説明

ポリビニルアセタールの製造方法及びポリビニルアセタール

【課題】反応阻害や粒子の粗大化、着色をほとんど引き起こすことなく低重合度で溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを製造することができるポリビニルアセタールの製造方法を提供する。また、該ポリビニルアセタールの製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタールを提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させて低重合度化する工程1、低重合度化したポリビニルアルコールとカタラーゼとを接触させる工程2、及び、酸触媒を用いて酸性条件にした系において、前記低重合度化したポリビニルアルコールをアルデヒドと反応させてアセタール化する工程3を有するポリビニルアセタールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応阻害や粒子の粗大化、着色をほとんど引き起こすことなく低重合度で溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを製造することができるポリビニルアセタールの製造方法に関する。また、本発明は、該ポリビニルアセタールの製造方法を用いて製造されたポリビニルアセタールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタールは、合わせガラス用中間膜、金属処理のウォッシュプライマー、各種塗料、接着剤、樹脂加工剤及びセラミックスバインダー等に多目的に用いられており、近年では電子材料へと用途が拡大している。このようにポリビニルアセタールの用途が多岐にわたるのは、その重合度やアセタール化度を制御することによって、樹脂の特性を調整することができるためである。
【0003】
通常、ポリビニルアセタールは、特許文献1に開示されているように、ポリビニルアルコールとアルデヒド化合物とを塩酸等の酸触媒の存在下で脱水縮合させて製造される。このようにして製造されるポリビニルアセタールの重合度は、実質的に原料のポリビニルアルコールの重合度によって決定される。従って、ポリビニルアセタールの特性を制御するためには、目的のポリビニルアセタールに対して適宜、同一の重合度となるように正確に調整した原料ポリビニルアルコールを準備する必要があった。
【0004】
一般に、ポリビニルアルコールは、メタノール中で溶液重合されたポリ酢酸ビニルをけん化することによって製造される。しかしながら、公知の手法で製造されるポリビニルアルコールは、生産性や品質面の問題から、工業的に製造可能なものは重合度が300程度以上のものに限られ、300以下の重合度を有する低重合度のポリビニルアセタールを得ることは困難である。低重合度のポリビニルアルコールを得る方法として、特許文献2には酢酸ビニルの重合に鎖移動定数の高い溶剤を用いる方法が開示されており、特許文献3には連鎖移動剤を重合開始前及び重合中に供給しながら酢酸ビニルの重合を行う方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、けん化する際に溶剤を置換する必要があったり、残留した連鎖移動剤を回収する必要があったりするといった製造上の問題や、精製したポリビニルアルコールが着色したり、溶剤への溶解性に劣るものとなったりするという品質上の問題があった。
【0005】
また、特許文献4には、ポリビニルアルコールを過酸化水素等の酸化剤を用いて主鎖開裂し、還元処理して低重合度化する方法が開示されている。しかしながら、特許文献4に開示されている方法で低重合度化したポリビニルアルコールは、アセタール化後に得られるポリビニルアセタールが、反応阻害によりアセタール化度の低いものとなったり、ポリビニルアセタール粒子が粗大化したりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−1853号公報
【特許文献2】特開昭63−278911号公報
【特許文献3】特開昭57−28121号公報
【特許文献4】特開2007−269881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した問題に対して、本願発明者は、先に、遷移金属イオンを含有する酸性溶液中や塩基性溶液中において、過酸化水素を用いてポリビニルアルコールを低重合度化する製造方法に関して特許出願を行っている。
これらの方法を用いることで、アセタール化度の低下やポリビニルアセタール粒子の粗大化は抑制できるものの、けん化反応が完全に進行してしまったり、樹脂の着色が発生してしまったりするといった製品の品質上の課題が新たに生じていた。
【0008】
本発明は、反応阻害や粒子の粗大化、着色をほとんど引き起こすことなく低重合度で溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを製造することができるポリビニルアセタールの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該ポリビニルアセタールの製造方法を用いて製造されたポリビニルアセタールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させて低重合度化する工程1、低重合度化したポリビニルアルコールとカタラーゼとを接触させる工程2、及び、酸触媒を用いて酸性条件にした系において、前記低重合度化したポリビニルアルコールをアルデヒドと反応させてアセタール化する工程3を有するポリビニルアセタールの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させることによって低重合度化させた後にアセタール化するポリビニルアセタールの製造方法において、低重合度化工程の後にカタラーゼを接触させることにより、反応阻害や粒子の粗大化、着色をほとんど引き起こすことなく低重合度で溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを製造することができるポリビニルアセタールを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のポリビニルアセタールの製造方法は、ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させて低重合度化する工程1を有する。
【0012】
上記ポリビニルアルコールは特に限定されないが、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等を、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により重合して得られたポリビニルエステルをアルカリ又は酸けん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコールを用いることができる。
上記ポリビニルアルコールは、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコールであってもよい。また、上記ポリビニルアルコールとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニルエステルと共重合可能なモノマーとビニルエステルとの共重合体のけん化物も用いることができる。
【0013】
上記ポリビニルアルコール系樹脂を過酸化水素と接触させる際のポリビニルアルコール系樹脂の濃度の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は25重量%である。1重量%未満であるとアセタール化する際の反応効率が悪くなり、25重量%を超えると溶液の粘度が高くなりすぎて攪拌することが困難となり均一に低重合度化することができなくなる場合がある。上記ポリビニルアルコール系樹脂を過酸化水素と接触させる際のポリビニルアルコール系樹脂の濃度のより好ましい下限は3重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい下限は5重量%、更に好ましい上限は17重量%である。
【0014】
上記工程1において、過酸化水素の添加量は目的のポリビニルアセタール系樹脂の重合度に応じて変えることができるが、反応溶液中の過酸化水素濃度の濃度範囲は0.5mol/L以下であることが好ましい。0.5mol/Lを超えると、過酸化水素が酸素を発生し、ポリビニルアルコール系樹脂の界面活性機能により形成された泡が長時間残る場合がある。発生した泡は長時間経過することにより乾燥し、未溶解のポリビニルアルコール系樹脂を形成し、ポリビニルアセタール樹脂の溶剤に対する不溶解樹脂の発生原因となる。また、アセタール化反応が均一に進まず、アセタール化度の不均一性や析出粒子サイズのばらつきが発生し、溶剤に対する溶解性の低下が起こる場合がある。また、過酸化水素による切断効果を充分に発揮するために、過酸化水素濃度は0.1mol/L以上とすることが好ましい。
【0015】
上記過酸化水素の添加方法は、反応液中の過酸化水素濃度が上記濃度範囲となるように添加すれば良く、例えば、反応初期に一括で添加しても良く、反応が進むにつれて分割して添加しても良く、連続的に滴下しながら添加しても良い。一括添加する場合に過酸化水素の添加量が上記の濃度範囲以上となる場合には、分割添加もしくは連続滴下することによって上記の濃度範囲以内とすることができる。
【0016】
上記工程1において、ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させる際の溶剤はポリビニルアルコールを溶解するものであれば良いが、アセタール化する際に溶剤置換をする必要を無くすためにアセタール化の溶剤と同一の溶剤を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
【0017】
上記工程1において、ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させる際の好ましい温度の下限は30℃であり、好ましい上限は100℃である。温度が30℃未満であると、ポリビニルアルコールを低重合度化するために必要な時間が長時間となってしまうことがあり、温度が100℃を超えると、溶剤が揮発してポリビニルアセタールの未溶解物が発生し、ポリビニルアセタールの溶剤に対する不溶解樹脂の発生原因となる場合がある。温度のより好ましい下限は40℃であり、より好ましい上限は95℃である。
【0018】
上記ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させる時間は、目的のポリビニルアセタールの重合度に応じて変えることができるが、好適には10分〜6時間行えばよく、これにより低重合度化したポリビニルアルコール系樹脂を得ることができる。
【0019】
本発明のポリビニルアセタールの製造方法は、低重合度化したポリビニルアルコールとカタラーゼとを接触させる工程2を有する。
上記工程2を行うことで、過酸化水素が分解され、その結果、過酸化水素の存在に起因する弊害を抑制することが可能となる。
【0020】
上記カタラーゼは、一般に動物、植物、微生物等の生物によって生産されるものである。
上記カタラーゼは、由来となる生物の種類の違いによって作用温度範囲、作用pH範囲等の反応特性が異なる。
本発明では、ポリビニルアルコールが水溶液中に共存する条件において、活性の高いカタラーゼを用いることが好ましく、具体的には例えば、アスクスーパー25(三菱ガス化学社製)等が挙げられる。
【0021】
上記工程2において、上記低重合度化したポリビニルアルコールをカタラーゼと接触させる際のカタラーゼの添加量は、過酸化水素の濃度によって異なるが、過酸化水素110重量部に対して、カタラーゼを1〜5重量部添加することが好ましい。
上記カタラーゼの添加量が1重量部未満であると、カタラーゼによる過酸化水素分解の効果が不充分となり、過酸化水素が充分に分解されない結果、アセタール化工程に悪影響を及ぼす恐れがある。また、5重量部を超えて添加すると、過酸化水素の分解によって生成する酸素が泡を発生し、反応容器の容積を圧迫し、生産性を落としたり、生産時の試薬コストが増加したりすることがある。より好ましい添加量は、過酸化水素110重量部に対して、カタラーゼ1.5〜2.5重量部である。
【0022】
上記工程2において、上記カタラーゼの添加方法は特に限定されず、反応初期に一括で添加しても良く、反応が進むにつれて分割して添加しても良く、連続的に滴下しながら添加しても良い。一括添加する場合にカタラーゼの添加量が上記の濃度範囲以上となる場合には、分割添加もしくは連続滴下することによって上記の濃度範囲以内とすることが出来る。
【0023】
上記工程2において、上記低重合度化したポリビニルアルコールをカタラーゼと接触させる際の好ましい温度の下限は10℃、好ましい上限は70℃である。温度が10℃未満であると、触媒反応に要する時間が長時間となってしまうことがあり、温度が70℃を超えると、カタラーゼが変性し、触媒効果を充分発揮しない結果、過酸化水素を充分に分解できないことがある。温度のより好ましい下限は20℃であり、より好ましい上限は60℃である。
【0024】
上記工程2において、上記低重合度化したポリビニルアルコールをカタラーゼと接触させる際の好ましいpHの下限は6、好ましい上限は9.5である。pHが上記領域を外れる酸性、塩基性の条件では、カタラーゼが変性し、触媒活性を十分に示さないことがある。通常、ポリビニルアルコールの水溶液は、不純物として酢酸ナトリウムを含むため、pHは弱塩基性(8〜9程度)であるが、カタラーゼの触媒活性を阻害することはない。
【0025】
上記工程2において、上記低重合度化したポリビニルアルコールとカタラーゼを接触させる時間は、好適には10分〜30分間行えばよく、これにより、系中の過酸化水素をほぼ完全に分解することができる。このとき、100rpm以上の攪拌を伴いながら充分に過酸化水素とカタラーゼが接触する状況にすることがより好ましい。
【0026】
本発明のポリビニルアセタールの製造方法は、酸触媒を用いて酸性条件にした系において、上記低重合度化したポリビニルアルコールをアルデヒドと反応させてアセタール化する工程3を有する。
【0027】
上記工程3において、上記低重合度化したポリビニルアルコールをアルデヒドと反応させてアセタール化し、ポリビニルアセタールを得る方法としては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ポリビニルブチラールを得る場合は、過酸化水素により低重合度化したポリビニルアルコールを1〜25重量%含む水溶液を調製し、−5〜30℃の温度範囲で酸触媒、及び、ブチルアルデヒドを接触させて20分〜6時間反応を進行させ、その後に温度を10〜50℃上昇させて更に30分〜5時間熟成反応させて反応を完了し、好ましくは冷却工程を経た後、析出したポリビニルブチラールを洗浄する方法が挙げられる。
【0028】
上記酸触媒は特に限定されず、塩酸等のハロゲン化水素や、硝酸、硫酸等の鉱酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸や、リン酸等が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で用いられてもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸が好適であり、塩酸がより好適である。
【0029】
上記アルデヒドは、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒドが挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルデヒドはホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。
【0030】
上記工程3で得られるポリビニルアセタールのアセタール化度は、上記ポリビニルアルコールに対する上記アルデヒドの配合量を適宜変更することにより調整することができる。
【0031】
本発明のポリビニルアセタールの製造方法を用いることにより、粒子を粗大化させたり着色したりすることなく低重合度かつ高いアセタール化度を有し、溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを得ることができる。
また、本発明のポリビニルアセタールの製造方法を用いて低重合度化されたポリビニルアルコールは、けん化度の変化が少ないものとなる。これにより、ポリビニルアルコールの溶液を低温に冷却した場合における水素結合の効果が小さくなるため、分子鎖同士が擬似架橋点を形成して粘度が上昇することがなく、ポリビニルアセタールの粘度の厳密な制御が容易となる。
このようにして製造されるポリビニルアセタールもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、反応阻害や粒子の粗大化、着色をほとんど引き起こすことなく低重合度で溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを製造することができるポリビニルアセタールの製造方法を提供することができる。
また、本発明を用いることで、所望のアセタール化度を有し、けん化度の変化が少ないポリビニルアセタールを製造することができる。
更に、本発明によれば、該ポリビニルアセタールの製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0034】
(実施例1)
[過酸化水素接触工程]
ポリビニルアルコールA(鹸化度98.2%、重合度300)100g、イオン交換水870gを2Lのセパラブルフラスコにて95℃で1時間、150rpmで加熱攪拌しポリビニルアルコール水溶液を得た。次いで、攪拌したまま温度を80℃とした後、30重量%濃度の過酸化水素水24g(過酸化水素含有量7.2g)を添加した。過酸化水素の添加終了後、更に6時間反応させることでポリビニルアルコールを得た。
【0035】
[カタラーゼ接触工程]
得られたポリビニルアルコール水溶液を水浴につけ、温度を冷却する過程において、反応容器内の温度が60℃になったところ(pH8.3)で、25重量%カタラーゼ水溶液0.5g(三菱ガス化学社製、アスクスーパー25、カタラーゼ含有量0.124g)を添加した。このとき、容器内に過酸化水素の分解に伴って生成する酸素由来の泡が見られた。そのまま30分かけて室温まで冷却させた。
なお、25重量%カタラーゼ水溶液の添加量は0.05重量%であり、過酸化水素110重量部に対するカタラーゼ添加量は1.89重量部であった。
【0036】
[アセタール化工程]
得られたポリビニルアルコール水溶液を30分かけて5℃にまで冷却した後、25重量%濃度の塩酸130gとブチルアルデヒド58gを添加し、120分アセタール化反応させた。その後、60分かけて40℃にまで昇温し、その温度でさらに120分反応させた。反応時間終了後、室温にまで冷却した後に析出した樹脂を濾過により回収し、樹脂分をイオン交換水で洗浄した。次いで、樹脂を炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した後、再度水洗し、乾燥させてポリビニルブチラールを得た。
【0037】
(実施例2)
実施例1の[過酸化水素接触工程]において、過酸化水素の添加量を12g(過酸化水素含有量3.6g)に変更し、[カタラーゼ接触工程]において、25重量%カタラーゼ水溶液0.3g(三菱ガス化学社製、アスクスーパー25、カタラーゼ含有量0.075g)を添加した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。
なお、25重量%カタラーゼ水溶液の添加量は0.03重量%であり、過酸化水素110重量部に対するカタラーゼ添加量は2.29重量部であった。
【0038】
(実施例3)
実施例1の[過酸化水素接触工程]において、ポリビニルアルコールB(鹸化度98.2%、重合度500)を用い、過酸化水素の添加量を36g(過酸化水素含有量10.8g)に変更し、[カタラーゼ接触工程]において、25重量%カタラーゼ水溶液1.0g(三菱ガス化学社製、アスクスーパー25、カタラーゼ含有量0.25g)を添加した以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。
なお、25重量%カタラーゼ水溶液の添加量は0.1重量%であり、過酸化水素110重量部に対するカタラーゼ添加量は2.55重量部であった。
【0039】
(比較例1)
実施例1の[カタラーゼ接触工程]においてカタラーゼを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ポリビニルブチラールを得た。このとき、アセタール化工程直前の過酸化水素濃度は0.18mol/Lであった。また、この方法では、けん化反応が完全に進行してしまい、アセチル基が消失するという課題が残った。
【0040】
(比較例2)
実施例1の[過酸化水素接触工程]において、触媒として水酸化ナトリウムを加え、反応溶液の水酸化ナトリウム濃度を0.1Mとし、[カタラーゼ接触工程]においてカタラーゼを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。しかしながら、この方法では、けん化反応が完全に進行してしまい、アセチル基が消失するという課題が残った。
【0041】
(比較例3)
実施例1の[過酸化水素接触工程]において、触媒として塩化鉄(II)50mgと塩酸を加え、反応溶液の塩酸濃度を0.1Mとし、[カタラーゼ接触工程]においてカタラーゼを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを得た。この方法では、けん化反応がわずかに進行し、粒子径が粗いものが見られた。また、ポリビニルブチラールが褐色に着色してしまうという課題が残った。
【0042】
<評価>
実施例及び比較例で製造したポリビニルブチラールについて、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0043】
(1)重合度
得られたポリビニルブチラール2gにエタノール25gに加え、次いで、塩酸ヒドロキシルアミン15gをイオン交換水100gに溶解した溶液10mlと塩酸5mlを加え、沸騰水浴中で3時間加熱した。冷却後、アンモニア水で中和してからメタノールを加えて樹脂を析出させ、さらにメタノールで洗浄してから乾燥させた樹脂を水100gに加熱溶解させた。得られた溶液に対してJIS K6726に準拠して重合度を測定した。得られた重合度について評価した。
【0044】
(2)過酸化水素濃度(カタラーゼ接触工程終了後)
[カタラーゼ接触工程]終了後に、試料溶液3.0gを測りとり、1Mの硫酸100mgを添加し酸性とした条件下において、20℃、0.02mol/Lの過マンガン酸カリウム溶液による滴定を行うことにより、[カタラーゼ接触工程]終了後の過酸化水素濃度を算出した。
【0045】
(3)ブチラール化度
得られたポリビニルブチラールを重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、H−NMR測定によりブチラール化度を測定した。
【0046】
(4)けん化度
得られたポリビニルブチラールを重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、H−NMR測定によりけん化度を測定し、以下の基準で評価した。
原料として使用したポリビニルアルコールのけん化度とほぼ同じ(±0.5mol%以内)の場合を「○」、変化が認められる場合(±0.5〜1.0mol%)の場合を「△」、ほぼ完全にけん化が進行している場合を「×」とした。
【0047】
(5)樹脂粒子形状
得られたポリビニルブチラールの粒子形状を目開き1mmのふるいに掛けた後、以下の基準で評価した。
ほぼ全ての樹脂がふるいから落下する場合を「○」、半分程度落下する場合を「△」、ほとんど落下しない場合を「×」とした。
【0048】
(6)着色性
得られたポリビニルブチラールの着色を目視にて評価した。白色である場合を「○」、黄又は茶色に着色している場合を「×」として評価した。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、反応阻害や粒子の粗大化、着色をほとんど引き起こすことなく低重合度で溶剤への溶解性に優れるポリビニルアセタールを製造することができるポリビニルアセタールの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該ポリビニルアセタールの製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタールを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを過酸化水素と接触させて低重合度化する工程1、
低重合度化したポリビニルアルコールとカタラーゼとを接触させる工程2、及び、
酸触媒を用いて酸性条件にした系において、前記低重合度化したポリビニルアルコールをアルデヒドと反応させてアセタール化する工程3を有する
ことを特徴とするポリビニルアセタールの製造方法。
【請求項2】
工程1において、ポリビニルアルコールの低重合度化は、ポリビニルアルコールの溶解とともに行うことを特徴とする請求項1又は2記載のポリビニルアセタールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリビニルアセタールの製造方法によって製造されたポリビニルアセタール。

【公開番号】特開2013−60519(P2013−60519A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199416(P2011−199416)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】