説明

ポリヒドロキシウレタン微粒子及びその製造方法

【課題】広範囲の用途に適用可能なポリヒドロキシウレタン微粒子であって、かつ、粒度分布の狭いポリヒドロキシウレタン微粒子を提供すること。
【解決手段】粒子径が0.1μm〜300μmである球状のポリマー微粒子であって、該微粒子を構成するポリマーが、その構造中に、下記(1)及び/又は(2)で表される化学構造ユニットを有し、かつ、(1)及び(2)の−O−CO−結合が二酸化炭素由来であることを特徴とするポリヒドロキシウレタン微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシウレタン微粒子及びその製造方法に関する。特には、塗料、コーティング剤、樹脂、ゴム、エラストマーなどに、吸油性や耐摩耗性などに優れた性能を与える改質剤等として有益であり、しかも、その原材料に二酸化炭素を使用することができ、かつ、該二酸化炭素を高濃度で含むことが可能なポリヒドロキシウレタン微粒子を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリマー微粒子は、工業材料として種々の用途に使用されている。その用途としては、例えば、塗料用のレオロジーコントロール剤や艶消し剤、化粧品用の改質剤、液晶スペーサー、樹脂の収縮防止剤、カラム充填剤、トナーといったものが挙げられる。これらの場合、用いたポリマー微粒子に起因して発現される機能は、微粒子を構成する原材料に由来する機能と、微粒子の形状そのものによって達成されるものがある。例えば、前述したカラム充填剤やトナーの場合は、微粒子表面の性状が重要になるため、微粒子に求められる機能は、粒子を構成する材料の特性によるところが大きい。一方、塗料用の艶消し剤や液晶スペーサーには、粒子径の揃った真球微粒子が用いられていることからも明らかなように、微粒子の有する大きさや形状そのものが重要な機能として利用されている。
【0003】
従来より行われているポリマー微粒子の製造方法としては、樹脂を所望する粒径に粉砕する粉砕法や、乳化重合や懸濁重合によって直接ポリマー微粒子を得る重合法がある。該重合法は、特に球状のポリマー微粒子を得る方法として有用である。前述の如く、工業用として使用されているポリマー微粒子の多くは、粒子形状が、球状、さらには真球状であって、粒子径の分布が狭い方が、より少ない添加量で、その添加効果が得られるため、有利である。このような観点から、高い機能性が求められる用途に対応できるポリマー微粒子の製造方法としては、粉砕法よりも、上記に挙げたような重合法による微粒子合成が有用な方法であると言える。
【0004】
現在、重合法により工業化されているポリマー微粒子としては、アクリル、ポリスチレンエポキシ、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどの材料からなる微粒子が挙げられる。これら微粒子中でも、ポリウレタン微粒子は、ベースとなるポリウレタンの特性に由来した、耐摩耗性、耐溶剤性、耐熱性、密着性や耐油性を有するものとなることから、主に、塗料やコーティング剤用の改質剤として広く用いられている。このような改質剤に用いられているポリウレタン微粒子を工業的に製造する方法は重合法であり、例えば、水中で分散剤を利用してポリイソシアネートプレポリマーを分散させ、水との反応を利用して硬化させる方法(特許文献1)や、水の影響を受けない非水系での懸濁重合法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
上記のようなポリウレタン微粒子の製造方法において原料とされているイソシアネート化合物は、多様な化合物として工業的に製造されているが、いずれのイソシアネート化合物も有害な物質であり、取り扱いが難しいという欠点がある。さらには、イソシアネート化合物の製造に使用されるホスゲンは、非常に毒性の強い物質であり、その使用を削減していくことが強く望まれている。
【0006】
これに対し、イソシアネートを使用しないポリウレタン樹脂の製造方法として環状カーボネートとアミンとを反応させる方法が報告さている(特許文献3、4)。この製造方法は、原材料にイソシアネートを使用しないことを特徴としており、原料となる環状カーボネートは、その原材料に、二酸化炭素を使用して得られたものを用いている。このため、得られたポリウレタン樹脂も、化学構造中に二酸化炭素が取り込まれた化合物となる。このことは、上記技術は、近年問題となっている温室効果ガスの一種である二酸化炭素削減に貢献する技術という別の観点においても注目されるべき技術であることを意味している。
【0007】
しかしながら、特許文献3、4の製造方法は、塗料バインダーに利用する樹脂溶液の製造方法に特化したものであり、この反応を利用したポリウレタン微粒子の合成方法については、いまだ報告がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3100977号公報
【特許文献2】特開平7−97424号公報
【特許文献3】米国特許第3072613号明細書
【特許文献4】特許第3840347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上記した従来の課題を解決するとともに、広範囲の用途に適用可能なポリヒドロキシウレタン微粒子であって、かつ、粒度分布の狭いポリヒドロキシウレタン微粒子を提供し得る技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は本発明によって解決される。すなわち、本発明は、粒子径が0.1μm〜300μmである球状のポリマー微粒子であり、かつ、該微粒子を構成するポリマーが、その構造中に、下記(1)又は(2)で表される化学構造ユニットの少なくともいずれか一方を有し、これらの化学構造ユニットを構成している−O−CO−結合が二酸化炭素由来であることを特徴とするポリヒドロキシウレタン微粒子を提供する。

【0011】
本発明の好ましい形態としては、前記化学構造ユニットを構成している−O−CO−結合が、二酸化炭素を原材料の一つとして合成された5員環環状カーボネート基を反応性基として形成されたものであり、かつ、微粒子を構成するポリマー中に該二酸化炭素由来の−O−CO−結合が1〜30質量%含有される上記のポリヒドロキシウレタン微粒子が挙げられる。
【0012】
また、本発明は別の実施の形態として、上記のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法であって、少なくとも2つの5員環環状カーボネート基を反応性基として有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を反応性基として有する化合物とを用い、これらの化合物を、分散剤を含む不活性液体中に均一に分散させた後、加熱して両化合物を反応させて、不活性液体中に分散された状態のポリマー微粒子を得る際に、上記化合物のどちらか一方に、1分子中に3つ以上の反応性基を有する化合物を用い、かつ、両化合物を下記式で定義される官能基当量比0.7〜1.5で反応させることを特徴とするポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法を提供する。

(上記式中の官能基数とは、カーボネート化合物とアミン化合物がそれぞれの1分子中に有する環状カーボネート構造またはアミノ基の個数である。)
【0013】
本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法の好ましい形態としては、下記のことが挙げられる。
前記5員環環状カーボネート基を反応性基として有する化合物が、二酸化炭素を原材料の一つとして合成されたものであり、該化合物を反応に用いて得たポリマー中に、上記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が1〜30質量%含有されていること。より好ましくは、ポリマー微粒子の質量のうち1〜40質量%が二酸化炭素由来の−O−CO−結合から構成されたものとなること。
前記分散剤として、その構造中に非極性部と極性部とを有し、該非極性部はポリブタジエン骨格を有し、かつ、該極性部は、5員環環状カーボネート構造もしくはヒドロキシウレタン構造のいずれかを有するものを用いること。
さらに、前記不活性液体中に分散している状態のポリマー微粒子から該不活性液体を取り除き、粉末状のポリマー微粒子にして取り出すこと。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、広範な用途に適用可能なポリヒドロキシウレタン微粒子にするため、その組成を適宜に設計することが可能で、かつ、粒度分布の狭い微粒子を容易に提供することが可能になる。さらに、本発明によって提供されるポリヒドロキシウレタン微粒子は、その原材料の一つとして二酸化炭素を利用して合成した特定の環状カーボネート化合物を利用できることから、省資源、環境保護に資する点からも有用な技術の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】製造例1で用いた原料のMY0510の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図2】製造例1で得られたA−Iの赤外吸収スペクトルを示す図。
【図3】製造例1で用いた原料のMY0510の微分分子量分布を示す図。
【図4】製造例1で得られた物質の微分分子量分布を示す図。
【図5】実施例1で得られたポリヒドロキシウレタン微粒子(1)の粒度分布を示すチャート図。
【図6】実施例1で得られたポリヒドロキシウレタン微粒子(1)の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子は、粒子径が0.1μm〜300μmである球状のポリマー微粒子であって、該微粒子を構成するポリマーが、その構造中に、下記(1)又は(2)で表される化学構造ユニットの少なくともいずれか一方を有し、これらの化学構造ユニットを構成している−O−CO−結合が二酸化炭素由来であることを特徴とする。
【0017】

【0018】
すなわち、本発明により提供されるポリヒドロキシウレタン微粒子は、その構造中に二酸化炭素を取り込んでなるポリマー微粒子である。以下、各構成について、具体的に説明する。本発明を特徴づける、上記(1)又は(2)で表わされる化学構造ユニットは、例えば、5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との付加反応により形成することができる。この付加反応においては、下記式(A)に示すように、5員環環状カーボネートの開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。この結果、これら(1)又は(2)で表わされる化学構造ユニットは得られたポリマー中にランダムに存在するものと考えられる。
【0019】

【0020】
上記(1)又は(2)に示される通り、これらの化学構造ユニットは、ウレタン結合に近接して水酸基を有している。このような構造は、従来のイソシアネートと水酸基との反応によるポリウレタンの合成反応では得られないものであり、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子は、従来にない特有の構造を有することを特徴とする。すなわち、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、ウレタン構造を有しているが、従来のポリウレタン樹脂とは異なる高分子と考えることができ、この樹脂の構造上の特徴から、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子も従来のポリウレタン微粒子とは異なる特徴をも示すものになる。
【0021】
次に、上記した新規な構造を有するポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法について、詳細を説明する。
本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子は、上記式(A)で示される反応を利用することで得ることができる。具体的な製造方法では、少なくとも2つの5員環環状カーボネート基を反応性基として有する化合物(以下、単に環状カーボネート化合物と略す場合がある)と、少なくとも2つのアミノ基を反応性基として有する化合物(以下、アミン化合物と略す場合がある)とを必須成分として用い、これらの化合物を、分散剤を含む不活性液体中に均一に分散させた後、加熱して両化合物を反応させることで、不活性液体中に分散した状態のポリヒドロキシウレタン微粒子を得る。さらに、本発明の製造方法では、上記で必須とする2種の化合物のどちらか一方に、1分子中に3つ以上の反応性基を有する化合物を用い、かつ、両化合物を官能基当量比0.7〜1.5で反応させる。
【0022】
本発明における官能基当量比とは、官能基のモル当量比と同様の概念であり、下記式で算出されるものである。本発明では、環状カーボネート化合物或いはアミン化合物のいずれかを2種類以上使用することも可能であるが、その場合の官能基当量比の算出方法は、分子及び分母のそれぞれの化合物の質量を全化合物の質量の合計値とし、分子量及び官能基数を全組成物の加重平均値にすることにより算出される。なお、下記式中の官能基数とは、環状カーボネート化合物とアミン化合物がそれぞれの1分子中に有する環状カーボネート構造またはアミノ基の個数である。具体的な算出方法については、後述する。
【0023】

【0024】
本発明を特徴づける上記した環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましく、具体的には下記のようにして得られる。例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0025】
本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子を製造する場合、環状カーボネート化合物とアミン化合物との反応比率は、それぞれの化合物中に含まれるカーボネート基とアミノ基の相対比が等量の1.0を基準にすればよい。このため、一方の化合物が3官能以上の官能基を有する化合物の場合、もう一方が2官能の官能基を有する化合物であれば、一方の化合物を多く使用することが好ましい。しかし、両者の相対比率は必ずしも1.0である必要はなく、どちらかが過剰の状態においても微粒子を形成することができ、両化合物の相対比率を上記で述べる官能基当量と定義した場合、微粒子の形成が良好に行える官能基当量比の範囲は、0.7〜1.5である。より好ましい両化合物の使用比率としては、モル当量比を0.9〜1.2の範囲とするとよい。環状カーボネート化合物の使用量が多い場合は、より多くの二酸化炭素を取り込んだ微粒子の製造が可能になり、一方、アミン化合物の使用量が多くなれば、反応速度が速くなるため、生産効率が向上する。
【0026】
反応の際の加熱温度としては、反応は、室温から200℃の温度範囲で可能であり、より好ましくは60〜120℃の範囲とする。反応温度が低すぎると反応の進行が遅く粒子の製造効率が悪くなる場合がある。一方、上記範囲内であれば高い反応温度で反応を行っても特に反応上の問題はないが、温度が、製造の際に用いる後述する不活性液体の沸点を超えてしまうと、合成に支障をきたすので留意する必要がある。
【0027】
本発明の製造方法に使用される不活性液体は反応溶媒であり、反応の必須成分である5員環環状カーボネート化合物及びアミン化合物のいずれとも反応する化学成分を含まない有機化合物(有機溶剤)のことである。本発明では、該有機化合物として種々のものを使用することが可能であるが、反応成分である環状カーボネート化合物及びアミン化合物、さらには、両者が反応して得られるヒドロキシウレタン樹脂が完全に溶解しないことが必須条件であり、これらを満たせば、使用するモノマーの溶解性に合わせて適宜に選択することができる。また、このような有機溶剤の沸点は、低すぎると粒子合成の反応が遅くなり生産効率が悪くなるので、40℃以上であることが好ましい。逆に沸点が高すぎる有機溶剤を用いた場合は、合成して得た微粒子を有機溶剤と分離した粉体として取り出す場合に有機溶剤の除去が困難となるので、沸点が220℃以下のものを使用することが好ましい。上記した要件を満足する本発明に好適に使用できる不活性液体としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、石油ベンジン、リグロイン、石油スピリット、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、等の炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、フッ素系溶剤、シリコーンオイルなどが挙げられ、これらを混合して使用することもできる。
【0028】
上記したような不活性液体の使用量は、製造に使用する必須成分である環状カーボネート化合物とアミン化合物とを合計した質量の100質量部に対して、100質量部以上であり、好ましい範囲としては100質量部以上400質量部以下である。100質量部未満では原材料中に不活性液体が乳化した状態となり易く、良好な状態の微粒子を製造することが難しい。一方、400質量部を超えて不活性液体を多量に使用した系では、生産効率が悪くなるので好ましくない。
【0029】
本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造は、特に触媒を使用せずに行うことができるが、反応を促進させるために、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。その場合には、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量は、使用する環状カーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部である。
【0030】
本発明の製造方法では、分散剤を含有させた先に列挙したような不活性液体中に、反応成分である環状カーボネート化合物とアミン化合物とを均一に分散させた後、加熱して両化合物を反応させて、不活性液体中に分散した状態のポリマー微粒子を得る。この際に使用される分散剤としては、一般的な分散剤の化学構造である極性部と非極性部を一分子中に備えた化合物を用いることができる。例えば、ブロックオリゴマーやブロックポリマー、末端や側鎖を化学修飾したポリマーやオリゴマーなどを用いることが好ましい。
【0031】
本発明に好適な分散剤の非極性部の構造としては、前述の不活性液体に対する親和力が強い化学構造であることが好ましく、乳化した微粒子をより安定化するためには、分子量500以上のオリゴマー或いはポリマーであることが好ましい。上記したような理由から、本発明に好適な分散剤の具体的な化学構造としては、炭化水素系骨格又はポリシロキサン骨格を有するものが挙げられる。さらに、乳化した粒子の粒子径のばらつきが少ない点、及び微粒子を乾燥した際の凝集が少なく再分散性がよい等の観点から、特にポリブタジエン骨格を有するものが好ましい。
【0032】
一方、分散剤の極性部の構造としては、反応の必須成分である環状カーボネート化合物及びアミン化合物に対する親和力が強い化学構造を有するものが好ましい。そのため、分散剤の極性部は、その構造中に、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、等の極性官能基やエーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、カーボネート結合などの分極した化学結合を有していることが好ましい。特に好ましい構造としては、乳化させる反応の必須成分としての環状カーボネートと同じ環状カーボネート構造や、アミノ化合物との反応により生じるウレタン結合を含むものが挙げられる。
【0033】
本発明における分散剤の使用量は、反応に使用する必須の環状カーボネート化合物とアミン化合物を合計した質量の100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.4〜5質量部である。0.1質量部未満であると、原料の乳化性が不十分となって、製造過程で乳化微粒子が破壊されて凝集塊が発生し易くなり、本発明が目的とする粒子径が0.1μm〜300μmの微粒子を得にくくなる。一方、分散剤の量が20質量部より多くても乳化した微粒子は安定で、良好な微粒子を製造することについての問題はないが、分散剤としての作用を得る目的には過剰な量であり特に利点はなく、かえって経済性に劣るので好ましくない。
【0034】
本発明の製造方法において、使用できる製造装置は特に限定されず、例えば、簡易な撹拌装置を備えた反応装置や、より乳化能力の高いホモジナイザー、ジェットミルなどの分散機を使用することができる。これらの中でも、乳化して得られるポリマー微粒子の粒子径が安定するまでの時間が短いという点で、ホモジナイザーを使用することが生産効率上は好ましい。
【0035】
本発明では、もう一つの実施形態として、上記のようにして不活性液体中に分散した状態で製造されたポリマー微粒子から不活性液体(不活性有機溶剤)を取り除き、粉末状のポリマー微粒子にして取出す製造方法を提供する。前述の如き方法で製造されたポリマー微粒子は、不活性有機溶剤中に分散された状態で得られるため、粉末状のポリマー微粒子にするためには、不活性有機溶剤を除去する工程が必要になる。本発明においては、不活性有機溶剤を除去する前に、まず、不活性有機溶剤からポリマー微粒子を分離してもよい。その場合に用いる分離方法としては、濾別による方法や、不活性有機溶剤を揮発させる方法が挙げられる。濾別する方法としては、紙製や樹脂製の濾紙或いは濾布を使用した、常圧か減圧或いは加圧の各方法によって行うことができ、公知一般的な濾過装置であればいずれも使用できる。
【0036】
次に、濾別したポリマー微粒子から不活性有機溶剤を除去して乾燥粉末とするが、場合によっては、上記した分離工程を経ることなく、不活性有機溶剤を除去することも有効である。不活性有機溶剤を除去する方法としては、常圧か減圧下で不活性有機溶剤を揮発させ、乾燥する方法が挙げられる。不活性有機溶剤の除去に適した乾燥温度としては、不活性有機溶剤の沸点及び蒸気圧、ポリマー微粒子の粒子径や熱軟化点に影響されるが、好ましい範囲としては、40℃〜80℃である。また、減圧下で行うことが好ましく、不活性有機溶剤の沸点が40〜80℃の範囲となるような圧力下で行うことが好ましい。このような乾燥に必要な装置は、特に限定されたものではなく、公知の装置がいずれも使用できる。例えば、棚式乾燥機や真空乾燥機、スプレードライヤー等の装置が好ましい装置として挙げられる。
【0037】
上記したように、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子は、環状カーボネート化合物とアミン化合物とから得ることができるが、ここで使用する環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものを使用することが好ましい。具体的には、下記のような方法で得られる2つの5員環環状カーボネート基を反応性基として有するカーボネート化合物を用いて、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子を合成することが好ましい。例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0038】

【0039】
上記したようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を使用することによって、得られたポリヒドロキシウレタン微粒子は、そのポリマーの構造中に、下記(1)及び/又は(2)で表される化学構造ユニットを有するものとなる。この結果、(1)及び(2)中の−O−CO−結合は二酸化炭素由来のものとなる。
【0040】

【0041】
二酸化炭素の有効利用の立場からは、本発明で提供するポリヒドロキシウレタン微粒子中における、上記二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)の含有量は、できるだけ高くなるようにすることが好ましい。これに対し、例えば、上記したようにして合成した環状カーボネート化合物を用いてポリマー微粒子を製造した場合は、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1〜30質量%の範囲で二酸化炭素を含有させることができる。すなわち、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子は、その質量のうちの1〜30質量%を原料の二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める材料であることを意味する。
【0042】
先に述べたエポキシ化合物と二酸化炭素とから環状カーボネート化合物を得る反応に使用される触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0043】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0044】
本発明の製造方法に使用可能な環状カーボネート化合物について説明する。該環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、一分子中に2つ以上の環状カーボネート基を有するものであれば使用可能であるが、より好ましくは、環状カーボネート基が3つ以上ある化合物を用いると、粒子合成の反応時間を短くすることができ、生産上有利である。環状カーボネート基が結合する化合物の主骨格としては、例えば、芳香族骨格を持つものや、脂肪族系、脂環式系、複素環式のいずれの環状カーボネート化合物も使用可能である。また、主骨格と環状カーボネート基の結合部分の構造は、エーテル結合、エステル結合、3級アミン結合のいずれの構造でも使用可能である。以下に、本発明の製造方法に使用可能な化合物を例示する。
【0045】
本発明の製造方法に使用し得る脂肪族骨格を持つ環状カーボネート化合物としては、以下に挙げるような化合物が例示される。
【0046】

【0047】

【0048】

【0049】

【0050】

【0051】
本発明の製造方法に使用し得る芳香族骨格を持つ環状カーボネート化合物としては、以下に挙げるような化合物が例示される。
【0052】

【0053】


【0054】

【0055】

【0056】

【0057】

【0058】
本発明の製造方法に使用し得る脂環式系、複素環式系の環状カーボネート化合物としては、以下に挙げるような化合物が例示される。
【0059】

【0060】

【0061】

【0062】

【0063】
次に、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂微粒子の製造方法において、上記に列挙したような環状カーボネート化合物との反応に使用する、少なくとも2つのアミノ基を反応性基として有する多官能アミン化合物について説明する。該化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。また、これらの化合物のエチレンオキサイド付加体やプロピレンオキサイド付加体も好ましい化合物として挙げられる。
【0064】
また、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法では、上記したような原料成分の一部または全部に、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、研磨剤等の各種添加剤を混合してもよく、これらを含むポリヒドロキシウレタン微粒子を合成することもできる。
【実施例】
【0065】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0066】
(官能基当量比)
以下において、それぞれの反応に使用した環状カーボネート化合物とアミン化合物との「官能基当量比」は、下記式を用い、下記のようにして算出した値である。

上記の算出式で必要となる環状カーボネート化合物の「官能基数÷カーボネート化合物の分子量」は、カーボネート化合物1gあたりのカーボネート基のモル当量を示す指数であることから、これを「カーボネート当量」と定義し、以下の測定方法により実測した。このようにした理由は、実施例で使用したエポキシ化合物と二酸化炭素から合成した環状カーボネート化合物は、1分子中におけるカーボネート基の数が異なるものの混合物として得られるためである。なお、アミン化合物についてはこの問題はなく、分子量からモル当量を求めることができる。
【0067】
「カーボネート当量」を測定する対象のカーボネート化合物1gをN,N−ジメチルホルムアミド50gに溶解し、濃度1mol/Lに調整したn−ヘキシルアミン(分子量101.19)のトルエン溶液10mLを加え、60℃で10時間反応させた。反応後の溶液を0.5N塩酸にて中和滴定し、未反応のn−ヘキシルアミン量を定量した。別途カーボネート化合物を加えないブランク滴定を行い、消費したn−ヘキシルアミン量を逆算し、その消費量をヘキシルアミンの分子量で除したものを「カーボネート当量」とした(単位eq/g)。すなわち、カーボネート当量は、[カーボネート化合物1gと反応したn−ヘキシルアミン量(g)÷101.19(単位eq/g)]で求めることができる。
【0068】
(化合物の二酸化炭素含有量)
また、各実施例で使用したカーボネート基中の−O−CO−結合は、二酸化炭素に由来するものであることより、上記で得た「カーボネート当量」から、カーボネート化合物中の二酸化炭素含有量を算出できる。すなわち、二酸化炭素含有量(%)は、[カーボネート当量(eq/g)×44(=CO2分子量)×100]で求めることができる。本発明では、二酸化炭素含有量は上記のようにして計算で求めた。
【0069】
<製造例1>[環状カーボネート含有化合物(A−I)の合成]
エポキシ当量100のパラ−アミノフェノール型エポキシ樹脂(商品名:MY0510、ハンツマン社製、以下、MY0510と略記)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬(株)製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部を、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、得られた反応液を200部の酢酸エチルで希釈した後、分液ロートに移し、食塩水にて4回洗浄を行って、N−メチル−2−ピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。次に、洗浄後の酢酸エチル層をエバポレーターに移し、酢酸エチルを減圧除去したところ、透明液体化合物97部(収率72%)が得られた。
【0070】
得られた化合物を赤外分光装置(日本分光(株)製、FT/IR−350;以下の製造実施例も同様、以下、IRと略記)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ由来のピークは消失していた。また、1,800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基に由来するピークが確認された。図1に、原料に用いたMY0510について測定したIRスペクトルを示し、図2に、得られた物質について測定したIRスペクトルを示した。また、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)を移動相としたGPC(東ソー製、GPC−8220;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000;以下の製造例なども同様)の測定の結果、得られた物質の重量平均分子量は404(ポリエチレンオキサイド換算)であった。図3に、原料に用いたMY0510の微分分子量分布を、図4に、得られた物質の微分分子量分布を示した。
【0071】
以上のことから、得られた物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これをA−Iとした。この化合物A−I中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、30.6%であった(計算値)。
【0072】

【0073】
<製造例2>[環状カーボネート含有化合物(A−II)の合成]
エポキシ当量142のグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX−313、ナガセケムテックス(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。反応終了後、エバポレーターにて溶剤を蒸発させ、オイル状の化合物を132部(収率99.9%)得た。
【0074】
得られた化合物をIRにて分析したところ、910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、一方、1,800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基に由来するピークが確認された。また、DMFを移動相としたGPCの測定の結果、得られた物質の重量平均分子量は397(ポリエチレンオキサイド換算)であった。以上のことから、この物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表される構造の化合物と確認された。これをA−IIとした。この化合物A−II中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、23.7%であった(計算値)。
【0075】

【0076】
<製造例3>[環状カーボネート含有化合物(A−III)の合成]
エポキシ当量165のソルビトールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX−614、ナガセケムテックス(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。反応終了後、エバポレーターにて溶剤を蒸発させ、オイル状の化合物を130部(収率99.5%)得た。
【0077】
得られた化合物をIRにて分析したところ、910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、一方、1,800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基に由来するピークが確認された。また、DMFを移動相としたGPCの測定の結果、得られた物質の重量平均分子量は880(ポリエチレンオキサイド換算)であった。以上のことから、この物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表される構造の化合物と確認された。これをA−IIIとした。この化合物A−III中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、21.1であった(計算値)。
【0078】

【0079】
<製造例4>[環状カーボネート含有化合物(A−IV)の合成]
エポキシ当量90のテトラグリシジルキシレンジアミン(商品名:TETRAD−X、三菱ガス化学(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬(株)製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。反応終了後の溶液に、溶剤であるメチルエチルケトン(以下、MEKと略記)166部とトルエン83部とを加え、取出した。さらに、取出した溶液を分液ロートに移し、食塩水にて4回の洗浄を行い、触媒を除去した。さらに、エバポレーターにて溶剤を蒸発させることで、オイル状の化合物を125部(収率84%)得た。
【0080】
得られた化合物をIRにて分析したところ、910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、一方、1,800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基に由来するピークが確認された。また、DMFを移動相としたGPCの測定の結果、得られた物質の重量平均分子量は594(ポリエチレンオキサイド換算)であった。以上のことから、この物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表される構造の化合物と確認された。これをA−IVした。この化合物A−IV中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、32.8%であった(計算値)。
【0081】

【0082】
(極性部と非極性部を一分子中に備えた分散安定剤の合成)
<合成例1>
エポキシ当量1571のポリブタジエン骨格を有する末端ジグリシジルエーテル(商品名:R45EPT、ナガセケミテックス(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウムの20部(和光純薬製)と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。反応後の溶液を1,000mlの蒸留水中に注ぎ、分離したオイル状の化合物を回収した。オイル状の化合物は、製造例1と同様の分析により、ポリブタジエン骨格を有する末端環状カーボネート化合物であることを確認した。
【0083】
次に、得られたオイル状の化合物100部と、該化合物に対して0.5当量となるメタキシレンジアミン4.2部を、還流器を備えた反応容器内に仕込み80℃で12時間反応させ、実施例で使用する分散安定剤を得た。得られた分散安定剤は、非極性部としてポリブタジエン骨格を有し、極性部として、環状カーボネートとアミンが反応したヒドロキシウレタン結合と分子末端に未反応の環状カーボネート基を有する構造を有していた。
【0084】
(ポリヒドロキシウレタン微粒子の作成)
<実施例1>
予め、ステンレス容器に、合成例1で得た分散剤5.0部と、イソノナン(商品名:キョウワゾールC−900、協和発酵(株)製、以下の実施例でも同様)150部とを加えて混合液とした。製造例1で得た(A−I)を100部と、メタキシレンジアミン(三菱瓦斯化学(株)製、表中はMXDAと略記)44.9部とを、先に準備した混合液の中に徐々に加え、ホモジナイザーで15分間乳化した。この乳化液は、分散質の平均分散粒子径が5.0μmであり、分離もなく安定な乳化液であった。なお、上記における環状カーボネート化合物とアミノ化合物との配合は、官能基当量比が1.05となる配合である。
【0085】
次に、これを撹拌機付き反応釜に仕込み、80℃、6時間の反応を行い、微粒子分散溶液を得た。得られた微粒子分散溶液について、粒度分布計(商品名:Microtrac X100、日機装(株)製、以下の実施例でも同様)を用いて測定した結果、その平均粒子径が5.0μmであった。図5に粒度分布チャートを示した。この溶液を100Torrで真空乾燥を行って、イソノナンを分離し、ポリヒドロキシウレタン微粒子(1)を得た。得られた微粒子(1)を走査型電子顕微鏡(商品名:JSM−5510LV、日本電子(株)製、以下の製造実施例でも同様)で観察した結果、微粒子は、真球状の白色粉末状であった。図6に得られたポリヒドロキシウレタン微粒子(1)の電子顕微鏡写真を示した。また、この微粒子中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、21.1%であった(計算値)。
【0086】
<実施例2>
製造例2で得た(A−II)を100部と、メタキシレンジアミン29.6部を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン微粒子(2)を得た。得られた微粒子は、平均粒子径5.1μmの真球状の白色粉末状であった。また、この微粒子中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、18.3%であった(計算値)。なお、上記における環状カーボネート化合物とアミノ化合物との配合は、官能基当量比が1.24となる配合である。
【0087】
<実施例3>
予め、ステンレス容器に、合成例1で得た分散剤2.0部とイソノナン150部とを加え、混合液とした。製造例2で得た(A−II)を100部と、ヘキサメチレンジアミン(旭化成(株)製、表中はHMDAと略記)を34.7部とを、上記で予め準備した混合液の中に徐々に加え、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン微粒子(3)を得た。得られた微粒子(3)は、平均分散粒子径が10.5μmの真球状の白色粉末状であった。また、この微粒子中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、17.6%であった(計算値)。なお、上記における環状カーボネート化合物とアミノ化合物との配合は、官能基当量比0.90となる配合である。
【0088】
<実施例4>
予め、ステンレス容器に、合成例1で得た分散剤4.0部とイソノナンとを150部加え、混合液とした。製造例3で得た(A−III)100部と、メタキシレンジアミン30.9部とを、上記で準備した混合液の中に徐々に加え、実施例1と同様にして、ポリウレタ微粒子(4)を得た。得られた微粒子(4)は、平均分散粒子径が7.2μmの真球状の白色粉末状であった。また、この微粒子中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、16.1%であった(計算値)。なお、上記における環状カーボネート化合物とアミノ化合物との配合は、官能基当量比が1.06となる配合である。
【0089】
<実施例5>
予め、ステンレス容器に、合成例1で得た分散剤3.0部と、イソノナンを150部加え、混合液とした。製造例4で得た(A−IV)100部と、メタキシレンジアミン48.2部を、上記で準備した混合液の中に徐々に加え、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン微粒子(5)を得た。得られた微粒子(5)は、平均分散粒子径が8.1μmの真球状の白色粉末状であった。また、この微粒子(5)中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、22.1%であった(計算値)。なお、上記における環状カーボネート化合物とアミノ化合物との配合は、官能基当量比が1.05となる配合である。
【0090】
<実施例6>
予め、ステンレス容器に、合成例1で得た分散剤5.0部と、イソノナンを150部とを加えて混合液とした。製造例1で得た(A−I)50部と製造例2で得た(A−II)50部、ヘキサメチレンジアミン34.0部を、上記で準備した混合液の中に徐々に加え、実施例1と同様にして、ポリヒドロキシウレタン微粒子(6)を得た。得られた微粒子(6)は、平均分散粒子径が5.0μmの真球状の白色粉末状であった。また、この微粒子中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、20.3%であった(計算値)。なお、上記における環状カーボネート化合物とアミノ化合物との配合は、官能基当量比が1.05となる配合である。
【0091】

【0092】
(評価)
上記実施例1〜6で得られた微粒子(1)〜(6)、及び、比較例として既存のウレタン微粒子(商品名:ダイミックビーズUCN−5070、平均粒子径7.0μm、大日精化工業(株)製)について、性能を評価した。評価は、下記の試験項目について、以下の方法及び評価基準で評価した。表2に評価結果をまとめて示した。
【0093】
[粒子径]
実施例及び比較例で得たポリマー微粒子分散液を用い、粒度分布計(商品名:Microtrac X100、日機装(株)製)でイソノナンを測定溶媒としてそれぞれの粒子径を測定した。
【0094】
[円形度]
実施例及び比較例のそれぞれの微粒子について、粒子形状画像解析装置(商品名:PITA−1、(株)セイシン企業製)を用いて測定し、その値で評価した。その測定原理は、粒子投影の周囲長を測定し、微粒子の円形度を以下の式から算出するものである。なお、円形度は、真円で1となり、形状が複雑になるほど、その値は小さくなる。
円形度=円相当径から求めた円の周囲長/粒子投影の周囲長
【0095】
[耐溶剤性]
実施例及び比較例のそれぞれの微粒子を各10部、以下に挙げた4種の各有機溶剤90部にそれぞれに添加し、室温で3時間の撹拌を行った後、有機溶剤を濾別して微粒子を回収した。回収した微粒子を真空乾燥した後、試験前後の重量減少量を測定し、以下の基準で評価した。試験溶剤として、MEK、DMF、トルエン(TOL)、イソプロピルアルコール(IPA)の4種を用いた。
○:いずれの溶剤においても重量減少が10%未満
△:一種以上の溶剤に対して重量減少が、10%以上〜20%未満
×:一種以上の溶剤に対して重量減少が、20%以上
【0096】
[再分散性]
実施例及び比較例の微粒子を各20部ずつ取り、これをそれぞれMEK80部に添加し、ディスパーで60秒間の撹拌を行い、分散液の状態を肉眼及び顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。
5:完全に分散
4:ほぼ分散するものの、僅かに粗大粒子あり
3:一部に粗大粒子あり
2:全体がペースト
1:ゲル化し沈降
【0097】
[耐熱性]
TG−DTAにて、250℃/30分における重量減を測定した。
○:重量減少率が5%未満
△:重量減少率が5%以上〜10%未満
×:重量減少率が10%以上
【0098】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、得られた微粒子の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン微粒子の合成反応に使用した、化合物A−I〜IVを合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、使用した化合物A−Iの二酸化炭素由来の成分は30.6%であり、これより実施例1のポリヒドロキシウレタン微粒子中の二酸化炭素濃度は、(100部×30.6%)/144.9全量=21.1質量%となる。
【0099】

【0100】
表2の結果から明らかなように、本発明のポリヒドロキシウレタン微粒子は既存のポリウレタン微粒子と比較し、同等の形状及び物理特性を示した。このことは、本発明によって提供されるポリヒドロキシウレタン微粒子は、従来のポリウレタン微粒子に代替し得るものであることを示している。また、ポリヒドロキシウレタン微粒子の製造は過去に例がなく、本発明の製造方法は、新規なポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法として有用なことも明らかとなった。さらに、本発明のヒドロキシウレタン微粒子は化学構造の一部として二酸化炭素を高濃度で固定化していることより、既存のポリウレタン微粒子と比較して、従来にない環境問題に対応した製品の提供を可能にできるポリウレタン微粒子としても工業的に有用であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上の本発明によれば、環状カーボネート化合物とアミン化合物とを原料とし、特に好ましくは、極性部と非極性部とを一分子の構造中に備えた化合物を分散剤として用いることで、従来の技術では得られなかった、従来のポリウレタン樹脂とはその構造が異なり、さらに、粒子径のコントロールされたポリヒドロキシウレタン微粒子が効率的に得られる製造方法が提供される。また、本発明で提供するポリヒドロキシウレタン微粒子は、真球状であり、各種の溶媒への再分散も極めて容易であるなど、既存のポリウレタン微粒子と同等の性状を有するものであり、既存のポリウレタン微粒子と同様の用途への使用が期待できる。特に本発明で提供するポリヒドロキシウレタン微粒子は、ポリマーの合成原料として二酸化炭素を使用できる点に大きな利点があり、地球環境保護の面から、工業的な応用が期待される技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が0.1μm〜300μmである球状のポリマー微粒子であり、かつ、該微粒子を構成するポリマーが、その構造中に、下記(1)又は(2)で表される化学構造ユニットの少なくともいずれか一方を有し、これらの化学構造ユニットを構成している−O−CO−結合が二酸化炭素由来であることを特徴とするポリヒドロキシウレタン微粒子。

【請求項2】
前記化学構造ユニットを構成している−O−CO−結合が、二酸化炭素を原材料の一つとして合成された5員環環状カーボネート基を反応性基として形成されたものであり、かつ、微粒子を構成するポリマー中に該二酸化炭素由来の−O−CO−結合が1〜30質量%含有される請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン微粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法であって、
少なくとも2つの5員環環状カーボネート基を反応性基として有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を反応性基として有する化合物とを用い、これらの化合物を、分散剤を含む不活性液体中に均一に分散させた後、加熱して両化合物を反応させて、不活性液体中に分散された状態のポリマー微粒子を得る際に、
上記化合物のどちらか一方に、1分子中に3つ以上の反応性基を有する化合物を用い、かつ、両化合物を下記式で定義される官能基当量比0.7〜1.5で反応させることを特徴とするポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法。

(上記式中の官能基数とは、カーボネート化合物とアミン化合物がそれぞれの1分子中に有する環状カーボネート構造またはアミノ基の個数である。)
【請求項4】
前記5員環環状カーボネート基を反応性基として有する化合物が、二酸化炭素を原材料の一つとして合成されたものであり、該化合物を反応に用いて得たポリマー中に、上記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が1〜30質量%含有されている請求項3に記載のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分散剤として、その構造中に非極性部と極性部とを有し、該非極性部はポリブタジエン骨格を有し、かつ、該極性部は、5員環環状カーボネート構造もしくはヒドロキシウレタン構造のいずれかを有するものを用いる請求項3又は4に記載のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記不活性液体中に分散している状態のポリマー微粒子から該不活性液体を取り除き、粉末状のポリマー微粒子にして取り出す請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246327(P2012−246327A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108602(P2011−108602)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】