説明

ポリヌクレオチド療法

本発明は、対象において非生理学的に存在する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する対象における自己免疫疾患を治療する方法であって、免疫抑制性ベクターバックボーンと自己免疫疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む自己ベクターと、生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを対象に投与する工程を含む方法を提供する。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターの投与は、自己ベクターの投与から発現される自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対する免疫応答を調節する。本発明は、BHT-1ベクターバックボーン、例えばヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードする自己ベクターであるBHT-3009を含む自己ベクターを投与することによって多発性硬化症の治療の方法を提供する。本発明は、BHT-1ベクターバックボーンと自己免疫疾患に関連する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドと、生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを含む、薬学的組成物も提供する。本発明は、BHT-1ベクターバックボーン(例えば、ヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードする自己ベクターであるBHT-3009)を含む自己ベクターを含む薬学的組成物、およびBHT-1自己ベクター(例えば、BHT-3009)を対象に投与する方法をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、すべての目的のために参照によりその開示全体が本明細書に組み入れられるU.S. Provisional Patent Application No. 60/813,552の恩典を主張する。
【0002】
連邦政府を資金提供者とする研究または開発の下で行われた発明に対する権利に関する陳述
該当なし。
【0003】
発明の分野
本発明は、対象内に存在して非生理学的状態に関与する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する対象における疾患を治療するための方法および組成物に関する。本発明は、対象内に存在して非生理学的状態に関与する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する対象における疾患を予防するための方法および組成物にも関する。本発明は、非生理学的状態において存在して疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの同定にさらに関する。本発明は、非生理学的状態において存在して疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与にも関する。本発明は、動物内に存在して非生理学的状態に関与して疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対する免疫応答の調節にも関する。本発明は、特に、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、インスリン依存性糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、悪性貧血、全身性エリテマトーデス(SLE)およびグレーブス病などの非生理学的状態において動物に存在する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する自己免疫疾患を治療または予防するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
自己免疫疾患および免疫応答の調節
自己免疫疾患は身体の健常な細胞および/または組織において誤った指示が出されるようになる適応性免疫によって引き起こされる疾患である。自己免疫疾患は米国人口の3%に影響を与えて、先進諸国のほぼ等しい割合のほぼ等しい割合の人口に影響を与える可能性が高い(Jacobson et al., Clin Immunol Immunopathol, 84:223-43 (1997))。自己免疫疾患は、自己タンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび/またはその他の自己分子を異常に標的として体内の臓器、組織または細胞タイプ(例えば、膵臓、甲状腺または消化器)の損傷およびまたは機能不全を引き起こして疾患の臨床的発現を引き起こすTおよびBリンパ球を特徴とする(Marrack et al., Nat Med, 7:899-905 (2001))。自己免疫疾患には、特定の組織に影響を及ぼす疾患および多くの組織に影響を及ぼすことができる疾患が含まれる。これは、一部の疾患においては、自己免疫応答が特定の組織に限定された抗原に対して方向付けられているか、または体内に広く分布する抗原に方向付けられているかに一部依存する。組織特異的な自己免疫の特徴は単一の組織または個々の細胞タイプの選択的標的化である。それにも関わらず、遍在性の自己タンパク質を標的とする一部の自己免疫疾患も特定の組織に影響を及ぼすことができる。例えば、多発性筋炎では、自己免疫応答は遍在性タンパク質であるヒスチジル-tRNA合成酵素を標的とするが、主に関与する臨床像は自己免疫性の筋破壊である。
【0005】
免疫系は、様々な外来性の病原体から哺乳動物を保護するために反応を生じると共に自己抗原に対する反応を防ぐように設計された極めて複雑なメカニズムを用いる。反応すべきかどうか(抗原特異性)の決定に加えて、免疫系はそれぞれの病原体を処理する適切なエフェクター機能(エフェクター特異性)も選択しなければならない。これらのエフェクター機能の介在および調節において重要な細胞はCD4+ T細胞である。さらに、CD4+ T細胞からの特異的サイトカインの精密さがT細胞がそれらの機能を介在する主なメカニズムである。このように、CD4+ T細胞に産生されるサイトカインのタイプおよびそれらの分泌がどのように制御されるかを明らかにすることは免疫応答がどのように調節されるかを理解する上で極めて重要である。
【0006】
長期マウスCD4+ T細胞クローンからのサイトカイン産生の特徴付けは、10年よりも前に最初に刊行された(Mosmann et al., J. Immunol., 136:2348-2357 (1986))。これらの試験では、CD4+ T細胞は2つの異なるサイトカイン産生パターンを生じることが示されて、それらはTヘルパー1(Th1)およびTヘルパー2(Th2)と命名された。Th1細胞は専らインターロイキン-2(IL-2)、インターフェロン-γ(IFN-γ)およびリンホトキシン(LT)を産生することが見出されて、Th2クローンは専らIL-4、IL-5、IL-6およびIL-13を産生した(Cherwinski et al., J. Exp. Med., 169:1229-1244 (1987))。やや遅れて、さらなるサイトカインであるIL-9およびIL-10がTh2クローンから分離された(Van Snick et al., J. Exp. Med., 169:363-368 (1989);Fiorentino et al., J. Exp. Med., 170:2081-2095 (1989))。最後に、IL-3、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などのさらなるサイトカインはTh1およびTh2の双方の細胞によって分泌されることが見出された。
【0007】
自己免疫疾患には、表1に概略を示す通り、体内の多くの異なる臓器および組織に影響を及ぼすことができる広範囲の疾患が含まれる。例えば、
Paul W.E. (ed. 2003) Fundamental Immunology (5th Ed.) Lippincott Williams & Wilkins, ISBN-10: 0781735149, ISBN-13: 978-0781735148;Rose and Mackay (eds. 2006) The Autoimmune Diseases (4th ed.) Academic Press,ISBN-10: 0125959613、ISBN-13: 978-0125959612;Erkan, et al. (eds. 2004) The Neurologic Involvement in Systemic Autoimmune Diseases, Volume 3 (Handbook of Systemic Autoimmune Diseases) Elsevier Science, ISBN-10: 0444516514, ISBN-13: 978-0444516510;Richter, et al. (eds. 2003) Treatment of Autoimmune Disorders, Springer, ISBN-10: 3211837728, ISBN-13: 978-3211837726を参照されたい。
【0008】
(表1)

【0009】
ヒト自己免疫疾患のための現在の治療法は、糖質コルチコイド、細胞毒性物質、および最近開発された生物療法剤を含む。一般に、ヒト全身性自己免疫疾患の管理は経験的であり満足できるものではない。大部分において、様々な重度の自己免疫性および炎症性疾患においてコルチコステロイドなどの広く免疫抑制性の薬剤が使用される。コルチコステロイドに加えて、全身性の自己免疫疾患の管理にはその他の免疫抑制物質が用いられる。シクロホスファミドはTおよびBリンパ球双方の重大な枯渇ならびに細胞介在性免疫の障害を引き起こすアルキル化物質である。シクロスポリン、タクロリムスおよびミコフェノレートモフェチルはTリンパ球抑制の特異的特性を有する天然産物であり、それらはSLE、RAを治療するために、また限定的ではあるが脈管炎および筋炎において使用されている。これらの薬剤は顕著な腎毒性を伴う。RAでは、疾患の進行の抑制を目標として、「二番目」の物質としてメトトレキセートも用いられる。それは多発性筋炎およびその他の結合組織病においても用いられる。試みられているその他のアプローチには、サイトカインの作用の遮断またはリンパ球の枯渇を意図するモノクローナル抗体が含まれる。(Fox, D. A., Am. J. Med., 99:82-88 (1995)。)多発性硬化症(MS)の治療はインターフェロンβおよびコポリマー1を含み、それらは再発率を20〜30%下げて疾患の進行に中程度の影響を及ぼすのみである。MSは、メチルプレドニゾロン、その他のステロイド、メトトレキセート、クラドリビンおよびシクロホスファミドを含む免疫抑制物質を用いても治療される。これらの免疫抑制物質はMSの治療において最小限の有効性を有する。慢性関節リウマチ(RA)における現在の治療法では、メトトレキセート、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、ロイフロナミド(leuflonamide)、プレドニゾンのように免疫機能を非特異的に抑制または調節する物質、ならびに最近開発されたTNFαアンタゴニストであるエタネルセプトおよびインフリキシマブ(Moreland et al., J Rheumatol, 28:1431-52 (2001))が使用される。エタネルセプトおよびインフリキシマブはTNFαを包括的に遮断して、患者は敗血症による死亡、慢性ミコバクテリア感染症の増悪化、および脱髄性事象の発症に対してより感受性となる。
【0010】
臓器特異的自己免疫の症例では、多くの異なる治療的アプローチが試みられている。可溶性タンパク質抗原が、その抗原に対する後続の免疫応答を阻害するために全身性に投与されている。このような治療法には、実験的な自己免疫性脳脊髄炎を有する動物および多発性硬化症を有するヒトへのミエリン塩基性タンパク質、そのドミナントなペプチド、またはミエリンタンパク質の混合物の送達(Brocke et al., Nature, 379:343-6 (1996);Critchfield et al., Science, 263:1139-43 (1994);Weiner et al., Annu Rev Immunol, 12:809-37 (1994))、コラーゲン誘発関節炎を有する動物および慢性関節リウマチを有するヒトへのII型コラーゲンまたはコラーゲンタンパク質の混合物の投与(Gumanovskaya et al., Immunology, 97:466-73 (1999);McKown et al., Arthritis Rheum, 42:1204-8 (1999);Trentham et al.. Science, 261:1727-30 (1993)、自己免疫性糖尿病を有する動物およびヒトへのインスリンの送達(Pozzilli and Gisella Cavallo, Diabetes Metab Res Rev, 16:306-7 (2000))、ならびに自己免疫性ブドウ膜炎を有する動物およびヒトへのS抗原の送達(Nussenblatt et al., Am J Ophthalmol, 123:583-92 (1997))が含まれる。このアプローチに付随する問題点は、抗原の全身性の注射によって誘発されるT細胞不反応性である。もう一つのアプローチは、T細胞レセプターとMHC分子に結合するペプチドの特異的相互作用に基づくペプチド抗原の全身投与のための合理療法戦略を設計するための試みである。糖尿病の動物モデルにおけるペプチドアプローチを用いた1つの試験によって、ペプチドに対する抗体産生が開発された(Hurtenbach, U. et al., J Exp. Med, 177:1499 (1993))。もう一つのアプローチはT細胞レセプター(TCR)ペプチド免疫化の投与である。例えば、Vandenbark, A. A. et al., Nature, 341:541 (1989)を参照されたい。さらにもう一つのアプローチはペプチドまたはタンパク質の抗原の摂取による経口耐性の誘発である。例えば、Weiner, H. L., Immmunol Today, 18:335 (1997)を参照されたい。
【0011】
免疫応答は、現在、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの単独またはアジュバント(免疫賦活化物質)との組み合わせにおいて送達することによって変更される。例えば、B型肝炎ウイルスワクチンは、アジュバントとして働く水酸化アルミニウムを用いて製剤化された、非自己抗原である組換え型B型肝炎ウイルス表面抗原を含む。このワクチンは、感染から防御するためにB型肝炎ウイルス表面抗原に対して免疫応答を誘発する。代替となるアプローチは、病原体に対する宿主防御免疫応答を惹起するために、それぞれ非自己抗原であるウイルスまたは細菌の弱毒化した、非増殖性、および/または非病原性の型の送達を伴う。例えば、経口ポリオワクチンは、臨床的な疾患を引き起こすことなく外来性つまり非自己抗原であるポリオウイルスに対して有効な免疫を誘発するために細胞に感染してワクチン接種された個体内で増殖する非自己抗原である弱毒化生ウイルスから構成される。または、不活化ポリオワクチンは感染または増殖することができない不活化した、つまり「死滅」ウイルスを含んで、ポリオウイルスに対して防御免疫を誘発するために皮下投与される。
【0012】
DNAワクチン接種/ポリヌクレオチド療法
ポリヌクレオチド療法、つまりDNAワクチン接種は、外来性の病原体(Davis, 1997; Hassett and Whitton, 1996;およびUlmer et al., 1996)および癌抗原(Stevenson et al., 2004)に対する免疫を誘発するために、また自己免疫過程を調節するために(Waisman et al., 1996)有効な方法である。筋肉内注射後、プラスミドDNAは例えば筋細胞に取り込まれて、コードするポリペプチドの発現(Wolff et al., 1992)および発現したタンパク質に対する持続性の免疫応答の開始(Hassett et al., 2000)を可能とする。自己免疫疾患の場合、効果は自己免疫破壊を抑制するための進行中に免疫応答の推移であり、自己反応性リンパ球のTh1からTh2型反応への推移を含むと考えられる。免疫応答の調節は全身性ではなく、自己免疫攻撃下にある標的臓器において局所的にのみ生じ得る。
【0013】
沈降および/またはトランスフェクション促進物質中で、またはウイルスベクターを用いて製剤化された自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与は従来の「遺伝子療法」とは異なる。遺伝子療法は、タンパク質もしくはペプチドの発現を提供するため、ホストにおいて不完全もしくは存在しないタンパク質もしくはペプチドを補充するため、また/または所望の生理学的機能を増強するための、ポリヌクレオチドの送達である。遺伝子療法は、治療目的のために、個体のゲノムにDNAの組み入れを起こす方法を含む。遺伝子療法の例には、血友病における凝固因子をコードするDNAの送達、重度複合型免疫不全におけるアデノシンデアミナーゼ、家族性高コレステロール血症における低密度リポタンパク質レセプター、ゴーシェ病におけるグルコセレブロシダーゼ、α1-アンチトリプシン欠損症におけるα1-アンチトリプシン、異常ヘモグロビン症におけるα-またはβ-グロビン、および嚢胞性線維症における塩素イオンチャネルの送達が含まれる(Verma and Somia, Nature, 389:239-42 (1997))。
【0014】
本発明者らは、自己免疫疾患を治療するための免疫分子をコードするDNA療法について記載する。このようなDNA療法は、自己反応性T細胞の値を変化させて自己免疫応答を誘導するためにT細胞レセプターの抗原結合領域をコードするDNAを含む(Waisman et al., Nat Med, 2:899-905 (1996) (米国特許第5,939,400号)。自己抗原をコードするDNAは粒子に結合して、多発性硬化症およびコラーゲン関節炎を予防するために遺伝子銃によって皮膚に送達された。(International Patent Application Publication No. WO 97/46253; Ramshaw et al., Immunol. and Cell Bio., 75:409-413 (1997)。自己免疫疾患の動物モデルでは、接着分子、サイトカイン(例えば、TNFα)、ケモカイン(例えば、C-Cケモカイン)、およびその他の免疫分子(例えば、Fasリガンド)をコードするDNAが用いられている(Youssef et al., J Clin Invest, 106:361-371 (2000);Wildbaum et al., J Clin Invest, 106:671-679 (2000);Wildbaum et al., J Immunol, 165:5860-5866 (2000);Wildbaum et al., J Immunol, 161:6368-7634 (1998);Youssef et al., J Autoimmun, 13:21-9 (1999))。一つまたは複数の自己抗原をコードする核酸の投与によって自己免疫疾患を治療するための方法は、International Patent Application No. WO 00/53019、WO 2003/045316、およびWO 2004/047734に記載されている。これらの方法は成功してはいるが、依然、さらなる改善が必要である。
【0015】
本発明の目的は、動物における非生理学的過程において存在および関与する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する疾患の治療または予防のための方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、免疫系全体を障害しない、自己免疫疾患を治療または防止するための具体的な方法を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、神経変性性疾患を治療または防止するための具体的な方法を提供することである。本発明のさらにもう一つ目的は、動物において非生理学的に存在する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する疾患を治療または防止のための方法を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、非生理学的に存在して疾病に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを同定することである。本発明のこれらおよびその他の目的は全体として本明細書から明らかである。
【発明の概要】
【0016】
発明の簡単な概要
本発明は、動物内に非生理学的に存在する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する動物における疾患を治療または防止する新規の方法であって、疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターを動物に投与する工程を含む方法を提供する。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターの投与は、自己ベクターによって発現される自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対する免疫応答を調節する。治療された動物において非生理学的に存在する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組成物は、動物に、および/または動物における非生理学的過程の標的に存在する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する疾患の治療に有用である。非生理学的に存在する、または非生理学的過程によって標的とされる自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与が動物内で非生理学的に関与する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する疾患を治療するために自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対する免疫応答を調節するということは本発明の発見であった。
【0017】
一つの局面において、本発明は、対象において非生理学的に存在する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する対象における自己免疫疾患を治療する方法であって、免疫抑制性ベクターバックボーンと自己免疫疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む自己ベクターと、生理学的な値を超える総濃度の一つまたは複数の二価カチオンを対象に投与する工程を含む方法を提供する。いくつかの態様において、自己ベクターバックボーンはBHT-1ベクターバックボーンである。いくつかの態様において、自己ベクターバックボーンは非免疫刺激性(例えば、「免疫中性(immune neutral)」)である。
【0018】
いくつかの態様において、一つまたは複数の二価カチオンはCa2+、Mg2+、Mn2+、Zn2+、Al2+、Cu2+、Ni2+、Ba2+、Sr2+、およびそれらの混合物からなる群より選択される。いくつかの態様において、二価カチオンはカルシウム単独である。いくつかの態様において、二価カチオンはCa2+およびMg2+の混合物である。
【0019】
いくつかの態様において、自己免疫疾患は多発性硬化症である;その他の態様において、自己免疫疾患は慢性関節リウマチである;さらにその他の態様において、自己免疫疾患は狼瘡である。いくつかの態様において、自己ベクターは、BHT-1ベクターバックボーンおよびヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードするポリヌクレオチドを含む;その他の態様において、自己ベクターはBHT-1ベクターバックボーンおよびヒトプロテオリピドタンパク質(PLP)をコードするポリヌクレオチドを含む;その他の態様において、自己ベクターは、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン関連糖タンパク質(MAG)をコードするポリヌクレオチドとを含む;さらにその他の態様において、自己ベクターは、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG)をコードするポリヌクレオチドとを含む。好ましい態様において、自己ベクターはBHT-3009であり、エンドトキシンフリーである。いくつかの態様において、二価カチオンはカルシウムである。いくつかの態様において、カルシウムは約2mMを超える濃度である;好ましい態様において、カルシウムは約5.4mMの濃度である。
【0020】
もう一つの局面において、本発明は、対象における多発性硬化症を治療する方法であって、BHT-3009(SEQ ID NO:3)を含む薬学的組成物を対象に投与する工程を含む方法を提供する。いくつかの態様において、薬学的組成物はエンドトキシンフリーである。いくつかの態様において、薬学的組成物は生理学的な値を超える濃度の二価カチオンをさらに含む。いくつかの態様において、二価カチオンはカルシウムである。いくつかの態様において、カルシウムは約2mMを超える濃度である;好ましい態様において、カルシウムは約5.4mMの濃度である。
【0021】
もう一つの局面において、本発明は、免疫抑制性ベクターバックボーンと自己免疫疾患に関連する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む自己ベクターと、生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを含む、薬学的組成物を提供する。いくつかの態様において、自己ベクターバックボーンはBHT-1ベクターバックボーンである。いくつかの態様において、自己ベクターバックボーンは非免疫刺激性(例えば、「免疫中性」)である。
【0022】
いくつかの態様において、自己免疫疾患は多発性硬化症である;その他の態様において、自己免疫疾患は慢性関節リウマチである;さらにその他の態様において、自己免疫疾患は狼瘡である。いくつかの態様において、薬学的組成物の自己ベクターは、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードするポリヌクレオチドとを含む;その他の態様において、自己ベクターはBHT-1ベクターバックボーンとヒトプロテオリピドタンパク質(PLP)をコードするポリヌクレオチドとを含む;その他の態様において、自己ベクターはBHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン関連糖タンパク質(MAG)をコードするポリヌクレオチドとを含む;さらにその他の態様において、自己ベクターは、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG)とをコードするポリヌクレオチドを含む。好ましい態様において、薬学的組成物の自己ベクターはBHT-3009であり、エンドトキシンフリーである。いくつかの態様において、二価カチオンはカルシウムである。いくつかの態様において、カルシウムは約2mMを超える濃度である;好ましい態様において、カルシウムは約5.4mMの濃度である。
【0023】
もう一つの局面において、本発明はBHT-3009を含む薬学的組成物を提供する。本発明の組成物は典型的にはエンドトキシンフリーであり、約2mMを超える濃度のカルシウムをさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】BHT-3009のベクター構造図:自己ベクターBHT-3009を標識したその構成要素部分と共に示す。CMVプロモーターはヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)の発現を誘導する。ウシ成長ホルモン停止およびポリA配列(bGHpA)はhMBPに対して3'に組み込まれる。ベクターの増殖および選択は、それぞれ、複製始点であるpUCおよびカナマイシン耐性遺伝子(Kanr)を介して行われる。BHT-3009は3485塩基対であり、各構成要素の位置はベクターマップの左側に記載される。
【図2】Phase I試験デザイン:30名のMS患者を3つのBHT-3009用量コホートの一つに割り付けた。各用量コホートについて、患者を次の投与群の一つに無作為化した:A群:BHT-プラセボ+アトルバスタチン-プラセボ(4名の患者);B群:BHT-3009+アトルバスタチン-プラセボ(3名の患者);およびC群:BHT-3009+アトルバスタチン(3名の患者)。A群に無作為化した患者はD群:BHT-3009単独(2名の患者)またはE群:BHT-3009+アトルバスタチン(2名の患者)の一つを用いたオープンラベル投与に再度無作為化して、最初にBまたはC群に無作為化された患者と同様に投与して評価した。
【図3】図3は、生理学的濃度を超えるカルシウムを用いてBHT-1ベクターバックボーンをトランスフェクトした際のタンパク質産生の改善を示す。BHT-3021(0.25mg/ml)DNAである、プロインスリン自己タンパク質をコードする配列を有するBHT-1ベクターバックボーンを、マグネシウムの非存在下において0.9mM〜9.0mMの範囲の漸増濃度のカルシウムを加えたDulbeccoのPBSで製剤化した。製剤化したDNAは、DNA/リン酸カルシウム粒子の形成を促進するために一晩凍結した。続いて、溶液を融解して、0.4ml DMEM培養培地を分注した24穴組織培養プレート中の〜3×105 HEK293細胞にDNA 5マイクログラムを加えた。24時間培養後に、プラスミドによって生成される細胞質プロインスリンタンパク質の分解を防止するために、細胞をプロテアソーム阻害剤で処理した後、さらに24時間培養後に細胞を回収して溶解し、市販のプロインスリンELISAキットを用いてプロインスリンタンパク質を測定した。最大タンパク質産生は5.4mMカルシウムを加えて製剤化したDNAにおいて観察された。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本明細書に記載される本発明がより完全に理解され得るために、次の説明が示される。
【0026】
本発明は、動物に非生理学的に存在するまたは非生理学的状態に関与する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する動物における疾患を治療または防止する方法であって、疾患に関連するタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターを動物に投与する工程を含む方法を提供する。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターの投与は、自己ベクターから発現される自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対する免疫応答を調節する。
【0027】
自己ベクターは、生理学的濃度を超える濃度で存在する一つまたは複数の二価カチオンと同時投与または同時製剤化される。驚いたことに、DNAワクチン接種ベクターと生理学的な値を超える総濃度の一つまたは複数の二価カチオンの同時投与は、生理学的レベルと等しいまたは下回る総濃度の一つまたは複数の二価カチオンの存在下でのDNAワクチン接種ベクターの同時投与に比べて、トランスフェクション効率、コードされた自己抗原の発現(即ち、転写および翻訳)、および好ましくない免疫応答の治療的抑制の一つまたは複数を改善する。
【0028】
本発明の治療または予防の方法は、非生理学的に存在する、および/または動物内の非生理学的過程に関与する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する任意の疾患において使用することができる。
【0029】
自己免疫疾患
動物に非生理学的に存在する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する自己免疫疾患の複数の例を下の表に示して、以下に説明する。
【0030】
(表2)

【0031】
多発性硬化症
本発明は、CNSの最も一般的な脱髄性疾患であり350,000人の米国人および全世界の100万人に悪影響を与える多発性硬化症(MS)の治療に有用な組成物および方法を提供する。例えば、Cohen and Rudick (eds. 2007) Multiple Sclerosis Therapeutics (3d ed) Informa Healthcare, ISBN-10: 1841845256, ISBN-13: 978-1841845258;Matthews and Margaret Rice-Oxley (2006) Multiple Sclerosis: The Facts (Oxford Medical Publications 4th Ed.) Oxford University Press, USA, ISBN-10: 0198508980, ISBN-13: 978-0198508984;Cook (ed. 2006) Handbook of Multiple Sclerosis (Neurological Disease and Therapy, 4th Ed.) Informa Healthcare, ISBN-10 :1574448277, ISBN-13: 978-1574448276;Compston, et al. (2005) McAlpine's Multiple Sclerosis (4th edition) Churchill Livingstone, ISBN-10: 044307271X, ISBN-13: 978-0443072710;Burks and Johnson (eds 2000) Multiple Sclerosis: Diagnosis, Medical Management, and Rehabilitation Demos Medical Publishing ISBN-10: 1888799358, ISBN-13: 978-1888799354;Waxman (2005) Multiple Sclerosis As A Neuronal Disease Academic Press ISBN-10: 0127387617, ISBN-13: 978-0127387611;Filippi, et al. (eds.) Magnetic Resonance Spectroscopy in Multiple Sclerosis (Topics in Neuroscience) Springer, ISBN-10: 8847001234, ISBN-13: 978-8847001237;Herndon (ed. 2003) Multiple Sclerosis: Immunology, Pathology and Pathophysiology Demos Medical Publishing, ISBN-10: 1888799625, ISBN-13: 978-1888799620;Costello, et al. (2007) "Combination therapies for multiple sclerosis: scientific rationale, clinical trials, and clinical practice" Curr. Opin. Neurol. 20(3):281-285, PMID: 17495621;Burton and O'connor (2007) "Novel Oral Agents for Multiple Sclerosis" Curr. Neurol. Neurosci. Rep. 7(3):223-230, PMID: 17488588;Correale and Villa (2007) "The blood-brain-barrier in multiple sclerosis: functional roles and therapeutic targeting" Autoimmunity 40(2):148-60, PMID: 17453713;De Stefano, et al. (2007) "Measuring brain atrophy in multiple sclerosis" J. Neuroimaging 17 Suppl 1:10S-15S, PMID: 17425728;Neema, et al. (2007) "Tl- and T2-based MRI measures of diffuse gray matter and white matter damage in patients with multiple sclerosis" J. Neuroimaging 17 Suppl 1:16S-21S, PMID: 17425729;De Stefano and Filippi (2007) "MR spectroscopy in multiple sclerosis" J. Neuroimaging 17 Suppl 1:31S-35S, PMID: 17425732;およびComabella and Martin (2007) "Genomics in multiple sclerosis-Current state and future directions" J. Neuroimmunol. Epub ahead of print] PMID: 17400297を参照されたい。
【0032】
症状の発症は典型的には20歳から40歳の間に生じて、(降冪に)一側性の視力障害、筋力低下、錯感覚、失調、回転性眩暈、尿失禁、構語障害または精神障害の急性または亜急性の発作として発現する。このような症状は、緩慢な軸索伝導に起因する負の伝導異常および異所性の活動電位発生に起因する正の伝導異常(例えば、レルミット症状)の双方を引き起こす局所性の脱髄病変に起因する。MSの診断は、時間的に隔てられて、神経機能障害の客観的な臨床的エビデンスを生じて、CNS白質の異なる領域に関与する神経機能障害の少なくとも2回の異なる発作を含む病歴に基づく。MSの診断を支持するさらなる客観的エビデンスを提供する室内試験には、CNS白質病変部の磁気共鳴画像法(MRI)、IgGの脳脊髄液(CSF)オリゴクローナルバンド形成、および異常な誘発反応が含まれる。大半の患者は徐々に進行性再発性緩解性の疾患経過を経験するが、MSの臨床経過は個人によって大きく異なり、生涯を通して複数回の軽度の発作に限定されるものから劇症性の慢性進行性疾患までの範囲であり得る。IFN-γ分泌能を有するミエリン自己反応性T細胞の量的増加はMSおよびEAEの病原に関連する。
【0033】
多発性硬化症および実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)のような自己免疫性脱髄疾患における自己免疫反応の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの標的は、プロテオリピドタンパク質(PLP);ミエリン塩基性タンパク質(MBP);ミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG);サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPアーゼ);ミエリン関連糖タンパク質(MAG)およびミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MBOP);α-B-クリスタリン(熱ショックタンパク質);例えば、インフルエンザ、ヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルスなどのウイルスおよび細菌性模擬ペプチド;OSP(オリゴデンドロサイト特異的タンパク質);シトルリン修飾MBP(6個のアルギニンが脱イミネートされてシトルリンとなっているMBPのC8イソ型)などに由来するエピトープを含み得る。内在性膜タンパク質であるPLPはミエリンのドミナントな自己抗原である。PLP抗原性の決定因子は複数のマウスの系統において同定されていて、139〜151、103〜116、215〜232、43〜64および178〜191の残基が含まれる。少なくとも26のMBPエピトープが報告されている(Meinl et al, J Clin Invest, 92:2633-43 (1993))。注目すべきは1〜11、59〜76および87〜99の残基である。複数のマウスの系統において同定されている免疫ドミナントなMOGエピトープは1〜22、35〜55、64〜96の残基を含む。本明細書で用いられる通り、「エピトープ」の用語は、動物の免疫系のB細胞またはT細胞によって認識される特定の形状または構造を有する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの部分を意味すると理解される。
【0034】
ヒトMS患者において、次のミエリンタンパク質およびエピトープが自己免疫TおよびB細胞応答の標的として同定された。MS脳プラークから溶出された抗体はミエリン塩基性タンパク質(MBP)ペプチド83〜97を認識した(Wucherpfennig et al., J Clin Invest, 100:1114-1122 (1997))。もう一つの試験より、MS患者の約50%がミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に対して末梢血リンパ球(PBL)T細胞反応性を有して(対照 6〜10%)、20%はMBPに対して反応性を有して(対照 8〜12%)、8%はPLPに対して反応性を有して(対照 0%)、MAGに対して反応性を示したのは0%である(対照 0%)ことが見出された。この試験において、10名中7名のMOG反応性患者は、MOG 1〜22、MOG 34〜56、MOG 64〜96を含む3つエピトープの1つに的を絞ったT細胞増殖性反応を示した(Kerlero de Rosbo et al., Eur J Immunol, 27:3059-69 (1997))。TおよびB細胞(脳病変溶出Ab)の反応はMBP 87〜99に的を絞った(Oksenberg et al., Nature, 362:68-70 (1993))。MBP 87〜99では、HFFKのアミノ酸モチーフがTおよびB細胞反応のドミナントな標的である(Wucherpfennig et al., J Clin Invest, 100:1114-22 (1997))。もう一つの試験では、MOBP 21〜39およびMOBP 37〜60の残基を含むミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)に対するリンパ球反応性が観察された(Holz et al., J Immunol, 164:1103-9 (2000))。MSおよび対照の脳を染色するためにMOGおよびMBPペプチドの免疫金抱合体を用いて、MBPおよびMOGペプチドの双方がMSプラーク結合Abによって認識された(Genain and Hauser, Methods, 10:420-34 (1996))。
【0035】
慢性関節リウマチ
慢性関節リウマチ(RA)は世界人口の0.8%に悪影響を及ぼす慢性の自己免疫性炎症性滑膜炎である。これは、びらん性の関節破壊を引き起こす慢性炎症性滑膜炎を特徴とする。例えば、St. Clair, et al. (2004) Rheumatoid Arthritis Lippincott Williams & Wilkins, ISBN-10: 0781741491, ISBN-13: 978- 0781741491;Firestein, et al. (eds. 2006) Rheumatoid Arthritis (2d Ed.) Oxford University Press, USA, ISBN-10: 0198566301, ISBN-13: 978-0198566304;Emery, et al. (2007) "Evidence-based review of biologic markers as indicators of disease progression and remission in rheumatoid arthritis" Rheumatol. Int. [Epub ahead of print] PMID: 17505829;Nigrovic, et al. (2007) "Synovial mast cells: role in acute and chronic arthritis" Immunol. Rev. 217(1):19-37, PMID: 17498049;およびManuel, et al. (2007) "Dendritic cells in autoimmune diseases and neuroinflammatory disorders" Front. Biosci. 12:4315-335, PMID: 17485377を参照されたい。RAはT細胞、B細胞およびマクロファージによって介在される。
【0036】
T細胞が重要な役割を担うことを示すエビデンスには、(1)滑膜に浸潤するCD4+ T細胞の優位、(2)シクロスポリンのような薬剤を用いたT細胞機能の抑制に関連した臨床的改善、および(3)一部のHLA-DR対立遺伝子とRAの関連性が含まれる。RAに関連するHLA-DR対立遺伝子は、β鎖の第三の超可変領域の64〜74の位置に、ペプチド結合およびT細胞の提示に関与するアミノ酸とほぼ等しい配列を含む。RAは、滑膜性の連結に存在して、自己タンパク質を認識または自己タンパク質を修飾する自己反応性T細胞によって介在される。自己抗原(autoantigen)とも呼ばれる本発明の自己抗原(self-antigen)、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドはRAにおいて標的とされて、II型コラーゲン;hnRNP;A2/RA33;Sa;フィラグリン;ケラチン;シトルリン;gp39を含む軟骨タンパク質;I、III、IV、V、IX、XI型コラーゲン;HSP-65/60;IgM(リウマチ因子);RNAポリメラーゼ;hnRNP-B1;hnRNP-D;カルジオリピン;アルドラーゼA;シトルリン修飾フィラグリンおよびフィブリン由来のエピトープを含む。修飾アルギニン残基(脱イミネートしてシトルリンを形成)を含むフィラグリンペプチドを認識する自己抗体は高い割合のRA患者の血清において同定されている。自己反応性TおよびB細胞反応はいずれも、一部の患者では、同一の免疫ドミナントなII型コラーゲン(CII)ペプチドの257〜270に対して方向付けられる。
【0037】
インスリン依存性糖尿病
ヒトI型インスリン依存性糖尿病またはインスリン依存性糖尿病(IDDM)は膵臓のランゲルハンス島におけるβ細胞の自己免疫破壊を特徴とする。β細胞の枯渇の結果、血糖値の調節ができなくなる。例えば、Sperling (ed. 2001) Type 1 Diabetes in Clinical Practice (Contemporary Endocrinology) Humana Press, ISBN-10: 0896039315, ISBN-13: 978-0896039315;Eisenbarth (ed. 2000) Type 1 Diabetes: Molecular, Cellular and Clinical Immunology (Advances in Experimental Medicine and Biology) Springer, ISBN-10: 0306478714, ISBN-13: 978-0306478710;Wong and Wen (2005) "B cells in autoimmune diabetes" Rev. Diabet. Stud. 2(3):121-135, Epub 2005 Nov 10, PMID: 17491687;Sia (2004) "Autoimmune diabetes: ongoing development of immunological intervention strategies targeted directly against autoreactive T cells" Rev. Diabet. Stud. 1(1):9-17, Epub 2004 May 10, PMID: 17491660;Triplitt (2007) "New technologies and therapies in the management of diabetes" Am. J. Manag. Care 13(2 Suppl):S47-54, PMID: 17417933;およびSkyler (2007) "Prediction and prevention of type 1 diabetes: progress, problems, and prospects" Clin. Pharmacol. Ther. 81(5):768-71, Epub 2007 Mar 28, PMID: 17392722を参照されたい。
【0038】
顕性糖尿病は、血糖値が特定の値、通常は約250mg/dlを超えて上昇すると発症する。ヒトの場合、糖尿病の発現前に長い前駆症状期間がある。この期間中、膵臓のβ細胞機能は徐々に失われる。疾患の発現は、それぞれが本発明に従って自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの例であるインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼおよびチロシンホスファターゼIA2(IA2)に対する自己抗体の存在によって関連付けられる。
【0039】
前駆症状段階の期間中に評価され得るマーカーは膵臓における膵島炎の存在、膵島細胞抗体の量および頻度、膵島細胞表面抗体、膵臓β細胞上でのII型MHC分子の異常な発現、血糖値、および血漿中のインスリン濃度である。膵臓におけるTリンパ球の数、膵島細胞抗体および血糖の増加は、インスリン濃度の減少であることから、疾患の指標である。
【0040】
非肥満糖尿病(NOD)マウスは、ヒトIDDMと共通する多くの臨床的、免疫学的および病理組織学的特徴を有する動物モデルである。NODマウスは膵島の炎症およびβ細胞の破壊を自然発生性に発現して、高血糖および顕性糖尿病に至る。糖尿病の発現にはCD4+およびCD8+双方のT細胞が必要であるが、それぞれの役割は不明である。寛容化した条件下においてインスリンまたはタンパク質であるGADをNODマウスに投与すると疾患が予防されて、その他の自己抗原に対する反応がダウンレギュレートされることが示されている。
【0041】
血清中の様々な特異性を有する自己抗体の組み合わせの存在はヒトI型糖尿病において極めて感受性であり特異的である。例えば、GADおよび/またはIA-2に対する自己抗体の存在は、対照の血清からのI型糖尿病の同定に関して約98%感受性であり、99%特異的である。I型糖尿病患者の非糖尿病の一親等の血族において、GAD、インスリンおよびIA-2を含む3つの自己抗原の内の2つに対して特異的な自己抗体の存在は5年以内のI型DMの発現に関して>90%の積極的な推定値を伝える。
【0042】
ヒトインスリン依存性糖尿病において標的とされる自己抗原には、自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドであるチロシンホスファターゼIA-2;IA-2β;グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)の65kDaおよび67kDaの双方の型;カルボキシペプチダーゼH;インスリン;プロインスリン;熱ショックタンパク質(HSP);グリマ38;島細胞抗原69KDa(ICA69);p52;2つのガングリオシド抗原(GT3およびGM2-1);ならびに島細胞グルコーストランスポーター(GLUT2)が含まれ得る。
【0043】
現在のところ、ヒトIDDMは、組換え型インスリンの注射またはポンプに基づく送達を導くために血糖値をモニターすることによって治療される。食事および運動療法は適正な血糖管理の達成に役立つ。
【0044】
自己免疫性ブドウ膜炎
自己免疫性ブドウ膜炎は400,000人のヒトに悪影響を及ぼすと推定される眼の自己免疫疾患であり、米国では年に43,000件の新規症例が発生している。現在、自己免疫性ブドウ膜炎はステロイド、メトトレキセートおよびシクロスポリンなどの免疫抑制物質、静脈内免疫グロブリン、ならびにTNFαアンタゴニストを用いて治療される。例えば、Pleyer and Mondino (eds. 2004) Uveitis and Immunological Disorders (Essentials in Ophthalmology) Springer, ISBN-10: 3540200452, ISBN-13: 978-3540200451;Vallochi, et al. (2007) "The role of cytokines in the regulation of ocular autoimmune inflammation" Cytokine Growth Factor Rev. 18(1-2):135-141, Epub 2007 Mar 8, PMID: 17349814;Bora and Kaplan (2007) "Intraocular diseases - anterior uveitis" Chem. Immunol. Allergy. 92:213-20, PMID: 17264497;およびLevinson (2007) "Immunogenetics of ocular inflammatory disease" Tissue Antigens 69(2):105-112, PMID: 17257311を参照されたい。
【0045】
実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)は、眼の神経網膜、ブドウ膜および関連組織を標的とするT細胞介在性の自己免疫疾患である。EAUはヒト自己免疫性ブドウ膜炎と多くの臨床的および免疫学的特徴を共有して、フロイント完全アジュバント(CFA)に乳化したブドウ膜炎惹起性ペプチドの末梢投与によって誘発される。
【0046】
ヒト自己免疫性ブドウ膜炎における自己免疫反応によって標的とされる自己タンパク質は、S抗原、光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)、ロドプシンおよびリカバリンを含み得る。
【0047】
原発性胆汁性肝硬変
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、主として40〜60歳の女性に悪影響を及ぼす臓器特異的な自己免疫疾患である。このグループにおいて報告されている罹患率は1,000人に1人に達する。PBCは、小さい肝内胆管を裏打ちする肝内胆管上皮細胞(IBEC)の進行性の破壊を特徴とする。これは閉塞および胆汁分泌の妨げに至り、最終的に肝硬変を引き起こす。シェーグレン病、クレスト症候群、自己免疫性甲状腺疾患および慢性関節リウマチを含めて、上皮裏打ち/分泌系の障害を特徴とするその他の自己免疫疾患との関連性が報告されている。駆動抗原(driving antigen)に関する注目は50年以上にわたってミトコンドリアに集中しており、その結果、抗ミトコンドリア抗体(AMA)が発見された(Gershwin et al., Immunol Rev, 174:210-225 (2000);Mackay et al., Immunol Rev, 174:226-237 (2000))。AMAは間もなくPBCの検査的診断における礎石となり、臨床症状が明らかとなるずっと以前に90〜95%の患者の血清に含まれる。ミトコンドリアにおける自己抗原反応性はM1およびM2と命名された。M2反応性は、48〜74kDaの構成要素のファミリーに対して方向付けられる。M2は2-オキソ酸デヒドロゲナーゼ複合体(2-OADC)の酵素の多くの自己抗原サブユニットであり、本発明の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのもう一つの例である。
【0048】
PBCの疾病原因におけるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)抗原の役割を明らかにする試験は、PDCが疾患の誘発において中心的役割を担うという概念を支持するものである(Gershwin et al., Immunol Rev, 174:210-225 (2000);Mackay et al., Immunol Rev, 174:226-237 (2000))。PBCの症例の95%における最も高頻度の反応性は、PDC-E2に属するE2 74kDaサブユニットである。2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体(OGDC)および分枝鎖(BC)2-OADCを含む関連性はあるが異なる複合体がある。3つの構成酵素(E1、2、3)が、2-オキソ酸基質をアシル補酵素A(CoA)に形質転換してNAD+をNADHに還元する触媒機能に寄与する。哺乳動物のPDCはタンパク質XまたはE-3結合タンパク質(E3BP)と呼ばれるさらなる構成要素を含む。PBC患者の場合、主な抗原反応はPDC-E2およびE3BPに対して方向付けられる。E2ポリペプチドは2つの直列型に反復したリポイルドメインを含み、E3BPは単一のリポイルドメインを有する。PBCは糖質コルチコイドならびにメトトレキセートおよびシクロスポリンAを含む免疫抑制物質を用いて治療される。例えば、Sherlock and Dooley (2002) Diseases of the Liver & Biliary System (11th ed.) Blackwell Pub., ISBN-10: 0632055820, ISBN-13: 978-0632055821;Boyer, et al. (eds. 2001) Liver Cirrhosis and its Development (Falk Symposium, Volume 115) Springer, ISBN-10: 0792387600, ISBN-13: 978-0792387602;Crispe (ed. 2001) T Lymphocytes in the Liver: Immunobiology, Pathology and Host Defense Wiley-Liss, ISBN-10: 047119218X, ISBN-13: 978-0471192183;Lack (2001) Pathology of the Pancreas, Gallbladder, Extrahepatic Biliary Tract, and Ampullary Region (Medicine) Oxford University Press, USA, ISBN-10: 0195133927, ISBN-13: 978-0195133929;Gong, et al. (2007) "Ursodeoxycholic Acid for Patients With Primary Biliary Cirrhosis: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials Using Bayesian Approach as Sensitivity Analyses" Am. J. Gastroenterol. [Epub ahead of print] PMID: 17459023;Lazaridis and Talwalkar (2007) "Clinical Epidemiology of Primary Biliary Cirrhosis: Incidence, Prevalence, and Impact of Therapy" J. Clin. Gastroenterol. 41(5):494-500, PMID: 17450033;およびSorokin, et al. (2007) "Primary biliary cirrhosis, hyperlipidemia, and atherosclerotic risk: A systematic review" Atherosclerosis [Epub ahead of print] PMID: 17240380を参照されたい。
【0049】
実験的自己免疫性胆管炎(EAC)のマウスモデルでは雌性SJL/Jマウスにおける哺乳動物PDCを用いた腹腔内投与(i.p.)による感作が用いられて、非化膿性破壊性胆管炎(NSDC)およびAMAの産生が誘発される(Jones, J Clin Pathol, 53:813-21 (2000))。
【0050】
その他の自己免疫疾患および関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド
重症筋無力症における自己抗原はアセチルコリンレセプター内にエピトープを含み得る。尋常性天疱瘡において標的とされる自己抗原はデスモグレイン-3を含み得る。シェーグレン症候群の抗原はSSA(Ro);SSB(La)およびホドリンを含み得る。尋常性天疱瘡のドミナントな自己抗原はデスモグレイン-3を含み得る。筋炎のパネルはtRNA合成酵素(例えば、ステオニル、ヒスチジル、アラニル、イソロイシルおよびグリシル);Ku;Scl;SSA;U1 Snリボ核タンパク質;Mi-1;Mi-1;Jo-1;KuならびにSRPを含み得る。強皮症のパネルは、Scl-70;セントロメア;U1リボ核タンパク質;およびフィブリラリンを含み得る。悪性貧血のパネルは、内性因子;および胃のH/K ATPアーゼの糖タンパク質βサブユニットを含み得る。全身性エリテマトーデス(SLE)のエピトープ抗原は、DNA;リン脂質;核抗原;Ro;La;U1リボ核タンパク質;Ro60(SS-A);Ro52(SS-A);La(SS-B);カルレティキュリン;Grp78;Scl-70;ヒストン;Smタンパク質およびクロマチンなどを含み得る。グレーブス病のエピトープはNa+/I共輸送体;甲状腺刺激ホルモンレセプター;TgおよびTPOを含み得る。
【0051】
ポリヌクレオチド療法−材料および方法
本発明について詳細に記載する前に、特定製剤または過程のパラメータは当然変化し得るものであって、本発明はそれらに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は本発明の特定の態様のみを説明することを目的とするものであって、限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0052】
本明細書において記載されるものと同等または相当する多くの材料および方法が本発明の実践において用いることができるが、本明細書では好ましい材料および方法について記載する。
【0053】
「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、ホスホジエステル結合を介して連結する多くのヌクレオチド単位(リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドまたは関連する構造変異型)から構成されるポリマーを指す。ポリヌクレオチドまたは核酸は、典型的には約6(6)個のヌクレオチドないし約109個のヌクレオチドから約4000個のヌクレオチドまたはそれよりも長い実質的に任意での長さであり得る。ポリヌクレオチドおよび核酸は、RNA、DNA、合成型、および混合ポリマー、センスおよびアンチセンス鎖、二本鎖または一本鎖を含んで、また化学的もしくは生化学的に修飾されることができて、または当業者によって容易に認識されるように非天然または誘導体形成されたヌクレオチド塩基を含むことができる。このような修飾には、例えば、標識、メチル化、無電荷の結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミドエート、カルバメートなど)、電荷した結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、ペンダント分子(例えば、ポリペプチド)、介入物(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤、アルキル化剤、および修飾結合(例えば、α-アノマー核酸など)のような類似体であるヌクレオチド間修飾による一つまたは複数の天然のヌクレオチドの置換が含まれる。水素結合およびその他の化学的相互作用を介して割り付けられた配列に対する結合能においてポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含まれる。このような分子は当技術分野では公知であり、例えば、ペプチド結合が分子のバックボーンのリン酸結合に代わる分子が含まれる。
【0054】
「プロモーター」という用語は、本明細書では、RNA合成の開始、即ち、「転写」のためにRNAポリメラーゼによって認識されるポリヌクレオチド領域を指すために用いられる。プロモーターは、転写の効率および従って自己ベクターによってコードされる自己ポリペプチドのタンパク質発現レベルを調節する自己ベクターの機能性エレメントの一つである。プロモーターは、関連する遺伝子の継続的転写に備えて「構成的」または「誘導的」であることができて、従って、環境中の異なる物質の存在または不在によって調節されることができる。さらに、プロモーターは発現に関して広範囲の異なる細胞タイプに一般的または細胞タイプ特異的であり得て、従って、筋細胞のような特定の細胞タイプにおいて活性または誘導性であり得る。ベクターからの転写を制御するプロモーターは、例えば、ポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、および好ましくはサイトメガロウイルスなどの様々な供給源、または例えばb-アクチンプロモーターなど異種哺乳動物のプロモーターから得られ得る。SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、好都合なことに、ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターのように得られる。
【0055】
「エンハンサー」は、プロモーターからの転写を促進するためにプロモーターに作用する約10〜300塩基対のシス作用性ポリヌクレオチド領域を指す。エンハンサーは相対的に独立した配向性および位置であり、転写ユニットに対して5'もしくは3'イントロン内、またはコード配列そのものの内部に位置することができる。
【0056】
本明細書で用いられるように「ターミネーター配列」は、RNAポリメラーゼに対してDNA転写の終了を知らせるポリヌクレオチド配列を意味する。続いて、ターミネーター配列によって産生されるRNAの3'末端は時にポリアデニル化によってかなり上流に加工される。「ポリアデニル化」は、転写されたメッセンジャーRNAの3'末端に対するポリアデニル酸(ポリA)の約50〜約200ヌクレオチド鎖の鋳型に依らない付加を指すために用いられる。「ポリアデニル化シグナル」(AAUAAA)はmRNAの3'非翻訳領域(UTR)内に見出されて、ポリA配列の転写および付加の開裂部位を明示する。転写終了およびポリアデニル化は機能的に連結して、有効な開裂/ポリアデニル化に必要な配列は停止配列の重要な要素も構成する(Connelly and Manley, 1988)。
【0057】
「DNAワクチン接種」、「DNA免疫化」および「ポリヌクレオチド療法」という用語は本明細書において互換的に用いられて、免疫応答を調節する目的のための対象へのポリヌクレオチドの投与を指す。外来性微生物抗原を発現しているプラスミドを用いた「DNAワクチン接種」は、保護性の抗ウイルスまたは抗細菌免疫を誘導するための周知の方法である(Davis, 1997; Hassett and Whitton, 1996;およびUlmer et al., 1996)。本発明のために、「DNAワクチン接種」、「DNA免疫化」または「ポリヌクレオチド療法」は、疾患に関連する一つまたは複数の自己抗原性エピトープを含む一つまたは複数の自己ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与を指す。「DNAワクチン接種」は、自己免疫疾患の治療または予防のために自己免疫破壊を抑制するための進行中の免疫応答の調節という目的に役立つ。「DNAワクチン接種」に対する免疫応答の調節は、自己反応性リンパ球のTh1からTh2型反応への推移を含み得る。免疫応答の調節は、全身性または自己免疫攻撃下の標的臓器においてごく局所性に生じ得る。
【0058】
「自己ベクター」は、ポリヌクレオチド、一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードするDNAまたはRNAのいずれかを合わせて含む一つまたは複数のベクターを意味する。本明細書で用いられるようにポリヌクレオチドは、本発明の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする一連のDNAを含むデオキシリボ核酸またはRNAを含むリボ核酸、およびそれらの誘導体である。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする配列は適切なプラスミド発現自己カセットに挿入される。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドが発現自己カセットに挿入されると、続いて、ベクターは「自己ベクター」と呼ばれる。一つよりも多い自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドが投与される場合、単一の自己ベクターは多くの別々の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードし得る。一つの態様において、複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするDNAは、結果的に、内部リボソーム再侵入配列(IRES)または単一DNA分子から多くのタンパク質を発現するその他の方法を用いて、単一の自己プラスミドにコードされる。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするDNA発現自己ベクターは、Qiagen Corporationから市販されているようなプラスミドDNAの単離のための市販の技術を用いて調製および単離される。DNAは治療用物質としてヒトへの送達に備えて細菌性エンドトキシンを除去して精製される。または、それぞれの自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは別々のDNA発現ベクターにコードされる。
【0059】
「ベクターバックボーン」という用語は、プラスミドベクターの自己抗原、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする配列以外の部分を指す。
【0060】
「免疫抑制性ベクターバックボーン」は、(i)親ベクターバックボーンに比べて抑制された免疫応答を惹起する、または(ii)免疫応答を阻止もしくは阻害するベクターバックボーンを指す。免疫応答は、当技術分野において公知のインビトロまたはインビボにおけるアッセイを用いて測定することができる。例えば、免疫応答は、ベクターバックボーンに曝露されたリンパ球の増殖を測定することによって、または免疫刺激の指標である(細胞培養培地、血清中などの)サイトカイン(例えば、IL-2、IFN-γ、IL-6)の産生を測定することによって調べることができる。いくつかの態様において、免疫抑制性ベクターバックボーンは、親ベクターバックボーンに比べてより少ない免疫刺激配列(例えば、CpG配列)を含む。いくつかの態様において、免疫抑制性ベクターバックボーンは、例えば本明細書に記載されて当技術分野において公知であるような一つまたは複数の免疫阻害性配列(IIS)を含む。いくつかの態様において、免疫抑制性ベクターバックボーンはTh2免疫応答を促進してTh1免疫応答を阻害する。
【0061】
本明細書で用いられるように「自己抗原、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド」は、動物のゲノム内においてコードされる;動物において産生または生成される;動物の生涯のある時期に翻訳後に修飾され得る;および動物内に非生理学的に存在する任意のタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド、またはそれらのフラグメントもしくは誘導体を指す。本発明の自己抗原、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは自己抗原とも呼ばれる。フラグメントおよび誘導体は、コード配列の一部の欠失によって、また一部の場合にはメチオニンをコードする新規のATG開始コドンの挿入、新規の停止コドンの挿入、および/または自己タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドのフラグメントもしくは誘導体を産生するためにその他の配列の欠失、除去もしくは修飾によって産生され得る。本発明の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを記載するために用いられる場合の「非生理学的」または「非生理学的な」という用語は、該自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの動物における正常な役割または過程からの離脱または逸脱を意味する。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドが「疾患に関連する」または「疾患に関与する」として言及される場合、自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは形または構造において修飾されている可能性があり、従って、その生理学的役割もしくは過程を実施することができない;または病態生理を誘発する、病態生理学的過程を介在もしくは促進する;および/または病態生理学的過程の標的となることによって状態または疾患の病態生理学に関与する可能性があることを意味することが理解される。例えば、自己免疫疾患において、免疫系は自己タンパク質を異常に攻撃して、自己タンパク質が発現および/または存在する細胞および組織の損傷および機能障害を引き起こす。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの翻訳後修飾の例は、グリコシル化、脂質基の付加、ホスファターゼによる脱リン酸化、ジメチルアルギニン残基の付加、フィラグリンおよびフィブリンのペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)によるシトルリン化;αクリスタリンリン酸化;MBPのシトルリン化;ならびにカスパーゼおよびグランザイムによるSLE自己抗原タンパク質分解である)。免疫学的には、自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドはすべてホスト自己抗原と考えられて、正常な生理学的条件下では、「免疫寛容」と呼ばれる過程を通じて自己抗原を認識する能力を有する免疫細胞の排除、不活化、または活性化の欠除を介してホスト免疫系によって無視される。抗原は、B細胞もしくはT細胞、または双方による免疫系によって認識されることができる分子を指す。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドには、免疫機能を調節するために免疫系の細胞によって生理学的、特異的および排他的に発現される分子である免疫タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは含まれない。免疫系は、動物界に存在する様々な潜在的病原性微生物に対する迅速で極めて特異的な保護反応を講じるための手段を提供する防御メカニズムである。免疫タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの例は、T細胞レセプター、免疫グロブリン、I型インターロイキンを含むサイトカイン、インターフェロンおよびIL-10を含むII型サイトカイン、TNF、リンホトキシン、ならびにマクロファージ炎症性タンパク質-1αおよびβ、単球走化性タンパク質およびRANTESなどのケモカインを含むタンパク質、ならびにFasリガンドなど免疫機能に直接関与するその他の分子である。本発明の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに含まれる一部の免疫タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドがあり、それらはI型MHC膜糖タンパク質、II型MHC糖タンパク質およびオステオポンチンである。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、代謝または機能的な障害を引き起こす遺伝的または後天的な欠損症に起因して、全くまたは実質的に対象に存在せず、該タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの投与によって、または該タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与(遺伝子療法)によって補充されるタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドを含まない。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドには、(1)悪性T細胞のクローンを形成するために遺伝的変化を有する単一の細胞の増殖を示すクローン性、(2)増殖が適正に調節されないことを示す自立性、および(3)退形成、即ち、正常な協調された細胞分化を欠くことを含む、正常な対応物からそれらを区別する特徴を有する細胞によって特異的および排他的に発現するタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドは含まれない。前記の3つの基準の一つまたは複数を有する細胞は、腫瘍性、癌または悪性T細胞と呼ばれる。
【0062】
本明細書で用いられるように「免疫応答の調節(modulation)、調節(modulating)または変更(altering)」は、自己タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸、またはそれらのフラグメントもしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドの投与の結果として生じる核酸、脂質、リン脂質、炭水化物、自己タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、タンパク質複合体、リボ核タンパク質複合体、またはそれらの誘導体を含むがそれらに限定されない自己分子に対する既存または潜在的な免疫応答の変更を指す。このような調節には、免疫応答に関与するまたは関与することができる免疫細胞の存在、能力または機能の変更が含まれる。免疫細胞には、B細胞、T細胞、NK細胞、NK T細胞、プロフェッショナル抗原提示細胞、非プロフェッショナル抗原提示細胞、炎症細胞、または免疫応答に関与もしくは影響することができるもう一つの細胞が含まれる。調節には、既存の免疫応答、発生中の免疫応答、潜在的な免疫応答、または免疫応答を誘発、調節、免疫応答に影響もしくは反応する能力に対して加えられる変化が含まれる。調節には、遺伝子、タンパク質、および/または免疫応答の一環としての免疫細胞のその他の分子の発現および/または機能における変更が含まれる。
【0063】
免疫応答の調節には次が含まれるが、これらに限定されるものではない:免疫細胞の排除、欠失または隔離;自己反応性リンパ球、APCまたは炎症性細胞などのその他の細胞の機能的能力を調節することができる免疫細胞の誘導または生成;アネルギーと呼ばれる免疫細胞における無応答性状態の誘導;免疫細胞によって発現されるタンパク質のパターンの変更を含むがこれに限定されない、免疫細胞の活性もしくは機能の増強、低減もしくは変化、またはそれを行う能力。例には、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、転写因子、キナーゼ、共刺激分子、もしくはその他の細胞表面レセプターなどの一部のクラスの分子の生成および/または分泌の変更;またはこれらの調節事象の組み合わせが含まれる。
【0064】
例えば、自己タンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、望ましくない免疫応答を介在するもしくは介在することができる免疫細胞の排除、隔離もしくは遮断;保護的免疫応答を介在するもしくは介在することができる免疫細胞の誘導、産生もしくは回転;免疫細胞の物理的もしくは機能的特性の変化;またはこれらの影響の組み合わせによって免疫応答を調節することができる。免疫応答の調節の測定の例には、(フロサイトメトリー、免疫組織化学、組織学、電子顕微鏡検査、ポリメラーゼ連鎖反応法を用いた)免疫細胞集団の存在または不在の検査;(T細胞増殖アッセイ、抗CD3抗体、抗T細胞レセプター抗体、抗CD28抗体、カルシウムイオノフォア、PMA、ペプチドまたはタンパク質抗原を負荷された抗原提示細胞での刺激後の3H-チミジン取り込みに基づくペプスキャン法を用いるような)シグナルを受けて増殖または分裂する能力または抵抗性を含む免疫細胞の機能的能力の測定;(細胞傷害性T細胞アッセイのような)その他の細胞を死滅させるまたは溶解する能力の測定;(フローサイトメトリー、酵素結合免疫吸着測定法、ウェスタンブロット法、タンパク質マイクロアレイ測定法、免疫沈降法による)サイトカイン、ケモカイン、細胞表面分子、抗体および細胞のその他の産物の測定;免疫細胞の活性化の生化学的マーカーまたは免疫細胞内のシグナル伝達経路の測定(チロシン、セリンまたはスレオニンリン酸化、ポリペプチド開裂、ならびにタンパク質複合体の形成または解離に関するウェスタンブロット法および免疫沈降法;タンパク質アレイ分析法;DNAアレイまたはサブトラクティブハイブリダイゼーションを用いたDNA転写性状解明);アポトーシス、壊死またはその他のメカニズムによる細胞死の測定(アネキシンV染色法、TUNELアッセイ、DNAラダー形成を測定するためのゲル電気泳動、組織学;蛍光発生性カスパーゼアッセイ、カスパーゼ基質のウェスタンブロット解析);免疫細胞によって生成される遺伝子、タンパク質またはその他の分子の測定(ノーザンブロット解析、ポリメラーゼ連鎖反応法、DNAマイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ、二次元ゲル電気泳動、ウェスタンブロット解析、酵素結合免疫吸着法、フローサイトメトリー);ならびに自己免疫、神経変性および非生理学的な自己タンパク質が関与するその他の疾患の改善などの臨床的転帰の測定(臨床スコア、追加療法使用の必要性、機能的な状態、画像検査)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本明細書で用いられるように「免疫調節配列(IMS)」は、自己免疫または炎症性疾患を調節するデオキシヌクレオチド、リボヌクレオチドまたはその類似体からなる化合物を指す。IMSは、ベクターに取り込まれたオリゴヌクレオチドまたはヌクレオチドの配列であってもよい。「オリゴヌクレオチド」は多くのヌクレオチドを意味する。ヌクレオチドはリン酸基に結合した糖(好ましくはリボースまたはデオキシリボース)および交換可能な有機性塩基を含む分子であり、置換されたプリン(グアニン(G)、アデニン(A)もしくはイノシン(I))または置換されたピリミジン(チミン(T)、シトシン(C)もしくはウラシル(U))のいずれであることもできる。オリゴヌクレオチドはオリゴリボヌクレオチドおよびオリゴデオキシリボヌクレオチドの双方を指し、本明細書では以後ODNと記載する。ODNは、オリゴヌクレオシド(即ち、オリゴヌクレオチド−リン酸基)およびポリマーを含むその他の有機性塩基を含む。オリゴヌクレオチドは2つまたはそれよりも多い連結したヌクレオチドの鎖に由来する任意の長さの多くのヌクレオチドを含み、数百万の連結したヌクレオチドを含む染色体物質を含む。
【0066】
一部の変異型において、自己免疫疾患を治療するための方法は免疫応答を促進するためにCpGオリゴヌクレオチドを含む免疫応答を調節するためのアジュバントの投与を含む。CpGオリゴヌクレオチドまたは刺激性IMSはDNAワクチン接種の抗体反応を促進することが示されている(Krieg et al., Nature, 374:546-9 (1995))。CpGオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート化したバックボーンのようにインビボにおいて分解に対して抵抗性であるバックボーンの精製したオリゴヌクレオチドからなる。本発明において有用な刺激性IMSは次のコアヘキサマーを含む:
5'-プリン-ピリミジン-[C]-[G]-ピリミジン-ピリミジン-3'
または
5'-プリン-プリン-[C]-[G]-ピリミジン-ピリミジン-3';
【0067】
免疫刺激性IMSのコアヘキサマーは、任意の組成または数のヌクレオチドまたはヌクレオシドによって5'および/または3'にフランキングすることができる。好ましくは、刺激性IMSは6〜100塩基対の長さの範囲であり、最も好ましくは16〜50塩基対の長さである。刺激性IMSは、100から100,000塩基対の範囲のより長いDNA片の一部として送達されることもできる。刺激性IMSは、DNAプラスミド、ウイルスベクターおよびゲノムDNAに組み込まれることができて、または既に生じている。最も好ましい刺激性IMSは、6(フランキング配列なし)から10,000塩基対、またはより長いサイズであることもできる。ヘキサマーコアにフランキングして存在する配列は、任意の公知の免疫刺激配列(ISS)に存在するフランキング配列に実質的に整合するように構築することができる。例えば、

のフランキング配列の場合はTGACTGTGおよびAGAGATGAがフランキング配列である。もう一つの好ましい隣接配列は、一連のピリミジン(C、TおよびU)を、2回もしくはそれよりも多く反復した個々のピリミジンとして、または2つもしくはそれよりも長い異なるピリミジンの混合物として組み入れる。異なるフランキング配列は阻害性調節配列の試験において用いられていて、刺激性調節配列に適応させることができる。フランキング配列のさらなる例は次の参照に含まれる:米国特許第6,225,292および6,339,068号;ならびにZeuner et al., Arthritis and Rheumatism, 46:2219-24 (2002)。
【0068】
本発明の修飾した自己ベクターを用いた投与に適した特定の刺激性IMSは次のヘキサマー配列を含むオリゴヌクレオチドを含む:
CGジヌクレオチドコア:GTCGTT、ATCGTT、GCCGTT、ACCGTT、GTCGCT、ATCGCT、GCCGCT、ACCGCT、GTCGTC、ATCGTC、GCCGTC、ACCGTCなどを含む5'-プリン-ピリミジン-[X]-[Y]-ピリミジン-ピリミジン-3'のIMSs;
【0069】
グアニンおよびイノシンは一般にアデニンに置き換わることができて、および/またはウリジンは一般にシトシンもしくはチミンに置き換わることができて、それらの置換は前記のガイドラインに基づいて記載したように起こることができる。または、ISS-ODNは、前記のIMSについて詳記したように自己ベクターに含まれることができる。特に有用なISSはマウス至適CpGエレメントであるAACGTTを含む。その他の機能性エレクターが破壊されない限り、ベクター内の単一または多くの位置において修飾された自己ベクターに単一のISSまたは多くのISSを付加することができる。一つの例示的な例において、修飾された自己ベクターに付加されたISSは、プロモーターの上流の直近に5つのマウス最適CpGエレメント(AACGTT)のクラスターを含む。
【0070】
一部の変異型において、自己免疫疾患を治療するための方法は、阻害性IMSまたは免疫阻害配列(IIS)を含むポリヌクレオチドの投与をさらに含む。本発明において有用なIISは次のコアヘキサマーを含む:
5'-プリン-ピリミジン-[X]-[Y]-ピリミジン-ピリミジン-3'
または
5'-プリン-プリン-[X]-[Y]-ピリミジン-ピリミジン-3';
式中、XおよびYは任意の天然または合成のヌクレオチドであるが、XおよびYはシトシン-グアニンであることはできない。
【0071】
IMSのコアヘキサマーは、任意の組成または数のヌクレオチドまたはヌクレオシドによって5'および/または3'にフランキングすることができる。好ましくは、IMSは6〜100塩基対の長さの範囲であり、最も好ましくは16〜50塩基対の長さである。IMSは、100から100,000塩基対の範囲のより大きいDNA片の一部として送達されることもできる。IMSは、DNAプラスミド、ウイルスベクターおよびゲノムDNAに組み込まれることができて、または既に生じている。最も好ましいIMSは、6(フランキング配列なし)から10,000塩基対、またはより長いサイズであることもできる。ヘキサマーコアをフランキングして存在する配列は、任意の公知の免疫阻害配列(IIS)に存在するフランキング配列に実質的に整合するように構築することができる。例えば、フランキング配列

の場合はTTGACTGTGおよびAGAGATGAがフランキング配列である。もう一つの好ましいフランキング配列は、一連のピリミジン(C、TおよびU)を、2回もしくはそれよりも多く反復した個々のピリミジンとして、または2つもしくはそれよりも長い異なるピリミジンの混合物として組み入れる。阻害性調節配列の試験では異なるフランキング配列が使用されている。阻害性オリゴヌクレオチドのフランキング配列のさらなる例は次の参照に含まれる:米国特許第6,225,292および6,339,068号;ならびにZeuner et al., Arthritis and Rheumatism, 46:2219-24 (2002)。
【0072】
本発明の特定のIISは次のヘキサマー配列を含むオリゴヌクレオチドを含む:
1.GGジヌクレオチドコア:GTGGTT、ATGGTT、GCGGTT、ACGGTT、GTGGCT、ATGGCT、GCGGCT、ACGGCT、GTGGTC、ATGGTC、GCGGTC、ACGGTCなどを含む5'-プリン-ピリミジン-[X]-[Y]-ピリミジン-ピリミジン-3' IMS。
2.GCジヌクレオチドコア:GTGCTT、ATGCTT、GCGCTT、ACGCTT、GTGCCT、ATGCCT、GCGCCT、ACGCCT、GTGCTC、ATGCTC、GCGCTC、ACGCTCなどを含む5'-プリン-ピリミジン-[X]-[Y]- ピリミジン-ピリミジン-3' IMS。
【0073】
グアニンおよびイノシンはアデニンに置き換わって、および/またはウリジンはシトシンもしくはチミンに置き換わって、それらの置換は前記のガイドラインに基づいて記載したように起こることができる。
【0074】
本発明の一部の態様においてIMSのコアヘキサマー領域は5'もしくは3'末端のいずれかにおいて、または5'および3'末端の双方においてポリG領域にフランキングされる。本明細書で用いられるように「ポリG領域」または「ポリGモチーフ」は少なくとも2つの連続するグアニン塩基、典型的には2〜30個または2〜20個の連続するグアニンからなる核酸領域を意味する。いくつかの態様において、ポリG領域は2〜10個、4〜10個、または4〜8個の連続するグアニン塩基を有する。一部の好ましい態様において、フランキングポリG領域はコアヘキサマーの近傍である。さらにその他の態様において、ポリG領域は非ポリG領域(非ポリGリンカー)によってコアヘキサマーに連結する;典型的には非ポリGリンカー領域は6個以下、より典型的には4個以下のヌクレオチドを有して、最も典型的には2個以下のヌクレオチドを有する。
【0075】
本発明のその他の態様において、自己免疫疾患の治療の方法は次を含む改善された免疫調節配列の投与を含む:
1.)ヘキサマーの配列5'-プリン-ピリミジン[1]-[X]-[Y]-ピリミジン[2]-ピリミジン[3]-3';式中、XおよびYは任意の天然または合成のヌクレオチドであるが、次は除く:
a.XおよびYはシトシン-グアニンではあることはできない
b.ピリミジン[2]がチミンである場合、XおよびYはシトシン-シトシンであることはできない
c.ピリミジン[1]がシトシンである場合、XおよびYはシトシン-チミンであることはできない
2.)ヘキサマー配列の5'側1〜5個のヌクレオチドにある、ヘキサマー配列に対して5'側CCジヌクレオチド;および
3.)少なくとも3つの連続するGを含んでヘキサマー配列の3'側2〜5個のヌクレオチドにあって、免疫調節配列がシトシン-グアニン配列を含まない、ヘキサマー配列の3'側ポリG配列。
【0076】
本発明のさらにその他の態様において、自己免疫疾患の治療の方法は次を含む改善された免疫調節配列の投与を含む:
1.)ヘキサマー配列5'-プリン-ピリミジン-[Y]-[Z]-ピリミジン-ピリミジン-3';式中、XおよびYはグアニン-グアニンである;
2.)ヘキサマー配列の5'側1〜5個のヌクレオチドにある、ヘキサマー配列に対して5'側CCジヌクレオチド;および
3.)ポリGが2〜10個の連続するGを含んで、ヘキサマー配列の3'側2〜10個のヌクレオチドにあり、免疫調節配列がシトシン-グアニン配列を含まない、ヘキサマー配列の3’側ポリG領域。
【0077】
好ましい態様において、ヘキサマー配列のXおよびYはGpGである。その他の好ましい態様において、ヘキサマー配列は5'-GTGGTT-3'である。その他の好ましい態様において、CCジヌクレオチドはヘキサマー配列の5'側2個のヌクレオチドである。その他の好ましい態様において、ポリG領域は3個の連続するグアニン塩基を含んで、ヘキサマー配列から3'側2個のヌクレオチドである。一つの好ましい態様において、改善された免疫調節配列は

である。
【0078】
IMSは、少なくとも8ヌクレオチドの長さの抑制性オリゴヌクレオチドも含んで、オリゴヌクレオチドは約2.9を超える円偏光二色性(CD)を持つGテトラッドを形成して、グアノシンの数は少なくとも2である(参照により全体が本明細書に組み入れられるInternational Patent Application No. WO 2004/012669)。CDは、左手および右手の円偏光の異なる吸収として定義される。Gテトラッドは、複雑な二次および/または三次構造を可能とするGを豊富に含む(G-rich)DNAセグメントである。より具体的には、Gテトラッドは、1)非ワトソン-クリック塩基対を含む環式水素結合配列において4つのグアノシンの平面的結合を伴って、2)より多くの連続するグアノシンの2つまたは50%を超える塩基がグアノシンであるヘキサマー領域を必要とする。例には、少なくとも1つ、好ましくは2つから20のTTAGGGモチーフを持つオリゴヌクレオチドが含まれる。その他の有用な抑制性オリゴヌクレオチドには次の1つが含まれるが、これらに限定されるものではない:(TGGGCGGT)x、xは好ましくは2〜100、より好ましくは2〜20である;

【0079】
オリゴヌクレオチドは、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ウイルスDNAおよびcDNAを含めて既存の核酸ソースから入手することができるが、好ましくはオリゴヌクレオチド合成によって生成される合成オリゴヌクレオチドである。IMSは一本鎖または二本鎖のDNA、RNA、および/またはオリゴヌクレオチドの一部であることができる。
【0080】
IMSは、好ましくは、非メチル化のGpGオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドである。代替の態様には、一つまたは複数のアデニンまたはシトシン残基がメチル化されたIMSが含まれる。真核細胞の場合、典型的にはシトシンおよびアデニン残基がメチル化されることができる。
【0081】
オリゴヌクレオシドはIMSの内部の領域ならびに/または5'および/もしくは3'末端に組み入れられることができて、このようなオリゴヌクレオチドは自己脂質、自己タンパク質、自己ペプチド、自己ポリペプチド、自己糖脂質、自己炭水化物、自己糖タンパク質、および翻訳後に修飾される自己タンパク質、ペプチド、ポリペプチドもしくは糖タンパク質を含む追加の自己分子のための付着部位として、または追加の免疫調節療法剤のための付着部位として用いられることができる。追加の特性を有するIMSを構築するために、終点、リン酸基、塩基および糖分子を修飾することができる。
【0082】
IMSは安定化および/または非安定化オリゴヌクレオチドであることができる。安定化オリゴヌクレオチドは、インビボにおけるエキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼおよびその他の分解経路による分解に対して比較的抵抗性であるオリゴヌクレオチドを意味する。好ましい安定化オリゴヌクレオチドは修飾されたリン酸バックボーンを有して、最も好ましいオリゴヌクレオチドはホスフェートの酸素の少なくとも1つがイオウによって置き換えられるホスホロチオエート修飾リン酸バックボーンを有する。メチルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロアミデートおよびホスホロジチオネートのヌクレオチド間結合を含むバックボーンリン酸基修飾はIMSに抗菌特性を与えることができる。IMSは好ましくは、主にホスホロチオエート安定化オリゴヌクレオチドを用いた安定化オリゴヌクレオチドである。
【0083】
代替の安定化オリゴヌクレオチドは次を含む:荷電した酸素がアルキル化されるアルキルホスホトリエステルおよびホスホジエステル;荷電したホスホネートの酸素がアリールもしくはアルキル基によって置き換えられる非イオン化DNA類似体であるアリールホスホネートおよびアルキルホスホネート;および/または一方もしくは双方の終末にヘキサエチレングリコールもしくはテトラエチレングリコールまたはもう一つのジオールを含むオリゴヌクレオチド。IMS内のヌクレオシド塩基に糖分子を付加するために代替の立体配置を用いることができる。
【0084】
競合するジヌクレオチドにフランキングするIMSのヌクレオチド塩基は公知の天然の塩基または合成の非天然塩基であり得る。オリゴヌクレオチドは、自己脂質、自己タンパク質、自己ペプチド、自己ポリペプチド、自己糖脂質、自己炭水化物、自己糖タンパク質、および翻訳後に修飾される自己タンパク質、ペプチド、ポリペプチドもしくは糖タンパク質を含むその他の化合物のための付着部位として、または追加の免疫調節療法剤のための付着部位として用いるための従来の技術を用いて、IMS-ONの内部領域および/または末端に組み入れられてもよい。IMS-ONの調節活性に加えて所望の特性を有するIMS-ONを構築するために、IMS-ONの塩基、糖分子、リン酸基および末端も当業者に公知の任意の方法で修飾することができる。例えば、糖分子は任意の立体配置においてIMS-ONのヌクレオチド塩基に付着させることができる。
【0085】
オリゴヌクレオチドに対してこれらのリン酸基修飾を行うための技術は当技術分野において公知であり、詳細な説明は必要ない。このような一つの有用な技術の点検のため、標的オリゴヌクレオチド産物のための中間ホスフェートトリエステルが調製されて、水溶性ヨウ素または無水アミンなどのその他の物質を用いて天然ホスフェートトリエステルに酸化される。生じるオリゴヌクレオチドホスホラミデートはホスホロチオエートを得るためにイオウで処理することができる。同一の一般的技術(イオウ処理段階は除く)はメチルホスホネートからメチルホスホアミジト(methylphosphoamidite)を得るために応用することができる。リン酸基修飾技術に関するより詳細について、当業者は、IMSの組成および調製に関する技術分野における知識のレベルを例証するためにその開示が本明細書に組み入れられるU.S. Pat. No. 4,425,732;4,458,066; 5,218,103および5,453,496、ならびにTetrahedron Lett. at 21:4149 25 (1995), 7:5575 (1986), 25:1437 (1984)およびJournal Am. ChemSoc., 93:6657 (1987)を参考にしてもよい。
【0086】
特に有用なリン酸基修飾はIMS-ONオリゴヌクレオチドのホスホロチオエートまたはホスホロジチオエート型への転換である。ホスホロチオエートおよびホスホロジチオエートはそれらの非修飾型オリゴヌクレオチド対応物よりもインビボにおける分解に対してより抵抗性であり、本発明のIMS-ONをホストにさらに利用可能とする。
【0087】
IMS-ONは、当技術分野において周知の技術および核酸合成装置を用いて合成することができる。この点における参照として、例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Chs. 2 and 4 (Wiley Interscience, 1989);Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab., New York, 1982) ;U.S. Pat. No. 4,458,066およびU.S. Pat. No. 4,650,675を参照されたい。これらの参照は、合成オリゴヌクレオチドの生成に関する技術分野における知識のレベルを実証するために参照により本明細書に組み入れられる。
【0088】
または、IMS-ONは、天然のCpGモチーフおよびフランキングヌクレオチドに競合するジヌクレオチドを置換するために単離された微生物の免疫刺激配列(ISS)の変異によって得ることができる。核酸ハイブリダイゼーションに依拠するスクリーニング手順は、適切なプローブまたは抗体が利用可能であれば、任意の有機体からポリヌクレオチド配列を単離することを可能とする。当該タンパク質をコードする配列の一部に対応するオリゴヌクレオチドプローブは化学的に合成することができる。これは、アミノ酸配列の短いオリゴペプチド伸展が公知でなければならないことを必要とする。タンパク質をコードするDNA配列は遺伝暗号からも推定されることができるが、暗号の縮重を考慮に入れなければならない。
【0089】
例えば、ISS含有ポリヌクレオチドを含むと考えられているcDNAライブラリーは、cDNAから派生する様々なmRNAを卵母細胞に注入してcDNA遺伝子産物の発現が生じるために十分な時間を与えて、例えば、関心対象のポリヌクレオチドにコードされるペプチドに特異的な抗体を用いることによってまたは反復モチーフおよび関心対象のポリヌクレオチドにコードされるペプチドの特徴的な組織発現パターンのためのプローブを用いることによって所望のcDNA発現産物の存在を調べて、スクリーニングすることができる。または、cDNAライブラリーは、ペプチドに特異的な抗体を用いて少なくとも1つのエピトープを有する関心対象のペプチドの発現に関して間接的にスクリーニングすることができる。このような抗体はポリクローナル性またはモノクローナル性のいずれにも由来することができて、関心対象のcDNAの存在を示す発現産物を検出するために用いることができる。
【0090】
ISS含有ポリヌクレオチドが得られたら、それは例えば従来の技術を用いた酵素的消化によって所望の長さに短縮することができる。続いて、ISS-ODNオリゴヌクレオチド産物のCpGモチーフは、CpGモチーフに対して−本発明の方法を用いて識別される−「阻害」ジヌクレオチドを置き換えるように変異させられる。公知の配列を持つDNAの特定の位置に置換変異を起こすための技術は、例えば、PCRを介したM13プライマー変異原性など、周知である。IMSは非翻訳であるので、置換変異の出現においてオープンリーディングフレームの維持に関する懸念はない。しかしながら、インビボでの使用についてはポリヌクレオチド開始物質であるISS-ODNオリゴヌクレオチド中間体またはIMS変異産物は実質的に純粋(即ち、当業者に公知であって当業者によって選択される有効な技術を用いて可能であるように、天然の混入物質およびLPSフリーとして)でなければならない。
【0091】
本発明のIMSは単独で使用することができて、またはひいては組換え型発現ベクターによって送達可能な任意の自己タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドをコードし得る組換え型自己ベクター(プラスミド、コスミド、ウイルスまたはレトロウイルス)にシスもしくはトランスにて組み入れられ得る。簡便化のために、IMSは好ましくは発現ベクターに組み入れられることなく投与される。しかし、発現ベクターへの組み入れが望ましい場合は、このような組み入れは当業者に公知の通常の技術を用いて実施してよい。再検討のため、当業者は前記のAusubel, Current Protocols in Molecular Biologyを参考とする。いくつかの態様において、IMSは一つまたは二価カチオンの超生理学的な値と共に同時投与することができる。
【0092】
簡潔に言えば、組換え型発現ベクターの構築は標準的な連結技術を用いる。構築したベクターの適切な配列を確認するための分析では連結混合物をホストT細胞を形質転換するために使用して良く、成功した形質転換体は適切ならば抗生物質耐性によって選択され得る。形質転換体由来のベクターが調製されて、制限によって分析されて、および/または例えば、Messing et al.,の方法(Nucleic Acids Res., 9:309 (1981))、Maxam et al.の方法(Methods in Enzymology, 65:499 (1980))もしくは当業者に公知であるその他の適切な方法によって配列決定される。開裂したフラグメントのサイズ分離は、例えばManiatis et al.,(Molecular Cloning, pp. 133-134 (1982)によって述べられたような通常のゲル電気泳動を用いて実施する。
【0093】
ホストT細胞は本発明の発現ベクターを用いて形質転換され得て、プロモーターの誘導、形質転換体の選択または遺伝子の増幅のために適切であるように修正された通常の栄養培地で培養され得る。温度、pHなどのような培養条件は発現のために選択されたホストT細胞を用いて先に用いられた条件であり、当業者には明らかである。
【0094】
組換え型発現ベクターが本発明のIMS-ONの担体として利用される場合、プラスミドおよびコスミドは病原性がないために特に好ましい。しかし、プラスミドおよびコスミドはインビボにおいてウイルスよりもより速やかに分解を受けて、従って、炎症性または自己免疫疾患を予防または治療するために十分な用量のIMS-ONを送達することができない可能性がある。
【0095】
ベクターを構築してT細胞にトランスフェクトおよび感染するために用いられる技術の大半は当技術分野において広く実践されていて、大部分の当業者は具体的な条件および手順を説明する標準的な資源材料に精通している。
【0096】
「プラスミド」および「ベクター」は小文字のpとそれに続く文字および/または数字によって命名される。出発プラスミドは市販されていて、公的に制限なしに利用可能であり、または既報の手順に従って手元にあるプラスミドから構築することができる。さらに、記載したものと同等のプラスミドが当技術分野において公知であり、当業者に明らかである。「ベクター」または「プラスミド」は、ホストT細胞内に存在する場合は適切な制御および調節エレメントを含むことによって複製することができる遺伝的エレメントを指す。本発明のため、ベクターまたはプラスミドの例にはプラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルスなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
本発明のベクターの構築は、当技術分野において十分に理解されている標準的な連結および制限技術を用いる(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, (1987), Wiley-InterscienceまたはManiatis et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y.), (1992)を参照されたい。単離されたプラスミド、DNA配列、または合成されたオリゴヌクレオチドは開裂されて、調整されて、所望の形にされる。合成DNAを組み入れるすべてのDNA構築物の配列はDNA配列分析(Sanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 74:5463-5467(1977))によって確認された。
【0098】
DNAの「消化」は、DNAの制限部位である特定の配列においてのみ作用する制限酵素を用いたDNAの触媒作用的な開裂を指す。本明細書で用いられる様々な制限酵素は市販されており、それらの反応条件、補因子およびその他の要件は当業者に公知である。分析目的のため、典型的にはプラスミドまたはDNAフラグメントの1μgが緩衝液 約20μl中約2単位の酵素と共に用いられる。または、DNA基質の完全な消化を確保するために過剰な制限酵素が用いられる。約37℃における約1時間〜2時間のインキュベート時間が実現可能であるが、変更が許容され得る。各インキュベート後、フェノール/クロロホルムを用いた抽出によってタンパク質を回収して、続いてエーテル抽出を行ってもよく、核酸はエタノールを用いた沈殿によって水性画分から回収される。所望ならば、開裂したフラグメントのサイズ分離を標準的な技術を用いてポリアクリルアミドゲルまたはアガロース電気泳動により実施してもよい。サイズ分離に関する一般的な説明はMethods of Enzymology, 65:499-560 (1980)に見出される。
【0099】
制限開裂されるフラグメントは、50mM Tris(ph7.6)50mM NaCl、6mM mgC12、6mM DTTおよび5〜10mu.M dNTP中、20℃において約15〜25分のインキュベート時間を用いて4つのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dNTP)の存在下において大腸菌(E. coli)のDNAポリメラーゼI(Klenow)の大きなフラグメントで処理することによって平滑末端化することができる。4つのdNTPが存在したとしても、Klenowのフラグメントは5'付着末端は埋めるが3'の一本鎖は改めて突出させる。所望ならば、付着末端の性状によって決定される制限の範囲内において、dNTPの一つのみを供給することによって、または選択されたdNTPを用いて選択的な修復を実施することができる。Klenowでの処理後、混合物はフェノール/クロロホルムで抽出してエタノールで沈殿させる。S1ヌクレアーゼまたはBal-31を用いた適切な条件下での処理によって、一本鎖部分が加水分解される。
【0100】
連結は次の標準的な条件および温度において15〜50μlの液量で実施される:20mM Tris-Cl pH 7.5、10mM MgCl2、10mM DTT、33mg/ml BSA、10mM〜50mM NaCl、および0℃において40μm ATP、T4 DNAリガーゼ0.01〜0.02(Weiss)単位(「粘着末端」連結の場合)または14℃において1mM ATP、T4 DNAリガーゼ 0.3〜0.6(Weiss)単位(「平滑末端」連結の場合)。分子間の「付着末端」の連結は、通常は33〜100μg/ml 総DNA濃度(5〜100mM 総末端濃度)において実施される。分子間の平滑末端の連結(通常は10〜30倍のモル濃度のリンカーを用いる)は1μMの総末端濃度にて実施される。
【0101】
発現自己カセットは、ホストT細胞において機能性であるプロモーターを使用する。一般に、ホストT細胞と適合する種に由来するプロモーターおよび制御配列を含むベクターは特定のホストT細胞と共に用いられる。原核生物のホストとの使用に適したプロモーターは、例示的に、β-ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターを含む。しかし、その他の機能性細菌性プロモーターが適切である。原核生物に加えて、酵母培養物などの真核微生物も使用できる。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、つまり一般的なパン酵母は最も広く用いられている真核微生物であるが、その他の多くの系統が広く使用されている。哺乳動物ホストT細胞においてベクターからの転写を制御するプロモーターは、例えば、ポリオーマ、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、および好ましくはサイトメガロウイルスのようなウイルスのゲノムなどの様々な供給源、または例えばβ-アクチンプロモーターなど異種哺乳動物のプロモーターから得ることができる。SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製始点も含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターはHindIII制限フラグメントとして簡便に得られる。勿論、ホストT細胞または関連する種に由来するプロモーターも本明細書において有用である。
【0102】
本明細書で用いられるベクターは、選択可能マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。選択遺伝子は、ベクターを用いて形質転換したホストT細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードする。哺乳動物細胞における適切な選択可能マーカーの例には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、オルニチンデカルボキシラーゼ遺伝子、多剤耐性遺伝子(mdr)、アデノシンデアミナーゼ遺伝子、およびグルタミン酸合成酵素遺伝子が含まれる。このような選択可能マーカーが哺乳動物ホストT細胞に適切に導入される場合、形質転換した哺乳動物ホストT細胞は選択圧下に置かれても生存することができる。二つの広く用いられる異なる選択方法のカテゴリーがある。第一のカテゴリーは、細胞の代謝および強化培地とは無関係に増殖能を欠く変異型Tセルラインの使用に基づく。第二のカテゴリーは、任意の細胞タイプで用いられる選択スキームを指す優性選択と呼ばれて、変異型Tセルラインの使用を必要としない。これらのスキームは典型的にはホストT細胞の増殖を停止させるために薬剤を使用する。新規の遺伝子を有する細胞は薬剤耐性を伝えるタンパク質を発現して、選択を切り抜ける。このような優性選択の例は、薬剤であるネオマイシン(Southern and Berg, J. Molec. Appl. Genet., 1:327 (1982))、ミコフェノール酸(Mulligan and Berg, Science, 209:1422 (1980))、またはハイグロマイシン(Sugden et al., Mol. Cell. Bio., 5:410-413 (1985))を使用する。上記の三つの例は、それぞれ、適切な薬剤であるネオマイシン(G418またはゲンチシン)、xgpt(ミコフェノール酸)またはハイグロマイシンに対する抵抗性を伝えるために真核生物性の制御下において細菌遺伝子を使用する。
【0103】
または、本明細書で用いられるベクターはリプレッサー滴定(Cranenburgh et al., 2001)に基づく抗生物質フリーの選択を用いてホストT細胞内で増殖させる。ベクターは、lacプロモーターの一部として、またはpUCシリーズのプラスミドベクターにおいて見出された至適スペーシングを有するlacO1およびlacO3オペレーターと共にlacオペロンを含むように修飾される。または、lacO1オペレーターまたはlacOのパリンドローム型が単一または多くのコピーとして単離において用いることができる(Cranenburgh et al., 2004)。lacオペロン配列は、ベクターのその他の機能性構成要素に干渉しないようにベクター内の任意の一箇所または多くの位置に組み入れてよい。好ましい態様において、合成大腸菌lacオペロンダイマーオペレーター(Genbankアクセッション番号 K02913)が用いられる。lacオペロンは選択を提供するために適切な選択可能マーカーを欠くベクターに付加してもよく、もう一つの選択マーカーに加えて付加してもよく、または選択可能マーカー、特に抗生物質耐性マーカーを置き換えてベクターを治療的応用に関してより適切とするために使用することもできる。lacオペロンを含むベクターは、lacプロモーター(lacOP)の制御下において、dapDを含む必須遺伝子を有する遺伝的に修飾された大腸菌において選択されることができて、従って、修飾されたホストT細胞はlacOPからのlacリプレッションを滴定することによって生存が可能であり、dapDの発現が可能となる。適切な大腸菌株にはDH1lacdapDおよびDH1lacP2dapDが含まれる(Cranenburgh et al., 2001)。
【0104】
本明細書で提供される方法に従って有用な一つの特に適切な核酸ベクターは、5'-プリン-ピリミジン-C-G-ピリミジン-ピリミジン-3'または5'-プリン-プリン-C-G-ピリミジン-ピリミジン-3'の式の一つまたは複数のCpGジヌクレオチドを非CpGジヌクレオチドが置換した核酸発現ベクターであり、それによって免疫刺激性活性が抑制されるベクターが生成される。例えば、CpGジヌクレオチドのシトシンはグアニンで置換することができて、それによって、5'-プリン-ピリミジン-G-G-ピリミジン-ピリミジン-3'または5'-プリン-プリン-G-G-ピリミジン-ピリミジン-3'の式のGpGモチーフを有するIMS領域が得られる。シトシンはその他の任意のシトシン以外のヌクレオチドで置換することもできる。置換は、例えば、特定部位突然変異誘発を用いて実施することができる。典型的には、置換されたCpGモチーフはベクターの重要な制御領域(例えば、プロモーター領域)に位置しないCpGである。さらに、CpGが発現ベクターのコード領域内に存在する場合、典型的には、サイレント突然変異またはコードされたアミノ酸の保存的置換に対応するコドンを得るためにシトシン以外の置換が選択される。
【0105】
例えば、一部の態様において、自己ベクターの構築のために用いられるベクターは、5'-プリン-ピリミジン-C-G-ピリミジン-ピリミジン-3'の式の一つまたは複数のCpGジヌクレオチドがCpGジヌクレオチドのシトシンをシトシン以外のヌクレオチドで置換することによって変異させた修飾されたpVAX1ベクター(SEQ ID NO:1)である。pVAX1ベクターは当技術分野において公知であり、Invitrogen(Carlsbad, CA)から市販されている。一つの例示的態様において、修飾されたpVAX1ベクターはCpGモチーフ内に次のシトシンから非シトシン置換を有する:784、1161、1218および1966のヌクレオチドにおいてシトシンからグアニン;1264、1337、1829、1874、1940および1997のヌクレオチドにおいてシトシンからアデニン;ならびに1963および1987のヌクレオチドにおいてシトシンからチミン;また1831、1876、1942および1999のヌクレオチドにおいてさらにシトシンからグアニンの変異。(上記のヌクレオチドの番号による表示はInvitrogenより示されたpVAX1のためのナンバリング体系に従う。)pVAX1における残りの4つのプロトライプラセボのCpGエレメントはベクターの重要な制御領域に生じて、従って、未修飾のままであった。このように構築されたベクターはBHT-1(SEQ ID NO:2)と命名された。BHT-1の調製および使用についてはWO 2004/047734に記載されている。
【0106】
いくつかの態様において、本発明はBHT-1発現ベクターバックボーンおよび多発性硬化症に関連する自己タンパク質、ポリヌクレオチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターを提供する。一部の態様において、自己ベクターのポリヌクレオチドはヒトプロテオリピドタンパク質(PLP)をコードする。その他の態様において、自己ベクターのポリヌクレオチドはヒトミエリン関連糖タンパク質(MAG)をコードする。さらにその他の態様において、自己ベクターのポリヌクレオチドはヒトミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG)をコードする。好ましい態様において、自己ベクターのポリヌクレオチドはヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードする。本発明の最も好ましい態様において、自己ベクターはBHT-1発現ベクターバックボーンおよびヒトミエリン塩基性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むBHT-3009(SEQ ID NO:3)である。
【0107】
「トランスフェクション」は、機能的に発現しようとそれ以外であろうと、DNAが発現するようにDNAをホストT細胞に導入することを意味する;DNAは染色体外因子として、または染色体統合によっても複製され得る。特記する場合を除いて、ホストT細胞の形質転換のために本明細書の実施例で用いられる方法はGraham and van der Eb, Virology, 52:456-457 (1973)のリン酸カルシウム共沈法である。トランスフェクションは、トランスフェクション促進物質またはリン酸カルシウム共沈法、亜鉛もしくはその他の関連金属カチオン誘発沈殿法(金属カチオンがDNAが強い親和性を持つリン酸塩もしくは水酸化物の沈降粒子を形成して、その結果、DNA:金属リン酸塩共沈殿が生じる−ミリモル以下またはミリモル濃度の亜鉛またはその他の金属を必要とする(Kejnovsky and Kypr, Nucleic Acids Research, 26:5295-99 (1998)を参照されたい)、DNA沈殿を誘発する超濃縮液、金またはその他の粒子へのDNAの結合、ウイルス形質導入、原形質体融合、DEAE-デキストランもしくはその類似体に介在されるトランスフェクション、ポリブレン介在性トランスフェクション、リポソーム融合、顕微注入、微粒子照射(微粒子銃)または電気穿孔法(Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual, Stockton Press (1990))を含むがこれらに限定されないホストT細胞に細胞外核酸を導入するために適した当技術分野で公知の任意の方法によって達成することができる。
【0108】
好ましい態様において、関心対象の核酸は、動物のホストT細胞による取り込みのための動物への注入に備えて、生理学的な値を超える総濃度の一つまたは複数の二価カチオンを用いて製剤化される。いくつかの態様において、例えば、Ca2+、Mg2+、Mn2+、Zn2+、Al2+、Cu2+、Ni2+、Ba2+、Sr2+またはその他およびそれらの混合物など、一つまたは複数の生理学的に許容される二価カチオンを使用することができる。いくつかの態様において、二価カチオンはカルシウム単独である。いくつかの態様において、マグネシウム、カルシウム、またはその混合物は、それぞれ、約1.5mMおよび1mMにて細胞外に存在することができる。好ましい態様において、トランスフェクトされるべき核酸は約0.9mM(1×)〜約2Mの濃度のカルシウムと共に製剤化される;より好ましい態様において、カルシウム濃度は約2mM〜約8.1mM(9×)である;最も好ましい態様において、カルシウム濃度は約2mM〜約5.4mM(6×)である。二つまたはそれよりも多い二価カチオンの混合物は、約0.9、2、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、45、65、90、130、170、220、280、320、350、500、750、1000、1500mMなど、および約2Mまでの総濃度で組み合わせて用いることができる。
【0109】
一部の好ましい態様において、対イオンはPO4、Cl、OH、CO2、またはその混合物を含むことができる。その他の態様において、製剤はDNAに平均サイズまたは80%粒子が約0.1、.3、.5、1、3、5、8、15、20、35、50、70または100ミクロンを超えるサイズ分布を持つ微粒子または沈殿物を形成させ得る。このような粒子のサイズは遠心分離、フローサイトメトリー分析、ヨウ化プロピジウムもしくは同様の色素標識法、または動的光散乱法によって調べることができる。
【0110】
生理学的な値を超える濃度の二価カチオンの使用は任意のDNAワクチン接種ベクターバックボーンを用いた使用に適している。本発明の方法のために、生理学的な値を超える濃度の二価カチオンは任意の免疫抑制ベクターバックボーンを用いた用途も見出されている。例示的な免疫抑制ベクターバックボーンには、(i)親ベクターバックボーンに比べて減少した数の免疫刺激性配列(ISS)(例えば、減少した数の「CpG」配列など)を伴うもの、(ii)一つまたは複数の免疫阻害性配列(IIS)を含むもの、および(iii)減少した数のISSおよび一つまたは複数のIISを有するものが含まれる。例示的な免疫抑制ベクターバックボーンはBHT-1ベクターバックボーンを含む。
【0111】
形質転換法は当技術分野において公知であり、Bishop (Bio.comを参照されたい), Jordan et al. (1996) Nucleic Acids Research 15:24(4):596-601;米国特許第5593875号; Chen and Okayama (1987) Mol. Cell Biol. 7(8):2745-2752;およびWelzel, et al. (2004) "Transfection of cells with custom-made calcium phosphate nanoparticles coated with DNA" J. Mater. Chem. 14:2213-2217によって報告された方法とほぼ等しい方法である。例えば、ヒストン、様々な塩、リポソーム、ポリリジン、スペルミン、スペルミジンなどのような荷電した実体など、追加の成分を用いてもよい。例えば、Simonson, et al. (2005) "Bioplex technology: novel synthetic gene delivery pharmaceutical based on peptides anchored to nucleic acids" Curr. Pharm. Des. 11(28):3671-680;Roche, et al. (2003) "Glycofection: facilitated gene transfer by cationic glycopolymers" Cell Mol. Life Sci. 60(2):288-297;Pichon, et al. (2001) "Histidine-rich peptides and polymers for nucleic acids delivery" Adv. Drug Deliv. Rev. 53(1):75-94;Mahat, et al. (1999) ".Peptide-based gene delivery" Curr. Opin. Mol. Ther. (2):226-243;およびLee and Kim (2005) "Polyethylene glycol-conjugated copolymers for plasmid DNA delivery" Pharm. Res. 22(1):1-10を参照されたい。Pack, et al. (2005) "Design and Development of Polymers for Gene Delivery" Nature Drug Discovery 4:581-493も参照されたい。
【0112】
特定の二価カチオン、特定のアニオンまたは対イオン、異なる二価カチオンの混合物の組み合わせ、ならびに二価カチオンおよび対イオンの組み合わせの有効性は少なくとも3つの異なる段階で測定することができる:(i)トランスフェクションの段階、(ii)発現(即ち、転写または翻訳)の段階、および(iii)免疫応答または免疫抑制の段階。トランスフェクションの段階では、当技術分野において公知の任意の方法(例えば、定量的PCRアッセイを用いて)インビトロまたはインビボにおけるトランスフェクション効率を測定することができる。発現の段階では、転写または翻訳は当技術分野において公知の方法を用いてインビトロまたはインビボにおいて測定することができる。例えば、抗体は、ELISAまたはウェスタンブロットアッセイにおいて培養細胞またはインビボにおける標的細胞(例えば、筋細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、上皮細胞、およびその他の標的細胞タイプまたは標的臓器の細胞)からの自己抗原または自己タンパク質の翻訳を検出するために用いることができる。免疫応答の段階では、このようなトランスフェクションまたは注射に起因する免疫応答の促進、阻害または予防は当技術分野において公知の任意の方法を用いてインビトロまたはインビボにおいて測定することができる。例えば、活性化されたリンパ球の増殖、自己反応性リンパ球の存在、自己抗体の生成、またはトランスフェクトされた標的細胞に曝露されたリンパ球もしくはその他の免疫細胞(例えば、形質細胞様樹状細胞)によるサイトカインの生成が測定できる。動物モデルにおける自己免疫疾患の症状(例えば、炎症、組織破壊、自己抗体もしくは自己反応性リンパ球の存在)またはその緩解も、一つまたは複数の二価カチオンの超生理学的濃度における自己ベクターのトランスフェクトまたは注射後に測定することができる。本明細書では多くの自己免疫疾患に関する動物モデルについて記載する。
【0113】
本発明の自己ベクターは医用薬としての用途のためにポリヌクレオチド塩として製剤化することができる。ポリヌクレオチド塩は無毒の無機または有機の塩基と共に調製することができる。無機塩基の塩は、ナトリウム、カリウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、マグネシウムなどを含む。有機の無毒の塩基は一級、二級および三級アミンなどの塩を含む。このような自己DNAポリヌクレオチド塩は、送達前に無菌の水または塩溶液など、再溶解のための凍結乾燥剤形として製剤化することができる。または、自己DNAポリヌクレオチド塩は送達のための水または油をベースとする賦形剤を用いた溶液、懸濁液または乳濁液として製剤化することができる。一つの好ましい態様において、DNAは生理学的な値のカルシウム(0.9mM)またはもう一つの二価カチオンを加えたリン酸緩衝生理食塩液中で凍結乾燥されて、続いて、投与前に無菌の水で再溶解される。いくつかの態様において、DNAは、例えば、総濃度1μM〜2Mの一つまたは複数の二価カチオンなど、上記のような生理学的な量を超える一つまたは複数の二価カチオンを含む溶液中で製剤化される。いくつかの態様において、DNAは、例えば1μM〜2Mなど、生理学的な量を超えるCa++を含む溶液中で製剤化される。DNAは特定のイオン種の非存在下で製剤化することもできる。
【0114】
当業者に公知なように、本明細書に記載する通り、ポリヌクレオチドを対象に送達するために様々な方法が存在する。「対象」は、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモットまたはウサギなどの任意の動物を意味する。自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドはカチオン性リポソームを含むカチオン性ポリマーと共に製剤化することができる。その他のリポソームは、自己ポリヌクレオチドを製剤化および送達するための有効な手段でもある。または、自己DNAは薬学的送達のためにウイルスベクター、ウイルス粒子または細菌に組み入れることもできる。ウイルスベクターは感染能力があり、弱毒化されて(疾患を誘発する能力を低下させる突然変異を伴う)、または非増殖性であることができる。粒子もDNAを送達するための有効な方法であり、DNAを金またはその他の粒子に結合させて、対象に注射または遺伝子銃によって送達することができる。病原性自己タンパク質の析出、蓄積または活性を防ぐために自己DNAを利用する方法は、ウイルスベクターまたはコードされた自己タンパク質に対して液性応答を増強させるその他の送達系の使用によって促進され得る。その他の態様において、DNAは金粒子、多糖類をベースとする支持体、または注射、吸入もしくは粒子照射(弾道的送達)によって送達することができるその他の粒子もしくはビーズを含む固相支持体に抱合することができる。
【0115】
核酸調製物を送達するための方法は当技術分野において公知である。例えば、U.S. Pat No. 5,399,346、5,580,859、5,589,466を参照されたい。ウイルスをベースとする多くの系が哺乳動物細胞への伝達のために開発されている。例えば、レトロウイルスの系が記載されている(米国特許第5,219,740号;Miller et al., Biotechniques, 7:980-990 (1989) ;Miller, A. D., Human Gene Therapy, 1:5-14 (1990) ;Scarpa et al., Virology, 180:849-852 (1991) ;Burns et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:8033-8037 (1993) ;およびBoris-Lawrie and Temin, Cur. Opin. Genet. Develop., 3:102-109 (1993))。多くのアデノウイルスベクターも記載されている(例えば、Haj-Ahmad et al., J. Virol., 57:267-274 (1986);Bett et al., J. Virol., 67:5911-5921 (1993);Mittereder et al., Human Gene Therapy, 5:717-729 (1994);Seth et al., J. Virol., 68:933-940 (1994) ;Barr et al., Gene Therapy, 1:51-58 (1994);Berkner, K. L., BioTechniques, 6:616-629 (1988) ;およびRich et al., Human Gene Therapy, 4:461-476 (1993)を参照されたい)。アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターの系も核酸送達のために開発されている。AAVベクターは当技術分野において周知の技術を用いて容易に構築することができる(例えば、米国特許第5,173,414および5,139,941号;International Publication No. WO 92/01070およびWO 93/03769;Lebkowski et al., Molec. Cell. Biol., 8:3988-3996 (1988) ;Vincent et al., Vaccines, 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press) (1990) ;Carter, B. J., Current Opinion in Biotechnology, 3:533-539 (1992);Muzyczka, N., Current Topics in Microbiol. And Immunol., 158:97-129 (1992) ;Kotin, R. M., Human Gene Therapy, 5:793-801 (1994) ;Shelling et al., Gene Therapy, 1:165-169 (1994);ならびにZhou et al., J. Exp. Med., 179:1867-1875(1994)を参照されたい)。
【0116】
本発明のポリヌクレオチドはウイルスベクターを用いずに送達することもできる。例えば、分子は対象への送達前にリポソームに内包させることができる。脂質カプセル化は、一般に、核酸を安定的に結合または捕捉および保持することができるリポソームを用いて達成される。核酸の送達のための担体としてのリポソームの使用に関する総評については(Hug et al., Biochim. Biophys. Act., 1097:1-17 (1991);Straubinger et al., Methods of Enzymology, 101:512-527 (1983)を参照されたい)。Pack, et al. (2005) "Design and Development of Polymers for Gene Delivery" Nature Drug Discovery 4:581-493も参照されたい。
【0117】
疾患または障害の「治療(treating)」、「治療(treatment)」または「療法(therapy)」は、自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを単独または本明細書に記載されるもう一つの化合物と組み合わせて投与することによって、臨床的または診断的症状の中断または排除によって示されるような疾患の進行の鈍化、停止または逆転を意味する。好ましい態様において、疾患の治療は、理想的には疾患そのものの排除の点まで疾患の進行を逆転または停止させることを意味する。本明細書で用いられるように、疾患の緩解および疾患の治療は同等である。
【0118】
本明細書の文脈で用いられる疾患または障害の「防止(preventing)」、「予防(prophylaxis)」または「防止(prevention)」は、疾患もしくは障害または疾患もしくは障害の症状のいくつかもしくはすべての発現もしくは発症を防止するため、または疾患もしくは障害の発症の可能性を低下させるために、自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを単独または本明細書で記載されるもう一つの化合物と組み合わせて投与することを指す。
【0119】
一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む自己ベクターの「治療上有効量」は本発明の開示に従って投与されて、例えば疾患の症状および/または原因を緩解または排除することによって疾患を十分に治療または防止する。例えば、治療上有効量は広い範囲内にあって、臨床試験を通じて決定されて、特定の患者については疾患の重症度、患者の体重、年齢およびその他の要因を含めて、一般的に熟練した臨床医に公知である要因に基づいて決定される。自己ベクターの治療上有効量は約0.001マイクログラム〜約1グラムの範囲である。自己ベクターの好ましい治療量は約10マイクログラム〜約5ミリグラムの範囲である。自己ベクターの最も好ましい治療量は約0.025mg〜5mgの範囲である。ポリヌクレオチド療法は6〜12カ月間毎月、その後は維持用量として3〜12カ月毎に送達される。代替の治療計画は、疾患の重症度、患者の年齢、投与しようとする自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド、および通常の治療担当医師によって検討される。このようなその他の要因に応じて、毎日から、毎週、隔月、毎年、一回限りの投与までの範囲であり得る。
【0120】
一つの態様において、ポリヌクレオチドは筋肉内注射によって送達される。もう一つの態様において、ポリヌクレオチドは鼻腔内、経口、皮下、皮内、静脈内、経粘膜に、皮膚を介して圧痕して、または真皮にもしくは真皮を介して送達される金粒子に付着させて送達される(例えば、WO 97/46253を参照されたい)。または、核酸はリポソームまたは荷電した脂質を用いてまたは用いないで局所適用により皮膚細胞に送達することができる(例えば、米国特許第6,087,341号を参照されたい)。さらにもう一つの代替は核酸を吸入される物質として送達することである。
【0121】
ポリヌクレオチドは生理学的な値のカルシウム(0.9mM)を加えたリン酸緩衝生理食塩液中に製剤化することができて、エンドトキシンフリーである。または、ポリヌクレオチドは、例えば本明細書において考察されるようにCa2+、Mg2+、Mn2+、Zn2+、Al2+、Cu2+、Ni2+、Ba2+、Sr2+およびそれらの混合物などの一つまたは複数の二価カチオンを例えば2mM〜2Mの生理学的濃度を超える濃度で含む溶液中で製剤化または同時投与することができる。一つまたは複数のトランスフェクションの改善された効率、自己抗原の発現および改善された治療効果は、自己ベクターおよび一つまたは複数のカチオンが一度に同時投与されるまたは連続的に投与される場合に達成することができる。連続的に投与される場合、自己ベクターまたは一つもしくは複数の二価カチオンのいずれも最初に投与することができる。
【0122】
代わりに、またはさらに、ポリヌクレオチドはカチオン性ポリマー、カチオン性リポソーム形成化合物または非カチオン性リポソームのいずれを用いて製剤化してもよい。DNA送達のためのカチオン性リポソームの例は、1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアミオニオ)プロパン(DOTAP)およびその他のこのような分子を用いて産生されるリポソームを含む。
【0123】
ポリヌクレオチドの送達に先立って、ブピビカン、心臓毒、または後続のポリヌクレオチド療法の送達を促進し得るもう一つの物質で処理することによって送達部位を事前準備することができる。このような事前準備の投与計画は、一般に、治療的ポリヌクレオチドの送達の12〜96時間前、より頻繁には治療的DNAの送達の24〜48時間前に送達される。または、DNA療法の前に事前準備の処理は行われない。いくつかの態様において、送達部位は生理学的な濃度を超える一つまたは複数の二価カチオンの投与で事前準備される。
【0124】
自己ベクターは、例えば薬学的物質、アジュバント、サイトカイン、またはサイトカインをコードするベクターなどのその他の物質と組み合わせて投与することができる。さらに、サイトカイン同時送達を用いた際に不要な抗自己サイトカイン反応惹起の可能性を避けるために、ビタミンD3の活性型などの化学的免疫調節物質を投与することもできる。この点において、1,25-ジヒドロキシビタミンD3は筋肉内DNA免疫化を介してアジュバント効果を発揮することが示されている。
【0125】
ホストの免疫応答を調節することが公知であるタンパク質(例えば、サイトカイン)をコードするポリヌクレオチドを自己ベクターと同時投与することができる。従って、免疫調節サイトカイン(例えば、インターロイキン、インターフェロンもしくはコロニー刺激因子)をコードする遺伝子またはそれらの機能性フラグメントは本発明に従って用いられ得る。これらの多くのサイトカインの遺伝子配列が公知である。従って、本発明の一つの態様において、自己ベクターの送達は次の免疫調節タンパク質の少なくとも一つまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチドの同時投与と連合する:IL-4;IL-10;IL-13;TGF-β;またはIFN-γ。
【0126】
本発明の使用のために選択されたヌクレオチド配列は、例えば、標準的な技術を用いて所望の遺伝子またはヌクレオチド配列を含む細胞から核酸を単離することによって公知の配列から導くことができる。同様に、ヌクレオチド配列は、当技術分野において周知である標準的なポリヌクレオチド合成様式を用いて合成的に産生することができる(例えば、Edge et al., Nature, 292:756 (1981);Nambair et al., Science, 223:1299 (1984);(Jay et al., J. Biol. Chem., 259:6311 (1984)を参照されたい)。一般に、合成的オリゴヌクレオチドは(Edge et al.、前記)および(Duckworth et al., Nucleic Acids Res., 9:1691 (1981))によって記載されたホスホトリエステル法または(Beaucage et al., Tet. Letts., 22:1859 1981)および(Matteucci et al., J. Am. Chem. Soc., 103:3185 (1981))によって記載されたホスホラミダイト法のいずれかによって調製することができる。合成オリゴヌクレオチドは市販の自動化オリゴヌクレオチド合成装置を用いて調製することもできる。従って、ヌクレオチド配列は特定のアミノ酸配列における適切なコドンを用いて設計することができる。一般に、意図するホストでの発現に好ましいコドンが選択される。全配列は標準的な方法で調製された重複したオリゴヌクレオチドから組み立てられて、全コード配列に組み立てられる。例えば、Edge et al.(前記);Nambair et al.(前記)およびJay et al.(前記)を参照されたい。
【0127】
本明細書で用いるための核酸配列を得るためのもう一つの方法は組換え法である。このように、所望のヌクレオチド配列は、標準的な制限酵素および手順を用いて核酸を運搬するプラスミドから切り取ることができる。部位特異的なDNA開裂は適切な制限酵素および手順で処理することによって実施される。部位特異的なDNA開裂は、当技術分野において一般的に理解される条件下において、詳細が市販の制限酵素の製造業者によって指定される適切な制限酵素(または酵素)で処理することによって実施される。所望ならば、開裂したフラグメントのサイズ分離を標準的な技術を用いてポリアクリルアミドゲルまたはアガロース電気泳動により実施してもよい。
【0128】
特定の核酸分子を単離するためのさらにもう一つの簡便な方法はポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)である。(Mullis et al., Methods Enzymol., 155:335-350 (1987) or reverse transcription PCR (RT-PCR))。特定の核酸配列はRNAからRT-PCRによって単離することができる。RNAは、例えば、細胞、組織、または有機体全体から当業者に公知の技術によって単離される。続いて、相補DNA(cDNA)は、ポリ-dTまたはランダムヘキサマープライマー、デオキシヌクレオチド、および適切な逆転写酵素を用いて産生される。その後、所望のポリヌクレオチドは産生されたcDNAからPCRによって増幅することができる。または、関心対象のポリヌクレオチドは適切なcDNAライブラリーから直接増幅することができる。関心対象のポリヌクレオチド配列の5'および3'末端双方とハイブリダイズするプライマーが合成されて、PCRに使用される。プライマーは、同様に制限消化されたプラスミドベクターへの増幅した配列の容易な消化および連結のために5'末端に特定の制限酵素位置を含めることもできる。
【0129】
次の実施例は、本発明を実施するための具体的な態様である。これらの実施例は例証の目的のみに示すものであって、本発明の範囲をいささかも限定することを意図するものではない。
【0130】
実施例
実施例1:
DNA粒子サイズ
DNA試料(BHT-3021)はBayhill Therapeuticsからドライアイスに詰めて入手して、その後の使用まで-80℃にて保存した。DNA試料濃度は2mg/mlであった。動的光散乱分析は塩化カルシウムの存在下および非存在下において2つの異なるDNA濃度にて実施した。4つの異なる濃度(0.9、3、5.4および8mM)の塩化カルシウムを分析に使用した。DNAの原液は、異なる二段階の濃度のDNA(0.25および1.5mg/ml)を得るためにリン酸緩衝生理食塩液で希釈した。DNA試料の水力学的直径は、デカリンの水槽に浸漬した試料セルに入射する50mWダイオード励起レーザー(λ=532nm)を備えた光散乱装置(Brookhaven Instruments Corp, Holtszille, NY)を用いて20℃において測定した。散乱光はPMT(EMI 9863)により入射ビームに対して90゜でモニターして、自己相関関数はデジタル相関器(BI-9000AT)により求めた。データは各試料について30秒ずつ5回にわたって連続的に採取して、平均した。データは、調製物の多分散性および存在する様々な成分の相対的サイズに関する情報を得るために様々な方法によって分析した。自己相関関数は、DNAおよび/または複合体の平均拡散係数を得るためにキュミュラントの方法により適合させた。有効水力学的直径は拡散係数からストークス-アインシュタイン方程式により得られた。さらに、データは多峰分布を求めるために制約付き非負最小二乗アルゴリズムに適合させた。また、より完全な分析のために、これらの方法は集団の数平均および強度平均を用いて使用した。
【0131】
粒子計数機による粒子サイズの分析
実験:0.4〜1200μmの全体分粒範囲を持つCoulter Multisizer 3(Beckman Coulter Inc.)をDNA/リン酸Ca複合体の凝集状態の分析を実施するために使用した。すべてのDNA試料について560μm開口管を使用した。
【0132】
実施例2:
hMBPに対する免疫応答の安全性および予備評価を確立するためのBHT-3009を用いた多発性硬化症の治療
MS治療のための現在承認されている物質は非特異的免疫調整物質である。急性の再発は典型的には高用量コルチコステロイド療法の短期コースで管理されるが、これは急性の再発後の改善速度は早めるがプラセボに比べて全体の回復率を明らかに改善させることはない(Brusaferri et al., J. Neurol., 247:435-42 (2000))。発作の頻度および重症度を低減させるために用いられる免疫調節物質には、インターフェロンβ1B(ベタセロン、Berlex)、インターフェロンβ1A(アボネックス、Biogen;レビフ、Serono)、酢酸グラチラマー(コパキソン、Teva Neuroscience)、ナタリズマブ(タイサブリ、Biogen-Idec)およびミトキサントロン(ノバントロン、Amgen)が含まれる。しかし、これらの物質に根底にある自己免疫応答に直接対応するものはない。むしろ、それらは、疾患関連性の組織損傷に至る正常な免疫学的過程と共通する一つまたは複数のエフェクター経路を調節する。さらに、疾患の進行に対するこれらの製剤の効果は、せいぜい中程度であり(Goodin et al., Neurol., 58:169-78 (2002);Filippini et al., Lancet, 361:545-52 (2003);Scott & Friggitt, CNS Drugs, 18:379-96 (2004);Simpson et al., CNS Drugs, 16:825-50 (2002);Miller et al., N. Engl. J. Med., 348:15-23 (2003))、いずれも重大な副作用を有する。具体的には、インターフェロンは頻繁に患者にインフルエンザ様症状を引き起こす(Goodin et al., Neurol., 58:169-78 (2002);Filippini et al., Lancet, 361:545-52 (2003));ミトキサントロンは感染症のリスク増大を伴う骨髄抑制を引き起こす(Scott & Friggitt, CNS Drugs, 18:379-96 (2004));酢酸グラチラマーはアレルギー性反応を引き起こして(Simpson et al., CNS Drugs, 16:825-50 (2002))、タイサブリはリンパ球輸送を減少させて(Miller et al., N. Engl. J. Med., 348:15-23 (2003))進行性多巣性白質脳症を含む感染症のリスクを増大させ得る。これらの非特異的な免疫抑制物質とは対照的に、BHT-3009はミエリン塩基性タンパク質に対する免疫応答を選択的に低下させるように設計される。抗原特異的免疫抑制は現在の療法よりもより有効かつ安全であることが望まれる。
【0133】
MS患者を、BHT-3009(SEQ ID NO:3)を単独またはアトルバスタチンと組み合わせて用いた免疫療法の安全性について調べるための多施設、無作為化、二重盲検、3群、プラセボ対照、Phase I臨床試験に登録した。BHT-3009は、BHT-1発現ベクターバックボーン、ならびにBHT-1のマルチクローニング配列内のEcoRIおよびXba I部位に挿入された完全長のヒトミエリン塩基性タンパク質(hMBP)をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターである。BHT-3009の重要な機能上および制御上の特性は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター/エンハンサー;ウシ成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル;カナマイシン耐性遺伝子;および大腸菌内のベクター増殖の複製pUC始点を含む。BHT-3009の主な構造的特徴を示すダイアグラムを図1に示す。BHT-3009の筋肉内投与によって、注射部位および流入流域リンパ節に通じる細胞内においてもhMBPタンパク質の一過性の低レベルの発現が起こる。新規の免疫学的状況における自己抗原のこの限定的な発現は、MSの前臨床モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎のマウスおよびラットモデルにおいて進行中の自己免疫応答を減弱させることが実証されている。この試験における標的集団は、再発寛解型MS(RRMS)および比較的安定した経過を示す患者、ならびに再発および比較的安定した経過を示す二次性進行型MS(SPMS)の患者を含む再発性疾患の患者である。具体的な組み入れおよび除外基準は次の通りであった:
組み入れ基準
・McDonald基準に基づく多発性硬化症の確定診断
・次の一つまたは複数によって示される再発性疾患:過去2年以内における急性の再発;過去2年を通じての臨床的増悪化;MRIにおけるガドリニウム増強病変
・>3カ月の臨床的な安定
・脳MRIにおける少なくとも一つのガドリニウム増強病変
・ベースライン評価前の>3カ月のインターフェロン休止
・>12カ月またはCD4数>400を伴う>6カ月の免疫抑制および細胞毒性療法(例えば、ミトキサントロン、クラドラビンなど)の休止
・EDSS <7
・年齢18歳以上
・インフォームドコンセントを提出できる
・WBCおよび血小板が正常範囲内、ヘモグロビン >10.0g/dl
・AST、ALT、ビリルビンが<正常上限値
・クレアチニンが<正常上限値
除外基準
・過去3カ月以内における高用量コルチコステロイド(例えば、>500mgメチルプレドニゾロンまたは同等品)
・任意の時期におけるワクチン療法、幹細胞移植もしくは全リンパ球放射線照射を用いた治療歴、または過去12カ月以内のグラチラマー療法
・妊産婦
・医学的に許容される型の産児制限の使用に対する不承知
・HIV、B型肝炎またはC型肝炎の感染が明らかであるまたは疑いがある
・臨床的に重大なECG異常
・治験担当医の見解において治験または試験エンドポイントの評価における完全参加を妨げる医学的状態または社会的環境
・MRIスキャンの実施を制限する身体上または身体内部におけるペースメーカー、除細動器、またはその他の金属製物質の埋め込み
【0134】
30名のMS患者が3つのBHT-3009用量コホートの一つに割り付けられた。各用量コホートについて、10名の患者を次の投与群の一つに無作為化した:A群:BHT-プラセボ+アトルバスタチン-プラセボ(4名の患者);B群:BHT-3009+アトルバスタチン-プラセボ(3名の患者);およびC群:BHT-3009+アトルバスタチン(3名の患者)。A群に無作為化した患者は次のD群:BHT-3009単独(2名の患者)またはE群:BHT-3009+アトルバスタチン(2名の患者)の一つを用いたオープンラベルによる投与に改めて無作為化して、以下に示すようにそれぞれ、最初にBまたはC群に無作為化された患者と同様に投与して評価した(図2)。すべての患者は、ベースライン観察として-2〜0週にガドリニウムを用いたMRIを含む評価を行った。0週に患者を無作為化して、投与は1週に開始した。BHT-3009およびBHT-プラセボは、1、3、5および9週に0.5mg、1.5mgおよび3.0mgの用量で筋肉内(IM)に投与した。BHT-3009活性生物製剤はGMP基準を遵守して製造された。BHT-3009の最終製剤は、0.9mMカルシウム(1×)を含むPBS中1.5mg/mLの無菌のエンドトキシンフリーな等張液であった。本発明のその他の態様において、BHT-3009は約2mM〜約2Mの濃度のカルシウムのような二価カチオンと共に製剤化される;より好ましい態様において、カルシウム濃度は約2mM〜約8.1mM(9×)である;もっとも好ましい態様において、カルシウム濃度は約2mM〜約5.4mM(6×)である。BHT-プラセボはカルシウム 0.9mMを含むPBS中、無菌、エンドトキシンフリーの等張液である。アトルバスタチン(リピトール(登録商標))およびアトルバスタチン-プラセボは、最初のBHT-3009/BHT-プラセボ注射の2日前から80mgタブレットとして毎日経口的に服用して、投与が盲検開示されるまで継続した。MRIおよびその他の安全性評価はベースラインならびに5および9週に実施した。13週に、各患者について詳細な評価を行って、その後、投与の盲検を開示した。BおよびC群に無作為化した患者は14週にプロトコールに明記されたすべての療法を停止して、26、38および50週に安全性についてフォローした。
【0135】
(表3)BHT-3009およびアトルバスタチンの用量

【0136】
(表4)投与および評価のスケジュールのまとめ

【0137】
次の安全性変数について調べた:
●臨床
○病歴および完全な神経学的検査を含む理学的検査
○問題指向型の病歴および理学的検査
○バイタルサイン
○併用薬
○注射部位の評価
○Kurtzkeの拡大障害状態尺度(EDSS)
●臨床検査
化学的検査(拡大):ブドウ糖、BUN、クレアチニン、AST、ALT、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン、電解質(ナトリウム、カリウム、塩化物、重炭酸塩、カルシウムおよびマグネシウム)、LDH、アミラーゼ、アルブミン、総タンパク質
化学的検査:ブドウ糖、BUN、クレアチニン、AST、ALT、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン
○ANA、抗DNA抗体
○血清中クレアチンキナーゼ
○コレステロール
○CBC:ヘマトクリット、ヘモグロビン、WBCおよび鑑別(自動化)、血小板
○尿検査:ディップスティック、およびディップスティックにおいて臨床的に重大な異常がある場合は顕微鏡検査
○妊娠の可能性のある女性についてのみ尿妊娠検査
○オリゴクローナルバンドおよびIgGインデックス、細胞数およびタンパク質値のための自由意志による腰椎穿刺
○SPEP(血清タンパク質電気泳動)−LPが実施される場合のみ
○EKG−リズムストリップを用いた12誘導
●X線撮影
○胸部PAおよび側方
○ガドリニウム増強を用いた脳の磁気共鳴画像化法(MRI)
●特殊検査
○血液中でのベクター発現
○血中MBPタンパク質
【0138】
最初の10名の対象の予備安全性データより、2件の重篤な有害事象が明らかとなった。1件の事象は試験薬には関連しなかったが、もう1件の事象である先行のうつ病を有する対象におけるうつ病の悪化は投与に関連するかもしれないと考えられた。試験薬に関連するその他のすべての有害事象は重症度において軽度/中等度であり、プラセボおよび試験薬の群でほぼ等しい発生率であった。具体的には、軽度の即時型の注射部位反応がプラセボ(n=2)およびBHT-3009(紅斑、n=1)の注射後にほぼ等しい頻度で観察された。遅発性過敏症反応を示唆する遅発性の注射部位反応は観察されなかった。さらに、アレルギー性反応を示唆する即時型の全身反応および試験後の顕著な遅発型全身反応はなかった。BHT-3009に関連する下痢、消化不良および寝汗の3件の有害事象があり、それらはすべて一過性のグレード1の事象であった。BHT-3009に関連する臨床的に顕著な臨床検査異常はなかった。
【0139】
安全性に加えて、次の免疫応答の変数を調べた: 1)MBP、PLP、MOG、テタヌスおよび酢酸グラチラマーを含む特異的抗原に対するT細胞増殖および細胞内サイトカインの生成; 2)MBP、PLPおよびMOGを含む特異的抗原に対するB細胞抗体反応; 3)フローサイトメトリーにより評価される末梢血単核細胞(PBMC)表現型;および 4)定量的PCRにより評価される炎症の全血マーカー。大半のアッセイでは、細胞および血清の試料を採取して対象が投与を完了するまで保存した。予備の結果は、BHT-3009を投与した対象がCSFE色素希釈アッセイによるMBPに対する細胞増殖および細胞内サイトカイン染色によるIFNγ生成により示される通りMBPに対してTh1反応を示したことを示している。
【0140】
BHT-3009は安全で十分に耐用性であり、脳MRIに対して好ましい傾向を示して、恩典的な抗原特異的な免疫変化をもたらした。これらの免疫変化は、末梢血からのインターフェロン-γを産生するミエリン反応性CD4+ T細胞の増殖における顕著な減少、タンパク質マイクロアレイにより評価される脳脊髄液からのミエリン特異的自己抗体の力価の低下からなった。本発明者らは、BHT-3009単独に比べてアトルバスタチン併用の実質的な恩典を観察しなかった。
【0141】
MS患者において、BHT-3009は安全であり、脳MRIにおける炎症性病変の調和性の減少を伴う抗原特異的な免疫寛容を誘発する。
【0142】
実施例3:
CNS炎症の軽減を調べるためのBHT-3009を用いた多発性硬化症の治療
BHT-3009の安全性、耐用性および有効性について調べるために、MS患者を多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対象Phase 2b臨床試験に登録する。有効性は、ガドリニウム増強病変および可能性のある臨床的恩典の指標であるその他のMRI測定値により評価されるCNS炎症の軽減によって調べる。陽性の転帰はBHT-3009の臨床的有効性を直接調べるさらなる試験の実施を支持する。この試験も臨床的有効性のための予備的エビデンス(即ち、再発の減少および機能スコアの改善)を求めるが、試験はこの二次的目的に関しては十分に強化されていない。
【0143】
この試験の標的集団は、EDSS <3.5であって疾患修飾物質を用いた治療を6カ月未満受けている、抗原特異的免疫療法から恩典を得る可能性が極めて高い再発寛解型MSを有する対象である。具体的な組み入れおよび除外基準は次の通りである:xxx
組み入れ基準
・McDonald基準に基づくMSの確定診断(34)
・MSに一致する病変を示すスクリーニング頭部MRI
・過去1年以内における1回または複数回の再発
・スクリーニング手順開始前の>50日およびスクリーニング期間中に臨床的に安定(再発なし)
・EDSS 0〜3.5以下
・年齢 >18歳、かつ<55歳
・インフォームドコンセントを提出する意志があり、かつ、提出できる
・WBC >3,000;血小板 >100,000;ヘモグロビン >10.0g/dl
・AST、ALT、ビリルビン <正常上限値の2.0倍
・クレアチニン<正常上限値の2.0倍
・HIVについて陰性検査
除外基準
・一次性進行性、二次性進行性または進行性再発性MS
・初回スクリーニングMRIにおいて15を超えるガドリニウム増強
・スクリーニング手順開始前の50日以内における高用量コルチコステロイド(例えば、3日以上にわたって1日あたり>500mgメチルプレドニゾロンまたは同等品)
・過去の幹細胞移植、総リンパ球放射線照射、または細胞毒性療法
・>180日間(すべての物質の寿命合計)にわたるインターフェロン、酢酸グラチラマーまたはその他の承認された疾患修飾物質を用いた治療
・スクリーニング手順開始の180日以内における承認された疾患修飾物質を用いた治療
・承認された薬剤の適用外の使用を含む実験的物質を用いたMSの治療歴(メディカルモニターの承認を得て許可される)
・ナタリズマブ(タイサブリ)を用いた事前の治療
・妊産婦
・医学的に許容される型の産児制限の使用に対する不承知(例えば、ホルモンによる避妊、子宮内装置、二重バリア、自身またはパートナーの不妊化)
・臨床的に重大なECG異常(例えば、急性虚血または生命の危険のある不整脈)
・治験担当医の見解において治験または試験エンドポイントの評価における完全参加を妨げる医学的状態または社会的環境
・MRIスキャンの実施を制限する身体上または身体内部におけるペースメーカー、除細動器、またはその他の金属製物質の埋め込み
・ガドリニウムに対する過敏症またはアレルギーが明らかである
【0144】
適格な患者(n=252)を3群に同人数ずつ無作為化した;A群:BHT-3009 0.5mg;B群:BHT-3009 1.5mg;およびC群:BHT-プラセボ。BHT-3009活性生物製剤はGMP基準を遵守して製造される。BHT-3009の最終製剤は、0.9mMカルシウム(1×)を含むPBS中1.5mg/mLの無菌のエンドトキシンフリーの等張液である。本発明のその他の態様において、BHT-3009は約0.05mM〜約2Mの濃度のカルシウムのような二価カチオンと共に製剤化される;より好ましい態様において、カルシウム濃度は約2mM〜約8.1mM(9×)である;もっとも好ましい態様において、カルシウム濃度は約2mM〜約5.4mM(6×)である。試験薬は0、2、4週、およびその後は44週まで4週毎に合計13回、筋肉内に投与する。試験薬は、シリンジ#1の0.33mLおよびシリンジ#2の0.67mLを用いて2カ所の異なる注射部位に2本のシリンジを介して投与する。腕からの広範なリンパ節流入のために、腕は好ましい注射部位である。三角筋への注射が不可能な場合は、続いて第二または第三の選択部位への注射が許容される。第二の選択注射部位は四頭筋中央部の大腿前部であり、第三選択部位は臀部である。
【0145】
(表5)BHT-3009の投与

【0146】
主なエンドポイントは、28週から48週まで4週毎に実施した頭部MRI(MRI 全6回)の新規Gd増強病変の平均4週間出現率である。二次的なエンドポイントには次が含まれる:
・MRI
○ベースラインから48週までのT2病変の容積変化。
○28週から48週まで4週毎に実施した頭部MRIの新規T2病変の平均4週間率。
○ベースラインから48週までのT1低強度病変の容積変化および慢性T1低強度病変の容積変化。
○28週から48週までに実施された頭部MRIの平均Gd増強病変容積。
・再発
○年間再発率
○離脱した対象をセンサリングした初回再発までの時間。
・機能スコア(EDSS&MSFC)
○ベースラインに比べて、48週評価時にEDSSが悪化した対象の割合。
○ベースラインに比べて、48週評価時にMSFCの悪化が確認された対象の割合。
【0147】
MRIは、スクリーニング期間中に2回、ならびに8、16、28、32、36、40、44および48週に実施する。この試験のすべての画像は、ダミー分析の期間中に各部位について導き出された個別設定した一連のシーケンスパラメーターを有する試験委託者によって承認される場合を除いて、1.5 Tesla以上の磁石で取得する。対象は、完全な脳検査範囲、最小限の対象の動き、および時間を通じての一貫性を含めるために同一のシーケンスを用いて同一のスキャナーで実施したMRIスキャンを有する。対比は試験において標準的な用量において得られる。画像の品質が十分であることを実証するため、ならびに伝達およびデータ管理の手順を確立するために、志願者について1〜3回のダミーMRIを実施する。
【0148】
再発はそれらの発生後可能な限り速やかに評価して、検査担当医師によって確認されなければならない。再発は、少なくとも48時間持続して、直前に少なくとも30日間の比較的安定または好転した疾患の期間が先行する、一つまたは複数の顕著な神経学的異常の出現または再出現として定義される。対象のMS症状における通常の変動はそれ自体は再発とはならず、感染または発熱などの見かけ上の増悪事象を伴う神経学的異常の出現または再出現は再発とは考えられない。対象の症状が神経学的検査における客観的変化およびKurtzkeの拡大障害状態尺度(EDSS)における少なくとも1.0ポイントの増加を伴う場合、再発が確認されたと見なされる。腸/膀胱機能の変化、先行の体性感覚障害の重症度の変化、または認識機能の変化は単独では確認された再発の理由とはならない。
【0149】
能力障害の状態は、2つの異なる定型的な研究評価基準を用いて評価する:Kurtzkeの拡大障害状態尺度(EDSS;Kurtzke, Neurol., 33:1444-52 (1983))および多発性硬化症機能複合スコア(MSFC;Cutter et al., Brain, 122:871-82 (1999))の評価。EDSSおよびMSFCはスクリーニング期間中ならびに40および48週に実施する。EDSSは、対象の臨床状態について盲検化された、「治療担当医師」ではなく「検査担当医師」によって実施される。MSFCは、訓練を受けた有資格の臨床スタッフ、治療担当医師または検査担当医師によって実施される。48週におけるEDSSの悪化は、8週間後の48週に確認される40週における悪化と一致するEDSSの初期の増大として定義される。再発を経験している対象は、それらの状態が安定するまではEDSSの悪化を有しているとは見なされない。MSFCの悪化は、少なくとも8週後に確認されるMSFC zスコアにおける1単位以上の減少として定義される。48週におけるMSFCの悪化は、48週に確認される、スクリーニング時のMSFC zスコアに比べて40週のzスコアにおける1単位以上の減少として定義される。再発を経験している対象は、それらの状態が安定するまではMSFCの悪化を有しているとは見なされない。
【0150】
プラセボに対してBHT-3009の2用量のいずれかの優位性に関する主な試験は、ポアソン分布を仮定して一般化した線形モデルを用いて、またITT集団に関する対数連結関数を用いて、投与群およびプールした施設を因子としてベースラインMRIスキャンにおけるガドリニウム(Gd)増強病変の数を共変量として、主要変数における投与群間の差を調べることによって実施する。ベースラインにおける病変数がゼロの場合は、これはlog(0.1)によって近似される。過分散を考慮に入れて、逸脱を介して推定する。プラセボに対するBHT-3009の優位性は次の型の帰無仮説を介して調べる:H0:BHT-3009はプラセボと異ならない対H1:BHT-3009はプラセボと異なる。それらの対応する対立仮説を有する2つの帰無仮説は、それぞれBHT-3009の異なる用量を指定する:0.5mgおよび1.5mg。帰無仮説は、投与群の最小二乗平均における差の推定値に関するWaldカイ二乗検定により調べる。これらの推定値は、それらの95%信頼区間(CI)と共に提示する。Hochbergの多重検定の手順はCIの算出において多重度を説明するために用いられる。主な変数は逸脱によって推定された過分散を伴うポアソン分布に従うと仮定される。モデルの適合度は、適合度に関するHosmer-Lemeshow統計量を用いて評価する。仮定の有効性はQ-Qプロットを用いて視覚的に評価してもよい。ポアソン分布が明らかに適用できない場合は、プールした施設およびベースラインMRIスキャンにおけるGd+病変数(病変 0、1〜5、>5)によって層化して両側ウィルコクソン検定を実施する;投与の差およびそれらのCIに関する非層化Hodges-Lehmann推定値を提示する。
【0151】
289名の患者を無作為化した。272名の患者が計画された44週間の治療を完了した。治療は十分な耐用性を示した。これまでに199名(68.9%)の患者が1件または複数の投与によって発現した有害事象(AE)を報告した。44名(15.2%)の患者のみにおいて、これらのAEが試験薬に関連したかもしれないと考えられて、39名(13.5%)の患者では試験薬に恐らく関連したと考えられる。大半のAEは重症度において軽度/中等度であった。現在まで、顕著な臨床検査異常はない。3投与群を通してAEの不均衡はなかった。77名の患者におけるベースラインのELISPOTアッセイは、63名(81.8%)の患者が一つまたは複数のMBPペプチドに対してインターフェロン-γの産生に関して陽性を示して、58名(75.3%)がPLPペプチドに関して陽性を示し、53名(68.8%)がMOGペプチドに関して陽性を示した。フォローアップのELISPOTおよびCSFアッセイは44週に実施されている。
【0152】
Phase I/II試験のデータは、BHT-3009が安全であり、抗原特異的な方法で免疫応答を抑制し得ることを示唆する。
【0153】
実施例4:
BHT-3021高カルシウム製剤の活性に関する特徴付け
カルシウムの漸増濃度を含むBHT-3021製剤の生物活性を評価するために、様々なインビトロおよびインビボアッセイを応用することができる。先ず、プラスミドDNAはトランスフェクションコンピテントセルライン(例えば、HEK293、HeLa、CHOなど)に直接加えることができて、細胞内で生成されるプロインスリンタンパク質の値は市販のELISAで測定することができる(図3)。第二に、BHT-3021の異なる製剤をIM注射によってマウスに送達することができ、筋に組み入れられるプラスミドの量はBHT-3021特異的な定量的PCRアッセイを用いて注射後の異なる時期に測定することができる(表6)。最後に、自己抗体、自己反応性T細胞、膵臓の炎症の発生、および顕性糖尿病の発症を防ぐ能力について、前糖尿病NODマウスを用いて異なる製剤を異なる用量および頻度でIM注射して調べることができる。さらに、疾患を停止または回復させることができるかどうかを調べるために、既に高血糖を発現しているマウスをBHT-3021製剤の注射によって治療することができる。
【0154】
(表6)BHT-3021プラスミドDNAの高カルシウム製剤のIM注射後の筋プラスミド計測分析

【0155】
BHT-3021プラスミドは、0.9mM塩化カルシウム(1×)または5.4mM塩化カルシウム(6×)のいずれかを加えたDulbeccoのPBSで製剤化した。各製剤を6匹のC57B1/6マウスの四頭筋後部に注射して2匹のマウスの筋(筋 n=4)をDay 2(2D)、7(7D)および14(14D)に回収して、各筋におけるプラスミドの複製数をBHT-3021プラスミド特異的定量的PCRアッセイを用いて定量した。6×製剤群の注射した筋はすべての時点で筋に存在するプラスミドDNAの値が極めて高く、高カルシウムと共に製剤化されるとインビボにおけるDNAの安定性および持続性が高いことが示唆される。略号:NA−定量には高すぎるプラスミド#;CT(立ち上がりサイクル数)−試料がアッセイバックグラウンドを超える定量可能量に達するPCRサイクル。
【0156】
本発明は一つまたは複数の具体的態様に関してかなり詳細に記載されているが、当業者は本出願に具体的に開示される態様に対して変更が行え得ることを認識して、さらにこれらの修正および改善は添付の特許請求の範囲に示されるように本発明の範囲および精神の範囲内である。本明細書に記載されるすべての刊行物または特許の資料は、あたかも個々のそれらの刊行物または資料が参照により具体的かつ個別に組み入れられることが示されるように、参照により本明細書に組み入れられる。前記の刊行物または資料の引用は前述のいずれかが適切な先行技術であることの承諾として意図されるものではなく、これらの刊行物または資料の内容または日付に関して何ら承諾をなすものでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に非生理学的に存在する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関連する対象における自己免疫疾患を治療する方法であって、免疫抑制性ベクターバックボーンと自己免疫疾患に関連する自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む自己ベクターと、生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを、対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
自己ベクターがBHT-1ベクターバックボーンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
自己免疫疾患が慢性関節リウマチを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
自己免疫疾患が狼瘡である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトプロテオリピドタンパク質(PLP)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン関連糖タンパク質(MAG)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG)とをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
自己ベクターがBHT-3009(SEQ ID NO:3)である、請求項3記載の方法。
【請求項11】
自己ベクターBHT-3009がエンドトキシンフリーである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
二価カチオンがカルシウムである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
カルシウムが約2mMを超える濃度である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
カルシウムが約5.4mMの濃度である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
対象における多発性硬化症を治療する方法であって、免疫抑制性ベクターバックボーンを含む自己ベクターと生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを含む薬学的組成物を、対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項16】
自己ベクターがBHT-1ベクターバックボーンを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
自己ベクターがBHT-3009(SEQ ID NO:3)である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
薬学的組成物がエンドトキシンフリーである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
二価カチオンがカルシウムである、請求項15記載の方法。
【請求項20】
カルシウムが約2mMを超える濃度である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
カルシウムが約5.4mMの濃度である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
免疫抑制性ベクターバックボーンと自己免疫疾患に関連する一つまたは複数の自己タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む自己ベクターと、生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを含む、薬学的組成物。
【請求項23】
自己ベクターがBHT-1ベクターバックボーンを含む、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
自己ベクターがBHT-3009(SEQ ID NO:3)である、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項25】
自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項26】
自己免疫疾患が慢性関節リウマチである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項27】
自己免疫疾患が狼瘡である、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項28】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン塩基性タンパク質(MBP)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項29】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトプロテオリピドタンパク質(PLP)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項30】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリン関連糖タンパク質(MAG)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項31】
自己ベクターが、BHT-1ベクターバックボーンとヒトミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG)をコードするポリヌクレオチドとを含む、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項32】
自己ベクターがBHT-3009(SEQ ID NO:3)である、請求項25記載の薬学的組成物。
【請求項33】
エンドトキシンフリーである、請求項32記載の薬学的組成物。
【請求項34】
二価カチオンがカルシウムである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項35】
カルシウムが約2mMを超える濃度である、請求項34記載の薬学的組成物。
【請求項36】
カルシウムが約5.4mMの濃度である、請求項34記載の薬学的組成物。
【請求項37】
BHT-3009(SEQ ID NO:3)と生理学的な値を超える濃度の二価カチオンとを含む薬学的組成物。
【請求項38】
BHT-3009がエンドトキシンフリーである、請求項37記載の薬学的組成物。
【請求項39】
自己ベクターBHT-3009(SEQ ID NO:3)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−540017(P2009−540017A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515631(P2009−515631)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/071137
【国際公開番号】WO2007/147011
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(505423704)ベイヒル セラピューティクス インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】