説明

ポリビニルアセタール樹脂及びセラミックグリーンシート

【課題】 本発明は、積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の製造時において、導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくいポリビニルアセタール樹脂を提供する。
【解決手段】 本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上で且つ数平均重合度が1000〜4000のポリビニルアルコールをアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であって、アセタール化度が60〜75モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分との比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.1〜2であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超薄層のセラミックグリーンシートを作製するのに好適に使用することができるポリビニルアセタール樹脂、及び、これを用いてなるセラミックグリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の電子部品、例えば、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造される。先ず、ポリビニルブチラール樹脂などのバインダー樹脂を有機溶剤に溶解させた溶液に可塑剤、分散剤などを添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミルにより均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーターなどを用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレートなどの支持体面に流延成形する。これを加熱することにより、有機溶剤の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0003】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極層となる導電ペーストをスクリーン印刷したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得、この積層体中に含まれるバインダー樹脂成分を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
近年、積層セラミックコンデンサを小型化・高容量化する目的で、セラミックグリーンシートの薄層化が進められており、厚さ5μm以下のセラミックグリーンシートを作製するためのセラミックスラリー組成物として、出願人は、特許文献1のような、重合度が1200〜2400、アセチル基の割合が8〜20モル%、全アセタール化度が55〜70モル%であるポリビニルアセタール樹脂を含有してなるセラミックスラリー組成物を提案している。
【0005】
しかしながら、最近では、セラミックグリーンシートの更なる薄層化が求められており、上記セラミックスラリー組成物によって、超薄層のセラミックグリーンシートを作製した場合、その厚みが2μm以下になると、シートアタック現象が起こりやすいという問題が生じた。
【0006】
ここで、シートアタック現象とは、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極層となる導電ペーストを印刷した際に、導電ペースト中の有機溶剤により、セラミックグリーンシートに含有されているバインダー樹脂が溶解して、セラミックグリーンシートに破れなどの欠陥が生じる現象であり、このシートアタック現象が発生すると、積層セラミックコンデンサの電気性能や信頼性が低下し、歩留まりが著しく低下してしまう。
【0007】
従って、超薄層のセラミックグリーンシートの作製に好適に使用することのできる、導電ペースト中の有機溶剤により溶解されにくいバインダー樹脂が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特許第3193022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の製造時において、導電ペースト中の有機溶剤に溶解されにくいポリビニルアセタール樹脂、及び、このポリビニルアセタール樹脂を用いてなるシートアタック現象が発生しにくいセラミックグリーンシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上で且つ数平均重合度が1000〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であって、アセタール化度が60〜75モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分との比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.1〜2であることを特徴とする。
【0011】
上記ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、ビニルエステルを重合してなる重合体をケン化してなるもの、ビニルエステルとα−オレフィンとの共重合体をケン化してなるもの;ビニルエステルとエチレン性不飽和単量体との共重合体をケン化してなるもの;ビニルエステルとエチレン性不飽和単量体とα−オレフィンとの共重合体をケン化してなるもの;チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、ビニルエステルとα−オレフィンとを共重合したものをケン化してなる末端変性ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられ、ビニルエステルとα−オレフィンとの共重合体をケン化してなるものが好ましく、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をケン化してなるものがより好ましい。なお、重合体及び共重合体のケン化は、従来公知の方法によればよい。
【0012】
上記ビニルエステルとしては、得られるポリビニルアセタール樹脂の物性を損なわなければ、特に限定されず、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。なお、これらのビニルエステルは、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0013】
又、上記エチレン性不飽和単量体は、得られるポリビニルアセタール樹脂の物性を損なわなければ、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸などのカルボン酸又はこれらカルボン酸のナトリウム塩、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はこのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0014】
そして、上記α−オレフィンとしては、得られるポリビニルアセタール樹脂の物性を損なわなければ、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブテン、イソブテン、ペンテン、へキセン、シクロヘキセン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。なお、α−オレフィンは、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0015】
ポリビニルアルコール樹脂にα−オレフィン成分を含有させることによって、得られるポリビニルアセタール樹脂の水素結合による結合エネルギーが弱められるため、セラミックグリーンシートの作製に使用するセラミックスラリーの経時粘度安定性を向上させることができる。
【0016】
そして、ビニルエステルとα−オレフィンとの共重合体をケン化してなるポリビニルアルコール樹脂中におけるα−オレフィン成分の含有量は、少ないと、得られるポリビニルアセタール樹脂の水素結合の結合エネルギーを弱め、ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂としてなるセラミックスラリーの経時粘度安定性を向上させる効果が得られないことがある一方、多いと、疎水性が強くなり、ポリビニルアルコール樹脂の水溶性が低下してアセタール化反応が困難になったり、ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂としてなるセラミックスラリーのセラミック粉末の分散性が低下することがあるので、1〜20モル%が好ましく、2〜10モル%がより好ましい。
【0017】
又、上記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、低いと、水溶性が低下してアセタール化反応が困難になるという問題や、ポリビニルアルコール樹脂が十分にアセタール化されないといった問題が生じるので、80モル%以上に限定され、82モル%以上が好ましい。
【0018】
ここで、上記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度とは、ポリビニルアルコール樹脂におけるエステル化されている水酸基数Aと、水酸基数Bの合計数に対する水酸基数Bの割合をいい、下記式(1)により算出することができる。なお、上記ポリビニルアルコール樹脂におけるエステル化されている水酸基数A及び水酸基数Bは、ポリビニルアルコール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトル測定をすることにより求められた数とする。
ケン化度(モル%)=100×B/(A+B) ・・・式(1)
【0019】
又、上記ポリビニルアルコール樹脂として2種以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して使用する場合、ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、混合したポリビニルアルコール樹脂全体の見掛け上のケン化度をいう。
【0020】
そして、上記ポリビニルアルコール樹脂の数平均重合度は、1000〜4000に限定され、1000〜3500が好ましい。これは、上記ポリビニルアルコール樹脂の数平均重合度が低いと、得られるセラミックグリーンシートの強度が不足し、超薄層のセラミックグリーンシートを作製することができなくなる一方、高いと、ポリビニルアルコール樹脂の水溶性が低下したり、ポリビニルアルコール樹脂の水溶液の粘度が高くなり過ぎてアセタール化反応が困難になったり、得られたポリビニルアセタール樹脂を含有してなるセラミックペーストの粘度が高くなり過ぎて、セラミックグリーンシートの作製に支障が生じるからである。
【0021】
なお、上記ポリビニルアルコール樹脂の数平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール」の「5.4平均重合度」の項に従って求められた平均重合度をいう。又、ポリビニルアルコール樹脂として2種以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して用いる場合は、混合後のポリビニルアルコール樹脂全体の見掛け上の数平均重合度をいう。
【0022】
又、上記ポリビニルアルコール樹脂は、重合時に、チオール酢酸やメルカプトプロピオン酸などのチオール化合物を存在させることによって、末端を変性してなるものであってもよい。
【0023】
そして、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、上記ポリビニルアルコール樹脂と、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)及びブチルアルデヒドとのアセタール化反応により得られる。
【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸のような酸触媒の存在下において、ポリビニルアルコール樹脂の水溶液に、所定のアセタール化度を付与するのに必要な量のアセトアルデヒド及びブチルアルデヒドを加えてアセタール化反応させた後、水酸化ナトリウムなどのアルカリによって中和し、水洗、乾燥を行なう方法が挙げられる。
【0025】
そして、上記ポリビニルアセタール樹脂のアセトアルデヒド及びブチルアルデヒドによるアセタール化度は、低いと、ポリビニルアセタール樹脂の吸湿性が強くなり過ぎて、得られるセラミックグリーンシートの安定性が低下する一方、高いと、ポリビニルアセタール樹脂の強靭性が損なわれるので、60〜75モル%に限定され、65〜75モル%が好ましい。
【0026】
ここで、上記ポリビニルアセタール樹脂のアセトアルデヒド及びブチルアルデヒドによるアセタール化度とは、ポリビニルアセタール樹脂の全側鎖数に対する、アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基数の割合(モル%)をいう。なお、上記ポリビニルアセタール樹脂の全側鎖数を算出するにあたって、ポリビニルアセタール樹脂中のアセタール化された部分の側鎖数としては、アセタール化反応により消失した水酸基の数を採用する。
【0027】
そして、上記アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドによるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の算出方法は、ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、ポリビニルアセタール樹脂におけるエステル化されている水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S1、水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S2、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積S3及びブチルアルデヒドによりアセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積S4を下記式(2)に代入して算出することができる。
アセタール化度(モル%)=100×(S3+S4)/(S1+S2+S3+S4
・・・式(2)
【0028】
又、上記ポリビニルアセタール樹脂において、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分とのモル比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)は、0.1〜2に限定され、0.15〜1.8が好ましい。
【0029】
これは、上記アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分とのモル比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が小さいと、ポリビニルアセタール樹脂の親水性が高くなり過ぎて吸湿性が高くなるため、得られるセラミックスラリーの安定性が低下したり、セラミックグリーンシートが膨張するといった問題が生じたり、ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が高くなって、得られるセラミックグリーンシートが硬くなり、積層セラミックコンデンサの製造工程においてセラミックグリーンシートを熱圧着させるのが困難になるという問題が生じる一方、上記アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分とのモル比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が大きいと、導電ペーストに用いられている有機溶剤への溶解性が高くなり過ぎて、シートアタック現象を生じやすくなるからである。
【0030】
なお、上記ポリビニルアセタール樹脂において、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分とのモル比の算出に用いられる、アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数及びブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数は、ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトル測定することにより求められる。
【0031】
そして、上記ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度は、低いと、シートアタック現象が発生することがある一方、高いと、得られるセラミックグリーンシートが硬くなり、積層セラミックコンデンサの製造工程においてセラミックグリーンシートを熱圧着させるのが困難になることがあるので、80〜105℃が好ましい。
【0032】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシートを作製するためのバインダー樹脂として好適に使用することができる。セラミックグリーンシートの作製方法としては、特に限定されず、例えば、本発明のポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末及び有機溶剤をボールミル、ビーズミル、ブレンダーミル、3本ロールなどの汎用の混合機に加えて混合してセラミックスラリーを調製し、このセラミックスラリーをバーコーターなどの汎用の塗布機により、離型処理を施した支持体上に塗布して加熱し、有機溶剤の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離することにより得ることができる。
【0033】
又、上記セラミックスラリーを構成するセラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどが挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
そして、上記セラミックスラリーを構成する有機溶剤は、特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシルなどのエステル類などが挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
又、上記ポリビニルアセタール樹脂を含有してなるバインダー樹脂は、本発明のポリビニルアセタール樹脂以外の樹脂が含有されていてもよいが、本発明のポリビニルアセタール樹脂のみからなるのが好ましい。
【0036】
なお、上記バインダー樹脂が、本発明のポリビニルアセタール樹脂以外の樹脂を含有してなる場合、上記バインダー樹脂中における本発明のポリビニルアセタール樹脂の含有量は、少ないと、得られるセラミックグリーンシートにシートアタック現象が発生することがあるので、50重量%以上が好ましい。
【0037】
そして、上記セラミックスラリーにおけるポリビニルアセタール樹脂を含有してなるバインダー樹脂の含有量は、セラミック粉末100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、3〜30重量部がより好ましい。これは、上記ポリビニルアセタール樹脂を含有してなるバインダー樹脂の含有量が、少ないと、セラミックグリーンシートを形成するのが困難になることがある一方、多いと、得られるセラミックグリーンシートに炭素成分が残留することがあるからである。
【0038】
なお、上記セラミックスラリーには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドによるアセタール化度が60〜75モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分とのモル比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.1〜2であり、導電ペーストに含有される有機溶剤に対する溶解性が低いことから、セラミックグリーンシートを作製するためのバインダー樹脂として用いた際に、セラミックグリーンシートにシートアタック現象を発生させにくい。従って、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、超薄層のセラミックグリーンシートを作製するためのバインダー樹脂として好適に使用される。
【0040】
又、本発明のポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂としてなるセラミックグリーンシートによれば、シートアタック現象をほとんど発生させることがないので、電気性能及び信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
酢酸ビニルとエチレンとを共重合して得られた共重合体をケン化してなるポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度:1700、ケン化度:98モル%、エチレン成分:10モル%)193gを純水2900gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌してポリビニルアルコール樹脂水溶液を得た。次に、このポリビニルアルコール樹脂水溶液を40℃に冷却した上で、ポリビニルアルコール樹脂水溶液中に濃度35重量%の塩酸20gとアセトアルデヒド60g及びn−ブチルアルデヒド50gを添加し、ポリビニルアルコール水溶液を40℃にて3.5時間に亘って保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
【0043】
得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてアセタール化度、アセトアルデヒド及びn−ブチルアルデヒドによりアセタール化された部分のモル比を測定したところ、アセタール化度は70モル%、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分が40モル%、n−ブチルアルデヒドによりアセタール化された部分が30モル%、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とn−ブチルアルデヒドによりアセタール化された部分とのモル比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.75であった。又、ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度は93℃であった。
【0044】
得られたポリビニルアセタール樹脂10重量部を、トルエン15重量部とエタノール15重量部からなる混合溶剤に添加して攪拌し溶解させ、更に、可塑剤としてジオクチルフタレート10重量部を混合溶液に加えて攪拌し溶解させた。この混合溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業社製 商品名「BT−03」、平均粒径:0.3μm)100重量部を加えてボールミルで48時間に亘って混合してセラミックスラリーを得た。
【0045】
そして、得られたセラミックスラリーを、離型処理が施されたポリエステルフィルム上にバーコーターを用いて乾燥後の厚みが2μmになるように塗布し、常温で1時間に亘って風乾した後、熱風乾燥機にて80℃で3時間乾燥させ、更に、温度を120℃まで上昇させて2時間乾燥させた後、支持体から剥離することによりセラミックグリーンシートを得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂の代わりに、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製 商品名「エスレックB(BH−3)」、数平均重合度:1700、ブチラール化度:34モル%、ガラス転移温度:71℃)を用いたこと以外は実施例1と同様の要領でセラミックグリーンシートを得た。
【0047】
(セラミックグリーンシートのシートアタック耐性)
実施例及び比較例で得られたセラミックグリーンシートに、テルピニルアセテートを0.02g滴下し、60℃で1時間に亘って乾燥させた後、セラミックグリーンシート表面を目視観察したところ、実施例1で得られたセラミックグリーンシートの表面には、皺及び破れは認められなかったが、比較例1で得られたセラミックグリーンシートの表面には、皺及び破れが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が80モル%以上で且つ数平均重合度が1000〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であって、アセタール化度が60〜75モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分との比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.1〜2であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
ポリビニルアルコール樹脂が、ビニルエステルとα−オレフィンとの共重合体をケン化してなるものであることを特徴とする請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
ポリビニルアルコール樹脂中におけるα−オレフィン成分の含有量が1〜20モル%であることを特徴とする請求項2に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のポリビニルアセタール樹脂を含有してなることを特徴とするセラミックグリーンシート。

【公開番号】特開2008−133371(P2008−133371A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320717(P2006−320717)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】