば、金属コーティング、特に調理器具のコーティングでは、ポリアミドイミド、ポリイミドまたは硫化ポリアリーレンなどの耐熱ポリマーを、PTFEディスパージョンにさらにブレンドして、最終組成物を得ている。金属コーティングでは、さらに顔料やマイカ粒子などの他の成分も加えて、最終コーティング組成物を得ている。そのような追加成分は、通常、トルエン、キシレンまたはN−メチルピロリドンなどの有機溶剤に分散されている。フルオロポリマーディスパージョンは、通常、最終組成物の約10〜80重量%を占める。金属コーティング用組成物およびそれらに使用される成分は、例えば、(特許文献27)、(特許文献28)、(特許文献29)および(特許文献30)に記載されている。
【0010】
しかしながら、例えば、調理器具用金属基材などの基材に用いる最終コーティング組成物の調製および/または塗布には問題がある。例えば、スプレーの際、ある時間経過後にコーティング用ダイが目詰まりを起こすおそれがある。さらに、例えば、ガラス織布コーティング用のコーティングステーションにディスパージョンをポンプで送り込む際、ポンプシステムに凝集が生じるおそれがある。またさらに、ドクターブレードによって過剰のコーティング組成物を除去する際、ディスパージョンに凝集が起こるおそれがある。これらの問題は、最終コーティング組成物の調製に使用されるPTFEディスパージョンが、少量のフッ素化界面活性剤しか含有しないときに特に顕著である。とは言え、そのようなPTFEディスパージョンは、環境保護の観点からは望ましい。
【0011】
したがって、前記の問題を克服または少なくとも軽減することが望まれている。PTFEの良好な機械的および物理的特性を損なうことなく、または実質的に損なうことなく、前記問題が軽減されるかまたは解決されることが望ましい。問題の解決法が、容易で使いやすいものであり、費用効率が高く環境に優しいものであることが好ましい。
【0012】
【特許文献1】EP 1059342
【特許文献2】EP 712882
【特許文献3】EP 752432
【特許文献4】EP 816397
【特許文献5】米国特許第6,025,307号明細書
【特許文献6】米国特許第6,103,843明細書
【特許文献7】米国特許第6,126,849号明細書
【特許文献8】米国特許第5,229,480号明細書
【特許文献9】米国特許第5,763,552号明細書
【特許文献10】米国特許第5,688,884号明細書
【特許文献11】米国特許第5,700,859号明細書
【特許文献12】米国特許第5,804,650号明細書
【特許文献13】米国特許第5,895,799号明細書
【特許文献14】国際公開第00/22002号パンフレット
【特許文献15】国際公開第00/71590号パンフレット
【特許文献16】米国特許第2,434,058号明細書
【特許文献17】米国特許第2,965,595号明細書
【特許文献18】DE 2523570
【特許文献19】EP 030663
【特許文献20】米国特許第3,142,665号明細書
【特許文献21】EP 525660
【特許文献22】EP 481509
【特許文献23】国際公開第02/072653号パンフレット
【特許文献24】米国特許第4,326,046号明細書
【特許文献25】米国特許第4,369,266号明細書
【特許文献26】米国特許第2,037,953号明細書
【特許文献27】国際公開第02/78862号パンフレット
【特許文献28】国際公開第94/14904号パンフレット
【特許文献29】EP 22257
【特許文献30】米国特許第3,489,595号明細書
【特許文献31】米国特許第5,285,002号明細書
【特許文献32】国際公開第00/35971号パンフレット
【特許文献33】GB 642,025
【特許文献34】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献35】EP 818506
【特許文献36】米国特許第5,576,381号明細書
【特許文献37】EP 969055
【特許文献38】EP 990009
【特許文献39】国際公開第03/020836号パンフレット
【非特許文献1】ジョン・シアーズ(John Scheirs)編、「モダーン・フルオロポリマーズ(Modern Fluoropolymers)」、ウィリー・サイエンス(Wiley Science)、1997年
【非特許文献2】シーナ・エブネサジャド(Sina Ebnesajjad)著、「フルオロプラスチックス(Fluoroplastics)、第1巻、ノン−メルト・プロセッシブル・フルオロプラスチックス(Non−melt processible fluoroplastics)」、プラスチックス・デザイン・ライブラリー(Plastics Design Library)、ニューヨーク州ノーウィック(Norwich,NY)、2000年、p.168−184
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様では、水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンであって、ディスパージョンの総重量を基準にして30〜70重量%の非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子と、1種もしくはそれ以上の非イオン系界面活性剤とを含み、かつ、前記非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が、イオン基を含む繰り返し単位を有する、ポリテトラフルオロエチレンのポリマー鎖を含むディスパージョンを提供する。
【0014】
「非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン」という用語は、ポリテトラフルオロエチレンの溶融粘度が非常に高いために、通常の溶融加工装置をポリテトラフルオロエチレンの加工に使用できないことを意味する。これは、一般に、溶融粘度が>1010Pa・sであることを意味する。
【0015】
水性ディスパージョンは、さらに他の成分、特に有機溶剤と組み合わされて最終コーティング組成物として塗布するとき、凝集の問題は起こりにくくなる。他の成分と組み合わされて最終コーティング組成物を製造する場合、ディスパージョン中のフッ素化界面活性剤の濃度が低くても、このディスパージョンは良好な安定性を有し、一般に、凝集という問題は起こしにくい。したがって、高い安定性を有し、環境に優しいディスパージョンが製造される。さらに、このディスパージョンは、容易にかつ費用効率よく製造し得る。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンの水性ディスパージョンの製造方法であって、前記方法は、一定量のテトラフルオロエチレンと、重合終了時に一定量のポリテトラフルオロエチレン固形分を製造できるように、テトラフルオロエチレンの量を基準にして1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下の、イオン基またはその前駆体を有するコモノマーとを水性乳化重合させる工程であって、前記水性乳化重合はフリーラジカル重合開始剤によって開始され、かつ重合はフッ素化界面活性剤の存在下で行なわれる工程と、こうして得られた水性ディスパージョンに1種もしくはそれ以上の非イオン系界面活性剤を添加する工程と、を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
重合プロセス
PTFEの水性ディスパージョンは、TFEと、イオン基またはその前駆体を有する1種もしくはそれ以上のコモノマーとの水性乳化重合によって製造される。モノマーがイオン基の前駆体である基のみを含む場合のように、モノマー自身はイオン性でない場合もあるが、以下、便宜上、コモノマーを「イオン性コモノマー」と略記するものとする。重合に供給するイオン性コモノマーの量は、通常、重合終了時にPTFE固形分の最終的な量が製造されるように、重合過程で供給するTFEの量を基準にして1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下である。
【0018】
イオン性コモノマーは、重合のいかなる段階で添加してもよいが、少なくともその一部、好ましくはコモノマーの総量を、重合の最終段階で、TFEと共に供給する。「重合の最終段階」とは、TFEの総重量の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%が、重合に供給された段階を意味する。PTFE粒子を使用するシード重合では、重合の最終段階は、シード粒子を製造するために使用されたTFEの量は考慮せず、シード重合のために供給されたTFEの総量に対して決定される。
【0019】
イオン性コモノマーのイオン基の例としては、カルボン酸、スルホン酸、リン酸またはホスホン酸などの酸基またはその塩が挙げられる。イオン基の前駆体基としては、例えば、加水分解で酸基またはその塩を生成するエステル、加水分解でカルボン酸基を生成するニトリル基、および、加水分解でスルホン酸基またはその塩を生成するSO2F基などの、加水分解によってイオン基を生成する基が挙げられる。イオン性コモノマーは、例えば、1つもしくはそれ以上のイオン基またはその前駆体を有するパーフルオロ化したアリルまたはビニルエーテルを含む、パーフルオロ化モノマーであることが好ましい。
【0020】
ある特定の実施形態によれば、イオン性コモノマーは、次の一般式に対応する。
CF2=CF−(−CFX)s−(OCF2CFY)t(O)h−(CFY’)u−A
(I)
(式中、sは0または1;tは0〜3、hは0〜1;uは0〜12であり;Xは−F、−Clまたは−CF3を表し;YおよびY’は独立して−FまたはC110のパーフルオロアルキル基を表し;Aはイオン基またはその前駆体、−CN、−COF、−COOH、−COOR、−COOMまたは−COONRR’、−SO2F,−SO3M、−SO3H、−PO32、−PO3RR’、−PO32を表し;Mはアルカリ金属イオンまたは第4アンモニウム基を表し;RおよびR’は例えばC110アルキル基などの炭化水素基を表わし;RおよびR’は同じであっても異なっていてもよい。)
【0021】
さらに別の実施形態によれば、イオン性コモノマーは次の一般式に対応する。
CF2=CF−O−Rf−Z (II)
(式中、Rfは場合により1つもしくはそれ以上の酸素原子で中断されているパーフルオロアルキレン基を表し、Zはカルボン酸基、その塩、または、式COOR(但し、Rはアルキル基またはアリール基などの炭化水素基を表す。)で表されるエステルなどのカルボン酸基の前駆体、あるいは、スルホン酸基、その塩、または、SO2Fなどのスルホン酸基の前駆体を表す。)一つの実施形態では、Rfは2〜8個の炭素原子を有するパーフルオロアルキレン基を表す。あるいは、Rfは、例えば式AまたはBに対応するパーフルオロエーテル基であってもよい。
−(CF2n(O(CF2xm(CF2k− (A)
(式中、nは1〜6の整数、xは1〜5の整数、mは1〜4の整数、kは0〜6の整数である。)
−[CF2CF(CF3)O]p−(CF2q
(式中、pは1〜3の整数、qは2〜4の整数である。)
【0022】
式(II)のイオン性コモノマーを使用すると、得られる繰り返し単位は次式に対応するであろう。
−CF2−CF−O−Rf−G
(式中、Rfは場合により1つもしくはそれ以上の酸素原子で中断されているパーフルオロアルキレン基を表し、Gはカルボン酸基もしくはその塩またはスルホン酸基もしくはその塩を表し、オープンの原子価は、ポリマー鎖における繰り返し単位と他の繰り返し単位との結合を示している。)
【0023】
イオン性コモノマーの具体例としては、
CF2=CF−O−(CF22−SO2
CF2=CF−O−(CF23−SO2
CF2=CF−O−(CF23−COOCH3
CF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−(CF22−COOCH3
CF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−(CF23−COOCH3
CF2=CF−O−[CF2CF(CF3)−O]2−(CF22−COOCH3
CF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−(CF22−SO2
CF2=CF−O−[CF2CF(CF3)−O]2−(CF22−SO2
CF2=CF−O−(CF24−SO2
が挙げられる。
【0024】
重合は、イオン性コモノマーの他に、場合により、例えばパーフルオロ化ビニルエーテル、パーフルオロ化アリルエーテル、または、例えばヘキサフルオロプロピレンなどのパーフルオロ化C3〜C8オレフィンなどの、パーフルオロ化コモノマーを使用してもよい。使用可能な、特に有用なパーフルオロ化コモノマーとしては、次式に対応するものが挙げられる。
CF2=CF−O−Rf (III)
(式中、Rfは、1つもしくはそれ以上の酸素原子を含有してもよいパーフルオロ化脂肪族基を表す。)その具体例としては、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテルおよびパーフルオロn−プロピルビニルエーテル(PPVE−1)などのパーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロ−2−プロポキシプロピルビニルエーテル(PPVE−2)、パーフルオロ−3−メトキシ−n−プロピルビニルエーテル、パーフルオロ−2−メトキシ−エチルビニルエーテルおよびCF3−(CF22−O−CF(CF3)−CF2−O−CF(CF3)−CF2−O−CF=CF2が挙げられる。
【0025】
そのような任意選択のさらなるコモノマーとイオン性コモノマーの総量は、通常、テトラフルオロエチレンの総量の1重量%以下である。この量が1%を超えると、得られるPTFEは溶融加工が可能となって、非溶融加工性PTFEを定義しているISO12086標準に合致しなくなるであろう。
【0026】
水性乳化重合は、フッ素化界面活性剤の存在下で行なわれる。PTFE粒子を十分に安定化し、また、所望の粒径のPTFE粒子を得るために、通常、有効量のフッ素化界面活性剤が使用される。フッ素化界面活性剤の量は、水性乳化重合で使用される水の量に対して、通常、0.01〜2重量%、好ましくは、0.05〜1重量%である。
【0027】
フッ素化モノマーの水性乳化重合用として周知のまたは適したフッ素化界面活性剤であれば、いかなるものも使用することができる。特に適したフッ素化界面活性剤は、通常、非テロゲン系のアニオン系フッ素化界面活性剤であり、次式に対応するものが挙げられる。
Q−Rf−Z−Ma (IV)
(式中、Qは水素、ClまたはFを表し、Qは末端に位置していても位置していなくてもよく;Rfは4〜15個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状パーフルオロ化アルキレンを表し;ZはCOO-またはSO3-を表し、Maはプロトン、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオンなどのカチオンを表す。)
上記式(IV)で示す乳化剤の代表的な例は、パーフルオロオクタン酸およびその塩、特にアンモニウム塩などの、パーフルオロアルカン酸およびその塩である。
【0028】
使用できる他のフッ素化界面活性剤としては、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)および(特許文献7)に開示されているようなパーフルオロポリエーテル界面活性剤が挙げられる。これまでに使用されているさらに他の界面活性剤は、(特許文献8)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)および(特許文献15)に開示されている。
【0029】
TFEの水性乳化重合は、ラジカル開始剤によって開始される。TFEの水性乳化重合を開始するための開始剤として周知のまたは適したものであればいかなるものも使用することができる。適した開始剤としては、有機および無機の開始剤が挙げられるが、一般には後者が好ましい。使用可能な無機の開始剤の例としては、例えば、過硫酸、過マンガン酸またはマンガン酸のアンモニウム塩、アルカリ塩またはアルカリ土類塩、もしくはマンガン酸誘導体が挙げられる。過硫酸塩の開始剤は、単独で使用することができるが、還元剤と組み合わせて使用してもよい。適した還元剤としては、例えば、亜硫酸水素アンモニウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸水素塩、例えばチオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウムまたはチオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩、ヒドラジン、アゾジカルボキシレートおよびアゾジカルボキシルジアミド(ADA)が挙げられる。使用可能なさらに他の還元剤としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(独国、ルードヴィッヒスハーフェン(Ludwigshafen、Germany)のバスフ・カンパニー(BASF Co.)からロンガライト(Rongalite)(登録商標)として入手可能)または(特許文献31)に開示されているようなフルオロアルキルスルフィナートが挙げられる。還元剤は、通常、過硫酸塩開始剤の半減期を減少させる。また、例えば、銅、鉄または銀の塩などの金属塩触媒を添加してもよい。一般に、マンガンまたは過マンガンをベースとする開始剤を使用する場合、重合の後、得られたディスパージョンをカチオン交換樹脂に接触させることにより、マンガンイオンを除去することができる。
【0030】
重合は、通常、10〜100℃、好ましくは40℃〜80℃の温度、および、4〜30bar、好ましくは8〜20barの圧力で行われる。水性乳化重合系は、さらに、緩衝剤および錯体形成剤などの助剤を含んでもよい。ある特定の実施形態では、シード重合が使用される。すなわち、重合は、フルオロポリマーの微粒子、通常、50〜100nmの体積平均径を有するPTFE微粒子の存在下で、開始される。そのようなシード粒子ディスパージョンは、別の水性乳化重合で製造され、水性乳化重合の水の量を基準にして、20〜50重量%の量が使用される。シード粒子を使用することによって、PTFE粒子径を所望の径に良好にコントロールすることができ、重合過程で爆発の原因となるおそれのある凝塊が重合過程で形成されるのを回避することができる。また、製造される粒子が一般に球形、すなわち、粒子の2つの主要な直交する寸法の最大と最小の比が1.5未満、好ましくは1〜1.3となるような重合条件を選択することが好ましい。したがって、重合は、棒状または円柱状粒子などの非球形粒子が形成されるような特別な方法を採らずに行なわれなければならず、したがって、製造されるPTFE粒子の少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が球形となるであろう。
【0031】
重合終了後に得られるポリマー固形分量は、通常、10〜45重量%、好ましくは20〜40重量%であり、得られるフルオロポリマーの平均粒子径(体積平均径)は、通常、50〜350nm、好ましくは100〜300nmである。
【0032】
フッ素化界面活性剤の量の低減
本発明の好ましい実施形態では、重合後、水性ディスパージョンに含まれるフッ素化界面活性剤の量が低減される。PTFE水性ディスパージョン中のフッ素化界面活性剤の量は、多くの方法で減少させることができる。一般に、そうした方法においては、安定化(非フッ素化)界面活性剤の添加が必要である。フッ素化界面活性剤を除去するために使用する技術によっては他の安定化界面活性剤も適したものになるが、通常は、この安定化非フッ素化界面活性剤は、非イオン系の界面活性剤である。使用する非イオン系界面活性剤または非イオン系界面活性剤の混合物は、芳香族基を有さないことが好ましく、これにより、環境により優しいディスパージョンが提供される。有用な非イオン系界面活性剤の例としては、次式に示すものが挙げられる。
1−O−[CH2CH2O]n−[R2O]m−R3 (V)
(式中、R1は少なくとも8個の炭素原子を有する芳香族または脂肪族炭化水素基を表し、R2は3個の炭素原子を有するアルキレンを表し、R3は水素またはC1〜C3アルキル基を表し、nは0〜40の値を有し、mは0〜40の値を有し、n+mの和は少なくとも2である。)上記式(V)において、インデックスとしてnおよびmを付した単位は、ブロックとして現れてもよいし、交互にまたはランダムな形で存在してもよい。上記式(V)で示される非イオン系界面活性剤の例としては、エトキシ単位数が約10であるトリトンTMX100(TRITONTMX100)、エトキシ単位数が約7〜8であるトリトンTMX114(TRITONTMX114)など、トリトン(TRITON)TMの商品名で商業的に入手可能なエトキシ化p−イソオクチルフェノールなどのエトキシ化アルキルフェノールが挙げられる。さらに他の例としては、上記式(V)中、R1が炭素原子4〜20個の炭素原子のアルキル基を表し、mが0であって、R3が水素であるものが挙げられる。その例としては、クラリアント・GmbH(Clariant GmbH)からゲナポール(登録商標)X080(GENAPOL(登録商標)X080)として商業的に入手可能な、約8個のエトキシ基でエトキシ化されたイソトリデカノールが挙げられる。式(V)で示される非イオン系界面活性剤であって、その親水性部分にエトキシ基とプロポキシ基のコポリマーを含むものも、使用可能である。そのような非イオン系界面活性剤は、クラリアント・GmbH(Clariant GmbH)からゲナポール(登録商標)PF40(GENAPOL(登録商標)PF40)およびゲナポール(登録商標)PF80(GENAPOL(登録商標)PF80)の商品名で商業的に入手可能である。
【0033】
フッ素化界面活性剤を低減するための一つの実施形態においては、例えば上で開示したような非イオン系界面活性剤をフルオロポリマーディスパージョンに添加し、その後、このフルオロポリマーディスパージョンをアニオン交換剤と接触させる。このような方法は、(特許文献32)に詳細に開示されている。
【0034】
アニオン交換法は、本質的に塩基性条件で実施されることが好ましい。したがって、イオン交換樹脂は、フッ化物、塩化物または硫酸塩などのアニオンも使用できるが、OH-の形態が好ましい。イオン交換樹脂の比塩基度は、あまり重要ではない。強塩基性の樹脂は、低分子量のフッ素化界面活性剤を高効率で除去できるので好ましい。この方法は、フルオロポリマーディスパージョンをイオン交換樹脂を充填したカラムに供給することによって実施される。あるいは、フルオロポリマーディスパージョンをイオン交換樹脂と共に撹拌し、その後、ろ過によってフルオロポリマーディスパージョンを分離するようにしてもよい。この方法によれば、低分子量フッ素化界面活性剤を200ppm未満、150ppm未満、または10ppm未満のレベルにまでも減少させることができる。したがって、これによって実質的にフッ素化界面活性剤を含まないディスパージョンを得ることができる。
【0035】
フッ素化界面活性剤が遊離酸であり、水蒸気揮発性の場合は、代わりに次の方法を使用してフッ素化界面活性剤の量を減少させることができる。遊離酸の形態の水蒸気揮発性フッ素化界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を水性フルオロポリマーディスパージョンに添加し、水性フルオロポリマーディスパージョンのpHが5未満で、ディスパージョン中の水蒸気揮発性フッ素化界面活性剤の濃度が所望の値となるまで、蒸留によって水蒸気揮発性フッ素化界面活性剤を除去することによって、水性フルオロポリマーディスパージョンから除去される。この方法で除去できるフッ素化界面活性剤としては、例えば、前記式(IV)で示される界面活性剤が挙げられる。
【0036】
またさらに、フッ素化界面活性剤の量は、(特許文献25)に開示されているような限外ろ過を使用することによって、所望のレベルまで減少させることができる。一般に、この方法は、同時にまたディスパージョンの固形分量も増大させるので、フッ素化界面活性剤の除去と同時にディスパージョンの濃縮に使用することができる。
【0037】
濃縮
得られたPTFE固形分が所望の濃度より低ければ、水性ディスパージョンを濃縮することができる。これは、もしフッ素化界面活性剤のレベルを低下させることが望ましい場合には、通常、フッ素化界面活性剤のレベルを低下させた後に行われる。しかしながら、ディスパージョンの濃縮中に、あるいは上述のように濃縮と同時に、フッ素化界面活性剤の量を減少させることも可能である。フルオロポリマー固形分の量を増大させるためには、適したまたは周知のいかなる濃縮技術も使用できる。これらの濃縮技術は、通常、非イオン系界面活性剤の存在下で実施される。非イオン系界面活性剤は、濃縮プロセスにおいてディスパージョンを安定化させるために添加される。濃縮するディスパージョン中に存在すべき非イオン系界面活性剤の量は、通常、2〜15重量%、好ましくは、3〜10重量%である。濃縮に適した方法としては、(特許文献33)に開示されているような限外ろ過、熱濃縮、熱デカンテーションおよび電気デカンテーションが挙げられる。
【0038】
限外ろ過法は、(a)濃縮することが望ましいディスパージョンに、非イオン系界面活性剤を加える工程と、(b)ディスパージョンを半透性限外ろ過膜の上で循環させて、フッ素化ポリマーのディスパージョン濃縮液と水性透過物とに分離する工程とを含む。循環は、通常、秒速2〜7メートルの輸送速度であり、ポンプにより影響されるが、この速度では、フッ素化ポリマーが成分と接触して摩擦力が発生するのを避けることができる。
【0039】
水性ディスパージョン中のフルオロポリマー固形分を増大させるために、熱デカンテーションもまた用いられる。この方法では、濃縮することが望ましいフルオロポリマーのディスパージョンに非イオン系界面活性剤を添加し、その後、ディスパージョンを加熱して、デカントできる上澄み層を形成させる。この上澄み層は、通常、水およびいくらかの非イオン系界面活性剤を含有し、もう一方の層は濃縮されたディスパージョンを含有する。この方法は、例えば(特許文献34)および(特許文献35)に開示されている。
【0040】
熱濃縮法は、所望の濃度に達するまで、減圧下、ディスパージョンを加熱し、水を除去することを含む。
【0041】
水性PTFEディスパージョン
コーティング組成物の調製に適した水性ディスパージョンは、そのコロイドの安定性を最適化し、また、所望のコーティング特性を得るために、非イオン系界面活性剤を含有する。その量は、一般に、PTFE固形分の重量を基準にして2〜15重量%、好ましくは3〜10重量%である。非イオン系界面活性剤の量は、任意選択によるフッ素化界面活性剤の除去の際および/または任意選択によるディスパージョンの濃縮の際に使用される安定化用界面活性剤の量から決めることができる。しかしながら、非イオン系界面活性剤の量は、さらに非イオン系界面活性剤を加えて、ディスパージョン中における非イオン系界面活性剤の濃度が前記範囲内の所望のレベルとなるように調節してもよい。ディスパージョンは、さらなる成分と組み合わせて、例えば金属などの基材にコーティングするための最終コーティング組成物を製造するのに最も適したディスパージョンとするために、通常、30〜70重量%、好ましくは45〜65重量%の範囲のPTFE固形分量を含有する。
【0042】
特に好ましい水性ディスパージョンとしては、フッ素化界面活性剤を含有しないもの、または、水性ディスパージョン中のフルオロポリマー固形分量を基準にしてフッ素化界面活性剤を200ppm以下、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、特に好ましくは30ppm以下含有するものが挙げられる。
【0043】
本発明の水性PTFEディスパージョンは、PTFE固形分量を58重量%に調節した150gのディスパージョンを、2gのキシロールと、温度20℃、撹拌速度8000rpmで撹拌したとき、通常、少なくとも5分、好ましくは少なくとも7分の剪断安定性を有する。そのようなディスパージョンは、スプレーヘッド閉塞のリスクなしに、もしくは低減されたリスクで、または、使用するポンプシステムにおける凝集のリスクなしに、もしくは低減されたリスクで、既存のコーティング装置で使用することができる最終コーティング組成物の配合のために使用できることが判明した。一般に、凝集のリスクは十分に低減することができるので、実用上、凝集は起こらないか、またはコーティング工程を害するようなことはない。
【0044】
PTFEディスパージョンは、平均粒子径の異なるPTFE粒子の混合物を含有してもよい。すなわち、PTFE粒子の粒子径分布は、例えば(特許文献36)および(特許文献37)で開示されているような二峰性または多峰性であってよい。多峰性PTFE粒子のディスパージョンは、有利な特性を示し得る。例えば、PTFEディスパージョンは、(特許文献36)に開示されているような、平均粒子径が少なくとも180nmの第一のPTFE粒子と、平均粒子径(体積平均粒子直径)が第一のPTFE粒子の平均粒子径の0.7倍以下の第二のPTFE粒子との混合物を含んでもよい。二峰性または多峰性PTFEディスパージョンは、粒子径が異なる水性PTFEディスパージョンを所望の量、一緒にブレンドすることによって、便利に得ることができる。一般に、多峰性または二峰性PTFEディスパージョンを得るために使用する個々のPTFEディスパージョンは、イオン性コモノマーを使用して上記水性乳化重合法で製造されたものであることが好ましい。特に、二峰性または多峰性ディスパージョン中、例えば体積平均粒子直径が50〜200nmといった小粒子径のPTFE粒子は、少なくとも上記水性乳化重合法で製造される必要がある。というのは、これらの粒子は、最終コーティング組成物の調製および使用時に遭遇する問題に対して、大きな影響を与えることが判明しているからである。ディスパージョン中に含まれる非溶融加工性PTFE粒子の少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、特に好ましくは全てが、イオン基を含む繰り返し単位を有するPTFEポリマー鎖を含有するPTFE粒子であることが好ましい。
【0045】
さらに、PTFEディスパージョンは、他のフルオロポリマー、特に溶融加工性フルオロポリマーの水性ディスパージョンと混合してもよい。PTFEディスパージョンと混合可能な溶融加工性フルオロポリマーのディスパージョンに適したものとしては、次のフルオロポリマー:TFEとパーフルオロビニルエーテルのコポリマー(PFA)およびTFEとHFPのコポリマー(FEP)のディスパージョンが挙げられる。このようなディスパージョンは、例えば(特許文献38)に開示されているような一峰性、二峰性または多峰性のいずれのものであってもよい。
【0046】
PTFEディスパージョンは、導電率が少なくとも500μS、通常は500μS〜1500μSであることが好ましい。導電率が低すぎると、剪断安定性が低下する。例えば塩化ナトリウムまたは塩化アンモニウムなどの単純な無機塩のような塩を加えることによって、ディスパージョンの導電率を所望のレベルに調節することができる。導電率のレベルは、また、(特許文献39)に開示されているような、アニオン系非フッ素化界面活性剤をディスパージョンに加えることによって調節することができる。
【0047】
アニオン系非フッ素界面活性剤としては、pKaが4以下、好ましくは3以下の酸基を有する界面活性剤が一般に好ましい。そのようなアニオン系界面活性剤は、粘度調節に加えて、一般にフルオロポリマーディスパージョンの安定性を増大させ得ることが見出された。非フッ素化アニオン系界面活性剤の例としては、1つもしくはそれ以上のアニオン基を有する界面活性剤が挙げられる。アニオン系非フッ素化界面活性剤は、1つもしくはそれ以上のアニオン基に加えて、ポリオキシエチレン基のようなオキシアルキレン基中に2〜4個の炭素原子を有するポリオキシアルキレン基、あるいは、アミノ基などの他の親水基を含んでいてもよい。とはいえ、界面活性剤にアミノ基が含まれるとき、ディスパージョンのpHは、アミノ基がプロトン化の形態をとらないようにする必要がある。代表的な非フッ素化界面活性剤としては、アニオン系炭化水素界面活性剤が挙げられる。「アニオン系炭化水素界面活性剤」という用語は、ここで使用されるときは、分子中に1つもしくはそれ以上の炭化水素部分と、1つもしくはそれ以上のアニオン基、特に、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、カルボン酸基およびそれらの塩などの酸基を有する界面活性剤が含まれる。アニオン系炭化水素界面活性剤の炭化水素部分の例としては、例えば6〜40個、好ましくは8〜20個の炭素原子を有する飽和および不飽和の脂肪族基が挙げられる。そのような脂肪族基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、かつ、環状構造を含んでいてもよい。炭化水素部分は、また、芳香族であってもよく、芳香族基を含有していてもよい。さらに、炭化水素部分は、1つもしくはそれ以上のヘテロ原子、例えば酸素、窒素および硫黄などを含有していてもよい。
【0048】
本発明で使用するアニオン系炭化水素界面活性剤の特別な例としては、ラウリルスルホナートなどのアルキルスルホナート、ラウリルスルフェートなどのアルキルスルフェート、アルキルアリールスルフォナートおよびアルキルアリールスルフェート、ラウリン酸およびその塩などの脂肪(カルボン)酸およびその塩、並びに、燐酸のアルキルエステルまたはアルキルアリールエステルおよびそれらの塩が挙げられる。使用可能な商業的に入手できるアニオン系炭化水素界面活性剤としては、クラリアント・GmbH(Clariant GmbH)から入手できるエマルソーゲンTM LS(EmulsogenTM LS)(ラウリル硫酸ナトリウム)およびエマルソーゲンTM EPA 1954(EmulsogenTM EPA 1954)(C12〜C14アルキル硫酸ナトリウムの混合物)、並びに、ユニオン・カーバイド(Union Carbide)から入手可能なトリトンTMX−200(TRITONTMX−200)(アルキルスルホン酸ナトリウム)が挙げられる。好ましいのは、スルホナート基を有するアニオン系炭化水素界面活性剤である。水性PTFEディスパージョン中に存在してもよいさらなる任意成分としては、緩衝剤および酸化防止剤が挙げられる。
【0049】
本発明のPTFEディスパージョンは、例えば調理器具などの金属基材、建築用ファブリックとして使用されるグラスファイバーベースのファブリックなどの、各種基材をコーティングするための最終コーティング組成物の製造に使用することができる。一般に、PTFEディスパージョンは、通常、最終コーティング組成物を製造するために使用されるさらなる成分とブレンドされる。そのようなさらなる成分は、トルエン、キシロールなどの有機溶媒に溶解または分散させる。最終コーティング組成物に使用される代表的な成分としては、ポリアミドイミド、ポリイミドまたはポリアリーレンスルフィドなどの耐熱ポリマーが挙げられる。さらに顔料やマイカ粒子などの成分も加えて、最終コーティング組成物を得てもよい。PTFEディスパージョンは、通常、最終組成物の約10〜80重量%を占める。金属コーティング用組成物とそれに使用される成分の詳細は、例えば(特許文献27)、(特許文献28)、(特許文献29)および(特許文献30)に記載されている。
【実施例】
【0050】
以下の実施例を参照しながら本発明をさらに説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0051】
略語
MV4S:CF2CFO(CF24SO2
【0052】
方法
固形分および非イオン系乳化剤の定量
両重量は、ISO 12086にしたがって重量法により測定した。実施例に示す非イオン系乳化剤の含有量は、固形分に対するものあり、±5%の精度を有すると推定される。実施例に示す固形分の数値は±1%の精度である。不揮発性無機塩に対する補正は考慮しなかった。
【0053】
粒子径
PTFE粒子の粒子径は、マルバーン1000 HAS ゼータサイザー(Malvern1000 HAS Zetasizer)を使用し、非弾性光散乱法により測定した。平均粒子径は体積平均直径で示している。
【0054】
APFOの定量
APFO含有量は、内部標準として例えばパーフルオロデカン酸のメチルエステルを使用して、メチルエステルのガスクロマトグラフィにより測定した。APFOをメチルエステルに定量的に変換するために、200μlのディスパージョンを、0.3gのMgSO4の存在下、100℃で1時間、2mlのメタノールおよび1mlの塩化アセチルにより処理する。形成されたメチルエステルを2mlのヘキサンで抽出し、ガスクロクロマトグラフィにより分析する。検出限界は<5ppmである。実施例に示したAPFO含有量はディスパージョンの固形分に対する値である。
【0055】
導電率
導電率は、メトローム・AG(Metrohm AG)製の712コンダクトメータ(712 Conductmeter)で測定した。ディスパージョンの導電率が1000μS/cm未満の場合には、濃縮前に硫酸アンモニウムの水溶液(1%)を添加して、導電率を約1000μS/cmに調節した。
【0056】
重合
3フィンガーパドル撹拌器およびバッフルを備えた150lのステンレス鋼製重合容器を使用した。撹拌速度は210rpmとし、重合中、一定に維持した。重合速度は、反応容器へのTFEの流量によって測定した。平均重合速度は、12〜16kg/時間の範囲であった。形成されたポリマーの体積分だけ、気体スペースからTFEが置換されることを伴うPTFEの形成は考慮しなかった。温度とTFE圧力は、重合中は一定に保った。
【0057】
剪断安定性試験
20℃に温度調節したディスパージョン150gを、内径65mmの250ml標準ガラスビーカーに入れる。ジャンケ・アンド・クンケル(Janke & Kunkel)製のウルトラ ターラックス T25(Ultra Turrax T25)撹拌器のヘッドをビーカーの中央部に、そのヘッドの先端がビーカーの底から7mm上に位置するように浸漬させる。ウルトラ ターラックス(Ultra Turrax)をスイッチオンし、8000rpmの回転速度で回転させる。撹拌によってディスパージョンの表面は、「乱れた」または「波立った」状態となる。10〜20秒後、撹拌中のディスパージョンに、2.0gのキシレンを10秒未満の時間内で滴下する。時間の測定はキシレンの添加と同時に開始し、撹拌中のディスパージョンの表面に目に見える乱れがなくなった時に終了する。表面は凝集によって「凝固」または滑らかになる。凝集により、ウルトラ ターラックス(Ultra Turrax)の音が特徴的に変化する。泡の形成により「表面凝固」が明瞭に観察されない場合は、時間の測定は音の変化の開始と同時に停止する。実施例に示した数値は5回の測定の平均である。再現性は10%であった。
【0058】
フッ素化界面活性剤:パーフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)の除去
重合により得られたばかりのディスパージョンは、粗ディスパージョンと称される。固形分重量を基準にして2%のトリトン(登録商標)X100(Triton(登録商標)X100)を粗ディスパージョンに加えた。OH-形態のアニオン交換樹脂アンバーライト(登録商標)IRA402(Amberlite(登録商標)IRA402)100mlを1lの粗ディスパージョンに加えた。混合物を12時間弱く撹拌し、交換樹脂をガラスフィルターでろ過し除去した。APFO含有量は、ディスパージョンの固形分を基準にして20ppm未満であった。
【0059】
濃縮
必要に応じて、硫酸アンモニウム水溶液を加えて、APFOを低減したディスパージョンの導電率を500μS/cmに調節した。その後、非イオン系界面活性剤の存在下で蒸発による熱濃縮を行い、固形分量を約58%とした。非イオン系界面活性剤として、ダウ・ケミカル(Dow Chemical)から入手できるトリトン(登録商標)X100(TRITON(登録商標)X100)を使用した。非イオン系界面活性剤の量は、総固形分量の5%であった。必要に応じて、アンモニア水溶液を加えてpHを9に調節し、硫酸アンモニウム水溶液を加えて導電率を1000μS/cmに調節した。このようにして濃縮されたディスパージョンを、上記の剪断試験に供した。
【0060】
実施例1:シードラテックスの製造
400gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)を含有する100lの脱イオン水を150lの重合容器に投入した。真空引きと窒素による6barまでの加圧を交互に行なって空気を除去した。その後、140gのHFPを容器に供給した。容器中の温度を、35℃に調節した。容器をTFEで15bar(絶対圧)まで加圧した。その後、0.6gのNa225、25gの25%アンモニア溶液および20mgのCuSO4・5H2Oを含む脱イオン水100mlをポンプで容器に供給した。1.1gのAPSを含有する脱イオン水100mlをポンプで容器に迅速に供給することによって重合を開始した。重合の温度および圧力を一定に維持した。撹拌の速度を適切に調節することによって、TFEの消費量を約12kg/hに調節した。11kgのTFEが消費された時、TFEの供給を止めるとともに撹拌速度を低下させて重合を停止した。容器のガス抜きを行い、得られたディスパージョンを取り出した。こうして得られたディスパージョンは、固形分が10%で、粒子径が約100nmであった。このディスパージョンは、以下、「シードラテックス」と称する。
【0061】
実施例2
実施例1に記載したようにして製造した20lのシードラテックスを、270gのオクタン酸アンモニウムを含む80lの脱イオン水と共に、150lの重合容器に仕込んだ。実施例1に記載したようにして空気を除去した。TFEで容器を15barの絶対圧に加圧し、温度を42℃に調節した。一定の圧力および温度で重合を行った。0.7gのAPS、20mgのCuSO4・5H2Oおよび60gの25%アンモニア水を含有する水溶液200mlを容器に仕込んだ。10%のNaOHを15ml含有する脱イオン水3000ml中に、アゾジカルボキシルジアミド(ADA)を0.15g溶解した水溶液を、ポンプにより容器に連続供給することによって、重合を開始した。連続的に供給されるADA溶液の濃度は、0.05gADA/lであった。最初の10分間はポンプによる供給速度を50ml/分とし、その後15〜25ml/分に低下させた。TFEの消費速度が約12kg/hとなるように、供給速度および撹拌速度を調節した。22kgのTFEが消費された時、ADA溶液およびTFEの供給を中断して重合を停止した。容器のガス抜きを行い、ディスパージョンを取り出した。こうして得られたディスパージョンは、固形分が約21重量%で、粒子径が220nmであった。
【0062】
APFOをイオン交換により除去し、ディスパージョンを、上述した手順にしたがって固形分量58%まで熱濃縮した。こうして得られたディスパージョンは、4:15分の剪断安定性を示した。
【0063】
実施例3:イオン性コモノマーの使用
90重量%のTFEが重合反応に供されたとき、ADAの供給を停止したこと、および、50gの水に0.6gのNa225を溶解させた溶液をまず容器に仕込み、その後、0.8gのAPS、20mgのCuSO4・5H2Oおよび60gの25%アンモニア水を含有する150mlの水溶液を仕込んだことを除いて、実施例2に記載したようにして重合を行った。その後、パーフルオロオクタン酸アンモニウム溶液中のMV4Sのエマルジョン340gを重合容器に注入した。MV4Sエマルジョンは、170gのMV4Sと170gの0.5%パーフルオロオクタン酸アンモニウム溶液とを、高剪断撹拌装置(IKA ウルトラ ターラックス T25(IKA Ultra Turrax T25)、ツール:S25−KV−25F)を使用して、20000rpmで1分間、撹拌することによって調製した。TFEが総量で23kg消費された時、TFEの供給を止めて重合を停止した。容器のガス抜きを行い、ディスパージョンを取り出した。
【0064】
固形分を基準にして2重量%のトリトン(登録商標)X100(Triton(登録商標)X100)および5mMol−NH3/l−ディスパージョンを、ディスパージョンに加えた。イオン交換によりAPFOを除去し、上述の手順にしたがってディスパージョンを濃縮した。こうして得られたディスパージョンの剪断安定性は、>30分であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンを含む組成物であって、このディスパージョンは、ディスパージョンの総重量を基準にして30〜70重量%の非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子と、1種もしくはそれ以上の非イオン系界面活性剤とを含み、かつ、前記非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が、イオン基を含む繰り返し単位を有する、ポリテトラフルオロエチレンのポリマー鎖を含む組成物。
【請求項2】
イオン基を含む繰り返し単位の総重量が、イオン基を含む繰り返し単位を有するポリテトラフルオロエチレンのポリマー鎖を含むポリテトラフルオロエチレン粒子の総重量を基準にして1重量%以下である請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項3】
イオン基が、カルボン酸基もしくはスルホン酸基またはそれらの塩を含む請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項4】
イオン基を含む繰り返し単位が、イオン基またはその前駆体を有するパーフルオロ化モノマーから誘導される請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項5】
パーフルオロ化モノマーが、一般式:
CF2=CF−O−Rf−Z
(式中、Rfは場合により1つもしくはそれ以上の酸素原子で中断されているパーフルオロアルキレン基を表し、Zはカルボン酸基、その塩もしくはその前駆体、または、スルホン酸基、その塩もしくはその前駆体を表す。)
に対応する請求項4に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項6】
イオン基を含む繰り返し単位が、一般式:
−CF2−CF−O−Rf−G
(式中、Rfは場合により1つもしくはそれ以上の酸素原子で中断されているパーフルオロアルキレン基を表し、Gはカルボン酸基もしくはその塩、または、スルホン酸基もしくはその塩を表し、オープンの原子価は、ポリマー鎖における繰り返し単位と他の繰り返し単位との結合を示している。)
に対応する請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項7】
ディスパージョン中のフッ素化界面活性剤の量が、フルオロポリマーの固形分量を基準にして200ppm以下である請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項8】
非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子の総量が、45〜65重量%であり、かつ、1種もしくはそれ以上の非イオン系界面活性剤が総量で、ポリテトラフルオロエチレン固形分の総重量を基準にして、2〜15重量%存在する請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項9】
イオン基を含む繰り返し単位を有するポリテトラフルオロエチレンのポリマー鎖を特徴とする非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子が、非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレン粒子の総重量の少なくとも30重量%を含む請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン。
【請求項10】
非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンの水性ディスパージョンの製造方法であって、(i)一定量のテトラフルオロエチレンと、重合プロセス終了時に一定量のポリテトラフルオロエチレン固形分が得られるように、テトラフルオロエチレンの量を基準にして1重量%以下の、イオン基またはその前駆体を有するコモノマーとを水性乳化重合させる工程であって、前記水性乳化重合はフリーラジカル重合開始剤によって開始され、かつ重合はフッ素化界面活性剤の存在下で行なわれる工程と、(ii)こうして得られた水性ディスパージョンに1種もしくはそれ以上の非イオン系界面活性剤を添加する工程とを含む方法。
【請求項11】
テトラフルオロエチレンの量の少なくとも80重量%が重合反応に供給された時点で、イオン基またはその前駆体を有するコモノマーの少なくとも一部が、テトラフルオロエチレンと共に重合反応に供給される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
フッ素化界面活性剤の量を、ポリテトラフルオロエチレンの固形分量を基準にして、200ppm以下にまで減少させる工程をさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項13】
イオン基またはその前駆体を含むコモノマーがパーフルオロ化モノマーである請求項10に記載の方法。
【請求項14】
イオン基またはその前駆体を含むコモノマーが、一般式:
CF2=CF−O−Rf−Z
(式中、Rfは場合により1つもしくはそれ以上の酸素原子で中断されているパーフルオロアルキレン基を表し、Zはカルボン酸基、その塩もしくはその前駆体、または、スルホン酸基、その塩もしくはその前駆体を表す。)
に対応する請求項10に記載の方法。
【請求項15】
重合工程が、イオン基またはその前駆体を含有しない1種もしくはそれ以上のパーフルオロ化コモノマーの共重合工程をさらに含み、かつ、コモノマーの総量が、テトラフルオロエチレンの重量を基準にして、1重量%以下である請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記テトラフルオロエチレンの量の少なくとも80重量%が重合反応に供給された時点で、イオン基またはその前駆体を有するコモノマーの総量が、テトラフルオロエチレンと共に重合反応に供給される請求項10に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の水性非溶融加工性ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンの基材のコーティングにおける使用。


【公表番号】特表2007−509223(P2007−509223A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536648(P2006−536648)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/032583
【国際公開番号】WO2005/040239
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】