説明

ポリヒドロキシカルボン酸の合成法及び合成装置

【課題】ポリグリコール酸の合成方法及び装置において、グリコール酸を縮合した後、これを解重合してグリコリドを得る。
【解決手段】ヒドロキシカルボン酸又はその縮合物を環状二量体に解重合した後、これを開環重合してポリヒドロキシカルボン酸を合成するに際して、外力を用いてヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物を薄層化して縮合した後、これを解重合して環状二量体を得ることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成法及び合成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシカルボン酸、とりわけポリグリコール酸の合成方法及び合成装置に係り、特に、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸を濃縮・縮合した後、これを解重合してグリコリド等の環状二量体を得る合成方法及び合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、ヒドロキシカルボン酸としてグリコール酸を用いた場合を中心に記載する。ポリグリコール酸はグリコ−ル酸を原料として作られる脂肪族ポリエステルである。ポリグリコール酸を合成する方法の一つとして、グリコール酸を濃縮して含有水分を低減させた後に縮合させることでグリコール酸オリゴマーを生成させ、これに酸化アンチモン等の触媒を添加して一度解重合させることにより環状二量体(グリコリド)を生成させ、必要に応じて晶析等による精製を行った後、グリコリドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。
【0003】
濃縮工程ではモノマーであるグリコール酸に不純物として10〜15%程度の水分(以下、自由水という)が含まれている場合があり、モノマー間におけるエステル化処理を起こり易くさせるためにこの自由水の除去が実施される。この濃縮工程では、120〜250℃での加熱及び、必要に応じて真空ポンプ等を用いた減圧により水分の除去が実施される。
【0004】
縮合工程は、モノマー間のエステル化反応によって生成される水を120〜250℃での加熱及び真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは10Torr以下での減圧により気化して除去する。ここでの減圧は濃縮工程におけるものとは異なり、エステル化反応を進展させるための必須条件である。この縮合工程によりモノマーからグリコール酸縮合物(以下、オリゴマーと呼称する)が生成する。
【0005】
縮合工程で生成したオリゴマーは解重合工程に送られ、120〜250℃での加熱及び真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは100Torr以下での減圧環境下において三酸化アンチモン等の解重合触媒との接触により、グリコリド(グリコール酸環状二量体エステル)が生成する。生成したグリコリドは解重合工程での環境下では通常気体であることが多く、冷却・凝縮により回収される。その際、濃縮反応及び縮合反応が不十分であると、グリコリド中に水分が混入する場合がある。混入した水分はグリコリドの一部と反応して直鎖状のモノマー等に戻るが、これらは開環重合によるポリグリコール酸重合工程において、カルボキシル基による酸触媒の効果により重合度の向上を妨げる要因となる。そのため、原料であるグリコール酸の濃縮・縮合を十分行い、解重合後のグリコリド中に含まれる水分量を可能な限り低減する必要がある。
【0006】
ポリグリコール酸合成におけるグリコリドの製造方法として種々の技術が開発されている。例えば、グリコール酸を濃縮及び縮合することによってグリコール酸の低重合体(オリゴマー)を得た後、オリゴマーを解重合することでグリコリドを得るものがある(非特許文献1)。また、特許文献1には、グリコール酸から重縮合反応のみでポリグリコール酸を得る方法が開示されている。この方法は重縮合反応容器として遠心薄膜蒸発器を用いており、これにより水の蒸発速度が大きくなり、反応が加速されるため反応時間が短く、ポリマーの熱分解が起こりにくく、不純物を低減することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−51729号公報
【非特許文献1】高分子加工Vol30,(1981)208−219頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に述べた非特許文献1では、濃縮工程及び縮合工程で、原料に含まれる水及び縮合工程で発生する水の脱水に要する時間が長くなるほど熱にさらされるため、グリコール酸重合物は熱分解しグリコリドの収率が低下するという問題を示唆する。
【0009】
また、特許文献1では、重縮合反応で得られるポリグリコール酸は重合度が低く分子量が小さい、分子量の分布幅が大きい、またポリマーの末端基がカルボン酸基であるため、脱水反応や分解反応が起こり易く不安定であるという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、解重合、開環重合を通して高分子量で分子量分布幅が小さいポリグリコール酸の合成においてグリコリドを効率よく得る方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ヒドロキシカルボン酸を濃縮・縮合し、縮合物を環状二量体に解重合した後、これを開環重合するに際し、外力を用いてヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物を薄層化して縮合した後、これを解重合して環状二量体を得ることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成法を提供するものである。また、本発明は、ヒドロキシカルボン酸供給装置、外力を用いてヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物を薄層化する蒸発器を備えヒドロキシカルボン酸を縮合する縮合装置、及び縮合物を解重合する解重合装置を順次配列したことを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遠心薄膜蒸発器を用いてポリヒドロキシカルボン酸の縮合反応を行うことにより短時間で不純物の少ないグリコール酸オリゴマーを得ることができる、高効率でグリコリドを製造することができる。また、この方法を実施するための好適なポリヒドロキシカルボン酸合成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシ酸とも言い、1分子中にカルボキシル基―COOHとアルコール性水酸基―OHとを持つ有機化合物の総称である。例えば乳酸などである。本発明は特にグリコール酸CH(OH)COOHの重合に適用するのに好適である。また、カルボキシル基と水酸基の結合位置によってα、β、γ、δ―ヒドロキシカルボン酸があるが、本発明はα―ヒドロキシ酸の重合に好適である。α―ヒドロキシカルボン酸は2分子から水2分子を失って環式エステルのラクチドを生ずる。
【0014】
グリコール酸の場合は100℃に熱すると水1分子を失って縮合し、200℃でさらに水1分子を失ってラクチドのグリコリドになる。
【0015】
本発明者らは前記目的を達成すべく、上記課題について鋭意検討した結果、下記のグリコリド製造方法及び装置を見出した。即ち本発明は原料供給系と外力を用いてグリコール酸を薄層化する装置を用いた縮合槽から成る縮合装置との間に蒸留塔から成る脱水装置を設け、原料に含まれる水及び縮合工程で発生する水を脱水装置で除去する。これによって脱水装置内のグリコール酸を濃縮し、該濃縮グリコール酸を縮合装置に連続供給することを特徴とする。
【0016】
前記蒸発器は、下降膜型蒸発装置、遠心薄膜蒸発器及び攪拌膜型蒸発装置の少なくとも一つであり、その具定例が図2に示されている。
【0017】
本発明において、遠心薄膜蒸発装置とは、図2(a)に示すように、装置内に供給された被濃縮液を遠心力により装置ケーシング内面に被濃縮液を当てて液膜を形成し、装置ケーシング外面からの加熱により蒸発を促すものである。遠心力は固定された装置ケーシング内に翼が設置された回転子を設置し、回転する翼を通して被濃縮液に与えられる。本方式では設備規模をコンパクトにできる、翼とケーシングの間のギャップ幅及び翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所がある。また、被濃縮液を減圧環境下に設置された構造物外面に沿って流下させることで薄層化・蒸発させる装置として、上から被濃縮液を管群、板群等の構造物の外面に注ぎ、外面形状に沿った液膜を形成することで蒸発を促進させるもの(水平管下降膜型蒸発装置〔図2(b)〕や、垂直長管下降膜型蒸発装置〔図2(c)〕)がある。管群、板群等の構造物について、その内部に熱源を有する場合、液膜を加熱させることができる。本方式では動力を用いなくとも重力に伴う液膜の自然流下により薄膜を形成させることができる長所がある。
【0018】
さらに、遠心薄膜蒸発装置と下降膜型蒸発装置の両方の性格を持つ装置として、構造物内面に沿って被濃縮液を上から注ぎ、構造物内部に設置された翼付の回転子の回転により、所定の厚さ以上の液膜を翼で掻き取り、構造物外面からの加熱で蒸発を促進する攪拌膜型蒸発装置〔図2(d)〕などがある。本方式では動力を用いなくとも重力に伴う液膜の流れにより薄膜を形成させつつ、翼とケーシングの間のギャップ幅により液膜厚さを制御できる長所がある。これらの装置はいずれも本発明における溶融オリゴマーの連続解重合装置に適用することが可能である。これらのうち、重力により構造物外面に沿って流れ液膜を形成する装置の場合、流れの途中で触媒を添加分散することができないので、事前に触媒を添加・分散することが必要となる。また、装置下端に到達した流れについては装置内に滞留しないよう連続排出することが望ましい。その理由は、装置下端に到達した流れには触媒が高濃度で含まれ、その残存は光学異性体化を増大させる場合があるからである。
【0019】
一方、横型の遠心薄膜蒸発装置〔図2(a)〕については装置内に触媒を滞留させ、回転子、翼の稼動により触媒を溶融オリゴマーに分散させることが可能である。従って、装置の一端から溶融オリゴマーを連続供給しても、それが環状二量体蒸気の排出量に見合っていれば滞留量を一定に保てるので、他端から連続排出を行うことは必ずしも必要でない。触媒活性の低下に伴う解重合反応の効率低下や溶融オリゴマーの解重合後の残渣蓄積により滞留量が増大してきた時、断続的に装置内の液を排出し、新規に触媒を装置内に添加して運転を再開すればよい。
【0020】
本発明の一実施形態が図1にその概略図が示されている。図1において、グリコール酸供給装置1、グリコール酸濃縮装置2、還流器3、減圧装置4、グリコール酸縮合装置5、還流器6、冷却器7、減圧装置8、オリゴマー解重合装置9、還流器10、グリコリド冷却器11、精製装置12、不純物冷却器13、減圧装置14を備える。濃縮グリコール酸は遠心薄膜蒸発器であるグリコール酸縮合装置5に連続供給されると、遠心力によりケーシング内面に液膜を形成する。これにより、縮合反応でグリコール酸オリゴマーが生成する。グリコリドを効率良く製造することができる。
【0021】
グリコール酸はグリコール酸供給装置1から供給され、グリコール酸濃縮装置2において水分を除去され濃縮グリコール酸となる。濃縮グリコール酸はグリコ−ル酸縮合装置5に供給され、縮合反応によりオリゴマー(グリコール酸縮合物)となる。オリゴマーは解重合装置に送られ、解重合反応によりグリコリドとなる。
【0022】
濃縮グリコール酸を薄層化することで、濃縮グリコール酸と気相との接触面積を増大させ、縮合反応によって生成する水の蒸発を加速させることでグリコール酸の縮合反応を加速させることができる。濃縮グリコール酸を薄層化させる外力としては、重力もしくは遠心力が挙げられる。濃縮グリコール酸を薄膜化させる装置としては、下降膜型蒸発装置、遠心薄膜蒸発器、攪拌膜型蒸発装置等が挙げられる。
【0023】
本発明において、下降膜型蒸発装置とは、濃縮グリコール酸を減圧環境下に設置された構造物外面に沿って流下させることで薄層化、蒸発を促進させるものである。管群、板群等の構造物について、その内部に熱源を有する場合、液膜を加熱させることができる。本方式では動力を用いずとも重力に伴う液膜の流れにより液膜を形成させることができる長所がある。
【0024】
本発明において、遠心薄膜蒸発器とは、装置内に供給された濃縮グリコール酸を遠心力により装置ケーシング内部に当てて液膜を形成し、装置ケーシング外面からの加熱により蒸発を促すものである。遠心力は翼が設置された回転子を固定された装置ケーシング内に設置し、回転する翼を通じて濃縮グリコール酸に与えられる。本方式では設備規模を小さくできる、翼とケーシングとの間のギャップ幅及び翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所がある。
【0025】
本発明において、攪拌膜型蒸発装置とは、下降膜型蒸発装置と遠心薄膜蒸発器の双方の性格を併せ持つ装置で、構造物内面に沿って濃縮グリコール酸を上から注ぎ、構造物内面に設置された翼付回転子の回転により所定の厚さ以上の液膜を翼で掻き取り、構造物外面からの加熱で蒸発を促進するものである。本方式では動力を用いずとも重力に伴う液膜の流れにより薄膜を形成させつつ、翼とケーシングのギャップ幅により液膜厚さを制御できる長所がある。
【0026】
遠心薄膜蒸発器は、以下の利点を備えている。まず、蒸発能力が大きいため、高粘度物質の処理に適している。これは、回転翼によって液が均一な薄膜にされ、かつ強力に攪拌されるため高粘度物質でも伝熱係数が大きく取れるためである。次に、滞留時間が短いため、熱不安定物質の処理に適している。これは、液が薄膜で処理され、ごく短時間で所定の濃度まで濃縮されるので、熱不安定物質の処理に適しているためである。そして、真空蒸発が適切であるため、熱不安定物質や高沸点物質の処理に適している。これは、液が薄膜で処理されることで液ヘッドによる沸点上昇がなく、系内の真空度における沸点で蒸発させることができるためである。また、スケールがつかず連続運転が可能であるため高粘度物質やスラリー液の処理に適している。これは、液が回転翼により攪拌され、伝熱面が常に新しい液と更新されるためである。
【0027】
本発明は濃縮グリコール酸の縮合槽として遠心薄膜蒸発器を用いているため、短時間で濃縮グリコール酸の温度が上がりやすく縮合反応を数秒から数分で完了することが可能である。そのため、特許文献1に記載された従来技術と比較して濃縮グリコール酸が熱分解されることで生成する不純物が少なく、純度の高いオリゴマーを得ることができ、さらには高収率でグリコリドを得ることができる。そして、精製工程で除去しなければならない不純物が低減されるため、効率よくポリグリコール酸を得ることが可能となる。特許文献2に記載された従来技術と異なり、縮合反応、解重合反応及び開環重合反応を異なる反応容器で行っているため、解重合反応後にグリコリドの精製が可能となる。そのため、開環重合反応時に純度の高いグリコリドを用いることができ、ポリグリコール酸の製造効率を向上させることができる。なお、本発明は、縮合の前工程濃縮工程において、また、乳酸等グリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸に対しても適用可能である。
【0028】
以下、図面により本発明の実施形態について説明する。このグリコリド合成に関する装置は反応経路上流側から、グリコグリコール酸供給装置1、グリコール酸濃縮装置2、グリコ−ル酸縮合装置5、解重合装置6、グリコリド冷却器11、精製装置12の順番で配置されて成る。
【0029】
本発明のグリコリド製造装置は、グリコール酸濃縮装置においてグリコール酸中に含まれる水分を蒸発させて濃縮グリコール酸とし、グリコール酸縮合装置において濃縮グリコール酸を縮合してグリコール酸オリゴマーを生成させ、得られたグリコール酸オリゴマーを解重合装置において減圧下で解重合させることによりグリコリドを製造するものである。グリコール酸に含まれている自由水は、可能な限り加熱して蒸発させることにより除去することが好ましい。
【0030】
グリコール酸縮合装置において、グリコール酸を減圧下で加熱することによりグリコール酸オリゴマーを生成させる本発明においてグリコール酸オリゴマーとは、グリコール酸の2量体から分子量5万程度までのグリコール酸重合物を含む概念であるが、上記のグリコール酸縮合反応によって得られるグリコール酸オリゴマーの分子量は、平均分子量で通常1,000〜1万、好ましくは3,000〜5,000である。
【0031】
グリコール酸縮合反応は通常圧力100Torr以下、望ましくは10Torr以下、さらに好ましくは1Torr以下で、通常160〜220℃、好ましくは170〜200℃で、遠心薄膜蒸発器を用いて、通常1秒〜5分、好ましくは1秒〜1分で実施する。加熱時間を可能な限り短くすることで、グリコール酸及びグリコール酸オリゴマーの熱分解を抑制することができる。
【0032】
グリコール酸縮合反応に関しては、必要に応じて、グリコール酸縮合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては従来公知のものを使用することができ、例えば、有機スズ系の触媒(例として乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α―ナフトエ酸スズ、β―ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)及び粉末スズ等が挙げられる。
【0033】
グリコール酸縮合装置は、少なくとも反応器、濃縮グリコール酸供給口及びグリコール酸オリゴマー排出口を有する。反応器としては縦型でも横型でも良いが、遠心薄膜蒸発器を用いる。
【0034】
遠心薄膜蒸発器については、固定された装置ケーシング内で翼を回転させて遠心力を与える装置であり、翼は通常回転軸に平行な板状のもので回転軸から放射状に設置される場合が多く、その他上記翼にねじれを加えスクリュー状にしたものを用いる場合もある。遠心薄膜蒸発器は回転軸が地面に対して水平なもの、垂直なもの、その中間の角度のもののいずれでも良い。
【0035】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または攪拌翼の回転軸内部に熱媒を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0036】
解重合装置には減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することによりグリコール酸オリゴマーの解重合反応を実施する。当該解重合反応によりグリコリドが気体として生成する。本発明においてグリコリドとは、グリコール酸2分子から水2分子を脱水反応させることにより生じる環状エステルを示す。
【0037】
解重合装置は、少なくとも反応器、グリコール酸オリゴマー供給口及びグリコリド排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器及び方式としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器又はタンク型反応器を用いることができる。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼などを使用することができる。
【0038】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または攪拌翼の回転軸内部に熱媒を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0039】
解重合反応においては、必要に応じて解重合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IIB族及びVA族からなる群から選択される金属又は金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0040】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0041】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0042】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α―ナフトイエ酸スズ、β―ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0043】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0044】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。
【0045】
これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物又は三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0046】
これら触媒の使用量は、グリコール酸オリゴマーに対して0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜15重量%、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
【0047】
解重合装置で生成したグリコリドを含む蒸気は解重合装置の外に排出され、グリコリド冷却器に供給される。ここでグリコリドは冷却・凝縮されて回収された後、精製装置に移送される。
【0048】
グリコリド冷却器については、金属管を隔てて蒸気と冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これはグリコリドが水を含む冷媒と直接接触すると分解して酸を生成するためである。これは酸触媒として開環重合反応の進捗を阻害する上、冷却器等の材料腐食を引き起こす可能性がある。冷媒としてグリコリドに対し不活性なものを用いる場合は上記の限りではないが、その場合、冷媒を十分乾燥させ湿分を低減する必要がある。
【0049】
以下本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0050】
〔実施例1〕
グリコール酸濃縮装置2では、加熱によりグリコール酸に含まれる水分を蒸発、除去する。加熱は不活性ガス例えば、窒素ガス流通下、120〜150℃で行う。
【0051】
グリコール酸濃縮反応では水分、グリコール酸が気体として発生する。これらの気体は還流器3に入り、グリコール酸が気体から除去され、乳酸濃縮装置2に還流される。
【0052】
グリコール酸濃縮装置2で製造された濃縮グリコール酸はグリコール酸縮合装置5へ送られる。
【0053】
グリコール酸縮合装置5ではグリコール酸の縮合反応を進め、これに伴い発生する水分を蒸発させる。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。グリコール酸縮合反応では水分、グリコール酸、低分子量のグリコール酸オリゴマー及びその分解で発生するグリコリドが気体として発生する。これらはグリコール酸縮合装置5から減圧装置8に向かって移動する。これらの気体は還流器6に入り、グリコール酸、低分子のグリコール酸オリゴマー、グリコリドが気体から除去され、グリコール酸縮合装置5に還流される。グリコール酸縮合装置5で生成したグリコール酸オリゴマーはオリゴマー解重合装置9へ送られる。
【0054】
オリゴマー解重合装置9ではグリコール酸オリゴマーの解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、グリコール酸オリゴマーを三酸化アンチモンやオクチル酸スズ等の解重合触媒に接触させて行う。この反応により生成した気体グリコリドはグリコリド冷却器11において冷却・凝縮された後精製装置12に送られる。グリコリド冷却器11において凝縮されなかった蒸気は不純物冷却器13に入り、ここで凝縮・液化される。液化された不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物冷却器13で凝縮されなかったガスは減圧装置14を経て、系外に放出される。
【0055】
〔実施例2〕
上記実施例に従ってグリコール酸を縮合したところ、重量平均分子量10000のグリコール酸オリゴマーが合成された。本グリコール酸オリゴマーを解重合し、得られたグリコリドを用いて開環重合したところ、重量平均分子量20万のポリグリコール酸が得られた。また、開環重合は、ヒドロキシルカルボン酸の二量体を開環させ重合するため、温度、圧力、時間の因子によりポリヒドロキシカルボン酸の分子量を容易に制御することができる。一方、重縮合は様々な分子量の低分子量ポリヒドロキシカルボン酸(オリゴマー)を直接重合させてポリヒドロキシカルボン酸を生成させるため、分子量の制御が容易ではなく、分子量分布が広がる傾向にある。
【0056】
(比較例)
従来のタンク式攪拌機を用いる縮合槽で、圧力100Torr、温度200℃にてグリコール酸を縮合したところ、重量平均分子量1800のグリコール酸オリゴマーが合成された。本グリコール酸オリゴマーを解重合して得られたグリコリドを用いて開環重合したところ、重量平均分子量10万のポリグリコール酸が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のグリコリド合成に関する装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態における連続開重合装置の蒸発器の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…グリコール酸供給装置、2…グリコール酸濃縮装置、3…還流器、4…減圧装置、5…グリコール酸縮合装置、6…還流器、7…冷却器、8…減圧装置、9…オリゴマー解重合装置、10…還流器、11…グリコリド冷却器、12…精製装置、13…不純物冷却器、14…減圧装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシカルボン酸又はその縮合物を環状二量体に解重合した後、これを開環重合してポリヒドロキシカルボン酸を合成するに際して、外力を用いてヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物を薄層化して縮合した後、これを解重合して環状二量体を得ることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成法。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物の薄層化に用いる外力が、重力及び遠心力の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載のポリヒドロキシカルボン酸の合成法。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸が、グリコール酸であることを特徴とする請求項1記載のポリヒドロキシカルボン酸の合成法。
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸供給装置、外力を用いてヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物を薄層化する蒸発器を備えヒドロキシカルボン酸を縮合する縮合装置、及び縮合物を解重合する解重合装置を順次配列したことを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成装置。
【請求項5】
ヒドロキシカルボン酸またはその縮合物を含む溶融物の薄層化に用いる外力が、重力及び遠心力の少なくとも一つであることを特徴とする請求項4記載のポリヒドロキシカルボン酸の合成装置。
【請求項6】
前記蒸発器は、下降膜型蒸発装置、遠心薄膜蒸発器及び攪拌膜型蒸発装置の少なくとも一つであることを特徴とする請求項4記載のポリヒドロキシカルボン酸の合成装置。
【請求項7】
ヒドロキシカルボン酸が、グリコール酸であることを特徴とする請求項4記載のポリヒドロキシカルボン酸の合成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−1733(P2008−1733A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169821(P2006−169821)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】