説明

ポリヌクレオチド配列決定方法

【課題】新規なポリヌクレオチドの配列決定方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程を含む、ポリヌクレオチドの配列を決定する方法を提供する:
(i)定められた位置に固定化されたポリヌクレオチド進行型酵素と、標的ポリヌクレオチドとを、 酵素活性の誘導に十分な条件下で接触させる工程;
(ii)酵素とポリヌクレオチドとの相互作用の結果である効果を検出する工程、ここで、該効果は、非線形光シグナルまたは非線形シグナルに結合した線形シグナルの測定により検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ポリヌクレオチドの配列を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトゲノムにコードされる三十億塩基のDNAのマッピングにおいてヒトゲノムプロジェクトによって示されるように、ポリヌクレオチドの配列決定を可能にすることは、科学的に非常に重要である。
【0003】
ラージスケール DNA 配列決定に一般に用いられている主要な方法は、チェーン・ターミネーション法である。この方法は、最初、Sanger and Coulson (Sanger et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1977; 74: 5463-5467)によって開発されたものであり、ポリメラーゼ反応において合成中のポリヌクレオチド鎖に組み込まれる4つのヌクレオシド三リン酸のジデオキシ誘導体の使用に基づく。組込まれると、ジデオキシ誘導体はポリメラーゼ反応を終結させ、その産物はゲル電気泳動によって分離され分析されて、特定のジデオキシ誘導体が鎖に組み込まれた位置が解明される。
【0004】
この方法は広く用いられており、信頼できる結果を与えるが、それは時間と労力、そして費用がかかるものであると認識されている。
【0005】
伸びつつある合成中のDNA分子への、ポリメラーゼ反応を用いたヌクレオチド取り込みを同定するのに蛍光標識が用いられてきた(WO91/06678を参照)。しかしかかる技術は、フルオロフォアからのバックグラウンド干渉が高いという欠点を有する。DNA 分子が伸長するにしたがって、バックグラウンドである「ノイズ」が上昇し、各ヌクレオチドの取り込みを検出するために必要な時間が増大する。これは大きいポリヌクレオチドの配列決定のためのかかる方法の使用を深刻に制限する。しかし蛍光色素の周囲で生じるポリヌクレオチド配列決定システムのもっとも深刻な限界は、光退色の問題である。
【0006】
光退色は、蛍光色素システムにおいて十分に立証された現象であり、色素の励起波長への曝露に起因する。すべての色素システムは、光退色が起こる前に制限された数の光子を吸収する能力しかもたない。いったん光退色が起こってしまうと、蛍光色素は観察者によってみることができなくなり、したがって分子に結合させている場合は、その分子は検出不可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、速度と配列決定されるポリヌクレオチドの断片サイズを有意に上昇させ、好ましくは検出を蛍光標識ヌクレオチドに依存しない、ポリヌクレオチドの配列決定の改良方法が必要とされている。さらに、かかる方法は既存の方法に伴う複雑性とコストを低減させるよう自動化プロセスで実施できるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、酵素が標的ポリヌクレオチドと結合し、それに沿って移動する際に起こる、ポリヌクレオチド進行型酵素における立体構造および/または質量および/またはエネルギー分布の変化が、二次または三次高調波発生に基づくものを含む、非線形光学的イメージングを用いて検出できるということの認識に基づくものである。
【0009】
本発明によると、ポリヌクレオチドの配列決定方法は以下の工程を含む:
(i)定められた位置に固定化されたポリヌクレオチド進行型酵素と標的ポリヌクレオチドとを酵素活性に十分な条件下で接触させる工程;および、
(ii)酵素とポリヌクレオチドとの相互作用の結果である効果を検出する工程、
ここで、該効果は、非線形光シグナル、または非線形シグナルと結合した線形シグナルの測定によって検出される。
【0010】
本発明によって様々な利益が達成される。配列決定は、少量のポリヌクレオチドを用いて行うことが出来、単一のポリヌクレオチド分子の配列決定が可能であり、それによって配列決定を始める前に増幅させる必要がなくなる。長い配列を読み取ることが可能となり、二次構造の考慮の必要性が最小になる。長い配列を読み取ることにより、計算を用いる面倒な断片の再編集の必要性がなくなる。さらに、本発明は蛍光標識ヌクレオチドにもいかなる蛍光測定の必要性にも依存しないため、光退色またはその他の予測不可能な蛍光効果の関数としての単一分子レベルでの読み取り長の制限が回避できる。本発明はまた、同一の酵素システムにより長いポリヌクレオチド断片を連続的に読み取ることを可能とする。これは、再生可能で再利用できる単一の酵素システムを用いて、多くの異なるポリヌクレオチド鋳型を配列決定することを可能とするという利点も有する。最後に、二次または三次高調波発生の利用は、光損傷および光退色が無いことによる利点も与える。これは、非共鳴放射により刺激されるシグナルが有限の寿命の励起状態を伴わないために、焦点面においてさえも光化学反応(photochemistry)が起こらないという事実による。
【0011】
本発明の第二の側面によると、固体支持体材料は、少なくとも1つのポリメラーゼおよびポリメラーゼ上またはポリメラーゼの近くに位置する少なくとも1つの双極子分子を含む。
【0012】
本発明の第三の側面によると、非線形光シグナルを検出するイメージングシステム設定は、ポリヌクレオチドと相互作用する酵素をその上に固定化した固体支持体、および酵素上または酵素の近くに位置する双極子分子を含む。
【0013】
図面の簡単な説明
本発明を添付の図面を参照して説明する、ここで:
図 1は、二次高調波発生を利用するイメージングシステムの模式図である; そして、
図 2は、特定のポリヌクレオチドの取り込みの際にポリメラーゼによって生じた二次高調波シグナルを示す。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、ポリヌクレオチド進行型酵素が、標的ポリヌクレオチド上の個々の塩基と相互作用するか、または、合成中のポリヌクレオチド分子にヌクレオチドを取り込む際に起こる立体構造および/または質量および/またはエネルギー分布の変化を同定するために通常の非線形光学的測定を利用する。
【0015】
分子のイメージングのための非線形光学的方法の使用は知られている。かかる方法が、固定化または固定された酵素を利用したポリヌクレオチドの配列決定に適用可能であることは認識されていなかった。
【0016】
別の態様において、線形シグナルが非線形シグナルに加えて生じ、その線形シグナルが検出される。2つのシグナルは結合している(coupled)といわれ、その結果、検出が増強される。
【0017】
本明細書において用いられる「ポリヌクレオチド」という用語は広く解釈されるべきであり、DNAおよびRNAを含み、修飾DNAおよびRNA、DNA/RNA ハイブリッド、ならびにその他のハイブリダイズする核酸様分子、例えば、ペプチド核酸(PNA)が含まれる。
【0018】
本明細書において用いられる「ポリヌクレオチド進行型酵素」という用語は広く解釈されるべきであり、ポリヌクレオチドと相互作用し、ポリヌクレオチドに沿って連続的に移動するあらゆる酵素を指す。酵素は、好ましくはポリメラーゼ酵素であり、既知のいずれのタイプのものであってもよい。例えば、ポリメラーゼは、あらゆるDNA-依存性 DNA ポリメラーゼであり得る。標的ポリヌクレオチドがRNA 分子である場合、ポリメラーゼは、RNA-依存性 DNA ポリメラーゼ、即ち、逆転写酵素、またはRNA-依存性 RNA ポリメラーゼ、即ち、RNA レプリカーゼであり得る。本発明の好ましい態様において、ポリメラーゼはT4 ポリメラーゼである。本発明のさらに好ましい態様において、ポリメラーゼは、大腸菌 ポリメラーゼ III ホロ酵素(McHenry、Ann. Rev. Biochem.、1988; 57:519); T7 ポリメラーゼ (Schwager et al.、Methods in Molecular and Cellular Biology、1989/90; 1(4): 155-159)または大腸菌チオレドキシンと複合したバクテリオファージ T7 遺伝子5 ポリメラーゼ (Tabor et al.、J. Biol. Chem.、1987; 262: 1612-1623)のいずれかである。これらポリメラーゼ酵素はいずれも高い処理能力(および忠実度)にて標的ポリヌクレオチドに結合し、それゆえ、重合が活発に起こらない場合でさえもポリメラーゼ-ポリヌクレオチド複合体を維持する。
【0019】
ポリヌクレオチドと相互作用するその他の酵素としては、ヘリカーゼ、プライマーゼ、ホロ酵素、トポイソメラーゼまたはジャイレース酵素が挙げられる。かかる酵素はさらなる利点を与える。例えば、ヘリカーゼを用いると、ポリヌクレオチド分子に存在する二次構造の問題が低減する。というのはヘリカーゼはその天然環境でかかる構造に遭遇し打ち勝つからである。第二に、ヘリカーゼは、二本鎖DNAに対して行われるべき必要な反応が室温で起こることを可能にする。
【0020】
酵素はポリヌクレオチド上の連続する塩基と相互作用するので、その立体構造は、それが標的上のどの塩基(またはヌクレオチド)と接触するようになったかに依存して変化する。したがって、反応中の塩基対付加の時間的順序が核酸の単一の分子で測定され、即ち、配列決定すべき鋳型ポリヌクレオチド上の酵素システムの活性をリアルタイムに追跡することができる。配列は、酵素の触媒活性を介して標的ポリヌクレオチドの成長中の相補鎖にどの塩基(ヌクレオチド)が取り込まれているかを同定することによって推定される。
【0021】
本発明の重要な側面はイメージングシステムに対して固定された位置での酵素の固定化である。これは好ましくは、酵素の生理活性を保持させつつ固体支持体に酵素を固定化することによって行われる。好適な酵素の固体支持体への固定化方法は知られている。例えば、WO-A-99/05315には、ポリメラーゼ酵素の固体支持体への固定化が記載されている。タンパク質を支持体に固定化するための一般的方法が好適である。
【0022】
本発明に用いられる光学的検出方法は、単一分子レベルでイメージングすることを意図しており、即ち、1つの酵素について特有のイメージ/シグナルが生じる。複数の酵素を、単一の酵素の分解能を可能とする密度で固体支持体に固定化してもよい。それゆえ、一つの態様において、固体支持体上に固定化された複数の酵素が存在し、本発明の方法はこれらに対して同時に行うことが出来る。これによって様々なポリヌクレオチド分子を一緒に配列決定することが可能となる。
【0023】
酵素活性を促進するのに好適な条件下でイメージング方法を実施することは当業者に明らかである。例えば、ポリメラーゼ酵素に関すると、ポリメラーゼ反応が進行するのに必要なその他の成分が要求されることは明らかである。この態様において、ポリヌクレオチドプライマー分子および、ヌクレオシド三リン酸、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPのそれぞれが、必要とされる。ヌクレオシド三リン酸は、次のヌクレオシド三リン酸の導入の前に非結合ヌクレオチドを除いて、連続的に添加してもよい。あるいは、すべての三リン酸を同時に存在させてもよい。パルス単色光によって選択的に除去できる1以上の保護基を有する三リン酸を使用し、それによって制御されない取り込みを妨げるのが好ましい。好適な保護された三リン酸はWO-A-99/05315に開示されている。
【0024】
高分解能非線形光学的イメージングシステムは当該技術分野において知られている。一般に、ある物質の非線形分極は以下のように表すことが出来る:
P = X(1)E1 + X(2)E2 + X(3)E3 + .....
ここで、Pは、誘導分極、X(n)は、n次の非線形感受率(susceptibility)、およびEは、電場ベクトルである。第一項は通常の光の吸収および反射を表現する; 第二項は二次高調波発生 (SHG)、和および差周波数発生を表現する;そして第三項は、光散乱、誘導ラマン過程、三次高調波発生 (TGH)、および2および3光子吸収の両方を表現する。
【0025】
本発明の好ましいイメージングシステムは、二次または三次高調波発生から生じるシグナルの検出に依存する。
【0026】
二次または三次高調波発生 (以下SHGと称する)を用いる単一分子分解能は当該技術分野において知られている(Peleg et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1999; 95: 6700-6704 および Peleg et al.、Bioimaging、1996; 4: 215-224)。
【0027】
イメージングシステムの一般的設定はPeleg et al.、1996、前掲、に記載されており、図 1に示す。図 1を参照すると、レーザー (1) をレーザービームを生じる照明光源として用い、それは次いで偏光子 (2)を通過する。レーザービームの一部は非線形結晶(3)に向けられて緑色ビームを生じ、レーザービームのアラインメント(alignment)を補助する。フォトダイオード (4)が光路に近接して配置され、生じた近赤外線 (NIR) 強度をモニターする手段を提供する。フィルター (5)が顕微鏡の入口の前に位置して、二次高調波が顕微鏡に入るのを妨げる。レーザービームは固定化酵素を含む固体支持体に集光され、非線形シグナルがレンズ (7)により集められ、モノクロメーター (8)を用いて検出される。基礎強度はIR フィルターを用いてブロックされる。光電子増倍管からのシグナルが増幅され、ボックスカーアベレージャーおよびチャンネル積分器 (9)を用いて平均化および積分される。生じたシグナルは次いでコンピュータ (10)に移されてイメージが作られる。
【0028】
二次または三次高調波を生じさせるためには、固定化酵素の上またはそれに近接して適当な標識を配置する必要がある。強度な双極子分子がこの目的のために好適である(Lewis et al. Chem. Phys.、1999; 245: 133-144)。好適な分子の例は色素、特に、スチリル色素である(Molecular Probesにより供給される膜色素 JPW 1259 等)。緑色蛍光タンパク質 (GFP)は、SHGを介するイメージングに利用可能な「色素」または「標識」の別の例である。本明細書において用いられるGFPとは、野生型タンパク質と、スペクトルがシフトしたその変異体との両方をいう(Tsien、Ann. Rev. Biochem.、1998; 67:509およびUS 5,777,079およびUS 5,625,048)。その他の好適な色素としては、ジ-4-ANEPPS、ジ-8-ANEPPS およびJPW2080 (Molecular Probes)が挙げられる。
【0029】
双極子分子は、ポリヌクレオチド (または双極子分子がヌクレオシド三リン酸に結合しており、ポリメラーゼ反応に用いられる場合はその相補鎖)の個々の塩基上に位置させてもよい。
【0030】
本発明の好ましい態様において、酵素、例えば、ポリメラーゼは、GFPとの組換え融合体として調製される。GFPは酵素のNまたはC-末端に位置させることが出来る (ポリメラーゼが「スライディングクランプ(sliding clamp)」とともに用いられる場合はC- 末端が望ましい)。あるいは、GFP 分子は酵素活性が保持される限り、酵素の内部のいずれかにおいて位置させることが出来る。
【0031】
本発明の別の態様において、非線形光学的イメージングシステムは、ラマン分光法または表面増強ラマン分光法 (SERS)である。ラマン分光法の概要は、McGilp、Progress in Surface Science、1995; 49(1): 1-106に含まれている。
【0032】
ラマンシステムを励起するのに用いられる光学的放射は、好ましくは、近赤外線放射 (NIR)である。NIR 励起は、周囲の媒体または溶媒の蛍光およびラマンシグナルを低下させるという利点を有する。
【0033】
本発明の別の態様において、非線形シグナルは、金属ナノ粒子および/または金属粗面の使用により増強させうる (Boyed et al.、Phys Rev.、1984; B. 30: 519-526、Chen et al.、Phys. Rev. Lett.、1981; 46: 1010-1012 およびPeleg et al.、1996、前掲)。シグナルを増強させる金属ナノ粒子を酵素に結合させて (例えば、ナノ粒子結合抗体により、Lewis et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1999; 96: 6700-6704)、固定化/局在化酵素の近くに固定化するか、または、 SHG 色素/酵素に近接するように配置してもよい。
【0034】
金属ナノ粒子は、特にナノメーター領域からのSHGに関連する分光イメージングを増強し、それによって単一分子レベルでの改良されたイメージングを可能とする。ラマン散乱に基づく分光イメージングも、金属ナノ粒子を用いて改良することが出来る。好適な金属ナノ粒子は知られており、例えば金および銀ナノ粒子が挙げられる。ナノ粒子は一般に直径 5nm 〜100nm、好ましくは10nm 〜60nmである。ナノ粒子をポリヌクレオチド(またはナノ粒子がヌクレオシド三リン酸に結合し、ポリメラーゼ反応に用いられる場合は、その相補鎖)に結合させることが出来る。
【0035】
金属粗面もSHG プロセスの感受性を向上させることが示されており(Chen et al.、1981、前掲および Peleg et al.、1996、前掲)、SERSの必要条件でもある。金属表面は、通常銀またはその他の貴金属である。サブ波長空間分解能での金属表面の最初の選択的改変は、様々な技術を用いて行うことが出来、かかる技術としては、原子間力顕微鏡法 (AFM)の使用が含まれる。プラチナで被覆された AFMチップを用いて、末端アジドの、さらなる誘導化を行いやすいアミノ基への水素化を触媒できる(Muller et al.、Science、1995; 268: 272-273)。次いで酵素を「ホットスポット」に配置させることが出来、そこでは、高い局所磁場が、光学モードが局所化している領域に存在している(Shalaev et al. Phys. Rep.、1996; 272:61)。
【0036】
本発明の別の態様において、ナノ粒子は、AFM カンチレバーチップ/プローブを用いて酵素の近接に配置させることが出来、それによって非線形シグナルが増強する。
【0037】
AFMは、タンパク質立体構造変化の動的イメージングに適用できる時間分解能および感受性を有することが出来ることが最近示された(Rousso et al.、J. Struc. Biol.、1997; 119: 158-164)。これは、AFM プローブ/チップが酵素の上に位置し、非線形光学情報 (例えば、SHG)と組み合わせて、酵素が標的ポリヌクレオチドに沿って移動する際の酵素とヌクレオチド配列との間の相互作用に起因するタンパク質の立体構造変化の検出に用いられる、本発明の好ましい態様において用いられる。情報は、非近接場にて通常の共焦点光学系を用いて、または、全反射とともに用いられる場合は反射モードにおいて、集めることが出来る。
【0038】
さらなる態様において、非線形シグナル (例えば、SHG)は、近接場にて近接場走査型光学顕微鏡法 (NSOM)を用いてモニターされる。NSOMは走査型プローブ顕微鏡法の一形態であり、(AFMにおいて用いられるような)ナノスケールのチップとサンプルとの間の光学的相互作用を利用して、空間分解された光情報を得るものである。SHGと組み合わせての近接場顕微鏡法は広く研究されており、原子スケールで表面感受性であることが示されている(McGilp、1995、前掲)。イメージングシステムの一部としてNSOMを用いることの主な利点は、サブ波長の大きさまでの分解能における大きな上昇をもたらすことである。本発明は、単一酵素、例えば、ポリメラーゼ酵素の、ポリヌクレオチドと相互作用する際の立体構造モニタリングに関するため、サブ波長空間分解能は非常に望ましい。本発明のこの側面に関して、AFM カンチレバーチップを無開口(apertureless)近接場走査型顕微鏡として用いるのが好ましい (Sangohdar et al、J. Opt. A: Pure Appl. Opt.、1999; 523-530)。これは局所場増強のソースとしての金属ナノ粒子の使用に類似している。チップが、貴金属または局所電磁場を上昇させるよう作用するいずれかの材料でできているか、またはそれで被覆されているのが好ましい。あるいは、金属ナノ粒子を直接カンチレバーチップに結合させてもよい。これは既に、単一分子レベルでの立体構造変化のモニタリングに適用可能であることが示されている (Rousso、et al. 前掲)。
【0039】
本発明のさらに別の態様において、独立に生じた表面プラズモン (またはポラリトン)/エバネセント場を、非線形シグナルのSN 比を増強させるのに利用できる。このエバネセント波で増強されたイメージング技術は、例えば、SHG イメージングのみよりも、高いSN 比を有する。この態様において、標識化酵素からのエバネセント的に増強した SHG 場シグナルはNSOM ファイバーによって近接場にて集めつつ、同時にAFM 立体構造データを得ることができ、そして同時に吸収されたエバネセント放射の量をモニターして、エバネセント場と標識化ポリメラーゼ/SHG場との間のカップリングの量に関する情報を得ることが出来る。
【0040】
この形態(NSOM 集光モード)において、システムはフォトン走査トンネル顕微鏡 (PSTM)として作用し、エバネセントまたは表面プラズモン場は、NSOM ファイバープローブチップにカップリングされる。ポリメラーゼによる、チップに達するシグナルの場強度のあらゆる減衰は、チップの末端に位置した検出器を介してモニターされる。
【0041】
表面プラズモン共鳴は当該技術分野において知られており、入射光ビームがプリズムに適用されることによるエバネセント波の生成に依存する。この態様における使用のための典型的な設定は、酵素が固定化されている金属で被覆されたガラスカバースリップに光学的に結合されたプリズムからなる。カバースリップは、固定化酵素上にリガンド(ヌクレオチド)を導入するための入口を備えた微少溶液フローセルシステムの一部である。酵素はまた、非線形効果が生じるように標識されている。入射光ビームがプリズムにあてられて表面プラズモン場が生じる。同時に、非線形シグナル (例えば、二次高調波場)が、偏光子および2分の1波長板を介してパルス近赤外線レーザーを、光学二次高調波ノイズを除去するためのフィルターを介したビーム制御のために、オプティカル・スキャナ、次いでサンプルに向けることにより、生じる。非線形光シグナルはレンズおよびフィルターで集められ、モノクロメーターに向けられ、光電子増倍管を通って、検出、次いで増幅され、コンピュータシステムにより記録される。
【0042】
非線形光学が、エバネセント場を生じるものと結合している場合、検出されるシグナルは、線形 (エバネセント) シグナルであり得る。この態様において、NSOMは集光モードで利用されて線形シグナルを検出する。
【0043】
本発明の別の側面において、ポリヌクレオチド配列決定は細胞内で行うことが出来る。
【0044】
その天然の細胞環境において、DNA ポリメラーゼおよびそれと結合する複製(replisome)複合体は、細胞内で所定の位置に固着されている(または定位置に局在している)ことが示されている(Newport et al.、Curr. Opin. Cell Biol.、1996; 8: 365;およびLemon et al.、Science、1998; 282: 1516-1519)。この天然に固着された複製複合体は、固体支持体への酵素の固定化と類似している。
【0045】
これにより、複製複合体-関連分子の単一分子レベルでの立体構造および鋳型配列-関連変化のインビボモニタリングを、DNA 複製および/または細胞分裂の際にリアルタイムで実施することが可能となる。
【0046】
この側面を実施するために、非線形光学的検出技術を用いてイメージングされうるように酵素を修飾する必要がある。これは、酵素と、例えば、緑色蛍光タンパク質 (GFP)との遺伝子融合によって達成できる。細胞はまた、検出が起こるのを可能にするように固定化しなければならない。
【0047】
発現した融合タンパク質は、それが固着された細胞内位置で、非線形光学的検出 (二次高調波発生)の適用によりモニター/検出することができる。
【0048】
以下の実施例により本発明を説明する。
この実験において、緑色蛍光タンパク質 (GFP)とポリメラーゼとの融合タンパク質を、当該技術分野において周知の組換え技術によって作成した。
【0049】
石英チップ(直径14mm、厚さ0.3mm)を50nmの厚さの金の層でスピンコーティングし、次いで平面状デキストランの層で被覆した。これら金被覆石英チップを、特注の近接場走査型光学顕微鏡 (NSOM)の流体セルの中に配置させた。金被覆石英チップを屈折率整合油(index matching oil)を介して石英プリズムと光学的に結合させた。流体セルを次いで密封し、ポリメラーゼバッファーをチップ上に流した。
【0050】
ポリメラーゼのチップ表面への固定化はJonsson et al.、Biotechnologys、1991; 11:620-627にしたがって行った。チップ環境をランニングバッファー (10 mM hepes、10mM MgCl2 150 mM NaCl、0.05% 界面活性剤 P20、pH 7.4)によって平衡化させた。等体積の N-ヒドロキシスクシンイミド (水中0.1 M) とN-エチル-N’-(ジメチルアミンプロピル) カルボジイミド (EDC) (水中0.1 M)を混合し、チップ表面を横切って注入し、カルボキシメチル化デキストランを活性化した。ポリメラーゼ-GFP 融合タンパク質 (150 μl)を10mM 酢酸ナトリウム (100 μl、pH 5)と混合し、活性化表面を横切って注入した。最後に、チップ表面の残余のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルをエタノールアミン (35 μl、水中1 M、pH 8.5)と反応させ、非結合ポリメラーゼを表面から洗浄した。固定化手順は、ランニングバッファーの連続流(5 μl/分)で25℃で行った。
【0051】
50 μlの抗体結合バッファー (10mM MES pH6.0、150mM NaCl、3mM EDTA)をチップ表面に固定化したポリメラーゼ/GFP上に5 μl/分 の流速で25℃で流した。一次抗体 (GFP (B-2)B ビオチン結合 200 μl ml-1、Santa Cruz Biotechnology)を抗体結合バッファー中1:3000 に希釈し、チップ表面上を流速5 μl/分で30 分間流した。過剰の抗体を次いで抗体結合バッファーをチップ上に流速5 μl/分で30 分間流すことによって表面から洗い出した。
【0052】
二次抗体 (免疫金結合 EM ヤギ抗マウス IgG (H+L) 40nm、British Biocell International)を抗体結合バッファー中1:1000に希釈し、チップ表面上を流速 5 μl/分で30 分間流した。過剰の抗体を抗体結合バッファーをチップ上に流速5 μl/分で30 分間流すことにより表面から洗い出した。バッファーをランニングバッファーに戻し、これをチップ上を5 μl/分の速度で30 分間流した後、次の段階を開始した。
【0053】
2つのオリゴヌクレオチドを、標準的ホスホラミダイト化学を用いて合成した。配列番号1に示すオリゴヌクレオチドを標的ポリヌクレオチドとして用い、配列番号2に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた。
【0054】
配列番号1
CAAGGAGAGGACGCTGCTTGTCGAAGGTAAGGAACGGACGAGAGAAGGGAGAG
配列番号2
CTCTCCCTTCTCTCGTC
【0055】
これら2つのオリゴヌクレオチドをハイブリダイズする条件下で反応させて、標的-プライマー複合体を形成させた。プライムしたこのDNAを次いで、プライマー DNAの周囲にスライディングクランプ 複合体を形成する150 μlのβサブユニットを含有するバッファー (20 mM Tris-HCl、pH 7.5、8 mM MgCl2、4% (v/v) グリセロール、5 mM ジチオトレイトール (DDT))に懸濁した。この工程は、プレ開始として知られる。
【0056】
ポリメラーゼの立体構造変化を検出するために、引き伸ばされた(pulled)石英多モード 100μm 長ファイバーカンチレバーを用いた改良NSOMをタッピングモードで用いた。カンチレバーをその共振周波数近くで駆動し、最初の面走査を固定化抗体を含むチップの表面上で行った。パルス近赤外線レーザー源からの最初の照明によりフローセル中で固定化ポリメラーゼから二次高調波シグナルが生じた。NSOM チップを次いでフローセル中でチップ表面上を走査し、ポリメラーゼと結合したフローセル中の40nm 金粒子のイメージを得た。チップを次いでポリメラーゼ上で静止モードで保持した。
【0057】
プレ開始プレ・プライム複合体を次いでフローセルに流速5 μl/分で注入し、プライマー-鋳型分子の周囲の「クランプ」と固定化ポリメラーゼとの複合体を形成させた。フローセルを、フローセル内に設けられた冷却装置により25℃に維持した。
【0058】
ランニングバッファーを次いでフローセルに500 μl/分で連続的に流した。10 分後、配列決定反応を、0.4mM dATP (8 μl)のバッファーへの流速500 μl/分での注入により開始させた。4 分後、0.4mM dTTP (8 μl)をフローセルに注入した。そしてさらに4 分後、0.4mM dGTP (8 μl)を注入し、さらに4 分後 0.4mM dCTP (8 μl)を注入した。このサイクルを10回繰り返した。全期間に渡って、多モードファイバーを介して伝達された二次高調波シグナルをモノクロメーター、そして光電子増倍管に通した。光電子増倍管からのシグナルを次いで増幅し、コンピュータに入力して処理および保存した。
【0059】
各注入の開始から10秒間の間にポリメラーゼ複合体から生じた二次高調波シグナルの強度変化を算出し、フローセルに注入したヌクレオチドに対してプロットした。配列決定反応の結果を図 2に示す。グラフから理解されるように、大きな強度変化(より大きい強度変化は同一のヌクレオチドが互いに隣接していることを示す)は配列番号1の相補鎖に対応した(右から左へ読む、プライマー配列にハイブリダイズする部分を除く)。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図 1は、二次高調波発生を利用するイメージングシステムの模式図である。
【図2】図 2は、特定のポリヌクレオチドの取り込みの際にポリメラーゼによって生じた二次高調波シグナルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ポリヌクレオチドの配列を決定する方法:
(i)定められた位置に固定化されたポリヌクレオチド進行型酵素と、標的ポリヌクレオチドとを、酵素活性の誘導に十分な条件下で接触させる工程;
(ii)酵素とポリヌクレオチドとの相互作用の結果である効果を検出する工程、
ここで効果は、非線形光シグナルまたは非線形シグナルと結合した線形シグナルの測定によって検出する。
【請求項2】
効果が、非線形シグナルの測定によって検出される請求項1の方法。
【請求項3】
非線形光学的検出が、二次または三次高調波発生イメージングである、請求項1または請求項2の方法。
【請求項4】
非線形光学的検出が、ラマン分光法または表面増強ラマン分光法である、請求項1または請求項2の方法。
【請求項5】
双極子分子が酵素上または酵素の近くに位置する請求項1-4のいずれかの方法。
【請求項6】
該分子がスチリル色素分子である請求項5の方法。
【請求項7】
該分子が緑色蛍光タンパク質である請求項5の方法。
【請求項8】
双極子分子が、ポリヌクレオチドの個々の塩基に結合している請求項5または請求項6の方法。
【請求項9】
酵素がポリメラーゼである、請求項1-8のいずれかの方法。
【請求項10】
酵素がヘリカーゼまたはプライマーゼ酵素である、請求項1-8のいずれかの方法。
【請求項11】
工程(i)が、ヌクレオシド三リン酸、dATP、dTTP、dGTPおよびdCTPの添加を含む、請求項10の方法。
【請求項12】
ヌクレオシド三リン酸が、パルス単色光によって選択的に除去できる1以上の保護基を含む、請求項11の方法。
【請求項13】
金属ナノ粒子が酵素上または酵素の近くに位置している請求項1-12のいずれかの方法。
【請求項14】
ナノ粒子が金または銀ナノ粒子である請求項13の方法。
【請求項15】
ナノ粒子がポリヌクレオチドの個々の塩基の1以上の上に取り込まれている請求項13または請求項14の方法。
【請求項16】
酵素が固体支持体に固定化されている請求項1-15のいずれかの方法。
【請求項17】
固体支持体に固定化された酵素が複数存在する請求項16の方法。
【請求項18】
固体支持体が金属粗面を有する請求項16または請求項17の方法。
【請求項19】
支持体が銀または金である請求項16-18のいずれかの方法。
【請求項20】
検出を原子間力顕微鏡法または近接場走査型光学顕微鏡法とともに行う請求項1-19のいずれかの方法。
【請求項21】
局在型表面プラズモン共鳴の適用をさらに含む、請求項1-20のいずれかの方法。
【請求項22】
酵素が細胞中の定められた位置に固定化されている、請求項1-14のいずれかの方法。
【請求項23】
少なくとも1つの固定化されたポリメラーゼ、およびポリメラーゼ上またはポリメラーゼの近くに位置する少なくとも1つの双極子分子を含む、固体支持体材料。
【請求項24】
表面に細胞を固定化して含む固体支持体材料であって、該細胞が細胞中の固定された位置にポリメラーゼ酵素を維持して含む、固体支持体材料。
【請求項25】
その表面にポリヌクレオチドと相互作用する酵素を固定化して有する固体支持体、および、酵素上または酵素の近くに位置する双極子分子を含む、非線形光シグナルを検出するためのイメージングシステム設定。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−104463(P2008−104463A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295468(P2007−295468)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【分割の表示】特願2002−591533(P2002−591533)の分割
【原出願日】平成14年5月20日(2002.5.20)
【出願人】(300008612)メディカル・バイオシステムズ・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】MEDICAL BIOSYSTEMS LTD.
【Fターム(参考)】